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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1222154 |
審判番号 | 不服2007-34741 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-12-26 |
確定日 | 2010-08-18 |
事件の表示 | 特願2003-517962号「電極組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月13日国際公開、WO03/12891、平成16年12月16日国内公表、特表2004-537833号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本願は、平成14年7月24日(パリ条約による優先権主張 2001年7月26日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月24日付けで手続補正がなされ、平成19年9月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年12月26日に審判請求がなされるとともに、平成20年1月25日付けで手続補正がなされ、その後、当審において平成21年8月24日付けで拒絶理由通知がなされ、平成22年1月28日付けで手続補正がなされたものである。 本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、平成22年1月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「白色発光装置であって、 アノード、 カソード、及び アノードとカソードの間に位置する有機電子冷光放射性材料の領域、 ここで、有機電子冷光放射性材料が青色発光体であり、かつカソードは第1層並びに第1層と有機電子冷光放射性材料の間に位置する第2層を含有し、第1層はアルミニウムからなり、第2層はフッ化ナトリウム及びフッ化カリウムの少なくとも1つからなる有機発光装置を含み、さらに、 有機発光装置を少なくとも部分的に覆う蛍光体含有カバーであって、装置からの全体の放射が白色となるように、有機電子冷光放射性材料から放射される光を部分的に吸収し、前記光をより波長の長い光に変換して放射する蛍光体含有カバーを有する白色発光装置。」 2.引用例 これに対して、当審において平成21年8月24日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平11-162646号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の技術事項が記載されている。 有機エレクトロルミネッセント素子に関するもので、 記載事項ア.【特許請求の範囲】の項中【請求項1】、【請求項3】 「【請求項1】正孔注入電極と電子注入電極からなる一対の電極間に、発光層を含む一層以上の有機層を備える有機エレクトロルミネッセント素子において、該両電極と該有機層との間に、それぞれ誘電体薄膜層を設けることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。 【請求項3】誘電体薄膜層を構成する材料が、アルキル金属フっ化物(当審注:「アルカリ金属フッ化物」の誤記)もしくはアルカリ土類金属フッ化物である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。」 記載事項イ.【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、正孔注入電極と電子注入電極との間に少なくとも発光層を含む有機層を挟持してなる有機エレクトロルミネッセント素子に関し、発光効率がよく、かつ長期間安定な発光が得られる有機エレクトロルミネッセント素子に関する。」 記載事項ウ.【課題を解決するための手段】の項中【0012】 「本発明の有機EL素子に用いられる誘電体薄膜層を構成する材料としては、導電体以外ならば、特に制限なく使用できる。例えば、アルキル金属酸化物(当審注:「アルカリ金属酸化物」の誤記)、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物などである。アルキル金属酸化物(当審注:「アルカリ金属酸化物」の誤記)としてはLi_(2)O、Na_(2)O、K_(2)Oなどが挙げられる。アルカリ土類金属酸化物としては、BeO、MgO、CaOなどが挙げられる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、LiCl、NaCl、KCl、LiF、NaF、KFなどが挙げられる。アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、BeCl_(2)、MgCl_(2)、CaCl_(2)、BeF_(2)、MgF_(2)、CaF_(2)などが挙げられる。このうち、誘電体薄膜層を構成する材料として好ましいのは、LiF、NaF、KFなどのアルキル金属フっ化物(当審注:「アルカリ金属フッ化物」の誤記)、もしくはBeF_(2)、MgF_(2)、CaF_(2)などのアルカリ土類金属フッ化物である。」 記載事項エ.【実施例】の項中【0017】 「[実施例1]この実施例の有機EL素子は、図1に示すように、ガラス基板1上に、膜厚が2000nmの透明なITOで構成された正孔注入電極2と、LiFで構成された膜厚が1nmの誘電体薄膜層3と、膜厚が50nmのN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(以下、TPDと略す)で構成される正孔輸送層4と、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(以下、Alqと略す)で構成された膜厚が50nmの発光層兼電子輸送層5と、LiFで構成された膜厚が0.5nmの誘電体薄膜層6とアルミニウムで構成された電子注入電極7とが順々に積層された構造である。また、この実施例の有機EL素子においては、上記の正孔注入電極2と電子注入電極7とにそれぞれリード線8を接続させて電圧を印加できるようにしている。」 記載事項オ.【0027】 「【発明の効果】以上詳述したように、この発明における有機EL素子においては、誘電体薄膜層を両電極と発光層などからなる有機層との間にそれぞれ設けたため、この誘電体薄膜層によって低電圧で発光し、発光効率もよく、しかもリーク電流の発生が抑制され、連続発光させた場合にも輝度が低下するということが少なく、長期にわたって安定した発光が行なえるようになった。」 記載事項ア.?オ.の記載内容からして、引用例には、 「正孔注入電極と電子注入電極からなる一対の電極間に、発光層を含む一層以上の有機層を備え、該両電極と該有機層との間に、それぞれLiF、NaF、KFなどのアルカリ金属フッ化物である誘電体薄膜層を設ける有機エレクトロルミネッセント素子であって、 ガラス基板1上に、透明なITOで構成された正孔注入電極2と、LiFで構成された誘電体薄膜層3と、正孔輸送層4と、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)で構成された発光層兼電子輸送層5と、LiFで構成された誘電体薄膜層6とアルミニウムで構成された電子注入電極7とが順々に積層された構造である有機エレクトロルミネッセント素子。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (a)引用発明の「正孔注入電極」、「電子注入電極」は、本願発明の「アノード」、「カソード」に相当する。 (b)引用発明の「正孔注入電極と電子注入電極からなる一対の電極間に」「備え」られた「発光層を含む一層以上の有機層」は、有機層が一層の場合を含むから、本願発明の「アノードとカソードの間に位置する有機電子冷光放射性材料の領域」に相当する。 (c)引用発明の「有機エレクトロルミネッセント素子」は、本願発明の「有機発光装置」に相当する。 (d)引用発明の「LiFで構成された誘電体薄膜層6とアルミニウムで構成された電子注入電極7」と、本願発明の「カソードは第1層並びに第1層と有機電子冷光放射性材料の間に位置する第2層を含有し、第1層はアルミニウムからなり、第2層はフッ化ナトリウム及びフッ化カリウムの少なくとも1つからなる」ものとは「カソードは第1層並びに第1層と有機電子冷光放射性材料の間に位置する第2層を含有し、第1層はアルミニウムからなり、第2層はアルカリ金属フッ化物からなる」点で一致しているといえる。 (a)?(d)に記載したことからして、本願発明と引用発明の両者は、 「アノード、カソード、及びアノードとカソードの間に位置する有機電子冷光放射性材料の領域、ここで、カソードは第1層並びに第1層と有機電子冷光放射性材料の間に位置する第2層を含有し、第1層はアルミニウムからなり、第2層はアルカリ金属フッ化物からなる有機発光装置。」である点で一致し、次の相違点が存在する。 相違点(A); 有機電子冷光放射性材料が、本願発明は青色発光体であるのに対して、引用発明は発光体の色が特定されていない(引用発明は、発光層兼電子輸送層5がトリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)で構成されており、Alqを用いた場合は通常は青緑色発光体になるものと考えられる)点。 相違点(B); カソードのアルカリ金属フッ化物からなる第2層が、本願発明は、フッ化ナトリウム及びフッ化カリウムの少なくとも1つからなるのに対して、引用発明は、LiF(フッ化リチウム)で構成されている点。 相違点(C); 本願発明の有機発光装置は、有機発光装置を少なくとも部分的に覆う蛍光体含有カバーであって、装置からの全体の放射が白色となるように、有機電子冷光放射性材料から放射される光を部分的に吸収し、前記光をより波長の長い光に変換して放射する蛍光体含有カバーを有する白色発光装置であるのに対して、引用発明の有機発光装置は、有機発光装置を少なくとも部分的に覆う前記蛍光体含有カバーを有する白色発光装置ではない点。 4.当審の判断 前記相違点(A)?(C)について検討する。 相違点(A)、(C)について; 有機電子冷光放射性材料として青色発光体を採用し、かつ、有機発光装置を少なくとも部分的に覆う蛍光体含有カバーであって、装置からの全体の放射が白色となるように、有機電子冷光放射性材料から放射される光を部分的に吸収し、前記光をより波長の長い光に変換して放射する蛍光体含有カバーを有する白色発光装置とすることは、例えば、特開平11-111457号公報(【0042】?【0046】及び【図6】参照)、特開平10-289784号公報(【0032】、【0039】、【0062】?【0072】参照)にも記載されているように本願の優先日前周知技術である。 したがって、引用発明に上記周知技術を適用して、有機電子冷光放射性材料として青色発光体を採用し、かつ、引用発明の有機発光装置を少なくとも部分的に覆う蛍光体含有カバーであって、装置からの全体の放射が白色となるように、有機電子冷光放射性材料から放射される光を部分的に吸収し、前記光をより波長の長い光に変換して放射する蛍光体含有カバーを有する白色発光装置とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。 相違点(B)について; 引用例の上記記載事項ウ.には、誘電体薄膜層を構成する材料として好ましいのは、LiF、NaF、KFなどのアルカリ金属フッ化物である旨記載されている。 すなわち、引用例には、誘電体薄膜層を構成するのに好ましいアルカリ金属フッ化物として、LiFと同様、NaF、KFが用いられることが記載されている。 したがって、引用発明のカソードのアルカリ金属フッ化物からなる第2層の材料として、LiFに代えて、NaF及びKFの少なくとも1つからなるものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。 また、本件審判請求人は、平成22年1月28日付けの意見書において、添付した参考資料1の比較試験結果を基に、カソードの第2層をNaF及びKFの少なくとも1つからなるものとしたことにより優れた効果を発揮する旨主張しているので、この点について検討する。 該参考資料1によれば、(1)右上のEQE(外部量子効率)に関して、KFは、LiFよりも低い結果である。(2)右下のdV(電圧変化)に関して、NaFは、LiFと同程度の値であり、LiFに比べて格別の作用・効果を奏するものとはいえない。(3)左上のV(駆動電圧)及び左下のt50(輝度が50%減少するまでの時間)に関して、KF及びNaFは、LiFよりも若干優れるが、その差が当業者の予測を超える格段の差とはいえないから、格別優れた作用・効果を奏するとまでは認め難い。 上記(1)?(3)で述べたこと及び引用例にもLiFと並んでNaF、KFが挙げられていることからして、参考資料1を参酌しても、カソードの第2層をNaF及びKFの少なくとも1つからなるものとしたことにより引用例にない優れた効果を発揮するものとは認められないから、本件審判請求人の上記主張は採用することができない。また、本願発明全体としてみても格別の作用・効果を奏するものと認めることはできない。 したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-16 |
結審通知日 | 2010-03-23 |
審決日 | 2010-04-05 |
出願番号 | 特願2003-517962(P2003-517962) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 本田 博幸 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 今関 雅子 |
発明の名称 | 電極組成物 |
代理人 | 大野 聖二 |
代理人 | 北野 健 |
代理人 | 山田 勇毅 |
代理人 | 森田 耕司 |
代理人 | 田中 玲子 |