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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1222051 |
審判番号 | 不服2007-18040 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-06-28 |
確定日 | 2010-08-19 |
事件の表示 | 特願2002-270405「非ヒトモデル動物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日出願公開、特開2004-105049〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年9月17日の出願であって、平成19年2月19日付けで拒絶理由が通知され、同年5月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月28日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願に係る発明は、本願の出願当初の明細書又は図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】G群色素性乾皮症原因遺伝子(XPG)のマウスにおける1?100もしくは760?860番目のアミノ酸を指定するコドンに相当するコドンの1つ以上が、ミスセンス変異もしくはナンセンス変異されたXPG変異遺伝子をもつ非ヒトモデル動物。」 第3 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「Mol. Cell. Biol., (1999), 19, [3], p. 2366-2372」(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (a)「G群色素性乾皮症(XP-G)原因遺伝子(XPG)は、ヌクレオチド除去修復(NER)において働く、構造特異的なDNAエンドヌクレアーゼをコードしている。XP-G患者は、軽い皮膚の異常から重篤な皮膚病学的な損傷まで、さまざまな症状を示す。一部の症例では、患者は成長不全、短命、神経学的な機能障害を示し、これらはコケイン症候群(CS)の特徴である。NERにおける3’ヌクレアーゼとして知られているXPGタンパク質の機能では、しかしながら、そのようなXP-G患者のCSの進行を説明することはできない。XPGの機能に関する知見を得るために、我々は (ヒトのXPG遺伝子に対応するマウス遺伝子である) xpg対立遺伝子の無いマウスを作製し、試験した。そのxpg欠損マウスは、出生後の成長不全を示し、早すぎる死に至った。」(第2366頁要約1?8行) (b)「4.8kbのBamHI-Bg/II 断片は、エキソン3を含んでいた(図3)。エキソン3はxpgのcDNAの開始コドンの下流264から380塩基下流に相当する。挿入による変異は、pMCneo (Stratagene社製)由来の1.1kb長のXhoI-BamHI neo遺伝子断片を、同じ転写の方向で、エキソン3のXhoI部位に挿入することで作られた。」(第2367頁左欄2?6行) (c)「xpg欠損マウスの発生 pMER5ターゲッティングベクターがマウスxpg遺伝子のエキソン3に挿入変異を起こすために設計された(図1A)。予想される挿入がなされた目的のクローンはPCRとサザンブロット分析で確認された(図1B)。目的のES細胞は,変異対立遺伝子を子孫に伝えることができるキメラマウスを得るために,C57BL/6胚盤胞に注入され,後にその点はPCRとサザンブロット分析で確認された(図1C)。xpg遺伝子の発現に対する挿入変異の影響を調べるために,新生児マウスからの全RNAがノーザンブロットにより分析された。安定なxpgの転写は,-/-ホモマウスにおいては,完全長および短縮型のいずれも検出されなかった。ヘテロ(+/-)マウスにおいては,xpgのmRNAの含量は,野生型(+/+)マウスの約半分であった(図1D)。このことは,xpg遺伝子がうまく破壊されていることを示している。」(2368頁右欄4?19行) (d)「ホモ接合のマウスを得るために、ヘテロ接合のネズミが交配させられた。163の子マウスのうち、35匹(21.5%)のマウスが成長不全を示した。PCR分析は、その35匹全てのマウスが、破壊されたxpg遺伝子のホモ接合であることを証明した。これらのマウスは、出産後23日までに死亡した(図2)。」(第2368頁右欄21?26行) (e)「xpg遺伝子欠損のホモ接合マウス由来の細胞中でヌクレオチド除去修復が不活化していることを確認するため、紫外線に対する感受性と、紫外線誘導性DNA損傷の除去反応を試験した。図3Aに示されたように、xpg欠損ホモ接合マウス由来の初期胚繊維芽細胞は、紫外線(254nm)照射に対して、重篤なXP-G患者由来の細胞や齧歯類のERCC5変異細胞のように、高感受性を示した。」(第2369頁左欄9?15行) 上記引用例1の記載事項からみて、引用例1には次の事項が記載されていると認められる。 「G群色素性乾皮症原因因子(XPG)のマウスにおけるアミノ酸配列の途中のアミノ酸を指定するコドンに対応するコドンの後に他の遺伝子を挿入する変異がされたXPG変異遺伝子をもつxpg欠損マウス。」 第4 対比 本願発明を、引用例1に記載された事項と比較する。 引用例1の(a)の記載によれば,XP-G患者の中にコケイン症候群(成長不全および短命)を併発する患者がいること、および、XPGタンパク質の機能ではコケイン症候群の進行を説明することができないため,XPG遺伝子の機能の解析の目的でXPG変異遺伝子マウスが作製され、その作製したマウスが実際に紫外線感受性、成長不全、短命という性質を示したことが理解できるから、このマウスはG群色素性乾皮症(XPG)の非ヒトモデル動物であると認められる。よって、引用例1に記載された「XPG変異遺伝子をもつxpg欠損マウス」は、本願発明の「XPG変異遺伝子をもつ非ヒトモデル動物。」に相当する。 すると、本願発明と、引用例1とは、次の点で一致する。 <一致点> G群色素性乾皮症原因因子(XPG)のマウスにおけるコドンが変異された、XPG変異遺伝子をもつ非ヒトモデル動物。 一方で、両者は次の点で相違する。 <相違点> XPG遺伝子に導入する変異が,本願発明では、「マウスにおける1?100もしくは760?860番目のアミノ酸を指定するコドンに相当するコドンの1つ以上が、ミスセンス変異あるいはナンセンス変異された」ものであるのに対し、引用例1では「アミノ酸配列の途中のアミノ酸を指定するコドンに対応するコドンの後に他の遺伝子を挿入する変異がされた」ものである点。 第5 判断 1.相違点について (1)本願発明のうち,ナンセンス変異されたXPG遺伝子をもつ場合について 引用例1の記載によれば,neo遺伝子を挿入したマウスXPG遺伝子のエキソン3のXhoI部位(ctcgag)は,配列データ(アクセッション番号U39894)から見て,XPGタンパク質の102?103位のアミノ酸残基をコードする部分に該当する。すなわち,引用例1の記載からは,XPGの1?101位のアミノ酸配列を有する蛋白が発現してもXPGタンパク質の正常な機能は奏されず,そのような変異を有するマウスは,XPG/コケイン症候群と同様の症状を示すことが理解できる。 そして遺伝子の機能を失わせる手法としては,引用例1に記載された挿入変異の他にナンセンス変異を導入することも周知である。 とすれば,例えば引用例1に記載された変異マウスと同様にXPG遺伝子の機能を失ったマウスを得るために,本願発明に包含される,「マウスにおける1?100…番目のアミノ酸を指定するコドンに対応するコドン」が「ナンセンス変異された」マウスを得ることは当業者であれば容易に想到しうることであり,それにより,引用例1に記載されたマウスと同様に,XP患者のモデル動物となるマウスが得られることは容易に予測しうることである。 (2)本願発明のうちミスセンス変異をもつ場合について 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「Gene, (1999), 234, [2], p. 353-360」(以下、「引用例2」という。)には、 ヒトXPGタンパク質の予測アミノ酸配列の分析により,ヌクレアーゼの拡大ファミリーにおいて高度に保存されたドメインを2つ有することが知られていること(354頁左欄23?31行), 最近の研究により,XPG/CS患者3名由来の細胞系のXPG遺伝子は,不安定な短縮型のXPGタンパク質をコードしていることが報告されていること(354頁左欄35?39),及び ショウジョウバエ由来XPGとヒトXPGタンパク質のアミノ酸配列のアラインメントが記載され,NドメインとIドメインという2つの保存性の高い領域が下線を付して記載され、ヒトXPGタンパク質のアミノ酸配列では,それぞれ1?104位、753?889位であること(第357頁 図2)が記載されている。 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「J. Biol. Chem, (1999), 274, [9], p. 5637-5648」(以下、「引用例3」という。)には、ヒトXPGタンパク質のD77Aのアミノ酸置換変異体およびE791Aのアミノ酸置換変異体が3’切断活性を失うことが記載されている(第5637頁要約16?21行)。ここで,本願出願前に周知の配列データからみて、ヒトXPGタンパク質の77位、791位は、それぞれマウスXPGタンパク質における77位、790位に相当する。 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「J. Invest. Dermatol., (2002.2), 118, [2], p. 344-351」(以下、「引用例4」という。)には、XPG患者由来のL858Pのアミノ酸置換変異を持つXPGタンパク質では、安定性とDNA切開活性が損なわれていることが記載されている(第344頁要約左欄19行?右欄6行)。ここで,ヒトXPGタンパク質の858位はマウスXPGタンパク質の857位に相当する。 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「Proc. Natl. Acid. Sci. USA, (1997), 94, [7], p. 3116-3121」(以下、「引用例5」という。)には、XPG患者のXPG遺伝子における変異の解析を行った結果、3人のXPG/コケイン症候群併発患者は短く変異したXPGを生産していたのに対し、軽い症状を示す1組の姉弟のXPG遺伝子は全長を保持しつつ792位にA792Vのアミノ酸置換変異があったことが記載されている(第3116頁要約第13?16行、および第3118頁左欄下から5行?第3119頁左欄2行、第3119頁図4)。ここで,ヒトXPGタンパク質の792位はマウスXPGタンパク質の791位に相当する。 上記の引用例2?5の記載からも明らかなように,本願の出願当時,その変位がXPG/コケイン症候群の原因であることが知られていたXPGタンパク質について,その1?104位、753?889位(マウスにおいては1?104位、758?888位に対応する。)の2つのドメインがそのヌクレアーゼ活性との関係において重要であること,マウスXPGタンパク質の77位,790位及び857位に対応するヒトXPGタンパク質のアミノ酸置換変異体はその活性を失うこと,XPG患者においては,XPGタンパク質が短縮型に変異していたり,マウスXPGタンパク質の791位や857位に対応するアミノ酸が変異していることが知られていた。 とすれば,当業者であれば,引用例1に記載されたマウスと同様にXPG患者の症状を示すマウスが,XPGタンパク質の活性を失わせる引用例2?5に記載されたミスセンス変異,すなわち1?100位又は760?860位のミスセンス変異を導入すれば得られるであろうことは容易に予測しうることである。 2.本願発明の効果について 本願明細書において実際に製造しその性質を確認しているXPG変異遺伝子をもつモデル動物は,XPGタンパク質の811位をアラニンとするミスセンス変異又はナンセンス変異を導入したマウスのみである。そして,該変異をホモで持つマウスについては,その胎児細胞における紫外線感受性について記載されているのみであり,胎児細胞は,マウスが出生する以前に得ることも可能であるから,得られたマウス自体がどの程度生存したのかは明らかではない。 そして,このような変異マウスが得られることは,引用例1の記載,又は引用例1?5の記載から当業者が予測しうる程度のことである。 また,本願発明のモデル動物は,XPGタンパク質の「1?100もしくは760?860番目のアミノ酸を指定するコドンに相当するコドンの1つ以上が、ミスセンス変異もしくはナンセンス変異されたXPG変異遺伝子」を有するものである。そして,その「XPG変異遺伝子」には,例えば1番目のアミノ酸をナンセンス変異させた場合のように,XPGタンパク質のアミノ酸配列を部分的に有するタンパク質が全く生産されないものから,201箇所のアミノ酸のいずれかをミスセンス変異させたもの,およびその変異を複数組み合わせたものまで広範なXPG変異遺伝子が包含されるものであり,例え,XPGタンパク質の811位をアラニンとするミスセンス変異又はナンセンス変異を有する変異遺伝子を有するマウスに顕著な効果があると仮定した場合であっても,広範な変異を包含する本願発明のモデル動物全てが顕著な効果を奏するとはいえない。 3.請求人の主張について 請求人は,審判請求書において以下のように主張する。 (1)「確かに、引用例1には、『XPG遺伝子を欠損したノックアウトマウス』が記載されているが、原査定において認定されるように、『引用例1には、XPG遺伝子を欠損したノックアウトマウスは生後の成長をせず、早死にしたことが記載されている』にすぎない(たとえば、2366頁右欄15?16行)。したがって、引用例1においては、XPG遺伝子のどの部位がその機能に必須であるかについて、格別の知見は得られておらず、記載も示唆もされていない。」 (2)「引用例2?5には、ご認定のような、XPG遺伝子、XPGタンパク質、G群色素性乾皮症に関する記載があるが、これらの記載はノックアウトマウスの諸性質を予見するものではないと考える。即ち生育可能で、XPG遺伝子の機能を保持もしくは抑制された、紫外線に高感受性を有するノックアウトマウスの作出を記載もしくは示唆するものではない。」 (3)「本発明は、請求項で規定された特定のXPG変異遺伝子をもつ非ヒトモデル動物ノックアウトマウスもしくはその作製方法に関するものである。実際に生育可能で、XPG遺伝子の機能を保持もしくは抑制された、紫外線に高感受性を有するノックアウトマウスを作製・解析した結果、得られたノックアウトマウスの諸性質がヒト病態モデルとして有用であることをはじめて見出したものであり、当業者が容易に想到し得るものではないと考える。」 主張(1)及び(2)について 前記のように,引用例1に記載の変異マウスは,胎児細胞が紫外線感受性であることが確認されており,また,XPGタンパク質の102?103位に挿入変異を有するものであるから,該タンパク質の1?101位のアミノ酸配列のみでは,XPGタンパク質が機能を奏さないことが理解できる。 また,請求人の主張は,引用例1又は引用例2?5の記載から本願発明が容易でないと主張するのみであって,それらの組み合わせにより本願発明が容易に発明することができるとの拒絶理由に対する十分な反論となっていない。 主張(3)について 本願発明のモデル動物が,実際に生育可能であることは本願明細書に記載がされていない。また,短命であることは,コケイン症候群の特徴であり,引用例1記載のマウスもヒト病態モデルとして有用であることは明らかである。 しかも,前記のように,本願発明のモデル動物が有するXPG遺伝子の変異は,明細書に記載された具体例の変異以外の広範な変異を含むものであり,請求人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。 (4)小活 したがって、本願発明は、引用例1に記載された事項又は引用例1?5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-06-17 |
結審通知日 | 2010-06-22 |
審決日 | 2010-07-05 |
出願番号 | 特願2002-270405(P2002-270405) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柴原 直司 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
平田 和男 深草 亜子 |
発明の名称 | 非ヒトモデル動物 |
代理人 | 樋口 外治 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 田崎 豪治 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 西山 雅也 |