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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1220823
審判番号 不服2008-31946  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-18 
確定日 2010-07-29 
事件の表示 平成11年特許願第157008号「堆積体の製造方法及び製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月12日出願公開、特開2000-343010〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成11年6月3日の出願であって、平成20年7月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成20年9月16日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成20年11月14日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成20年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに平成21年1月16日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審における平成21年10月27日付けの書面による審尋に対し平成21年12月29日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成21年1月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成21年1月16日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本件補正について
(1)本件補正の内容
平成21年1月16日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年9月16日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(a)に示す請求項1ないし5を、下記の(b)に示す請求項1ないし4と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 成形装置に向けて空気流を生じさせ、複数種類の粒子(ただし、繊維を除く)を、それぞれ異なる供給装置から該空気流に同時に導入して搬送させ、これらの粒子を、該成形装置に設けた粒子の吸引堆積面に所望の分散状態に吸引堆積させる堆積体の製造方法であって、
複数種類の前記粒子として物性が異なる複数種類の粒子を用いるか、又は種類の異なる粒子毎に前記空気流に導入する際の導入条件を異ならせることにより、前記吸引堆積面上における複数種類の前記粒子の到達位置を制御する、堆積体の製造方法。
【請求項2】 成形装置に向けて空気流を生じさせ、複数種類の粒子(ただし、繊維を除く)を該空気流に導入して搬送させ、外周面に粒子の吸引堆積面を有する回転ドラムの該外周面に巻き付けるように供給した多孔性の保持シート上に、搬送させた粒子を吸引堆積させ、堆積させた粒子を該保持シートと共に該回転ドラムから導出して次工程に排出搬送する堆積体の製造方法であって、
前記空気流に、複数種類の前記粒子を、それぞれ異なる供給装置から導入し、複数種類の該粒子を、前記保持シートの厚み方向に所望の分散状態に吸引堆積させ、
複数種類の前記粒子として物性が異なる複数種類の粒子を用いるか、又は種類の異なる粒子毎に前記空気流に導入する際の導入条件を異ならせることにより、前記吸引堆積面上における複数種類の前記粒子の到達位置を制御する、堆積体の製造方法。
【請求項3】 異ならせる前記導入条件は、導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上である、請求項1又は2記載の堆積体の製造方法。
【請求項4】 前記吸引堆積面を所定の形状に形成し、複数種類の前記粒子を、該吸引堆積面又は前記保持シート上に前記所定の形状に堆積させる請求項1?3の何れかに記載の堆積体の製造方法。
【請求項5】 成形装置に向けて空気流を生じさせる空気流発生手段と、該空気流発生手段により生じた空気流に粒子(ただし、繊維を除く)を導入する供給装置と、該空気流に同伴搬送された前記粒子を、多数の吸引孔が形成された吸引堆積面に吸引して堆積させる成形装置とを備えた堆積体の製造装置であって、
前記成形装置は、前記吸引堆積面を外周面に有する回転ドラムを備え、
前記空気流発生手段は、前記回転ドラムの外周面の一部を一端部が覆うように配されたダクト内に空気流を生じさせ、前記供給装置が、前記ダクト内に前記粒子を導入するようになされており、
前記供給装置を複数備えており、これらの供給装置の内の少なくとも一つは、前記ダクト内に前記粒子を導入する粒子導入口の位置を変更する供給位置調整機構を備えている堆積体の製造装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲(下線は、補正箇所を明示するためのものである。)
「【請求項1】 成形装置に向けて空気流を生じさせ、複数種類の粒子(ただし、繊維を除く)を、それぞれ異なる供給装置から該空気流に同時に導入して搬送させ、これらの粒子を、該成形装置に設けた粒子の吸引堆積面に、所望の厚み方向の分散状態となるように吸引堆積させる堆積体の製造方法であって、
種類の異なる粒子毎に、前記空気流に導入する際の導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件を異ならせることにより、前記吸引堆積面上における複数種類の前記粒子の到達位置を制御する、堆積体の製造方法。
【請求項2】 成形装置に向けて空気流を生じさせ、複数種類の粒子(ただし、繊維を除く)を該空気流に導入して搬送させ、外周面に粒子の吸引堆積面を有する回転ドラムの該外周面に巻き付けるように供給した多孔性の保持シート上に、搬送させた粒子を吸引堆積させ、堆積させた粒子を該保持シートと共に該回転ドラムから導出して次工程に排出搬送する堆積体の製造方法であって、
前記空気流に、複数種類の前記粒子を、それぞれ異なる供給装置から導入し、複数種類の該粒子を、前記保持シートの厚み方向に所望の分散状態に吸引堆積させ、
種類の異なる粒子毎に、前記空気流に導入する際の導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件を異ならせることにより、前記吸引堆積面上における複数種類の前記粒子の到達位置を制御する、堆積体の製造方法。
【請求項3】 前記吸引堆積面を所定の形状に形成し、複数種類の前記粒子を、該吸引堆積面又は前記保持シート上に前記所定の形状に堆積させる請求項1又は2に記載の堆積体の製造方法。
【請求項4】 成形装置に向けて空気流を生じさせる空気流発生手段と、該空気流発生手段により生じた空気流に粒子(ただし、繊維を除く)を導入する供給装置と、該空気流に同伴搬送された前記粒子を、多数の吸引孔が形成された吸引堆積面に吸引して堆積させる成形装置とを備えた堆積体の製造装置であって、
前記成形装置は、前記吸引堆積面を外周面に有する回転ドラムを備え、
前記空気流発生手段は、前記回転ドラムの外周面の一部を一端部が覆うように配されたダクト内に空気流を生じさせ、前記供給装置が、前記ダクト内に前記粒子を導入するようになされており、
前記供給装置を複数備えており、これらの供給装置の内の少なくとも一つは、前記ダクト内の空気流中に前記粒子を導入する粒子導入口の位置を変更する供給位置調整機構を備え、該供給位置調整機構は、前記粒子導入口の位置を、前記空気流の流れ方向に沿う前後方向及び該空気流に直交する上下方向に移動させ得るようになされている、堆積体の製造装置。」

(2)本件補正の目的
本件補正は、まず、本件補正前の請求項1及び2をそれぞれ本件補正後の請求項1及び2とし、本件補正前の請求項3を削除するとともに、本件補正前の請求項4及び5をそれぞれ繰り上げて本件補正後の請求項3及び4とするものと解される。
そして、その上で、本件補正後の請求項1に関しては、
(a)本件補正前の請求項1における「所望の分散状態に吸引堆積させる」を「所望の厚み方向の分散状態となるように吸引堆積させる」と補正し、
(b)同じく「複数種類の前記粒子として物性が異なる複数種類の粒子を用いるか、又は種類の異なる粒子毎に」を「種類の異なる粒子毎に、」と補正し、
(c)同じく「前記空気流に導入する際の導入条件を異ならせる」を「前記空気流に導入する際の導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件を異ならせる」と補正するものであって、
上記補正事項(a)及び(c)は本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであり、上記補正事項(b)は択一的記載の一要素を削除するものであって、これらの補正事項(a)ないし(c)は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正後の請求項2に関しては、
(d)本件補正前の請求項2における「複数種類の前記粒子として物性が異なる複数種類の粒子を用いるか、又は種類の異なる粒子毎に」を「種類の異なる粒子毎に、」と補正し、
(e)同じく「前記空気流に導入する際の導入条件を異ならせる」を「前記空気流に導入する際の導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件を異ならせる」と補正するものであって、
上記補正事項(d)は択一的記載の一要素を削除し、上記補正事項(e)は本件補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、これらの補正事項(d)及び(e)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
さらに、本件補正後の請求項4に関しては、
(f)本件補正前の請求項5における「前記ダクト内に前記粒子を導入する粒子導入口の位置を変更する供給位置調整機構を備えている」を「前記ダクト内の空気流中に前記粒子を導入する粒子導入口の位置を変更する供給位置調整機構を備え、該供給位置調整機構は、前記粒子導入口の位置を、前記空気流の流れ方向に沿う前後方向及び該空気流に直交する上下方向に移動させ得るようになされている、」と補正するものであって、この補正事項(f)は、本件補正前の請求項5に係る発明の発明特定事項を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(なお、本件補正においては、本件補正後の請求項1及び2に関しては、本件補正前の請求項1及び2を削除して、本件補正前の請求項1を引用する請求項3及び本件補正前の請求項2を引用する請求項3をそれぞれ独立請求項として本件補正後の請求項1及び請求項2とするものと解することもできる。このように解するとしても、本件補正後の請求項1に関しては、
(a)本件補正前の(請求項1を引用する)請求項3における「所望の分散状態に吸引堆積させる」を「所望の厚み方向の分散状態となるように吸引堆積させる」と補正し、
(b)同じく「複数種類の前記粒子として物性が異なる複数種類の粒子を用いるか、又は種類の異なる粒子毎に」の記載を「種類の異なる粒子毎に、」と補正するものであって、
上記補正事項(a)及び(b)は、発明特定事項の限定及び択一的記載の一要素の削除にそれぞれ該当し、
そして、本件補正後の請求項2に関しても、
(d)本件補正前の(請求項2を引用する)請求項3における「複数種類の前記粒子として物性が異なる複数種類の粒子を用いるか、又は種類の異なる粒子毎に」を「種類の異なる粒子毎に、」と補正するものであって、上記補正事項(d)は、択一的記載の一要素の削除に該当する。
したがって、本件補正が、本件補正前の請求項1及び請求項2を削除して、本件補正前の請求項1及び2をそれぞれ引用する請求項3をそれぞれ独立請求項として本件補正後の請求項1及び請求項2とするものと解されるとしても、本件補正後の請求項1及び2に関する本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。)

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における請求項2に関する補正事項は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項2に記載された事項により特定される発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

(1)引用文献の記載内容
原査定の拒絶理由に引用された特開平10-137286号公報(以下、単に「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【0017】本実施形態の吸収性物品の製造装置は、図1に示すように、粉砕したパルプ1及びポリマー2からなる吸収体材料を飛散させて、該吸収体材料を、複数の凹部8を周面に形成した回転ドラム3の該周面に巻き付けた不織布4上に堆積させた後、該吸収体材料により形成される吸収体5を該不織布4と共に台紙6上に受け渡すようにした吸収性物品の製造装置である。
【0018】本実施形態の吸収性物品の製造装置は、図1に示すように、粉砕した上記パルプ1及び上記ポリマー2からなる吸収体材料を飛散させる吸収体供給手段7と、回転ドラム3の内部に設けられる吸引手段(図示は省略する)と、上記回転ドラム3の周面に巻き付けられて上記吸収体供給手段7より供給される上記吸収体材料をその表面に堆積させる不織布4と、上記吸収体材料により形成される吸収体5を受け取る台紙6とを具備している。」(段落【0017】及び【0018】)
(ロ)「【0019】上記吸収体供給手段7は、図1に示すように、パルプ原紙9を細かく粉砕する粉砕機10と、ポリマー2を供給するポリマーフィーダー11と、パルプ1及びポリマー2を回転ドラム3に向けて吹き付けるフード12を有した投入機構(図示は省略する)とを備えている。
【0020】粉砕機10は、連続して送られてくる帯状のパルプ原紙9を細かく粉砕するもので、複数の粉砕用の刃を有したロールからなっている。かかる粉砕機10は、図1中矢印Aで示す半時計方向に回転することによって、そのロール周面に設けた複数の刃によってパルプ原紙9を細かく砕くようになっている。
【0021】ポリマーフィーダー11は、粉砕機10の前方に設けられており、ポリマー2を回転ドラム3の周面に巻き付く不織布4に供給するようになっている。投入機は、粉砕されたパルプ1及びポリマー2からなる吸収体材料を、真空の作用により高速で投入するようになっている。投入機としては、例えば スクリューフィーダーとその回転駆動装置により構成されている。上記パルプ1及びポリマー2は、投入機によってフード12内において飛散せしめられて混合し、上記回転ドラム3の凹部8に設けられる不織布4上に堆積するようになされている。」(段落【0019】ないし【0021】)
(ハ)「【0022】回転ドラム3は、図1中矢印Bで示す時計方向に回転するようになされており、ドラム周面に複数の凹部8を有している。かかる凹部8には、吸収体材料が堆積するようになっている。また、回転ドラム3の内部には、上記凹部8に設けられる不織布4上に堆積した吸収体5を、該不織布4に吸着させる吸引手段が設けられている。吸引手段としては、例えばドラムに接続したブロア等が用いられる。
【0023】吸収体5を受け取る位置から該吸収体5を台紙6に受け渡す位置に至る部分(以下、吸収体搬送部という)では、吸引手段によって吸収体5を不織布4に吸着保持するようになしている。‥‥‥」(段落【0022】及び【0023】)
(ニ)「【0025】そして、上記不織布4は、回転ドラム3の周面に巻き付けられた状態ではドラム周面の形状に沿って密着する。すなわち、不織布4は、ドラム周面に設けた凹部8及び凸部の形状に密着した状態で、回転ドラム3と同期して回転するようになっている。‥‥‥」(段落【0025】)
(ホ)「【0028】次に、上記のように構成された吸収性物品の製造装置の動作について説明する。不織布4は、複数のローラ14?18に案内されて原反13より繰り出され、ホットメルト2が吐布された後、回転ドラム3の周面に巻き付く。そして、不織布4が回転ドラム3の周面に巻き付いて走行しフード12と対向する位置に設けられたときに、該不織布4上には、フード12内を真空作用により高速で飛散するパルプ1及びポリマー2からなる吸収体材料が付着する。
【0029】回転ドラム3の凹部8では、上記吸収体材料が堆積して吸収体5が形成される。特に、不織布4上に吸収体材料を堆積させると、吸収体材料の一部及び全部が不織布4の繊維間に存在する空隙に入り込み、あたかも一枚の紙状の吸収体を形成することができる。従って、薄型の吸収体5を形成することが可能となる。‥‥‥」(段落【0028】及び【0029】)
(へ)「【0033】本実施形態の吸収性物品の製造装置によれば、不織布4上に吸収体材料により形成される吸収体5を吸着させているので、吸収体材料が不織布4の繊維間の空隙に入り込んで、あたかも一枚の紙状の吸収体となり、より薄型の吸収体5を有する紙おむつ等を製造することができる。また、吸収体材料が不織布4の繊維間の空隙に入り込むので、回転ドラム3を高速で回転させることができ、生産性の向上が図れる。」(段落【0033】)
(ト)「【0037】【発明の効果】以上の説明からも明らかなように、本発明の吸収性物品の製造装置によれば、不織布中にパルプ及びポリマーからなる吸収体を食い込ませると共に、吸収体の形状を保持したまま台紙上に該吸収体を受け渡すことのできる吸収性物品の製造装置を提供することができる。」(段落【0037】)

したがって、上記の各記載事項(イ)ないし(ト)及び図面の記載を総合すると、引用文献には、次のような発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「複数の凹部8を外周面に有するとともに内部に吸引手段を備える回転ドラム3及び不織布4の供給移送手段等からなる装置に向けて吸引手段により空気流を生じさせ、吸収体材料を構成する細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2を該空気流に投入して搬送させ、外周面に細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2の吸収体を堆積形成する凹部8を有する回転ドラム3の該外周面に巻き付けるように供給した不織布4上に、搬送させた細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2を吸引堆積させ、堆積させた細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2からなる吸収体材料を該不織布4と共に該回転ドラム3から排出して次工程に受渡し搬送する吸収体材料からなる吸収体の製造方法であって、
細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2毎に、空気流に供給する際の供給する位置を異ならせ、細かく粉砕されたパルプ1とポリマー2を空気流に粉砕機10及びポリマーフィーダー11から供給し、細かく粉砕されたパルプ1とポリマー2を、前記不織布4の内部に分散した状態に吸引堆積させる吸収体材料からなる吸収体5の製造方法。」

(2)当審の判断
(イ)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「(回転ドラムの)吸収体を堆積形成する凹部」、「吸収体」、「不織布」、「粉砕機10及びポリマーフィーダー11」、「(空気流への)投入」、「(回転ドラムからの)排出」、「(次工程への)受渡し搬送」、及び「供給する位置」は、それらの意図する技術内容、形状、構造及び機能等からみて、それぞれ、本願補正発明における「吸引堆積面」、「堆積体」、「多孔性の保持シート」、「供給装置」、「(空気流への)導入」、「(回転ドラムからの)導出」、「(次工程への)排出搬送」、及び「導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件」に相当する。
そして、引用発明における「複数の凹部を外周面に有するとともに内部に吸引手段を備える回転ドラム及び不織布の供給移送手段等からなる装置」は、その機能からみて、本願補正発明における「成形装置」に相当する。また、引用発明における「細かく粉砕されたパルプ1」及び「ポリマー2」は、ともに、吸収体材料を構成するものであって、不織布4の多孔性の保持シート内の空隙に入り込み、保持シートの内部に分散した状態で堆積される材料であり、しかも、「細かく粉砕されたパルプ1」は、そのサイズや形状については明確にされていないけれども、ポリマー2と同様に不織布4の多孔性の保持シート内の空隙に入り込み堆積されるものであって、ポリマー2と同様の微小材料ということができる。

したがって、本願補正発明と引用発明は、
「成形装置に向けて空気流を生じさせ、複数種類の微小材料(本願補正発明においては「複数種類の粒子(ただし、繊維を除く)」であり、引用発明では「細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2」である。)を該空気流に導入して搬送させ、外周面に粒子の吸引堆積面を有する回転ドラムの該外周面に巻き付けるように供給した多孔性の保持シート上に、搬送させた微小材料を吸引堆積させ、堆積させた微小材料を該保持シートと共に該回転ドラムから導出して次工程に排出搬送する堆積体の製造方法であって、
種類の異なる微小材料毎に、空気流に導入する際の導入位置を異ならせ、複数種類の微小材料を空気流にそれぞれ異なる供給装置から導入し、複数種類の微小材料を、保持シートの厚み方向に分散した状態で吸引堆積させる堆積体の製造方法。」
である点で一致し、次の1)及び2)の2点において相違する。
1)複数種類の微小材料が、本願補正発明においては、「複数種類の粒子(ただし、繊維を除く)」であるのに対し、引用発明では、「細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2」である点(以下、「相違点1」という。)。
2)本願補正発明においては、「種類の異なる粒子毎に、空気流に導入する際の導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件を異ならせることにより、吸引堆積面上における複数種類の粒子の到達位置を制御」し、「複数種類の粒子を保持シートの厚み方向に所望の分散状態に堆積させる」ように構成されているのに対し、引用発明においては、「細かく粉砕されたパルプ1及びポリマー2の供給位置を異なる位置としているものの、吸収体を堆積形成する凹部8上におけるパルプ1及びポリマー2の到達位置の制御についてはなんら記載されておらず、さらに、パルプ1及びポリマー2を不織布4の厚み方向に所望の分散状態に堆積しうるものであるのか定かでない点(以下、「相違点2」という。)。

(ロ)相違点についての検討
相違点1について検討するに、本願補正発明における「粒子(ただし、繊維を除く)」は、不織布等の多孔性の保持シート内に吸引堆積されるものであるが、本願明細書の記載(すなわち、「図1に示す本実施形態の堆積体の製造装置は、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生品に用いられる吸収体を製造する装置であり」〈段落【0007】〉、「本発明の堆積体の製造方法及び製造装置における粒子としては、おむつ等の吸収性物品に用いられる従来公知の各種の吸収ポリマー等を用いることができる。」(段落【0022】)、「粒子の種類が異なるとは、粒子の成分、粒径、密度、形状(球形、塊状)等が異なることを意味する。」〈段落【0014】〉等の記載)によれば、(おむつ等の吸収性物品に用いられる)吸収ポリマーが例示されているけれども、粒子の成分、粒径や形状等については、具体的な数値や具体的な形状、成分に特定されているものではなく、不織布や紙、布等の多孔性の保持シートの内部の空隙に吸引堆積される程度の粒径や形状等を意図するものと解される。一方、引用発明における「細かく粉砕されたパルプ1」及び「ポリマー2」は、本願補正発明と同様のおむつ等の吸収性物品に用いられる吸収体材料を構成するものであり、これらの「細かく粉砕されたパルプ1」及び「ポリマー2」は、「不織布4」の多孔性の保持シート内の空隙に入り込み、保持シートの厚み方向に分散した状態で堆積されるものであり、「細かく粉砕されたパルプ1」は、「ポリマー2」と同様に、本願補正発明における複数種類の粒子と同様に挙動し機能するものと認められる。
してみると、本願補正発明においては、多孔性の保持シートの厚み方向に堆積させる粒子を「粒子(ただし、繊維を除く)」と特定するものであるけれども、保持シートに堆積させる粒子を本願補正発明のように繊維を除く粒子としたことが引用発明のように繊維を含む粒子とすることに比較して格別有利な効果を奏するようなものと認められない。そして、吸収体材料を構成する細かく粉砕されたパルプとポリマーの組み合わせに代えて、ポリマーと種類の異なる他のポリマー、あるいは、ポリマーとパルプ以外の他の微小材料との組み合わせ等を用いるようにすることは、当業者が必要とする吸収性物品等に応じて適宜設定しうる程度のものである。よって、相違点1に係る本願補正発明のような構成とすることは、当業者が格別な創意工夫を要することなく必要に応じて適宜設定しうる程度のものである。
次に、相違点2について検討するに、引用文献においては、従来の技術として、「【0003】上記吸収体供給手段103は、図2に示すように、パルプ原紙109を細かく粉砕する粉砕機110と、ポリマー102を供給するポリマーフィーダー111と、パルプ101及びポリマー102をドラム106に向けて吹き付けるフード112を有した投入機構(図示は省略する)とを備えている。【0004】粉砕機110は、連続して送られてくる帯状のパルプ原紙109を細かく粉砕するようになっている。一方、ポリマーフィーダー111は、粉砕機110の前方に設けられており、ポリマー102をドラム106の凹部104に供給するようになっている。投入機は、粉砕されたパルプ101及びポリマー102を、真空の作用により高速で投入するようになっている。フード112内には、仕切板113が配設されており、ポリマー102に先行して上記パルプ101がドラム106の凹部104に堆積されるようになされている。」、及び「【0010】このように構成された吸収性物品の製造装置においては、回転するドラム106の凹部104に、先ず、粉砕されたパルプ101が入り込む。次に、パルプ101及びポリマー102からなる吸収体材料が、上記凹部104に入り込み堆積する。かかる凹部104に堆積した吸収体材料により形成される吸収体105は、吸引手段によって吸引された状態で吸収体受取部に搬送されて行く。」等の記載がなされており、細かく粉砕されたパルプとポリマーとの導入位置を異ならせることにより、空気流による搬送途中に仕切板を配設しているとはいえ、細かく粉砕されたパルプがポリマーに先立って先ず堆積され、その後に、ポリマーとパルプからなる吸収体材料が堆積されており、複数種類の微小材料の投入位置を異ならせることにより、微小材料の到達位置を制御して微小材料の堆積分布状態を制御しうることが示唆されている。さらに、微小材料の搬送空気流への微小材料の導入角度を変えることにより、多孔性の保持シート等の内部での粒子の分布状態が変化すること、また、微小材料を噴出するノズル等の噴出位置を変えることにより、あるいは、ノズル等からの微小材料の噴出速度を変えることにより、微小材料の多孔性の保持シート等に到達する位置を制御して多孔性の保持シート等の内部における微小材料の分布状態を制御しうることは、本件出願前に周知の技術事項である(必要ならば、例えば、特開平8-337954号公報〈特に、図2ないし図5に関する記載〉、特表平2-501035号公報〈特に、第8頁下左欄22行ないし同頁下右欄1行の記載〉等参照のこと。以下、「周知の技術事項」という。)。
してみると、引用発明においては、パルプとポリマーの導入位置を異なる位置としているものの、微小材料の到達位置の制御については特定されていないけれども、引用発明において周知の技術事項を採用して、種類の異なる粒子等の微小材料毎に、空気流に導入する際の導入位置、導入初速度及び導入角度の少なくとも一以上の導入条件を異ならせることにより、吸引堆積面上における複数種類の微小材料の到達位置を制御し、複数種類の微小材料を保持シートの厚み方向に所望の分散状態に堆積するように構成することは、当業者が格別困難なく容易に想到し発明しうる程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基いて、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到し発明しうる程度のものであり、しかも、本願補正発明は、全体構成でみても、引用発明及び周知の技術事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

(3)以上のように、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、決定の結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.手続の経緯及び本願発明
平成21年1月16日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし5に係る発明は、平成20年9月16日付けの手続補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2.の〔理由〕1.(1)の(a)の【請求項2】に記載したとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開平10-137286号公報)の記載事項は、前記第2.の〔理由〕2.の(1)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の〔理由〕2.で検討した本願補正発明における発明特定事項について『空気流に導入する際の導入条件』に関する限定を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の〔理由〕2.の(1)ないし(3)に記載したとおり、引用文献に記載の発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献に記載の発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載の発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-25 
結審通知日 2010-06-01 
審決日 2010-06-17 
出願番号 特願平11-157008
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B05B)
P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 篠原 将之中屋 裕一郎  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 中川 隆司
八板 直人
発明の名称 堆積体の製造方法及び製造装置  
代理人 羽鳥 修  
代理人 岩本 昭久  
代理人 松嶋 善之  

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