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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1220988
審判番号 不服2008-2666  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-07 
確定日 2010-07-28 
事件の表示 特願2002- 90346「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 7日出願公開、特開2003-284792〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年3月28日の出願であって、平成19年7月5日及び平成19年10月29日に手続補正がなされ、平成19年10月29付け手続補正は平成19年12月20日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年2月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月4日に手続補正がなされたものである。

第2 平成20年3月4日付け手続補正手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年3月4日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 平成20年3月4日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項1】 コアと、ショアD硬度が58未満であるカバーと、このカバーの表面に形成された多数のディンプルとを備えたゴルフボールであって、
このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が20%以上60%以下であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】 上記比(B/T)が0.30未満であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R2が10%以下である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】 全てのディンプルに関する比(B/T)の平均値が0.86以下である請求項1又は請求項2に記載のゴルフボール。
【請求項4】 上記コアがセンターと中間層とを備えており、この中間層のショアD硬度がHmとされカバーのショアD硬度がHcとされたとき、(Hm-Hc)の値が3以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項5】 上記中間層のショアD硬度が50以上である請求項4に記載のゴルフボール。
【請求項6】 コアと、ショアD硬度が58未満であるカバーと、このカバーの表面に形成された多数のディンプルとを備えており、
このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が10%以上であり、
仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率が72%以上90%以下であるゴルフボール。」
とあったものを、

「【請求項1】
コアと、ショアD硬度が58未満であるカバーと、このカバーの表面に形成された多数のディンプルとを備えており、
このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が16.7%以上20.8%以下であり、
仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率が72%以上90%以下であるゴルフボール。」に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 本件補正は、以下(ア)及び(イ)の内容からなる。
(ア)本件補正前の請求項1ないし5を削除するとともに、本件補正前の請求項6を請求項1に繰り上げる。
(イ)本件補正前の請求項6に係る発明を特定するために必要な事項である「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」を、「10%以上」から「16.7%以上20.8%以下」に限定する。

(2)補正の目的
上記(1)イのとおり、本件補正は、全体として、本件補正前の請求項6に係る発明を特定するために必要な事項を限定して本件補正後の請求項1とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開00/27480号(以下「引用例」という。)には、図とともに次の(1)ないし(5)の事項が記載されている。
(1)「In each of the embodiments of Figs, la-Id, the golf ball 11 of the invention includes a core 13, a mantle layer 15 which covers the core, and an outer cover layer 17 which covers the mantle layer. Dimples 19 are provided in the surface of the cover. 」(5頁13行?16行)
(審決訳:図1(a)?(d)のそれぞれの実施形態において、本発明に係るゴルフボール11は、コア13と、該コアを覆うマントル層15と、該マントル層を覆う外側のカバー層17とを含んでいる。ディンプル19は、前記カバーの表面に提供される。)
(2)「The factors or determinants of interest with respect to improved distance are generally the coefficient of restitution (COR) and the surface configuration (dimple pattern, ratio of land area to dimple area, etc.) of the ball. 」(6頁20行?23行)
(審決訳:改善された距離に関して、前記重大な因子或いは決定要素は、一般的には、ボールの反発係数(COR)及び表面形状(ディンプルのパターン、陸地領域のディンプル領域に対する比率など)である。)
(3)「The thickness of the mantle layer TM is preferably between 0.020 inches and 0.250 inches and the thickness of the outer cover layer TC is preferably between 0.020 inches and 0.250 inches. 」(12頁5行?7行)
(審決訳: マントル層の厚さTMは、0.020インチから0.250インチの間であるのが好ましく、また外側のカバー層の厚さTCは、0.020インチから0.250インチの間であるのが好ましい。)
(4)「A further modification is shown in Fig. 4. This golf ball has 410 dimples comprising 138 dimples having a diameter of 0.169 inch and a depth of 0.0116 inch, 160 dimples having a diameter of 0.143 inch and a depth of 0.0101 inch, and 112 dimples having a diameter of 0.112inch and a depth of 0.0077 inch. ・・(略)・・In this ball, none of the dimples overlap. This pattern provides a weighted average dimple diameter of 0.1433 inch, weighted average dimple depth of 0.010 inch, and a 73.1% coverage of the surface of the ball. 」(13頁17行?14頁4行)
(審決訳: 更なる変更例が図4に示されている。このゴルフボールは、直径が0.169インチであり、深さが0.0116インチである138個のディンプルと、直径が0.143インチであり、深さが0.0101インチである160個のディンプルと、直径が0.112インチであり、深さが0.0077インチである112個のディンプルとを含む410個のディンプルを有している。・・(略)・・このボールでは、重なり合うディンプルはない。このパターンは、重み付き平均ディンプル径が0.1433インチであり、重み付き平均ディンプル深さが0.010インチであり、また、ボールの表面の73.1%が覆われている。)
(5)「3. A golf ball of improved playing characteristics, comprising
a ball having an outside diameter of substantially 1.70 to L80 inches and a weight no greater than 1.62 ounces said ball comprising
(a) a spherical core;
(b) a mantle surrounding said core;
(c) an outer cover surrounding said core and said mantle;
(d) said mantle and said outer cover having a different Shore D hardness; and
(e) said ball having a dimple pattern covering at least 70% of the surface of the ball.
4. The golf ball of claim 3, wherein the Shore D hardness of said mantle is greater than the Shore D hardness of said outer cover.
5. The golf ball of claim 4, wherein the Shore D hardness of said mantle is about 60 or more and the Shore D hardness of said cover is about 60 or less. 」(17頁9行?18頁4行)
(審決訳:3.ほぼ1.70?1.80インチの外径と、1.62オンス以下の重量とを有するボールを含んで構成される、競技性が改善されたゴルフボールであって、
前記ボールは、球状のコアと、該コアを包囲するマントルと、前記コア及びマントルを包囲する外側のカバーと、を含んで構成され、
前記マントルと前記外側のカバーとは、異なるショアーD硬度を有し、
前記ボールは、ボールの表面の少なくとも70%を覆うディンプルパターンを有することを特徴とするゴルフボール。
4.前記マントルのショアーD硬度は、前記外側のカバーのショアーD硬度より大きいことを特徴とする請求項3記載のゴルフボール。
5.前記マントルのショアーD硬度は、ほぼ60又はそれ以上であり、前記カバーのショアーD硬度は、ほぼ60又はそれ以下であることを特徴とする請求項4記載のゴルフボール。)
(6)摘記(1)ないし(5)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「球状のコアと、該コアを包囲するマントルと、前記コア及びマントルを包囲するショアーD硬度がほぼ60又はそれ以下である外側のカバーと、該外側のカバーの表面に提供されるディンプルとを含んで構成されたゴルフボールであって、
直径が0.169インチであり、深さが0.0116インチである138個のディンプルと、直径が0.143インチであり、深さが0.0101インチである160個のディンプルと、直径が0.112インチであり、深さが0.0077インチである112個のディンプルとを含む410個のディンプルのパターンで、表面の73.1%が覆われたゴルフボール。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「球状のコア」、「外側のカバー」及び「『外側カバーの表面に提供され』る『410個のディンプル』」は、それぞれ、本願補正発明の「コア」、「カバー」及び「カバーの表面に形成された多数のディンプル」に相当する。
(2)引用発明の「カバー(外側のカバー)」は、ショアーD硬度がほぼ60又はそれ以下のものであるから、引用発明の「カバー」と本願補正発明の「ショアD硬度が58未満であるカバー」とは、ショアD硬度が所定の値未満である点で一致する。
(3)上記(1)及び(2)から、本願補正発明と引用発明とは、
「コアと、ショアD硬度が所定の値未満であるカバーと、このカバーの表面に形成された多数のディンプルとを備えているゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記カバーのショアD硬度が、本願補正発明では、「58未満」であるのに対して、引用発明では、「ほぼ60又はそれ以下」である点。

相違点2:
前記ディンプルが、本願補正発明では、「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が16.7%以上20.8%以下」となり、かつ、「仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率が72%以上90%以下」となるものであるのに対して、引用発明では、そのようなものでない点。

4 判断
(1)相違点1について
引用発明において、ほぼ60又はそれ以下である外側のカバーのショアD硬度は、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきところ、ゴルフボールのカバーのショアD硬度を58未満とすることは、本願の出願前に周知である(例.特開平10-151225号公報(特に【0057】【表3】スリーピースソリッドゴルフボールである実施例1ないし5のカバーの硬度(ショアD)が、それぞれ、45,45,45,50,50である点)、特開2002-85588号公報(特に【0109】【表7】スリーピースソリッドゴルフボールである実施例1ないし8の外層カバーのショアD硬度が、それぞれ、47,50,47,45,40,49,50,42である点)、特開2002-11117号公報(特に【0053】【表3】スリーピースソリッドゴルフボールである実施例1ないし8のカバーのショアD硬度が、いずれも47である点)、以下「周知技術1」という。)。
したがって、引用発明において、外側のカバーのショアD硬度を58未満とすることは、周知技術1に基づいて当業者が適宜なし得た設計上のことである。

(2)相違点2について
ア 引用例の「外側のカバー層の厚さTCは、0.020インチから0.250インチ(0.51mmから6.3mm)の間であるのが好ましい」(上記2(3)参照。)及び「改善された距離に関して、前記重大な因子或いは決定要素は、一般的には、ボールの反発係数(COR)及び表面形状(ディンプルのパターン、陸地領域のディンプル領域に対する比率など)である。」(上記2(2)参照。)との記載からも明らかなように、引用発明において、外層カバーの厚さとディンプルのパターンは、いずれも当業者が適宜決定すべき設計事項というべきであるところ、ゴルフボールのディンプル総数を450程度とすることは、本願の出願前に周知である(例.上記特開平10-151225号公報(特に「【0049】なお、ディンプル個数は360?450個、特に372?432個とすることが好ましい。」参照。)、特開2001-259080号公報(特に「【0028】ここで、本発明のディンプル総数は、通常360個以上、好ましくは370個以上、更に好ましくは392個以上、上限として492個以下、好ましくは452個以下、更に好ましくは432個以下にすることが推奨され、・・(略)・・」参照。)、以下「周知技術2」という。)。
イ 上記アから、引用発明において、外側のカバーの厚さを0.9mmとし、ディンプルを、直径0.169inch、深さ0.0116inch(0.295mm)のもの90個、直径0.143inch、深さ0.0101inch(0.257mm)のも248個、直径0.112inch、深さ0.0077inch(0.200mm)のもの112個の総数450個からなるものとすることは、引用例に記載された事項及び周知技術2に基づいて当業者が適宜なし得た設計上のことである。
ウ 外側のカバーの厚さを0.9mmとし、ディンプルを、直径0.169inch、深さ0.0116inch(0.295mm)のもの90個、直径0.143inch、深さ0.0101inch(0.257mm)のも248個、直径0.112inch、深さ0.0077inch(0.200mm)のもの112個の総数450個からなるものとすれば、下表のようになる。ただし、B(mm)は、ディンプル底の高さであって、外側のカバーの厚さT(mm)からディンプル深さを引いた値である。

ディンプル直径 ディンプル深さ 個数 B(mm) B/T
0.169inch 0.295mm 90 0.605 0.672
0.143inch 0.257mm 248 0.643 0.714
0.112inch 0.200mm 112 0.700 0.778

このとき、「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」は、
90/450=0.2=20(%)
となる。
したがって、上記イの「外側のカバーの厚さを0.9mmとし、ディンプルを、直径0.169inch、深さ0.0116inch(0.295mm)のもの90個、直径0.143inch、深さ0.0101inch(0.257mm)のも248個、直径0.112inch、深さ0.0077inch(0.200mm)のもの112個の総数450個からなるものとしたもの」は、本願補正発明の「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1が16.7%以上20.8%以下となるもの」に相当する。

(ア)引用発明のディンプルは、直径が0.169インチのもの138個と、直径が0.143インチのもの160個と、直径が0.112インチのもの112個とからなり、ゴルフボール表面の73.1%を覆うものである。
(イ)上記(ア)から、ディンプルの総面積は、円周率を3.14とすれば、
3.14×(0.169/2)^(2)×138+3.14×(0.143/2)^(2)×160+3.14×(0.112/2)^(2)×112=6.765(平方インチ)
となる。
(ウ)上記(ア)によれば、上記(イ)のディンプルの総面積は、ゴルフボール表面の73.1%に相当するから、仮想球としてのゴルフボールの表面積は、
6.765/0.731=9.255(平方インチ)
となる。
(エ)上記イの「ディンプルを、直径0.169inch、深さ0.0116inch(0.295mm)のもの90個、直径0.143inch、深さ0.0101inch(0.257mm)のも248個、直径0.112inch、深さ0.0077inch(0.200mm)のもの112個の総数450個からなるものとしたもの」のディンプルの総面積は、円周率を3.14とすれば、
3.14×(0.169/2)^(2)×90+3.14×(0.143/2)^(2)×248+3.14×(0.112/2)^(2)×112=7.102(平方インチ)
となる。
(オ)上記(ウ)及び(エ)から、仮想球としてのゴルフボールの表面積に対する上記イのディンプルの総面積の割合は、
7.102/9.255=0.767=76.7(%)
となる。
したがって、上記イの「ディンプルを、直径0.169inch、深さ0.0116inch(0.295mm)のもの90個、直径0.143inch、深さ0.0101inch(0.257mm)のも248個、直径0.112inch、深さ0.0077inch(0.200mm)のもの112個の総数450個からなるものとしたもの」は、本願補正発明の「仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率が72%以上90%以下となるもの」に相当する。
オ 上記アないしエから、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、引用例に記載された事項及び周知技術2に基づいて当業者が適宜なし得た設計上のことである。

(2)効果について
ア 本願補正発明の「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」及び「仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率」に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下に示す(ア)及び(イ)の記載がある。
(ア)「【0027】
本発明者の得た知見によれば、比率R1が10%以上に設定されることで、低硬度なカバー3が採用された場合でも高い反発性能が得られる。大きな比率R1と低硬度なカバー3とにより、ゴルフボール1の打球感と反発性能とが両立される。
【0028】
反発性能の観点から、比率R1は15%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。比率R1が大きすぎるとゴルフボール1のスピン性能及び耐久性が不十分となるので、比率R1は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましく、60%以下が特に好ましい。
・・(略)・・
【0031】
ディンプル6の表面積占有率Yは、70%以上90%以下が好ましい。表面積占有率Yが上記範囲未満であると、飛行中のゴルフボール1の揚力が不足するおそれがある。この観点から、表面積占有率Yは72%以上がより好ましく、74%以上が特に好ましい。表面積占有率Yが上記範囲を超えると、ゴルフボール1の弾道が高くなりすぎるおそれがある。この観点から、表面積占有率Yは88%以下がより好ましく、86%以下が特に好ましい。図1から図4に示されたゴルフボール1の表面積占有率Yは、77.6%である。
【0032】
本明細書において「表面積占有率Y」という用語は、全てのディンプル6の面積の総和が仮想球の表面積で除された値を意味する。ここで「ディンプル6の面積」とは、当該ディンプル6の平面形状(無限遠からゴルフボール1の中心が見られた場合のディンプル6の輪郭の形状)の面積を意味する。直径がdである円形ディンプル6の場合は、下記数式によって面積sが算出される。
s=(d/2)^(2)×π」
(イ)「 【0065】【表4】

【0066】
表4中のAタイプ、Bタイプ及びCタイプのディンプルパターンは、図2及び図3に示されている。
・・(略)・・
【0075】【表5】


イ 上記アで示した本願明細書の発明の詳細な説明の記載について以下検討する。
(ア)実施例1ないし4には、本願補正発明の「このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」に関して、20.8又は16.7とした、わずか2例が挙げられているのみであって、20.8を上限値として、16.7を下限値としてそれぞれ設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者が把握できるものでなく、また、本願補正発明の「仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率」に関しても、77.6%とした、わずか1例が挙げられているのみであって、90%を上限値として、72%を下限値としてそれぞれ設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。
(イ)上記(ア)より、本願補正発明において、「このカバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」を「16.7%以上20.8%以下」に、「仮想球の表面積に対する全ディンプルの面積の総和の比率」を「72%以上90%以下」に、それぞれ限定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。
ウ よって、本願補正発明の奏する効果は、格別のものとは認められず、引用発明の奏する効果、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
上記4のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年3月4日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成19年7月5日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)ア」で、本件補正前の請求項6として記載したものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明において、その発明を特定するために必要な事項である「カバーの公称厚みTに対するディンプル底の高さBの比(B/T)が0.70以下であるディンプルの数がディンプル総数に占める比率R1」を、「20%以上60%以下」から「10%以上」に拡張したものである(上記第2〔理由〕1(1)イ(イ)参照。)。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2002-90346(P2002-90346)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 岡 憲吾  

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