• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1220374
審判番号 不服2008-25154  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-01 
確定日 2010-07-21 
事件の表示 平成9年特許願第507251号「長期間持続性作用を有する臭化イプラトピウムエナンチオマー」拒絶査定不服審判事件〔平成9年2月13日国際公開、WO97/05136、平成11年9月7日国内公表、特表平11-510150〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,平成8年7月31日(パリ条約による優先権主張1995年8月1日 独国)を国際出願日とする出願であって,その請求項1?5に係る発明は,平成20年10月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
エナンチオマー純度90?100%を有し,アニオンとして,Br^(-) ,Cl ^(-)またはCH_(3)CO_(2)^(-) を含んでいる(エンド,シン)-(-)-3-(3-ヒドロキシ-1-オキソ-2-フェニルプロポキシ)-8-メチル-8-(1-メチルエチル)-8-アゾニアビシクロ〔3,2,1〕オクタン塩を含んでいることを特徴とする呼吸管病治療のための長期間持続作用を有する吸入用医薬製剤。」

2.引用刊行物

これに対して,原査定の拒絶理由で引用された,本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物Aには次の事項が記載されている。

A.国際公開第94/13262号(対応国内公報;特表平8-509459号公報)

(1)刊行物Aの記載事項(英文のため訳文で記載する。)
(A-1)明細書第1頁第16?19行
「圧縮化,計量服用吸入器(MDI)によって薬剤のエアゾール製剤を投与することが,閉塞性気道症及び喘息のような治療法に広く用いられている。」
(A-2)明細書第4頁第6?7行
「臭化イプラトロピウムは,商標『アトロベント(ATROVENT)』で市場に出ている抗コリン作用性気管支拡張薬である。」
(A-3)請求項14
「14.臭化イプラトロピウム,HFC噴出剤,エチルアルコール,及び無機酸又は有機酸を含有するエアゾール溶液製剤であって,補助溶剤又は水との相互作用による前記臭化イプラトロピウムの崩壊が前記無機酸又は有機酸を前記エアゾール溶液製剤に添加することによって許容できるレベルにまで減少するエアゾール溶液製剤。」

3.対比

刊行物Aには,その請求項14として「臭化イプラトロピウムを…含有するエアゾール溶液製剤」が記載されていて(A-3),該「臭化イプラトロピウム」は市販の気管支拡張剤であることも記載されている(A-2)。
したがって,刊行物Aには以下の発明が記載されているものである。
「臭化イプラトロピウムを含有する,エアゾール溶液製剤である気管支拡張剤」(以下引用発明という)
ここで,本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の臭化イプラトロピウムとは,ラセミ体の(エンド,シン)-(±)-3-(3-ヒドロキシ-1-オキソ-2-フェニルプロポキシ)-8-メチル-8-(1-メチルエチル)-8-アゾニアビシクロ〔3,2,1〕オクタンの臭素塩であることは明らかであり(例えば,THE MERK INDEX 11th Ed., p803,"Ipratropium Bromide"の項及び本願明細書とみなされる平成10年1月14日付け提出の国際出願に係る明細書の翻訳文第1頁第2?10頁等参照),また,引用発明に係る製剤は気管支拡張剤のエアゾール溶液であって,このようなエアゾール製剤はMDIと呼ばれる吸入器によって喘息等の患者に投与されるものである(A-1)から,引用発明の製剤は,本願発明における「呼吸器官病治療のための吸入用医薬製剤」に相当するものである。
したがって,引用発明と本願発明は,
「アニオンとしてBr^(-)を含んでいる(エンド,シン)-3-(3-ヒドロキシ-1-オキソ-2-フェニルプロポキシ)-8-メチル-8-(1-メチルエチル)-8-アゾニアビシクロ〔3,2,1〕オクタン塩を含む呼吸管病治療のための吸入用医薬製剤。」
の点で一致し,次の点で相違している。
[相違点]引用発明が(±)体,すなわちラセミ混合物を用いているのに対して,本願発明はエナンチオマー純度90?100%を有する(-)体を用いて長期間持続作用を有する製剤としている点。

4.判断

まず,本願優先権主張の日における,薬剤の有効成分として使用される光学異性体に関する技術常識について検討する。

一般に,薬物は,体内の酵素や受容体に作用することによって各種の生理活性を発現するものである。そして,それら酵素や受容体といった体内物質は光学活性体であるため,
(ア)光学活性中心を有する薬物については,異性体間で酵素や受容体に対する親和性が異なるので,生理活性に大きな相違が生じ,場合によっては別の生理活性を持つものもあること,
(イ)さらには,競合阻害等の理由により,ラセミ体の活性と有効な対掌体の活性との関係が必ずしも線形的なものとはならない場合がしばしばあること,
(ウ)また,薬物の代謝に関しても,代謝に関与する酵素も光学活性体であって,その立体選択性に基づいて異性体間で代謝速度や代謝経路に違いが生ずるため,異性体間で体内での半減期が異なり,そのことが作用持続時間や副作用に影響を与えるものであること,
は何れも当業者には広く知られていたことである。
そこでこのような光学活性中心を有する薬物については,目的にあった異性体のみを使用することが好ましく,ラセミ体は50%不純物であるとして,治療目的に適した特定の薬理作用のみを持つ医薬品が強く求められ,疾病という異常状態から正常状態への復帰に必要な最小限度の用量を必要期間だけ投与されるべきであるとする考え方も提案されていたものである。
(本願前置報告書で引用された『ファルマシア』Vol.25,No.4,p333?336(1989)の他,『月刊薬事』Vol.29,No.10,p2039?2042,(1987),並びに,日本化学会編『季刊化学総説No.6,1989 光学異性体の分離』,平成元年10月10日学会出版センター発行の2頁,16?29頁及び212?214頁等参照。)
一方,一対の光学異性体を分離する技術についても,従来から知られていた光学分割法に加えて,多数の市販の光学活性カラムが既に利用可能となっており,これらカラムを用いたクロマトグラフィーによっても容易に光学異性体の分離ができる状況になっていたものである。(前出の日本化学会編『季刊化学総説No.6,1989 光学異性体の分離』の2?14頁及び132?143頁等参照)
さらに,このような技術常識が形成される過程として,気管支拡張剤として使用される化合物を含む多くの光学異性体の分離がなされ,また,それによって得られた光学純度の高い光学異性体の生理活性及び作用持続時間等の検討もなされていたものである。(例えば,前置報告書において引用された特開昭61-249986号公報及び特開平4-210688号公報の他,特開平5-97707号公報,及び,原審で引用された独国特許出願公開第4140861号明細書等参照)

以上のような技術常識を踏まえて,上記相違点について以下検討する。

引用発明における臭化イプラトロピウムは,その化学構造は周知であり(前出のMERK INDEXの他,原審で引用された独国特許出願公開第4140861号明細書及び特公昭52-20479号公報等参照),かかる化学構造からみれば,光学活性中心を有していて,そのため一対の光学異性体(すなわちエナンチオマー)からなるラセミ混合物であることは当業者には明らかなことである。(前出のMERK INDEXにおいても「(±)」と表記されていること自体一対の対掌体からなっていることが認識されていたことを示すものである。)
この臭化イプラトロピウムは,気管支拡張剤という医薬用途に用いられていたものであるから,上記した技術常識を踏まえた当業者ならば,二つの光学異性体を分割してそれぞれ光学純度の高い二つのエナンチオマーを得て,両者の生理活性や作用持続時間を確認した上で,その一方のみを医薬成分とすることは容易に想到することである。
そして,上記したように,二つのエナンチオマー間で生理活性や作用持続時間についても差があることも知られていたことであるから,一方のみのエナンチオマーを選択することにより長期間持続作用を有する薬剤とすることは,一対のエナンチオマーを分割して一方のみを薬物成分として選択する過程においてなされることに過ぎないものである。
さらに,両エナンチオマーの分割に際し格別の困難があったものとすることもできないし,90%以上というエナンチオマー純度に関しても,例えば,前出の特開平4-210688号公報における「>95%」(同公報の第5頁参照)という純度と比較して格別なものではないので,この点において当業者が容易にはなし得なかったものとすることもできない。(付言すると,本願明細書で分割に使用されている「Chiralcel OD」は,前出の日本化学会編『季刊化学総説No.6,1989 光学異性体の分離』の141頁に市販品として記載されているものの一つであるし,同124頁図3や同140頁の図8に光学異性体がほぼ完全に分割が行われることを示す例も記載されている。)

したがって,引用発明におけるラセミ体の臭化イプラトロピウムに代えて,エナンチオマー純度90?100%の(-)体を用いて長期間持続作用を有する製剤とすることは当業者が容易になし得たものである。

一方,本願発明による効果については,ラセミ体と比較して効力半減期が約4倍になるというものであるが,上記したようにラセミ体と光学活性体との比較においてしばしば非線形的な差が生ずることは当業者によく知られたことであることに加えて,例えば,前出の特開昭61-249986号公報(第1表)において示されているように場合によっては約9倍の差が生ずることをも考慮すると,効力半減期が約4倍になるという本願発明が奏する作用持続時間の効果を以て,当業者にとって格別予想外の効果が奏されたものとすることができない。

5.むすび

以上のとおり,本願発明は,刊行物Aに記載の発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,上記結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2010-02-05 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-01 
出願番号 特願平9-507251
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 明子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 井上 典之
弘實 謙二
発明の名称 長期間持続性作用を有する臭化イプラトピウムエナンチオマー  
代理人 赤岡 迪夫  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ