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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1220799
審判番号 不服2008-9428  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-16 
確定日 2010-07-29 
事件の表示 平成 7年特許願第213067号「新規な外用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月10日出願公開、特開平 9- 40551〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成7年7月31日の出願であって、平成18年11月17日付けの拒絶理由に応答して平成19年1月19日付けで手続補正書が提出され、同年12月17日付けの拒絶理由に応答して平成20年2月25日付けで手続補正書が提出されたが、同年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月16日付けで手続補正書が提出されたが、平成22年2月16日付けで平成20年5月16日付けの手続補正は却下され、同日付けの拒絶理由に応答して平成22年4月22日付けで意見書が提出されたものである。

平成20年5月16日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年2月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体を、溶解度以上の濃度で含有すると共に、低級アルコール及び陰イオン性高分子物質も含有し、該低級アルコール及び陰イオン性高分子物質の存在によって該S体の経皮吸収性を向上させてなる貼付剤、パッチ剤又はテープ剤の剤型の外用消炎鎮痛剤。」


2.引用刊行物の記載事項

A.特開平6-199701号公報(以下、引用例Aという。)
B.特表平6-508100号公報(以下、引用例Bという。)
C.特開平6-107537号公報(以下、引用例Cという。)
D.特開昭63-93714号公報(以下、引用例Dという。)
E.特開昭63-93715号公報(以下、引用例Eという。)
F.特開昭60-185713号公報(以下、引用例Fという。)

当審における平成20年5月16日付けの拒絶理由通知書に引用され、本願の出願日前に頒布されたことが明かな上記引用例A?Fには、それぞれ次の事項が記載されている。

(2A)引用例Aの記載事項

(a-1)「【請求項1】 不斉炭素を少なくとも1つもち、かつ、(S)-体を51.0?100.0重量%含有する非ステロイド性抗炎症薬物と多価アルコールとを配合することを特徴とする外用消炎鎮痛剤。」(【特許請求の範囲】)

(a-2)「【0009】本発明の外用消炎鎮痛剤は、その剤形として本発明をより効果的にするために液剤、軟膏剤、クリーム、貼付剤の利用が好ましい。これらの剤形にはその剤形に応じて通常の基剤及び配合成分を有用させることができる。例えば、液剤、クリーム及び軟膏剤の場合、基剤としての溶媒、油成分、界面活性剤、水溶性高分子などが用いられるが、溶媒としては水、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、…などが、…水溶性高分子としてはカルボキシビニルポリマー、…などが挙げられる。」(段落【0009】)

(a-3)「【0012】
【発明の効果】本発明に従うと、不斉炭素を少なくとも1つもち、かつ、(S)-体を51.0?100.0重量%含有する非ステロイド性抗炎症薬物の皮膚からの吸収と皮膚深部への移行を高める事により治療効果が飛躍的に改善され、かつ、有効投与量を低減させる事により副作用を軽減させる事のできる外用消炎鎮痛剤が得られる。さらに本発明は、外用剤のあらゆる剤形に応用できる技術であり、液剤、軟膏剤、クリーム、貼付剤などに広く利用されるものである。」(段落【0012】)

(a-4)「【0023】実施例4
次の表5に示す配合組成を調製し、外用消炎鎮痛ゲル軟膏剤とした。
【0024】
【表5】

」(段落【0023】?【0024】)

(2B)引用例Bの記載事項

(b-1)「1.生物学的活性剤が周囲条件で担体に対して溶解限界以上の濃度で存在し、かつ、前記担体中に分散された、組成物の経皮的移動能力を実質的に促進するに十分に微細な前記活性剤の固体粒子を含む、生物学的活性剤および薬学的に許容可能な担体を含有する生物学的活性剤の経皮投与用組成物。」(特許請求の範囲)

(b-2)「14.生物学的活性剤が、非ステロイド系抗炎症剤である請求の範囲第1項ないし第11項のいずれか一つに記載の組成物。
15.非ステロイド系抗炎症剤が、アスピリン、サリチル酸塩、インドメタシン、アリルおよびヘテロアリルアルカン酸、イブプロフェン、ケトプロフェンおよびフルビプロフェンである請求の範囲第14項記載の組成物。」(特許請求の範囲)

(b-3)「本出願人は、担体に対して溶解限界以上の濃度で担体中に存在する生物学的活性化合物の、直接皮膚に塗布した場合の経皮送達速度を、担体中に微細粒子の形で存在する活性化合物を少なくとも十分な割合にすることによって、増加および制御することができることを見い出した。
本発明の第1の見地によれば、生物学的活性剤および薬学的に許容可能な担体を含有する生物学的活性剤の経皮投与用組成物を提供する。この組成物中、生物学的活性剤は、担体対して周囲条件で溶解限界以上の濃度で存在し、かつ、担体中に分散された、組成物の経皮的移動能力を十分に促進する生物学的活性剤の十分に微細な粒子を含む。」(第5頁左下欄最下行?右下欄第10行)

(b-4)「前記生物学的活性剤は、前記担体中に飽和または過飽和溶液として存在する。しかしながら、投与直後の高い割合で経皮的送達を可能にするために、少なくとも60重量%の特定の活性剤が微細な粒子として存在することが特に好ましい。」(第5頁右下欄第18行?第21行)

(2C)引用例Cの記載事項

(c-1)「【0002】
【従来の技術】経皮吸収製剤の使用により、薬物が皮膚を介して分配・拡散され、血中へ移行する。従って、基剤中での薬物の存在状態により皮膚透過性が異なってくる。基剤中の薬物濃度が高くなると皮膚透過量も高い値を示し、薬物濃度が飽和溶解度を超えて過飽和状態に達すると、皮膚透過量もより高い値を示すこと及びこの過飽和状態は、再結晶微粒子が基剤中に均一に分散して析出すると、より長期間安定して保持されることは従来より知られていた。例えば、特開昭60─16916号、特開昭60─185713号、特開昭63─35521号、特開昭63─93714号、特開昭62─273913号、特開昭62─273914号等の各公報に、薬物が再結晶微粒子で基剤中に析出している経皮吸収製剤が開示されている。」(段落【0002】)

(2D)引用例Dの記載事項

(d-1)「1.薬物不透過性支持体表面に、少なくとも30℃で固体の薬物を含有する粘着剤層が形成された経皮吸収貼付剤であって、該粘着剤が該薬物を飽和溶解度以上の割合で含有し、該貼付剤があらかじめ加熱され、該薬物が該粘着剤層中に過飽和溶解状態で存在する、経皮吸収貼付剤。」(特許請求の範囲)

(d-2)「(発明が解決しようとする問題点)
本発明は…、その目的とするところは、単位面積あたりの薬物含量が高く、かつその薬物量に比例して薬物の皮膚透過性の高い経皮吸収貼付剤を提供することにある。本発明の他の目的は、上記特徴に加えさらに薬物の初期放出性が高く、かつ高レベルの血中濃度を維持しうる、経皮吸収貼付剤を提供することにある。」(第2頁左下欄第1?9行)

(d-3)「本発明の経皮吸収性製剤に含有される薬物は、経皮的に吸収されて薬効を発揮する薬物であり、例えば、…、フルルビプロフェン、…がある。」(第3頁左上欄第8行?右下欄第2行)

(d-4)「このように薬物を過飽和溶解状態で含有する貼付剤は、従来の薬物再結晶微粒子が粘着剤層に存在する貼付剤や薬物が移行しうる支持体を備えた貼付剤に比べ、貼付剤を皮膚表面に貼付したときの薬物濃度グラジェントが大きい。従ってフィックの拡散方程式による薬物経皮透過量が大きくなる。本発明の経皮吸収貼付剤は、それゆえ高い血中濃度レベルを長時間にわたって維持でき、バイオアベイラビリティが高い。薬物の初期放出性も良好である。このような貼付剤を用いると、より小面積であっても従来と同一レベルの薬効が得られる。」(第4頁右上欄第1行?第12行)

(d-5)「(発明の効果)
本発明によれば、このように、薬物が粘着剤層に過飽和溶解状態で存在する経皮吸収貼付剤が得られる。この経皮吸収貼付剤は、薬物放出性に優れている。薬物放出の持続性も得られる。その結果、この経皮吸収貼付剤を皮膚に貼付すれば、高レベルの薬物血中濃度が得られる。薬物の初期血中濃度も高く、血中濃度の持続性にも優れる。」(第6頁左下欄第6行?13行)

(2E)引用例Eの記載事項

(e-1)「1.薬物不透過性支持体表面に、少なくとも30℃で固体の薬物を含有する粘着剤層が形成された経皮吸収貼付剤であって、該粘着剤が該薬物を飽和溶解度の1.2倍以上の割合で含有し、該薬物が該粘着剤層中に過飽和溶解状態で存在する、経皮吸収貼付剤。」(特許請求の範囲)

(e-2)「(発明が解決しようとする問題点)
本発明は…、その目的とするところは、単位面積あたりの薬物含量が高く、かつその薬物量に比例して薬物の皮膚透過性の高い経皮吸収貼付剤を提供することにある。本発明の他の目的は、上記特徴に加えさらに薬物の初期放出性が高く、かつ高レベルの血中濃度を維持しうる。経皮吸収貼付剤を提供することにある。」(第2頁右上欄第18行?左下欄第6行)

(e-3)「本発明の経皮吸収性製剤に含有される薬物は、経皮的に吸収されて薬効を発揮する薬物であり、例えば、…、フルルビプロフェン、…がある。」(第3頁左上欄第5行?左下欄第19行)

(e-4)「このような貼付剤調製時には、薬物は、使用する粘着基剤(必要に応じて粘着性付与剤や吸収促進剤を含む)の該薬物の飽和溶解度の1.2倍以上、好ましくは1.5?3.0倍の割合で粘着剤中に配合する。粘着剤中に混合された薬物は過飽和溶解状態で存在する。そのため、従来の薬物再結晶微粒子が粘着剤層に存在する貼付剤や薬物が移行しうる支持体を備えた貼付剤に比べ、貼付剤を皮膚表面に貼付したときの薬物濃度グラジェントが大きい。従ってフィックの拡散方程式による薬物経皮透過量が大きくなる。本発明の経皮吸収貼付剤は、それゆえ高い血中濃度レベルを長時間にわたって維持でき、バイオアベイラビリティが高い。薬物の初期放出性も良好である。このような貼付剤を用いると、より小面積であっても従来と同一レベルの薬効が得られる。」(第4頁右上欄第1行?第16行)

(e-5)「(発明の効果)
本発明によれば、このように、薬物が粘着剤層に過飽和溶解状態で存在する経皮吸収貼付剤が得られる。この経皮吸収貼付剤は、薬物放出性に優れている。薬物放出の持続性も得られる。その結果、この経皮吸収貼付剤を皮膚に貼付すれば、高レベルの薬物血中濃度が得られる。薬物の初期血中濃度も高く、血中濃度の持続性にも優れる」(第6頁右上欄第9行?16行)

(2F)引用例Fの記載事項

(f-1)「1)皮膚面に対して追従性を有すると共に実質的に経皮吸収性薬物非移行性である高分子系重合体中に該重合体に対する飽和溶解度以上の経皮吸収性薬物(常温で固体)を必須成分として含有する粘着層とを包含し、前記重合体に対する飽和溶解度以上の含有薬物は前記重合体中に略略均一な大きさの再結晶微粒子状態で分散されている経皮吸収貼付剤。」(特許請求の範囲)

(f-2)「…本発明の第一の目的は、高分子系重合体に対する飽和溶解度以上の薬物を含有している貼付層を持つ製剤であって、しかも含有薬物の全部或いは大部分が薬理効果に寄与する経皮吸収性製剤を提供することにある。
本発明の第二の目的は、高分子系重合体中に溶解状態から再結晶させた特異な微粒子状体で薬物を含有させておくことによって、溶解度調節膜の如き補助部材を用いることなく、薄く且つ小寸法で多量の薬物を保持する経皮吸収性製剤を提供することにある。」(第2頁右下欄第10行?第20行)

(f-3)「本発明の経皮吸収性製剤は、…、とりわけ粘着層中に該粘着層を構成する常温で感圧性である高分子系重合体に対する飽和溶解度以上の常温で固体の経皮吸収性薬物が含有(…)されているにもかかわらず、飽和溶解度以上の過剰の含有薬物が溶解状態から再結晶して略略均一な大きさの微粒子状態で粘着層中に分散され且つ再溶解することに起因して、良好な持続放出性が得られると言うことである。」(第3頁右上欄第17行?左下欄第7行)

(f-4)「経皮吸収製薬物は、製剤を皮膚面に粘着して適用した際に、経皮的に体内に吸収されるもので、常温において固体であれば特に制限を受けるものではない。かかる経皮吸収性薬物としては、次のものを例示することができる。…ロ)鎮痛消炎剤:…、フルルビプロフェン、…」(第4頁右下欄第12行?第5頁左上欄第12行)

(f-5)「本発明の経皮吸収性製剤は、…、常温で感圧接着性である高分子系重合体からなる粘着層中に、該重合体に対する飽和溶解度の範囲で溶解された薬物と溶解状態から再結晶し且つ微粒子状態で分散された再溶解可能な微粒子薬物とを含むものであるから、単位面積当りの薬物が多く、しかも該微粒子薬物は、粘着層中の溶解薬物が経皮吸収されて減少して行くにつれて順次粘着層を構成する前記重合体に再溶解してから経皮吸収されて行くので、持続性にすぐれるという特徴を有するものである。」(第7頁左上欄第6行?第16行)


3.対比・判断

引用例Aには、不斉炭素を少なくとも1つもち、かつ、(S)-体を51.0?100.0重量%含有する非ステロイド性抗炎症薬物を配合した外用消炎鎮痛剤が記載され(摘記事項a-1)、さらに、実施例4には、本発明品6として、(S)-フルルビプロフェン0.5重量%、カルボキシビニルポリマー、イソプロピルアルコールを含有する外用消炎鎮痛ゲル軟膏剤が記載されている(摘記事項a-4)から、引用例Aには、次の発明が記載されているといえる。

「(S)-フルルビプロフェン0.5重量%、カルボキシビニルポリマー、イソプロピルアルコールを含有する外用消炎鎮痛ゲル軟膏剤。」(以下、「引用発明」という。)

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(i)引用発明における「(S)-フルルビプロフェン」は、フルルビプロフェンと2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸とが同一化合物であることから、本願発明における「2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体」に相当する。

(ii)引用発明における「カルボキシビニルポリマー」は、本願発明における「陰イオン性高分子物質」に相当する。

(iii)引用発明における「イソプロピルアルコール」は、本願発明における「低級アルコール」に相当する。

よって、両者は、「2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体、低級アルコール及び陰イオン性高分子物質を含有する外用消炎鎮痛剤。」である点で一致し、次の点で相違する。

(イ)本願の請求項1に係る発明は、2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体を溶解度以上の濃度で含有するのに対して、引用例Aに記載される発明は、0.5重量%の濃度で含有する点。
(ロ)本願の請求項1に係る発明は、「低級アルコール及び陰イオン性高分子物質の存在によって該S体の経皮吸収性を向上させてなる」ものであるのに対して、引用例Aに記載される発明は、そのような特定をしていない点。
(ハ)本願の請求項1に係る発明は、貼付剤、パッチ剤又はテープ剤の剤型の外用消炎鎮痛剤であるのに対して、引用例Aに記載される発明は、ゲル軟膏剤である点。

そこで、上記相違点(イ)について検討する。
引用例Bには、生物学的活性剤が周囲条件で担体に対して溶解限界以上の濃度で存在し、かつ、前記担体中に分散された、組成物の経皮的移動能力を実質的に促進するに十分に微細な前記活性剤の固体粒子を含む、生物学的活性剤および薬学的に許容可能な担体を含有する生物学的活性剤の経皮投与用組成物(摘記事項b-1)が記載され、担体に対して溶解限界以上の濃度で担体中に存在する生物学的活性化合物の、直接皮膚に塗布した場合の経皮送達速度を、担体中に微細粒子の形で存在する活性化合物を少なくとも十分な割合にすることによって、増加および制御することができること(摘記事項b-3)、生物学的活性剤は、担体中に飽和または過飽和溶液として存在するが、投与直後の高い割合で経皮的送達を可能にするために、少なくとも60重量%の特定の活性剤が微細な粒子として存在することが特に好ましいこと(摘記事項b-4)、生物学的活性剤としてフルルビプロフェン(摘記事項b-2)が記載されている。
引用例Cには、経皮吸収製剤の基剤中での薬物の存在状態により皮膚透過性が異なり、基剤中の薬物濃度が高くなると皮膚透過量も高い値を示し、薬物濃度が飽和溶解度を超えて過飽和状態に達すると、皮膚透過量もより高い値を示すこと及びこの過飽和状態は、再結晶微粒子が基剤中に均一に分散して析出すると、より長期間安定して保持されることは従来より知られていたこと(摘記事項c-1)が記載されている。
また、引用例D?Fには、粘着剤に薬物を飽和溶解度以上の割合で含有する経皮吸収貼付剤(摘記事項d-1,e-1,f-1)が記載され、薬物の初期放出性が高く、かつ高レベルの血中濃度を維持しうる経皮吸収貼付剤であること(摘記事項d-4,d-5,e-4,e-5,f-3,f-5)が記載されており、薬物としてフルルビプロフェンが例示されている(摘記事項d-3,e-3,f-4)。特に、引用例Fには、常温で感圧接着性である高分子重合体中に該重合体に対する飽和溶解度以上の経皮吸収性薬物を必須成分として含有する粘着層を有し、前記重合体中に対する飽和溶解度以上の薬物は前記重合体中に略々均一な大きさの再結晶微粒子状態で分散されている経皮吸収性製剤(摘記事項f-1)が記載され、常温で感圧接着性である高分子重合体からなる粘着層中に、該重合体に対する飽和溶解度の範囲で溶解された薬物と溶解状態から再結晶し且つ微粒子状態で分散された再溶解可能な微粒子薬物とを含むものであるから、単位面積当りの薬物が多く、しかも該微粒子薬物は、粘着層中の溶解薬物が経皮吸収されて減少して行くにつれて順次粘着層を構成する前記重合体に再溶解してから経皮吸収されて行くので、持続性にすぐれること(摘記事項f-5)が記載されている。
そして、本願明細書の段落【0033】には、実施例1,3として、2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体を0.5%含有する液剤組成が記載され、該組成は、薬物を溶解度以上の濃度で含有することが記載されており、引用発明における0.5重量%の濃度は、溶媒系によっては溶解度以上の濃度となる量であって、本願発明における2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体の溶解度以上の濃度とするための配合量と、絶対量としても近い値である。
そうしてみると、医薬製剤において、薬物の経皮吸収性や血中濃度持続性を高めることは、周知の課題であるので、引用例Aに記載される発明において、2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体の経皮吸収性や血中濃度持続性を高めるために、該化合物を溶解度以上の濃度で含有するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

次に、上記相違点(ロ)について検討する。
本願の請求項1における「低級アルコール及び陰イオン性高分子物質の存在によって該S体の経皮吸収性を向上させてなる」という記載は、特定の組成からなる本願の請求項1に係る発明の外用消炎鎮痛剤の有する「低級アルコール及び陰イオン性高分子物質の存在によって該S体の経皮吸収性が向上する」という作用効果を単に記載したに過ぎないものであり、「2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体、低級アルコール及び陰イオン性高分子物質を含有する外用消炎鎮痛剤」を何ら特定するものではないから、相違点(ロ)は両者の実質的な相違点であるとはいえない。

次に、上記相違点(ハ)について検討する。
引用例Aには、外用消炎鎮痛剤の剤型として、液剤、軟膏剤、クリーム、貼付剤の利用が好ましいことが記載されており、具体的な剤型は、当業者がその目的に応じて適宜選択し得るものであるから、外用消炎鎮痛剤の剤型を、貼付剤、パッチ剤又はテープ剤とすることは、当業者が容易になし得ることである。

また、本願明細書の記載並びに審判請求の理由(平成20年6月26日付けの手続補正書)に記載される実験結果を検討しても、本願発明は、引用例A?Fに記載された事項から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

なお、請求人は、平成22年4月22日付けの意見書において、本願発明の効果は、2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体の経皮吸収性と血中濃度の持続性の2つの効果を満足することにあり、このうち、2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体という限定された化合物の血中濃度の持続性が向上することにはいずれの引用例にも記載も示唆もされていない旨を主張している。
しかしながら、上記したとおり、引用例D?Fには、粘着剤に薬物を飽和溶解度以上の割合で含有する経皮吸収貼付剤は、高レベルの血中濃度を維持しうること(摘記事項d-4,d-5,e-4,e-5,f-3,f-5)が記載されており、経皮的に吸収されて薬効を発揮する薬物として、フルルビプロフェンも例示されていることから(摘記事項d-3,e-3,f-4)、2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体という限定された化合物の血中濃度の持続性が向上することについて引用例に記載されていないとしても、引用発明において、経皮吸収されて薬効を発揮することが公知である2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸のS体を溶解度以上の濃度で含有するものとした場合にも、他の化合物と同様に血中濃度の持続性が向上するものと認められるものであり、血中濃度の持続性向上という効果についても、当業者が予測し得ない格別顕著な効果であると認めることはできない。


4.まとめ

以上のとおりであるから、本願の請求項1に記載された発明は、本願出願前国内において頒布されたことが明らかな引用例A?Fに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-28 
結審通知日 2010-06-01 
審決日 2010-06-14 
出願番号 特願平7-213067
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渕野 留香  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 上條 のぶよ
星野 紹英
発明の名称 新規な外用剤  
代理人 畑 泰之  
代理人 斉藤 武彦  

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