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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47L
管理番号 1220977
審判番号 不服2006-26179  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-20 
確定日 2010-07-28 
事件の表示 特願2002-539129号「制御された液体放出が可能なあらかじめ湿ったワイプ用の多層基材」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月10日国際公開、WO02/36339、平成16年 4月30日国内公表、特表2004-512877号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成13年10月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年8月16日(発送日:平成18年8月22日)付けで拒絶査定がなされ、この査定に対し、平成18年11月20日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年12月18日付けで手続補正がなされ、その後、この手続補正に対して、平成21年6月25日付けで当審より補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成22年1月4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。



2.本件の請求項1に係る発明
そこで、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記平成22年1月4日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
表面洗浄用のあらかじめ湿ったワイプであって、前記あらかじめ湿ったワイプが、下記:
(A)多層基材;ならびに
(B)前記基材上へ染み込ませる界面活性剤系および/または溶媒系を含む液体組成物を含み、ここで前記界面活性剤系は、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、双性イオン界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群より選択される界面活性剤を含み、前記多層基材が、下記:
(a)少なくとも1つのリザーバ層であって、第1のリザーバ層が、少なくとも約5g/m^(2)(gsm)の基本重量を有し、かつ下記:
(i)前記第1のリザーバ層の約5重量%?約100重量%の親水性繊維;および
(ii)前記第1のリザーバ層の約0重量%?約95重量%の疎水性繊維を含み;ここで前記リザーバ層(単数または複数)の総基本重量が、前記多層基材の総基本重量の約10%?約95%であるリザーバ層;ならびに
(b)少なくとも1つの表面接触層であって、第1の表面接触層が、少なくとも約5g/m^(2)(gsm)の基本重量を有し、かつ下記:
(i)前記第1の表面接触層の約0重量%?約95重量%の親水性繊維;および(ii)前記第1の表面接触層の約5重量%?約100重量%の疎水性繊維を含み;
ここで前記表面接触層(単数または複数)の総基本重量が、前記多層基材の総基本重量の約10?約95%である表面接触層を含み、前記多層基材は、液体組成物と非相溶性である結合剤物質を本質的に含まず、前記液体組成物が、前記基材の約50重量%?約600重量%のレベルで前記基材上へ充填され、前記液体組成物がさらに有機酸を含む、表面洗浄用のあらかじめ湿ったワイプ。」



3.平成21年6月25日付け拒絶理由通知で引用された刊行物
刊行物1:特開平10-272082号公報



4.刊行物1に記載された発明
《記載事項》
刊行物1には次のa.?k.の記載がある。
a.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 疎水性材料を含む洗浄剤保持層と、該洗浄剤保持層よりも高密度の洗浄剤徐放層とを備え、該洗浄剤保持層が該洗浄剤徐放層によって挟持されていることを特徴とする洗浄剤含浸用物品。
【請求項2】 上記洗浄剤保持層が、疎水性繊維を主体として形成された繊維集合体又は疎水性の可撓性多孔質体からなり、上記洗浄剤徐放層が、親水性繊維を主体として形成された繊維集合体からなる、請求項1記載の洗浄剤含浸用物品。
・・・・・
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ガラス等の被洗浄面を洗浄するための洗浄剤が含浸されて用いられる洗浄剤含浸用物品に関するものであり、更に詳しくは、含浸された洗浄剤の放出量を制御することによって、適正量の洗浄剤を使用の度に放出し優れた洗浄性能を発揮しながら、該洗浄剤の使用効率を高め、より広い面積を洗浄可能とした洗浄剤含浸用物品に関するものである。また、本発明は、上記洗浄剤含浸用物品に洗浄剤が含浸されてなる洗浄剤含浸物品に関する。
・・・・・
【0007】従って、本発明の目的は、洗浄剤を均一に放出し得ると共にその使用効率を高めることができる洗浄剤含浸用物品を提供することにある。また、本発明の目的は、水を使うことなく広い面積を適正量の洗浄剤によって高性能に洗浄できる洗浄剤含浸用物品を提供することにある。」(なお、下線は当審が付した。以下、同じ。)

b.「【0012】図1に示す洗浄剤含浸用物品100は、シート状の形態をしており、シート状の洗浄剤保持層(以下、単に「保持層」という)101と、該保持層101の上下面に配設され、該保持層101を上下から挟持しているシート状の洗浄剤徐放層102a,102b(以下、これらの洗浄剤徐放層を単に「徐放層」という)とを備えたサンドイッチ構造をしている。一方、図2に示す洗浄剤含浸用物品100も同様にシート状の形態をしており、シート状の保持層101と、該保持層101の上下面に配設され、該保持層101を上下から挟持している徐放層102a,102bと、該保持層101の左右両側面部に配設され、該保持層101を左右から挟持している徐放層102c,102dとを備えている。該徐放層102a,102b,102c,102dは一枚のシートから構成されており、上記保持層101を挟み込んでいる。
【0013】上記保持層101は、大量の洗浄剤を保持し得る作用を有するものであり、斯かる作用を発現させるために低密度のバルキー(高保持容量)な疎水性材料を含んで形成されている。上記保持層は、その構成物質のすべてが疎水性物質であることは必要とされず、上記保持層が全体として疎水性を示す限り、一部に親水性物質が用いられていてもよい。好ましくは、上記保持層においては、その構成する物質のうち、親水性物質の重量比が該保持層全体の重量の3割以下である。上記保持層101を構成する材料としては、例えば疎水性繊維を主体として形成された繊維集合体や、疎水性の可撓性多孔質体等が挙げられる。疎水性材料を含んだ上記保持層101は、好ましくは該保持層全体として疎水性を有する。該保持層全体としての疎水性を判断する指標として、以下の方法が挙げられる。
【0014】保持層の疎水性評価
前処理として保持層を、エタノール/クロロホルム(50/50重量部)の混合有機溶媒を用いてソックスレー抽出し、油剤等の繊維処理剤を除去する。次に保持層を10cm×10cmの大きさに裁断し、蒸留水またはイオン交換水の入った容器における水面に保持層を置く。保持層が水中に沈むまでの時間を測定し、7秒以上水面に維持されるものを疎水性と判断する。尚、上記疎水性評価において、保持層と徐放層とが積層されている洗浄剤含浸用物品を評価する場合、保持層と徐放層とが完全に分離できなくても評価は可能である。この場合、保持層の部分で洗浄剤含浸用物品を分割し、保持層側を水面に置いて評価する。」

c.「【0015】上記保持層が、疎水性繊維を主体として形成された繊維集合体からなる場合、該繊維集合体としては、湿式及び乾式不織布、織布、編布等を用いることができ、特に不織布を用いることが加工性及びコストの点から好ましい。尚、本明細書において「疎水性繊維を主体として形成された」とは、保持層が全体として疎水性を示すことをいう。上記疎水性繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維や、これらの繊維の混合物等が挙げられる。また、これらの物質を成分とする芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維等の複合繊維を用いることもできる。また、表面を疎水化処理した親水性繊維を疎水性繊維として使用することも可能である。上記繊維集合体として不織布を用いる場合、該不織布は、その製造方法に特に制限はなく、疎水性繊維とパルプとから抄紙方式で製造される湿式不織布の他、例えば、自己接着または接着繊維で結合させたサーマルボンド不織布(例えばエアースルー不織布、エアーレイド不織布、ヒートロールボンド不織布)、繊維ウエブを接着剤で結合させたケミカルボンド不織布、特殊針でウエブをニードリングして交絡させたニードルパンチ不織布、高圧水流で繊維を絡み合わせたスパンレース不織布、ノーバインディングの超極細繊維を用いたメルトブローン不織布、紡糸直結で、主に自己接着で結合させたスパンボンド不織布、フラッシュ紡糸不織布等の乾式不織布を用いることができる。上記不織布の具体例としては、PP-PEの芯鞘型複合繊維からなるエアースルー不織布、PPからなるスパンボンド不織布、及びそれらのエンボス加工布ならびにエアーレイド不織布等が挙げられる。
【0016】また、上記保持層101として、両面彫刻凹凸ロールを用いたヒートエンボスロール加工が施され、図3(a)及び(b)に示すように、その全面に規則的に配列された多数の凸部103及び凹部104が交互に形成された疎水性不織布を用いることもできる。凸部103は、略円錐台形の形状をしており、一方、凹部104は、凸部103の形状に対応する略逆円錐台形の形状をしている。このようなエンボスロール加工は一例としてスチールマッチエンボス加工として知られている。」

d.「【0019】また、上記保持層は、その坪量が5?300g/m^(2) であることが好ましく、10?250g/m^(2) であることが更に好ましく、15?200g/m^(2) であることが一層好ましい。上記坪量が5g/m^(2) に満たないと上記保持層の密度を適正な値としたときの該保持層の厚みが小さくなり過ぎる為、洗浄剤の保持容量が小さくなり過ぎて、十分な量の洗浄剤を含浸できなくなり、上記坪量が300g/m^(2) を超えると、上記保持層の密度を適正な値としたときの該保持層の厚みが大きくなり過ぎて、加工性や、洗浄剤含浸用物品の使用時の操作性が低下することがあるので上記範囲内とすることが好ましい。」

e.「【0020】次に、上記徐放層について説明すると、該徐放層は、上記保持層から放出された洗浄剤を、被洗浄面に徐々に且つほとんど全て放出し得る作用を有するものであり、斯かる作用を発現させるために上記保持層よりも高密度の材料から形成されている。上記材料としては、親水性材料、例えば親水性繊維を主体として形成された繊維集合体が挙げられる。上記徐放層は、その構成物質のすべてが親水性物質であることは必要とされない。従って、該徐放層が全体として親水性を示す限り、疎水性物質が用いられていてもよい。好ましくは、上記徐放層においては、その構成物質のうち、疎水性物質の重量比が該徐放層全体の重量の7割以下である。
・・・・・
【0021】上記親水性繊維ないしは上記極細繊維を主体として形成された繊維集合体としては、紙、湿式及び乾式不織布、織布、編布等を用いることができ、特に紙及び不織布を用いることが加工性及びコストの点から好ましい。上記親水性繊維としては、セルロース系繊維、例えば木材系パルプや綿、麻等の天然繊維、及びビスコースレーヨン、テンセルやアセテート等のセルロース系化学繊維が挙げられる。また、疎水性の合成繊維の表面を親水化処理して親水性となした繊維を用いることもできる。
【0022】・・・・・また、上記親水性繊維を主体として形成された繊維集合体として不織布を用いる場合は、コットンやパルプ等のセルロース繊維を単独又は混合して製造した様々な不織布(湿式不織布の他、サーマルボンド、ケミカルボンド、ニードルパンチ、スパンレース等の乾式不織布)を使用することができる。
【0023】一方、疎水性の極細繊維を主体として形成された繊維集合体としては、ノーバインディングの超極細繊維(繊維径10μm以下、特に5μm以下、とりわけ3μm以下)を用いたメルトブローン不織布、該メルトブローン不織布とスパンボンド不織布とを貼り合わせたものや、分割繊維等、様々な極細繊維の繊維集合体を用いることができる。
【0024】上記徐放層は、上述の通り上記保持層よりも密度が高く、具体的には2.5g/cm^(2) 荷重下で0.01?1.0g/cm^(3) であることが好ましく、0.05?0.5g/cm^(3) であることが更に好ましく、0.1?0.3g/cm^(3) であることが一層好ましい。上記密度が0.01g/cm^(3) に満たないと洗浄剤の放出量が多すぎて、洗浄剤の徐放性が十分に発揮されないことがあり、1.0g/cm^(3) を超えると洗浄剤の放出量が少なすぎて、洗浄性能が十分に発揮されないことがあるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0025】上記徐放層と上記保持層との密度の差(前者-後者)は、該保持層に保持した洗浄剤を効率よく徐放層に移行させる点から0.005?0.95g/cm^(3) であることが好ましく、0.01?0.5g/cm^(3) であることが更に好ましい。

f.「【0026】また、上記徐放層はその坪量が1?200g/m^(2) であることが好ましく、5?150g/m^(2) であることが更に好ましく、10?100g/m^(2) であることが一層好ましい(一層当たり)。上記坪量が1g/m^(2) に満たないと上記徐放層の密度を適正な値にしても、該徐放層の厚みが小さすぎ、洗浄剤の放出量が多くなり過ぎて徐放性が十分に発揮されなかったり、また、強度が小さ過ぎて、十分な加工性や操作性が得られないことがあり、200g/m^(2) を超えると洗浄剤がトラップされてしまい、適正量放出されなくなることがあるので上記範囲内とすることが好ましい。」

g.「【0028】上記洗浄剤含浸用物品の全体の坪量は、該洗浄剤含浸用物品が上述の含浸容量を有するような範囲で適宜選択され、特に加工性、コスト及び操作性の点から7?700g/m^(2) であることが好ましく、20?550g/m^(2) であることが更に好ましく、35?400g/m^(2) であることが一層好ましい。
【0029】上記保持層と上記徐放層との接合手段に特に制限はなく、例えば熱融着による貼り合わせ、抄き合わせ、接着剤による貼り合わせ、縫い合わせ、該保持層を構成する繊維と該徐放層を構成する繊維との交絡等の手段を挙げることができる。特に、接合手段として熱融着による貼り合わせを用いることが加工性や耐久性等の点から好ましい。この場合、熱融着による貼り合わせのパターンに特に制限はなく、例えばドット状、ライン状等が挙げられる。」

h.「【0032】更に詳細には、上記保持層は上記徐放層よりも密度が低くバルキー性が高いため大量の洗浄剤を保持することができ、しかも疎水性であるため外圧等が加わることによって該洗浄剤を容易に上記徐放層へ放出することができる。その結果、上記洗浄剤の放出率を高めることができる。一方、上記徐放層は上記保持層よりも高密度であるため、該保持層から放出された上記洗浄剤が被洗浄面へ一度に放出されることが抑制される。即ち、上記洗浄剤は上記被洗浄面へ一度に大量に放出されることがなく、徐々に放出される。特に、上記徐放層を、親水性繊維を主体とした形成された繊維集合体又は繊維径10μm以下の疎水性の極細繊維を主体として形成された繊維集合体から構成することにより、繊維の極性ないしは毛細管力の作用によって洗浄剤を吸収することが可能となるので、これによっても、洗浄剤は一度に大量に放出されることがなく、徐々に放出される。このように、本発明の洗浄剤含浸用物品においては、洗浄剤が含浸されて用いられる場合に、洗浄剤の適正な量の徐放性と高い放出率とが両立したものとなっている。
【0033】また、本発明によれば、上記洗浄剤含浸用物品に洗浄剤が含浸されてなる洗浄剤含浸物品、即ち、上記保持層と上記徐放層とを備え、該保持層が該徐放層によって挟持されており、洗浄剤が含浸されてなる洗浄剤含浸物品が提供される。この洗浄剤含浸物品には、上記洗浄剤含浸用物品が用いられているので、洗浄に使用した場合に、適正な量の洗浄剤が徐々に且つ高い放出率で放出される。」

i.「【0034】次に、上記洗浄剤含浸用物品に含浸される洗浄剤について説明すると、該洗浄剤としては被洗浄面の汚れを除去し得るものであればその種類に特に制限はなく、例えば水を主成分とし、アルコールや界面活性剤等が配合された洗浄剤等を用いることができる。
【0035】上記洗浄剤は、無荷重下において上記洗浄剤含浸用物品の重量に対して50?5000重量%含浸されることが好ましく、100?3000重量%含浸されることが更に好ましく、200?2000重量%含浸されることが一層好ましい。該洗浄剤の含浸量が50重量%に満たないと必要量以下の洗浄剤しか被洗浄面に施用できない。5000重量%を超えると必要量以上の洗浄剤が被洗浄面に施用されてしまうので、上記範囲内とすることが好ましい。ここで、上記洗浄剤の含浸量とは、洗浄剤を上記洗浄剤含浸用物品に含浸させてそのままの状態またはマングル処理等で過剰の洗浄剤を除去した後、該洗浄剤含浸用物品の重量に対して無荷重下で測定された洗浄剤の含浸重量のことである。尚、上記洗浄剤含浸用物品は、無荷重下において洗浄剤を上記の好ましい含浸量の範囲で含浸し得るものであることが好ましい。
【0036】ガラス等の被洗浄面を十分に洗浄するためには、上記洗浄剤は、固体研磨粒子を含有することが好ましい。また、被洗浄面の保護膜形成成分を含有することも好ましい。特に、上記洗浄剤は固体研磨粒子および被洗浄面の保護膜形成成分を含有することが一層好ましい(以下、この洗浄剤を「洗浄剤A」という)。洗浄性に優れている上記の好ましい洗浄剤の性能を十分に発揮させるためには、該洗浄剤を上記洗浄剤含浸用物品に含浸させて使用することが効果的である。以下、斯かる洗浄剤Aについて説明する。
・・・・・
【0042】上記洗浄剤Aは、被洗浄面への拭き伸ばし性、ハンドリング性及び洗浄剤含浸用物品への含浸性の点から、好ましくは水を媒体とするものである。この場合、水は、上記洗浄剤中に好ましくは50?98.9重量%含有され、更に好ましくは65?95重量%含有される。水の含有量が50重量%に満たないと上記固体研磨粒子及び上記保護膜形成成分を被洗浄面に均一に施用できないことがあり、98.9重量%を超えると洗浄に十分な量の上記固体研磨粒子及び上記保護膜形成成分を被洗浄面に施用することができないことがあるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0043】上記洗浄剤Aは、上述の成分に加えて必要に応じ他の成分を含有していてもよい。該他の成分の配合量は上記洗浄剤全体が100重量%となるように適宜選択される。該他の成分としては、例えば、洗浄性を更に高めるための界面活性剤やアルカリ剤、潤滑性を高めるための潤滑剤、上記洗浄剤A中における各成分の分散性を高めるための分散剤(例えば、キサンタンガム等の増粘性多糖類)、上記洗浄剤Aの防黴のための防黴剤、色素(染料、顔料等)及び香料等が挙げられる。
【0044】特に、上記洗浄剤Aは、一種又は二種以上の有機溶剤を含有することが油性汚れに対する洗浄性能、及び拭き伸ばし性と拭き取り性の点から好ましい。該有機溶剤としては、例えばn-パラフィン、ケロシン、石油ベンジン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等を用いることができる。
【0045】上記有機溶剤は、上記洗浄剤A中に好ましくは0.05?60重量%、更に好ましくは0.5?30重量%、一層好ましくは0.5?10重量%含有される。含有量が0.05重量%に満たないと油性汚れに対する十分な洗浄性が発現せず、60重量%を超えると、有機溶剤を安定的に配合できなかったり、過剰の有機溶剤が被洗浄面に残り洗浄直後にギラつきが生じることがあるので上記範囲内とすることが好ましい。
・・・・・
【0047】上記洗浄剤Aが上記洗浄剤含浸用物品に含浸されてなる洗浄剤含浸物品は、特に、硬質表面の洗浄に効果的である。即ち、該洗浄剤含浸物品を、ガラス、自動車のボディ、自動車の内装、鏡、タイル、バスタブ、シンク、食器棚等の家具、及び家電製品等の硬質表面の洗浄に用いた場合には、乾拭き後に該硬質表面に拭きむらが残らないので、二度拭き等の手間を省くことができる。
・・・・・
【0053】次に、洗浄剤が上記洗浄剤含浸用物品に含浸されてなる洗浄剤含浸物品を用いた洗浄方法について、洗浄剤として上記洗浄剤Aを用い、該洗浄剤Aが図1に示す洗浄剤含浸用物品に含浸された洗浄剤含浸シートによって硬質の被洗浄面(ここではガラス表面)を洗浄する場合を例にとり図4を参照して説明する。ここで、図4は、本発明の一実施形態としての洗浄剤含浸シートを用いたガラス表面の洗浄方法を表す模式図である。上記洗浄方法においては、ガラスの表面を、多量の水及び含浸させた洗浄剤A以外の洗浄剤等の液体を用いずに上記洗浄剤含浸シート単独で洗浄できることが最大の特徴である。即ち、ガラスの洗浄に際しては、図4(a)に示すように、ガラス20の被洗浄面21を上記洗浄剤含浸シート10で直接拭き、含浸されている上記洗浄剤Aを該被洗浄面に施用(塗布)する。」

j.「【0055】
【実施例】以下、実施例により、本発明の洗浄剤含浸用物品および洗浄剤含浸物品の有効性を例示する。しかしながら、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。尚、以下の例中、%は特に断らない限り重量%を意味する。
【0056】〔実施例1?5及び比較例1〕
洗浄剤の配合処方
下記の成分を下記の割合で配合することによって、洗浄剤(1)を調製した。
・シリコーンレジン(固体研磨粒子) 3%
(平均粒子径2μm)
・ジメチルポリシロキサン(保護膜形成成分) 0.5%
・n-パラフィン(有機溶剤) 2%
・ドデシルグルコシド 0.50%
(非イオン系界面活性剤、グルコース縮合度1.35)
・キサンタンガム(分散剤) 0.08%
・エタノール(乾燥促進剤) 20%
・イオン交換水 バランス
尚、上記洗浄剤はエタノールを所定量含有しているので、乾燥速度が高められている。また、上記洗浄剤(1)において、シリコーンレジンを使用しないこと以外〔洗浄剤(1-a)〕、又はジメチルポリシロキサンを使用しないこと以外〔洗浄剤(1-b)〕は上記洗浄剤(1)と同様にして洗浄剤(1-a)及び(1-b)をそれぞれ調製した。
【0057】洗浄剤含浸用シートの製造
エアーレイド法により製造した疎水性のサーマルボンド不織布〔チッソ(株)製;PP/PEの芯鞘型複合繊維(繊度:10デニール)、坪量55.5g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.02g/cm^(3) 〕を保持層として用い、コットンを用いた親水性のスパンレース不織布(ユニチカ製コットエース;坪量39.2g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.11g/cm^(3) )を徐放層として用い、上述の保持層を上下からはさみ込み、次いでヒートシール機を用い三者を接合してサンドイッチ構造の洗浄剤含浸用シートを調製した(総坪量:133.9g/m^(2) 、寸法:24cm×27cm/枚)。尚、ヒートシールはシートの周囲四辺および2本の対角線部分について行った。この洗浄剤含浸用シートを洗浄剤含浸用シートAとする。また、エアースルー法により製造した疎水性のサーマルボンド不織布をスチールマッチエンボス加工したもの〔チッソ(株)製;PP/PEの芯鞘型複合繊維(繊度:3デニール)、坪量30g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.018g/cm^(3) 〕を保持層として用い、PPを用いた疎水性のメルトブローン不織布〔三井化学(株)製;繊維径3μm、坪量15g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.17g/cm^(3) 〕を徐放層として用い、上述の保持層を上下からはさみ込み、次いでヒートシール機を用い三者を接合してサンドイッチ構造の洗浄剤含浸用シートを調製した(総坪量:60g/m^(2) 、寸法:24cm×27cm/枚)。この洗浄剤含浸用シートを洗浄剤含浸用シートBとする。また、PPからなる疎水性のスパンボンド不織布をスチールマッチエンボス加工したもの〔三井化学(株)製、繊度:3デニール、坪量:50g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.025g/cm^(3) 〕を保持層として用い、PPからなる疎水性のメルトブローン不織布〔三井化学(株)製、繊維径3μm、坪量15g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.17g/cm^(3) 〕を徐放層として用い、上述の保持層を上下から挟み込み、次いでヒートシール機を用い三者を接合してサンドイッチ構造の洗浄剤含浸用シートを調製した(総坪量:80g/cm^(2) 、寸法:24cm×27cm/枚)。この洗浄剤含浸用シートを洗浄剤含浸用シートCとする。一方、比較対照の洗浄剤含浸用シートとして、市販キッチンペーパー(ハビックス製、乾式パルプシート;坪量55g/m^(2) 、2.5g/cm^(2) 荷重下での密度0.06g/cm^(3) 〕を2枚重ねとしたものを使用した(総坪量:110g/m^(2) 、寸法:24cm×27cm/枚)。これを洗浄剤含浸用シートDとする。
【0058】洗浄剤含浸シートの製造
下記表1に示す組み合わせの洗浄剤含浸用シート及び洗浄剤を用い、洗浄剤含浸用シートを洗浄剤中に浸漬し、該洗浄剤を十分に含浸させた後、該洗浄剤含浸用シートを引き上げ、過剰の洗浄剤をマングルを用いて除去して、洗浄剤含浸シートを得た。得られた洗浄剤含浸シートにおける該洗浄剤の含浸量は、該洗浄剤含浸用シートの重量に対してそれぞれ350?650%であった。」

k.「【0072】
【発明の効果】本発明の洗浄剤含浸用物品によれば、洗浄剤を含浸させて用いる場合に該洗浄剤の放出量が制御され、適正な量の該洗浄剤が均一に放出されると共にその使用効率(放出率)が高まり、広い面積の汚れを拭き取ることができる。また、該洗浄剤含浸用物品に洗浄剤が含浸されてなる本発明の洗浄剤含浸物品によっても、同様の効果が奏される。」

《発明の認定》
したがって、刊行物1には、
「ガラス表面等の被洗浄面を洗浄するための、洗浄剤含浸用物品100に洗浄剤Aが含浸されてなる洗浄剤含浸物品であって、この洗浄剤含浸物品が、下記:
(A)洗浄剤含浸用物品100;ならびに
(B)前記洗浄剤含浸用物品100に含浸され、水を主成分とし、有機溶剤が含有され、界面活性剤が配合される洗浄剤Aからなり、
前記洗浄剤含浸用物品100が、
(a)疎水性材料を含む洗浄剤保持層101であって、その坪量が15?200g/m^(2) である洗浄剤保持層101;ならびに
(b)上記洗浄剤保持層101を上下から挟持し、サンドイッチ構造とする洗浄剤徐放層102a,102bであって、その坪量が10?100g/m^(2) であり(一層当たり)、かつ下記:
(i)親水性繊維を主体とする繊維集合体により形成され、全体として親水性を示す限り、一部に疎水性物質が用いられていてもよく、好ましくは、その構成物質のうち、疎水性物質の重量比が全体の重量の7割以下であるか、または、
(ii)疎水性の極細繊維を主体とする繊維集合体より形成される、
洗浄剤徐放層102a,102bを備え、
洗浄剤徐放層102a,102bは洗浄剤保持層101よりも密度が高く、
洗浄剤保持層101と洗浄剤徐放層102a,102bとを、熱融着による貼り合わせ、または両層を構成する繊維の交絡等の接合手段を用いて接合し、
上記洗浄剤Aが、上記洗浄剤含浸用物品100の重量に対して50?5000重量%含浸される、ガラス表面等の被洗浄面を洗浄するための洗浄剤含浸物品。」
という発明が記載されている。



5.対比・判断
(1)対比
イ.用語の対応
刊行物1に記載された発明の「ガラス表面等の被洗浄面を洗浄するための洗浄剤含浸物品」は本件発明の「表面洗浄用のあらかじめ湿ったワイプ」に相当する。以下、同様に、
「洗浄剤A」は「液体組成物」に、
「水を主成分とし、有機溶剤が含有され、」は「溶媒系」に、
「界面活性剤」は「界面活性剤系」に、
「洗浄剤含浸用物品100」は「多層基材」に、
「洗浄剤保持層101」は「第1のリザーバ層」に、
「洗浄剤徐放層102a」は「第1の表面接触層」に、
「坪量が15?200g/m^(2 )」及び「坪量が10?100g/m^(2)」は「少なくとも約5g/m^(2) (gsm)の基本重量」に、それぞれ相当する。

ロ.一致点
したがって、本件発明と、刊行物1に記載された発明とは、
「表面洗浄用のあらかじめ湿ったワイプであって、前記あらかじめ湿ったワイプが、下記:
(A)多層基材;ならびに
(B)前記基材上へ染み込ませる界面活性剤系および/または溶媒系を含む液体組成物を含み、
前記多層基材が、下記:
(a)少なくとも1つのリザーバ層であって、第1のリザーバ層が、少なくとも約5g/m^(2)(gsm)の基本重量を有するリザーバ層;ならびに
(b)少なくとも1つの表面接触層であって、第1の表面接触層が、少なくとも約5g/m^(2)(gsm)の基本重量を有する表面接触層を含む、
表面洗浄用のあらかじめ湿ったワイプ。」
で一致する。

ハ.相違点
そして、両発明は下記のAないしFの点で相違する。
相違点A:本件発明では、第1のリザーバ層が、前記第1のリザーバ層の約5重量%?約100重量%の親水性繊維;および前記第1のリザーバ層の約0重量%?約95重量%の疎水性繊維を含むが、刊行物1に記載された発明では、洗浄剤保持層101がこのような数値範囲の親水性繊維および疎水性繊維を含むか不明である点。

相違点B:本件発明では、第1の表面接触層が、前記第1の表面接触層の約0重量%?約95重量%の親水性繊維;および前記第1の表面接触層の約5重量%?約100重量%の疎水性繊維を含むが、刊行物1に記載された発明では、洗浄剤徐放層102aがこのような数値範囲の親水性繊維および疎水性繊維を含むか不明である点。

相違点C:本件発明では、リザーバ層(単数または複数)の総基本重量が、多層基材の総基本重量の約10%?約95%であり、かつ、表面接触層(単数または複数)の総基本重量が、多層基材の総基本重量の約10?約95%であるが、刊行物1に記載された発明では、洗浄剤保持層101及び洗浄剤徐放層102a,102bの洗浄剤含浸用物品100に対する重量割合がこのような割合であるかどうか不明である点。

相違点D:結合剤物質に関して、本件発明では、前記多層基材は、液体組成物と非相溶性である結合剤物質を本質的に含まないが、刊行物1に記載された発明では、洗浄剤含浸用物品100が結合剤物質を含むかどうか不明である点。

相違点E:本件発明では、前記液体組成物が、前記基材の約50重量%?約600重量%のレベルで前記基材上へ充填されているが、刊行物1に記載された発明では、洗浄剤が洗浄剤含浸用物品100に上記の割合で含浸されるかどうか不明である点。

相違点F:界面活性剤系に関して、本件発明では、前記界面活性剤系は、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、双性イオン界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群より選択される界面活性剤を含むものであり、また、前記液体組成物がさらに有機酸を含むものであるが、刊行物1に記載された発明では洗浄剤が、このような群より選択した界面活性剤を含んでおらず、また、有機酸を含んでいない点。


(2)判断
《相違点Aについての検討》
刊行物1に記載された発明において、洗浄剤保持層101が、本件発明の第1のリザーバ層に相当している。刊行物1に記載された発明の洗浄剤保持層101は、洗浄剤徐放層102a,102bよりも密度が低く、かつバルキー(高保持容量)な疎水性材料を含んで形成されており、そのため大量の洗浄剤を保持し得る(段落【0013】冒頭)ものである。
本件発明では、第1のリザーバ層が、第1のリザーバ層の約5重量%?約100重量%の親水性繊維;および第1のリザーバ層の約0重量%?約95重量%の疎水性繊維を含む。しかし、この数値範囲内の親水性繊維および疎水性繊維の種々の割合を採用することは、嵩高(バルキー)で洗浄剤保持能力の高い層を有する拭き取り用物品の分野において、周知の技術である。
(周知文献が必要であれば、
*特開平1-314545号公報、第2頁左上欄19行?右上欄6行,
第2頁右下欄18?20行,第4頁右上欄1?8行、
*特開平10-262883号公報、段落【0013】,段落【00
14】後半,段落【0020】、
*特開平11-318791号公報、段落【0023】,段落【00
26】,段落【0032】後半、
*特開平2-307423号公報、第1頁右下欄9?12行,第2頁
右下欄1?5行,第2頁右下欄11?16行,第3頁左上欄2?
16行,第3頁右上欄15行?左下欄3行、
*特開平6-14858号公報、段落【0016】,段落【00
25】,段落【0026】,段落【0048】、
*特開平9-279496号公報、請求項2,段落【0011】,段
落【0013】,段落【0026】,段落【0033】、)
*特開平5-156557号公報、段落【0007】,段落【000
8】,段落【0013】,段落【0015】,段落【0019】【
表2】「親水性繊維層」の欄、
を参照。)
そうすると、刊行物1に記載された発明に周知の技術を組み合わせ、嵩高(バルキー)な種々の配合割合の材料を適宜採用し、もって、相違点Aにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。

《相違点Bについての検討》
刊行物1に記載された発明では、洗浄剤徐放層102aが、本件発明の第1の表面接触層に相当している。刊行物1に記載された発明の洗浄剤徐放層102aには、(i)親水性繊維を主体とする繊維集合体により形成される場合と、(ii)疎水性の極細繊維を主体とする繊維集合体より形成される場合とがある。
この(i)の場合には、当然ながら繊維集合体に親水性繊維が多く含まれると想定されるが、この親水性繊維を主体とする繊維集合体を、同刊行物段落【0022】後半に記載のようにサーマルボンド等で製造する際、最低でも5重量%程度の疎水性繊維を含むようにし、繊維同士を直接熱融着させることは当業者であれば容易に行うことができた事項である。
また、この「最低でも5重量%程度」を、さらに上方に拡張することも、刊行物1に記載された発明が、(i)の場合において、疎水性物質の重量比が全体の重量の7割以下であるとしていることを考慮すれば、格別に困難な事項ではない。
また、洗浄剤徐放層102aの繊維集合体において、疎水性繊維が層全体のほぼ100重量%を占めるようにすることも、上記「(ii)疎水性の極細繊維を主体とする繊維集合体より形成される場合」を想定すれば当業者であれば容易である。
このように、刊行物1に記載された発明から、相違点Bにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。

《相違点Cについての検討》
刊行物1に記載された発明において、洗浄剤徐放層102a,102b(表面接触層に相当)はその坪量が10?100g/m^(2) であり(一層当たり)、洗浄剤保持層101(リザーバ層に相当)はその坪量が15?200g/m^(2) である。
すなわち、洗浄剤徐放層102a,102bはその坪量が2層分で、
20?200g/m^(2 )。
洗浄剤保持層101はその坪量が15?200g/m^(2) 、
であり、両層の坪量(単位面積当たりの重量)の数値範囲はかなり近いものとして設定されている。
また、刊行物1段落【0057】には、実施例1?5として洗浄剤含浸用シートA?Cのそれぞれにおける洗浄剤保持層および洗浄剤徐放層の具体的な坪量値が記載されており、これらの値は以下のとおりである。
洗浄剤含浸用シートA
洗浄剤保持層:坪量55.5g/m^(2)
洗浄剤徐放層:坪量78.4g/m^(2)(2層分)
総坪量: 133.9g/m^(2)
洗浄剤含浸用シートB
洗浄剤保持層:坪量30g/m^(2)
洗浄剤徐放層:坪量30g/m^(2)(2層分)
総坪量: 60g/m^(2)
洗浄剤含浸用シートC
洗浄剤保持層:坪量50g/m^(2)
洗浄剤徐放層:坪量30g/m^(2)(2層分)
総坪量: 80g/m^(2)
そうすると、刊行物1に記載された発明に接した当業者が両層の坪量(単位面積当たりの重量)として、互いにほぼ等しいもの、または、その前後のものを想定することは自然な成り行きである。
したがって、刊行物1に記載された発明において、洗浄剤含浸用物品100(多層基材に相当)の重量に対する、両層それぞれの重量%を、共に50%程度または、その前後のものとして想定し、相違点Cにおける本件発明の特定事項である数値範囲に到達することは当業者であれば容易である。

《相違点Dについての検討》
刊行物1に記載された発明では、「洗浄剤保持層101と洗浄剤徐放層102a,102bとを、熱融着による貼り合わせ、または両層を構成する繊維の交絡等の接合手段を用いて接合し」ている。
しかるに、溶剤を保持する拭き取り用布の分野において、接着剤を用いると接着剤が溶剤に分解されて溶け出す問題があることは周知の技術的課題である。そこで、このような問題を回避するため、上記貼り合わせにあたり、洗浄剤保持層101と洗浄剤徐放層102a,102bとの接合手段として接着剤を用いないタイプのものを採用し、また、洗浄剤保持層101自体の製造、および洗浄剤徐放層102a,102b自体の製造においても、接着剤を用いない熱融着(サーマルボンド等)あるいは交絡(ニードルパンチ等)による製造方法を、刊行物1の記載中から採用(刊行物1段落【0015】後半、段落【0022】等参照)することに格別の困難性はない。
(上記接着剤に関する周知の技術的課題に対し、周知文献が必要であれば、
*特開平10-131022号公報、段落【0002】,段落【00
03】,段落【0005】後半、
*特開平7-82647号公報、段落【0002】,段落【0018】
*特開平11-200202号公報、段落【0009】,段落【0028】
を参照。)
したがって、刊行物1に記載された発明および周知の技術に基づいて、上記のような方法により、洗浄剤含浸用物品100を接着剤の含まないものとし、相違点Dにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。

《相違点Eについての検討》
刊行物1に記載された発明では、洗浄剤は、洗浄剤含浸用物品100の重量に対して「50?5000重量%」含浸される。
そして、刊行物1段落【0035】中程には、この数値範囲とする理由として「該洗浄剤の含浸量が50重量%に満たないと必要量以下の洗浄剤しか被洗浄面に施用できない。5000重量%を超えると必要量以上の洗浄剤が被洗浄面に施用されてしまうので、上記範囲内とすることが好ましい。」と記載されている。
しかし、この上限値(5000重量%)は、より低い上限値の存在を否定するものではない。同段落の前半には「上記洗浄剤は、無荷重下において上記洗浄剤含浸用物品の重量に対して50?5000重量%含浸されることが好ましく、100?3000重量%含浸されることが更に好ましく、200?2000重量%含浸されることが一層好ましい。」と記載され、より低い上限値の存在が示されている。
そうすると、必要最小限の機能のための下限値(50重量%)は維持するとともに、経済的な観点から製造コスト(刊行物1段落【0028】中程参照)に配慮しつつ、洗浄可能な面積の拡大(刊行物1段落【0007】参照)等の目的を達成するため、上限値を上記5000重量%から低減して600重量%とし、もって、本件発明の上記重量%の数値範囲に到達することは当業者であれば容易である。
また、本件発明の上記重量%の数値範囲に臨界的な意義は認められず、本件明細書中にもこのような意義を示すデータ等は示されていない。
したがって、刊行物1に記載された発明から、相違点Eにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。

《相違点Fについての検討》
界面活性剤において、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、双性イオン界面活性剤はいずれも周知のものである。
(周知文献が必要であれば、
*特開平10-99250号公報、段落【0018】
*特表平10-509744号公報、第2頁15?17行
*特開平6-296571号公報、段落【0010】
*特表2000-507481号公報、第28頁下から3?4行
*特表2000-506565号公報、第45頁下から7?10行
を参照。)
また、有機酸を含ませることも周知である。
(周知文献が必要であれば、
*特開平10-99250号公報、段落【0005】前半
*特表平3-503125号公報、第2頁左下欄12?17行及び
同欄25行?同頁右下欄2行
*特表昭63-500991号公報、第1頁左下欄17?19行
を参照。)
したがって、刊行物1に記載された発明および周知技術から、相違点Fにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。

《発明の効果についての検討》
本件発明の効果は、刊行物1に記載された発明及び周知技術から、当業者により予測可能なものである。


(3)まとめ
このように、本件発明は、本願の優先日前に国内において頒布された刊行物1に記載された発明および周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。



6.むすび
以上のように、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件の請求項2ないし24に係る発明については検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-01 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-18 
出願番号 特願2002-539129(P2002-539129)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 会田 博行
長浜 義憲
発明の名称 制御された液体放出が可能なあらかじめ湿ったワイプ用の多層基材  
代理人 大宅 一宏  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道治  

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