• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C03C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1220566
審判番号 不服2007-4155  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-09 
確定日 2010-07-22 
事件の表示 特願2003-293382「光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム及びその製造方法、光学素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 2日出願公開、特開2004- 99428〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年8月14日(優先権主張 平成14年8月20日)の出願であって、平成18年9月29日付けで拒絶理由が通知され、平成18年12月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年12月28日付けで拒絶査定され、平成19年2月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同年3月12日付けで手続補正書が提出されたものであり、その後、平成21年2月18日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が平成21年4月27日に提出されるとともに、同年6月5日及び8日に上申書が提出されている。

2.平成19年3月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年3月12日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成19年3月12日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
モル%表示で、
B_(2)O_(3) 30?45%
SiO_(2) 2?15%
La_(2)O_(3) 10?20%
TiO_(2) 1?10%
ZnO 10?30%
Li_(2)O 3?15%
WO_(3) 0.1%以上かつ10%以下
Nb_(2)O_(5) 0?15%
ZrO_(2) 0?10%
を含み、上記成分の合計量が98%以上であり、Ta_(2)O_(5)を含有せず、Sb_(2)O_(3)を外割で0?1.8質量%添加したガラスであり、かつ屈折率(nd)が1.81971?1.87、アッベ数(νd)が30?45の範囲であり、ガラス転移温度(Tg)が580℃以下であることを特徴とする光学ガラス。」
に補正された。
上記補正は、本件補正前の請求項1に「Sb_(2)O_(3)を外割で0?1.8質量%添加したガラスであり」との記載を付加する補正事項を含むものである。
しかし、本件補正前の請求項1には、光学ガラスの成分として「Sb_(2)O_(3)」を含むことは記載されておらず、しかも、同項に記載された成分以外の成分を外割で特定の質量%で含むことについても何ら記載がない。よって、上記補正事項は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであると認めることはできない。そして、上記補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものであるとも認められない。
してみると、上記補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定するいずれの事項を目的とするものでもないことは明らかである。
したがって、その余の事項に論及するまでもなく、上記補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記のとおり決定する。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年3月12日付けの手続補正は上記2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものであると認められる。
【請求項1】
モル%表示で、
B_(2)O_(3) 30?45%
SiO_(2) 2?15%
La_(2)O_(3) 10?20%
TiO_(2) 1?10%
ZnO 10?30%
Li_(2)O 3?15%
WO_(3) 0.1%以上かつ10%以下
Nb_(2)O_(5) 0?15%
ZrO_(2) 0?10%
を含み、上記成分の合計量が98%以上であり、Ta_(2)O_(5)を含有せず、かつ屈折率(nd)が1.75?1.87、アッベ数(νd)が30?45の範囲であることを特徴とする光学ガラス。
なお、平成18年12月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には「Ta_(2)O_(5)を含有しせず」と記載されているが、「含有しせず」はその意味が不明であり、しかも、明細書には、段落【0004】の「本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、・・・、Ta_(2)O_(5)を含まなくとも低温軟化性に優れ、かつ低コスト化を達成し得る光学ガラス、・・・を提供することを目的とする。」との記載を始め、本願発明がTa_(2)O_(5)を含まないものである旨の記載が散見されることからみて、上記のとおり認定した。

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭60-221338号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が載されている。
(ア)「重量%で、B_(2)O_(3) 1?50%、SiO_(2) 0?45% ただし、B_(2)O_(3)+SiO_(2) 20?60%、La_(2)O_(3) l?52%、Y_(2)O_(3) 0.1?20%、MgO 0?15%、CaO 0?30%、SrO 0?40%、BaO 0?50%、ZnO 0?40%、PbO 0?30%、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+PbO 1?60%、Li_(2)O 0.5?15%、ZrO_(2) 0?l0%、Nb_(2)O_(5) 0?30%、WO_(3) 0?20%、Al_(2)O_(3) 0?15%、GeO_(2) 0?20%、HfO_(2) 0?20%、Ta_(2)O_(5) 0?30%、Gd_(2)O_(3) 0?35%、Ga_(2)O_(3) 0?20%、In_(2)O_(3) 0?20%、P_(2)O_(5) 0?15%、TiO_(2) 0?20%、Na_(2)O+K_(2)O+Cs_(2)O 0?10%、As_(2)O_(3)および/またはSb_(2)O_(3) 0?2%および上記各金属元素の1種または2種以上の酸化物の1部または全部と置換した弗化物のFとしての合計0?20%を含有することを特徴とする光学ガラス。」(特許請求の範囲 第1項)
(イ)「本発明は、屈折率(nd)=1.62?1.85、アッベ数(νd)=35?65の範囲の光学恒数と優れた耐失透性とを維持させつつ、低転移温度特性を付与して熱間成形性を改善した新規な光学ガラスに関する。
従来から、上記光学恒数を有する光学ガラスとしては、B_(2)O_(3)およびLa_(2)O_(3)を主成分とした種々のガラスが知られている。たとえば、・・・、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-Gd_(2)O_(3)-R^(II)Oおよび/またはAl_(2)O_(3)系(R^(II)O=2価金属酸化物)、・・・等のガラスが、それぞれ・・・等の各公報において提案されている。」(第1頁右下欄10行?第2頁左上欄第5行)
(ウ)「これを要するに、本発明によるB_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-Y_(2)O_(3)-R^(II)O-Li_(2)O系ガラスは、上記目的達成に当り、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-R^(II)O系ガラスに、種々の成分中、とくにY_(2)O_(3)およびLi_(2)Oの2成分を組合せ共存させることがきわめて重要であるという従来技術にない知見にもとづいて構成されている点に特徴がある。」(第2頁左下欄15行?同頁右下欄1行)
(エ)「本発明の光学ガラスにおいて、B_(2)O_(3)とSiO_(2)成分は、ガラス形成成分として働くが、そのうち、B_(2)O_(3)成分の量が、1%未満であるとガラスの失透傾向が増大し、また50%を超えるとB_(2)O_(3)成分の揮発により均質なガラスを得難くなる。また、SiO_(2)成分の量が、45%を超えるとSiO_(2)原料のガラス中への溶解性が悪化し、均質なガラスを得難くなる。さらに、B_(2)O_(3)成分とSiO_(2)成分の合計量は、ガラスの失透防止のため20%以上必要であり、このためB_(2)O_(3)の量が20%未満の場合は、SiO_(2)成分が必要となる。また、これらの成分の合計量が60%を超えると目標の光学恒数を維持できなくなる。」(第2頁右下欄4?16行)
(オ)「La_(2)O_(3)成分は、所期の光学恒数をガラスに与えるのに有効な成分であるが、1%未満では目標の光学恒数を維持しがたくなる。またLa_(2)O_(3)成分は、52%まで含有させることができるが、45%以下であると、一段と、耐失透性に優れたガラスが得られるので好ましい。Y_(2)O_(3)成分は、本発明のガラスにおいて、良好な耐失透性を維持しつつ、Li_(2)O成分の大幅な導入を可能にする効果があることをみいだすことができた重要な成分であるが、その量が、0.1%未満では、その効果が十分でなく、また、その量が20%を超えると、ガラスは逆に失透傾向が増大する。」(第2頁右下欄17行?第3頁左上欄8行)
(カ)「MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOおよびPbOの各成分は、ガラスの耐失透性や均質性を向上させる効果があるが、これらの成分のうち、MgOおよびCaOは、それぞれ、15%および30%を超えるとガラスの失透傾向が増大し、またSrO、BaO、ZnOおよびPbOは、それぞれ40%、50%、40%および30%を超えるとガラスの化学的耐久性が悪化する。ただし、これら2価金属酸化物成分の上記諸効果を得るためには、これらの成分の1種または2種以上を合計量で少なくとも1%、好ましくは、5.1%以上含有させることが必要である。しかし、これらの成分の量が60%を超えるとガラスの化学的耐久性が著しく悪化する。」(第3頁左上欄9行?同頁右上欄1行)
(キ)「Li_(2)O成分は、前述のとおり、Y_(2)O_(3)成分との共存下において、ガラス中に広範囲に安定して含有させることができ、また、Tgを著しく低下させることができるので、本発明のガラスにおいて重要な成分であるが、その量が0.5%以上であると上記の効果が顕著となるが、より十分な効果を得るためには、1.1%以上含有させることが好ましい。しかし、その量が15%を超えると失透傾向が増大する。」(第3頁右上欄2?10行)
(ク)「下記の成分は、本発明のガラスに不可欠ではないが、ガラスの光学恒数の調整、耐失透性または化学的耐久性等の改善のため、必要に応じ添加することができる。
すなわち、ZrO_(2 )、Nb_(2)O_(5 )、WO_(3)およびAl_(2)O_(3)の各成分は、ガラスの安定化や化学的耐久性向上のために有効であるが、これらの量が、それぞれ10%、30%、20%および15%を超えると、逆にガラスは失透しやすくなる。」(第3頁右上欄11?19行)
(ケ)「TiO_(2)成分は、ガラスの化学的耐久性を向上させるのに有効であり、20%まで含有させることができる。しかし、その量が多くなるとガラスが着色するので、光線透過性能の良好なガラスを得るためには9%以下が好ましい。」(第3頁左下欄8?12行)
(コ)「つぎに、本発明にかかるB_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-Y_(2)O_(3)-R^(II)O-Li_(2)O系の光学ガラスの実施組成例(No.1?No.40)とこれとほぼ同等の光学恒数を有する公知のB_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-R^(II)O系のガラスの比較組成例(No.I?No.VI)とを表-1に、またこれらのガラスの光学恒数(nd、νd)、転移温度(Tg)および失透試験結果を表-2に示す。」(第3頁右下欄7?13行)として、「表-1」には、実施組成例No.38のガラスが、B_(2)O_(3) 、SiO_(2) 、La_(2)O_(3) 、Y_(2)O_(3) 、BaO、ZnO、Li_(2)O、ZrO_(2) 、WO_(3) 、Nb_(2)O_(5) 成分の含有量が、重量%表示で、順に、20%、5%、33%、1%、4%、20%、1.2%、3.8%、8%、4%であり、各成分の含有量の合計が100%であること、「表-2」には、実施組成例No.38のガラスの光学恒数は、nd 1.8052、νd 40.2であり、転移温度 Tgが545℃であることが記載されている。

(3)対比・判断
引用文献1には、記載事項(ア)に成分及び各成分の組成範囲が重量%で特定された光学ガラスが記載されており、記載事項(コ)には、記載事項(ア)に記載された光学ガラスの実施組成例として実施組成例No.38のガラスの成分及び各成分の含有量と、この実施組成例No.38のガラスが屈折率(nd)1.8052、アッベ数(νd)40.2の光学恒数を示すことが記載されている。
引用文献1の記載事項(ア)に記載された光学ガラスは各成分の組成範囲が重量%で特定されているため、実施組成例No.38のガラスに着目し、その各成分の含有量をモル%表示に換算して整理すると、引用文献1には下記の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「モル%表示で、
B_(2)O_(3 ) 33.1%
SiO_(2) 9.6%
La_(2)O_(3) 11.7%
ZnO 28.3%
Li_(2)O 4.6%
WO_(3) 4.0%
Nb_(2)O_(5) 1.7%
ZrO_(2) 3.5%
Y_(2)O_(3) 0.5%
BaO 3.0%
から成り、かつ屈折率(nd)が1.8052、アッベ数(νd)が40.2である光学ガラス。」
そこで、本願発明1と引用1発明とを対比すると、引用1発明のB_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の含有量は、それぞれ本願発明1のこれらの成分の含有量の範囲内のものであり、引用1発明がTa_(2)O_(5)を含有しないことは明らかであり、しかも、引用1発明の屈折率(nd)、アッベ数(νd)の値もそれぞれ本願発明1のこれらの値の範囲内のものであるから、両者は、
「モル%表示で、
B_(2)O_(3) 33.1%
SiO_(2) 9.6%
La_(2)O_(3) 11.7%
ZnO 28.3%
Li_(2)O 4.6%
WO_(3) 4.0%
Nb_(2)O_(5) 1.7%
ZrO_(2) 3.5%
を含み、Ta_(2)O_(5)を含有せず、かつ屈折率(nd)が1.8052、アッベ数(νd)が40.2である光学ガラス」
で一致し、下記の点で相違する。
相違点a:本願発明1は、TiO_(2)をモル%表示で1?10%含有するものであるのに対し、引用1発明はTiO_(2)を含有しないものである点
相違点b:本願発明1は、「上記成分」、即ち、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量が98%以上であるのに対し、引用1発明は、これらの合計量が96.5%である点

そこで、相違点a及びbについてまとめて検討すると、
まず、引用1発明は、引用文献1の記載事項(ア)に成分及び各成分の組成範囲が記載された光学ガラスの一実施組成例に着目して導出されたものであり、引用文献1の記載事項(イ)には、記載事項(ア)に記載された光学ガラスが「屈折率(nd)=1.62?1.85、アッベ数(νd)=35?65の範囲の光学恒数と優れた耐失透性とを維持させつつ、低転移温度特性を付与して熱間成形性を改善した」ものであることが記載されている。
また、引用文献1には、記載事項(ウ)に、記載事項(ア)に記載された光学ガラスは「B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-R^(II)O系ガラスに、種々の成分中、とくにY_(2)O_(3)およびLi_(2)Oの2成分を組合せ共存させる」ことにより上記の特性を示すものであることが記載され、記載事項(エ)?(キ)には、記載事項(ア)に記載された光学ガラスに不可欠の成分であるB_(2)O_(3)とSiO_(2)成分、La_(2)O_(3)成分、R^(II)O(2価金属酸化物(記載事項(イ)参照))成分、Y_(2)O_(3)成分、Li_(2)O成分の各々について、記載事項(ア)に記載された光学ガラスにおける作用、及び、組成範囲を限定した理由が記載され、さらに、記載事項(ク)、(ケ)には、「不可欠ではないが、ガラスの光学恒数の調整、耐失透性または化学的耐久性等の改善のため、必要に応じ添加する」成分である、ZrO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびAl_(2)O_(3)の各成分、及び、TiO_(2)成分の各々について、記載事項(ア)に記載された光学ガラスにおける作用、及び、組成範囲を限定した理由が記載されている。
そして、引用文献1の記載事項(ア)には、光学ガラスはTiO_(2)を重量%で0?20%含むことが記載され、記載事項(ケ)には、「TiO_(2)成分は、ガラスの化学的耐久性を向上させるのに有効であり、20%まで含有させることができる」ことが記載されている。上述のとおり、引用文献1の記載事項(ア)に記載された光学ガラスは、屈折率(nd)=1.62?1.85、アッベ数(νd)=35?65の範囲の光学恒数と優れた耐失透性とを維持させつつ、低転移温度特性を付与して熱間成形性を改善したものであるが、この「熱間成形性」とは、耐失透性に優れていること、低転移温度特性の他に化学的耐久性が高いことであることは当該技術分野における技術常識である。してみれば、引用1発明の光学ガラスを化学的耐久性の良好なものとするために、引用1発明の光学ガラスに新たにTiO_(2)成分を導入することは当業者が直ちに思い至ることである。
引用1発明の光学ガラスに新たにTiO_(2)成分を導入するためには、引用1発明の光学ガラスの成分のうちいずれかの成分の含有量を減らす必要があるが、引用文献1には引用1発明においてTiO_(2)成分を導入するためにどの成分を減少させるかについて直接的な記載はない。しかし、成分及び各成分の組成範囲が特定され、目標とする特性が得られるとされるガラスの発明を実施するに当り、特定された範囲内の成分組成のガラスが必ず目標とする特性を有するとは限らない場合があるため、当該技術分野においては、特定された範囲内の成分組成のガラスを製造し、そのガラスが目標とする特性を有していることを確認し、仮にそのガラスが目標とする特性を満たしていない場合は、特定された範囲内で成分や各成分の組成割合を適宜調整してガラスを製造し、そのガラスが目標とする特性を有することを確認することを繰り返して行うことにより、特定された範囲内の成分組成で目標とする特性を有するガラスを得ることが通常行われている。してみれば、新たにTiO_(2)成分を含有させるために、引用1発明の光学ガラスの成分及び各成分の含有量を基準として、この成分及び各成分の含有量を、引用文献1の記載事項(エ)?(ク)に記載された引用1発明の光学ガラスを構成する各成分の作用、組成範囲に関する記載を参考にしながら引用文献1の記載事項(ア)に記載された範囲内で検討することにより、引用1発明の光学ガラスの成分のうちある成分の含有量を減らして、光学ガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)の値が目標とする範囲内であり、しかも化学的耐久性に優れた光学ガラスを得ることを試みることは当業者が通常行うことである。
そして、引用文献1の記載事項(カ)には、「MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOおよびPbOの各成分は、ガラスの耐失透性や均質性を向上させる効果がある」こと、「これら2価金属酸化物成分の上記諸効果を得るためには、これらの成分の1種または2種以上を合計量で少なくとも1%、好ましくは、5.1%以上含有させることが必要である」ことが記載されている。上述のとおり、引用文献1の記載事項(ア)に記載された光学ガラスにおいてR^(II)O(2価金属酸化物)成分は不可欠の成分ではあるが、記載事項(カ)によれば、R^(II)O成分、即ち、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOおよびPbO成分は、このうち1種を含有させれば足りるものである。してみれば、引用1発明の光学ガラスに含まれるBaO成分及びZnO成分について検討し、BaO成分の含有量を減少させ、あるいは、BaO成分を含有させずにZnO成分のみを含有させ、代わりにTiO_(2)成分を含有させて、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量を98%以上とした光学ガラスを製造し、その屈折率(nd)、アッベ数(νd)、化学的耐久性を検討することは当業者がまず行うことであると認められる。
このように検討することにより、引用1発明の光学ガラスにおいて、新たにTiO_(2) をモル%表示で1?10%含有せしめ、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量を98%以上として、屈折率(nd)を1.75?1.87の範囲に、また、アッベ数(νd)を30?45の範囲に維持しつつ、化学的耐久性に優れた光学ガラスを得ることは、当業者にとって容易に為し得たことであると認められる。
そして、本願明細書及び図面の記載を検討すると、明細書の段落【0046】の【表1】に、実施例1?32の光学ガラスの各々について成分及び各成分の含有量、屈折率(nd)、アッベ数(νd)が記載されている。しかし、TiO_(2)を含まない、あるいはモル%表示で1%未満含有する光学ガラスの例が記載されていないため、光学ガラスにTiO_(2)をモル%表示で1?10%含有せしめたことによる効果が確認できず、また、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量が98%に満たない実施例21、22、30の屈折率(nd)、アッベ数(νd)の値が他の実施例と比較して何ら遜色がないものであるため、これらの合計量を98%以上としたことにより格別な効果が得られることも確認できない。さらに、本願明細書及び図面の他の記載を検討しても、TiO_(2)をモル%表示で1?10%含有せしめ、さらに、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量を98%以上としたことにより当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。
仮に、平成19年3月12日付けの手続補正が適法なものであるとして検討すると、
上記補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という)は、上記本願発明1に「Sb_(2)O_(3)を外割で0?1.8質量%添加したガラスであり」、及び、「ガラス転移温度(Tg)が580℃以下である」との特定を加え、屈折率(nd)の範囲を「1.81971?1.87」に限定したものである。
一方、引用文献1の記載事項(コ)には、実施組成例No.38のガラスの転移温度 Tgが545℃であることが記載されているから、引用文献1には、引用1発明に「転移温度 Tgが545℃であり」との特定を加えた発明(以下、「引用1’発明」という。)が記載されているものと認められる。
そこで、補正発明と引用1’発明とを対比すると、引用1’発明の「転移温度 Tg」は補正発明の「ガラス転移温度(Tg)」に相当し、引用1’発明の「転移温度 Tg」の値は補正発明の「ガラス転移温度(Tg)」の値の範囲に含まれる。また、引用1’発明は「Sb_(2)O_(3)を外割で0質量%添加した」ものといえることは明らかである。よって、補正発明と引用1’発明とは、
相違点a’:補正発明は、TiO_(2)をモル%表示で1?10%含有するものであるのに対し、引用1’発明はTiO_(2)を含有しないものである点
相違点b’:補正発明は、「上記成分」、即ち、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量が98%以上であるのに対し、引用1’発明は、これらの合計量が96.5%である点
相違点c’:屈折率(nd)が、補正発明は「1.81971?1.87」であるのに対し、引用1’発明は「1.8052」である点
の3点で相違し、その余は一致する。
そこで、相違点a’?c’についてまとめて検討すると、
まず、相違点a’、b’は、各々本願発明1と引用1発明との相違点a、bと同じものであり、相違点a、bについては上述したとおりである。
しかも、相違点a、bについて検討したTiO_(2)成分は、引用文献1には記載されていないものの、ガラスに添加することにより屈折率(nd)を高める作用をも有するものであることは本願の優先権主張日前、当該技術分野において周知の事項である(必要であれば、特開平7-247136号公報、特開2001-220169号公報、特開平9-142872号公報を参照されたい。)。
してみれば、引用1’発明の光学ガラスを化学的耐久性に優れたものとし、しかもその屈折率(nd)をより高めるべく、引用1’発明の光学ガラスに新たにTiO_(2)成分を導入することは当業者が直ちに思い至ることである。そして、引用1’発明の光学ガラスに新たにTiO_(2)成分を導入するために、引用1’発明の光学ガラスの成分及び各成分の含有量を引用文献1の記載事項(ア)に記載された範囲内で上述の如く検討することにより、引用1’発明の光学ガラスにおいて、ある成分の含有量を減少させ、新たにTiO_(2)をモル%表示で1?10%含有せしめて、B_(2)O_(3)、SiO_(2)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZnO、Li_(2)O、WO_(3)、Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)の合計量を98%以上として、アッベ数(νd)を30?45の範囲に維持し、ガラス転移温度(Tg)を580℃以下に維持しつつ、化学的耐久性に優れ、屈折率(nd)が1.81971?1.87の光学ガラスを得ることは、当業者が容易になし得たことであると認められる。
そして、平成19年3月12日付け手続補正書による補正後の明細書及び図面の記載を検討しても、かかる構成の変更により当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとも認められない。
したがって、補正発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。
(4)請求人の主張について
請求人は、平成21年6月5日及び同8日に提出した上申書において、引用文献1の実施組成例38に成分及び各成分の含有量が示されたガラス、及びこのガラスにおいてBaOの含有量を減少させる代わりにTiO_(2)の含有量を増加させた3種のガラスについて屈折率、アッベ数、Tgを測定した実験成績証明書を提出し、この実験成績証明書に示された結果に基づき引用文献1の実施組成例38に示されたガラスにTiO_(2)を含有させることにより本願発明を構成することは困難である旨主張している。
しかし、この主張は、引用文献1の実施組成例38に示されたガラスにおいてBaOの含有量を0モル%とし、TiO_(2)の含有量を3モル%としたガラスの屈折率が、平成19年3月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された屈折率の下限値より「0.1171」低いことに基づくものであるところ、「0.1171」なる値を算出した根拠が全く不明である。
よって、請求人の上記主張は、根拠のないものであり、採用することができない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-21 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2003-293382(P2003-293382)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03C)
P 1 8・ 57- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤代 佳増山 淳子  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 安齋 美佐子
中澤 登
発明の名称 光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム及びその製造方法、光学素子及びその製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ