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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1223812
審判番号 不服2008-26526  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2010-09-13 
事件の表示 特願2001-245997「インクジェット記録材料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月27日出願公開、特開2002-337448〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.経緯
本願は平成13年8月14日(優先権主張、平成12年12月28日及び平成13年3月12日)の出願であって、平成20年9月9日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月16日に審判請求がなされるとともに、同年11月12日付で手続補正がなされたものである。その後、当審において平成21年11月13日付で拒絶理由を通知したところ、審判請求人が平成22年1月15日に意見書とともに手続補正書を提出したものである。

2.本願発明
本願の発明は、平成22年1月15日付手続補正書によって補正された本願の明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1?2にに記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】耐水性支持体上に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子として気相法シリカを含有する多孔質のインク受容層を有するインクジェット記録材料において、該インク受容層に、下記化1で表されるヒドラジン誘導体と、カチオン性ポリマーと、塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物及び周期表4A族元素を含む水溶性化合物から選ばれる水溶性金属化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録材料。
【化1】
R_(1 ) R_(3)
>N-N<
R_(2 ) R_(4)
(化1中、R_(1)?R_(4)は独立して水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族基、芳香族基、複素環基、カルボニル基、スルホニル基、スルホキシ基、ホスホリル基、イミノメチレン基を表し、これらは連結して環を形成してもよく、またポリマーになっていてもよい。但しR_(1)?R_(4)の少なくとも1つは置換もしくは非置換のカルボニル基またはスルホニル基である)」

3.引用例の記載
当審において、平成21年11月13日付で通知した拒絶理由で引用した本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1:特開平11-20306号公報には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与。)

(1a)「【請求項1】 親水性バインダー及びアニオン性染料に対して媒染力を有するカチオン媒染剤を含有するインク吸収層を支持体上に少なくとも1層有し、インク吸収層の記録面側の膜面pHを3以上、5以下としたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】 インク吸収層が、1次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子を含有し、空隙が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】 無機微粒子が、気相法により合成されたシリカ、コロイダルシリカ及びアルミナ及びアルミナ水和物の中から選ばれた少なくとも1種の無機微粒子であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】 カチオン媒染剤が、平均分子量が5万以下の水溶性媒染剤であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【請求項5】 カチオン媒染剤の量が、無機微粒子に対して、重量比で0.01?0.3であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【請求項6】 親水性バインダーが、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【請求項7】 インク吸収層がほう酸またはほう砂を含有することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項8】 支持体が、非吸水性支持体であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。」

(1b)「【0023】
【本発明が解決しようとする課題】本発明は上記の実態に鑑みてなされたものであって、本発明の第1の目的は、少ないカチオン媒染剤の使用量で高い耐水性と耐湿性が達成できるインクジェット記録用紙を提供することにある。第2の目的は、カチオン媒染剤の使用によってもたらされる前記の種々の欠点を抑制したインクジェット記録用紙を提供することにある。」

(1c)「【0095】カチオン媒染剤としては、第1級?第3級アミノ基及び第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤を用いることができるが、経時での変色や耐光性の劣化が少ないこと、染料の媒染能が充分高いことなどから、第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤が好ましい。」

(1d)「【0101】
・・・
以下に好ましく用いられる第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤の具体例を示す。(数値はモル%を表す。)
【0102】
【化5】



(1e)「【0155】実施例1
160g/m^(2)の写真用原紙の両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(記録面側には、厚さ35μmのアナターゼ型二酸化チタンを13重量%含有するポリエチレン層が形成されており、裏面側には厚みは25μmでポリエチレン層が形成され、その上にTg=65℃のアクリル系ラテックス樹脂を固形分として0.6g/m^(2)及び平均粒径が約13μmのシリカをマット剤として0.3g/m^(2)含有するバック層が形成されている。)を用意した。
〈塗布液1-1の作製〉純水900ml中に、1次粒子の平均粒径が約7nmの気相法により合成された微粒子シリカ粉末180gを高速ホモジナイザーで撹拌しながら添加しシリカ水分散液を作製した。次に、このシリカ水分散液中に、例示媒染剤Mor-1(カチオン媒染剤)の25%水溶液を100ml添加し、30分間高速ホモジナイザーで分散して青白い澄明な分散液を得た。次に、平均重合度が300でケン化度が88%の10%ポリビニルアルコール水溶液を1ml添加し、更に、平均重合度が3500でケン化度が88%の5%ポリビニルアルコール水溶液(酢酸エチルを4重量%含有)530mlを徐々に添加 した。次いで、硬膜剤として4%ほう酸水溶液40mlを添加し、また、20mlのエタノールを添加し、更に、10%ゼラチン水溶液を50ml加えて空隙型のインク吸収層を形成する塗布液1-1を作製した。
〈記録用紙1-1の作製〉40℃に加温した塗布液1-1を、上記の両面をポリエチレンで被覆した紙支持体の記録面側に湿潤膜厚が260μmになるように塗布し、塗布皮膜温度が15℃以下になるように冷却した(20秒間)。次いで、25℃の風を60秒間、30℃の風を60秒間、40℃の風を60秒間、50℃の風を120秒間、更に35℃の風を60秒間順次吹き付けて乾燥し、更に、25℃、相対湿度50%の雰囲気を120秒間通過させて調湿して記録用紙1-1を作製した。」

(1f)「【0200】【発明の効果】本発明のインクジェット記録用紙は、カチオン媒染剤の使用量が少なくても充分高い耐水性や耐湿性が達成でき、カチオン媒染剤の使用によってもたらされるカールの増大、耐光性の低化、汚染等の悪影響を最小限に押さえることができる。」

これらの記載によれば、引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「非吸水性支持体上に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子として気相法により合成されたシリカを含有する、空隙が形成されているインク吸収層を有するインクジェット記録材料において、該インク吸収層に、第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤を含有するインクジェット記録材料。」

また、当審において、平成21年11月13日付で通知した拒絶理由で引用した本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例2:特開2000-127605号公報には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与。)

(2a)「【請求項1】1つ以上のカルボニル基を有する単量体単位(a)およびカチオン性単量体単位(b)を構成単位として含むカチオン性共重合体(A);および分子内に2つ以上のヒドラジノ基を有するヒドラジン化合物(B)を含有するインクジェット記録材用耐水化剤。」

(2b)「【0028】ヒドラジン化合物(B)
本発明の耐水化剤の必須成分であるヒドラジン化合物(B)は、分子内に2つ以上のヒドラジノ基を有する化合物である。具体的には、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドなどの2官能性のヒドラジン化合物;ブタントリカルボヒドラジド、トリメリット酸トリヒドラジドのような3官能性のヒドラジン化合物などを用いることができる。中でも、3官能性以上のヒドラジン化合物を用いるのが好ましく、ブタントリカルボヒドラジドを用いるのが水溶性や架橋効果の点から特に好ましい。」

(2c)「【0032】その他の任意成分
本発明の耐水化剤には、カチオン性共重合体(A)、ヒドラジン化合物(B)および水溶性樹脂(C)の他に、目的とする用途に応じて様々な成分を添加することができる。例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどの無機顔料、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、他の耐水化剤、粘度調整剤、可塑剤などを添加することができる。これらは、本発明の耐水化剤によって形成される被膜の印字濃度、インク定着性、透明性および耐水性を過度に損なわない範囲で添加することができる。」

(2d)「【0033】耐水化剤および樹脂組成物の調製と作用
本発明のインクジェット記録材用耐水化剤は、カチオン性共重合体(A)、ヒドラジン化合物(B)およびその他の任意成分を混合することによって調製することができる。また、本発明のインクジェット記録材用樹脂組成物は、カチオン性共重合体(A)、ヒドラジン化合物(B)、水溶性樹脂(C)およびその他の任意成分を混合することによって調製することができる。混合の順序および条件は特に制限されない。本発明のインクジェット記録材用樹脂組成物における水溶性樹脂(C)の配合比は、水溶性樹脂(C)100重量部に対して、カチオン性共重合体(A)+ヒドラジン化合物(B)が1?100重量部、好ましくは、5?30重量部である。カチオン性共重合体(A)+ヒドラジン化合物(B)の配合比が低い場合には、インク定着性と耐水性が不充分になる傾向にある。また、カチオン性共重合体(A)+ヒドラジン化合物(B)の配合比が高い場合には、インクの吸収性が低下し鮮明で均一な画像を得ることができない傾向にある。」

(2e)「【0035】インクジェット記録材
本発明の耐水化剤または樹脂組成物を支持体上に適用し乾燥することによって、インクジェット記録材を調製することができる。本発明の耐水化剤または樹脂組成物を適用することができる支持体の種類は特に制限されない。通常用いられている方法にしたがって調製した酸性紙や中性紙等の紙類や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリオレフィンを2軸延伸をすることにより得られる合成紙等を支持体として用いることができる。また、広葉樹及び針葉樹から得られる化学パルプ、セミケミカルパルプ、機械パルプや乾式または湿式の不織布なども用いることもできる。中でも、ポリエステルフィルムや合成紙などの非多孔質の基材を使用すれば、架橋の効果がより明確に現れるために好ましい。また、透明なプラスチックフィルムを用いれば、OHP用に使用することができるために好ましい。」

(2f)「【0047】(実施例1?8および比較例1?4)耐水化剤を調製し、これを支持体上に適用することによってインクジェット記録材を製造して評価した。
(1)耐水化剤の調製
100mlのサンプル瓶に、水溶性樹脂としてポリビニルアルコール10%水溶液((株)クラレ製:ポバールPVA117)90g、製造例1で製造した溶液状のカチオン性共重合体A-1を固形分で1.0g、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)の10%水溶液を0.25g(カチオン性共重合体のカルボニル基に対してADHのヒドラジノ基のモル比が1.0になる量)を入れ、固形分10%の水溶液となるように蒸留水を添加して、実施例1の耐水化剤を調製した。カチオン性共重合体、ヒドラジン化合物および水溶性樹脂の種類を表3に示すように変えて、実施例2?8および比較例1?4の耐水化剤を同様にして調製した。
【0048】(2)インクジェット記録材の作成
調製した各耐水化剤をペイントシェーカーで10分間攪拌分散した後、バーコーター(No.40)でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)に塗工し、80℃の乾燥機内で5分間乾燥した。その後、23℃/湿度65%の恒温室に48時間放置した。
【0049】(3)テストサンプル印字
作成した各インクジェット記録材に、インクジェットプリンター(キャノン(株)製:BJC-600J)を用いてブラック、シアン、マゼンダ、イエローの各色を2cm×2cmでベタ印字を行った。」

(2g)「【0054】
【発明の効果】本発明の耐水化剤および樹脂組成物は、乾燥することによってカチオン性共重合体(A)中のカルボニル基とヒドラジン化合物(B)のヒドラジノ基が架橋して強靱な被膜を形成する。形成された被膜は透明で均一であり、かつ被膜のインク吸収性、インク定着性および耐水性に優れている。このため、本発明の耐水化剤または樹脂組成物を用いれば好適なインク受容層を有するインクジェット記録材を提供することができる。特に透明な支持体上に本発明の耐水化剤または樹脂組成物を適用することによって、優れたOHPフィルムを提供することができる。」

さらに、当審において、平成21年11月13日付で通知した拒絶理由で引用した本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例3:特開昭61-154989号公報には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与。)

(3a)「2.特許請求の範囲
水溶性染料を含有する水性インクを用いて記録画像を形成するインクジェット記録媒体に於いて、該記録媒体がヒドラジド系化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録媒体。」

(3b)「(C) 発明の目的
本発明は、前述したようなインクジェット適性を改善し、水性インク画像の耐水性及び耐光性にも優れた、特に水溶性黒色染料及び/又は水溶性マゼンタ染料の耐光性、耐変色性を改善した記録媒体を提供することを目的とする。」(第2頁右下欄第7?12行)

(3c)「本発明で云うヒドラジド系化合物とは、該当するカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物のような酸誘導体、またはエステルやイソシアネートと、一般式
R_(1)
>NNH_(2)
R_(2)
で示されるヒドラジン類との縮合反応で得られる
O
?
-C-NH-N<
基を持つものをいう。
ここにR_(1)、R_(2)は水素または炭素数1?22のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、フェニール基等を表わす。またR_(1)、R_(2)が縮合して環を形成していてもよい。又カルボニル側は炭素数1?22の有機酸やポリアクリル酸の如きポリマー及びカルバミン酸等でもよい。
カルバミン酸の場合はセミカルバジドと呼ばれ、これらのセミカルバジド系化合物も本発明に含まれる。
本発明の化合物の例としては、

などである。」(第2頁右下欄第18行?第3頁右上欄末行)

(3d)「本発明では前記ヒドラジド系化合物を含有する記録媒体の作成方法としては、パルプ繊維を離解してスラリーとし抄紙機で抄造せしめる際、途中に設けたサイズプレス装置等でヒドラジド系化合物を溶解又は分散した塗工液を浸漬または塗布して、含有させる方法、更に適当な支持体にヒドラジド系化合物を含有する塗工液を通常の塗工装置を用いて塗布してヒドラジド系化合物を含有するインク受理層を設ける方法や、インク吸収性顔料及び接着剤等からなるインク受理層の上に溶解又は分散したヒドラジド系化合物を塗布する方法等がある。この場合一般に使われる填料や顔料、接着剤及びその他の添加剤を併用することも可能である。また、画像の耐水性を付与する必要があれば、カチオン性樹脂を併用することも可能であり、本発明に於いては、耐水性、耐光性を同時に向上させるためにはむしろ積極的に使用するのが望ましい。」(第3頁左下欄第1?18行)

(3e)「本発明で使用出来る填料あるいは、顔料としては例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、ケイ酸アルミニウム、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成無定形シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン等の白色顔料及び有機顔料としては、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、マイクロカプセル、尿素樹脂顔料等がある。これらの内本発明に於いては、合成無定形シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく用いられる。」(第3頁左下欄第19行?右下欄第11行)

(3f)「その他の添加剤としては顔料分散剤、増粘剤、流動性変性剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤等を適宜配合することも出来る。」(第4頁右下欄第7?11行)

(3g)「支持体としては、紙または熱可塑性樹脂フィルムの如きシート状物質が用いられる。紙の場合はサイズ剤無添加あるいは適度なサイジングを施した紙で、填料は含まれても、また含まれなくてもよい。
また、熱可塑性フィルムの場合はポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリカーボネート等の透明フィルムや、白色顔料の充填あるいは微細な発泡による白色不透明なフィルムが使用される。充填される白色顔料としては、例えば酢化チタン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク、酸化亜鉛等の多くのものが使用される。
また、紙の表面にこれらの樹脂フィルムを貼り合せたり溶融樹脂によって加工したいわゆるラミネート紙等も使用可能である。」(第4頁右下欄第12行?第5頁左上欄第8行)

(3h)「本発明により、ヒドラジド系化合物を含有させた記録媒体に、水溶性染料を含有する水性インクを用いて記録すると画像の耐候性が向上する。その理由は定かではないが染料の褪色や変色は紫外線などによって染料分子上に発生するラジカルによって起ることが考えられ、ヒドラジド系化合物はこの発生したラジカルをトラップして安定化するため、染料の分解が抑制されるのではないかと考えられる。」(第6頁右下欄第7行?第15行)

さらに、当審において、平成21年11月13日付で通知した拒絶理由で引用した本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例4:特開平8-118787号公報には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与。)

(4a)「【請求項1】 塩基性ポリ塩化アルミニウム及び分子量2000以上の高分子物質を少なくとも含有することを特徴とする記録媒体。
【請求項2】 前記高分子物質の分子量が2000以上10000以下の範囲にある請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】 前記高分子物質がカチオン性物質である請求項1又は2に記載の記録媒体。」

(4b)「【請求項12】 請求項1に記載の記録媒体に対し、少なくともアニオン性基を有する水溶性染料を含有するインクを付与し、画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
【請求項13】 前記インクを記録信号に従いオリフィスから液滴として吐出し、前記記録媒体に付与する請求項12に記載の画像形成方法。
【請求項14】 前記インクがイエロー、シアン、マゼンタ及びブラックの4色からなる請求項12に記載の画像形成方法。
【請求項15】 インクジェット方式を用いてインクを記録媒体に付与する請求項13に記載の画像形成方法。」

(4c)「【0009】【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は上記従来例の問題を解決することを目的とし、具体的には、記録画像形成の際に、(1)良好な定着性を有しながら文字品位も良好であること、(2)十分な画像濃度が得られ、べた画像の均一性が高いこと、また、カラー画像形成時において、(3)記録画像の耐水性が良好であること、(4)耐光性が良好であること、といった要件を兼ね備え、特に、耐水性、文字品位に優れた記録媒体、さらにはこれを用いた画像形成方法を提供することである。」

(4d)「【0015】塩基性ポリ塩化アルミニウムとは、化学式が、[Al_(2)(OH)_(n) C_(l6-n) ]m で表される。たとえば、{Al(OH)_(3) }_(20)・AlCl_(3) 、Al_(4)(OH)_(9)Cl_(3)、Al_(2)(OH)_(5)Cl・nH_(2)Oのようにヒドロキシアクオアルミニウムイオンが重合した多核錯体からなる高分子電解質である。このため、水に溶解し、アルミニウム単原子イオンより高い陽電荷を示す。一般に、塩基性ポリ塩化アルミニウム(浅田化学製)、塩基性ポリ塩化アルミニウム(多木化学製)として市販されている。」

(4e)「【0018】また、上記高分子物質はカチオン性高分子物質であることがより好ましい。これらのカチオン性高分子物質は、例えばポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミンスルホン塩酸塩、ポリビニルアミン塩酸塩、キト酸酢酸塩等を挙げることができるが、もちろんこれらに限定されるわけではない。また塩酸塩型,酢酸塩型に限定されるわけではない。」

(4f)「【0023】本発明の好ましい実施態様としては、以下の2つが挙げられる。
(1)繊維状物質及び填料を主体とするシート材であり、塩基性ポリ塩化アルミニウム及び分子量が2000以上の高分子物質を含む態様。
(2)基材上に顔料を有する記録面を設け、且つ塩基性ポリ塩化アルミニウム及び分子量が2000以上の高分子物質を含む態様。
【0024】本発明は、(1)、(2)のどちらの態様の場合でも、記録画像の耐水性に優れ、かつ文字品位が良いといった点で優れている。」

4.対比
本願発明と、引用例1発明とを対比する。
引用例発明における「非吸水性支持体」は、本願発明の「耐水性支持体」に相当する。
引用例発明における「空隙が形成されているインク吸収層」は、本願発明における「多孔質のインク受容層」に相当する。
引用例発明における「第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤」は、本願発明における「カチオン性ポリマー」に該当する。
したがって、本願発明と、引用例1発明とは、
「耐水性支持体上に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子として気相法シリカを含有する多孔質のインク受容層を有するインクジェット記録材料において、該インク受容層に、カチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録材料」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本願発明が、インク受容層に、
「【化1】
R_(1 ) R_(3)
>N-N<
R_(2 ) R_(4)
(化1中、R_(1)?R_(4)は独立して水素原子、置換もしくは未置換の脂肪族基、芳香族基、複素環基、カルボニル基、スルホニル基、スルホキシ基、ホスホリル基、イミノメチレン基を表し、これらは連結して環を形成してもよく、またポリマーになっていてもよい。但しR_(1)?R_(4)の少なくとも1つは置換もしくは非置換のカルボニル基またはスルホニル基である)で表されるヒドラジン誘導体」を含有するのに対して、引用例1発明はそのようなヒドラジン誘導体を含有しない点。

相違点2
本願発明が、「インク受容層」に「塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物及び周期表4A族元素を含む水溶性化合物から選ばれる水溶性金属化合物を含有する」のに対して、引用例1発明はそのような水溶性金属化合物を含有しない点。

5.判断
5-1.相違点1及び2について
引用例2、3には、ヒドラジン誘導体を、カチオン性ポリマーを含有するインク受容層に含有させることによって、記録画像の耐水性、耐光性が向上することが記載されている(上記2d?2g,3b,3d,3h参照)。
一方、引用例1発明においても、インク受容層に形成された記録画像の耐水性の改善を課題の一つとしている(上記1b,1e参照)のであるから、引用例1発明に対して、引用例2、3に記載されたヒドラジン誘導体を適用し、さらなる耐水性・耐光性の改善を企図することは、当業者であれば容易になしえたことである。

引用例4には、塩基性ポリ塩化アルミニウム化合物を、カチオン性ポリマーを含有するインク受容層に含有させることによって(上記4a,4e参照)、記録画像の耐水性、耐光性の向上が実現されることが記載されている(上記4c参照)。ここで、塩基性ポリ塩化アルミニウム(上記4d参照)は、本願の詳細な説明の段落【0041】?【0043】の記載によれば、本願発明で規定する「塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物」と同一物質であることが認められる。したがって、引用例4には、「塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物及び周期表4A族元素を含む水溶性化合物から選ばれる水溶性金属化合物」が記載されていると認められる。
一方、引用例1発明においても、インク受容層に形成された記録画像の耐水性の改善を課題の一つとしている(上記1b,1e参照)のであるから、引用例1発明に対して、引用例4に記載された塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物を適用し、さらなる耐水性・耐光性の改善を企図することは、当業者であれば容易になしえたことである。

そして、引用例1発明において、耐水性・耐光性の改善のためには、引用例2、3に記載されたヒドラジン誘導体ならびに引用例4に記載された塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物を採用することに、格別の技術的困難性はない。

これについて、平成22年1月15日付で提出された意見書において、請求人は以下のように主張している。
「上記判示事項に従って本願発明が目的とする課題を検討しますと、本願明細書0012段に記載される「フォトライクの高光沢、高インク吸収性、高耐水性及び保存性が改良されたインクジェット記録用材料を提供すること」でありますが、その中でも0006段に「しかしながら超微粒子気相法シリカを用いた高空隙率の記録層を有するインクジェット記録材料は、インク吸収性は非常に優れているが、耐水性に劣っていたり、印字後の保管中に印字画像が変色しやすいという間題を有している。即ち、気相法シリカの空隙層を有する記録媒体は、耐光性に劣るだけでなく、特に大気中の微量ガスによる退色が生じやすいという問題が十分には解決できていない。」と記載されるとおり、本願発明の超微粒子気相法シリカを用いた記録層を有するインクジェット記録材料においては、大気中の微量ガスによる退色が生じやすいという問題(耐ガス性)を解決することが、その特有の課題であるのはもとより、耐水性や耐光性もその構成に起因する本願発明に特有の課題であります。
一方、引用例1には、本願発明と同様に超微粒子気相法シリカを用いたインク吸収層を有するインクジェット記録用紙が記載されているため、そこに記載される耐水性及び耐光性は、本願発明と同様にその構成に起因する特有の課題であります。
これに対して、引用例2に記載される発明は、ポリマー膨澗タイプのインク受容層を有するインクジェット記録材に関しており、本願発明におけるような多孔質のインク受容層は一切記載されておりません。また、引用例3及び4には、「耐水性支持体上に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子として気相法シリカを含有する多孔質のインク受容層を有するインクジェット記録材料」に関して一切記載されていません。
したがって、「耐水性支持体上に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子として気相法シリカを含有する多孔質のインク受容層を有するインクジェット記録材料」における耐ガス性を解決するために、引用例1発明に、引用例2及び3の「ヒドラジン誘導体」や引用例4の「塩基性ポリ塩化アルミニウム化合物」を適用したはずであるという示唆などは認められないものといえます。
よって、本願発明や引用例1発明が目的とする課題である耐水性及び耐光性を、その特有の構成(つまり、「耐水性支持体上に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子として気相法シリカを含有する多孔質のインク受容層を有するインクジェット記録材料」)に起因するものとして的確に把握すると、引用例1と引用例2?4とを結びつける動機付けは非常に希薄であると思料します。」
たしかに 引用例1発明は「超微粒子気相法シリカを用いたインク吸収層」を有するものであり、引用例2に記載される発明は「ポリマー膨澗タイプのインク受容層を有するものであるなど、各引用例1?4に記載される発明の受容層のタイプは異なっている。しかしながら、引用例2?4に記載された技術的事項は、いずれもカチオン性ポリマーを含有するインク受容層にヒドラジン誘導体や塩基性ポリ塩化アルミニウム化合物を含有させることによって、記録画像の耐水性、耐光性を向上させるもの(上記上記2d?2g,3b,3d,3h,4a,4e参照)であり、カチオン性ポリマーを含有するインク受容層に形成された記録画像の耐水性の改善を課題の一つとしている引用例1発明(上記1b,1e参照)と同じ目的を有しているのであるから、たとえ各引用例に記載される受容層のタイプが異なっているとしても、引用例1発明と引用例2?4に記載された技術的事項とを結びつけることは、当業者にとって極めて自然な発想である。
したがって、上記主張は採用できない。

5-2.本願発明の効果について
本願発明の効果として、本願の詳細な説明の段落【0115】には、「本発明によれば、高インク吸収性、高耐水性、高光沢でかつ保存性の改良されたフォトライクなインクジェット記録材料が得られる。」と記載され、その保存性として、【0114】の表3では、耐光性と耐ガス性を挙げている。
ここで、相違点1及び相違点2で言及したように、ヒドラジン誘導体と塩基性ポリ塩化アルミニウム化合物とをカチオン性ポリマーを含有するインク受容層に含有させると、耐水性・耐光性が改善されることが公知であるから、耐水性、耐光性の改善について格別の効果を認めることはできない。

請求人は、平成22年1月15日付で提出された意見書において、以下のように主張している。
「引用例1には耐ガス性に関して一切記載されていないため、引用例1に記載される発明においては、課題としての耐ガス性は全く認識されていないことから、引用文献2及び3により、本願癸明のヒドラジン誘導体が本願出願時に知られていたとしても、超微粒子気相法シリカを用いた記録層を有するインクジェット記録材料において耐ガス性改善に効果があることまでは予測し得なかったものと思料します。
審判官殿は拒絶理由通知「2-4.判断(3)本願発明の効果について」において、本願発明の効果である耐ガス性の評価方法について「常法」との相違から、要因が「ガス」であるかどうか不明であり、耐ガス性改善効果が格別であるとは認められないと指摘しておられますが、その「常法」というものが当業者に常用されていたのかどうか定かではありません。対して、本願発明における耐ガス性改善は「大気中の微量ガスによる退色が生じやすいという問題を解決すること」であるため、本願明細書0090段に記載される評価方法は、その任に叶った内容であるものと思料します。更には、本願明細書0008段及び0009段に記載される本願発明の背景技術である特開平8-25796号公報及び特開平7-314882号公報では、大気中の微量ガスによる退色を防いでいるものと考えられる旨記載され(各公報ともに0007段)、さらに耐ガス性の評価に本願発明と同様な方法が採用されています(各公報とも0028段)。
よって、本願発明は耐ガス性に関し格別の効果を奏するものと思料します。」
そこで、インクジェット記録画像のヒドラジン誘導体による「耐ガス性」の評価について、検討する。
本願の詳細な説明に記載された具体例においては「【0090】<耐ガス性>上記耐光性試験と同様に印字後、空気中に室温で3ヶ月間曝露した後、印字部の濃度を測定し、画像残存率(曝露後濃度/曝露前の濃度)を求め、CMYK画像の内、最も残存率が低いものを表示した。」と記載しているだけである。そのため、本願の詳細な説明に記載の方法により得られた「画像残存率」の低下が、「ガス」によるものなのか、その他の要因によるものなのかは明らかでなく、ヒドラジン誘導体によって耐ガス性がもたらされたのかどうかは、明らかでない。そして、この記載によって一応の耐ガス性の効果があると認められるとしても、そもそも紫外線などによる発生ラジカルをトラップして耐光性を発現するヒドラジン誘導体(上記3h参照)を適用すれば、オゾンなどによる発生ラジカルをもトラップすることは自明なことであって、「耐ガス性」の効果はヒドラジン誘導体を適用したことによって当然備わった付随的な効果に過ぎないといえる。
さらに、本願の詳細な説明には、「耐ガス性」を特に改善させるための工夫もなく、たとえば、ヒドラジン誘導体が塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物などの他成分との相乗効果で耐ガス性が改善されたことは示されていないから、本願発明の「耐ガス性」に係る効果が、引用例発明及び引用例2?4に記載された技術的事項からもたらされる効果を越えるとも言えない。
したがって、各引例において「耐ガス性」の課題の記載がなくても、「耐水性」「耐候性」を付与するという観点から、引用例1発明にヒドラジン誘導体を適用することが容易である以上、本願発明の「耐ガス性」の改善に係る格別の効果を認めることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-02 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-08 
出願番号 特願2001-245997(P2001-245997)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 伊藤 裕美
木村 史郎
発明の名称 インクジェット記録材料  
代理人 津国 肇  
復代理人 束田 幸四郎  
復代理人 束田 幸四郎  
代理人 津国 肇  
復代理人 小國 泰弘  
復代理人 齋藤 房幸  
復代理人 齋藤 房幸  
復代理人 小國 泰弘  

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