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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1222439
審判番号 不服2007-25999  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-21 
確定日 2010-08-27 
事件の表示 特願2002-360584「リアクトル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-193398〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成14年12月12日の出願であって、平成19年7月23日付けで手続補正がなされ、平成19年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月21日に審判請求がなされるとともに、同年10月19日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成22年2月1日付けで審尋がなされたものである。

2.平成19年10月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)について

2-1 本件補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲を含む明細書全文及び図面1,2,4を補正するものであって、その内容は,次のとおりである。

(補正内容1)
補正前の請求項1を引用する請求項6を、補正後の特許請求の範囲の請求項1とし、その他の補正前の請求項1?5を削除する補正。

(補正内容2)
補正前の発明の詳細な説明の「0007?0008段落」、「0018?0021段落」を補正後の「0007段落」「0017?0019段落」とする補正。

(補正内容3)
補正前の図面1,2の引き出し線12,13を削除する補正及び補正前の図面4のフローチャートのA3のステップ「放熱性弾性樹脂の充填」を「充填剤の充填」とする補正。

2-2 補正内容の検討

(補正内容1の検討)
請求項1?5の削除であるので、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。

(補正内容2、3の検討)
補正2,3については、補正後の請求項1にかかる発明が、充填剤を「セラミックス又はセメント」と限定されたことにより、不要となった実施例を削除するとともに、図面もそれに基づき補正するものであるので、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をおいう。以下同じ。)に掲げる、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

2-3 補正の検討のまとめ

よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであり、適法に補正がなされたものである。

3.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年10月19日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりである。
「【請求項1】 鉄心とこの鉄心に巻回したコイルとを有するリアクトルを備えるリアクトル装置において、複数の鉄心板片を軸心方向に積層した積層構造とし、かつ折曲部を有しない円形,楕円形又は長円形(小判形)を含む非多角形のリング状に形成するとともに、全幅寸法/厚さ寸法が10以上となる偏平形状に構成し、かつ複数に分割した分割鉄心部の相互間にセパレータシートを介在させて結合した鉄心と、この鉄心の断面に相似する断面形状を有する芯金に巻付けて予め製造したコイルであって、コイルの軸方向に対して厚さ方向が平行になる縦形の平角導線を前記鉄心の断面形状に沿って周方向に巻回したコイルにより構成したリアクトルを備え、このリアクトルを、放熱用ケースに収容するとともに、前記リアクトルを収容した前記放熱用ケースの内部空間に、セラミックス又はセメントを用いた充填材を充填してなることを特徴とするリアクトル装置。」

4.引用刊行物に記載された発明

4-1 特開平8-172021号公報(引用例1)

本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平8-172021号公報(以下「引用例1」という。)には、図3及び図4とともに、以下の記載がある(下線は当審にて付加したものである。以下同じ。)。

(ア)
「【請求項1】 相対向する2つの直線状の巻線部を有する環状の鉄心板が複数枚積層されて、積層された前記巻線部に巻線が施されるようになっている変流器用鉄心の製造方法であって、前記鉄心板を、2つの前記巻線部を有する馬蹄形鉄心片と、非巻線鉄心片とに分割し、さらに、この馬蹄形鉄心片を、2つの前記巻線部を切り離して複数の分割小片に分割し、これらの分割小片を板状の被加工材から、複数取りして打ち抜き、この打ち抜かれた分割小片および前記非巻線鉄心片を、それぞれ積層して積層分割小片および積層非巻線鉄心片とし、これらの積層分割小片を組み合わせて積層馬蹄形鉄心片とした後、この積層馬蹄形鉄心片と前記積層非巻線鉄心片とを組み合わせて、前記鉄心とすることを特徴とする変流器用鉄心の製造方法。」

(イ)
「【0042】
図3(b)に示す鉄心T4は、2つのJ字状の分割小片31、32を互い違いに積層し、これらの積層分割小片S5、S6を組み合わせて積層馬蹄形鉄心片B4とする。また、円弧状の非巻線鉄心片33を互い違いに積層して積層非巻線鉄心片H4とし、この積層非巻線鉄心片H4と積層馬蹄形鉄心片B4とを組み合わせて、鉄心T4とするものである。
【0043】
図4に、この発明の第2実施例を示す。
【0044】
この実施例における鉄心T5は、円環状をしており、同形で円弧状の2つの分割小片41、42を、第1実施例の場合と同様に両端部に凹凸が形成されるようにずらしながらそれぞれ積層し、これらの積層分割小片S7、S8を組み合わせて積層C形鉄心片B5とする。また、分割小片41、42と同形の非巻線鉄心片43を、両端部に凹凸が形成されるようにずらしながら積層して積層非巻線鉄心片H5とし、この積層非巻線鉄心片H5と積層C形鉄心片B5とを組み合わせて、鉄心T5とするものである。
【0045】
分割小片41、42は、第1実施例の場合と同様に、板状の被加工材から打ち抜いて製造される。
【0046】
この際、円弧状の分割小片41、42を打ち抜くため、C形の鉄心片を直接打ち抜く場合と比べ、ストリップレイアウトの設計自由度が高まり、第1実施例の場合と同様に、歩留まりを上げることが可能となる。
【0047】
さらに、この実施例では、分割小片41、42および非巻線鉄心片43が、同形であるため、これらを打ち抜く金型の共用化などによる製造コストの低減を図ることができる。」(0042?0047段落)

(ア)、(イ)の記載から、引用例1には、変流器用の2つに分割した馬蹄形の積層鉄心が記載されており、(イ)の記載及び、図3(b)、図4から、鉄心の形状として、折曲部を有しない長円形(小判形)、円環状ものが記載されていると認められる。
以上を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「鉄心とこの鉄心に巻回したコイルとを有する変流器において、複数の鉄心板片を軸心方向に積層した積層構造とし、かつ折曲部を有しない長円形(小判形)、円環状を含むリング状に形成した変流器。」

4-2 特開平7-45442号公報(引用例2)

本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-45442号公報(以下「引用例2」という。)には、図1とともに、以下の記載がある。

(ウ)
「【請求項1】 コイルボビンに巻装したコイルをフェライトコアに組み込んでなるインダクタ部品本体と、このインダクタ部品本体を収納するケースと、このケースに注入される液状樹脂をインダクタ部品の温度定格の上限値のマイナス20℃よりも高い温度で固化させた注型樹脂により構成されるインダクタ部品。」

(エ)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の構成ではまず、インダクタ部品本体が注型樹脂15で覆われている。また、インダクタ部品本体の温度上昇を下げるため、注型樹脂15にはシリカなどの充填剤の量を多く添加し、熱伝導性をより高くしている。」(0008段落)

(ウ)、(エ)の記載より、引用例2には、「インダクタ部品をケースに収納し、ケースにシリカなどの充填剤を多く添加して、熱伝導性を高めた液状樹脂を注入して固化させた」ものが記載されている。
そして、(エ)には、「インダクタ部品本体の温度上昇を下げるため」に、「注型樹脂」の「熱伝導性をより高く」することが記載され、(ウ)の「ケースに注入される液状樹脂」という記載から、樹脂を伝わった熱は、ケースから放熱されることは当然予測されることであり、ケース自体が放熱する機能を有していることは自明である。
以上総合すると、引用例2には、「インダクタ部品を放熱ケースに収納し、ケースにシリカなどの充填剤を多く添加して、熱伝導性を高めた液状樹脂を注入して固化させた」ことが記載されていると認められる。

4-3 特開平4-112506号公報(引用例3)

本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平4-112506号公報(以下「引用例3」という。)には、図2とともに、以下の記載がある。

(オ)
「無機絶縁充填層は、たとえば、セラミックス前駆体を含む溶液中にセラミックス粒子を分散させた分散液を無機絶縁線材間に充填することによって形成することができる。セラミックス前駆体を含む溶液は、たとえば、金属アルコキシドまたは金属カルボン酸エステルを加水分解及び縮重合反応させることによって調製することができる。このようなセラミックス前駆体としては、Si、Al、Zr、TiおよびMgの金属酸化物の前駆体がある。このような前駆体溶液は、加熱によりセラミックス化して無機絶縁充填層とすることが好ましく、これによりセラミックス粒子が無機絶縁充填層中に強固に固定される。
この発明において、無機絶縁充填層中のセラミックス粒子の含有量は、20体積%?90体積%の範囲内であることが好ましい。20体積%より含有量が少なくなると、無機絶縁充填層の熱伝導性が低下し、90体積%より含有量が多くなると、セラミックス粒子を強固に固定することが困難になる。」(公報2頁右上欄3行?同頁左下欄2行)

(カ)
「第2図は、第1図に示す無機絶縁コイルの無機絶縁線材2のまわりを示す拡大断面図である。第2図を参照して、無機絶縁線材2は、導体5の外周面に無機絶縁層6を被覆することにより形成されている。無機絶縁線材2のまわりには、無機絶縁充填層3が設けられており、無機絶縁充填層3には、セラミックス粒子4が分散されている。
第2図に示すように、この発明の無機絶縁コイルでは、無機絶縁充填層中にセラミックス粒子が分散されており、このセラミックス粒子が、ベリリア、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群より選ばれるものであるため、熱伝導性に優れており、自己発熱した熱が外部に伝達され、温度上昇を抑制することができる。」(公報2頁右下欄4行?17行)

引用例3の(オ)には、「前駆体溶液は、加熱によりセラミックス化して無機絶縁充填層とすることが好ましく、これによりセラミックス粒子が無機絶縁充填層中に強固に固定される。」と記載され、(カ)には、「無機絶縁充填層3には、セラミックス粒子4が分散されている。」と記載されており、線材の固定の材料として、セラミックスを用いることが行われている。そして、セラミックスを用いることにより「熱伝導性に優れており、自己発熱した熱が外部に伝達され、温度上昇を抑制する」という効果を奏することが記載されている。
以上総合すると、引用例3には、「コイルをセラミックスを分散した無機絶縁充填層で被覆することにより、熱伝導性が優れ、温度上昇を抑制することができる」ことが記載されている。

5.対比

以下に、本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「円環」は、本願発明の「円形」に相当し、引用例1発明の「変流器」と、本願発明の「リアクトル装置」とは、電磁誘導を利用した「インダクタンス部品」である点で共通する。
したがって、本願発明と引用例1発明とは、
「鉄心とこの鉄心に巻回したコイルとを有するインダクタンス部品において、複数の鉄心板片を軸心方向に積層した積層構造とし、かつ折曲部を有しない円形,楕円形又は長円形(小判形)を含む非多角形のリング状に形成したインダクタンス部品」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「リアクトル装置」であるのに対し、引用例1発明は、「変流器」である点。

(相違点2)
本願発明は、「全幅寸法/厚さ寸法が10以上となる扁平形状」であるのに対し、引用例1発明は、鉄心の形状寸法の限定がなされていない点。

(相違点3)
本願発明は、「複数に分割した分割鉄心部の相互間にセパレータシートを介在させて結合した鉄心」であるのに対し、引用例1発明は、セパレータシートを介在させていない点。

(相違点4)
本願発明は、「この鉄心の断面に相似する断面形状を有する芯金に巻付けて予め製造したコイルであって、コイルの軸方向に対して厚さ方向が平行になる縦形の平角導線を前記鉄心の断面形状に沿って周方向に巻回したコイルにより構成」しているのに対し、引用例1発明は、この点について明確に記載されていない点。

(相違点5)
本願発明は、「リアクトルを、放熱用ケースに収容するとともに、前記リアクトルを収容した前記放熱用ケースの内部空間に、セラミックス又はセメントを用いた充填材を充填している」のに対し、引用例1発明は、この点について明確に記載されていない点。

6.当審の判断

6-1 相違点1について

「リアクトル」として、環状の鉄心にコイルを巻き付けた構造のものは、以下に示す周知例1、2にも記載されているように周知である。 そして、引用例1には、
「【0002】 【従来の技術】 電線に流れる電流値を測定するものとして、変流器がある。
【0003】 この変流器は、被測定電線または、被測定電線に接続された1次コイルに、電流を流し、この電流によって発生した磁束を2次コイルと交差させ、この交差した磁束に比例して発生する2次コイルの誘導起電力を測定することにより、被測定電線に流れる電流値を測定するものである。
【0004】 このような変流器では、2次コイルに交差しない漏洩磁束による測定誤差を少なくするために、1次コイルからの磁束を環状の鉄心中に閉じ込め、この鉄心に2次コイルを巻き付けるという構造が採られている。」(0002?0004段落)という記載があり、引用例1発明の「変流器」も、「リアクトル装置」と同じ「コイルを環状の鉄心に巻き付けた構造」である。
したがって、引用例1発明の変流器の鉄心の構造を、同じ構造である周知の「リアクトル装置」に適用することは、当業者ならば容易になし得た事項である。

(周知例1) 特開平7-22258号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-22258号公報(以下「周知例1」という。)の図10には「環状の鉄心にコイルを巻き付けた構造のリアクトル」が記載されている。

(周知例2) 特開昭60-241210号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭60-241210号公報(以下「周知例2」という。)には、第1?4,6図に、「扁平形状」で「環状の鉄心にコイルを巻き付けたリアクトル」が記載されている。

6-2 相違点2について

引用例1の図1を見れば明らかなように、引用例1発明も鉄心は扁平形状であり、また、リアクトルで鉄心が扁平形状のものも、上記及び以下に示す周知例2,3にも記載されているように周知である。そして、「全幅寸法/厚さ寸法」については、設置場所等の関係からその形状、寸法等は、当業者が必要に応じて適宜設定しうるもので、「全幅寸法/厚さ寸法」が10以上とすることも、当業者ならば容易になし得た事項である。

また、本願明細書にも
「【0016】 ところで、複数の鉄心板片2p…を積層した積層構造となる鉄心2は、図1及び図7に示すような偏平形状にすることができる。このため、鉄心2の全幅寸法Lw/厚さ寸法Ld(図7)は、所定値以上、望ましくは10以上に選定することが望ましい。これにより、縦形の平角導線Wを用いた場合であっても、図7に示す偏平なリアクトル4(リアクトル装置1)を得ることができ、前述した従来のリアクトル装置50を設置できない狭い隙間等の空間であっても挿入により容易に設置することができる。よって、設置性(省スペース性,融通性等)に優れるため、例えば、自動車等のように配設スペースの制限された設置場所であっても容易に設置することができるとともに、設置場所における設計自由度を高めることができる。」(0016段落)と記載されているとおり、「狭い隙間等の空間」に「容易に設置することができる」ようにするために、「全幅寸法Lw/厚さ寸法Ld(図7)は、所定値以上、望ましくは10以上に選定」しているもので、「10以上」に限定したことにより当業者の予測を超えた効果を奏しているとも認められない。

(周知例3) 特開昭57-196511号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭57-196511号公報(以下「周知例3」という。)には、第2?3図に、扁平形状の鉄心のリアクトルが記載されている。

6-3 相違点3について

「複数に分割した鉄心を隔離するセパレータシートを介在させる」ことは以下に示す周知例4,5に記載されているとおり周知である。
よって、引用例1発明において、「複数に分割した分割鉄心部の相互間にセパレータシートを介在させる」ようにすることは、当業者が容易になし得た事項である。

(周知例4) 特開平7-22258号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-22258号公報(以下「周知例4」という。周知例1と同一公報。)には、図5とともに、以下の記載がある。
「【0017】
一方、鉄心1の巾寸法Aの方が奥行き寸法Bより小さい場合は、図5に示すように鉄心1の巾寸法Aが鉄心1の積層厚となるように積層した方が積層枚数が少なくて済むので鉄心1に使う電磁鋼板の打抜き加工費の面で有利である。 また、コアギャップを確保するために必要なコアギャップスぺーサ3として絶縁シートを採用して、コアギャップ寸法確保と絶縁の機能を兼ねさせることにより、コイル2と鉄心4の間の絶縁は、前記絶縁シート以外何ら必要なくなる。さらに鉄心4と鉄心1の間は絶縁シートで隔離されて、鉄心1は、取付け等のためにアースされる鉄心4とは完全に絶縁される。従ってコイル2の鉄心1,4に対する絶縁は何ら必要でない構成が実現できる。これにより、絶縁材料の低減、絶縁構成の簡略化による組立工数の低減がはかれる。さらには、前記の如くコイル2と鉄心1の絶縁が要らないので、コイル2を鉄心1に直接巻線することも可能となって巻線の内径寸法を最小にでき電線材料の低減がはかれるとともに巻芯治具の不要化、巻線後のコイルと巻芯治具の分離作業の不要化による製作工数の低減などもはかれるものである。
【0018】
また、リアクタの特性上の制限より、コアギャップを確保するコアギャップスぺーサ3の厚さ寸法はかなりの精度が必要とされる。本実施例の場合、コアギャップ1箇所のコアギャップ寸法は300μm±10μmが必要となり、厚さ方向に弾力性のない材料でこの寸法精度を実現しようとすると非常に高いコストがかかる。これに対し本実施例では、所要厚さより充分大なる厚さを有するガラス不織布、ポリエステル不織布、カレンダー加工なしのアラミッド紙などのような厚さ方向に弾力性を有する安価な材料をコアギャップスぺーサ3として用い、鉄心1,4を押圧してコアギャップ部を押圧すると、力に応じて弾力性を有するコアギャップスぺーサ3の厚さ、即ちコアギャップ寸法が変化する。この際、同時にコイル2に測定器を接続してインダクタンス値を測定すると押圧力とインダクタンス値とは図6に示す関係となる。従って、所要のインダクタンス値Rに相当する押圧力Fを維持したまま、金具5を固定すれば容易に所要のインダクタンス値Rを有するリアクタをつくることができる。このようにして、コアギャップスぺーサ3として弾力性を有する安価な材料を使うことにより材料コストを低減することができる。」(0017?0018段落)

(周知例5) 特開平8-51032号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平8-51032号公報(以下「周知例5」という。)には、以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術と課題】
複数のコア片を組み合わせてコアを構成するコイルが知られている。このコイルのインダクタンス調整方法の一例として、コア片とコア片の間に絶縁性のギャップシートを配設し、このギャップシートの厚みにて二つのコア片のギャップを調整してコイルのインダクタンス調整をする方法がある。しかし、この方法は、インダクタンス調整が精度良くできる利点がある一方で、コアのサイズに合わせて小さくカットされたギャップシートが高価であること、またこのギャップシートの取扱いが煩雑で、コイルの自動組立ての妨げになるという問題点があった。」(0002段落)

6-4 相違点4について

まず、本願発明の「この鉄心の断面に相似する断面形状を有する芯金に巻付けて予め製造したコイル」という記載は、製造方法により物を限定しようとしたものと認められるが、できあがった物としてのコイルについては、芯金に巻き付けて予め製造したコイルも、そうでないコイルも形状、構造において特段の相違はない。
次に、仮に上記の点が相違するとした場合も含めて、相違点4全体の「この鉄心の断面に相似する断面形状を有する芯金に巻付けて予め製造したコイルであって、コイルの軸方向に対して厚さ方向が平行になる縦形の平角導線を前記鉄心の断面形状に沿って周方向に巻回したコイルにより構成」することを検討する。
「コイルの軸方向に対して厚さ方向が平行になる縦型の平角導線を鉄心の断面形状に沿って周方向に巻回したコイル」は、以下に示す周知例6?8も記載されているとおり周知である。
そして、コイルを「鉄心の断面に相似する断面形状を有する芯金に巻付けて予め製造」することも、周知例6,8に記載されているとおり周知である。
したがって、引用例1発明のコイルとして、「鉄心の断面に相似する断面形状を有する芯金に巻付けて予め製造したコイルであって、コイルの軸方向に対して厚さ方向が平行になる縦形の平角導線を前記鉄心の断面形状に沿って周方向に巻回したコイル」を用いることは、当業者ならば容易になし得た事項である。

(周知例6) 特開平8-264338号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平8-264338号公報(以下「周知例6」という。)には、図2、3とともに、以下の記載がある。
(1)
「【請求項1】
平角銅線をその幅広の面が互いに対向するように筒状のコイルボビンの周面に巻回して成るコイルを1乃至複数個設け、コイルボビンの軸と略直交する鍔体をコイルボビンの両端部及び各コイル間にそれぞれ配設するとともに、少なくとも一部がコイルボビンの内部に挿通されるコアと、各コイルを構成する平角銅線の端部に形成されたコイル端子部にそれぞれ接続される複数の端子ピンとを備えた電磁装置であって、これら複数の端子ピンをコイルボビンの軸方向に沿って互いに略平行に保持する端子板をコイルボビンの周面に対向させて配設したことを特徴とする電磁装置。」
(2)
「【0009】
一方、図40に示すように、コイル20は巻線同士が密着しているために、上記のパルストランスのような高電圧に対する絶縁を確保するには、平角銅線24の表面を覆う絶縁被膜25の耐圧性能のみで対処しなければならず、そのために絶縁被膜25の厚みを厚くする必要があった。しかしながら、平角銅線24の表面を絶縁被膜25で覆う工程は非常にコストがかかり、しかも、その厚みを厚くするとさらにコストアップにつながってしまう。あるいは、電磁装置を組み立てる際に何らかの理由で絶縁被膜25に傷がついて剥がれてしまう可能性があり、このような可能性をなくさなければ、充分な信頼性を確保することができない。
【0010】
また、コイル20の端子間の沿面距離が短くなるので、端子間の絶縁を確保するためにコイル20の表面を樹脂で完全に覆い尽くす必要があったが、コイル20への樹脂の充填を真空中で行なうなどの手間のかかる工程が必要であった。 さらに、コイル20の巻線同士が非常に密着しているためにコイル20の放熱性が低く、高温になりやすいという問題、図41に示すようにコイル60に円筒状のコイルボビン62を挿通するだけでは、コイル60がコイルボビン62に対して固定されずに動いてしまい、コイル端子の処理がしずらいという問題、あるいはコイル20には密着する部分が多く近接効果の影響を受けやすいために高周波の電流が流れた場合の渦電流損失や銅損が増加して特性が劣化するという問題があった。」(0009?0010段落)
(3)
「【0029】
図2に示すように、絶縁性を有する円筒状の本体2と、中央に本体2が挿通された絶縁性を有する矩形板状の隔壁板3とでコイルボビン1が形成してあって、隔壁板3は円筒状の本体2の略中央に位置させてある。
コイル201 は、従来例と同様の構成を有するエッジワイズコイルであって、平角銅線をその幅広の面が互いに対向するように同心円状に巻回して形成されるとともに平角銅線の両端が引き出されており、この引出線がコイル端子部21となる。
【0030】
一方、コイルボビン1の隔壁板3には、絶縁性を有する部材により短冊形に形成された端子板101 ,102 が、本体2を挟んで対向する位置に本体2の軸方向に沿うように、且つ互いに略平行となるように取着されている。なお、各端子板101 ,102 の長手方向の寸法は本体2の軸方向の寸法と略等しくしてある。
【0031】
端子板101 ,102 の隔壁板3に取着された箇所を挟んだ両側には、それぞれ一対の端子ピン11が幅方向に貫通させてあり、端子板101 ,102 の幅方向の両側から略等しい寸法分だけ突出させて各端子板101 ,102 に計4本の端子ピン11が取り付けてある。端子ピン11は平角状の導体によって先端が尖った棒状に形成されており、隔壁板3に対して同じ側にある端子ピン11の間隔はそれぞれ等しくしてある。なお、一方の端子板101 の隔壁板3に近い側の端子ピン11については、先端側のみを端子板101 から突出させ、後端側は突出させないようにしてある。
【0032】
また、図3に示すように、コイル201 はその内径にコイルボビン1の本体2が挿通されて片面を隔壁板3に当接させてコイルボビン1に装着され、コイル201 のコイル端子部21の間に端子板101を位置させてある。さらに、絶縁性を有する部材によって丸孔4aを有する矩形板状に形成された鍔体41がその丸孔4aに本体2が挿通されることでコイルボビン1に装着され、図4に示すように、コイルボビン1の隔壁板3と鍔体41とによってコイル201が挟持される。この状態から、図5に示すようにコイル201の両コイル端子部21が鍔体41の方へ略直角に折り曲げられ、さらに、コイル端子部21の先端部が折り曲げられてそれぞれ端子板101から突出した端子ピン11に巻き付けられ、半田付けやスポット溶接などの方法で端子ピン11とコイル端子部21とが接合される。したがって、コイル201のコイル端子部21は端子板101を挟んで互いに交差することなくそれぞれ対応する端子ピン11に接合されるのである。」(0029?0032段落)

(周知例7) 特開昭54-106824号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭54-106824号公報(以下「周知例7」という。)には、第3図とともに、以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1)略円形断面を有する鉄心の外周に所要断面形状を有する絶縁平角線を平角線の断面の長手方向を鉄心と直角に密着するように、且該平角線の鉄心側を広くし、隣接線間外周部側に隙間を生じるようにして巻収して成る静止誘導機器。」(請求項1)

(周知例8) 特表2001-500673号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特表2001-500673号公報(以下「周知例8」という。)には、図1?10とともに、以下の記載がある。
「ここで、線材ガイド6のX軸方向の位置つまり平角線Aの供給位置は一定であり、これに従って中治具S^(a)のX軸方向の位置は移動支持体4の位置はシリンダ5によって一定位置に設定されている。しかし、巻取られた平角線Aは回転治具Rの回転に応じて巻線収容孔s^(10)内に順次収容されるので、回転治具RのX軸方向の位置は、図9に示すようにX軸負方向に順次変位し、これと同時に固定治具Sの位置もX軸負方向に順次変位する。
このようにして平角線Aが所定数巻回されると、図示しない切断装置によって平角線Aの供給側、たとえば線材導入窓s^(13)の入口にて切断し、さらに回転治具Rを回転させることによって残りの平角線Aをすべて巻取る。そして、すべての平角線Aを巻取ると、加圧シリンダ11,23による圧接が解除され、巻芯前後シリンダ8bが作動されて巻芯部材13が固定治具Sから抜かれる。さらに、シリンダ5,9が作動されることによって固定治具Sと回転治具Rとが離間されて巻線収容孔s^(10)内のコイルが取出される。 図10は、以上の巻取工程によって製造されたコイルCの斜視図である。このようなコイルの製造方法によれば、平角線Aの長面a^(2)に加えられる側圧によって、該平角線Aは塑性変形しながら巻回されるので、巻線終了後に生じるスプリングバックが抑えられる。したがって、巻線された平角線Aの間隔が小さくなるため、コイル厚dのコイルを製造することができる。」(12頁12行?13頁1行)

6-5 相違点5について

引用例2には、「インダクタ部品を放熱ケースに収納し、ケースにシリカなどの充填剤を多く添加して、熱伝導性を高めた液状樹脂を注入して固化させた」ことが記載されており、その充填剤として、引用例3に記載された「セラミックス」とすることにより「熱伝導性」を向上させることに格別の困難性は認められない。
また、「リアクトル」は、そのインダクタンスを利用した電機部品であることすなわち「インダクタ部品」であることは言うまでもない。
よって、引用例1発明において、インダクタ部品であるリアクトルを放熱用のケースに収納し、セラミックスを充填するようにすることは、当業者ならば容易になし得た事項である。

7.むすび

以上より、本願請求項1に係る発明は、上記周知技術を勘案することにより、引用例1?3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-28 
結審通知日 2010-06-30 
審決日 2010-07-14 
出願番号 特願2002-360584(P2002-360584)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 西脇 博志
加藤 俊哉
発明の名称 リアクトル装置  
代理人 下田 茂  

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