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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1221255
審判番号 不服2009-6456  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-26 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 特願2003-198429「カートリッジシールの穿孔具を備えた自動測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月10日出願公開,特開2005- 37179〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は,平成15年7月17日の出願であって,平成20年10月16日付けで拒絶理由通知書が出され,同年12月22日付けで手続補正書が提出され,平成21年2月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年3月26日付けで,拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願請求項1?6に係る発明は,平成20年12月22日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものと認められる。そして,その請求項1に係る発明は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項1】
チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引する昇降可能なノズルを有する分注装置と,少なくとも一つのウエル,及びウエルの開口部を密封するシールを有する自動測定用カートリッジが前記ノズルに対応して載置される測定テーブルと,測定テーブルを移動させる駆動装置とを有する自動測定装置であって,
前記自動測定装置は,エッジを有する鋭利な形状の先端部と軸部とを有する,昇降可能な穿孔具を備え,前記カートリッジのウエルの上に穿孔具の先端部が位置するように測定テーブルが移動し,かつ,穿孔具が下降したときに,穿孔具の先端部によってシールに穿孔することを特徴とする装置。」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第01/84152号(以下,「刊行物1」という。)及び特表2002-525574号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。(なお,下線は,当審にて付記したものである。)
(1)刊行物1(国際公開第01/84152号)
(1a)第2頁下から3行?第3頁2行
「すなわち,本発明によれば,検体中に含まれる被測定成分を測定する際に使用されるカートリッジであって,当該カートリッジは,少なくとも所定量の検体を所望の倍率に希釈する希釈ウエル,および,検体中の被測定成分とこれと特異的に反応する物質とを反応させる反応ウエルを有してなることを特徴とするカートリッジが提供される。」
(1b)第4頁14行?17行
「図1は,実施例1のカートリッジの概要を示す図である。図中の符号は以下の通りである。1:は分注ウエル,2:希釈ウエル1,3:希釈ウエル2,4:磁性粒子収納ウエル(反応ウエル1),5:洗浄ウエル1,6:標識抗体収納ウエル(反応ウエル2),7:洗浄ウエル2,8:測光ウエル。」
(1c)第9頁3行?9行
「本発明カートリッジは,希釈液,標識体,洗浄液等の試薬および/または溶液等を充填しておく場合には,異物の混入および試薬等の蒸発・劣化を避けるためにその上部をアルミニウム箔,プラスチックフィルム等でシールして封入することが好ましい。特にアルミニウム箔のシールは自動測定装置の穿孔機構で自動的に簡便に開封できるので好ましい。また,試薬および/または溶液等を他のカートリッジに充填して,これを併用して測定を行う場合には,該カートリッジも封入することが好ましい。」
(1d)第13頁下から6行?第14頁5行
「本発明カートリッジを組み込んで用いる自動測定装置は,少なくとも,本発明カートリッジを収容するカートリッジ収容部,カートリッジ収容部に収容されるカートリッジに試薬および/または検体を分注する分注部およびカートリッジ収容部に収容されるカートリッジ上の反応生成物を測定する測定部を備える。カートリッジ収容部は,本発明のカートリッジを収容できるような構造とされる他は,通常のカートリッジ収容部と同様でよい。分注部は,試薬および/または検体の種類や性状に応じて,液体吸引・吐出機構等の通常の機構により構成される。ここで分注とは,カートリッジのウエルにカートリッジ外から試薬および/または検体を移すこと,ならびに,カートリッジ上の一つのウエルから他のウエルに試薬および/または検体を移すことの両方を包含する。測定部は,反応生成物の種類や性状に応じて,測光機構等の通常の機構により構成される。」
(1e)第14頁13行?15行
「分注部は,試薬および/または検体と接触する部分(チップ等)が交換可能なものであることが好ましい。この部分を測定毎に交換することにより,次の測定に用いるカートリッジの汚染を防止することが容易になる。」
(1f)第16頁1行?第17頁末行
「実施例1 HBsAg,HCV抗体,HIV抗体,HTLV-1抗体およびTP抗体の測定(A)
図1に示したポリスチレンで作製されたカートリッジを用いて測定を行った。該カートリッジの希釈ウエル1(2),希釈ウエル2(3),磁性粒子収納ウエル(4),標識抗体収納ウエル(6),洗浄ウエル1(5),洗浄ウエル2(7),測光ウエル(8)に,上記調製例1の1?5で調製した各試薬および溶液を充填後,各試薬収納ウエル上部をアルミニウム箔でシールした。充填位置および充填分量は次の通りであった。
(中略)
5連の吸引・吐出機構と5連の磁性粒子分離機構を備えた自動測定装置で以下の工程に従い,作製した5種類の試薬カートリッジを同時に測定した。
(1)検体(陰性コントロール血清,陽性コントロール血清)をHBsAg用カートリッジ,HCV抗体用カートリッジ,HIV抗体用カートリッジ,HTLV-1抗体用カートリッジおよびTP抗体用カートリッジの各々の分注ウエルに70μl以上分注する。
(2)検体を分注した試薬カートリッジを自動測定装置にセットする。試薬カートリッジの並べ方は任意で構わない。
(3)自動測定装置をスタートさせる。
(4)自動測定装置は試薬カートリッジに添付されたバーコードを読んで,どの分析項目が選択されたかを認識する。以後5ヶの試薬カートリッジに対して同一の工程が同時並行で行われる。
(5)試薬カートリッジ上部のアルミニウムシールを棒状の突起物で穿孔する。
(6)分注ウエル(1)から検体70μlを吸引し,希釈ウエル1(2)に全量吐出する。さらに希釈ウエル1(2)で吸引・吐出操作を繰り返すことによって第一段目希釈工程が行われる。
(7)希釈ウエル1(2)から検体65μlを吸引し,希釈ウエル2(3)に全量吐出する。さらに希釈ウエル2(3)で吸引・吐出操作を繰り返すことによって第2段目希釈工程が行われる。
(8)希釈ウエル2(3)から検体60μlを吸引し,磁性粒子収納ウエル(4)で吐出し磁性粒子と混合し,42℃で10分間反応させる。
(9)磁性粒子収納ウエル(4)で磁石によって磁性粒子を分離し,さらに磁性粒子を洗浄ウエル1(5)で洗浄後,永久磁石で磁性粒子を分離する。
(10)磁性粒子を標識抗体収納ウエル(6)に分注し,さらに混合後42℃で10分間反応させる。
(11)標識抗体収納ウエル(6)で磁石によって磁性粒子を分離し,さらに磁性粒子を洗浄ウエル2(7)で洗浄後,永久磁石で磁性粒子を分離する。
(12)磁性粒子を測光ウエル(8)に分注し,AMPPD溶液と混合し,42℃で5分間酵素反応後,測光ウエル上部から光電子増倍管(PMT)で発光量を測定する。
上記の測定を12日間に渡って繰り返し,日間再現性を検討したところ以下のように良好な結果を得た。」
(1g)図1
図1には,分注ウエル(1),希釈ウエル1(2),希釈ウエル2(3),磁性粒子収容ウエル(4),洗浄ウエル1(5),標識抗体収納ウエル(6),洗浄ウエル2(7),測光ウエル(8)が形成されたポリスチレン製のカートリッジが記載されている。

上記摘記事項(1f)には,「図1に示したポリスチレンで作製されたカートリッジを用いて測定を行った。該カートリッジの希釈ウエル1(2),希釈ウエル2(3),磁性粒子収納ウエル(4),標識抗体収納ウエル(6),洗浄ウエル1(5),洗浄ウエル2(7),測光ウエル(8)に,上記調製例1の1?5で調製した各試薬および溶液を充填後,各試薬収納ウエル上部をアルミニウム箔でシールした。充填位置および充填分量は次の通りであった。」と記載されており,図1記載のウエル(2)?(8)には,調製された試薬及び溶液が充填され,アルミニウム箔でシールされることが把握される。そして,このシールされたカートリッジが,試薬カートリッジとされることが把握される。
また,上記摘記事項(1f)に「5連の吸引・吐出機構と5連の磁性粒子分離機構を備えた自動測定装置で以下の工程に従い,作製した5種類の試薬カートリッジを同時に測定した。」と記載されているから,自動測定装置で試薬カートリッジが測定されることが把握される。

これらの記載および図面を勘案すると,刊行物1には,次の発明が記載されている。
「チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引する吸引・吐出機構を備えた分注部と,複数のウエルの開口部を密封するアルミニウム箔シールを有する試薬カートリッジが,吸引・吐出機構に対応してカートリッジ収容部に置かれ,測定される自動測定装置であって,
前記自動測定装置は,棒状の突起物を有する穿孔機構を備え,棒状の突起物によって前記アルミニウム箔シールに穿孔する装置。」(以下,「刊行物1発明」という。)

(2)刊行物2(特表2002-525574号公報)
(2a)7頁17行?8頁13行
「 【0014】
(II.サンプル操作システム)
一般的に,図1を参照すると,本発明のサンプル操作システムは,複数のアドレス可能作業面座標(例えば,電気泳動分析されるサンプルを含むサンプルウェル6)に配置された複数のサンプルを支持するための作業面5;複数の装填ウェル20(各ウェルは対応するキャピラリーチューブ21と流体連絡する)を備えるサンプル装填アセンブリ15;およびサンプルを作業面から装填ウェルへ移動するためのプログラム可能サンプル移動デバイス25を備える。この物質移動デバイスは,作業面場所と装填ウェルとの間で1対1対応が要求されないようにプログラムされ得る。
【0015】
(A.作業面)
本発明の作業面5は,複数のサンプルがサンプル装填アセンブリ15への移動の前に格納され得る場所を提供する。サンプルは,プログラム可能サンプル移動デバイス25が各サンプルを独立して自動的に配置し得,アクセスし得るように作業面座標においてこの作業面上に格納される。例えばサンプルは,複数のアドレス可能場所に配置されるサンプルウェル6内に配置される。好ましくは,蒸発を防ぐために,このサンプルは低揮発性溶媒(例えばホルムアミド)に溶解される。
【0016】
好ましくは,この作業面は,従来様式で配列された複数容器を収容するように構成される。一般的にこの容器は,使用者により容易に置換され得るようにこの作業面上に配置される。代表的な容器形式には,矩形アレイに配列された96,384または1536ウェルを有するマイクロタイタープレートが挙げられる。この容器は開放または閉鎖され得る。例えば,96ウェルプレートは,穿孔可能カバー(例えばポリマーフィルム)でカバーされ得る。」
(2b)9頁14行?25行
「 【0020】
図1に示されるように,本発明に従った好ましいプログラム可能サンプル移動デバイス25は,(1)ロボットアーム50を含む多軸ロボット45,および(2)ロボットアーム上に配置された1つ以上のピペット56を含むピペットヘッド55を備える。
【0021】
(1.多軸ロボット)
好ましい実施態様の多軸ロボットは,2つ以上の軸に沿った運動を規定し得る任意の従来のプログラム可能ロボットであり得る。例えば,このロボットは,3つの直線軸(例えばx,yおよびz軸)または直線および回転軸(例えばr,θおよびω軸)の組み合わせを有する3軸ロボットであり得る。好ましくはこの多軸ロボットは,3つの直線軸を有する3軸ロボットである。」
(2c)11頁16行?28行
「 【0026】
(2.ピペットヘッド)
このサンプル移動デバイスのピペットヘッドは,サンプルを作業面から収集するよう作用し,作業面と装填ウェルとの間で移動の間にこのサンプルを含み,そしてサンプルを装填ウェルへ分配する。このピペットヘッドは,マイクロリットル容積のサンプルを制御され再現可能な様式で(例えば容積で2.5μl+/-15%)収集し得る。
【0027】
本発明の好ましいピペットヘッドは,図3に示される。この図に示されるように,ピペットヘッド55は,(1)ピペット56,(2)チップハウジング70,およびチップ(3)ストレートナー75を含む。このピペットヘッドは,図には示されないが例えば真空ポンプ,流体通路,および流体ポンプなどの関連する流体制御系(fluidcs)と流体連絡し得る。」
(2d)12頁下から12行?下から6行
「 【0030】
図3は,2つのピペットを有するピペットヘッドを示すが,任意の数のピペットが使用され得る。しかし,次のトレードオフが考慮されなければならない。多くのピペットが使用されるほど,この装置が複数サンプルを作業面から装填ウェルに搬送し得るスピードが増加する。しかし,正確なチップ配置の問題は,ピペットの数が増加すると悪化する。好ましくは,ピペットの数は,1から20ピペットの範囲であり,より好ましくは約2ピペットと8ピペットとの間である。」
(2e)13頁下から7行?14頁下から6行
「 【0033】
図3は,2-ピペットピペットヘッドへ適用される,好ましい実施態様に従った好ましいチップストレートナーを示す。チップストレートナー75は,(1)チップガイド110,(2)アーム115,および(3)リニアアクチュエータ(図示されず)を備える。チップガイド110は,2つのピペット間の分離距離を規定するよう作用する。この分離距離は,特定の適用において要求される任意の距離であり得るが,標準タイタープレート様式と適合し得,分離距離は好ましくは9mmであり,またはその整数分の1(例えば9/2mm,9/3mm,9/4mmなど)である。このピペットは,このチップガイドに形成されたV溝120に載置される。あるいは,このピペットはチップガイド110を通して穴を通過し得る。必要に応じて,このチップガイド110は,1つ以上の穿孔機構125を含む。これらの穿孔機構は,サンプルウェルをカバーするシール材料を穿孔するよう作用し,例えばParafilm(登録商標)シートは,96ウェルのマイクロタイタープレートをカバーする。リニアアクチュエータは,チップガイド110の往復運動を実行する任意のアクチュエータであり得る。好ましくはこのチップストレートナー機構は,位置フィードバックシステムを含む。
【0034】
図4?6は,操作中のチップストレートナーを示す。図5は,チップストレートナーが充分に伸長された様子を示す。ここで穿孔機構は,サンプルウェル6をカバーするカバーフィルム130を穿孔する。この伸長された位置において,この穿孔機構は,このカバーフィルムを穿孔するためにピペットのチップを越えて延びる。図4は,充分に後退された位置におけるチップストレートナーを示す。この位置において,チップストレートナーからの干渉なく,このピペットが深いリザーバまたはトラフにアクセスすることを可能にするように,このチップストレートナーは,ピペット入口135から最大程度に分離される。図6は,中間位置におけるチップストレートナーを示す。この位置において,このチップストレートナーは,ピペットの入口の間で堅固な間隔を提供する一方で,同時にこのピペト入口とチップガイド110との間の充分な距離を提供し,このピペット入口135が浅い閉じ込めウェルにアクセスすることを可能にする。これはピペットがサンプルウェルまたは装填ウェル内に配置されるときのチップストレートナーの位置である。」
(2f)図1?図6
また,図3には,穿孔機構125が設けられたチップガイド110について図示されており,図4?図6には,アーム125が伸縮することで,チップガイド110が上下動する過程が図示されている。

4.対比・検討
(対比)
本願発明と刊行物1発明を対比すると,
ア.刊行物1発明の「チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引する吸引・吐出機構を備えた分注部」について,チップを有する吸引・吐出機構といえば,普通ノズルといわれるものであるから,刊行物1発明の「吸引・吐出機構」は,本願発明の「ノズル」に相当することは明らかである。
そうすると,刊行物1発明の「チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引する吸引・吐出機構を備えた分注部」と,本願発明の「チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引する昇降可能なノズルを有する分注装置」とは,「チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引するノズルを有する分注装置」という点で共通する。

イ.刊行物1発明の「複数のウエルの開口部を密封するアルミニウム箔シールを有する試薬カートリッジが,吸引・吐出機構に対応してカートリッジ収容部に置かれ,測定される自動測定装置であって,」について,刊行物1発明の「アルミニウム箔シール」は,本願発明の「シール」に相当する。
刊行物1発明の「試薬カートリッジ」は,上記摘記事項(1d)(1f)から,自動測定装置が,試薬カートリッジ上の反応生成物を測定することが把握されるから,本願発明の「自動測定用カートリッジ」に相当する。刊行物1発明の「カートリッジ収容部」は,上記摘記事項(1d)によれば,「通常のカートリッジ収容部と同様でよい」とされており,一般的に自動測定装置に設けられたカートリッジ収容部は,テーブルの上に形成されるから,本願発明の「測定テーブル」に相当することは明らかである。
以上のことを総合すると,刊行物1発明の「複数のウエルの開口部を密封するアルミニウム箔シールを有する試薬カートリッジが,吸引・吐出機構に対応してカートリッジ収容部に置かれ,測定される自動測定装置」と,本願発明の「少なくとも一つのウエル,及びウエルの開口部を密封するシールを有する自動測定用カートリッジが前記ノズルに対応して載置される測定テーブルと,測定テーブルを移動させる駆動装置とを有する自動測定装置」とは,「少なくとも一つのウエル,及びウエルの開口部を密封するシールを有する自動測定用カートリッジが前記ノズルに対応して載置される測定テーブルを有する自動測定装置」という点で共通する。

ウ.刊行物1発明の「前記自動測定装置は,棒状の突起物を有する穿孔機構を備え」と,本願発明の「前記自動測定装置は,エッジを有する鋭利な形状の先端部と軸部とを有する,昇降可能な穿孔具を備え,・・・穿孔具が下降したときに,穿孔具の先端部によってシールに穿孔することを特徴とする装置。」とは,「前記自動測定装置は,軸部を有する穿孔具を備え,穿孔具の先端部によってシールに穿孔する装置。」という点で共通する。

以上のことから,両者は,次の点:
(一致点)
「チップが装着され,チップを介して液体を吐出,又は吸引するノズルを有する分注装置と,少なくとも一つのウエル,及びウエルの開口部を密封するシールを有する自動測定用カートリッジが前記ノズルに対応して載置される測定テーブルを有する自動測定装置であって,
前記自動測定装置は,軸部を有する穿孔具を備え,穿孔具の先端部によってシールに穿孔することを特徴とする装置。」
で一致し,次の点で相違する。

(相違点)
ア.相違点1
ノズルが,本願発明では「昇降可能」であるのに対して,刊行物1発明ではそれが不明な点。

イ.相違点2
自動測定装置が,本願発明では「測定用テーブルを移動させる駆動装置」を具備し,「前記カートリッジのウエルの上に穿孔具の先端部が位置するように測定テーブルが移動」するのに対して,刊行物1発明では,かかる特定事項を具備していない点。

ウ.相違点3
穿孔具が,本願発明では,「昇降可能」であって,「下降したときに」シールが穿孔されるのに対して,刊行物1発明では穿孔具の動作が不明である点。

エ.相違点4
穿孔具が,本願発明では「エッジを有する鋭利な形状の先端部」を有するのに対して,刊行物1発明では,棒状の突起物であって,軸部を有するものの,先端部はエッジを有する鋭利な形状ではない点。

(相違点についての検討)
ア.相違点1について
ノズルを昇降可能にする分注部は,本願出願前より周知の事項である。一例をあげれば,刊行物2には摘記事項(2b)には,X,Y,Z軸に移動可能なロボットアームからなるプログラム可能なサンプル移動デバイス25について記載されており,摘記事項(2c)からは,サンプル移動デバイス25にピペットヘッドが装着されることが把握される。そうすると,ピペットヘッド,即ち,ノズルは,ロボットアームにより昇降可能に構成されていることとなるから,ノズルを昇降可能にする分注部が記載されているといえる。
よって,刊行物1発明において,上記周知の技術的事項を付加して,相違点1に記載の本願発明の如く構成することは,当業者が何の創作性もなくなし得たことといえる。

イ.相違点2について
自動分析の分野において,ウエルを搭載したテーブルを移動させ,ウエルの位置とノズルの位置を位置決めする装置は,例えば,刊行物A:特開昭59-147268号公報[第5頁左上欄4?7行,第7頁右上欄1行?第8頁左上欄9行及び第1図],刊行物B:特開2000-206008号公報[【0016】及び図1]に記載されているように,本願出願前より周知である。
他方,刊行物1発明において,試薬カートリッジからチップを介して液体を吐出又は吸引したり,試薬カートリッジのウエルの開口を密封するシールに穿孔具で穿孔するには,チップや穿孔具とウエルの位置を対応させるべく動かし位置決めする必要があることは自明な事項である。かかる位置決めには,試薬カートリッジを動かすか,チップ又は穿孔具を動かすかの2つの手段しかない。
そうすると,刊行物1発明において,上記周知の事項を適用して,試薬カートリッジを動かし,位置決めすることにより,本願発明の如く「測定用テーブルを移動させる駆動装置」を具備し,「前記カートリッジのウエルの上に穿孔具の先端部が位置するように測定テーブルが移動」するように構成することは,当業者が,特段の創作力を要することなく,なし得たことといえる。

ウ.相違点3について
刊行物1発明において,棒状の突起物を有する穿孔機構により,試薬カートリッジのシールを穿孔しようとすれば,穿孔機構が下降するか,試薬カートリッジが穿孔機構に向かって上昇するしかない。
そして,刊行物2には,摘記事項(2e)の如く,リニアアクチュエータにより往復動するチップガイドに設けた穿孔機構125により,ウエルをカバーするカバーフィルムを穿孔するものが記載されている。そして,摘記事項(2f)の如く,図4?図6の一連の動きからみて,穿孔機構125は上下動しており,下降により穿孔されているといえる。
そうすると,刊行物1発明において,刊行物2記載の前記事項を適用することで,穿孔具が昇降可能であって,下降したときに,穿孔されるように構成することは,当業者が容易になし得たことといえる。

エ.相違点4について
穿孔具の先端について,一般的に,丸みのある鈍い形状ではなく先端部が尖った鋭利な形状である方が穿孔し易く,さらに穿孔具をシールへ下降する穿孔具の軸線方向に直角な方向に「刃部」すなわちエッジ部が存在する方が,穿孔具の軸線方向だけでなくエッジ部のある方向にもシールを破断させることができ,より穿孔し易くなることは,日常生活において普通の人でも経験している事項にすぎない。しかも,以下の周知例に記載されているとおり,エッジを有する鋭利な形状の穿孔具は,測定装置の分野においても,容器を閉鎖している部材を穿孔する際に採用されている周知の手段にすぎない。例えば,
刊行物C:特開平2-132344号公報
「第3図cに示された替え刃3lは,四つ目の替え刃であって,先端から両側に後方に向かって後退する二つの傾斜した刃51aをもった替え刃の2枚を用意し,一方の替え刃の基端部5lbと他方の替え刃の先端部とに相補的な切り込み51Cを入れ,互いに90度の角度配置で組み合わせることによって形成されている。かくてこの替え刃を用いるときは,一回の駆動で密封包装体に十文字の切り込みを形成することができる。」(第7頁右上欄6?15行)と記載されており,穿孔部材51の先端に設けた「刃51a」は,本願発明の「エッジを有する鋭利な形状の先端部」に相当する。

刊行物D:特開平7-274939号公報
「【0031】検査部58ではバイアル瓶9内に粉末検体が入っているが否か等を検査し,滅菌のため着脱自在とした開栓部59では複数の十字状刃61を昇降動させることでバイアル瓶9のゴム栓に十字カットを形成し,攪拌部60ではキャップ押え62でバイアル瓶9のアルミシールされたキャップ部を押えた状態で攪拌を行い,更に溶解液供給及び検体液採取部P1にあっては前記十字カットを介してバイアル瓶9内に前記ピペッターチップ42を用いて溶解液を供給するとともに粉末状検体を溶解した検体液を採液する。尚,検体液を採液する場合には図11の想像線で示すようにクランプ治具57を若干回転させてバイアル瓶9を斜めにするとともにバイアル瓶9の下降防止治具60aによってバイアル瓶9の下がりを防ぎ,余すことなく検体液を吸引することができる。」及び図11に記載のように,「開栓部59の十字状刃61」は,本願発明の「エッジを有する鋭利な形状の先端部」に相当する。

刊行物E:実願平5-26059号(実開平6-85295号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM
「【0015】 円錐体22は,図4?7に示す実施例に於ては,更にその外壁に突端から嵌合用基部21に至る峰刃22aが形設せられ,シール蓋4の切断開披をよりスムースに行ない得るようになっている。この峰刃22aの形状としては図4及び5に示す如きストレート刃であっても良いが,図6及び7に示す如き鋸刃状とするのが更に優れたシール蓋4の切断効果が得られる。
【0016】 峰刃22aの具体的形設法としてはその如何を問わないが,円錐体22の錐面が峰(刃)として残存する谷部22bの形成により行なうのが簡便であり,また峰刃22aの形設数としては通常2?6本程度,特に3?4本とするのが好ましい。」
「【要約】
【構成】 容器口を閉止する下端面を有する柱状本体の当該下端面に,容器口内壁面と接面する外壁面を有する嵌合用基部及び該嵌合用基部に連成された円錐体よりなる切断挿入部を形成した容器口シール蓋開披具。
【効果】 開披の際に,内容物の流出や飛散による手指や衣類の付着・汚損を防止し得ると共に,容器口を何ら障害物のない開口状態とすることができるので,自動測定機器による効率的な各種分析試験が可能となる。」及び図1?図7記載のように,「峰刃22a」は,本願発明の「エッジを有する鋭利な形状の先端部」に相当する。
そうすると,刊行物1発明において,棒状の突起物を有する穿孔機構に,上記周知の技術的事項を付加して,穿孔具の先端形状を,相違点4に記載の本願発明の如く構成することに困難性はない。

そして,本願発明の作用効果についても,刊行物1,刊行物2及び上記周知の事項から,当業者が予測し得るものであって,格別顕著な効果が奏されるとはいえない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,本願出願前に頒布された上記刊行物1,2に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-01 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願2003-198429(P2003-198429)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 淳史  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 石川 太郎
秋月 美紀子
発明の名称 カートリッジシールの穿孔具を備えた自動測定装置  
代理人 川口 嘉之  
代理人 遠山 勉  
代理人 松倉 秀実  

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