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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1221240
審判番号 不服2008-26664  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 平成11年特許願第 35942号「傾斜磁場コイル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月29日出願公開、特開2000-232966〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成11年2月15日に特許出願されたものであって,平成20年3月17日付けで拒絶理由が通知され,同年5月26日付けで意見書と共に手続補正書が提出された後,同年6月12日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年8月18日付けで意見書と共に手続補正書が提出されたが,同年9月8日付けで,当該8月18日付け手続補正書による補正が,(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の)特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるとして同法第53条第1項の規定に基づき却下されると共に,同日付けで,平成20年6月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶査定がなされたものである。
これに対し平成20年10月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年11月11日付けで手続補正がなされたものである。さらに,平成22年2月5日付けで審尋がなされ,回答書が同年4月12日付けで請求人より提出されたものである。


第2 平成20年11月11日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項1についてする補正は,補正前の特許請求の範囲(平成20年5月26日付けで補正されたもの。以下,同様。)の
「【請求項1】 磁気共鳴診断のために被検体の体軸に沿ったZ軸,Z軸に垂直なX軸,Y軸の3方向の傾斜磁場を発生するZコイル,Yコイル,Xコイルが組み合わされてなる傾斜磁場コイル装置において,Xコイル,Yコイルのコイルパターンが両コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるラインが一致するように形成されていることを特徴とする傾斜磁場コイル装置。」
を,
「【請求項1】 磁気共鳴診断のために被検体の体軸に沿ったZ軸,Z軸に垂直なX軸,Y軸の3方向の傾斜磁場を発生するZコイル,Yコイル,Xコイルが組み合わされてなる傾斜磁場コイル装置において,
Xコイル,YコイルのコイルパターンがXコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とYコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致するように形成されており,前記Xコイルと前記Yコイルは前記振動が最小になるZ方向の位置で支持されることを特徴とする傾斜磁場コイル装置。」
と補正するものである。

上記補正は,補正前の請求項1に記載した「振動が最小になるライン」を,同義である「振動が最小になるZ方向の位置」に補正し,補正前の請求項1に記載した「両コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるラインが一致するように形成され」を,同義である「Xコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とYコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致するように形成され」に補正し,補正前の請求項1に記載した「Xコイル,Yコイル」について,「前記Xコイルと前記Yコイルは前記振動が最小になるZ方向の位置で支持される」との限定を付したものであるから,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。

2 引用刊行物の記載事項
本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特公平4-47572号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。
(1-ア)
「特許請求の範囲
1 投像区域の中心を原点とする直角座標系のz方向に基底磁場Bzを作る基底磁場磁石と磁場の勾配を作る勾配磁場コイル系を備え,この勾配磁場コイル系は投像区域内でほぼ一定のz方向磁場勾配Gz=∂Bz/∂zを作るためこの座標系のxy面に対して少くとも近似的に対称配置された二つの環状単独コイルならびに投像区域内でほぼ一定のx方向磁場勾配Gx=∂Bz/∂xとy方向磁場勾配Gy=∂Bz/∂yを作るためxy面に対して少くとも近似的に対称配置された鞍形単独コイル対の少くとも一組を含むものにおいて,
(a) xy対称面18の一方の側に置かれた既製の鞍形GxならびにGy勾配磁場コイル4,6および7又は5,8および9が互に固く結合されて自立性の部分コイルかご24,25を形成すること,
(b) xy対称面18の両側に形成された部分コイルかご24,25がz方向に伸びる複数の非磁性,絶縁性材料で作られた支持要素20乃至22によつて一つの共通の自立性コイルかご2を構成し,これに既製の環状Gz勾配コイル11乃至14が固定されていること,
(c) コイルかご2が絶縁性の弾性支持要素31を介して支持体16に取りつけられていること,
を特徴とする核スピン断層撮影装置用の勾配磁場コイル系。」(1頁左欄1行?同頁右欄7行)

(1-イ)
「11 コイルかご2と中空円筒形支持体16の間の弾性間隔要素31がコイルかごの振動の少ない領域に設けられていることを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第10項の一つに記載の勾配磁場コイル系。」(2頁左欄23行?27行)

(1-ウ)
「発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
この発明は,核スピン断層撮影装置に対する勾配磁場コイル系に関するものである。このコイル系は投像区域の中心を原点とする直角座標系のz方向に向う円筒軸を持つ中空円筒形支持体を取り囲み,多数のコイルを含む基底磁場コイルもz方向の基底磁場Bzを作り,勾配磁場コイル系には投像区域内でほぼ一定の勾配磁場Gz=∂Bz/∂zを作るため投像区域の中心を通るxy面に対して少くとも近似的に対称配置された少くとも二つの環状単独コイルの外に,投像区域内でほぼ一定のx方向磁場勾配Gz=∂Bz/∂xと方向磁場勾配Gy=∂Bz/∂yを作るためこの対称面に対して少くとも近似的に対称配置された鞍形単独コイル対を含む。」(2頁左欄33行?同頁右欄5行)

(1-エ)
「前記の欧州特許出願公開公報に記載されている公知装置は基底磁場コイル内に送り込むことができる中空円筒形支持体に固く結合され,この支持体の軸が基底磁場磁石の軸に一致しz方向に向けられる。z方向の勾配Gzは投像区域の中心を通り,z軸に垂直なxy面に対して対称的に配置された二つの環状コイルによつて作られる。x方向の勾配Gxの発生は鞍形コイルの二対が使用され,各コイル対の二つのコイルは中空円筒形支持体の外周上対角位置に設けられる。y方向勾配Gyに対しては同様に四個の鞍形コイルから成る系が支持体上x勾配コイルに対して90゜だけ円周方向に回転移動して設けられる。各コイル組の両コイル対は上記のxy面の両側に対称的に置かれる。」(3頁左欄6?19行)

(1-オ)
「GxとGyに対する鞍形単独コイルとGzに対する環状コイルの形態,分割様式および配置は予め定められている。これらのコイルが強い基底磁場内で動作する際ローレンツ力が伸張負荷としてコイルに作用する。このローレンツ力はコイル内の個々の勾配磁場の典型的な導入順序に基き可変であり,コイル自体が強制振動を励起される。従つて導入されたエネルギーは物体波と空気波としてコイル系から場合によつて特別に設けられた組立て管を通して中空円筒形支持管に伝えられ,支持管は拡声器振動膜類似の動作を行い,被検体収容室を振動数が主として200Hzと1000Hzの間にある音響波が通過する。そのため例えば有効体積の中心の音響波レベルは95dBにも達し,検査対象の患者にとつて耐えがたいものとなる。放出エネルギー率を制限するためには定格電流以下で動作させればよいが,この場合断層撮影装置の画像の質がそれに対応して低下する。」(3頁左欄25?42行)

(1-カ)
「〔発明が解決すべき問題点〕
この発明の目的は,冒頭に挙げた勾配磁場コイル系を改良して形成画像の質を低下させることなく中空円筒形支持管に誘起される音響波レベルの低下が達成されるようにすることである。」(3頁左欄43行?同頁右欄3行)

(1-キ)
「〔作用効果〕
この発明によれば勾配磁場コイルに対する特別の組立て管が使われなくなり,更にこのコイルを管状の支持体にとりつけることも廃止される。その代りにx方向とy方向の勾配磁場系の総ての鞍形コイルをできるだけ頑状に結合して自立性のコイルかごを構成させる。z方向の勾配磁場系は補助の補強に使用される。この場合コイルかごの全体はx方向あるいはy方向の磁場勾配が順次に加えられる間交互力に基いて各コイルに作用する回転モーメントが大部分打消される。このような勾配磁場コイル系による長所は,そのコイルかごが比較的弾性に富んだ支持要素を介して中空円筒形支持体に結合され,コイルかごから支持体への振動の伝達がそれに応じて減衰することである。投像区域に投射される音響エネルギーもそれに応じて減少する。」(3頁右欄7?23行)

(1-ク)
「鞍形の単独コイル6と7および8と9はそれぞれ一つのコイル対を構成し,Gy勾配磁場の発生に使用されるのに対して,コイル4と5はそれぞれGx勾配磁場を作るコイル対の一半となつている。両Gxコイル対ならびにGyコイル対は投像区域の中心を通るxy面に対して対称的に配置される。この対称面は破線18で示されている。鞍形Gz単独コイル11と12も同様にこの対称面18に対して環状コイル13,14と対称に配置される。
この発明による勾配磁場コイル系の8個の鞍形単独コイルと例えば4個の環状単独コイルはz方向に延びる4個の支持要素と共に自立性のコイルかご2を構成する。第1図にはその中6個の鞍形単独コイル4乃至9と,4個の環状単独コイル11乃至14および3個の支持要素20乃至22が示されている。コイルかご2は次のように組立てられている。対称xy面18の両側でそれぞれ4個の鞍形コイルと2個の環状コイルが一つの環状部分かご24又は25を構成する。この場合単独コイル4,6,7,11および12が部分かご24に所属し,単独コイル5,8,9,13および14が部分かご25に所属する。各部分かご内部ではx勾配コイル系又はy勾配コイル系の二つづつの鞍形コイルが対角線上に対向して配置されている。個々の鞍形コイルは少くとも近似的に同じ形態とし,特にその長辺を重り合わせておくと有利である。例えば図示の実施形態ではこの重り合つた部分は角度で約37゜である。高度の形状精確性を要求するときは一つの部分かごの4個の鞍形コイルを互に接着して一つの強固な構造とする。製作の許容差に基き重り合つたコイルの間の間隙が変形する場合には軟可塑性材料例えば合成樹脂を注入する。部分かごを更に強固にするためにはそれぞれの環状コイル11と12又は13と14を交叉区域27においてそれが囲んでいる鞍形コイルに締めつけ又は接着によつて固く結合する。
両部分かご24,25は支持要素20乃至22によつて互に固く結合され,コイルかご2を構成する。この場合二つの支持要素20は4個のx勾配コイル4,5の上に延び,別の縦支持要素21および22が4個のy勾配コイル6乃至9の上に延びている。これらの支持要素は例えば矩形断面を持つ。・・・
z方向に延びる支持要素20乃至22は鞍形コイルの円周方向に延びる弧状部分の中央部でそれと結合すると,各コイルのローレンツ力の重心がここにあるので有利である。この場合支持要素には力だけが加わり,モーメントは加わらない。第1図において矢印はy勾配コイル系の動作に際して作用する力Fを示している。このFはそれぞれの鞍形コイルの弧状部分においてのローレンツ力のベクトル和である。場合によつては多数の支持要素を設けてこの実施例とは異る構成とすることも可能である。支持要素の材料としては絶縁性の非磁性材料でコイルかご2に充分な剛性を与えるものが適している。特に合板又はガラス繊維で補強した合成樹脂で比重の小さいものが有利である。ガラス繊維で補強した合成樹脂材料は内部摩擦による自己減衰が大きいので特に好適である。
コイルかご2の取り付けは円筒状支持体16の円周上の特定個所において支持要素20乃至22の間に置かれた緩衝片31例えばゴム成形片を介して行われる。緩衝片の位置はコイルかご2と支持体16に対してできるだけ振動のない領域に定められる。
この発明によるコイルかご2の形の勾配磁場コイル系に対してはコイルに対する強固な組立て管を必要としないから,コイルかごと中空円筒形支持体16の間には一般に半径方向の幅が数cmの空隙が残されている。この空隙に吸音材例えばフアイバその他の多孔質材料のマツトを入れておくと有利である。」(4頁左欄17行?5頁左欄24行)

(1-ケ)
第1図には,xy対称面18の一方の側に置かれた鞍形Gx勾配磁場コイル4および鞍形Gy勾配磁場コイル6,7が互に固く結合されて部分コイルかご24を形成し,xy対称面18の他方の側に置かれた鞍形Gx勾配磁場コイル5およびGy勾配磁場コイル8,9が互に固く結合されて部分コイルかご25を形成し,当該部分コイルかご24,25が支持要素20及至22によって一つの共通のコイルかご2を構成し,当該コイルかご2が弾性支持要素31を介して支持体16に取りつけられている様子が描かれている。(なお,第1図の認定にあたっては,上記摘記事項(1-ア)の記載を参酌した。)

(1-コ)
第2図には,z方向に延びる支持要素20が鞍形Gx勾配磁場コイル5の円周方向に延びる弧状部分の中央部で鞍形Gx勾配磁場コイル5と結合し,前記支持要素20がx軸上に位置している様子,並びに,z方向に延びる支持要素21および22が鞍形Gy勾配磁場コイル9および8の円周方向に延びる弧状部分の中央部で鞍形Gy勾配磁場コイル9および8と,それぞれ結合し,前記支持要素21および22がy軸上に位置している様子が描かれている。(なお,第2図の認定にあたっては,上記摘記事項(1-ク)における「z方向に延びる支持要素20乃至22は鞍形コイルの円周方向に延びる弧状部分の中央部でそれと結合する」の記載を参酌した。)

上記摘記事項からみて,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「投像区域の中心を原点とする直角座標系のz方向に基底磁場Bzを作る基底磁場磁石と磁場の勾配を作る勾配磁場コイル系を備え,この勾配磁場コイル系は投像区域内でほぼ一定のz方向磁場勾配Gz=∂Bz/∂zを作るためこの座標系のxy面に対して少くとも近似的に対称配置された二つの環状単独コイルならびに投像区域内でほぼ一定のx方向磁場勾配Gx=∂Bz/∂xとy方向磁場勾配Gy=∂Bz/∂yを作るためxy面に対して少くとも近似的に対称配置された鞍形単独コイル対の少くとも一組を含むものにおいて,
(a) xy対称面18の一方の側に置かれた鞍形Gx勾配磁場コイル4および鞍形Gy勾配磁場コイル6,7が互に固く結合されて部分コイルかご24を形成し,xy対称面18の他方の側に置かれた鞍形Gx勾配磁場コイル5およびGy勾配磁場コイル8,9が互に固く結合されて部分コイルかご25を形成すること,
(b) xy対称面18の両側に形成された部分コイルかご24,25がz方向に伸びる複数の非磁性,絶縁性材料で作られた支持要素20乃至22によつて一つの共通の自立性コイルかご2を構成し,これに既製の環状Gz勾配コイル11乃至14が固定されていること,
(c) コイルかご2が絶縁性の弾性支持要素31を介して支持体16に取りつけられていること,
を特徴とする核スピン断層撮影装置用の勾配磁場コイル系。」(以下,「引用発明」という。)

また,同様に,本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平9-103422号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2-ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 保持体に取り付けられた少なくとも一つのグラジエントコイルを有している核磁気共鳴装置において,グラジエントコイルは,専ら作動中予期される振動節の領域内にのみ取り付けられていることを特徴とする核磁気共鳴装置。」

(2-イ)
「【請求項4】 複数のグラジエントコイルが一つのグラジエントコイル装置を構成しており,前記グラジエントコイル装置は,専ら作動中(位置的に)予期される振動節の領域内にのみ取り付けられている請求項1?3までの何れか1項記載の核磁気共鳴装置。」

(2-ウ)
「【0002】
【従来の技術】・・・各グラジエントコイルは,エポキシ樹脂の堅固なシリンダ状部材に強固に接着されており,その結果,各グラジエントコイルとシリンダ状部材とは,一体的な結合体を形成し,この結合体は,管として形成されていて被検体を収容することができる。この様な装置構成の欠点は,各グラジエントコイルが,ローレンツ力として知られていて,各グラジエントコイルに給電する電流及び静磁場(Bz)から生じる物体力の対象であるということである。・・・この振動電流により,不都合に振動する各ローレンツ力が生じ,この各ローレンツ力によって,グラジエントコイルが振動する。この振動の振幅は,各作動モード,及び,それら各作動モードから合成された各力の分布に依存し,振動の腹が,例えば,中間及び端領域に位置し,振動の節が,ほぼグラジエントコイル装置の長さの1/3?2/3のところに位置する(図1)。分析によると,この振動モード形式での振動の振幅は,他の振動モード形式の場合よりもおよそ10倍大きいことが分かる。その様な振動により,多数の否定的な特性,例えば,グラジエントコイル体から送出される音響ノイズ(空気中を伝わる音波),グラジエントコイルから送出されて,取り付け部を介して装置全体に伝わる構造的なノイズ(構造体を伝わる音波),並びに,グラジエントコイルの過度な運動によって生じることがある画質障害が生じる。従って,将来,益々高速の画像周波数,即ち,一層高いパルス周波数,一層高い電流で作動することが所望される傾向によって,不所望にも振動及びノイズも上昇する。」

(2-エ)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,グラジエントコイルを,当該グラジエントコイルに起因する振動が核磁気共鳴装置に不都合な影響を及ぼさない様に取り付けることである。
【0004】本発明以前の大抵の解決の試みでは,グラジエントコイル装置の堅牢性を高める構成技術が用いられている。つい最近では,グラジエントコイルは,通常,該グラジエントコイルの,振動振幅が比較的高い端部で取り付けられている。従って,この振動の,核磁気共鳴装置への重畳を減衰する振動減衰器が不可欠となる。この振動減衰器なしでは,共鳴現象により,グラジエントコイルが,その保持部から外れてしまうことがあり,その結果,グラジエントコイルの調整が不所望にもずれてしまうことがある。」

(2-オ)
「【0005】
【課題を解決するための手段】この課題は,本発明によると,保持体に取り付けられた少なくとも一つのグラジエントコイルを有している核磁気共鳴装置において,グラジエントコイルは,専ら作動中予期される振動節の領域内にのみ取り付けられているようにすることにより解決される。また,保持体に取り付けられた少なくとも一つのグラジエントコイルを有している核磁気共鳴装置の作動方法において,グラジエントコイルを,専ら作動中予期される振動節の領域内にのみ取り付けることにより解決される。」

(2-カ)
「【0006】
【発明の実施の形態】本発明により,作動中予期される振動節の領域内でのみグラジエントコイルを取り付けることにより,そこで相殺される力に基づいて,残りの核磁気共鳴装置に振動が殆ど伝わらないようにすることができるにも拘わらず,場合によっては生じる僅かな振動振幅を減衰するために,有利には,振動節の領域内に,減衰部材を設けて,この減衰部材を介してグラジエントコイルを保持部に取り付けることができる。
【0007】有利には,グラジエントコイル乃至グラジエントコイル装置は,その長さの1/3?2/3の領域内で取り付けられる。複数のグラジエントコイルが設けられる場合,取り付け部が,全振動系の振動節の領域内に位置しているようにすると有利である。」

(2-キ)
「【0008】
【実施例】図3では,グラジエントコイルは,参照数字1で示されている。通常の様に,このグラジエントコイル1は,合成樹脂2を介して全装置となるように接合されており,例えば,被検患者の収容のためのシリンダ3を形成している。本発明によると,少なくとも,グラジエントコイル1により形成されているグラジエントコイル装置は,作動中予期される振動の節4(図2)の領域内に取り付けられている。図2から,振動の最大部5は,グラジエントコイル装置1の端部領域及び中間部であることが分かる。本発明によると,グラジエントコイル装置1は,減衰部材6を介して有利には少なくとも振動の節4を仮想的に結合する線7の領域内に設けることができる。
【0009】本発明の範囲内では,各個別グラジエントコイルも,作動中このグラジエントコイルに対して生じる振動の節の領域内に取り付けることができる。グラジエントコイル装置用の取り付け領域もグラジエントコイル用の取り付け領域も,例えば,グラジエントコイル装置乃至グラジエントコイルの長さの1/3?2/3の領域内にすることができる。」

3 対比・判断

(1)対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「z方向磁場勾配,x方向磁場勾配,および,y方向磁場勾配」,「Gz勾配コイル11乃至14」,「Gy勾配磁場コイル6,7,8,9」,「Gx勾配磁場コイル4,5」および「核スピン断層撮影装置用の勾配磁場コイル系」は,その構造および機能からみて,補正発明の「磁気共鳴診断のために被検体の体軸に沿ったZ軸,Z軸に垂直なX軸,Y軸の3方向の傾斜磁場」,「Zコイル」,「Yコイル」,「Xコイル」および「傾斜磁場コイル装置」に,それぞれ相当する。

イ 上記摘記事項(1-ク)における「鞍形の単独コイル6と7および8と9はそれぞれ一つのコイル対を構成し,Gy勾配磁場の発生に使用されるのに対して,コイル4と5はそれぞれGx勾配磁場を作るコイル対の一半となつている。・・・この発明による勾配磁場コイル系の8個の鞍形単独コイルと例えば4個の環状単独コイルはz方向に延びる4個の支持要素と共に自立性のコイルかご2を構成する。」の記載からみて,引用発明の「Gx勾配磁場コイル」および「Gy勾配磁場コイル」は,それぞれ,4個の鞍形単独コイルからなるコイルパターンを形成しているといえる。
そうすると,引用発明における「xy対称面18の一方の側に置かれた鞍形Gx勾配磁場コイル4および鞍形Gy勾配磁場コイル6,7が互に固く結合されて部分コイルかご24を形成し,xy対称面18の他方の側に置かれた鞍形Gx勾配磁場コイル5およびGy勾配磁場コイル8,9が互に固く結合されて部分コイルかご25を形成する」点と,補正発明における「Xコイル,YコイルのコイルパターンがXコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とYコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致するように形成されて」いる点とは,「Xコイル,Yコイルのコイルパターンが形成されて」いる点において共通する。

ウ 引用発明の「Gx勾配磁場コイル」および「Gy勾配磁場コイル」は,支持要素20乃至22によって支持されている。
そうすると,引用発明における「xy対称面18の両側に形成された部分コイルかご24,25がz方向に伸びる複数の非磁性,絶縁性材料で作られた支持要素20乃至22によつて一つの共通の自立性コイルかご2を構成」する点と,補正発明における「前記Xコイルと前記Yコイルは前記振動が最小になるZ方向の位置で支持される」点とは,「前記Xコイルと前記Yコイルは支持される」点において共通する。

してみると,両者は,

(一致点)
「磁気共鳴診断のために被検体の体軸に沿ったZ軸,Z軸に垂直なX軸,Y軸の3方向の傾斜磁場を発生するZコイル,Yコイル,Xコイルが組み合わされてなる傾斜磁場コイル装置において,
Xコイル,Yコイルのコイルパターンが形成されており,前記Xコイルと前記Yコイルは支持される傾斜磁場コイル装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)Xコイル,Yコイルのコイルパターンが,補正発明では,「Xコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とYコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致する」コイルパターンであるのに対し,引用発明では,そのようなコイルパターンであるかが不明な点。

(相違点2)前記Xコイルと前記Yコイルが支持されることが,補正発明では,「前記Xコイルと前記Yコイルは前記振動が最小になるZ方向の位置で支持される」ことであるのに対し,引用発明では,そのような構成でない点。

(2)判断
ア 相違点1について
引用例1に関する上記摘記事項(1-ク)における「・・・個々の鞍形コイルは少くとも近似的に同じ形態とし,特にその長辺を重り合わせておくと有利である。・・・」の記載からみて,引用発明では,鞍形Gx勾配磁場コイルの長辺すなわち弧状部分のZ方向位置と,鞍形Gy勾配磁場コイルの長辺すなわち弧状部分のZ方向位置は一致しているといえる。また,ローレンツ力は,磁場に垂直な方向の電流の変化によって生じるものであるから,引用発明では,鞍形勾配磁場コイルの基底磁場Bzに垂直な部分,すなわち,第1図に「F」で示されている部分である鞍形勾配磁場コイルの弧状部分においてローレンツ力が作用することが自明である。そして,引用発明では,鞍形Gx勾配磁場コイルの弧状部分のZ方向位置と,鞍形Gy勾配磁場コイルの弧状部分のZ方向位置が一致しているのであるから,両コイルにおいて,ローレンツ力が作用するZ方向位置は一致していることとなる。そして,ローレンツ力が作用するZ方向位置が一致しているのであれば,ローレンツ力による振動が最小になるZ方向位置も一致することが自明である。

さらに言えば,補正発明では「ローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致」する点に関連して,本願明細書の段落【0043】には,Yコイルセット25の振動の最小ラインZ1(y),Z2(y)がXコイルセット23の振動の最小ラインZ1(x),Z2(x)と一致するようにコイルパターンを形成することの具体例として,Xコイルセット23とYコイルセット25とのコイルパターンが同じで,φ方向の電流がゼロとなるZ位置が同じとなるコイルパターンを形成することが記載されている。他方,引用発明では,XコイルとYコイルのコイルパターンが少くとも近似的に同一形状であり,また,上記で検討のとおり,両コイルパターンの弧状部分のZ方向位置は一致しているのであるから,円周方向,すなわち,φ方向の電流がゼロとなるZ方向位置,すなわち,両コイルパターンの弧状部分以外の部分のZ方向位置も一致することが自明である。そうすると,引用発明のコイルパターンは,本願明細書の段落【0043】でいうところの「Yコイルセット25の振動の最小ラインZ1(y),Z2(y)がXコイルセット23の振動の最小ラインZ1(x),Z2(x)と一致する」コイルパターンに含まれているといえる。

以上のことから,上記相違点1は,実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点2について
Gx勾配磁場コイルおよびGy勾配磁場コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が,Gx勾配磁場コイルおよびGy勾配磁場コイルを支持する構造物に伝達されることを抑制するために,当該Gx勾配磁場コイルおよびGy勾配磁場コイルを,ローレンツ力による振動の節,すなわち,ローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置で支持するようにすることは,例えば,引用例2に関する上記摘記事項(2-キ)に「【0009】・・・各個別グラジエントコイルも,作動中このグラジエントコイルに対して生じる振動の節の領域内に取り付けることができる。グラジエントコイル装置用の取り付け領域もグラジエントコイル用の取り付け領域も,例えば,グラジエントコイル装置乃至グラジエントコイルの長さの1/3?2/3の領域内にすることができる。」と記載されているように,本願出願前に周知である(他にも,特開平5-146418号公報の段落【0021】には「X軸,Y軸傾斜磁場巻線110x ,110y は,四角柱材22や断面H形状柱32のZ軸方向に沿う複数点で支持されているが,この場合,該支持点が主モードの振動の節となるように設定することにより,X軸,Y軸傾斜磁場巻線110x ,110y の振動は,組立構造物20,30や静磁場磁石1全体に伝達されにくくなり,振動エネルギーの作用に伴う機械的劣化を抑制できるものとなる。」と記載されている)。
そして,引用発明も,上記周知の技術的事項も,Gx勾配磁場コイルおよびGy勾配磁場コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が,Gx勾配磁場コイルおよびGy勾配磁場コイルを支持する構造物に伝達されることを抑制するものである点において,技術分野および技術的課題が一致しているから,引用発明に上記周知技術を適用し,上記相違点2における補正発明のようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。

そして,本願明細書に記載された補正発明によってもたらされる効果は,引用例1および周知の技術的事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正発明は,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
以上のとおり,本件補正は,却下されることとなったから,本件特許出願人が特許を受けようとする発明として特定する事項は,平成20年5月26日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められ,その請求項1は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項1】 磁気共鳴診断のために被検体の体軸に沿ったZ軸,Z軸に垂直なX軸,Y軸の3方向の傾斜磁場を発生するZコイル,Yコイル,Xコイルが組み合わされてなる傾斜磁場コイル装置において,Xコイル,Yコイルのコイルパターンが両コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるラインが一致するように形成されていることを特徴とする傾斜磁場コイル装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は,上記「第2 2 引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

(1)対比
本願発明は,補正発明における「Xコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とYコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致するように形成され」を,同義である「両コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるラインが一致するように形成され」とし,「Xコイル,Yコイル」について,「前記Xコイルと前記Yコイルは前記振動が最小になるZ方向の位置で支持される」との限定を省いたものである。

そうすると,上記「第2 3 (1)対比」で検討のように,本願発明と引用発明とは,

(一致点)
「磁気共鳴診断のために被検体の体軸に沿ったZ軸,Z軸に垂直なX軸,Y軸の3方向の傾斜磁場を発生するZコイル,Yコイル,Xコイルが組み合わされてなる傾斜磁場コイル装置において,
Xコイル,Yコイルのコイルパターンが形成されている傾斜磁場コイル装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)Xコイル,Yコイルのコイルパターンが,本願発明では,「両コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるラインが一致する」コイルパターンであるのに対し,引用発明では,そのようなコイルパターンであるかが不明な点。

(2)判断
Xコイル,Yコイルのコイルパターンが,本願発明では,「両コイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるラインが一致する」コイルパターンである点,すなわち,「Xコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とYコイルに流れる電流と静磁場に基づくローレンツ力による振動が最小になるZ方向の位置とが一致する」コイルパターンである点については,上記「第2 3 (2) ア 相違点1について」において検討のとおり,引用発明との実質的な相違点とはいえない。

4 まとめ
したがって,本願発明は,引用発明と実質的に同一であり,引用例1に記載された発明であるというべきである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,本願は,その余の請求項に係る発明に言及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-02 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願平11-35942
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 郡山 順
石川 太郎
発明の名称 傾斜磁場コイル装置  
代理人 村松 貞男  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  
代理人 河井 将次  

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