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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1220273
審判番号 不服2008-14659  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-11 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2004- 6960「車両用交流発電機」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月28日出願公開、特開2005-204385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月14日の出願であって、平成20年5月8日付で拒絶査定(発送日:平成20年5月13日)がなされ、これに対し、平成20年6月11日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、平成21年12月11日付で拒絶の理由が通知(発送日:平成21年12月15日)され、平成22年2月12日付で意見書が提出されたものであって、「車両用交流発電機」に関するものと認められる。


2.当審の拒絶の理由
当審で平成21年12月11日付で通知した、拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

『I この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1
・引用文献等1-9(注:「10」は誤記であることは審判請求人了解済)
・備考
「ハウジング内に、電機子コイルが巻装される固定子と、該固定子の内周側に対向配置される回転子とを配し、前記ハウジングの後側に、前記電機子コイルに誘起する交流電流を直流に整流する整流装置を配置するとともに、該整流装置を覆うナイロン製保護カバーを取り付けた車両用交流発電機」は、引用例1、2にもみられるように周知のものである。
車両の搭載品に、衝突等による破損防止のための耐衝撃性を付与することは、引用例3(【0010】参照)、引用例4(【要約】、【0009】参照)、引用例5(第74頁参照)等にもみられるように周知の事項である。
ナイロン(ポリアミド)の耐衝撃性を高めるためにエラストマーを混合することは、引用例6(特許請求の範囲、第2頁上欄参照)、引用例7(特許請求の範囲、第2頁上欄参照)等にもみられるように周知の事項である。(引用例6、7共、シャルピー衝撃強さが78(kJ/m2)以上の実施例が示されている。)
引用例8、9には、「ナイロンとエラストマーを混合した混合材製であり、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m2)以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成された高耐衝撃性のTR380」が記載されている。(表中、NBはno breakableの意)


II 本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1において、「10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成された」と記載されているが、【0019】には、「この発明の樹脂製保護カバー5は、図4の(イ)に示す機械的性質を必要としている。すなわち、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有すると、自動車の衝突でゴムマウントされたエンジンが大きく変位し、車体などに二次衝突した場合にも、樹脂製保護カバー5が柔軟に変形して、破損、脱落が確実に防止される。」とのみ記載されており、【0019】の記載は、樹脂製保護カバー5に必要とされる要求性能である。【0020】には、「図4の(ハ)は、ナイロン66にエラストマーを混合して形成されたこの実施例の樹脂製保護カバー5の機械特性、およびS-S曲線を示す。」と記載されており、当該実施例の図4の(ハ)には、衝撃強さについて、Izod衝撃強さ(23℃)が1100J/mであることしか記載されておらず、シャルピー衝撃強さについては何ら記載されていない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、明細書に記載したものではない。
(2)明細書において、ナイロン66とエラストマーとをどのような成分比で混合することで、あるいはどのような添加物を加え、どのような方法で、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有するナイロンとエラストマーを混合した混合材を形成できるか示されていない。また、出願時の技術常識を考慮しても、そのような特性を有する樹脂がどのような組成を持ち、また、どのようにして得られるのか不明である。また、審判請求書に、「ナイロンとエラストマーを混合し、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂とするには、どのような成分比でナイロンとエラストマーを混合すればよいかは、引張り破断伸びとシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)の条件が明確になっている以上、当業者であれば自ずと理解できる」とあるが、何故自ずと理解できるのか全く示されていない。
したがって、当業者が、出願時の技術常識を考慮しても、混合材が具体的にどの様なもので、どの様にして製造されるのか不明であり、請求項1に係る発明は明確ではない。
(3)上記(2)と同様に、明細書において、どのようにすれば、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有するナイロンとエラストマーを混合した混合材を形成できるか記載されておらず不明であり、また、出願時の技術常識を考慮しても、どの様な成分をどの様に製造して混合材ができるのか不明である。
したがって、明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであるとはいえない。
(なお、新規事項の追加に該当するおそれがある場合、当該事項は意見書に記載されたい。) 』


3.理由IIに対する当審の判断
(1)について
明細書【0020】には、ナイロン66にエラストマーを混合して形成されたこの実施例の樹脂製保護カバーの特性について記載されているが、図4(ハ)は当該実施例のIzod衝撃強さ(23℃)が1100J/mであることしか記載されておらず、シャルピー衝撃強さとIzod衝撃強さは、その試験方法が全く異なるため、互いの換算係数が存在せず、したがって、何故78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂製保護カバーを得ることができるのか記載されているものとは認められない。
なお、審判請求人は、平成22年2月12日付意見書で、
「つまり、図4の(ハ)に示す特性表およびグラフは、10%以上の引張り破断伸びと78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成された保護カバーに対して、Izod衝撃強さを計測した結果を示すものであって、請求項1で規定する特性を満足することにより、図4の(ハ)-iiに示すような耐衝撃性の効果を奏することは明らかであります。」
と主張するが、図4(ハ)はシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)について何等開示されていないから、実施例の樹脂製保護カバーが78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有するか否かは不明であり、また、上記審判請求人の主張は、図4(ハ)は前提条件(10%以上の引張り破断伸びと78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成された保護カバー)のものを試験した結果であるとの主張であるが、具体的に示されているのは図4(ハ)の試験結果のみであり、当該結果をもって上記前提条件が正しいとは判断できず、しかも、図4(ハ)に示されるIzod衝撃強さは1100J/mのみで、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する保護カバー全てが、1100J/mのIzod衝撃強さを有するとは考えられず、特定の値のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)に対応するものと考えられるが、当該特定の値については何ら開示が無く、又、当該特定の値1つをもって78(kJ/m^(2))以上と内容を拡張する根拠が不明であり、したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。
よって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、請求項1に係る発明は、明細書に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)について
請求項1には、単にナイロン、エラストマーとしか記載がないが、ナイロンには、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I等様々なものが有り、エラストマーには、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーが有るから、ナイロンとエラストマーを混合する場合、様々な組み合わせが考えられ、これら全ての組み合わせに対し、ナイロンの成分を全体でどの程度含ませ、エラストマーの成分を全体でどの程度含ませ、添加物を全体でどの程度(例えば1%含有と50%含有では性質が異なるものと認められる)含ませ、どの様な温度でどの程度の時間加熱して、どのタイミングでどの程度の分量を混ぜ合わせるのか、何ら開示が無く、しかも、明細書には、ナイロン66とエラストマーを混合する点が示されているのみであるから、当業者が、出願時の技術常識を考慮しても、混合材が具体的にどの様なもので、どの様にして製造されるのか不明であり、請求項1に係る発明は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
この点に関し、平成21年12月11日付拒絶理由通知書で、「(なお、新規事項の追加に該当するおそれがある場合、当該事項は意見書に記載されたい。)」と通知をしたが、審判請求人は平成22年2月12日付意見書において、
「ナイロンとエラストマーを混合し、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂とするには、当業者であれば、所望の引張り破断伸びとシャルピー衝撃強さに応じて、ナイロンとエラストマーの配合割合を調整することにより実施することが可能です。
一般的には、エラストマーの配合割合を大きくすることにより伸び易い性質の樹脂となり、ナイロンの配合割合を大きくすることにより樹脂の成形性を保つことができ、添加物の有無は樹脂の耐衝撃性には関連性がありません。
また、混合材の製造方法についても、一般的な樹脂材料の製造方法を採用することができ、材料を加熱して溶融することで混合し固化させるなどの製造法により実現可能です。」
と主張するが、上記主張は当業者であればできる旨を主張するのみであり、意見書において材料の配分や製造方法等は具体的に何等開示されておらず、したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(3)について
上記(2)と同様に、明細書において、どのようにすれば、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有するナイロンとエラストマーを混合した混合材を形成できるか全く記載されておらず不明であり、また、出願時の技術常識を考慮しても、どの様な成分をどの様に製造して混合材ができるのか不明である。
したがって、明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


4.理由Iに対する当審の判断
上記のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないが、仮に、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしているとして、本願の発明の進歩性について検討する。

(1)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年10月17日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ハウジング内に、電機子コイルが巻装される固定子と、該固定子の内周側に対向配置される回転子とを配し、前記ハウジングの後側に、前記電機子コイルに誘起する交流電流を直流に整流する整流装置を配置するとともに、該整流装置を覆う保護カバーを取り付けた車両用交流発電機において、
前記保護カバーは、ナイロンとエラストマーを混合した混合材製であり、 10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成されたことを特徴とする車両用交流発電機。」

(2)引用例
これに対して、当審の拒絶の理由で引用された、特開平11-164537号公報(以下、「引用例1」という)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

1-a「車両用交流発電機1は、電機子として働く固定子2と界磁として働く回転子3と、前記回転子と固定子を支持するフロントフレーム5とリアフレーム4とを有す。回転子3は、シャフト6と一体になって回転するもので、2組のランデル型ポールコア31、冷却ファン32、フィールドコイル33、スリップリング34等によって構成され、シャフト6に連結されたプーリ7を介して、自動車に搭載された走行用のエンジン(図示せず)により回転駆動される。この時、スリップリング34を通じてフィールドコイル33に通電することにより、固定子コイル21に交流起電力が生じ、これをリード線19により整流装置10に導き、全波整流して直流を出力する。」(【0020】)

1-b「両フィン15、17及び端子台14には複数箇所のフレーム4への取り付け穴が各々同軸上に形成され(図2には1カ所のみ表示)、リアフレーム4に打ち込まれた複数の取り付け用ボルト12に上記の-フィン17の取り付け穴が嵌着するように整流装置10が装着される。その後、カバー11の取り付け穴をボルト12にはめ込み、ナット18により整流装置10とカバー11をリアフレーム4に軸方向から締着固定する。この時、カバー11はナイロン樹脂に代表される安価な熱可塑性樹脂よりなり、あらかじめ熱硬化性樹脂で成形された図4に示す円筒状のブッシュ16が、図3に示すようにカバー11の取り付け穴として整流装置方向に突出するようにインサート成形により固定されている。」(【0022】)

図1を参照すると、回転子3は固定子コイル21が巻装された固定子2の内周側に対向配置されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「フロントフレームとリアフレーム内に、固定子コイルが巻装される固定子と、該固定子の内周側に対向配置される回転子とを配し、前記リアフレームの後側に、前記固定子コイルに生じる交流起電力を直流に整流する整流装置を配置するとともに、該整流装置を覆うカバーを取り付けた車両用交流発電機において、
カバーは、ナイロン樹脂で形成された車両用交流発電機。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されているものと認められる。

同じく、当審の拒絶の理由に引用された国際公開第93/23266号(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

2-a「図52において、モータのケーシングであるモータカバー12及びモータケース11はアルミ合金で鋳造されたものである。このような製造方法は一体的にリブ状の突起11e、12cを形成することが容易である。モータカバー12及びモータケース11の外周表面にリブ状の突起11e、12cを形成し、モータのケーシングの表面積を大きくして冷却効率を向上させてモータの発熱を抑制するとともに、リブ状の突起11e、12cは本体よりも薄肉で強度的にも弱いものとなっているので、モータが外部より衝撃を受けた場合、例えば電動二輪車が転倒してモータが路面に衝突した場合、リブ状の突起11e、12cが先ず衝撃を受けるため、モータ本体への衝撃を緩和し、機能上の損傷を最小限に抑えることができる。」(第74頁第9?20行)

同じく、当審の拒絶の理由に引用された特開昭62-45653号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

3-a「(1)ナイロン6と、25℃よりも低いガラス転移温度を有するエラストマーの芯および50℃よりも高いガラス転移温度を有しかつアミン-反応性カルボン酸基を含有する硬質熱可塑性殻からなる多相アクリル系ポリマーである衝撃抵抗改良剤とを含む熱可塑性ポリアミド組成物であつて;該組成物が、0℃以下のガラス転移温度を有しかつメタクリル化ブタジエン-スチレン コポリマーまたは全アクリル系エラストマーである第2エラストマー成分をさらに含むこと;各成分の割合が(存在する全熱可塑性ポリマー物質の重量の):
a.ナイロン6 65%よりも少なくない
b.多相アクリルポリマー 2-25%
c.第2エラストマー成分 3-33%
であることを特徴とする熱可塑性ポリアミド組成物。」(第1頁左下欄第5?21行)

3-b「(3)特許請求の範囲第(1)項に記載する組成物を高温度において押出し、その押出し物を再分割し、そして再分割した材料を高温度において成形することを特徴とする衝撃による損傷に耐える成形物品をつくる方法。」(第1頁右下欄第4?8行)

第3頁右下欄の表には、実施例12?14、16が、ナイロンとエラストマーを混合した樹脂からなる試験片が78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有することが記載されている。

同じく、当審の拒絶の理由に引用された特開昭63-110251号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。

4-a「本発明は少なくともポリアミド60重量%と、ジエンゴムとアクリレートゴムからなる群からのグラフトゴム3?35重量%からなり、2つの成分の混合物を0.01?5重量%のラジカル生成剤の存在で製造し、次に成形用組成物をできるだけ酸素の存在しない状態でポリアミドの融点以下に加熱して製造する、低温における強じん性を改良した熱可塑性ポリアミド成形用組成物に関する。
ポリアミドからなる成形用組成物は、たとえば剛性、耐摩耗性、硬さ、動的および熱的耐荷重性のような機械的強度値ならびに製造の容易さのために有用であることがわかっている。それらの不適当な強じん性が欠点である。
ほかのポリマーの添加によってポリアミド成形用組成物の強じん性を改良しようとする多くの提案があった。」(第1頁右下欄第20行?第2頁左上欄第15行)

4-b「しかしながら、そのような成形用組成物は重要な応用、たとえば自動車産業において、車体、バンパーおよびスポイラ-、ハンドルおよびハンドル軸に対して完全に満足に用いることはできない。これらの場合において、とくに低温において特別な要求に合致せねばならない。」(第2頁右上欄第9?14行)

4-c「本発明による成形用組成物は強じん性の改良を特徴とする。低温における強じん性の向上が優れた特徴である。高い曲げ抵抗がさらに特徴である。
射出成形または押出による本発明の成形用組成物から製造した成形品は高い衝撃荷重を考慮せねばならない場合、たとえば自動車産業におけるパンバー、スポイラ-、手動装置(over-rider)、車体部品、ハンドル、ハンドル軸あるいは一般にハウジング、ハンドルまたは固定装置のような装置部品に対する使用にとくに適する。」(第6頁右上欄第7?16行)

第7頁の表には、実施例3bが79.4(kJ/m^(2))のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有することが記載されている。

同じく、当審の拒絶の理由に引用された「総合カタログ[ISO] PA66樹脂レオナ」,旭化成株式会社,2001年7月発行,p.5-6 (以下、「引用例5」という。)及び「総合カタログ[ASTM] PA66樹脂レオナ」,旭化成株式会社,2002年7月発行,p.2,p.9-10 (以下、「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。

レオナはPA66樹脂であり、グレード名TR380は、エラストマーを添加した高衝撃性グレードが特長であり、代表的用途はキャニスター、結束バンドであることが記載されている。
グレード名TR380は、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)は、90(kJ/m^(2))又はno breakableであり、引張り破断伸びは70%又は220%であることが記載されている。

(3)対比
そこで、本願発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「フロントフレームとリアフレーム」、「固定子コイル」、「リアフレームの後側」、「固定子コイルに生じる交流起電力」、「カバー」は、それぞれ本願発明の「ハウジング」、「電機子コイル」、「ハウジングの後側」、「電機子コイルに誘起する交流電流」、「保護カバー」に相当する。
引用例1発明の「ナイロン樹脂で形成された」態様と、本願発明の「ナイロンとエラストマーを混合した混合材製であり、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成された」態様は、「樹脂で形成された」点で共通する。
したがって、両者は
「ハウジング内に、電機子コイルが巻装される固定子と、該固定子の内周側に対向配置される回転子とを配し、前記ハウジングの後側に、前記電機子コイルに誘起する交流電流を直流に整流する整流装置を配置するとともに、該整流装置を覆う保護カバーを取り付けた車両用交流発電機において、
前記保護カバーは、樹脂で形成された車両用交流発電機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
樹脂で形成された保護カバーが、本願発明は、「ナイロンとエラストマーを混合した混合材製であって、10%以上の引張り破断伸びと、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂で形成され」るのに対し、引用例1発明は、ナイロンから形成され、引張り破断伸びとシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)は不明の点。

(4)判断
車載品が衝突時に衝撃を受けること、及び、その衝撃による損傷をなるべく少なくしようとすることは周知の課題であり、また、引用例2には、車両用回転電機(「モータ」が相当)が外部から衝突による衝撃を受けた場合、その衝撃がカバー等の車両用回転電機本体へ及ばないように薄肉で強度的にも弱い突起を設けて衝撃を緩和することが示されている。また、衝撃を受ける場合の対処方法は、衝撃を受ける部材に剛化手段を施して、衝撃を与える部材を跳ね返す方法と、衝撃を受ける部材に柔化手段を施して、衝撃を吸収する方法が一般的である。
衝撃改良材としてエラストマーを用いることは周知の技術(必要が有れば特開2003-285772号公報参照)であり、また、引用例3には、ナイロンとエラストマーを混合した78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂からなる衝撃による損傷に耐える成形物品が示されており、引用例4には、ナイロン(「ポリアミド」が相当)とエラストマー(「グラフトゴム」が相当)を混合した78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する樹脂からなる低温における強じん性を改良した自動車産業の装置部品が示されている。
ナイロン(「PA66樹脂」が相当)とエラストマーを混合した混合材製であって、10%以上の引張り破断伸び(「70%」又は「220%」が相当)と、78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)(「90(kJ/m^(2))」又は「no breakable」が相当)を有する樹脂を高衝撃性のある箇所に用いることは、引用例5、6に示されている。
そうであれば、引用例1発明のような車両用交流発電機は、車載品であるから当然に衝突時の衝撃による損傷を少なくするという課題が内在し、ナイロンで形成された保護カバーは、衝撃による損傷を少なくするためには、更に硬度を増すか、または柔軟度を増すかの何れかの方法が採用され、引用例2のように、薄肉で強度的にも弱い突起を設けてカバー等の車両用回転電機本体への衝撃を緩和することが知られているから、ナイロンで形成された保護カバーの衝撃による損傷を少なくするために、柔軟度を増す方法を採用することは、当業者であれば適宜選択し得る程度のことと認められる。
その際、エラストマーを衝撃改良材として用いることは周知の技術であり、ナイロンとエラストマーを混合した78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する耐衝撃性の物品は、引用例3ないし6にもみられるように周知の事項であり、さらに、引用例4には、当該樹脂を自動車産業の装置部品に用いることが示され、引用例5、6には、当該樹脂に10%以上の引張り破断伸びを与えることが示されているから、引用例1発明のような自動車産業の装置部品である車両用交流発電機の保護カバーの衝撃による損傷を少なくするために、柔軟度を増す方法として、ナイロンに衝撃改良材であるエラストマーを混合して10%以上の引張り破断伸びと78(kJ/m^(2))以上のシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を有する耐衝撃性の樹脂を採用することは、当業者であれば容易に考えられることと認められる。


5.むすび
したがって、本願は、依然として明細書及び図面の記載が、当審の拒絶の理由で指摘した点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、引用例1発明、引用例2ないし6に記載された事項及び上記周知の技術、周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-11 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-06-01 
出願番号 特願2004-6960(P2004-6960)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
P 1 8・ 537- WZ (H02K)
P 1 8・ 536- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 大河原 裕
槙原 進
発明の名称 車両用交流発電機  
代理人 久保 貴則  
代理人 永井 聡  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  

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