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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1222081
審判番号 不服2008-27819  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-30 
確定日 2010-08-19 
事件の表示 特願2007- 39595「膜厚計測方法及びその装置ならびに薄膜製造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-205188〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年2月20日に特許出願されたものであって,平成20年9月12日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年11月14日付けで手続補正(以下,「本件補正1」という。)がなされ,さらに,同年12月1日付けで手続補正(以下,「本件補正2」という。)がなされたものである。そして,平成21年11月11日付けで審尋がなされ,回答書が平成22年1月15日付けで請求人より提出されたものである。


第2 本件補正1についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正1を却下する。

[理由]
1 本件補正1による補正後の請求項3に記載された発明
本件補正1は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項3についてする補正は,補正前の特許請求の範囲(平成20年1月28日付けで補正されたもの。以下,同様。)の
「【請求項3】 透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光から予め設定されている2つの色評価値を計測する色計測手段と,
2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」

「【請求項3】 透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により予め設定されている2つの色評価値を求める色計測手段と,
2つの前記色評価値から定義される直交座標系において特定された膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」
と補正するものである。

上記補正は,補正前の「検出した反射光から予め設定されている2つの色評価値を計測する」ことについて,「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により予め設定されている2つの色評価値を求める」と限定し,補正前の「2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性」を,「2つの前記色評価値から定義される直交座標系において特定された膜厚特性」と限定したものである。
そうすると,本件補正1は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

そこで,本件補正1による補正後の請求項3に係る発明(以下,「補正発明1」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。

2 引用刊行物の記載事項
(1)本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2005-134324号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。
(1-ア)
「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項6】
透明導電膜に光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜で反射した光を少なくとも2つの波長に分光する分光手段と,
これら分光された光の強度を演算して前記透明導電膜の膜厚および/またはヘイズ率を算出する演算手段と,
を備えていることを特徴とする透明導電膜分析装置。」

(1-イ)
「【発明の効果】
【0018】
透明導電膜において反射した光を少なくとも2つの波長に分光し,これらの波長の光強度を演算することによって透明導電膜の膜厚またはヘイズ率を算出することとしたので,反射光さえ得られれば,表面に凹凸が存在して干渉光が得られない透明導電膜であっても,膜厚またはヘイズ率を算出することができる。
このように,簡便な光学系によって膜厚またはヘイズ率を算出することができるので,製造ラインに容易に組み込むことができ,透明導電膜の全数検査が可能となる。」

(1-ウ)
「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に,本発明にかかる実施形態について,図面を参照して説明する。
図1に,太陽電池パネルに用いられる透明導電膜分析装置10の構成を示す。
この透明導電膜分析装置10には,約1m角の透明ガラス基板に,ITO(Indium Tin Oxide),酸化亜鉛,酸化錫等の透明導電膜(TCO:Transparent Conductive Oxide)が製膜された透明導電膜付きガラス基板11が搬送される。この透明導電膜付きガラス基板11は,透明導電膜が上面となるように搬送される。なお,透明導電膜とガラス基板との間に,ガラス基板からのアルカリ成分の拡散防止のため,下地膜としてSiO_(2)膜を製膜しても良い。
透明導電膜分析装置10は,搬送コンベア1a,カラーラインセンサカメラ(分光手段)2a,ライン照明器(光照射手段)3a,調光器4a,光電スイッチ5a,ロータリーエンコーダ6a,画像処理装置(演算手段)7a,表示装置8aを主として具備している。
【0020】
搬送コンベア1aには,透明導電膜付きガラス基板11を搬送するための複数のローラ1A-1,1A-2,・・・が設けられている。これらのローラ1A-1,1A-2,・・・が同時に所定の回転速度で,所定方向に回転することによって,透明導電膜付きガラス基板11が搬送方向Yへ向かって搬送される。
【0021】
カラーラインセンサカメラ2a及びライン照明器3aは,搬送コンベア1aの上方に位置するように設置されている。
図2には,カラーラインセンサカメラ2a及びライン照明器3aの位置関係が示されている。
ライン照明器3aは,光源が蛍光灯とされており,白色光を照射する。このライン照明器3aは,シート状の照射光L1を照射するようになっており,透明導電膜付きガラス基板11の表面上に,このガラス基板11の進行方向に直交するライン状(所定幅を有する線状)の光を照射する。照射された照射光L1は,透明導電膜付きガラス基板11によって反射され,反射光L2としてカラーラインセンサカメラ2aに入射する。」

(1-エ)
「【0023】
図1に示されているように,カラーラインセンサカメラ2aは,画像処理装置7aからトリガ信号Tを受信すると,透明導電膜付きガラス基板11の撮像領域を認識し,認識された撮像領域を撮像してパネル画像PSを生成し,生成されたパネル画像PSを画像処理装置7aに送信する。この際に,カラーラインセンサカメラ2aは,撮像した画像情報をR(赤),G(緑),B(青)の光の三原色に分光し,それぞれの輝度をパネル画像PSとして画像処理装置7aに送信する。
ライン照明器3aからのライン状の照射領域を透明導電膜付きガラス基板の搬送に伴い走査することによって,透明導電膜付きガラス基板11全体のパネル画像PSが生成される。
調光器4aは,照射光L1の強度が,所定強度となるように調節する。」

(1-オ)
「【0026】
画像処理装置7aは,カラーラインセンサカメラ2aにおいて分光されたR,G,Bの各輝度を演算して透明導電膜の膜厚およびヘイズ率を算出する演算手段を備えている。
画像処理装置7aには,表示装置8aおよび印字装置9aが接続されており,画像処理結果が出力されるようになっている。」

(1-カ)
「【0028】
次に,上記構成の透明導電膜分析装置10によって行われる透明導電膜の膜厚測定およびヘイズ率測定について説明する。
[膜厚測定]
透明導電膜付きガラス基板11から反射した反射光は,カラーラインセンサカメラ2aに撮像されることによって,光の三原色であるR(赤色),G(緑色),B(青色)の3色に分光される。そして,撮像領域の各画素ごとに,R,G,Bのそれぞれの輝度(強度)が画像処理装置7aに取り込まれる。
そして,画像処理装置7aにおいて,R,G,Bの各輝度を50mm角の範囲で平均化した後に,以下の演算を行う。50mm角で平均化したのは,後に図6のデータを示して説明するように,最も誤差が少ない結果が得られるからである。
画像処理装置7aでは,R,G,Bのそれぞれの輝度を下式により演算することによって透明導電膜の膜厚を算出する。
膜厚(μm)=
(R,G,Bの輝度のうち2番目に大きな値/R,G,Bの輝度の最大値)×a+b
ここで,aおよびbは定数であり,透明導電膜の組成,膜厚,プロセス,下地膜の種類等によって変化し,予め膜厚とR,G,Bの輝度との関係を調べておくことによって決定される。
また,上記演算式についても,透明導電膜の組成等によって異なり,予め膜厚とR,G,Bの輝度との関係を調べておくことによって決定される。具体的には,R,G,Bの各輝度から最大値,中央値,最小値を決定し,これらを適宜組み合わせて実際の膜厚に最も適合する演算式を得る。
【0029】
・・・
この図から,R,G,Bの輝度から演算される結果と,膜厚とが非常に強い相関を有しており,R,G,Bの輝度のうち2つの輝度を用いれば膜厚が算出できることがわかる。」

(1-キ)
「【0033】
以上説明したように,本実施形態にかかる透明導電膜分析装置10によれば,以下の効果を奏する。
白色光を透明導電膜に照射し,反射した光をR,G,Bの3波長に分光し,これらの波長の輝度を演算することによって透明導電膜の膜厚を算出することとしたので,反射光さえ得られれば,光の干渉が得られなくても,表面に凹凸を有する透明導電膜であっても膜厚を算出することができる。」

(1-ク)
「【0036】
なお,本実施形態において,R,G,Bの3波長を用いて膜厚およびヘイズ率を算出することとしたが,本発明は特にR,G,Bの3波長に限定されるものではなく,R,G,B程度に離れた波長であれば2波長の光を用いて膜厚およびヘイズ率を算出しても良く,あるいは,補色であるC(Cyan),M(Magenta),Y(Yellow)及びG(Green)の4波長を用いても良い。」

上記摘記事項,特に,摘記事項(1-ア)および(1-カ)からみて,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「透明導電膜に光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜で反射した光を,カラーラインセンサカメラ2aに撮像されることによって,光の三原色である赤,緑,青の3色に分光する分光手段と,
これら分光された赤,緑,青それぞれの輝度を取り込み,前記それぞれの輝度から演算により前記透明導電膜の膜厚を算出する画像処理装置7aと,
を備えていることを特徴とする透明導電膜分析装置。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-71316号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2-ア)
「【請求項3】
波長の分布が広範囲にわたる光源からの照射光を測定対象物である基板上に設けた被膜に入射させ,前記被膜からの干渉を起こした反射光を受光装置により測定し,測定した反射光の波長毎に干渉光の強度が極大,極小をとる膜厚が異なることによる干渉光の色の変化を,LUV表色系のu’とv’またはLAB表色系のa^(*)とb^(*)を基準として検出することによって前記被膜の膜厚を取得することを特徴とする膜厚取得方法。」

(2-イ)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜厚取得方法に関するものであり,例えば,液晶表示装置等の製造工程において,平板上に薄膜を塗布する際に,塗布した薄膜の膜厚の分布を簡単な装置で高速に得るための構成に特徴のある膜厚取得方法に関するものである。」

(2-ウ)
「【0013】
したがって,本発明は,受光装置固有の色空間を表す系に対して対応性を良好にするとともに,簡単な構成により平板上に設けた薄膜の膜厚の面内分布を高速に取得することを目的とする。」

(2-エ)
「【0020】
(3)また,本発明は,膜厚取得方法において,波長の分布が広範囲にわたる光源からの照射光を測定対象物である基板上に設けた被膜に入射させ,被膜からの干渉を起こした反射光を受光装置により測定し,測定した反射光の波長毎に干渉光の強度が極大,極小をとる膜厚が異なることによる干渉光の色の変化を,LUV表色系のu’とv’またはLAB表色系のa^(*)とb^(*)を基準として検出することによって被膜の膜厚を取得することを特徴とする。
・・・
【0022】
(4)また,本発明は,上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて,受光装置として,エリアセンサタイプのイメージセンサを用いて,薄膜の膜厚の2次元分布を得ることを特徴とする。
・・・
【0024】
(5)また,本発明は,上記(4)において,受光装置により,R,G,B毎の画像を取得することを特徴とする。
【0025】
このように,受光装置により,R,G,B毎の画像を取得することによって,RGB値をNTSC規格の色相H,輝度Y,彩度S,或いは,HSV表色方式又はHSB表色方式色相H,彩度S,明度V(Value)又はB(Brightness)Y,或いは,HSL表色方式の色相H,彩度S,明度L(Lightness),或いは,LUV表色系の明度L(Lightness),u’,v’,或いは,LAB表色系の明度L(Lightness),a^(*)(赤-緑軸),b^(*)(黄-青軸)に変換し,このうち色あいの指標である各色相H,或いは,u’とv’,或いは,a^(*)とb^(*)を用いれば良い。」

(2-オ)
「【実施例1】
・・・
【0036】
次いで,得られた色相Hから膜厚への変換方法を説明する。
上述の図1に示したように,薄膜の膜厚が変化するにつれて,色相Hは0°?360°の間で変化するものであり,0°(ブルーに近い色)→90°(赤に近い色)→180°(黄緑色)→270(青緑)→360°(ブルーに近い色)と循環する。
【0037】
このとき,どの膜厚の時に,どの平面上のどの座標になるかを,使用する光源の波長強度分布,測定対象となる薄膜と基板の屈折率と消衰係数を基にして図1のような変動をテーブル化してリファレンスとし,実測によって得られた色相をこのリファレンスとフィッティングすることによって膜厚を求める。
なお,膜厚の変化が大きい場合,図1でもわかるように,複数の膜厚において同じ色相を示すことがあるが,膜厚は連続的に変化することを考慮したり,膜厚範囲を限定するなどの方法で対処すれば良い。
・・・
【0054】
また,上記の実施例1においては,色あいの基準としてNTSC基準の色相Hを用いているが,NTSC基準の色相Hに限られるものではなく,各種の表色方式の色相,或いは,各種の表色系の色あいを示す指標を用いても良いものである。」

3 対比・判断

(1)対比
補正発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「透明導電膜」は,補正発明1の「透明導電膜または透明光学膜」に相当する。

イ 引用発明の「透明導電膜分析装置」は,「透明導電膜の膜厚を算出」しているから,補正発明1の「透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置」に相当する。

ウ 引用例1に関する上記摘記事項(1-イ)における「【0018】・・・製造ラインに容易に組み込むことができ・・・」の記載,および,上記摘記事項(1-ウ)における「【0019】・・・この透明導電膜付きガラス基板11は,透明導電膜が上面となるように搬送される。・・・【0021】カラーラインセンサカメラ2a及びライン照明器3aは,搬送コンベア1aの上方に位置するように設置されている。・・・」の記載からみて,引用発明の「透明導電膜」は,製造ラインを搬送されるガラス基板11上に製膜された透明導電膜であるといえ,引用発明の「光照射手段」は,透明導電膜付きガラス基板11の上面である膜面側から光を照射しているといえる。
そうすると,引用発明の「光照射手段」は,補正発明1の「製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段」に相当する。

エ 引用発明では,前記透明導電膜で反射した光を,カラーラインセンサカメラ2aで撮像しているから,引用発明の「カラーラインセンサカメラ2a」は,補正発明1の「前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段」に相当する。

オ 引用発明の「前記透明導電膜で反射した光を,・・・光の三原色である赤,緑,青の3色に分光する」点は,補正発明1の「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光」する点に相当する。
また,引用発明において「赤,緑,青それぞれの輝度を取り込」んでいることは,赤,緑,青の色評価値を求めていることに他ならないから,引用発明の「これら分光された赤,緑,青それぞれの輝度を取り込」む点と,補正発明1の「分光した三色の光から演算により予め設定されている2つの色評価値を求める」点とは,「分光した三色の光から色評価値を求める」点において共通する。
また,引用発明の「前記それぞれの輝度から演算により前記透明導電膜の膜厚を算出する」点と,補正発明1の「2つの前記色評価値から定義される直交座標系において特定された膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める」点とは,「計測した前記色評価値から演算により膜厚を求める」点において共通する。
以上のことから,引用発明の「前記透明導電膜で反射した光を,カラーラインセンサカメラ2aに撮像されることによって,光の三原色である赤,緑,青の3色に分光する分光手段と,これら分光された赤,緑,青それぞれの輝度を取り込み,前記それぞれの輝度から演算により前記透明導電膜の膜厚を算出する画像処理装置7aと,を備えている」点と,補正発明1の「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により予め設定されている2つの色評価値を求める色計測手段と,2つの前記色評価値から定義される直交座標系において特定された膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段とを具備する」点とは,「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から色評価値を求める色計測手段と,計測した前記色評価値から演算により膜厚を求める膜厚計測手段とを具備する」点において共通する。

してみると,両者は,

(一致点)
「透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から色評価値を求める色計測手段と,
計測した前記色評価値から演算により膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)補正発明1では,色計測手段が,「分光した三色の光から演算により予め設定されている2つの色評価値を求める色計測手段」であり,膜厚計測手段が,「2つの前記色評価値から定義される直交座標系において特定された膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段」であるのに対し,引用発明では,色計測手段が,赤,緑,青の色評価値を求めるものであり,膜厚計測手段が,赤,緑,青それぞれの輝度から演算により膜厚を算出するものである点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用例2に関する上記摘記事項(2-エ)からみて,引用例2には,「RGB値」すなわち「赤,緑,青の三色の光」から,演算により,色あいの指標である「a^(*)とb^(*)」すなわち「予め設定されている2つの色評価値」を求めること,および,膜厚と色相との相関から膜厚を求めることが記載されているといえる。
また,膜厚と色相との相関から膜厚を求めることに関して,引用例2に関する上記摘記事項(2-オ)には,どの膜厚のときに,どの平面上のどの座標になるかを,テーブル化してリファレンスとし,実測によって得られた色相をこのリファレンスとフィッティングすることによって膜厚を求めることが記載されている。そして,色相,すなわち,色あいの指標として上記のとおり「a^(*)とb^(*)」を用いれば,「a^(*)とb^(*)」は,例えば,特開平7-141703号公報の【図2】および特開昭64-28510号公報の第4図に記載されているように,a^(*)を横軸,b^(*)を縦軸とした直交座標系で表されるのが技術常識であるから,上記テーブル化されたリファレンスは,「a^(*)とb^(*)」すなわち「2つの色評価値」によって定義される直交座標系に示された膜厚特性となることが自明である。
そして,引用発明と引用例2に記載の上記技術的事項は,基板上の薄膜の膜厚測定という同一の技術分野に属し,製造工程に組み込むことができ,簡便な構成で,膜厚を広い面積にわたって測定するという点において技術的課題が共通しているから(上記摘記事項(1-イ),(2-イ),(2-ウ)),引用発明に,引用例2に記載の上記技術的事項を適用し,上記相違点における補正発明1のようにすることは,当業者であれば,容易に想到し得る事項であるといえる。

そして,本願明細書に記載された補正発明1によってもたらされる効果は,引用例1および引用例2に記載の事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正発明1は,引用発明および引用例2に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正1は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。


第3 本件補正2についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正2を却下する。

[理由]
1 本件補正2による補正後の請求項3に記載された発明
上記「第2」において検討のとおり,本件補正1は却下されることとなった。
そうすると,本件補正2は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項3についてする補正は,補正前の特許請求の範囲(平成20年1月28日付けで補正されたもの。以下,同様。)の
「【請求項3】 透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光から予め設定されている2つの色評価値を計測する色計測手段と,
2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」

「【請求項3】 透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
色差によって定義される直交座標系に示された膜厚特性を記憶する記憶手段と,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により色差を求める色計測手段と,
前記膜厚特性を用いて,前記三色の光から演算によって求めた前記色差によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」
と補正するものである。

ア 上記補正のうち,まず,補正前の「予め設定されている2つの色評価値」を,補正後の「色差」と補正した点について検討する。
本願明細書の段落【0009】における「色評価値としては,例えば,色差またはRGBの光強度等を用いることが可能である。」の記載からみて,本件補正2前の「色評価値」には,色差またはRGBの光強度等が含まれるといえる。また,本願明細書の段落【0009】における「上記色差としては,例えば,L^(*)a^(*)b^(*)表色系におけるa^(*)及びb^(*)等を用いることが可能である。」の記載,同段落【0028】における「L^(*)a^(*)b^(*)は,JIS Z 8729において規定されるL^(*)a^(*)b^(*)(エルスター・エイスター・ビースター)表色系であり,色差を表す。L^(*):明度(輝度),a^(*):赤-緑色相のクロマティックネス指数,b^(*):黄-青色相のクロマティックネス指数をそれぞれ表している。」の記載,同段落【0032】における「更に,CIE-XYZ表色系をCIE-L^(*)a^(*)b^(*)表色系に変換することで,色差データを求める(ステップSB2)。」の記載,および,【図4】の記載からみて,補正後の「色差」は,予め設定されている2つの色評価値である「a^(*):赤-緑色相のクロマティックネス指数」および「b^(*):黄-青色相のクロマティックネス指数」を意味しているといえる。
そうすると,「予め設定されている2つの色評価値」を「色差」とする補正は,「予め設定されている2つの色評価値」である,「a^(*):赤-緑色相のクロマティックネス指数」および「b^(*):黄-青色相のクロマティックネス指数」すなわち「色差」,または,「RGBの光強度」等のうち,前者を選択した補正であるから,限定的減縮に該当する。

イ 次に,補正前の「検出した反射光から予め設定されている2つの色評価値を計測する色計測手段」を,補正後の「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により色差を求める色計測手段」と補正した点について検討する。
上記補正は,上記「ア」にて検討のとおり,補正前の「予め設定されている2つの前記色評価値」を「色差」と限定するとともに,補正前の「計測する」ことについて,「赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により」「求める」と限定したものである。
そうすると,上記補正は,限定的減縮に該当する。

ウ 続いて,補正前の「2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性」を,補正後の「前記膜厚特性」すなわち「色差によって定義される直交座標系に示された膜厚特性」と補正した点について検討する。
上記補正は,上記「ア」にて検討のとおり,補正前の「2つの前記色評価値」を「色差」と限定するとともに,補正前の「・・・と膜厚とが関連付けられている膜厚特性」を,「・・・によって定義される直交座標系に示された膜厚特性」と限定したものである。
そうすると,上記補正は,限定的減縮に該当する。

エ 続いて,補正後の請求項3において「色差によって定義される直交座標系に示された膜厚特性を記憶する記憶手段」を付加する補正をした点について検討する。
上記補正は,上記「ウ」にて検討のとおり,補正前の「2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性」を,補正後の「前記膜厚特性」すなわち「色差によって定義される直交座標系に示された膜厚特性」と限定した膜厚特性について,膜厚特性を記憶する記憶手段を具備することを限定したものである。
そうすると,上記補正は,限定的減縮に該当する。

オ さらに,補正前の「計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段」を,補正後の「前記三色の光から演算によって求めた前記色差によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段」と補正した点について検討する。
「2つの前記色評価値」を「色差」とする補正は,上記「ア」にて検討のとおり限定的減縮に該当する。また,補正前の「計測した・・・」を,補正後の「前記三色の光から演算によって求めた・・・」とした点は,上記「イ」にて検討のとおり限定的減縮に該当する。

してみると,上記補正は,全体として限定的減縮に該当する。

以上のことから,本件補正2は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

そこで,本件補正2による補正後の請求項3に係る発明(以下,「補正発明2」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。

2 引用刊行物の記載事項
上記「第2 2 引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

(1)対比
補正発明2と引用発明とを対比する。

ア 上記「第2 3 (1)対比」の「ア」及至「エ」において検討のとおり,引用発明の「透明導電膜」,「透明導電膜分析装置」,「光照射手段」および「カラーラインセンサカメラ2a」は,補正発明2の「透明導電膜または透明光学膜」,「透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置」,「製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段」および「前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段」に,それぞれ相当する。

イ 引用発明の「前記透明導電膜で反射した光を,・・・光の三原色である赤,緑,青の3色に分光する」点は,補正発明2の「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光」する点に相当する。
また,引用発明において「赤,緑,青それぞれの輝度を取り込」んでいることは,赤,緑,青の色を計測していることに他ならないから,引用発明の「これら分光された赤,緑,青それぞれの輝度を取り込」む点と,補正発明2の「分光した三色の光から演算により色差を求める」点とは,「分光した三色の光から色を計測する」点において共通する。
また,引用発明の「前記それぞれの輝度から演算により前記透明導電膜の膜厚を算出する」点と,補正発明2の「前記膜厚特性を用いて,前記三色の光から演算によって求めた前記色差によって決定される膜厚を求める」点とは,「前記三色の光から演算により膜厚を求める」点において共通する。
以上のことから,引用発明の「前記透明導電膜で反射した光を,カラーラインセンサカメラ2aに撮像されることによって,光の三原色である赤,緑,青の3色に分光する分光手段と,これら分光された赤,緑,青それぞれの輝度を取り込み,前記それぞれの輝度から演算により前記透明導電膜の膜厚を算出する画像処理装置7aと,を備えている」点と,補正発明2の「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から演算により色差を求める色計測手段と,前記膜厚特性を用いて,前記三色の光から演算によって求めた前記色差によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段とを具備する」点とは,「検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から色を計測する色計測手段と,前記三色の光から膜厚を求める膜厚計測手段とを具備する」点において共通する。

してみると,両者は,

(一致点)
「透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光を赤,緑および青の三色の光に分光し,分光した三色の光から色を計測する色計測手段と,
前記三色の光から膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)補正発明2では,「色差によって定義される直交座標系に示された膜厚特性を記憶する記憶手段」を具備し,色計測手段が,「分光した三色の光から演算により色差を求める色計測手段」であり,膜厚計測手段が,「前記膜厚特性を用いて」「前記色差によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段」であるのに対し,引用発明では,膜厚特性を記憶する記憶手段を具備しておらず,色計測手段が,赤,緑,青の色を計測するものであり,膜厚計測手段が,赤,緑,青それぞれの輝度から演算により膜厚を算出するものである点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用例2に関する上記摘記事項(2-エ)からみて,引用例2には,「RGB値」すなわち「赤,緑,青の三色の光」から,演算により,色あいの指標である「a^(*)とb^(*)」すなわち「色差」を求めること,および,膜厚と色相との相関から膜厚を求めることが記載されているといえる。
また,膜厚と色相との相関から膜厚を求めることに関して,引用例2に関する上記摘記事項(2-オ)には,どの膜厚のときに,どの平面上のどの座標になるかを,テーブル化してリファレンスとし,実測によって得られた色相をこのリファレンスとフィッティングすることによって膜厚を求めることが記載されている。そして,色相,すなわち,色あいの指標として上記のとおり「a^(*)とb^(*)」を用いれば,「a^(*)とb^(*)」は,例えば,特開平7-141703号公報の【図2】および特開昭64-28510号公報の第4図に記載されているように,a^(*)を横軸,b^(*)を縦軸とした直交座標系で表されるのが技術常識であるから,上記テーブル化されたリファレンスは,「a^(*)とb^(*)」すなわち「色差」によって定義される直交座標系に示された膜厚特性となることが自明である。加えて,引用例2に関する上記摘記事項(2-イ)の記載からみて,引用例2は,装置により高速に膜厚の分布を得るものであるから,データ処理のための何らかの記憶手段が存在することは自明であって,上記テーブル化されたリファレンスは,フィッティングに先立ち予め記憶手段に記憶されるものであることが明らかである。
そして,引用発明と引用例2に記載の上記技術的事項は,基板上の薄膜の膜厚測定という同一の技術分野に属し,製造工程に組み込むことができ,簡便な構成で,膜厚を広い面積にわたって測定するという点において技術的課題が共通しているから(上記摘記事項(1-イ),(2-イ),(2-ウ)),引用発明に,引用例2に記載の上記技術的事項を適用し,上記相違点における補正発明2のようにすることは,当業者であれば,容易に想到し得る事項であるといえる。

そして,本願明細書に記載された補正発明2によってもたらされる効果は,引用例1および引用例2に記載の事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正発明2は,引用発明および引用例2に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正2は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

なお,請求人は,審尋に対する回答書(平成22年1月15日付けで提出されたもの。)の6頁8?13行において「・・・従いまして,引用文献との差異を明瞭にするために,上記で説明しました内容で,平成20年12月1日付で補正しました特許請求の範囲を更に限縮する準備がございます。つきましては,・・・是非とも再度の補正の機会を頂きたくお願い申し上げます。」と主張し,具体的には,上記回答書の3頁1行?6頁6行,特に,4頁1?4行および5頁11?13行において,本願当初明細書に開示される発明は,(1)表面に凹凸がある場合も測定対象としており,照明光の入射角と反射光の反射角とが異なる,拡散反射した成分を検知する光学配置であるで,引用文献2及び引用文献3と相違し,(2)a^(*)b^(*)のみの計測で充足する膜厚範囲を計測対象としており,L^(*)の計測が不要なため,安価な光学系にて計測が実現できると言う利点がある,旨主張している。
しかし,上記(1)に関しては,引用例1に関する上記摘記事項(1-イ)における「反射光さえ得られれば,表面に凹凸が存在して干渉光が得られない透明導電膜であっても,膜厚またはヘイズ率を算出することができる。」の記載に基づき,引用発明において,反射光として拡散反射光を利用することとし,拡散反射光の利用に伴い,照明光の入射角と反射光の反射角を適宜調整することは,当業者が適宜なし得る事項であるというべきである。
また,上記(2)に関しては,引用例2に関する上記摘記事項(2-エ)の「【0025】・・・このうち色あいの指標である・・・a^(*)とb^(*)を用いれば良い。」においても記載されている事項である。
よって,請求人の上記主張は採用することができない。


第4 本願発明について

1 本願発明
以上のとおり,本件補正1および本件補正2は,却下されることとなったから,本件特許出願人が特許を受けようとする発明として特定する事項は,平成20年1月28日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものと認められ,その請求項3は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項3】 透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光から予め設定されている2つの色評価値を計測する色計測手段と,
2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は,上記「第2 2 (1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「透明導電膜」は,本願発明の「透明導電膜または透明光学膜」に相当する。

イ 引用発明の「透明導電膜分析装置」は,「透明導電膜の膜厚を算出」しているから,本願発明の「透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置」に相当する。

ウ 引用例1に関する上記摘記事項(1-イ)における「【0018】・・・製造ラインに容易に組み込むことができ・・・」の記載,および,上記摘記事項(1-ウ)における「【0019】・・・この透明導電膜付きガラス基板11は,透明導電膜が上面となるように搬送される。・・・【0021】カラーラインセンサカメラ2a及びライン照明器3aは,搬送コンベア1aの上方に位置するように設置されている。・・・」の記載からみて,引用発明の「透明導電膜」は,製造ラインを搬送されるガラス基板11上に製膜された透明導電膜であるといえ,引用発明の「光照射手段」は,透明導電膜付きガラス基板11の上面である膜面側から光を照射しているといえる。
そうすると,引用発明の「光照射手段」は,本願発明の「製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段」に相当する。

エ 引用発明では,前記透明導電膜で反射した光を,カラーラインセンサカメラ2aで撮像しているから,引用発明の「カラーラインセンサカメラ2a」は,本願発明の「前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段」に相当する。

オ 引用発明の「分光された赤,緑,青それぞれの輝度」は,赤,緑,青の色評価値であるといえる。
そうすると,引用発明の「分光された赤,緑,青それぞれの輝度を取り込」んでいる点と,本願発明の「検出した反射光から予め設定されている2つの色評価値を計測する」点とは,「検出した反射光から色評価値を計測する」点において共通する。

カ 引用例1に関する上記摘記事項(1-カ)における「【0028】・・・画像処理装置7aでは,R,G,Bのそれぞれの輝度を下式により演算することによって透明導電膜の膜厚を算出する。
膜厚(μm)=
(R,G,Bの輝度のうち2番目に大きな値/R,G,Bの輝度の最大値)×a+b
ここで,aおよびbは定数であり,透明導電膜の組成,膜厚,プロセス,下地膜の種類等によって変化し,予め膜厚とR,G,Bの輝度との関係を調べておくことによって決定される。・・・」の記載からみて,引用発明では,「分光された赤,緑,青それぞれの輝度」すなわち「赤,緑,青の色評価値」と膜厚とが関連付けられている「式」すなわち「膜厚特性」を用いて,計測した「赤,緑,青の色評価値」によって決定される膜厚を求めているといえる。
そうすると,引用発明の「前記それぞれの輝度から演算により前記透明導電膜の膜厚を算出する」点と,本願発明の「2つの前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した2つの前記色評価値によって決定される膜厚を求める」点とは,「前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した前記色評価値によって決定される膜厚を求める」点において共通する。

してみると,両者は,

(一致点)
「透明導電膜および透明光学膜の少なくともいずれか一方の膜厚計測が可能な膜厚計測装置であって,
製造ラインを搬送される基板上に製膜された透明導電膜または透明光学膜に膜面側から光を照射する光照射手段と,
前記透明導電膜または前記透明光学膜で反射された反射光を検出する光検出手段と,
検出した反射光から色評価値を計測する色計測手段と,
前記色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した前記色評価値によって決定される膜厚を求める膜厚計測手段と
を具備する膜厚計測装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)色計測手段が,本願発明では,検出した反射光から「予め設定されている2つの色評価値」を計測するものであるのに対し,引用発明では,検出した反射光から「分光された赤,緑,青それぞれの輝度」を計測するものであり,膜厚計測手段が,本願発明では,「2つの前記色評価値」と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,「計測した2つの前記色評価値」によって決定される膜厚を求めるものであるのに対し,引用発明では,「赤,緑,青それぞれの輝度」と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,「赤,緑,青それぞれの輝度」によって決定される膜厚を求めるものである点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用例1に関する上記摘記事項(1-ク)には「なお,本実施形態において,R,G,Bの3波長を用いて膜厚およびヘイズ率を算出することとしたが,本発明は特にR,G,Bの3波長に限定されるものではなく,R,G,B程度に離れた波長であれば2波長の光を用いて膜厚およびヘイズ率を算出しても良く」との記載がある。
そうすると,引用発明において,「分光された赤,緑,青それぞれの輝度」を計測し,「赤,緑,青それぞれの輝度」と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,「赤,緑,青それぞれの輝度」によって決定される膜厚を求めるのに代えて,「R,G,B程度に離れた2波長の光の輝度」すなわち「予め設定されている2つの色評価値」を計測し,前記2つの色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて,計測した前記2つの色評価値によって決定される膜厚を求めるようにすること,すなわち,上記相違点における本願発明のようにすることは,当業者が適宜なし得る事項であるといえる。

そして,本願明細書に記載された本願発明によってもたらされる効果は,引用例1に記載の事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

4 まとめ
上記のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願は,その余の請求項に係る発明に言及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-18 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-05 
出願番号 特願2007-39595(P2007-39595)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 昌夫  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 信田 昌男
石川 太郎
発明の名称 膜厚計測方法及びその装置ならびに薄膜製造システム  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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