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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1222088
審判番号 不服2009-2473  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-05 
確定日 2010-08-19 
事件の表示 特願2003-324352「電子写真用現像剤、画像形成方法、収納容器、画像形成装置、プロセスカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日出願公開、特開2005- 91690〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.事件の経緯
本願は、平成15年9月17日の出願であって、平成20年12月22日付で拒絶査定がなされ、これに対して平成21年2月5日に拒絶査定に対する審判が請求されたものである。その後、当審において平成22年2月18日付で拒絶理由が通知され、これに対して同年3月19日付で意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の発明は、平成22年3月19日付手続補正書によって補正された本願の明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次の通りである。

「少なくとも結着樹脂と顔料と離型剤を含むトナーと、少なくとも結着樹脂とアルミナ粒子からなるコート膜を有するキャリアとからなる電子写真用現像剤であって、
前記コート膜に係る結着樹脂が、少なくともアクリル樹脂とグアナミンを架橋反応させた樹脂であり、
前記コート膜が、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はγ-メタクロキシプロピルトリエトキシシランを含有し、
前記アルミナ粒子の固有抵抗が10^(12)(Ω・cm)以上であって、その含有量が、コート膜組成成分の40?95wt%であり、かつ、
粒子径(D)と結着樹脂膜厚(h)とが1<[D/h]<10であり、
アルミナ粒子が、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はγ-メタクロキシプロピルトリエトキシシランで表面処理されており、
前記キャリアにおける前記結着樹脂の膜厚が、0.05μm?1.00μmであることを特徴とする電子写真用現像剤。」

3.引用例の記載
当審において、平成22年2月18日付で通知した拒絶理由で引用した本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物である引用例1:特開2002-229273号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。

(1a)「【請求項1】 キャリア芯材上に少なくとも結着樹脂及び粒子からなるコート膜を有する電子写真現像剤用キャリアにおいて、該粒子が、固有抵抗10^(12)(Ω・cm)以上の粒子と、固有抵抗10^(12)(Ω・cm)以下の粒子とからなり、かつ、これら粒子の平均粒子径(D)と該結着樹脂の膜厚(h)との関係が1<[D/h]<5であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。」

(1b)「【請求項4】 前記固有抵抗10^(12)(Ω・cm)以上の粒子がアルミナであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア。」

(1c)「【請求項7】 前記粒子の総含有量が、コート膜組成成分の50?95重量%であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア。」

(1d)「【請求項8】 前記結着樹脂の膜厚が0.05?1.00(μm)であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア。
【請求項9】 前記コート膜の結着樹脂が、アクリル樹脂とアミノ樹脂とを架橋反応させたものであることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア。
【請求項10】 前記アクリル樹脂のTgが20?100(℃)であることを特徴とする請求項9記載の電子写真現像剤用キャリア。
【請求項11】 請求項1?10のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリアと、少なくとも結着樹脂及び顔料からなるトナーとからなることを特徴とする電子写真用現像剤。」

(1e)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真、静電記録、静電印刷などにおける静電荷像現像に用いる現像剤用キャリア、及びこのキャリアとトナーとからなる電子写真用現像剤に関する。」

(1f)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、キャリア表面へのトナースペントが無く、被覆樹脂の膜削れが無いことで、キメの細かい画像を長期にわたり形成することができ、更に、潜像担持体表面へのキャリア付着による画像悪化、及び現像剤量減少による画像及び耐久性悪化が無い2成分系現像剤用キャリアを提供することを目的とする。」

(1g)「【0029】上記のアルミナ及び酸化チタンは、表面処理していないもの、疎水化処理など表面処理したもの全てを用いることができる。」
(1h)「【0033】本発明のキャリアにおける結着樹脂の膜厚は0.05?1.00(μm)が適当であり、好ましくは0.1?0.8(μm)である。膜厚が0.05(μm)以下の場合膜が薄過ぎ、結着樹脂量に比べ粒子量が多過ぎるので、粒子の保持能力が十分得られず、粒子が脱離し易くなるので、十分な耐久性が得られず好ましくない。一方、膜厚が1.00(μm)以上の場合、粒子が非常に大粒径化するので、キャリア表面に対する該粒子1粒の占める割合が大きくなり過ぎ、キャリア1粒の表面で、絶縁箇所と導電箇所が大きく分かれて存在することになり、安定した効果が得られなくなってしまうため好ましくない。」

(1i)「【0043】更に、本発明で用いられる着色剤としては、トナー用として公知のもの全て使用できる。
【0044】黒色の着色剤としては、例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック等が使用できるが、これらに限られるものではない。
【0045】シアンの着色剤としては、例えばフタロシアニンブルー、メチレンブルー、ビクトリアブルー、メチルバイオレット、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー等が使用できるが、これらに限られるものではない。
【0046】マゼンタの着色剤としては、例えばローダミン6Gレーキ、ジメチルキナクリドン、ウォッチングレッド、ローズベンガル、ローダミン6B、アリザリンレーキ等が使用できるが、これらに限られるものではない。
【0047】イエローの着色剤としては、例えばクロムイエロー、ベンジジンイエロー、ハンザイエロー、ナフトールイエロー、モリブデンオレンジ、キノリンイエロー、タートラジン等が使用できるが、これらに限られるものではない。
【0048】 本発明で用いるトナーには、帯電制御剤を用いることもでき、トナー用として公知のもの全て使用できる。例えばニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、アミノ基含有のポリマー、含金属アゾ染料、サリチル酸金属錯体化合物、フェノール化合物等が使用できるが、これらに限られるものではない。
【0049】更に、本発明で用いるトナーには上記の結着樹脂、着色剤、帯電制御剤の他に、定着助剤を含有することもできる。これにより、定着ロールにトナー固着防止用オイルを塗布しない定着システム、いわゆるオイルレスシステムにおいても使用できる。定着助剤としては、公知のものすべて使用できる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、パラフィンワックス、アミド系ワックス、多価アルコールワックス、シリコーンワニス等使用でき、これにら限られるものではない。」

(1j)「【0057】
(実施例2)
アクリル樹脂溶液[固形分50重量%、Tg(30℃) ] 3.7部
グアナミン溶液(固形分77重量%) 1.0部
アルミナ粒子[0.04(μm)、固有抵抗10^(14)(Ω・cm)]
5.3部
酸化チタン粒子[0.04(μm)、固有抵抗10^(7)(Ω・cm)]
5.3部
トルエン 56.3部
ブチルセロソルブ 56.3部
をホモミキサーで10分間分散して被覆膜形成溶液を調合し、これを実施例1と同じ芯材の表面に乾燥後の膜厚が0.01(μm)になるようにスピラコーター(岡田精工社製)により塗布し乾燥した。得られたキャリアを電気炉中にて150(℃)で1時間放置して焼成した。冷却後フェライト粉バルクを目開き100(μm)の篩を用いて解砕し、キャリアとした。このキャリアの性状は表1に示したとおりである。
【0058】・・・
【0059】
(実施例3)
アクリル樹脂溶液[固形分50重量%、Tg(30℃)] 56.0部
グアナミン溶液(固形分77重量%) 15.6部
アルミナ粒子[0.3(μm)、固有抵抗10^(14)(Ω・cm)]
13.4部
酸化チタン粒子[0.3(μm)、固有抵抗10^(7)(Ω・cm)]
13.4部
トルエン 285部
ブチルセロソルブ 285部
をホモミキサーで10分間分散して被覆膜形成溶液を調合し、これを実施例1と同じ芯材の表面に乾燥後の膜厚が0.15(μm)になるようにスピラコーター(岡田精工社製)により塗布し乾燥した。得られたキャリアを電気炉中にて150(℃)で1時間放置して焼成した。冷却後フェライト粉バルクを目開き100(μm)の篩を用いて解砕し、キャリアとした。このキャリアの性状は表1に示したとおりである。
【0060】・・・
【0061】
(実施例4)
アクリル樹脂溶液[固形分50重量%、Tg120(℃)]56.0部
グアナミン溶液(固形分77重量%) 15.6部
アルミナ粒子[0.3(μm)、固有抵抗10^(14)(Ω・cm)]
80.0部
酸化チタン粒子[0.3(μm)、固有抵抗10^(7)(Ω・cm)]
80.0部
トルエン 884部
ブチルセロソルブ 884部
をホモミキサーで10分間分散して被覆膜形成溶液を調合し、これを実施例1と同じ芯材の表面に乾燥後の膜厚が0.15(μm)になるようにスピラコーター(岡田精工社製)により塗布し乾燥した。得られたキャリアを電気炉中にて150(℃)で1時間放置して焼成した。冷却後フェライト粉バルクを目開き100(μm)の篩を用いて解砕し、キャリアとした。このキャリアの性状は表1に示したとおりである。
【0062】・・・
【0063】
(実施例5)
アクリル樹脂溶液[固形分50重量%、Tg30(℃)] 56.0部
グアナミン溶液(固形分77重量%) 15.6部
アルミナ粒子[0.3(μm)、固有抵抗10^(14)(Ω・cm)]
80.0部
酸化チタン粒子[0.3(μm)、固有抵抗10^(7)(Ω・cm)]
80.0部
トルエン 884部
ブチルセロソルブ 884部
をホモミキサーで10分間分散して被覆膜形成溶液を調合し、これを実施例1と同じ芯材の表面に乾燥後の膜厚が0.15(μm)になるようにスピラコーター(岡田精工社製)により塗布し乾燥した。得られたキャリアを電気炉中にて150(℃)で1時間放置して焼成した。冷却後フェライト粉バルクを目開き100(μm)の篩を用いて解砕し、キャリアとした。このキャリアの性状は表1に示したとおりである。」

以上の記載事項(特に実施例2)から、引用例1には以下の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。
「結着樹脂、着色剤、定着助剤を含有するトナーと、結着樹脂及びアルミナ粒子からなるコート膜を有するキャリアとからなる電子写真現像剤において、コート膜の結着樹脂がアクリル樹脂とグアナミンとを架橋反応させたものであり、固有抵抗10^(14)(Ω・cm)のアルミナ粒子の含有量がコート膜組成成分の40.1重量%であり、アルミナ粒子の径は0.04(μm)で、結着樹脂の乾燥後の膜厚が0.01(μm)である電子写真現像剤。」

当審において、平成22年2月18日付で通知した拒絶理由で引用した本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物である引用例2:特開昭60-73631号公報には、以下の記載がある。

(2a)「シリコーン樹脂でキャリア芯材の表面を被覆した静電潜像現像剤用キャリアにおいて、前記被覆層中に無機充填剤及びシランカップリング剤を含有してなることを特徴とする静電潜像現像剤用キャリア。」(特許請求の範囲)

(2b)「この発明は、以上のような従来のキャリアの欠点を改善することを目的とするものであって、詳細に説明すると、トナーのスペント化に対するシリコーン樹脂の強い防止作用を損ねることなく、耐摩耗性に優れた被覆膜で表面を被覆し、長時間使用しても現像剤特性を劣化することなく安定した画像品質を与える現像剤用キャリアを提供することを目的としたものである。」(第2頁左下欄第3?8行)

(2c)「この発明の構成は、シリコーン樹脂でキャリア芯材の表面を被覆した静電潜像現像剤用キャリアにおいて、前記被覆層中に無機充填剤及びシランカップリング剤を含有してなることを特徴とする静電潜像現像剤用キャリアである。
上記無機充填粒子としては、例えば窒化けい素、シリカ、Sialon(Si)-Al-O-Nの系の化合物群の総称)、窒化ほう素、アルミナ、ジルコニア、炭化けい素、炭化ほう素、酸化チタン、アスベスト、クレイ、タルク、ガラス繊維などの微細粒子が挙げられる。これらの無機充填粒子の大きさは、0.1?3μ程度のものが用いられる。」(第2頁左下欄第10?右下欄4行)

(2d)「この発明は、機械的強度が弱いシリコン樹脂被覆中に無機充填粒子を補強材として分散させるときにシリコン樹脂と前記粒子との接着強度を高め強固な被覆層を形成するものである。
上記接着強度を高めるためのシランカップリング剤は一般に下記のような一般式で表される化合物である。
YRSiX_(3)
ただしRは炭素数1?20のアルキル基
Xは、けい素原子に結合している加水分解基であって、クロル基、アルコキシ基、アセト基、アルキルアミノ基、プロペノキシ基、
Yは有機マトリックスと反応する有機官能基でビニル基、メタクリル基、エポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基、メルカプト基などである。」(第3頁左上欄14行?右上欄10行)

(2e)第3頁左下欄9?右下欄の表には、番号1?12のシランカップリング剤が挙げられ、そのうち、6.が
「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 」であることが認められる。

(2f)「または、直接シランカップリング剤で処理した無機充填剤をシリコーン樹脂に添加するときに、シランカップリング剤をさらに添加してもよい。」(第4頁左上欄第6?9行)

4.対比
引用例発明の「結着樹脂、着色剤、定着助剤を含有するトナー」は、本願発明の「少なくとも結着樹脂と顔料と離型剤を含むトナー」に相当する。
引用例発明の「コート膜の結着樹脂がアクリル樹脂とグアナミンとを架橋反応させたもの」は、本願発明の「コート膜に係る結着樹脂が、少なくともアクリル樹脂とグアナミンを架橋反応させた樹脂」に相当する。
引用例発明の「固有抵抗10^(14)(Ω・cm)のアルミナ粒子の含有量がコート膜組成成分の40.1重量%」であることは、本願発明の「アルミナ粒子の固有抵抗が10^(12)(Ω・cm)以上であって、その含有量が、コート膜組成成分の40?95wt%」であることに相当する。
引用例発明の「アルミナ粒子の径は0.04(μm)で、結着樹脂の乾燥後の膜厚が0.01(μm)である」ことは、「粒子径(D)と結着樹脂膜厚(h)とが1<[D/h]<10である」ことに相当する。

したがって、両者は
「少なくとも結着樹脂と顔料と離型剤を含むトナーと、少なくとも結着樹脂とアルミナ粒子からなるコート膜を有するキャリアとからなる電子写真用現像剤であって、
前記コート膜に係る結着樹脂が、少なくともアクリル樹脂とグアナミンを架橋反応させた樹脂であり、
前記アルミナ粒子の含有量が、コート膜組成成分の40?95wt%であり、かつ、
粒子径(D)と結着樹脂膜厚(h)とが1<[D/h]<10であることを特徴とする電子写真用現像剤。」で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、キャリアの「コート膜が、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はγ-メタクロキシプロピルトリエトキシシランを含有」するのに対して、引用例発明ではその点が明示されていない点

(相違点2)
本願発明では、「アルミナ粒子が、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はγ-メタクロキシプロピルトリエトキシシランで表面処理されて」いるのに対して、引用例発明ではその点が明示されていない点。

(相違点3)
本願発明では、「キャリアにおける結着樹脂の膜厚が、0.05μm?1.00μm」であるのに対して、引用例発明では「結着樹脂の乾燥後の膜厚が0.01(μm)である」点。

5.検討
5-1.相違点1および2について
引用例2には、キャリア芯材の表面をシランカップリング剤で被覆層を形成することが記載され(上記2a2c参照)、シランカップリング剤の具体例としてはγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが記載されている(上記2e参照)。また、アルミナを含む無機充填剤の表面をシランカップリング剤で被覆層を形成することが記載され(上記2f参照)ている。
ここで、引用例2は、キャリアに対するトナーのスペント化を防止し、長期耐久性のある電子写真用現像剤を実現するという、引用例1および本願発明と共通する目的を有する(上記1f2a2b参照)ものである。また、キャリア芯材の表面を被覆する構成と、無機充填剤の表面を被覆する構成とを、ともに採用することも記載されている(上記2f参照。)。
したがって、引用例発明に引用例2に記載された技術的事項を適用して、相違点1および2に係る構成をともに採用することに、格別の困難性はない。

5-2.相違点3
引用例1の【0033】には「キャリアにおける結着樹脂の膜厚は0.05?1.00(μm)が適当であり、好ましくは0.1?0.8(μm)である。膜厚が0.05(μm)以下の場合膜が薄過ぎ、結着樹脂量に比べ粒子量が多過ぎるので、粒子の保持能力が十分得られず、粒子が脱離し易くなるので、十分な耐久性が得られず好ましくない。一方、膜厚が1.00(μm)以上の場合、粒子が非常に大粒径化するので、キャリア表面に対する該粒子1粒の占める割合が大きくなり過ぎ、キャリア1粒の表面で、絶縁箇所と導電箇所が大きく分かれて存在することになり、安定した効果が得られなくなってしまうため好ましくない」(上記1h参照。)と記載され、例えば、引用例1の実施例3?実施例5では、キャリアにおける被覆膜の「膜厚が0.15(μm) 」である例(上記1j参照。)が記載されている。
したがって、引用例発明において、キャリアにおける被覆膜の結着樹脂の膜厚を「0.05μm?1.00μm」とすることは、当業者が適宜設計し得た事項である。

5-3.請求人の主張および効果について
請求人は、平成22年3月19日付意見書において、以下のように主張している。

『引用例2には無機充填粒子としてアルミナの例示はあるものの、引用例2の実施例では窒化けい素や窒化ほう素を用いており、また、シランカップリング剤としてγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの例示はあるものの、実施例で使用しているのは、ビニルトリエトキシシラン、ビニルクロルシランである。したがって、引用例2には、本願の請求項1に係る「コート膜がシリコンアクリレート化合物を含有し、アルミナ粒子が特定のシリコンアクリレート化合物で表面処理されている」については示されていないと言える。
本意見書と同日付で提出した手続補正書に記載の実施例1(当初明細書の実施例6)では、コート膜を構成するアルミナ粒子がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理され、かつコート膜がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有しているが、参考例1ないし5(当初明細書の実施例1ないし5)では、アルミナ粒子がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランで表面処理されているか、コート膜がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有しているのみである。これらの現像剤において、600kランニング後の帯電低下量、抵抗低下量を比較対比すると、実施例1ではそれぞれ2.1、0.6であるのに対し、参考例1ないし5では、それぞれ2.6?3.1、0.7?1.0であり、比較例1では、8.2、2.5である。この結果から、上記請求項1の全ての要件を満たす場合に良好な物性を有する現像剤を得ることができると言える。
このような構成及び効果について、引用例1及び2には何の記載も示唆もされていない。』
そこで、帯電低下量などについて,本願発明によって得られた効果を、実施例、参考例、比較例について検討する。
本願発明は、キャリアとアルミナ粒子とが、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はγ-メタクロキシプロピルトリエトキシシランでで被覆されていることを規定している。この特定事項の根拠は、本願の詳細な説明中のキャリアとアルミナ粒子の両方がγメタクロキシプロピルトリメトキシシランで被覆されている実施例1に基づいて特定したものと考えられる。
確かに、実施例1の帯電低下量2.1及び抵抗低下量0.6は、キャリアとアルミナ粒子の両方ともγメタクロキシプロピルトリメトキシシランで被覆されていない比較例1の耐電低下量8.2及び抵抗低下量2.5に比べて大きく改善されている。しかし、参考例1?5,参考例1の帯電低下量2.6及び抵抗低下量0.7と比較すると、小数点以下の改善しか認められない。
ここで、参考例を検討すると、キャリアとアルミナ粒子のいずれかがγメタクロキシプロピルトリメトキシシランで被覆されたことによる一応の効果が認められるが、その効果は引用例発明においてγメタクロキシプロピルトリメトキシシランで被覆するという引用例2に記載された技術的事項を採用したことから、当然予測される程度のものである。
そして、実施例1では、キャリアとアルミナ粒子の両方がγメタクロキシプロピルトリメトキシシランで被覆されたによって一応の効果が認められるが、その効果は参考例と同程度のもの、あるいは単に両方を被覆したことによる総和程度のものであって、格別のものとはいえない。

5-4.まとめ
以上のことから、本願発明は、引用例1に記載された発明および引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-04 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-07-06 
出願番号 特願2003-324352(P2003-324352)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 伊藤 裕美
伏見 隆夫
発明の名称 電子写真用現像剤、画像形成方法、収納容器、画像形成装置、プロセスカートリッジ  
代理人 奥山 雄毅  

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