• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01H
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  H01H
管理番号 1221264
審判番号 無効2008-800219  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-10-27 
確定日 2010-08-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第2597526号発明「押し棒を有する電気スイッチ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第2597526号に係る発明についての出願は、平成 4年 1月18日に特許出願されたものであって、平成 9年 1月 9日にその発明について特許の設定登録がなされた。

これに対し、平成20年10月27日付けで請求人 IDEC株式会社 より無効審判の請求がなされ、平成21年 2月17日付けで被請求人 ゲオルグ シュレーゲル ジーエムビー エイチ アンド カンパニー より答弁書が提出され、平成21年 5月14日付けで請求人より弁駁書が提出されたものである。


2.本件発明

本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、明細書の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 電気回路の接点を開閉する接点具と、その接点具を開閉する為に操作する作動部と、作動部の動きを接点具に伝える押し棒とを有し、接点具が電気回路を閉じて電気回路を接続した状態と、接点具が電気回路を開いて電気回路を遮断し得る状態の2つを有する押し棒を有する電気スイッチに於いて、上記接点具は作動部と接点具を有する接点保持部が一体結合された状態で押し棒が停止状態の時に閉じていて電気回路を接続と成し、作動部の操作によって押し棒が押下された時に開いて、電気回路を遮断となす以外に、作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できるように構成されていることを特徴とする押し棒を有する電気スイッチ。」


3.請求人の主張の概要

審判請求人は、審判請求書及び平成21年5月14日付け弁駁書によれば、次の理由及び証拠から、本件特許発明についての特許を無効とするとの審決を求めている。

3-1.無効理由1

本件特許明細書の「発明の詳細な説明」には、「バネ」をはじめとする本件特許発明の発明特定事項に想到する事項に関して、当業者が実施できる程度にその構成が記載されておらず、しかもその構成は自明でもないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項の規定に違反する。
したがって、本件特許は特許法第123条第1項第3号に該当し、無効とすべきである。

3-2.無効理由2

本件特許発明の発明特定事項の「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できるように構成されている」という点が発明の詳細な説明に記載されておらず、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定に違反する。
したがって、本件特許は特許法第123条第1項第3号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>

甲第1号証:「特許庁編 特許・実用新案審査基準」(平成5年7月20日発行,社団法人発明協会,第I部 明細書 第1?第14頁)


4.被請求人の主張の概要

これに対して、被請求人は平成21年 2月17日付け答弁書にて証拠を示し、次の通り主張している。

本件特許は、本件特許の出願日において施行されている旧特許法第36条第4項、同法同条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしている。
したがって、本件特許は同法123条第1項第3号により無効とされるべきものではない。

<証拠方法>

乙第1号証:「日本電機工業会規格 JEM1219 交流負荷開閉器」(1976年(昭和42年)10月27日制定)
乙第2号証:「JISハンドブック 電気計測」(1987年(昭和62年)4月12日第1版第1刷発行)
乙第3号証:「現代制御技術体系(New Control Engineering)第7巻シーケンス制御技術(1)」(1987年(昭和62年)12月第1版第1刷発行) 乙第4号証:「電気工学ポケットブック(JR版)」(昭和25年5月20日第1版第1刷発行)
乙第5号証:「テクノシステム 第7巻 シーケンス制御」(1983年(昭和58年)1月第1版第1刷発行)


5.無効理由の検討

5-1.請求人の主張の詳細

(1)上記無効理由1について

請求人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について、次の(ア)?(エ)の主張をしている。

(ア)第1の実施例には、本件特許発明の発明特定事項として挙げられている「バネ」に関する構成が一切記載されておらず、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない。

(イ)第2の実施例には、本件特許発明の発明特定事項として挙げられている「バネ」に関する構成が一切記載されておらず、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない。

(ウ)第3の実施例には、発明特定事項の「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」ための構成に関する明確な記載がなく、しかも、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない。

(エ)第4の実施例には、発明特定事項の「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」ための構成に関する明確な記載がなく、しかも、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない。


(2)上記無効理由2について

請求人は、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載について、次の(オ)?(ク)の主張をしている。

(オ)第1の実施例には本件特許発明の発明特定事項の「バネ」に関する構成が記載されていない。また、第1の実施例には本件特許発明の発明特定事項の「接点具」に関する構成が記載されていない。すなわち、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。

(カ)第2の実施例には本件特許発明の発明特定事項の「バネ」に関する構成が記載されていない。また、第2の実施例には本件特許発明の発明特定事項の「接点具」に関する構成が記載されていない。すなわち、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。

(キ)第3の実施例には本件特許発明の発明特定事項の「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」構成が記載されていない。

(ク)第4の実施例には本件特許発明の発明特定事項の「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」構成が記載されていない。


5-2.当審の判断

(1)上記「無効理由1」について

(1-1)上記主張(ア)について

本件特許明細書には、第1の実施例に関し、段落【0009】?【0012】及び図1?3において説明がなされているが、第1の実施例では、請求人の主張するとおり、作動部と接点保持部とを分離した時に、接点具が電気回路を開くために作用する「バネ」に関する記載はない。しかしながら、段落【0005】の【課題を解決する為の手段】には、「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」と、「バネ」について明示的に記載されているとともに、段落【0011】には、「而してホルダー12をケース4から分離した場合に、スイッチ14の押し棒20は図3の様な元の状態に戻る。」と記載されている。そして当該段落【0011】の記載は、本件特許発明の発明特定事項である「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」構成について説明しているものであることは明らかである。すなわち、『作動部と接点保持部とを分離した時に、接点具が電気回路を開くために作用する「バネ」に関する記載はなく、』(審判請求書第9頁第22行?同第23行)とする請求人の主張を採用することはできない。そして、バネの作用により本来の常開(あるいは常閉)の状態に戻るスイッチが当業者にとって周知慣用の技術である(被請求人が提示した乙第3?5号証参照。)ことを鑑みると、作動部と接点保持部を分離した時に作用して、接点具が電気回路を開き電気回路を遮断できるような「バネ」は、当業者であれば想到し得るものであり、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはいえない。

また、請求人は、『第1の実施例では、・・・分離時に「接点具」をオフする「バネ」がどれで、どこに、どのように設けられるのか、また、そのような「バネ」がどのように働くのか、その構成は一切明らかにされておらず、当業者であってもその構成を想到することはできない。』(審判請求書第9頁第22行?同第26行)と主張する。
ここで、当該本件特許発明の発明が解決しようとする課題は、段落【0004】に記載されているように「電気スイッチの接点具を開閉する為に作動部を操作し、その操作を押し棒を介して接点具に伝えるように電気スイッチに於いて;押し棒を有する事からスイッチ盤への取付や保守の為に作動部と押し棒を分離できるようにした上で、上記分離時には接点具が必ず開かれ、電気回路が遮断されるようになし、安全管理上有利とする」ことであり、そして、上記2.において認定した本件特許発明の発明特定事項としての「バネ」は、明細書の請求の範囲の請求項1に記載から明らかなように、作動部と接点保持部を分離した時に作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断するものである。すなわち、発明が解決しようとする課題において、バネの構成及び設置態様について着目しているものではなく、当該バネの構成及び設置態様が、作動部と接点保持部を分離した時に作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断するという本件特許発明における機能に影響を及ぼすものとして技術開示を行っているものでもない。すなわち、「「バネ」がどれで、どこに、どのように設けられるのか、また、そのような「バネ」がどのように働くのか」という点が記載されていないことを理由に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとすることはできない。
さらに弁駁書において請求人は、『すなわち、本件特許発明に係る「電気スイッチ」では、b接点構成であるが故に、押し棒の押下を止めると自動復帰してオンするためにいわゆる可動端子をオンする方向に付勢する復帰用「バネ」を内蔵していると想像することは可能である。(改行)(V)しかしながら、仮に本件特許発明に係る「電気スイッチ」が、分設dやeには明記されていない復帰用「バネ」を内蔵したb接点構成のスイッチであるとしても、この復帰用「バネ」が、上記した分説fのように、(改行)「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」(改行)という機能を果たす「バネ」と同じものであるのか、或いは、内蔵の復帰用「バネ」とは別に他の「バネ」が設けられていてこの他の「バネ」の作用によって分説fのように電気回路を開くのかが、第1、第2の実施例には一切記載されていない』(弁駁書第4頁第10行?同第22行)と主張する。しかしながら上記したように、上記2.において認定した本件特許発明の発明特定事項としての「バネ」は、明細書の請求の範囲の請求項1に記載から明らかなように、作動部と接点保持部を分離した時に作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断するものであり、電気スイッチが復帰用「バネ」を内蔵したものであるのかどうかについて問題にしたものではないし、電気スイッチのタイプによって当該「バネ」に工夫をしたものでもない。すなわち、発明の詳細な説明において「内蔵の復帰用「バネ」とは別に他の「バネ」が設けられていてこの他の「バネ」の作用によって分説fのように電気回路を開くのか」という点が記載されていないことを理由に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとすることはできない。
そしてさらに、弁駁書において請求人は、『また、被請求人が、分設dやeには明記されていない内蔵の復帰用「バネ」により、上記した分説fのように、「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」というのであれば、作動部と接点保持部との分離時に内蔵の復帰用「バネ」をどのように作用させて電気回路を開くのかを明示しなければ、当業者といえども容易に実施をすることは不可能である。』(弁駁書第4頁第23行?同第22行)と主張する。しかしながら、上記したように、上記2.において認定した本件特許発明の発明特定事項としての「バネ」は、明細書の請求の範囲の請求項1に記載から明らかなように、作動部と接点保持部を分離した時に作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断するものであり、電気スイッチが復帰用「バネ」を内蔵したものであることを前提に、内蔵の復帰用「バネ」の態様を問題にしたものではないし、電気回路の開閉との関係を検討したものでもない。すなわち、発明の詳細な説明において「作動部と接点保持部との分離時に内蔵の復帰用「バネ」をどのように作用させて電気回路を開くのか」という点が記載されていないことを理由に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとすることはできない。

請求人は、証拠として上記甲第1号証を示し、『上記した甲第1号証(審査基準)の第11?12行の「4.2特許法第36条第4項違反の類型 4.2.2発明の構成の記載不備(1)?(5)」に該当する』(審判請求書第18頁第14行?第16行)と主張している。しかしながら、上記したように、作動部と接点保持部を分離した時に作用して、接点具が電気回路を開き電気回路を遮断できるような「バネ」について、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはいえない。すなわち、審査基準に示された当該類型には該当しない。
また、請求人は、『甲第1号証の第13頁「4.2特許法第36条第4号違反の類型4.2.5特許請求の範囲との関係の記載不備(2)の「請求項に上位概念の事項が記載されており、発明の詳細な説明に当該上位概念に含まれる一部の実施例のみが記載されている場合であって、当該上位概念に含まれる他の部分について、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていない場合。」に該当する。』(審判請求書第18頁第16行?第21行)と主張している。ここで、本件特許発明の発明が解決しようとする課題は、段落【0004】に記載されているように「電気スイッチの接点具を開閉する為に作動部を操作し、その操作を押し棒を介して接点具に伝えるように電気スイッチに於いて;押し棒を有する事からスイッチ盤への取付や保守の為に作動部と押し棒を分離できるようにした上で、上記分離時には接点具が必ず開かれ、電気回路が遮断されるようになし、安全管理上有利とする」ことであり、そして、上記2.において認定した本件特許発明の発明特定事項としての「バネ」は、明細書の請求の範囲の請求項1に記載から明らかなように、作動部と接点保持部を分離した時に作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断するものである。すなわち、請求項には本件特許発明の発明が解決しようとする課題に対応した事項が記載されているものであり、当該請求項の記載は上位概念の記載とは認められない。また、発明の詳細な説明に一部の実施例のみが記載されているものでもない。よって、審査基準に示された当該類型には該当しない。

以上より請求人の上記主張(ア)には理由がない。


(1-2)上記主張(イ)について

本件特許明細書には、第2の実施例に関し、段落【0013】及び図4において説明がなされているが、第2の実施例では、請求人の主張するとおり、作動部と接点保持部とを分離した時に、接点具が電気回路を開くために作用する「バネ」に関する記載はない。しかしながら、段落【0005】の【課題を解決する為の手段】には、「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」と、「バネ」について明示的に記載されている。すなわち、『作動部と接点保持部とを分離した時に、接点具が電気回路を開くために作用する「バネ」に関する記載はなく、』(審判請求書第10頁第29行?同第11頁第2行)とする請求人の主張を採用することはできない。そして、バネの作用により本来の常開(あるいは常閉)の状態に戻るスイッチが当業者にとって周知慣用の技術である(被請求人が提示した乙第3?5号証参照。)ことを鑑みると、作動部と接点保持部を分離した時に作用して、接点具が電気回路を開き電気回路を遮断できるような「バネ」は、当業者であれば想到し得るものであり、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはいえない。

また、請求人は、『第2の実施例では、・・・分離時に「接点具」をオフする「バネ」がどれで、どこにどのように設けられるのか、また、そのような「バネ」がどのように働くのか、その構成は一切明らかでもなく、当業者がその構成を想到することは不可能である。』(審判請求書第10頁第29行?同第11頁第4行)と主張するが、上記「(1-1)上記主張(ア)について」で検討し示したとおり、「「バネ」がどれで、どこにどのように設けられるのか、また、そのような「バネ」がどのように働くのか」という点が記載されていないことを理由に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとすることはできない。

以上より請求人の上記主張(イ)には理由がない。


(1-3)上記主張(ウ)について

本件特許明細書には、第3の実施例に関し、段落【0014】及び図5において説明がなされている。
請求人は、『本件特許の図5に相当する参考図2を見る限り、同じハッチングで切断面全体が表示されているケース23は、一体のものとして示されいるのであって、途中で分離不能な構造であることは間違いないと言える。・・・・・押し棒25が参考図2に示される状態以上に上昇できない構成であることも間違いない。・・・・・押し棒25および接点摺動部27がともに、途中で分離不能な構造のケース23に収納されており、押し棒25と接点摺動部27とが分離できる構成ではないことは明らかである。』(審判請求書第12頁第12行?第24行)と主張している。
しかしながら、第3の実施例では本件特許発明の「電気スイッチ」の実施例を開示しているものではなく、本願特許発明の「電気スイッチ」に適用し得る「制御キー」を例示するものであると解するべきものである。すなわち、段落【0014】には、「次いで、図5に図示された制御キーの例を示す。」と記載されており、当該「制御キー」は本件特許発明でいう「電気スイッチ」とは別異のものであり、当該「電気スイッチ」の一部の構成であると把握すべきことは明らかである。そして、当該制御キーにおいて、段落【0014】に記載のとおり、「バネ29は接点摺動部27を上方に押し上げ、」という構成を備えており、すなわち当該制御キーは、押し棒25を取り去った場合に電気回路を遮断することができる可能性のある構成であることは当業者であれば把握し得るものである。
すなわち、第3の実施例は本件特許発明の「電気スイッチ」の実施例を開示しているものではないものであるから、第3の実施例に、発明特定事項の「作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できる」ための構成に関する明確な記載がなされていないことのみを理由として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはすることはできない。

以上より請求人の上記主張(ウ)には理由がない。


(1-4)上記主張(エ)について

本件特許明細書には、第4の実施例に関し、段落【0015】及び図6において説明がなされている。そして、段落【0015】には、「図6の例は交互作動方式として図5による制御キーの場合のようなものに使用可能な接点具32の他例を図示している。」と記載されており、当該記載より、第4の実施例の接点具32以外の構成は、第3の実施例の構成を備えることが明らかである。
すなわち、上記「(1-3)上記主張(ウ)について」で検討し示したとおり、第4の実施例でも、本件特許発明の「電気スイッチ」の実施例を開示しているものではなく、本願特許発明の「電気スイッチ」に適用し得る「制御キー」を例示するものであると解するべきものであり、第4の実施例の記載のみを理由に、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはすることはできない。

以上より請求人の上記主張(エ)には理由がない。


(1-5)小括

よって、請求人の上記無効理由1の主張は理由がない。


(2)上記「無効理由2」について

(2-1)上記主張(オ)について

上記「(1-1)上記主張(ア)について」で検討したように、発明の詳細な説明には、本件特許発明の発明特定事項の「バネ」に関する構成が記載されている。

また、請求人は『第1の実施例において、「これらスイッチ13,14の各々には接点具が含まれる。」(本件公報の第2頁第3欄第48?49行)、「各スイッチ13,14は、可動の接点具と押し棒とを持ち」(本件公報の第2頁第4欄第10?11行)との記載があり、スイッチ13,14と接点具とは別個のものとして明示されていることから、スイッチ13,14は本件特許発明の発明特定事項a,b,d,e,fにおける「接点具」に相当するとは認められない。(改行)してみると、本件特許発明の発明特定事項a,b,d,e,fにおける「接点具」に関して、発明の詳細な説明の第1の実施例には一切記載されていないといわざるを得ない。』(審判請求書第17行第5行?同第13行)と主張している。
しかしながら、請求人も指摘しているとおり、「これらスイッチ13,14の各々には接点具が含まれる。」(本件公報の第2頁第3欄第48?49行(段落【0008】))及び「各スイッチ13,14は、可動の接点具と押し棒とを持ち」(本件公報の第2頁第4欄第10?11行(段落【0009】))との記載には、「接点具」が記載されている。そして当該「接点具」を、本件特許発明の発明特定事項における「接点具」とすることに矛盾は存在しない。すなわち、本件特許発明の発明特定事項における「接点具」に関して、発明の詳細な説明の第1の実施例に記載されているものである。

請求人は、証拠として上記甲第1号証を示し、『甲第1号証の第2?3頁「3.2.1特許法第36条第5項第1号違反の類型」の「(1)発明の詳細な説明中に、特許請求の範囲に記載された事項と対応する事項が、記載されていないことが明らかである場合」に該当する。』(審判請求書第19頁第1行?第4行)と主張している。しかしながら、上記したように、「バネ」及び「接点具」については、発明の詳細な説明に記載されているものである。すなわち、審査基準に示された当該類型には該当しない。

以上より、請求人の上記主張(オ)には理由がない。


(2-2)上記主張(カ)について

上記「(1-2)上記主張(イ)について」で検討したように、発明の詳細な説明には、本件特許発明の発明特定事項の「バネ」に関する構成が記載されている。

本件特許明細書には、第2の実施例に関し、段落【0013】及び図4において説明がなされている。そして、段落【0013】には、「図4による2番目の実施例の場合にも、二つのスイッチがホルダー12に挿入されている。一方のスイッチ14aを第一実施例のスイッチ14の代わりに用いている。」と記載されており、第2の実施例における説明を第1の実施例の説明にて行われていることは明らかである。そして、上記5-3.「(1)上記主張(オ)について」で検討したように、本件特許発明の発明特定事項における「接点具」に関して、発明の詳細な説明において第2の実施例をも説明した第1の実施例に記載されているものである。

以上より、請求人の上記主張(カ)には理由がない。


(2-3)上記主張(キ)について

上記「(1-3)上記主張(ウ)について」で検討し示したように、第3の実施例の記載のみを理由に、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載記載されていないとはすることができない。

以上より、請求人の上記主張(キ)には理由がない。


(2-4)上記主張(ク)について

上記「(1-4)上記主張(エ)について」で検討し示したように、第4の実施例の記載のみを理由に、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載記載されていないとはすることができない。

以上より、請求人の上記主張(ク)には理由がない。


(2-5)小括

よって、請求人の上記無効理由2の主張は理由がない。


6.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。

他に本件特許発明を無効とすべき理由を発見できない。


審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-23 
結審通知日 2009-06-30 
審決日 2009-07-13 
出願番号 特願平4-27179
審決分類 P 1 113・ 532- Y (H01H)
P 1 113・ 534- Y (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 恵一  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 金丸 治之
藤井 昇
登録日 1997-01-09 
登録番号 特許第2597526号(P2597526)
発明の名称 押し棒を有する電気スイッチ  
代理人 梁瀬 右司  
代理人 振角 正一  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ