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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1220770
審判番号 不服2007-12089  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-26 
確定日 2010-07-29 
事件の表示 特願2002- 37444「無機硫黄化合物を含有する排水の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月26日出願公開,特開2003-236567〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年2月14日の出願であって,平成18年3月1日付けで拒絶理由が通知され,同年4月28日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,同年8月15日付けで拒絶理由が通知され,同年10月23日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,平成19年3月22日付けで拒絶査定がなされ,同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同年5月23日付けで明細書の記載に係る手続補正書が提出され,平成21年8月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され,同年10月8日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成19年5月23日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成19年5月23日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正により,平成18年10月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲
「【請求項1】 無機硫黄化合物を含有する排水を,該排水が液相を保持する温度および圧力のもとで,無触媒湿式酸化処理を行った後,更に触媒湿式酸化処理を行う方法であって,
無触媒湿式酸化処理領域と触媒湿式酸化領域の容積比が0.5:1?20:1であるとともに,
触媒湿式酸化処理で用いる触媒が,鉄,チタン,ケイ素,アルミニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物,または活性炭からなる触媒A成分と,マンガン,コバルト,ニッケル,セリウム,タングステン,銅,銀,金,白金,パラジウム,ロジウム,ルテニウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種の元素の金属および/または化合物からなる触媒B成分を含有し,触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒中の触媒A成分の割合が30?99.95質量%の範囲にあり触媒B成分の割合が0.05?70質量%の範囲にあり,
前記排水を180℃未満の温度,かつ1MPa(ゲージ圧)未満の圧力で湿式酸化処理を行うことを特徴とする無機硫黄化合物を含有する排水の処理方法。
【請求項2】 湿式酸化処理を行う反応塔内の無触媒湿式酸化処理を行う領域に,充填物を充填すること,および/または,気液分散板を用いる請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】 湿式酸化処理を行う反応塔より上流側において排水にスチームを注入することにより,該排水の加熱を行う請求項1または2に記載の排水の処理方法。」
が,次のように補正された。
「【請求項1】 無機硫黄化合物を含有する排水を,該排水が液相を保持する温度および圧力のもとで,無触媒湿式酸化処理を行った後,更に触媒湿式酸化処理を行う方法であって,
無触媒湿式酸化処理領域と触媒湿式酸化領域の容積比が0.5:1?20:1であるとともに,
触媒湿式酸化処理で用いる触媒が,鉄,チタン,ケイ素,アルミニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物,または活性炭からなる触媒A成分と,マンガン,コバルト,ニッケル,セリウム,タングステン,銅,銀,金,白金,パラジウム,ロジウム,ルテニウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種の元素の金属および/または化合物からなる触媒B成分を含有し,触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒中の触媒A成分の割合が30?99.95質量%の範囲にあり触媒B成分の割合が0.05?70質量%の範囲にあり,
前記排水を80℃以上180℃未満の温度,かつ1MPa(ゲージ圧)未満の圧力で湿式酸化処理を行うことを特徴とする無機硫黄化合物を含有する排水の処理方法。
【請求項2】 湿式酸化処理を行う反応塔内の無触媒湿式酸化処理を行う領域に,充填物を充填すること,および/または,気液分散板を用いる請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】 湿式酸化処理を行う反応塔より上流側において排水にスチームを注入することにより,該排水の加熱を行う請求項1または2に記載の排水の処理方法。 」

(2)そして,本件補正は,平成18年10月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1において,「180℃未満の温度」を「80℃以上180℃未満の温度」に限定するものであるから,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定することを目的とするものに該当し,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に掲げる事項を目的とするものである。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて,以下に検討する。

(2.1)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-132589号公報(以下,「引用文献」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「懸濁物,アンモニア及びCOD成分の2種以上を含む廃水を湿式酸化処理するに際し,
(i)触媒の不存在下且つ酸素含有ガスの存在下に廃水を液相酸化する工程,及び
(ii)ハニカム構造の担体上に鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン並びにこれ等金属の水に不溶性又は難溶性の化合物の少なくとも1種を担持した触媒体の存在下且つ酸素含有ガスの存在下に上記工程(i)からの処理水を液相酸化する工程を備えたことを特徴とする湿式酸化処理方法。」(特許請求の範囲1)
(イ)「本発明において,廃水に含まれるアンモニアとは,水中解離によりアンモニウムイオンを形成し得るアンモニウム化合物をも包含するものである。又,COD成分は,フェノール,シアン化物,チオシアン化物,油分,チオ硫酸,亜硫酸,硫化物,亜硝酸,有機塩素化合物(・・・)等をも包含する。更に又,懸濁物(SS)とは,JIS K 0102に規定された物質及び日本水道協会による下水試験方法に定められた浮遊物並びにその他の固形で可燃性の物質(硫黄等)をいう。
本発明方法は,上記の各成分(アンモニア,COD成分及びSS)の2種又は3種を含む廃水の処理に好適である。この様な廃水の具体例としては,下水汚泥,下水汚泥濃縮水,し尿,脱硫・脱シアン廃液,石炭のガス化・液化排水,重質油類ガス化排水,食品工場排水,アルコール製造工場排水,化学工場排水等が挙げられるが,これ等に限定されるものではない。」(第3頁左上欄10行?右上欄11行)
(ウ)「本願発明Iの第一工程(以下I-(i)工程とする)では,触媒を使用することなく,酸素含有ガスの存在下に廃水を液相酸化する。・・・・・・。例えば,I-(i)工程においては,通常SSの10?70%程度,COD成分の10?60%程度及びアンモニアの0?15%程度が分解されるので,理論酸素量の0.4?0.7倍量に相当する酸素含有ガスを供給し,残余を次工程で供給しても良い。I-(i)工程における反応時の温度は,通常100?370℃,より好ましくは200?300℃程度である。反応時の温度が高い程,供給ガス中の酸素分率が高い程,また操作圧力が高い程,被処理成分の分解率が高くなり,反応器内での廃水滞留時間が短縮され且つ次工程での反応条件が緩和されるが,反面において設備費が大となるので,廃水の種類,次工程における反応条件との兼ね合い,要求される処理の程度,全体としての運転費及び設備費等を総合的に考慮して定めれば良い。反応時の圧力は,所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上であれば良い。」(第3頁右上欄12行?右下欄14行)
(エ)「次いで,本発明Iの第二工程(以下I-(ii)工程とする)では,I-(i)工程からの処理水をハニカム構造の担体上に担持された触媒の存在下に再度液相酸化する。ハニカム構造担体・・・の材質としては,チタニア,ジルコニア等が例示される。触媒有効成分としては,鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン,並びにこれ等の酸化物,更には・・・塩化物,・・・硫化物等の水に対し不溶性乃至難溶性の化合物が挙げられ,これ等の1種又は2種以上が担体上に担持される。担持量は,特に限定されないが,通常担体重量の0.05?25%程度,好ましくは0.5?3%程度である。反応塔容積は,液の空間速度が0.3?10 l/Hr(空塔基準)程度,より好ましくは0.5?4 l/Hr(空塔基準)程度となる様にするのが良い。・・・・・・。I-(ii)工程における反応温度は,通常100?370℃程度,より好ましくは200?300℃程度とする。反応時の圧力は,やはり所定の反応温度において廃水が液相を保ち得る最低圧力以上とすれば良い。かくして,I-(i)工程では酸化分解されなかった残余のSS,COD成分及びアンモニアが実質上分解される。」(第3頁右下欄15行?第4頁右上欄14行)
(オ)「実施例1
第1図に示すフローに従って,本願発明Iにより,生し尿を液相酸化処理した。・・・。
・・・
I-(i)工程:
生し尿に20%水酸化ナトリウム溶液を加えてpH約9に調整した後,空間速度1.0 l/Hr(空塔基準)・・・で第1の反応装置(21)の下部に供給した。一方,空間速度89.8 l/Hr(空塔基準,標準状態換算)で空気を第1の反応装置(21)の下部に供給した。この状態で温度280℃,圧力90kg/cm^(2)・Gの条件下に廃水の無触媒液相酸化処理を行なった。
・・・
I-(ii)工程:
・・・チタニアハニカム担体に担体重量の2%のルテニウムを担持させたハニカム触媒体をI-(i)工程での空塔容積量と同量となる様に充填した第2の反応装置(39)に上記I-(i)工程からの処理水を供給し,20%水酸化ナトリウム水溶液を加えた後,液相酸化を行なった。反応温度及び圧力は,I-(i)工程と同様とした。」(第6頁右下欄4行?第7頁左下欄9行)

(2.2)対比・判断
引用文献には,記載事項(ア)に,
「懸濁物,アンモニア及びCOD成分の2種以上を含む廃水を湿式酸化処理するに際し,
(i)触媒の不存在下且つ酸素含有ガスの存在下に廃水を液相酸化する工程,及び
(ii)ハニカム構造の担体上に鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン並びにこれ等金属の水に不溶性又は難溶性の化合物の少なくとも1種を担持した触媒体の存在下且つ酸素含有ガスの存在下に上記工程(i)からの処理水を液相酸化する工程を備えた・・・湿式酸化処理方法。」と記載されている。
この記載事項(ア)の「懸濁物,アンモニア及びCOD成分の2種以上を含む廃水」について,記載事項(イ)に,「廃水に含まれる・・・COD成分は,フェノール,シアン化物,チオシアン化物,油分,チオ硫酸,亜硫酸,硫化物,亜硝酸,有機塩素化合物(・・・)等をも包含する」こと,「廃水の具体例としては,下水汚泥,下水汚泥濃縮水,し尿,脱硫・脱シアン廃液,石炭のガス化・液化排水,重質油類ガス化排水,食品工場排水,アルコール製造工場排水,化学工場排水等が挙げられる」ことが記載されている。
さらに,記載事項(ア)の「工程(i)」について,記載事項(ウ)に,「通常SSの10?70%程度,COD成分の10?60%程度及びアンモニアの0?15%程度が分解される」こと,「反応時の温度は,通常100?370℃・・・程度」で,「反応時の圧力は,所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上であ」ることが記載され,同(ア)の「工程(ii)」について,記載事項(エ)に,「ハニカム構造担体・・・の材質としては,チタニア,ジルコニア等」があり,該担体への触媒有効成分の「担持量は,・・・担体重量の0.05?25%程度」であること,また,「反応温度は,通常100?370℃程度」,「反応時の圧力は,・・・所定の反応温度において廃水が液相を保ち得る最低圧力以上」であり,工程(i)では「酸化分解されなかった残余のSS,COD成分及びアンモニアが実質上分解される」ことが記載されているといえる。そして,記載事項(ウ)及び(エ)の「SS」は,記載事項(イ)に「懸濁物(SS)」と記載されているから,記載事項(ア)の「懸濁物」を指すことは明らかである。

よって,これらの記載事項(ア)?(エ)を本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると,引用文献には,
「下水汚泥,下水汚泥濃縮水,し尿,脱硫・脱シアン廃液,石炭のガス化・液化排水,重質油類ガス化排水,食品工場排水,アルコール製造工場排水,化学工場排水等の廃水であって,懸濁物(SS),アンモニア及びCOD成分の2種以上を含み,該COD成分は,フェノール,シアン化物,チオシアン化物,油分,チオ硫酸,亜硫酸,硫化物,亜硝酸,有機塩素化合物等を包含する廃水を湿式酸化処理する方法であって,
(i)触媒の不存在下且つ酸素含有ガスの存在下に廃水を液相酸化する工程,及び
(ii)ハニカム構造のチタニア,ジルコニア等の担体上に鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン並びにこれ等金属の水に不溶性又は難溶性の化合物の少なくとも1種を担体重量の0.05?25%程度担持した触媒体の存在下且つ酸素含有ガスの存在下に上記工程(i)からの処理水を液相酸化する工程を備え,
上記工程(i)において,反応温度は100?370℃程度,反応時の圧力は所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上として,SSの10?70%程度,COD成分の10?60%程度及びアンモニアの0?15%程度が分解され,
上記工程(ii)において,反応温度は100?370℃程度,反応時の圧力は所定の反応温度において廃水が液相を保ち得る最低圧力以上として,上記工程(i)で酸化分解されなかった残余のSS,COD成分及びアンモニアが実質上分解される湿式酸化処理方法。」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで,本願補正発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「廃水」,「触媒体」が,それぞれ,本願補正発明の「排水」,「触媒」に相当し,引用発明の「湿式酸化処理方法」は,「廃水」を処理するから,本願補正発明の「排水の処理方法」に相当することは明らかである。
(b)引用発明の「(i)触媒の不存在下且つ酸素含有ガスの存在下に廃水を液相酸化する工程」(「工程(i)」)は,「触媒の不存在下」で廃水を「液相酸化」するから,「無触媒」での「湿式酸化処理」ということができ,本願補正発明の「無触媒湿式酸化処理」に相当する。
(c)引用発明の「(ii)・・・触媒体の存在下且つ酸素含有ガスの存在下に上記工程(i)からの処理水を液相酸化する工程」(「工程(ii)」)は,「触媒体の存在下」で「液相酸化」するから,「触媒」による「湿式酸化処理」ということができ,本願補正発明の「触媒湿式酸化処理」に相当する。また,この工程(ii)は,「上記工程(i)からの処理水」を液相酸化するから,工程(i)を行った後,更に行う工程であることは明らかである。
(d)上記(b)及び(c)で検討した「工程(i)」及び「工程(ii)」は,何れも「反応温度は100?370℃程度,反応時の圧力は所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上」で行うものであるから,「廃水」が「液相を保持する温度および圧力のもと」で行うものとみることができる。そして,引用発明の「廃水を湿式酸化処理する方法」は,上記工程(i)及び上記工程(ii)による処理方法であるから,引用発明の「廃水を湿式酸化処理する方法」は,「廃水」を「反応温度は100?370℃程度,反応時の圧力は所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上」で処理するものであって,「廃水」が「液相を保持する温度および圧力のもと」で行うものということができる。
(e)引用発明の「触媒体」における「ハニカム構造のチタニア,ジルコニア等の担体」は,「チタニア」,「ジルコニア」がそれぞれ,「チタンの酸化物」,「ジルコニウムの酸化物」であることは明らかであるから,本願補正発明の「触媒」における「鉄,チタン,ケイ素,アルミニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物,または活性炭からなる触媒A成分」と,「チタンおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物」である点で一致し,本願補正発明の「触媒A成分」とみることができる。また,引用発明の「触媒体」における「鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン並びにこれ等金属の水に不溶性又は難溶性の化合物の少なくとも1種」は,本願補正発明の「触媒」における「マンガン,コバルト,ニッケル,セリウム,タングステン,銅,銀,金,白金,パラジウム,ロジウム,ルテニウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種の元素の金属および/または化合物からなる触媒B成分」と,「コバルト,ニッケル,タングステン,銅,金,白金,パラジウム,ロジウム,ルテニウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種の元素の金属および/または化合物」である点で一致し,本願補正発明の「触媒B成分」とみることができる。
(f)引用発明の「触媒体」は,「ハニカム構造のチタニア,ジルコニア等の担体」上に,「鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン並びにこれ等金属の水に不溶性又は難溶性の化合物の少なくとも1種」を担持しているから,「固体」であることは明らかであり,この「触媒体」における「ハニカム構造のチタニア,ジルコニア等の担体」,「鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,イリジウム,白金,銅,金及びタングステン並びにこれ等金属の水に不溶性又は難溶性の化合物の少なくとも1種」を,上記(e)で検討したように,前者を「触媒A成分」,後者を「触媒B成分」とみると,引用発明の「触媒体」は,「触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒」とみることができる。そして,引用発明の「触媒体」において,触媒B成分の担時量は,「担体重量」すなわち「触媒A成分の重量」の「0.05?25%程度」であるから,触媒A成分,触媒B成分の割合は,それぞれ,「80?99.95質量%」(=100/(100+25)×100?100/(100+0.05)×100),「0.05?20質量%」(=0.05/(100+0.05)×100?25/(100+25)×100)といえる。よって,引用発明の「触媒体」は,「触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒」中の「触媒A成分の割合」が「80?99.95質量%」にあり「触媒B成分の割合」が「0.05?20質量%」にあるから,本願補正発明の触媒が「触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒中の触媒A成分の割合が30?99.95質量%の範囲にあり触媒B成分の割合が0.05?70質量%の範囲」にあることと,「触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒中の触媒A成分の割合が80?99.95質量%の範囲にあり触媒B成分の割合が0.05?20質量%の範囲」にある点で一致する。

上記(a)?(f)の検討を踏まえると,本願補正発明と引用発明とは,
「排水を,該排水が液相を保持する温度および圧力のもとで,無触媒湿式酸化処理を行った後,更に触媒湿式酸化処理を行う方法であって,
触媒湿式酸化処理で用いる触媒が,チタンおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物からなる触媒A成分と,コバルト,ニッケル,タングステン,銅,金,白金,パラジウム,ロジウム,ルテニウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種の元素の金属および/または化合物からなる触媒B成分を含有し,触媒A成分と触媒B成分を含有する固体触媒中の触媒A成分の割合が80?99.95質量%の範囲にあり触媒B成分の割合が0.05?20質量%の範囲にある,排水の処理方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点a)「排水」につき,本願補正発明は,「無機硫黄化合物を含有する」ものであるのに対して,引用発明は,「下水汚泥,下水汚泥濃縮水,し尿,脱硫・脱シアン廃液,石炭のガス化・液化排水,重質油類ガス化排水,食品工場排水,アルコール製造工場排水,化学工場排水等」であって,「懸濁物(SS),アンモニア及びCOD成分の2種以上を含み,該COD成分は,フェノール,シアン化物,チオシアン化物,油分,チオ硫酸,亜硫酸,硫化物,亜硝酸,有機塩素化合物等を包含する」ものである点。
(相違点b)本願補正発明は,「無触媒湿式酸化処理領域と触媒湿式酸化領域の容積比が0.5:1?20:1である」のに対して,引用発明は,容積について特定されていない点。
(相違点c)排水の湿式酸化処理を行う温度及び圧力につき,本願補正発明は,「80℃以上180℃未満の温度,かつ1MPa(ゲージ圧)未満の圧力」であるのに対して,引用発明は,「反応温度は100?370℃程度,反応時の圧力は所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上」である点。

そこで,上記(相違点a)?(相違点c)について順次検討する。

(相違点a)について
引用発明の排水は,「下水汚泥,下水汚泥濃縮水,し尿,脱硫・脱シアン廃液,石炭のガス化・液化排水,重質油類ガス化排水,食品工場排水,アルコール製造工場排水,化学工場排水等」であって,「懸濁物(SS),アンモニア及びCOD成分の2種以上を含み,該COD成分は,フェノール,シアン化物,チオシアン化物,油分,チオ硫酸,亜硫酸,硫化物,亜硝酸,有機塩素化合物等を包含する」ことから,「脱硫・脱シアン廃液」や各種「工場排水」等であり,「COD成分」として,「チオ硫酸,亜硫酸,硫化物」を含むものといえる。この「チオ硫酸,亜硫酸,硫化物」は,本願明細書に,「本発明において無機硫黄化合物とは,硫黄原子を少なくとも1つ含む硫酸(SO_(4)^(2-))以外の無機化合物であり,例えば硫化水素,硫化ソーダ,硫化カリ,水流化ソーダおよび多硫化ソーダなどの硫化物;チオ硫酸ソーダ,チオ硫酸カリなどのチオ硫酸類およびその塩類;亜硫酸ソーダなどの亜硫酸類およびその塩類;三チオン酸ソーダなどの三チオン酸,四チオン酸およびその塩類などが挙げられる。」(【0012】)と記載されていることから,本願補正発明における「無機硫黄化合物」に相当することは明らかである。そうすると,引用発明の排水が上記のとおり,「脱硫・脱シアン廃液」や各種「工場排水」等であり,「COD成分」として,「チオ硫酸,亜硫酸,硫化物」を含むことは,引用発明の排水が,本願補正発明の(相違点a)に係る「無機硫黄化合物を含有する排水」を包含することに他ならない。そして,引用発明は,「上記工程(i)において,・・・COD成分の10?60%程度・・・が分解され,・・・上記工程(ii)において・・・,上記工程(i)で酸化分解されなかった残余の・・・COD成分・・・が実質上分解される」ものであるから,「COD成分」としての上記「チオ硫酸,亜硫酸,硫化物」は,引用発明の湿式酸化処理によって分解処理する対象であることは明らかである。
してみると,排水の無触媒あるいは触媒を用いた湿式酸化処理において,チオ硫酸,亜硫酸,硫化物等の「無機硫黄化合物」を分解することが周知であること(特開平6-262188号公報(以下,「周知例1」という。)の請求項1,【0013】,【0023】,特開平5-138027号公報(以下,「周知例2」という。)の請求項4,6,【0024】,特開2001-252678号公報(以下,「周知例3」という。)の請求項1,【0013】)を勘案すると,引用発明において,排水を「無機硫黄化合物を含有する」ものと特定することは,当業者が困難なくなし得ることである。

(相違点b)について
引用文献には,記載事項(オ)に,実施例として,「I-(ii)工程:・・・ハニカム触媒体をI-(i)工程での空塔容積量と同量となる様に充填した第2の反応装置(39)」と記載されている。この記載において,上記「I-(i)工程」,「I-(ii)工程」は,それぞれ,引用発明の「工程(i)」,「工程(ii)」に対応し,上記「空塔容積量」は工程(i)の処理領域の容積,上記「第2の反応装置」に「触媒体を・・・充填した」容積は工程(ii)の処理領域の容積とみることができるから,引用文献には,工程(i)の処理領域の容積と工程(ii)の処理領域の容積とを同量,すなわち,「無触媒湿式酸化処理領域」と「触媒湿式酸化処理領域」の容積比を「1:1」にすることが記載されているといえ,この容積比は,本願補正発明の「無触媒湿式酸化処理領域と触媒湿式酸化領域の容積比」の「0.5:1?20:1」に含まれる。
よって,(相違点b)は実質的な相違点とはいえない。仮に,相違があるとしても,無触媒湿式酸化処理領域と触媒湿式酸化領域の容積比は,排水の種類や工程(i)(ii)の処理条件,コスト等を考慮して当業者が通常定める設計事項といえ,本願明細書の記載から本願補正発明の(相違点b)に係る数値範囲に格別の臨界的意義も見出せないことから,上記容積比を0.5:1?20:1程度にすることは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点c)について
引用発明の湿式酸化処理の反応温度の「100?370℃程度」は,本願補正発明の処理における「80℃以上180℃未満」の温度を含むものといえる。また,引用発明の「圧力は所定の反応温度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上」であることは,上記100?370℃程度において廃水が液相を保つ最低限の圧力以上であることを指し,該圧力が1MPa(ゲージ圧)未満の圧力を含むことは明らかである(要すれば,周知例2の【0040】参照のこと)。
よって,引用発明の湿式酸化処理の温度及び圧力は,本願補正発明の(相違点c)に係る温度及び圧力を包含するものといえる。そして,引用文献の記載事項(ウ)に,工程(i)の無触媒湿式酸化処理に関して,「反応時の温度が高い程,供給ガス中の酸素分率が高い程,また操作圧力が高い程,被処理成分の分解率が高くなり,反応器内での廃水滞留時間が短縮され且つ次工程での反応条件が緩和されるが,反面において設備費が大となるので,廃水の種類,次工程における反応条件との兼ね合い,要求される処理の程度,全体としての運転費及び設備費等を総合的に考慮して定めれば良い。」と記載されているから,引用発明において,工程(i)における温度及び圧力等の処理条件は,廃水の種類,次工程における反応条件との兼ね合い,要求される処理(分解率等)の程度,全体としての運転費及び設備費等を総合的に考慮して定めるものといえる。また,工程(ii)も,工程(i)と同様の温度及び圧力で行う処理であるから,工程(i)と同様の点に考慮して処理条件を定めるとみることが自然である。
よって,引用発明の湿式酸化処理において,上記(相違点a)の検討のとおり,排水を「無機硫黄化合物を含有する」ものと特定し,「チオ硫酸,亜硫酸,硫化物」等のCOD成分を分解処理するに当たり,廃水中の分解対象とする成分の濃度や要求される処理の程度(分解率等)と,全体としての運転費及び設備費等を総合的に考慮し,引用文献に記載された処理温度及び圧力の範囲の中で,運転費及び設備費等が低くなる温和な条件とすることは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,排水の湿式酸化処理条件として180℃未満,1MPa(ゲージ圧)未満程度の穏和な条件で行うことも周知であり(周知例2の【0081】?【0082】,周知例3の【0033】?【0034】),本願明細書の記載から本願補正発明の(相違点c)に係る温度及び圧力の数値範囲に臨界的意義も見出せないことを勘案すると,本願補正発明の(相違点c)に係る温度及び圧力とすることは,当業者が格別困難なくなし得ることである。

そして,本願補正発明が,上記相違点a?cに係る特定事項を採ることによって奏する明細書記載の効果についても,格別顕著なものと認めることはできない。
したがって,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

以上のとおりであるから,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)まとめ
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成19年5月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成18年10月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって,上記「2.(1)」に記載したとおりのものである。

4.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開昭62-132589号公報)及びその記載事項は,上記「2.(2.1)」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は,上記「2.」で検討した本願補正発明において,「80℃以上180℃未満の温度」を「180℃未満の温度」とするものである。
してみると,本願発明の特定事項を含み,更に,温度を「80℃以上180℃未満」に限定したものである本願補正発明が,上記「2.」に記載したとおり,引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明と同様の理由により,本願発明も,引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.回答書の補正案について
請求人は,平成21年10月8日付けで提出した回答書において,
「本願発明は,無触媒湿式酸化処理を行う領域に充填物を充填するか気液分散板を設けることで,気液の撹拌および接触効率が向上し,また気液の偏流を低減することにより,無機硫黄化合物を含有する排水を効率よく分解することができます(・・・)。
・・・
本願発明の方法が,引用文献1(審決注:審決の「引用文献」)等よりも温度・圧力ともに穏和な条件にも関わらず,無機硫黄化合物を含有する排水を高い分解率で処理できるのは,無触媒湿式酸化処理領域に充填物を充填したり気液分散板を設けたことにも,要因があります。」(第3頁9行?末行)と述べるとともに,
「現在審判請求人が希望している請求項補正案」として,本願補正発明に,
「湿式酸化処理を行う反応塔内の無触媒湿式酸化処理を行う領域に,直径あるいは長径が3?5mmのペレット状,球状,粒状,またはリング状の充填物を充填すること,および/または,多孔板の気液分散板を用い」
という特定事項をさらに限定したもの(第6頁20行?7頁第15行)を提示している。

そこで,上記補正案について念のため検討すると,気液の撹拌および/または接触効率の向上のために,反応塔において充填物や分散板を用いることは周知技術(周知例1の【0023】,特開平8-10797号公報の【0021】)であり,充填材や分散板の形状,大きさ,構造等は,反応塔の容積,処理液の種類や反応条件等に応じて当業者が適宜設計するものであるから,充填物の形状,大きさを,直径あるいは長径が3?5mmのペレット状,球状,粒状,またはリング状にしたり,分散板を多孔の構造とすることも当業者が適宜行う設計事項にすぎない。
なお,請求人は,上記回答書において,「引用文献4(審決注:周知例1)の実施例では,無触媒湿式酸化処理を行う場合に,反応塔内に充填材を充填して処理した例は何ら示されていません(・・・)。従って,引用文献4は,無触媒湿式酸化処理領域に充填材を充填することを実質的に開示しているとは言えません。さらに,引用文献4には,充填物の形状や大きさに関する記載は一切ありません。」(第5頁21?25行)とも主張しているが,周知例1の【0023】には,「湿式酸化処理とは,特に限定するものではないが,湿式酸化反応塔内になにも充填せず空塔として処理しても良いし,・・・触媒を充填し湿式酸化処理しても良い。また,湿式酸化反応塔内に金属製,またはセラミック製等の充填材を充填し,液およびガスの撹拌向上等を図ることもできる。」と記載されているから,無触媒湿式酸化処理の反応塔内に充填物を充填し,液およびガスの攪拌向上等を図ることが示されており,周知例1の記載は実施例に限定されるものではない。また,本願の明細書の記載をみても,充填材の形状や大きさ,分散板を多孔板とすることにより,引用文献及び上記周知技術と比較して格別顕著な効果を奏するものとはいえない。
よって,回答書に提示された補正案についても,引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に記載された発明は,引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-27 
結審通知日 2010-06-01 
審決日 2010-06-14 
出願番号 特願2002-37444(P2002-37444)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 安齋 美佐子
小川 慶子
発明の名称 無機硫黄化合物を含有する排水の処理方法  
代理人 二口 治  
代理人 植木 久一  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  

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