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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25D
管理番号 1220805
審判番号 不服2008-14187  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2010-07-29 
事件の表示 平成11年特許願第 16260号「輸送用冷凍装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月 2日出願公開、特開2000-213849〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成11年 1月25日 本件出願
平成19年 8月23日 拒絶理由通知
平成19年10月24日 意見書・手続補正書
平成20年 4月22日 拒絶査定
平成20年 6月 6日 本件審判請求
平成20年 7月 4日 手続補正書
平成22年 2月 5日 審尋
平成22年 4月 1日 回答書

第2 平成20年7月4日付け手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、明細書全文を補正するものであって、特許請求の範囲について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】冷凍庫の外部に突出して設けられた断熱筐体と、該断熱筐体内において設けられた蒸発器ユニットと、前記断熱筐体外において該断熱筐体に設けられた凝縮器ユニットとを具備し、
前記断熱筐体は、周面の一側面に、冷凍庫に穿設されている装着穴に合わせた開口部が設けられるとともに、底面が前記開口部へ向けて下方に傾斜する傾斜面とされた形状とされ、
前記蒸発器ユニットは、蒸発器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す蒸発器用送風機を配設し、前記開口部の下方部から前記冷凍庫内の空気を吸い込み、その上方部の吹出し口から前記冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出す構成とされ、
前記凝縮器ユニットは、前記断熱筐体の前面前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方に凝縮器用送風機を配設した構成とされ、
前記断熱筐体には、前記底面の前記開口部下縁に上方向に延出する堤部が形成されて該底面がドレイン水受け部とされ、該底面を含む前記断熱筐体の前記開口部側が前記装着穴内に挿入されて取り付けられることを特徴とする輸送用冷凍装置。」

(2)補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】冷凍庫の前方上部に外部に突出して設けられた断熱筐体と、該断熱筐体内において設けられた蒸発器ユニットと、前記断熱筐体外において該断熱筐体に設けられた凝縮器ユニットとを具備し、
前記断熱筐体は、周面の一側面に、冷凍庫に穿設されている装着穴に合わせた開口部が設けられるとともに、前面が略垂直面とされ、該前面に連なる底面が前記開口部へ向けて下方に傾斜する傾斜面とされた形状とされ、
前記蒸発器ユニットは、蒸発器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す蒸発器用送風機を配設し、前記開口部の下方部から前記冷凍庫内の空気を吸い込み、その上方部の吹出し口から前記冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出す構成とされ、
前記凝縮器ユニットは、前記断熱筐体の略垂直な前記前面の前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方の略垂直な前記前面との間に凝縮器用プロペラ形送風機を配設し、前記凝縮器を流通した外気を上下方向に吹き出す構成とされ、
前記断熱筐体には、前記底面の前記開口部下縁に上方向に延出する堤部が形成されて該底面がドレイン水受け部とされ、該底面を含む前記断熱筐体の前記開口部側が前記装着穴内に挿入されて取り付けられることを特徴とする輸送用冷凍装置。」

2 補正の適否
上記特許請求の範囲についての補正は、「冷蔵庫の外部に突出して設けられた断熱筐体」を「冷蔵庫の前方上部に外部に突出して設けられた断熱筐体」とし、断熱筐体について、「前面が略垂直面とされ」、「底面」が「該前面に連なる」点を限定し、凝縮器ユニットの構成について、「断熱筐体の前面前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方に凝縮器用送風機を配設した構成」を「断熱筐体の略垂直な前記前面の前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方の略垂直な前記前面との間に凝縮器用プロペラ形送風機を配設し、前記凝縮器を流通した外気を上下方向に吹き出す構成」としたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後における請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、前記1の(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に日本国内おいて頒布された刊行物である特開平9-99773号公報(以下「刊行物1」という。)、実公昭53-25251号公報(以下「刊行物2」という。)、及び実願平1-75746号(実開平3-18476号)のマイクロフィルム(以下「刊行物3」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

ア 刊行物1
(ア)段落【0001】?【0005】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は荷室の前壁上部に蒸発器を収納するための庫を突設した冷凍車に関するものである。
【0002】
【従来の技術】通常の冷凍車は荷室の前壁の内側上部に蒸発器を備えているが、図2に示すように前壁上部に収納庫を突設し、この収納庫の中に蒸発器を収納することによって荷物を内側前壁の上部迄積み上げを可能として荷室の内容積を大きくし、冷凍機の凝縮器を前記荷室の床下に設けたものも広く利用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記の冷凍車は図2の鎖線で示されるように、トラック10のシャ-シフレ-ム12,12の上に架装されているが、通常このシャ-シフレ-ム12,12の両側には、燃料タンク、バッテリ-、工具箱、等が取付けられて、その上防護枠(サイドバンパ-)14によって保護されているので、この部分の空間が狭くなり前後の車輪間に冷凍機の凝縮器16を装着するのが相当に困難で、場合によってはシャ-シフレ-ム12の改造が必要なこともあった。
【0004】又、凝縮器16は前記の狭い空間に装着され種々の部品や付属品が周囲に混在しているので、必然的に空気の流通が悪くなり冷却性能が悪くなると言う問題が発生した。
【0005】本発明の目的は、冷凍機の蒸発器によって荷室の内容積を減じることなく、凝縮器を容易に取り付けることができ、さらに冷却性能もよい冷凍車を提供することである。」

(イ)段落【0007】?【0013】
「【0007】
【発明の実施の形態】以下図面により本発明の実施例を説明すると、図1は本発明による荷室の前壁上部に蒸発器収納庫を突設した冷凍車を示し、図2は従来の荷室の前壁上部に蒸発器収納庫を突設した冷凍車を示し、図3は本発明による凝縮器を蒸発器収納庫に取付説明図を示し、図4は凝縮器と蒸発器が一体の場合の本発明による凝縮器と蒸発器収納庫との取付説明図を示し、図5は本発明の他の実施例を示す。
【0008】図1に示すように、本発明による荷室18の前壁20の上部には蒸発器22を収納する収納庫24が突設され、この収納庫24の前面には凝縮器26が突設されている。
【0009】従って、冷凍機の蒸発器によって荷室の内容積を減じることなく、凝縮器を容易に取り付けることができ、この凝縮器の背面以外は周囲に空気を遮蔽するものがないので、充分に新しい空気を吸い込むことができて冷却性能が図2の従来と比べて格段によくなった。
【0010】図3に示すように、凝縮器26と蒸発器22とが分離型の場合は、凝縮器26は収納庫24の前面に埋設された埋込みボルト28,28とナット30によって着脱自在に取付けられ、図2の従来の冷媒流通配管34に比べて僅かの冷媒流通配管32によって連結されている。
【0011】図4は凝縮器と蒸発器が一体の場合は、収納庫24の前面に窓36を切って、この窓36を介して凝縮器26と蒸発器22と取り付けたものである。
【0012】図5の他の実施例では、収納庫24が荷室の前壁と別体の場合で、予め収納庫38に凝縮器26と蒸発器22とを装着した後、荷室の前壁に窓を切って取り付けたものである。
【0013】
【効果】以上本発明によれば、収納庫の前面に凝縮器を突設したので、冷凍機の蒸発器によって荷室の内容積を減じることなく、凝縮器を容易に取り付けることができ、さらに冷却性能もよい冷凍車を提供することである。」
(ウ)段落【0007】(前記(イ)参照)の「図1は本発明による荷室の前壁上部に蒸発器収納庫を突設した冷凍車を示し」との記載、及び段落【0012】(前記(イ)参照)の「図5の他の実施例では、収納庫24が荷室の前壁と別体の場合で、予め収納庫38に凝縮器26と蒸発器22とを装着した後、荷室の前壁に窓を切って取り付けたものである。」との記載からみて、収納庫が荷室の前方上部に外部に突出して設けられていることは明らかである。

(エ)段落【0012】(前記(イ)参照)の記載並びに図3ないし5からみて、収納庫は、周面の一側面に開口部が設けられること、前面が略垂直面とされ、該前面に連なる底面が前記開口部へ向けて下方に傾斜する傾斜面とされた形状であること、前記開口部側を荷室の前壁に窓を切って取り付けていることは明らかである。

前記(ア)及び(イ)に摘示した事項、前記(ウ)及び(エ)で認定した事項並びに図1、3ないし5から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「冷凍車の荷室の前方上部に外部に突出して設けられた収納庫と、該収納庫内において設けられた蒸発器と、前記収納庫外において該収納庫に設けられた凝縮器とを具備し、
前記収納庫は、周面の一側面に開口部が設けられるとともに、前面が略垂直面とされ、該前面に連なる底面が前記開口部へ向けて下方に傾斜する傾斜面とされた形状とされ、
前記収納庫の前記開口部側を、前記荷室の前壁に窓を切って取り付けた冷凍車の冷凍機。」

イ 刊行物2
(ア)第1欄下から10行目?第2欄第19行
「本考案は冷凍車等に於ける冷凍庫に取付固定する冷凍機の構造に関し、特に冷凍機器、制御機器、断熱壁で形成し内部に強制送風式の冷却器を配設した冷却箱を一体に組み込んだ型式のものである。
以下図に基づいて本考案を説明する。1は冷凍食品を輸送する冷凍車で、後部に断熱壁で周囲を形成した冷凍庫2を搭載し、運転席3と前記冷凍庫2との間に取付架台4を介して冷凍機本体5を取付固定している。
前記冷凍機本体5は機枠6にて横に3つの区画部7,8,9を形成し、中央部8を冷却箱配置部、一側部7を冷凍機器配置部、他側部9を制御機器配置部としている。第2図は車の走行方向に対し後方より冷凍機本体5を見た図であり、前記冷凍機器配置部7には前部に凝縮器10、その後方に凝縮器冷却用送風機11、更に後方に圧縮機12を収容配置し、且つ冷凍機器配置部7を被覆する側板13に通気部14、後板15に通気部16を夫々形成している。
尚、冷凍機器本体5の前面を共通に覆う前板17にも前記冷凍機器配置部7の前方を覆う部分に通気部18を形成している。又、前記制御機器配置部9には上部にスイツチ類を集約した制御箱19、下部に電装部品20を収容配置し、且つ制御機器部9を被覆する側板21には前記制御箱19に対向して窓部22、前記電装部品20に対向して通気部23を形成し、後板24を盲板としている。25は冷凍機本体5の上面を共通に覆う天板26は同じく底板である。」

(イ)第2欄第20行?第3欄第4行
「27は冷却箱で、内箱28と外箱29間にウレタン断熱材30を発泡充填して箱状に形成し、内部には前記圧縮機12等と冷媒回路を形成した冷却器31を内部上下を2分する如く且つ奥方が低く若干傾斜した状態に固定具32を介して配設し、内部上方に送風機33を配置して、開口面の中央の前記冷却器31の端部を覆う仕切板34を境界にして下方に吸込ロ35、上方に吹出口36を形成している。この冷却箱27を前記冷却箱配置部8に前記吸込口35、吹出口36を有する開口面を後方に位置して設ける。
而して、前記冷却箱27の底壁37は開口面が低く奥方が高い傾斜した状態に形成し、吸込ロ35からの気流の上方への指向を円滑にするとともに、前記底板26との間に形成される空間を通路38としている。この通路38は前記冷凍機器配置部7と制御機器配置部9とを連絡し、凝縮器用送風機11にて制御機器配置部9の空気を吸引して空気の停滞をなくし運転時に熱を発生するこの部分の冷却効果を向上するものである。
尚、39は傾斜した底壁37の最低部に設けた排水管、40は送風機ケ-シングである。」

(ウ)第3欄第5?25行
「第4図は冷凍機本体5と冷凍庫2との結合部の構造を示し、冷凍庫の一側壁41に冷気取入口42を形成し、この開口端緑に断面がL字型の取付部材43をその一辺44が側壁41の外壁面と平行となる様に端板45にボルト46ナット47で固定し、冷却箱27の開口端部48を前記取付部材43に対向せしめ、中間にパツキン49を介在し取付部材43の辺44と内箱28の端部に装着した補強辺50とをボルト51ナツト52で螺合し冷却箱27を冷凍庫2に対し気密を保持して取付ける。53は外装板をなす天板25、前板17と冷却箱27の外箱29との空間に介設した断熱シートで、直射日光の下を走行する冷凍車の冷却箱27への熱影響を防止する。例えば、真夏では外装の板は60℃位迄上昇するため断熱材が二次発泡し変形を生じる。前記パツキン49は気密保持に加えて天板25から内部への熱伝導を防止している。54は外箱29と内箱28の連結部に介在した熱不良導性材よりなるシール部材である。
尚、6Aはコ字型を成した機枠で、冷却箱27の底壁37の端部を支持している。」

(エ)第4欄第4?18行
「以上の如く、本考案に依れば、冷凍機本体の取付時には冷媒配管等は全く不要で冷却箱を冷凍庫の冷気取入口に取付固定すれば直ちに冷凍食品の貯蔵が可能となる。又、冷却箱を中央としその両側に冷凍機器と制御機器を配置構成しており、冷凍機器及び制御機器を冷却する気流通路が自由に構成出来るとともに、更に冷却箱の底壁を傾斜形成してこの下方に冷凍機器配置部と制御機器配置部とを連絡する通路を形成することにより、凝縮器用送風機を利用して制御機器部の空冷も可能となる。しかも、この通路を形成するために冷凍機本体の高さが高くなることはなく、且つ特別なダクトも必要としないとともに冷却箱内部で傾斜壁を利用して冷気流の流れ、除霜水の排水を円滑に出来るものである。」

前記(ア)ないし(エ)で摘示した事項並びに第1、2及び第4図をふまえると、刊行物2には、次の事項が記載されているものと認められる。

「冷凍庫の外部に設けられた冷却箱内に、冷却器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す送風機を配設し、冷却箱の下方の吸込口から冷凍庫内の空気を吸い込み、冷却箱の上方の吹出口から冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出すこと。」

ウ 刊行物3
(ア)第1ページ下から4行目?下から2行目
「(産業上の利用分野)
本考案は、荷物を冷温蔵して運搬することができる冷温蔵車に関する。」
(イ)第2ページ第12行?第3ページ第2行
「(考案が解決しようとする課題)
上述の従来例の場合、エバポレータとコンデンサとが遠くに離れているので、両者間の配管が複雑になるために配管作業が煩雑であると同時にパイプの破損を招き易いとともに、接続個所も多くなるために振動による接続個所からのガス洩れを招き易いという問題があった。
本考案はこのような事情に鑑みてなされたもので、配管を簡素にして配管作業の容易化、パイプ破損及びガス洩れの防止を図ることができる冷温蔵車を提供することを目的とする。」

(ウ)第3ページ第3行?第4ページ第4行
「(課題を解決するための手段)
上述の課題を解決するために本考案は、荷物を収容する冷温蔵庫と、この冷温蔵庫内を冷却又は加温する冷温蔵装置とを備えた冷温蔵車において、冷凍サイクルの一部を構成するエバポレータ及びコンデンサと暖房サイクルの一部を構成するヒータコアとが前記冷温蔵庫の前面であって、運転室の上方に集中配置してあり、前記エバポレータと前記ヒータコアとは隣接しており、前記コンデンサは前記エバポレータ及び前記ヒータコアよりも車両前方側に位置している。
(作用)
上述のようにエバポレータ及びコンデンサが冷温蔵庫の前面であって、運転室の上方に配置してあるので、エバポレータとコンデンサとを接続するパイプが短かく、配管が簡素になる。
また、コンデンサは運転室の上方に配置してあり、しかもエパボレータ及びヒータコアよりも車両前方側に位置しているので、冷温蔵庫の下に取り付けた場合に較べ、車両走行時の風を冷媒冷却のためにより有効に利用することができ、更にコンデンサの放熱面積を広く確保し得る。」

(エ)第4ページ第5行?第6ページ第9行
「(実施例)
次に、本考案の一実施例を図面に基づいて説明する。
第1図は本考案の一実施例に係る冷温蔵車を示す全体構成図であって、図中1は冷温蔵庫を示し、この冷温蔵庫1内には冷凍又は加温状態で運搬すべき食料品等の荷物が収容される。冷温蔵庫1の前側であって、運転室2の上方には、内ケース3が取り付けてある。内ケース3の内部には、第2図及び第3図に示すように、冷凍サイクルの一部を構成するエバポレータ4と、このエバポレータ4に隣接配置してあるヒータコア5と、後述する両軸モータ6の一方の軸に設けたシロッコファン9とが収容してある。エバポレータ4とヒータコア5との通風面は互いに平行である。また、冷温蔵庫1の前面には、庫内の空気を内ケース3内に導く1つの吸入口7と、内ケース3内の空気を庫内に送り出す2つの送出ロ8,8とが設けてある。吸入口7はエバポレータ4の通風面に対向しており、各送出口8はシロッコファン9にそれぞれ対向している。両軸モータ6は内ケース3に取り付けてあり、両軸モータ6の一方の軸にはシロッコファン9が設けてあり、両軸モータ6の他方の軸
にはプロペラファン10が設けてある。
冷温蔵庫1の前面には内ケース3及びプロペラファン10を被う外ケース11が取り付けてあり、外ケース11の前面には外ケース11内に空気を導く吸入口12が設けてあり、この吸入ロ12にはコンデンサ13が取り付けてある。外ケース11の両側面には、外ケース11内の空気を外部に排出する排出口14がそれぞれ設けてある。各排出口14はプロペラファン10に対向している。
図示しない圧縮機を作動させると、圧縮された高温高圧の冷媒は、車両前方から吹き込む空気がコンデンサ13を通過したときに、熱を奪われて液化し、液化冷媒は図示しない接続用のパイプを通じてエバポレータ4に送られる。このときコンデンサ13の熱を奪って温かくなった外ケース11内の空気は、内ケース3の外壁にぶつかり排出口14から外部に排出される。
冷温蔵庫1内の空気はシロッコファン9により吸気ロ7から内ケース3内に案内される。すなわち、シロッコファン9が回転すると、冷温蔵庫1内の空気は吸気口7からエバポレータ4及びヒ-タコア5を通過して内ケース3内に導入される。」

(オ)第1図及び第2図からみて、内ケース3の前面は略垂直であり、その前面の前方にあるコンデンサ13は、縦方向に配設されているということができる。

前記(ア)ないし(エ)で摘示した事項、前記(オ)で認定した事項並びに第1図ないし第3図をふまえると、刊行物3には、次の事項が記載されているものと認められる。

「冷温蔵庫の前方上部に外部に突出して設けられた内ケースに、エバポレータとシロッコファンを配設し、前記内ケースの略垂直な前面の前方にコンデンサを縦方向に配設するとともに、前記コンデンサの後方にプロペラファンを配設し、前記コンデンサを流通した外気を吹き出すよう構成したこと。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「冷凍車の荷室」は、本件補正発明の「冷凍庫」に相当する。以下同様に、「収納庫」は「断熱筐体」に、「蒸発器」は「蒸発器ユニット」に、「凝縮器」は「凝縮器ユニット」に、「冷凍車の冷凍機」は「輸送用冷凍装置」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

<一致点>
「冷凍庫の前方上部に外部に突出して設けられた断熱筐体と、該断熱筐体内において設けられた蒸発器ユニットと、前記断熱筐体外において該断熱筐体に設けられた凝縮器ユニットとを具備し、
前記断熱筐体は、周面の一側面に開口部が設けられるとともに、前面が略垂直面とされ、該前面に連なる底面が前記開口部へ向けて下方に傾斜する傾斜面とされた形状とされた輸送用冷凍装置。」の点。

<相違点1>
本件補正発明では、断熱筐体に、「冷凍庫に穿設されている装着穴に合わせた開口部」が設けられ、断熱筐体の「底面を含む断熱筐体の開口部側が装着穴内に挿入されて取り付けられ」ているのに対し、
引用発明では、断熱筐体である収納庫に開口部が設けられ、収納庫の前記開口部側を、荷室の前壁に窓を切って取り付けている点。

<相違点2>
本件補正発明では、「蒸発器ユニットは、蒸発器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す蒸発器用送風機を配設し、前記開口部の下方部から冷凍庫内の空気を吸い込み、その上方部の吹出し口から冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出す構成とされ」ているのに対し、
引用発明では、蒸発器ユニットの構成が明らかでない点。

<相違点3>
本件補正発明では、「凝縮器ユニットは、断熱筐体の略垂直な前面の前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方の略垂直な前記前面との間に凝縮器用プロペラ形送風機を配設し、前記凝縮器を流通した外気を上下方向に吹き出す構成とされ」ているのに対し、
引用発明では、凝縮器ユニットの構成が明らかでない点。

<相違点4>
本件補正発明では、「断熱筐体には、底面の開口部下縁に上方向に延出する堤部が形成されて該底面がドレイン水受け部とされ」ているのに対し、
引用発明では、そのような構成が明らかでない点。

(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
蒸発器を内部に備える断熱筐体に、冷蔵庫に設けられた装着穴に合わせた開口部が設けられ、底面を含む断熱筐体の開口部側が装着穴内に挿入されて取り付けられることは、従来周知の事項(例えば、特開平2-233969号公報の第2ページ上左欄第1?2行、第3図を参照のこと。)である。
してみると、引用発明に前記周知の事項を適用して、引用発明の冷凍庫である荷室の窓を装着穴とすること、引用発明の断熱筐体である収納庫の開口部を装着穴に合わせたものとすること、及び引用発明の底面を含む収納庫の開口部側が装着穴内に挿入されて取り付けられるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、穴を穿設により形成することはごくありふれた手法であるから、装着穴を穿設により設けることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

イ 相違点2について
刊行物2には、前記(2)のイで示したとおりの事項(「冷凍庫の外部に設けられた冷却箱内に、冷却器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す送風機を配設し、冷却箱の下方の吸込口から冷凍庫内の空気を吸い込み、冷却箱の上方の吹出口から冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出すこと。」)が記載されている。
刊行物2記載の事項の「冷却箱」は、本件補正発明の「断熱箱体」と言い換えることができる。以下同様に、「冷却器」は「蒸発器」と、「送風機」は「蒸発器用送風機」と、「冷却箱の下方の吸込口」は「断熱筐体」の「開口部の下方部」と、それぞれ言い換えることができる。
そうすると、刊行物2記載の事項は、「冷凍庫の外部に設けられた断熱箱体内に、蒸発器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す蒸発器用送風機を配設し、断熱筐体の開口部の下方部から冷凍庫内の空気を吸い込み、断熱箱体の上方の吹出口から冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出すこと。」と言い換えることができる。
引用発明は、冷凍庫である荷室の外部で冷気を生成し荷室内に供給するものであるところ、その点で引用発明と刊行物2記載の事項とは共通する。
してみると、引用発明の蒸発器ユニットである蒸発器に、刊行物2事項を適用することで、蒸発器を横方向に配設するとともに、その上部に下方から吸い込んだ空気を吹き出す蒸発器用送風機を配設し、断熱筐体の開口部の下方部から冷凍庫内の空気を吸い込み、断熱箱体の上方の吹出口から冷凍庫内に水平方向に冷風を吹き出す構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
このとき、蒸発器ユニットの上方部に吹出し口が設けられることは、冷凍庫内に水平に冷風を吹き出すために、当業者が当然になし得たことにすぎない。

ウ 相違点3について
刊行物3には、前記(2)のウで示したとおりの事項(「冷温蔵庫の前方上部に外部に突出して設けられた内ケースに、エバポレータとシロッコファンを配設し、前記内ケースの略垂直な前面の前方にコンデンサを縦方向に配設するとともに、前記コンデンサの後方にプロペラファンを配設し、前記コンデンサを流通した外気を吹き出すよう構成したこと。」)が記載されている。
刊行物3記載の事項の「内ケース」は、本件補正発明の「断熱筐体」と言い換えることができる。以下同様に、「エバポレータ」は「蒸発器」と、「シロッコファン」は「蒸発器用送風機」と、「コンデンサ」は「凝縮器」と、「プロペラファン」は「凝縮器用プロペラ形送風機」と、それぞれ言い換えることができる。
そうすると、刊行物3記載の事項は、「冷温蔵庫の前方上部に外部に突出して設けられた断熱筐体に、蒸発器と蒸発器用送風機を配設し、前記断熱筐体の略垂直な前面の前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、前記凝縮器の後方に凝縮器用プロペラ形送風機を配設し、前記凝縮器を流通した外気を吹き出すよう構成したこと。」と言い換えることができる。
刊行物1(段落【0009】及び【0010】、前記(2)アの(イ)参照。)及び刊行物3(前記(3)ウの(ウ)参照。)には、ともに、冷却対象である荷室の前方上部の外部に蒸発器と凝縮器を近接配置することで、冷媒配管を簡略化する旨が記載され、かつ、凝縮器を凝縮器よりも前に配置することで凝縮器の冷却性能の向上を図る旨が記載されている。
してみると、引用発明と刊行物3記載の事項とは、冷媒配管の簡略化及び凝縮器の冷却性能の向上の点で、その課題が共通するから、引用発明の凝縮器ユニットである凝縮器に刊行物3記載の事項を適用することで、凝縮器を、断熱筐体の略垂直な前面の前方に配設するとともに、凝縮器の後方に凝縮器用プロペラ形送風機を配設し、前記凝縮器を流通した外気を吹き出すよう構成することは、当業者が容易になし得たことである。
このとき、輸送用冷凍装置の凝縮器ユニットにおいて、凝縮器用送風機を凝縮器に対向配置することが、従来周知の事項(例えば、実願昭48-129987号(実開昭50-75151号)のマイクロフィルムの第8ページ第7?13行、実願昭48-140431号(実開昭50-81512号)のマイクロフィルムの第1図を参照のこと。)であること、及び刊行物1(段落【0009】、前記(2)アの(イ)参照。)に、「凝縮器の背面以外は周囲に空気を遮蔽するものがない」と記載されていることをふまえると、凝縮器の後方に凝縮器用プロペラ形送風機を設けるのに、凝縮器と対向配置することで、凝縮器と略垂直な断熱筐体の前面との間に凝縮器用プロペラ形送風機を配設するようにし、凝縮器を流通した外気を、その吹き出しに支障のない上下方向に吹き出すよう構成することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

エ 相違点4について
輸送用の冷凍装置において、蒸発器を内部に備える断熱筐体の底面の開口縁下縁に上方向に延出する堤部を形成し、該底面をドレイン水受け部とすることは、従来周知の事項(例えば、実公昭57-53990号公報の第3欄下から2行目?第4欄第9行、第1図及び第3図を参照のこと。)である。
してみると、引用発明に断熱筐体としての収納庫にかかる周知の事項を適用して、相違点3に係る事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

オ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の作用効果についてみても、引用発明、刊行物2、3記載の事項及び周知の事項から当業者が十分予測できる範囲のものであって、顕著なものとはいえない。

カ したがって、本件補正発明は、引用発明、刊行物2、3記載の事項及び周知の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成19年10月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし3には、それぞれ、前記第2の2(2)で示したとおりの事項が記載されている。

3 対比、判断
本願発明は、本件補正発明の「冷蔵庫の前方上部に外部に突出して設けられた断熱筐体」が「冷蔵庫の外部に突出して設けられた断熱筐体」とされ、断熱筐体について、「前面が略垂直面とされ」、「底面」が「該前面に連なる」との事項が削除され、凝縮器ユニットの構成について、本件補正発明の「断熱筐体の略垂直な前記前面の前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方の略垂直な前記前面との間に凝縮器用プロペラ形送風機を配設し、前記凝縮器を流通した外気を上下方向に吹き出す構成」が、「断熱筐体の前面前方に凝縮器を縦方向に配設するとともに、その後方に凝縮器用送風機を配設した構成」とされたものである。
してみると、本願発明を構成する事項をすべて含む本件補正発明が、上記第2の2(4)で述べたとおり、引用発明、刊行物2、3記載の事項及び周知の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-26 
結審通知日 2010-06-01 
審決日 2010-06-15 
出願番号 特願平11-16260
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F25D)
P 1 8・ 121- Z (F25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 槙原 進  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 鈴木 敏史
中川 真一
発明の名称 輸送用冷凍装置  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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