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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1223807
審判番号 不服2008-9693  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2010-09-13 
事件の表示 平成10年特許願第195632号「繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフト」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月25日出願公開、特開2000- 24150〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年7月10日の出願であって、平成19年12月17日に手続補正がなされ、平成20年3月24付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年5月1日に手続補正がなされたものである。

第2 平成20年5月1日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年5月1日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 平成20年5月1日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項1】 少なくともアングル層とストレート層との2層以上の繊維強化プラスチック層を積層させてなるゴルフクラブシャフトであって、該シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から150mmの範囲内における捻り剛性が5N・m^(2) 以上であり、かつ曲げ剛性が12N・m^(2) 以上であり、しかも該シャフト全体の重量が55g以下であることを特徴とする繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフト。
【請求項2】 シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から300mmの範囲内であって、かつシャフト表面から0.4mm以内の深さの範囲内に、強化繊維の配向角が±(30?70°)の繊維強化プラスチック層からなる補強層を具備し、該補強層における強化繊維が、引張弾性率240GPa以下の炭素繊維からなる請求項1記載の繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフト。」
とあったものを、

「【請求項1】 少なくともアングル層とストレート層との2層以上の繊維強化プラスチック層を積層させてなるゴルフクラブシャフトであって、シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から300mmの範囲内であって、かつシャフト表面から0.13?0.4mmの深さの範囲内に、引張弾性率240GPa以下の炭素繊維からなる強化繊維の配向角が±(30?70°)の繊維強化プラスチック層からなる補強層を具備し、該シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から150mmの範囲内における捻り剛性が5N・m^(2) 以上であり、かつ曲げ剛性が12N・m^(2) 以上であり、しかも該シャフト全体の重量が55g以下であることを特徴とする繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフト。」
に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 本件補正は、以下(ア)及び(イ)の内容からなる。
(ア)本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項2を請求項1に繰り上げる。
(イ)本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「シャフト表面から0.4mm以内の深さの範囲内」を「シャフト表面から0.13?0.4mmの深さの範囲内」に限定する。

(2)補正の目的
上記(1)イのとおり、本件補正は、全体として、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項を限定して本件補正後の請求項1とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-164600号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の(1)ないし(4)の事項が記載されている。
(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、テーパ付き中空シャフトに関し、特にゴルフクラブシャフトに適する中空シャフトに関する。
【0002】
【従来の技術】ゴルフのスイング挙動に関しては、フレックスがより大きいシャフト、すなわち曲げ剛性がより低くより柔らかいシャフトであるほどスイング中におけるシャフトのしなりが大きくなるため、しなり解放時におけるヘッドスピードは向上する。
【0003】フレックスの大きいシャフトの中でも先調子のシャフトすなわちシャフト細径部においてより小さな曲げ剛性を有するシャフトは、一般ゴルファー、特にヘッドスピードが遅くあまり力のない女性および中高年ゴルファーに適する。しかし、従来このような先調子の軽量シャフトはほとんど得られていなかった。
【0004】さらに近年のゴルフクラブシャフトにおける軽量化の流れのなかではピッチ系炭素繊維を用いた軽量シャフトはねじり強度を維持するのが益々難しくなっている。
【0005】ゴルフクラブシャフトとして用いられるには、ねじり強度が大きいだけでなく、ゴルフクラブヘッドのスイートスポットを外して打った際に生じるシャフトのねじれがより小さいこと、すなわちより高いねじり剛性を有していること、および先調子であることなどが求められる。
【0006】このような軽量でかつ優れたねじり強度、ねじり剛性を有しさらにシャフト細径部における曲げ剛性を小さくすることを同時に満たすゴルフシャフトはほとんど得られていなかった。」

(2)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこれら従来の課題を解消しスイング中における優れたしなりを有する軽量で先調子のシャフトを提供するものである。
【0008】また、本発明は軽量でかつ優れたねじり剛性、ねじり強度が有り、さらに細径部の曲げ剛性を小さくしたシャフトを提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明のテーパ付き中空シャフトは、繊維強化複合材料より製造されるテーパ付き中空シャフトであり、斜交層およびストレート層の少なくとも2要素より構成されるテーパ付き中空シャフトにおいて、該斜交層の強化繊維の配向角が±35?±60°の正負の斜行層からなり、該ストレート層の強化繊維の配向角が-5?5°でありかつ該シャフト細径側部分のストレート層の巻回数を徐々に減少させることを特徴とする。
【0010】さらに、本発明の好ましい実施の形態においては、前記シャフト細径側部分に強化繊維の配向角が10°以上35°未満および-35°を越えて-10°以下の正負の補強層を配置したことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明において、斜交層に用いるプリプレグとしてはクロスプリプレグおよび一方向プリプレグを使用することができるが、配向角を制御しやすいため一方向プリプレグが好ましく用いられる。
【0012】該プリプレグに使用される強化繊維としては引張弾性率が20?100tonf/mm^(2) 、好ましくは40?80tonf/mm_(2) の強化繊維が用いられる。
【0013】このような強化繊維としては金属繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維および炭素繊維が用いられ、その中でも軽量でかつ高引張弾性率であることから好ましくは炭素繊維、さらに好ましくはピッチ系炭素繊維が用いられる。
【0014】斜交層用のプリプレグに使用される樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられ、好ましくはエポキシ樹脂が用いられる。
【0015】該プリプレグの目付は通常50?180g/m^(2) 、好ましくは75?150g/m^(2) の範囲のものを用いることができる。強化繊維目付がこの範囲より大きいとシャフト重量設計における自由度が制限される上、ゴルフクラブシャフト製造時におけるプリプレグのマンドレルへの巻き付き性も劣るなどの弊害が生じやすい。
【0016】本発明においてストレート層に用いるプリプレグとしては配向を制御し易いため一方向プリプレグが好ましく用いられる。該プリプレグに使用される強化繊維としては、斜交層の強化繊維よりもしなり易い繊維が好ましく、引張弾性率20?40tonf/mm^(2) 、より好ましくは20?30tonf/mm^(2) のものが用いられる。また、該強化繊維は通常圧縮強度50?250kgf/mm^(2) 、好ましくは70?250kgf/mm^(2) 、より好ましくは100?250kgf/mm^(2) のものが用いられる。このような強化繊維としては金属繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維および炭素繊維が用いられ、その中でも軽量なことから好ましくは炭素繊維、さらに好ましくは圧縮強度に優れるPAN系炭素繊維が用いられる。
【0017】ストレート層用プリプレグに使用される樹脂としてはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられ、好ましくはエポキシ樹脂が用いられる。該プリプレグの目付は通常50?180g/m^(2) 、好ましくは75?150g/m^(2) の範囲のものを用いることができる。炭素繊維目付がこの範囲より大きいとシャフト裁断形状や重量設計における自由度が制限されやすい。
【0018】本発明において補強層に用いるプリプレグとしては配向を制御し易いため一方向プリプレグが好ましく用いられる。該プリプレグに使用される強化繊維としては、斜交層の強化繊維よりもしなりやすい繊維が好ましく引張弾性率20?60tonf/mm^(2) 、より好ましくは20?50tonf/mm^(2) のものが用いられる。また、該強化繊維は通常圧縮強度50?250kgf/mm^(2) 、好ましくは70?250kgf/mm^(2) 、より好ましくは100?250kgf/mm^(2) のものが用いられる。このような強化繊維としては金属繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維および炭素繊維が用いられ、中でも軽量なことから好ましくは炭素繊維、さらに好ましくは圧縮強度に優れるPAN系炭素繊維が用いられる。
【0019】補強層用プリプレグに使用される樹脂としてはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられ、好ましくはエポキシ樹脂が用いられる。
【0020】該プリプレグの目付は通常50?180g/m^(2) 、好ましくは75?150g/m^(2) の範囲のものを用いることができる。炭素繊維目付がこの範囲より大きいとシャフト裁断形状や重量設計における自由度が制限されやすい。
【0021】本発明における成形後のシャフトの積層構造は少なくとも斜交層およびストレート層から構成されており、好ましくは斜交層、補強層およびストレート層から構成されている。補強層が存在すれば軽量かつ先調子、すなわちシャフト細径部での曲げ剛性を小さく保ったままねじり強度を向上させることができる。
【0022】前記斜交層は正の斜交層と負の斜交層を一組として用いられ、正負の斜交層用プリプレグを2枚重ね合わせてマンドレルなどに巻回、あるいは正の斜交層をマンドレルなどに巻回した後その上から負の斜交層を巻回することができる。正の斜交層は強化繊維の配向が軸方向に対して35°?60°、好ましくは35°?55°、より好ましくは40°?50°になるように巻回することができる。負の斜交層は強化繊維が正の斜交層と交差するように配向しており、シャフト軸方向に対して-35°?-60°、好ましくは-35°?-55°、より好ましくは-40°?-50°になるように巻回することができる。正負一組の斜交層の巻回数は通常1?10層、好ましくは4?8層である。斜交層の積層厚さは太径部と細径部で異なってもよいが一定であることが好ましい。
【0023】前記補強層はストレート層の外周部あるいは斜交層とストレート層の間に構成することができる。補強層を配置することでねじり強度を向上させることができる。なお、補強層をストレート層の外側に配置した場合は補強層を斜交層とストレート層の間に配置した場合に比べシャフト細径部の曲げ剛性を小さくしかつねじり強度およびねじり剛性を向上することができるため好ましい。
【0024】補強層はシャフトの細径側先端部に位置しており、補強層の占有範囲の下限が通常シャフト全長の1/10以上、好ましくは1/3以上であり、上限が通常シャフト全長の2/3以下、好ましくは1/2以下の部分を占めている。補強層の占有範囲が該範囲を超えるとシャフト全体の曲げ剛性が小さくなり、いわゆる手元調子のシャフトとなってしまい、該範囲に満たない場合はシャフトの細径部のねじり強度が不足するため好ましくない。
【0025】補強層は正の補強層と負の補強層を一組としており、正負の補強層用プリプレグを2枚重ね合わせてマンドレルなどに巻回し、あるいは正の補強層をマンドレルなどに巻回した後その上から負の補強層を巻回することができる。なお、斜交層および補強層として一方向プリプレグを使用した場合は正負2枚を一組として巻回するが、クロスプリプレグを使用した場合は1枚単位で巻回してもよい。
【0026】補強層の巻回方法は、図1に示すような所定の巻回数となるように台形あるいは台形の1つの角をカットした五角形のプリプレグをマンドレルに巻回することにより行うことができる。図1において、1,1’はマンドレル、2,2’は斜交層用プリプレグ、3,3’はストレート層用プリプレグ、4,4’は補強層用プリプレグであり、(e)はマンドレル1に各プリプレグ2?3を巻いた状態を示す積層構成図である。
【0027】プリプレグ2?4を巻回するに際して、上記のようにカットした正負の補強層用プリプレグ各1枚はマンドレルの軸方向と垂直な方向に1/2周ずつずらして巻回することができる。なお、正負の補強層用プリプレグが各2枚ずつになるときは同様に1/4周ずつずらして巻回することもできる。
【0028】補強層の巻回数はシャフト細径側部分においては通常2?8層、好ましくは2?6層であり、太径側部分に向かって巻回数は0層になるまで徐々に減少することができる。ここでいう巻回数は正負の補強層を一つにつなげた場合のシャフト巻回数と対応しており、シャフト細径側と太径側で巻回数が異なるようにプリプレグをカットした場合はシャフト軸に垂直な任意の断面において該巻回数は連続的に変化する。
【0029】正の補強層は強化繊維の配向の範囲が軸方向に対して通常10°以上35°未満、好ましくは10°以上28°以下、最も好ましくは15°以上25°以下になるように巻回されている。負の補強層は強化繊維が正の補強層と交差するように配向しておりその範囲はシャフト軸方向に対して通常-35を越えて-10°以下、好ましくは-28°以上-10°以下、最も好ましくは-25°以上-15°以下になるように巻回されている。
【0030】ストレート層は強化繊維の配向方向がシャフト軸方向に対して-5°?5°、より好ましくは-3°?3°でありかつ、補強層の外周部あるいは斜交層と補強層の間に構成することができる。ストレート層の巻回方法は、図1(b)(c)に示すような台形あるいは台形の一つの角をカットした五角形のプリプレグを所定の巻回数となるようにマンドレルに巻回することにより行うことができる。巻回するに際して、上記のようにカットしたストレート層用プリプレグを2枚巻回する場合はマンドレルの軸方向と垂直な方向に1/2周ずつずらして巻回することができる。なお、ストレート層用プリプレグが各3枚になるときは同様に1/3周ずつずらして巻回することもできる。なお、ストレート層2枚を1/2周ずつずらした場合は、軸に垂直な断面に関して積層数が多い部分同志と少ない部分同志がシャフト軸を中心に相互に向き合った配置、即ちストレート層が異方的に配置することになる。この様子を模式的に図2のB断面に示した。ストレート層3枚を1/3周ずつずらした場合は、軸に垂直な断面に関して積層数が多い部分がシャフト軸を中心に3方向に分散した配置、即ちストレート層が擬似等方的に配置することになる。
【0031】ストレート層はシャフト細径側部分にある補強層部分では1?3層とし、該補強層部分以外では該補強層部分よりも1?10層、好ましくは1?8層多くすることができ、2?11層、好ましくは2?9層で構成することができる。このときストレート層の巻回数は太径部分から細径部分にかけて徐々に巻回数を減らすことができる。ここでいう巻回数は異方的あるいは疑似等方的に配置したストレート層を一つにつなげた場合のシャフト巻回数と対応しており、各断面において該巻回数は整数だけでなく小数も含まれることになる。
【0032】ストレート層は補強層に比べてシャフトのしなりに与える影響が大きいことに特徴がある。特にストレート層の積層が異方的な配置の場合はシャフトの曲げ剛性も巻回数に比例して異方的に増加する。この効果は補強層のシャフトの軸方向に対する配向角が本発明の範囲の場合、補強層がストレート層の配置を打ち消すように異方的に配置していてもほとんど失われることがない。
【0033】このような異方的配置は例えばゴルフシャフトのスイング挙動に対して有用であり、スイング方向と垂直な方向のストレート層の積層数を増加すればインパクト直前のトウダウンを抑制することができる。
【0034】補強層とストレート層は細径部側においてそれぞれ巻回数の増減を補うように巻回し、シャフト各部の各層合わせた巻回数あるいは厚みが全体においてほぼ均一になるようにすることが好ましい。
【0035】なお、シャフトのねじり剛性を表す指標としてトルク値(ゴルフクラブシャフト太径側を固定し、シャフト細径側部分付近に1ft・lbのモーメントを負荷したときのシャフトのねじり角度)で表すことができる。
【0036】本発明のシャフトは通常8deg/ft・lb以下、好ましくは6deg/ft・lb以下のものを得ることができる。
【0037】また、ゴルフクラブシャフトの細径部の曲げ剛性(先調子)を表す指標として、逆式フレックス(ゴルフクラブシャフトの細径側を固定し、シャフト太径側の所定の位置に曲げ荷重を負荷したときに生じる、曲げ荷重が生じていない状態からの垂直方向におけるたわみ量)から順式フレックス(ゴルフクラブシャフトの太径側を固定し、シャフト細径側の所定の位置に曲げ荷重を負荷したときに生じる、曲げ荷重が生じていない状態からの垂直方向におけるたわみ量)を引いた値、すなわちフレックスの差で表すことができる。(逆式フレックス)-(順式フレックス)の値、すなわちフレックスの差が大きければ先調子のシャフトとなり、小さければ手元調子のシャフトとなる。本発明のシャフトは好ましいフレックスの差の範囲として通常10?70mm、より好ましくは20?60mmのものを得ることができる。
【0038】シャフトのねじり強度は破断トルクで表すことができる。本発明のシャフトの破断トルクの好ましい範囲は下限が10N・m以上、好ましくは15N・m以上、より好ましくは18N・m以上、最も好ましくは20N・m以上であり、上限が35N・m以下、好ましくは33N・m以下、より好ましくは30N・m以下である。該範囲以下ではシャフトを捻ったときに破壊されやすく例えばゴルフシャフトとしての用途には使用できない。また該範囲以上に補強してもシャフト自体の重量が増加することになるため好ましくない。
【0039】本発明のシャフトの曲げ剛性の異方性は、0°、45°、90°の各フレックス値に5mm以上のばらつきがあれば異方性があるとした。
【0040】本発明によるシャフトのトウダウンは通常500με以下、好ましくは470με以下である。」

(3)「【0041】
【実施例】以下に実施例を示すが本発明はこれにより限定されるものではないことはいうまでもない。本発明におけるフレックスの測定方法は社団法人日本ゴルフ用品協会のフレックス測定標準機を使用し、シャフトを水平にして荷重点から25mm支点側に寄ったところの荷重前後の変位を測定した。
【0042】順式フレックス測定の設定方法の場合、荷重は2.7kg、荷重位置は細径側先端から20mmの位置であり、シャフトの固定方法はシャフト太径端側から57mmの位置を上から、シャフト太径端側から197mmの位置を下から支持した。
【0043】逆式フレックス測定の設定方法の場合、荷重は1.5kg、荷重位置は太径側先端から57mmの位置であり、シャフトの固定方法はシャフト細径端側から20mmの位置を上から、シャフト細径端側から160mmの位置を下から支持した。
【0044】(実施例1)斜交層として日本グラファイトファイバー(株)製E5026E-12(炭素繊維XN-50、炭素繊維目付125g/m^(2) 、樹脂含有量27.5wt%)、補強層およびストレート層として東レ(株)製P8055S-12(炭素繊維M30S、炭素繊維目付125g/m^(2) 、樹脂含有量25wt%)のプリプレグを使用した。正負の斜交層(審決注:「斜行層」は、「斜交層」の明らかな誤記であるので訂正して摘記した。)1組はそれぞれシャフト軸方向に対して±45°に配向しかつマンドレル上を均一に2.5層ずつ巻回するようにプリプレグを裁断して使用した。斜交層をマンドレルに巻回するときは図1に示すように正負の斜交層をシャフト軸方向に対して垂直な方向に互いに半周ずつずらして巻回した。
【0045】ストレート層は細径端が1層、太径端が2層巻回するように図1(c)のように五角形に切り出したプリプレグを2枚使用した。ストレート層をマンドレルに巻回するときは図1(e)に示すように2枚のストレート層を互いに半周ずつずらして斜交層を巻回した後に重ねて巻回した。このように巻回することで図2(B)に示すようにストレート層の積層に異方性(図ではストレート層に切れ目がある)をもたせることができた。なお、図2(A)?(C)はできあがったシャフトの図1(e)におけるA断面、B断面およびC断面の断面図であるが、シャフト細径端にいくに従いストレート層の巻回数が減っていることが分かる。
【0046】補強層のプリプレグの長さは補強層部分がシャフト細径端から300mmまで配置するようにし、細径部分のそれぞれの巻回数が2層になるように、かつシャフト軸に対する配向角が25°となるように三角形に切り出したプリプレグを2枚使用した。補強層をマンドレルに巻回するときは図1(e)に示すように2枚の補強層を互いに半周ずつずらしてストレート層を巻回した後に重ねて巻回した。なお、補強層はストレート層の巻回数の少ない部分を補うように配置した。
【0047】できあがったシャフトの全長は1145mm、細径端の内径は6mm、外径は8.5mmであり、太径端の内径は13.0mm、外径は15.0mmとなった。
【0048】上述した方法でフレックスを測定した。また、インパクト直前近傍においてシャフトに生じる曲げ歪みよりトウダウンを測定した。曲げ歪みが大きいほど、大きなトウダウンが生じていることになる。トウダウンおよびフレックス値を表1に示す。 表1にはさらに以下の実施例2?3および比較例1の測定結果も示した。
【0049】
【表1】

【0050】表1のフレックス値が示すように実施例1のゴルフクラブシャフトはシャフトに生じる曲げ応力の方向に異方性があった。また、実施例1のシャフトはトウダウンが小さいことが分かった。
【0051】
【表2】

表2には各種ゴルフシャフトの物性を示した。実施例1のゴルフクラブシャフトは軽量で先調子でありかつ優れたねじり強度とねじり剛性を有することが分かった。
・・(中略)・・
【0056】(実施例6)補強層の配向角が30°となる以外は実施例1と同様に製造した。表2から実施例6のゴルフクラブシャフトは軽量で先調子でありかつ優れたねじり剛性およびねじり強度を有することが分かった。」

(4)「【図面の簡単な説明】
【図1】 補強層をストレート層外側に巻回した場合のプリプレグ裁断形状および積層構成を示す図である。
【図2】 ストレート層の巻回数を4層(2層+2層)から2.6層(1.3層+1.3層)、さらに2層(1層+1層)へと減少させた場合のシャフト軸に垂直な断面の積層構成を示す図である。ただし補強層の積層変化を省略している。
【符号の説明】
1,1’:マンドレル、2,2’:斜交層用プリプレグ、3,3’:ストレート層用プリプレグ、4,4’:補強層用プリプレグ。
【図1】

【図2】



(5)摘記(1)ないし(4)を含む引用例全体、特に、実施例6から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「斜交層として日本グラファイトファイバー(株)製E5026E-12(炭素繊維XN-50、炭素繊維目付125g/m^(2) 、樹脂含有量27.5wt%)、補強層およびストレート層として東レ(株)製P8055S-12(炭素繊維M30S、炭素繊維目付125g/m^(2) 、樹脂含有量25wt%)のプリプレグを使用し、
正負の斜交層1組を、それぞれシャフト軸方向に対して±45°に配向しかつマンドレル上を均一に2.5層ずつ巻回し、
ストレート層を、細径端に1層、太径端に2層、前記斜交層を巻回した後に重ねて巻回し、
補強層を、シャフト細径端から300mmまで配置するように、細径部分のそれぞれの巻回数が2層になるように、かつ、シャフト軸に対する配向角が30°となるように、前記ストレート層を巻回した後に重ねて巻回して製造された、
全長1145mm、細径端の内径6mm、外径8.5mm、太径端の内径13.0mm、外径15.0mm、重量61.0gのゴルフクラブシャフト。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「斜交層」は、本願補正発明の「アングル層」に相当する。
(2)引用発明の「斜交層」、「補強層」及び「ストレート層」は、いずれもプリプレグを使用した繊維強化プラスチック層であることが当業者に自明であるから、本願補正発明の「繊維強化プラスチック層」に相当する。
(3)上記(1)及び(2)から、引用発明の「ゴルフクラブシャフト」と本願補正発明の「ゴルフクラブシャフト」とは、「『少なくともアングル層とストレート層との2層以上の繊維強化プラスチック層を積層させ』てなる『繊維強化プラスチック製』」のものである点で一致する。
(4)上記(1)ないし(3)から、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくともアングル層とストレート層との2層以上の繊維強化プラスチック層を積層させてなるゴルフクラブシャフトであって、シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から300mmの範囲内に、炭素繊維からなる強化繊維の配向角が+30°の繊維強化プラスチック層からなる補強層を具備した繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフト。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明では、前記炭素繊維が、「引張弾性率240GPa以下」のものであるのに対して、引用発明では、前記炭素繊維が、そのようなものでない点。

相違点2:
前記補強層が、本願補正発明では、「シャフト表面から0.13?0.4mmの深さの範囲内」に具備されたものであるのに対して、引用発明では、そのように具備されたものであるのか明らかでない点。

相違点3:
前記ゴルフクラブシャフトが、本願補正発明では、「シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から150mmの範囲内における捻り剛性が5N・m^(2) 以上であり、かつ曲げ剛性が12N・m^(2) 以上であり、しかも該シャフト全体の重量が55g以下」のものであるのに対して、引用発明では、前記捻り剛性及び曲げ剛性はどの程度か明らかでなく、かつ、質量は61.0gのものである点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 引用例には、「本発明において補強層に用いるプリプレグとしては配向を制御し易いため一方向プリプレグが好ましく用いられる。該プリプレグに使用される強化繊維としては、斜交層の強化繊維よりもしなりやすい繊維が好ましく引張弾性率20?60tonf/mm^(2) 、・・(中略)・・のものが用いられる。」(上記2(2)段落【0018】参照。)と記載されている。ここで、前記引張弾性率20?60tonf/mm^(2) は、GPaを単位とすれば、196?588GPaである。
イ 上記アから、引用発明の炭素繊維を、「引張弾性率240GPa以下」のものとすることは、当業者が引用例に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。

(2)相違点2について
ア 繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフトの製造方法において、研磨代となる最外層を設けるとともに、仕上工程として研磨を行うことは、本願の出願前に周知であり(以下、「周知技術」という。例.特開平10-694号公報特に「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ゴルフクラブシャフト、釣竿、スキーストック、自転車のフレーム等に用いられるFRP製の管状体に関する。」及び「【0011】・・(略)・・(10)・・(略)・・シャフトの最外層に高レジンプリプレグ(樹脂重量比率が略30wt%以上、好ましくは40wt%以上)の層を形成する。この層は、最終的な研磨工程における研磨代相当に対応させたものであり、このような層を形成したことにより、本体プリプレグの研磨量を少なく、又は無くすこととなり、管状体の剛性等の物性のばらつきの防止が図れる。」、特開平9-173516号公報特に「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、繊維強化プラスチック(FRP)の中空管からなるオーバーホーゼルタイプのゴルフクラブ用シャフトのチップ側先端部の補強方法に関するものである。」及び「【0012】次に、前記のようにして形成した巻成体のチップ側先端部外周面上に実質的にフープ層を覆うように最外層を形成する。このとき、最外層を構成する繊維の繊維方向がマンドレル軸方向に対して略平行になるように最外層を配置する。この最外層に含まれる繊維層Dは、シャフトの長手方向に対して略平行に配列した繊維層からなる。【0013】この最外層の配置により、チップ側先端部の曲げ剛性向上の効果が得られるとともに、この最外層は、研磨工程の際に研磨によってフープ層が損なわれるのを防止し、研磨を支障なくスムーズに行うのに役立つ。」参照。)、また、前記研磨をどの程度行うかは、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものである。
イ 上記アから、引用発明において、補強層の上に研磨代となる最外層を設けるとともに、仕上工程として、最外層を残して研磨を行い、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(3)相違点3について
ア ゴルフクラブシャフトに十分な剛性及び軽量性が要求されることは、当業者に自明であり、その許容し得る剛性の下限及び重量の上限は、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものである。
イ 上記アから、引用発明において、プリプレグの種類や積層数等を変えて、「シャフトのヘッド側先端?該ヘッド側先端から150mmの範囲内における捻り剛性が5N・m^(2) 以上であり、かつ曲げ剛性が12N・m^(2) 以上であり、しかも該シャフト全体の重量が55g以下」のものとすることは、当業者が適宜なし得た設計上のことである。

(4)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用例に記載された事項及び周知技術の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
上記4のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年5月1日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年12月17日付け手続補正によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)アで、本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2として記載したものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記第2〔理由〕2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明において、その発明を特定するために必要な事項である「シャフト表面から0.13?0.4mmの深さの範囲内」を、「シャフト表面から0.4mm以内の深さの範囲内」に拡張したものである(上記第2〔理由〕1(1)イ(イ)参照。)。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2〔理由〕4に記載したとおり、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-08 
結審通知日 2010-07-15 
審決日 2010-07-27 
出願番号 特願平10-195632
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 繊維強化プラスチック製ゴルフクラブシャフト  

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