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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B |
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管理番号 | 1220553 |
審判番号 | 不服2008-17522 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-09 |
確定日 | 2010-07-20 |
事件の表示 | 特願2003- 24533「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月11日出願公開、特開2003-320053〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 (1)手続の経緯 本願は、平成15年1月31日(優先権主張平成14年2月27日)の出願であって、平成20年3月31日に手続補正がなされ、同年5月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月28日付けで手続補正がなされたものである。 (2)本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成20年7月28日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によりそれぞれ特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「コアと、ショアD硬度が58以上であるカバーと、このカバーの表面に形成された多数のディンプルとを備えたゴルフボールであって、 このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.800以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が16.7%以上20.8%以下であり、 全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値が0.812以上0.826以下であり、 互いに直径又は深さが異なる5種以上のディンプルを備えていることを特徴とするゴルフボール。」(以下「本願発明」という。) 2 刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-57067号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の(1)ないし(3)の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。) (1) 「【0017】以上のようにして形成される内層及び外層のカバーの形成厚さは、特に制限されるものではないが、・・(略)・・」 (2) 「【0032】本発明において、上記ディンプルの総数は特に制限されるものではないが、通常360?460個、特に370?450個形成されることが好ましい。」 (3) 「【0035】 【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。 【0036】[実施例、比較例]表1に示した配合のゴム組成物を混練ロールにて混練し、155℃、15分間加熱加圧成形することにより、直径36.7mmのソリッドコアを作製した。 【0037】次いで、得られたソリッドコアに、表2に示すカバー材を表4,5に示す順に被覆形成して内層カバー及び外層カバーを形成すると共に、外層カバー表面に表3及び表4,5のディンプルを形成したスリーピースソリッドゴルフボールを製造した。 【0038】得られたゴルフボールの飛距離及び弾道を下記基準により測定評価した。結果を表4,5に示す。 【0039】飛び性能ツルーテンパー社製スイングロボットを用い、ドライバーでヘッドスピード48m/sec(#W1、HS48)でショットした時のスピン、キャリー、トータルをそれぞれ測定した。 弾道形態上記飛び性能試験と同1条件で各例12個のゴルフボールを打ち、目視で弾道形態を評価した。 ・・(略)・・ 【0042】 【表3】 【0043】 【表4】 」 (4) 摘記(1)ないし(3)を含む引用例全体、特に、実施例5から、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ソリッドコアと、該ソリッドコアに形成された内層カバー及び外層カバーと、該外層カバー表面に形成されたディンプルとを備えたスリーピースソリッドゴルフボールであって、 前記外層カバーは、ショアD硬度60、厚み1.5mmであり、 前記ディンプルは、直径4.000mm、深さ0.160mmのもの114個、直径4.000mm、深さ0.180mmのもの42個、直径3.650mm、深さ0.140mmのもの180個、直径3.600mm、深さ0.140mmのもの24個、直径2.550mm、深さ0.100mmのもの60個からなる、 スリーピースソリッドゴルフボール。」 3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「ソリッドコア」、「『ショアD硬度60』の『外層カバー』」、「『直径4.000mm、深さ0.160mmのもの114個、直径4.000mm、深さ0.180mmのもの42個、直径3.650mm、深さ0.140mmのもの180個、直径3.600mm、深さ0.140mmのもの24個、直径2.550mm、深さ0.100mmのもの60個』からなる『外層カバー表面に形成されたディンプル』」及び「スリーピースソリッドゴルフボール」は、それぞれ、本願発明の「コア」、「ショアD硬度が58以上であるカバー」、「『互いに直径又は深さが異なる5種以上』の、『カバーの表面に形成された多数のディンプル』」及び「ゴルフボール」に相当する。 (2)上記(1)から、本願発明と引用発明とは、 「コアと、ショアD硬度が58以上であるカバーと、このカバーの表面に形成された多数のディンプルとを備えたゴルフボールであって、 互いに直径又は深さが異なる5種以上のディンプルを備えているゴルフボール。」 である点で一致し、次の点で相違する。 相違点: 前記ディンプルが、本願発明では、「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.800以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が16.7%以上20.8%以下であり、全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値が0.812以上0.826以下」となるものであるのに対して、引用発明では、そのようなものでない点。 4 判断 (1)相違点について ア 引用例の「外層のカバーの形成厚さは、特に制限されるものではない」(上記2(1)参照。)及び「ディンプルの総数は特に制限されるものではない」(上記2(2)の【0032】参照。)との記載からも明らかなように、引用発明において、外層カバーの厚さとディンプルの総数は、いずれも当業者が適宜決定すべき設計事項というべきである。 イ 上記アから、引用発明において、外層カバーの厚さを0.8mmとし、ディンプルを、直径4.000mm、深さ0.160mmのもの24個、直径4.000mm、深さ0.180mmのもの42個、直径3.650mm、深さ0.140mmのもの180個、直径3.600mm、深さ0.140mmのもの24個、直径2.550mm、深さ0.100mmのもの60個の総数330個からなるものとすることは、当業者が適宜なし得た設計上のことである。 ウ 外層カバーの厚さを0.8mmとし、ディンプルを、直径4.000mm、深さ0.160mmのもの24個、直径4.000mm、深さ0.180mmのもの42個、直径3.650mm、深さ0.140mmのもの180個、直径3.600mm、深さ0.140mmのもの24個、直径2.550mm、深さ0.100mmのもの60個の総数330個からなるものとすれば、下表のようになる。ただし、ディンプル直径及びディンプル深さの単位は、いずれもmmであり、Bは、ディンプル底の高さであって、外層カバーの厚さT(mm)からディンプル深さを引いた値である。 ディンプル直径 ディンプル深さ 個数 B B/T 4.000 0.160 24 0.640 0.800 4.000 0.180 42 0.620 0.775 3.650 0.140 180 0.660 0.825 3.600 0.140 24 0.660 0.825 2.550 0.100 60 0.700 0.875 このとき、「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.800以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」は、 (24+42)/330=0.2=20(%) となり、また、「全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値」は、 (0.800×24+0.775×42+0.825×180+0.825×24+0.875×60)/330=0.826(小数第4位を四捨五入) となる。 したがって、上記イの「外層カバーの厚さを0.8mmとし、ディンプルを、直径4.000mm、深さ0.160mmのもの24個、直径4.000mm、深さ0.180mmのもの42個、直径3.650mm、深さ0.140mmのもの180個、直径3.600mm、深さ0.140mmのもの24個、直径2.550mm、深さ0.100mmのもの60個の総数330個からなるものとしたもの」は、本願発明の「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.800以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が16.7%以上20.8%以下であり、全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値が0.812以上0.826以下」となるものに相当する。 エ 上記イ及びウから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、引用例に記載された事項に基づいて当業者が適宜なし得た設計上のことである。 (2)効果について ア 本願発明の「このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.800以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」及び「全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値」の数値範囲に関し、本願の明細書の発明の詳細な説明には、(ア)及び(イ)の記載がある。 (ア) 「【0028】 本発明者の得た知見によれば、比率R1が10%以上に設定されることで、高硬度なカバー3が採用された場合でも良好な打球感が得られる。高い比率R1と高硬度なカバー3とにより、ゴルフボール1の打球感と反発性能とが両立される。 【0029】 打球感の観点から、比率R1は15%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。比率R1が大きすぎるとゴルフボール1の反発性能が不十分となるので、比率R1は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%%以下がさらに好ましく、70%以下がさらに好ましく、60%以下が特に好ましい。・・(略)・・ 【0031】 比(B/T)の平均値は、0.86以下が好ましい。平均値がこの範囲を超えると、ゴルフボール1の打球感が悪くなることがある。この観点から、平均値は0.84以下がより好ましく、0.82以下が特に好ましい。平均値が小さすぎるとゴルフボール1の反発性能が不十分となることがある。この観点から、平均値は0.50以上が好ましく、0.60以上がより好ましく、0.70以上が特に好ましい。」 (イ)「【0071】 [打球感の評価] 上級ゴルファー10名にメタルヘッドが装着されたドライバーを持たせ、ゴルフボールを打撃させた。そして、打球感を評価させた。10名のゴルファーのうち打球感がよいと答えたゴルファーが8名以上のものを「◎」とし、6名以上7名以下のものを「○」とし、4名以上5名以下のものを「△」とし、3名以下のものを「×」とした。この結果が、下記の表5に示されている。 【0072】【表5】 【0073】 表5から明らかなように、各実施例のゴルフボールは、反発性能と打球感との両方に優れている。これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。」と記載されている。 イ 本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0071】ないし【0073】の記載(上記ア(イ)参照)からは、 (ア)上記段落【0072】【表5】の評価結果のうち、「打球感」に関しては主観的な事項であり、かつ、上記段落【0071】を参酌しても、その試験条件も不明確であるため、本願発明の構成として記載した事項との技術的関係が不明確である。 (イ)「実施例1」と「比較例1」とは「打球感」を除き評価結果は一致するが、上記(ア)より「打球感」に関しては主観的な事項であるから、実施例1と比較例1との両者の評価結果は一致するものといえる。 (ウ)実施例1ないし3は、本願発明の「このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.800以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」を20.8又は16.7とした、わずか2例が挙げられているのみであって、20.8を上限値として、16.7を下限値としてそれぞれ設定することの臨界的意義は、当業者が把握できるものでなく、また本願発明の「全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値が0.812以上0.826以下」を0.812又は0.826とした、わずか2例が挙げられているのみであって、0.826を上限値として、0.812を下限値としてそれぞれ設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)より、本願発明における上記「16.7%以上20.8%以下」及び上記「0.812以上0.826以下」の数値範囲の限定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。 ウ よって、本願発明の奏する効果は、格別のものとは認められず、引用発明の奏する効果及び引用例に記載された事項から当業者が予測できた程度のものである。 (3)まとめ したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-12 |
結審通知日 | 2010-05-18 |
審決日 | 2010-06-01 |
出願番号 | 特願2003-24533(P2003-24533) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A63B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹、小齊 信之 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 桐畑 幸▲廣▼ |
発明の名称 | ゴルフボール |
代理人 | 岡 憲吾 |