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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1223813
審判番号 不服2008-32516  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2010-09-13 
事件の表示 特願2000-172371「木構造建築物の耐力壁」拒絶査定不服審判事件〔平成13年8月24日出願公開,特開2001-227086〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯
本願は,平成12年6月8日の出願であって,平成20年11月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年12月25日に審判請求がなされるとともに,同日受付けで手続補正がなされ,更に,平成21年1月26日受付けで手続補正がなされた。
その後,当審において,21年12月22日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ,平成22年2月25日受付けで回答書が提出された。

第2.平成20年12月25日受付けの手続補正,及び,
平成21年1月26日受付けの手続補正についての補正の却下の決定。

[補正の却下の決定の結論]
1.平成20年12月25日受付けの手続補正を却下する。
2.平成21年1月26日受付けの手続補正を却下する。

[理 由]
1.平成20年12月25日受付けの手続補正について
(1)手続補正の内容
平成20年4月2日受付けの手続補正が平成20年11月20日付けで却下されているので,平成20年12月25日受付けの手続補正(以下,「本件補正1」という。)は,平成19年8月28日受付けの手続補正書における明細書の特許請求の範囲(以下,「拒絶査定時の特許請求の範囲」という。)の

(拒絶査定時の特許請求の範囲)
「【請求項1】 壁下地を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が2.0以上である耐力壁において,
前記面材は,グラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からなり,6mm以上の板厚を有し且つ0.8?1.3の範囲の比重を有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が200mm以下の相互間隔であることを特徴とする木構造建築物の耐力壁。
【請求項2】 壁下地を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が2.0以上である耐力壁において,
前記面材は,0.5?5.0重量%のガラス繊維を含有した石膏芯材の両面を板紙で被覆した石膏ボードからなり,0.8?1.5の範囲の比重を有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が200mm以下の相互間隔であることを特徴とする木構造建築物の耐力壁。
【請求項3】 前記木製構造部材は,木造建築物の軸組部材からなり,前記面材を前記木製構造部材に固定する釘打ち固定箇所の相互間隔が150mm以下の寸法であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐力壁。
【請求項4】 前記木製構造部材は,木造建築物の枠組部材からなり,前記面材を前記木製構造部材に固定する釘打ち固定箇所の相互間隔が200mm以下の寸法であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐力壁。
【請求項5】 前記軸組部材は,土台と,土台上に固定された下位受材と,土台上に所定間隔を隔てて配置された垂直な柱及び間柱と,梁と,梁の下面に固定された上位受材とを有することを特徴とする請求項3記載の耐力壁。
【請求項6】 前記枠組部材は,下枠,縦枠及び上枠を有し,前記縦枠の間隔が500mm以下に設定されることを特徴とする請求項4記載の耐力壁。
【請求項7】前記壁倍率の値は,2.0?4.7の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の耐力壁。」との記載を,

(補正後)
「【請求項1】 木造建築物の壁下地の軸組部材を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が2.0以上である耐力壁において,
前記面材は,グラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からなり,6mm以上の板厚を有し且つ0.8?1.3の範囲の比重を有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が150mm以下の相互間隔であることを特徴とする木構造建築物の耐力壁。
【請求項2】 木造建築物の壁下地の枠組部材を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が2.0以上である耐力壁において,
前記面材は,グラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からなり,6mm以上の板厚を有し且つ0.8?1.3の範囲の比重を有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が200mm以下の相互間隔であることを特徴とする木構造建築物の耐力壁。
【請求項3】 前記軸組部材は,土台と,土台上に固定された下位受材と,土台上に所定間隔を隔てて配置された垂直な柱及び間柱と,梁と,梁の下面に固定された上位受材とを有することを特徴とする請求項1に記載の耐力壁。
【請求項4】 前記枠組部材は,下枠,縦枠及び上枠を有し,前記縦枠の間隔が500mm以下に設定されることを特徴とする請求項2に記載の耐力壁。」にすることを含むものであると認められる。

本件補正1は,少なくとも請求項1において,木製構造部材を「壁下地を構成する」ものから「木造建築物の壁下地の軸組部材を構成する」ものに限定し,固定箇所の相互間隔間隔を「200mm以下」から「150mm以下」に限定する内容を含むものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明1」という。)が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,本件補正1が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて以下に検討する。

(2)引用刊行物とその記載事項
刊行物1:特開平11-293817号公報
刊行物2:特公平3-70607号公報
刊行物3:特開平9-302802号公報

a)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物1には,図面と共に次の記載事項がある。
(a1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 木造建物の軸組構造における構造用耐力壁であって,構造用面材の片面に周縁部を残して上下横枠材及び左右縦枠材が付設された構造用壁パネルの該上下横枠材及び左右縦枠材が軸組の内周に嵌合せられ,かつ,軸組を構成する軸組材に,該構造用壁パネルの前記構造用面材周縁部,並びに,前記上下横枠材及び左右縦枠材が,それぞれ釘打ち固定されてなることを特徴とする構造用耐力壁。
・・・」
(a2) 「【0002】
【従来の技術】・・・木造建物の軸組構造における構造用耐力壁は,・・・耐震強度等の向上のため,近年,構造用面材を組付ける試みがなされている。例えば,構造用合板を軸組の梁,桁,胴差,土台等の横軸組材,並びに柱,間柱等の縦軸組材に釘打ち固定するとか,予め軸組の梁,桁,胴差,土台等の横軸組材,並びに柱,間柱等の縦軸組材に釘打ち固定した受材に構造用合板を釘打ち固定する等の組付け方法があり,いずれも壁倍率2.5と認定されている・・・」
(a3) 「【0006】図2において,本発明に用いられる構造用壁パネル1は,構造用面材2の片面に周縁部2bを残して上下横枠材3a,3a,及び左右縦枠材3b,3bからなる枠材3が付設されたものであり,枠材3として更に単数或いは複数本の中間縦枠材3cが設けられているのが好ましく,本実施例においては,一本の中間縦枠材3cが設けられている。尚,図において,2aは構造用面材2の枠内部であり,nは釘である。」
(a4) 「【0007】構造用面材2の材質としては,例えば,・・・石膏ボード,・・・等が挙げられ・・・」
(a5) 「【0009】・・・枠材3a,3b,3cの構造用面材2への付設は,本実施例においては,JIS A5508に規定されるCN50釘を用いて,横枠材3aにおいては,約100mmのピッチで,縦枠材3b,3cにおいては,約150mmのピツチで釘n打ち固定されている・・・
【0010】そして,図1において,本発明の構造用耐力壁は,前記構造用壁パネル1の上下横枠材3a,3a,及び左右縦枠材3b,3bが,土台4aと桁4bの横軸組材と,柱4c,4cの縦軸組材から構成される軸組の内周に嵌合せられ,かつ,構造用壁パネル1が,その構造用面材2の周縁部2bで該横軸組材4a,4bと該縦軸組材4c,4cに釘n打ち固定されていると共に,その上下横枠材3a,3aが横軸組材4a,4bに,その左右縦枠材3b,3bが縦軸組材4c,4cに,それぞれ釘n打ち固定されている。・・・」
(a6) 「【0012】本実施例においては,CN75釘を用いて,構造用面材2の横軸組材4a,4bに対しては約100mmのピツチで,縦軸組材4c,4cに対しては約150mmのピッチで,・・・それぞれなされている。」
(a7) 「【0014】・・・本発明の構造用耐力壁は,JIS A1414に規定されるタイロッド式及び無載荷式の面内剪断試験において,壁倍率4.5倍以上という優れた壁強度を有するものである。
【0015】
【発明の効果】本発明によれば,木造建物の軸組構造における構造用耐力壁であって,改良された強度を有する構造用耐力壁を提供することができる。」

そして,上記の記載事項(a1)?(a7),図面の記載及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。

「木造建物の軸組4及び枠材3に対して構造用面材2を固定してなる木造建物の構造用耐力壁であって,壁倍率の値が4.5以上である構造用耐力壁において,
軸組4及び枠材3は,横軸組材4aと,横軸組材4a上に釘n打ち固定された下横枠材3aと,横軸組材4a上に所定間隔を隔てて配置された垂直な縦軸組材4cと,横軸組材4bと,横軸組材4bの下面に釘n打ち固定された上横枠材3aとを有し,
前記構造用面材2が接する前記軸組4及び枠材3の部分に対する該構造用面材2の釘打ちが約100mm及び約150mmのピッチである木造建物の構造用耐力壁。」
(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

b)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物2には,図面と共に次の記載事項がある。
(b1) 「水硬性のセメント材料のスラリーを二枚の裏当てシートの間に堆積し,凝固前に所望の幅と厚さに成形し,スラリーが下部シートの上に堆積された後しかしそれが上部シートと接触する前に,下部シートを振動することにより,スラリー中に捕えられた空気を気泡としてスラリーを通つて上昇せしめ,そして上部シートがスラリーと接触するときスラリーの上表面の生成気泡を上部シートの振動によつて破壊することを特徴とするセメント板の製造方法。」(特許請求の範囲の1)
(b2) 「シートがガラス繊維布帛よりなり,スラリーと布帛との集合体を,スラリーを布帛に浸透させかつその外表面上にセメント材料の薄いフイルムを形成させるように,更に振動させる特許請求の範囲第1項・・・記載の方法。」(特許請求の範囲の2)
(b3) 「本発明はセメント板の製造に関するものであつてこの製造法においては・・・二枚のシート・・・に水硬性セメント材料(通常は石膏プラスター)のスラリーを堆積させ,凝固するまでにこれを所望の幅と厚さに形成するものである。・・・」(3欄19?24行)
(b4) 「本発明は・・・石膏板に適用されるばかりでなく,本発明者らの連合王国特許出願第8017432号(GB-A第2053779号)に記載されたような無機繊維のシートで裏打ちされた板にも適用される。」(4欄26?30行)
(b5) 「第2図においては,連合王国特許出願第8017432号による壁板またはパネルの製造への本発明の応用が示されている。示された装置においては,板は下部コンベーヤベルト25と上部コンベーヤベルト26の間に形成される。樹脂で接着されたガラス繊維不織布27が図に示されてないロールからベルト25の上部走行部分に供給される。所望の添加剤を含有している石膏プラスターのスラリーが混合機28によつて下の織物の上表面に堆積され,同時にそれは第二のガラス繊維織物のシート29と接触するようベルト25によつて運ばれる。この第二のシートは上のベルト26が案内ローラー30のまわりを通るとき上のベルト26の下にはいる。スラリーのダム31は上下ベルト間の収斂区域内で作られる。そして形成されつつある板の厚さを決定する成形板32の下を上部ベルトが通過するまでこのスラリーのダムは形成される。・・・」(6欄3?20行)
(b6) 「・・・これらの振動機は,前記の先願に記載されたように,スラリーを織物の間に侵入させ,各面のガラス繊維の上に横たわる最小の厚さの所望の薄い石膏の層を形成させる。・・・」(6欄25?28行)

c)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物3には,図面と共に次の記載事項がある。
(c1) 「【0013】本実施例で使用する硬質石膏板3・・・比重1.3,厚さ9.5mmの・・・硬質石膏板は,昭和45年建設省告示第1828号に規定する防火性能試験に不燃材料として合格しており,熱伝導率も0.160kcal/m.h.℃と低く,又,遮音性においてもJIS A 1416[実験室における音響透過損失測定方法」に準じて行なったところTL_(D)25である。」

(3)対比
補正発明1と刊行物1記載の発明を対比すると,
刊行物1記載の発明の「木造建物」が,補正発明1の「木造建築物」に相当し,以下同様に,
「軸組4及び枠材3」が「壁下地の軸組部材を構成する木製構造部材」に,
「構造用面材2」が「面材」に,
「構造用耐力壁」が「耐力壁」に,
「釘打ち」が「固定箇所」に,
「約100mm及び約150mmのピッチ」が「150mm以下の相互間隔」に,それぞれ相当する。

また,壁倍率の値について,刊行物1記載の発明の「4.5以上」と補正発明1の「2.0以上」は,「4.5以上」の範囲において共通する。

そうすると,両者は,
「木造建築物の壁下地の軸組部材を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が4.5以上である耐力壁において,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が150mm以下の相互間隔である木構造建築物の耐力壁。」である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
面材が,補正発明1では,「グラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からな(る)」ものであるのに対して,
刊行物1記載の発明では,そのようなものではない点。

(相違点2)
壁倍率の値が,補正発明1では,「2.0以上」であるのに対して,
刊行物1記載の発明では,「4.5以上」である点。

(相違点3)
面材の構成が,補正発明1では,「6mm以上の板厚」かつ「0.8?1.3の範囲の比重」であるのに対して,
刊行物1記載の発明では,そのような規定が特になされていない点。

(4)判断
以下,上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
まず,上記相違点1について検討する。
刊行物2には,上記(b1)?(b6)の記載事項をみると,「グラスティッシュ(ガラス繊維不織布27,第二のシート29)(括弧内は刊行物2の用語を示す,以下同様)を石膏芯材(セメント材料,石膏プラスターのスラリー)の両面の表層に埋設した(スラリーを浸透させかつ外表面上にセメント材料の薄いフイルムを形成させる)ガラス繊維不織布入り石膏板。」(以下,「刊行物2記載の発明」という。)が,記載されている。
そして,刊行物1の面材として上記(a4)には「石膏ボード」を採用し得る旨の示唆がされ,刊行物2の石膏板が上記(b5)には「壁板」として利用可能である旨の示唆がなされており,
刊行物1記載の発明において,壁材の構造用面材として刊行物2記載の発明の「ガラス繊維不織布入り石膏板」を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
次に,上記相違点2について検討する。
木造建築物において,地震,風圧等の水平力に耐え得るための必要な壁量を確保すべきことは技術常識であり,その壁量が,耐力壁の長さが同じであれば,壁倍率に応じて決定されることも技術常識である。さらに,壁倍率が,壁の構成,材質等によって決定され,一般に0.5?5.0倍までの範囲で設定されていることも論じるまでもない技術常識である。
ゆえに,必要な壁量を確保するうえで,壁倍率を上記5.0倍までの範囲内でどの程度にするかは,使用する材料や構成等を考慮しながら,当業者が適宜決定するべき設計事項に過ぎないことである。
そうすると,上記(相違点1について)で検討したとおり,刊行物2記載の発明を採用するに際して,そのガラス繊維不織布入り石膏板が発現し得る範囲の壁倍率を設定することは当業者にとって設計事項に過ぎず,同石膏板の構成等をあわせ検討したうえで壁倍率を2.0以上とすることは当業者が適宜なし得たことに過ぎない。
したがって,上記相違点2に係る事項は,刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点3について)
次に,上記相違点3について検討する。
耐力壁の壁倍率が壁の構成,材質等によって決定されることは,上記(相違点2について)で述べたとおりであって,面材を使用した耐力壁で,所望の壁倍率を得るために,面材の厚さ及び比重を適宜設定することは,当業者が当然に行うことである。そうすると,上記(相違点1について)で検討したとおり,刊行物2記載の発明を採用するに際して,そのガラス繊維不織布入り石膏板の厚さ及び比重を適宜設定することは,当業者にとって設計事項に過ぎない。
ところで,刊行物3には,上記(c1)の記載事項をみると,「9.5mmの板厚を有し且つ1.3の比重を有した硬質石膏板」(以下,「刊行物3記載の技術」という)が挙げられており,上記相違点3の「6mm以上の板厚」かつ「0.8?1.3の範囲の比重」の範囲内にあるものが開示されているから,上記相違点3に係る事項は,従来公知の厚さ及び比重を含むものであって,特段,その数値範囲に臨界的な意義を見出すことのできないものでもある。
してみれば,刊行物2記載の発明を採用するに際して,そのガラス繊維不織布入り石膏板の厚さ及び比重を「6mm以上」及び「0.8?1.3の範囲」とすることは,設計事項であるうえに,刊行物3記載の技術と特段区別できないものであるから,
上記相違点3に係る事項は,刊行物1及び2記載の発明,並びに,刊行物3記載の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるといわざるを得ない。

そして,補正発明1が有する効果は,刊行物1及び2記載の発明,並びに,刊行物3記載の技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって,補正発明1は,刊行物1及び2記載の発明,並びに,刊行物3記載の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(5)小括
以上のとおり,本件補正1は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記[補正の却下の決定の結論]の1.のとおり決定する。

2.平成21年1月26日受付けの手続補正について
(1)手続補正の内容
本件補正1は,上記[理由]の1.のとおり却下されたので,平成21年1月26日受付けの手続補正(以下,「本件補正2」という。)は,拒絶査定時の特許請求の範囲を,

(補正後)
「【請求項1】
木造建築物の壁下地の軸組部材を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が2.0以上である耐力壁において,
前記軸組部材は,土台と,土台上に固定された下位受材と,土台上に所定間隔を隔てて配置された垂直な柱及び間柱と,梁と,梁の下面に固定された上位受材とを有し,
前記面材は,補強シートを構成するグラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からなり,6mm以上の板厚を有し且つ0.8?1.3の範囲の比重を有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が150mm以下の相互間隔であることを特徴とする木構造建築物の耐力壁。
【請求項2】
木造建築物の壁下地の枠組部材を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が2.0以上である耐力壁において,
前記枠組部材は,下枠,縦枠及び上枠を有し,前記縦枠の間隔が500mm以下に設定され,
前記面材は,補強シートを構成するグラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からなり,6mm以上の板厚を有し且つ0.8?1.3の範囲の比重を有するとともに,曲面施工可能な柔軟性を有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が200mm以下の相互間隔であることを特徴とする木構造建築物の耐力壁。」にすることを含むものであると認められる。

本件補正2は,少なくとも請求項1において,木製構造部材を「壁下地を構成する」ものから「木造建築物の壁下地の軸組部材を構成する」ものに限定し,固定箇所の相互間隔を「200mm以下」から「150mm以下」に限定し,グラスティッシュに「補強シートを構成する」との限定事項を付加し,軸組部材に「土台と,土台上に固定された下位受材と,土台上に所定間隔を隔てて配置された垂直な柱及び間柱と,梁と,梁の下面に固定された上位受材とを有し」との限定事項を付加する内容を含むものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明2」という。)が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,本件補正2が,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて以下に検討する。

(2)引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1?3の記載事項は,上記[理由]1.(2)に記載したとおりである。

(3)対比
補正発明2と刊行物1記載の発明を対比すると,上記[理由]1.(3)で示した相当関係にある事項,及び,共通関係にある事項の他,次の事項が相当関係にある。
すなわち,刊行物1記載の発明の「横軸組材4a」が補正発明2の「土台」に相当し,以下同様に,
「釘n打ち固定」が「固定」に,
「下横枠材3a」が「下位受材」に,
「縦軸組材4c」が「柱」に,
「横軸組材4b」が「梁」に,
「上横枠材3a」が「上位受材」に,それぞれ相当する。

そうすると,両者は,
「木造建築物の壁下地の軸組部材を構成する木製構造部材に対して面材を固定してなる木構造建築物の耐力壁であって,壁倍率の値が4.5以上である耐力壁において,
前記軸組部材は,土台と,土台上に固定された下位受材と,土台上に所定間隔を隔てて配置された垂直な柱と,梁と,梁の下面に固定された上位受材とを有し,
前記面材が接する前記木製構造部材の部分に対する該面材の固定箇所が150mm以下の相互間隔である木構造建築物の耐力壁。」である点で一致し,
上記[理由]1.(3)で示した相違点2,3で相違し,さらに,次の相違点1’及び4で相違する。

(相違点1’)
面材が,補正発明2では,「補強シートを構成するグラスティッシュを石膏芯材の両面の表層に埋設したガラス繊維不織布入り石膏板からな(る)」ものであるのに対して,
刊行物1記載の発明では,そのようなものではない点。

(相違点4)
軸組部材において,補正発明2では,柱の他に「間柱」が設けられているのに対して,
刊行物1記載の発明では,柱のみで間柱が設けられていない点。

(4)判断
上記相違点2及び3については,上記[理由]1.(4)において検討済みであるので,以下,上記相違点1’及び4について検討する。
(相違点1’について)
まず,上記相違点1’について検討する。
刊行物2記載の発明のグラスティッシュ(ガラス繊維不織布27,第二のシート29)は,上記(b2)及び(b6)の記載事項からして,石膏が浸透した状態を経て石膏芯材の両面の表層に埋設されており,石膏板における「補強シートを構成する」ものであることは明らかであるから,
上記相違点1’に係る事項は,上記[理由]1.(4)の(相違点1について)で示したものと同様の理由により,刊行物1及び2記載の発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点4について)
次に,相違点4について検討する。
刊行物1の上記(a2)の記載事項からもわかるように,軸組部材の垂直に配置される要素として柱以外に「間柱」を設けることは周知技術である。
そして,刊行物1記載の発明及び上記周知技術に基づいて,上記相違点4とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして,補正発明2が有する効果は,刊行物1及び2記載の発明,刊行物3記載の技術,並びに,周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって,補正発明2は,刊行物1及び2記載の発明,刊行物3記載の技術,並びに,周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(5)小括
以上のとおり,本件補正2は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記[補正の却下の決定の結論]の2.のとおり決定する。

第3.本願発明
本件補正1及び2は,上記第2.のとおり却下されたので,本願の請求項1?7に係る発明は,拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記第2.[理由]1.(1)(拒絶査定時の特許請求の範囲)の【請求項1】に記載したとおりのものである。

第4.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1?3の記載事項は,上記第2.[理由]1.(2)に記載したとおりである。

第5.対比・判断
本願発明は,補正発明1を特定する事項から,上記第2.[理由]1.(1)で示した限定を省いたものに相当する。
そうすると,本願発明を特定する事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する補正発明1が,上記第2.[理由]1.(4)で検討したとおり,刊行物1及び2記載の発明,並びに,刊行物3記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1及び2記載の発明,並びに,刊行物3記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-09 
結審通知日 2010-07-12 
審決日 2010-07-23 
出願番号 特願2000-172371(P2000-172371)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎渋谷 知子  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 山本 忠博
伊波 猛
発明の名称 木構造建築物の耐力壁  
代理人 島添 芳彦  

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