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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1224154
審判番号 不服2008-14175  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2010-09-24 
事件の表示 特願2002-302164「トレーニング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月13日出願公開、特開2004-135800〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年(2002年)10月16日の出願(特願2002-302164号)であって、平成20年1月10日付けで拒絶理由が通知され、同年3月17日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年4月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年3月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「使用者に所定の負荷を与えることによりリハビリテーションや高齢者の筋力維持を行い得るトレーニング装置であって、
前記使用者が行うトレーニング運動を前記所定の負荷に伝達するための負荷機構と、
前記負荷機構に機械的に接続され、前記負荷機構から前記使用者の運動エネルギーを受ける負荷とを備え、
前記負荷は、前記負荷機構からの力が少なくとも1つの滑車を介して伝達される錘からなっており、
前記滑車の少なくとも1つが、
前記使用者が行うトレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性に示された、前記一動作の初めから動作の終了の時点までの瞬間毎の必要な力を、回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させることによって表した形状の負荷変化手段とされており、さらに、
前記負荷変化手段が、
前記一動作の初めから前記負荷が漸増したのち、
前記一動作の初めから動作の終了までの間の、前記出力特性に対応する或る一つの時点で前記負荷が最大となり、
その後、前記一動作の終了の時点に至る迄、前記使用者に掛かる負荷が漸減する様構成されており、前記使用者の血圧に負担をかけないようにした、
ことを特徴とするトレーニング装置。」

第3 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-49774号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下記「2 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)

「2.特許請求の範囲
(1)a.支持フレーム
b.該支持フレーム中にて上下動可能であって、複数ウエイト部材を着脱可能に取り付けるウエイト受け台
c.前記支持フレームによって支持された索案内手段
d.一端を前記ウエイト受け台へ取付け、前記索案内手段を通って延びる索
e.前記フレームへ回転可能に支持された水平軸
f.前記軸に取付けられ、使用者の操作によって前記軸を回転させる受け部材
g.前記軸上へ一緒に回転すべく取付けられ、前記索の他端を止めている索ホイールであって、これは円弧状の索受け面を有しており、使用者が受け部材を回すことにより軸を回転させて前記索を巻きつけており、索が索受け面から離れる接点が接点半径を決める。
h.索受け補助面を形成する補助カム部材であって、該カム部材は前記索ホイールへ取付けられて前記索ホィール受け補助面は少なくとも前記索受け面の一部へ重なって変形索受け面を構成し、前記索ホィールの回転により前記索受け面の接点半径よりも大なる接点半径を形成する
ウエイトリフティング体操装置。」(第1ページ左下欄第4行?右下欄第11行)

「(産業上の利用分野)
本発明は体操装置に関するものである。
特に体操動作中に感じる抵抗を、予め設定した無制限な数のパターンによって変化できるものである。」(第5ページ左下欄第11?14行)

「(目 的)
本願発明は体操装置の改良を目的としており、抵抗パターンを手軽に変更出来、取分け上記した問題点を解決するものであって、ウエイト部材に繋かる索を取付けた所定カム面が交換可能な体操装置を明らかにし、使用者の筋肉組織の適切な発達とリハビリーテーションを行なうものである。
(構 成)
本発明においては、使用者に作用する抵抗パターンが一定或いは変化出来る体操装置を提供するものである。特に開示する体操装置は、垂直及び水平フレーム材を繋ぎ合わせた自立の支持フレームを含んでいる。荷重受け台が支持フレーム中においてガイドバーに沿って上下動自由に支持されている。」(第6ページ左下欄第14行?右下欄第8行)

「図面中において、図面に示しているものは発明の望ましい実施例を説明するためにのみ示しており、発明を限定するためのものではない。図面はウエイトリフティング装置(10)であって、使用者が占める体操位置(12)を有している。体操装置(10)は主枠体(14)を含んでおり、それは横方向枠材(18)と長手方向枠材(20)からなり、床面へ設置する適当な形状のベース(16)を構成する。枠体(14)も又、前後において平行に配置した縦枠材(22)(24)を有しており、それ等は上部横枠材(26)を支えている。枠体(14)中に符号(28)で示すウエイト受け台が設けられている。該ウエイト受け台(28)は、長手方向に配列してピン(32)を受ける孔を有しており、該孔は所定数のウエイト板(34)の任意の一枚に対し、その下方に配置されており、基本抵抗を生じさせる。ウエイト板(34)の上下動は縦案内棒(35)によって案内される。
プランジャー(30)の上端は所定長さの索の一端に連結されており、索は上フレーム材(26)上へ回転可能に設けた第l、第2プーリ(38)(40)を巻いている。索(36)は更に前方の縦枠材(22)の下部に回転自由に設けた第3プーリ(42)へ掛かっている。
枠体(14)は更に側方に縦枠材(44)(46)を夫々配備し、それ等は横部材(48)を支持している。第1傾斜部材(50)は横部材(48)に支持され、第2傾斜部材(52)が側方の枠材(46)に支持されている。
第1傾斜部材(50)は第1ピローブロツク(54)又は他の類似軸受け手段を支持しており、一方第2傾斜部材(52)は第2ピローブロツク(56)を支持している。第1ピローブロツク(54)と第2ピローブロツク(56)によって回転軸(58)が回転自由に支持される。回転軸(58)にブラケット(60)がしっかりと取り付けられる。該ブラケットには運動の動作中、体操者が操作する受け部材(62)を取り付けており、該受け部材の位置は、ブラケット(60)の孔(66)に嵌まっている飛出しピン(64)の操作によりブラケット(60)に沿って変化出来る。例えば受け部材(62)は水平方向のバット円筒部材を具えて体操者に掛けて脚の屈伸練習として典型的な軸(58)回りの回転をさせることが出来る。
軸(58)には更に円盤状の索ホイール(68)が取り付けられる。索ホイール(68)は周面に索案内溝(70)を有する円盤状部材を具えている。従って索案内溝(70)は索ホイール(68)が軸(58)の回りを回転するとき、索ホイール(68)上の索(36)を受けて案内するのに役立つ。索案内溝(70)は内壁部材(72)と、外壁部材(74)と、それ等の間に形成された索受け面(76)を具えている。更に内壁部材(72)の上へ円弧状案内溝(78)が形成され、外室内溝(80)が外側索ホイール壁(74)の上に形成され、以下に説明する目的に使用される。
更に間隔を開けて孔(82)の列が外側索ホイール壁(74)へ180度以上の範囲に亘って周縁に形成され、以下に説明する目的に使用される。
索(36)の一端を索ホイール(68)へ取り付けるため、符号(84)で示す索取付け手段が設けられる。更に内側索ホイール壁(72)の周縁へ孔(86)が形成される。
該索取付け手段(84)には、索の一端を取り付けている位置決めハウジング部材(88)を具えている。該位置決めハウジング部材(88)は突出した案内部材(89)を有しており、それは内側索ホイール壁の案内溝(78)と外側の索ホイールの案内溝(80)とに係合し、それによって位置決めハウジング部材(88)を索ホイール(68)から外れないように保持する。更に飛出しピン(90)が位置決めハウジング部材(88)に配備され、使用者が操作するように外向き突出部及び内側索ホイール壁(72)上の孔(86)と係合する内側に延びる軸を具えている。
従って飛出しピン(90)が嵌まる孔(86)は索ホイール(68)に対する索(36)の初期取り付け位置を決める。以下の説明で明らかとなるように、出願人は索(36)に緩みが形成されていることが望ましいことを見出し、その緩み(slack)をケーブル取付け手段(84)を調節することによって形成するのである。更に所定の応用例に於いては、ハウジング部材(88)の側方に延びている索(36)の端部に、ブッシュを取り付けた。それによって、索取付け手段(84)を索ホイール(68)上で360度或いはそれ以下の範囲で回し、運動の動作中に移動する円弧長さを変化させ、索ホイール(68)を反対方向へ回転することを可能にした。
従って体操装置(10)の通常の使用中は体操者は体操位置(42)へ入り、受け部材(62)を操作して、それを軸(58)の回りで回転させ体操する。索(36)の一端が軸(58)上の索ホイール(68)へ取り付けられ、索(36)の他端はウエイト受け台(28)へ取り付けているから、受け台上のウエイト(28)はウエイト板(34)の重量が軸(58)の中心から索ホイール(58)に対する索(36)の接点(92)の距離を掛けたトルクによって軸(58)の回転を抵抗する。一例として練習中、軸(58)は何れかの方向へ120度の範囲で回転する。
運転中に体操者が受ける対向トルクを変更するために、出願人は符号(94)で示した補助カム部材を開発した。これは索ホイール(68)へ取付けて、軸(58)から接点(92)までの有効半径を変化できる様になっている。特に補助カム部材(94)は、索案内溝(70)に適合する円弧状の主体部(96)を有している。運動が120度のときは、補助カム部材(94)は例えば60度の円弧部によって索受け面(76)を形成している。主体部(96)は適合面(97)を具えて、これが索受け面(76)に適合し、合わせられる。
本体部(96)には内外案内壁(98)(100)が夫々配備されて、それ等が中央部材(102)を側方から取り囲む。
中央部材(102)は、索(36)が通る様に高くなったカム受け面(72a)が形成されている。従ってカム受け面(72)はカム受け面(72)を徐々に変形させたものであって、接点(92)の半径を変化させ、よって体操者が受ける有効抵抗を変化させる。
索ホイール(68)上に補助カム部材(94)を保持するために、内外案内壁(98)(100)には夫々ランナ一部(runner)(104)(106)が形成され、それ等は内壁の案内溝(78)及び外壁の案内溝(80)へ夫々係合する。
従って補助カム部材(94)は、索案内溝(70)中で移動可能である。索ホイール(68)に対する補助カム部材(94)の位置を固定するために、飛出しピン(108)が主体部(96)上に設けられている。飛出しピン(108)には、ハンドル(110)が設けられており、使用者が該ハンドルを操作して、そこへ取付けたピン(112)を動かす。ピン(112)が、飛出しピン(108)のハウジング(114)中の孔、及び索ホイール(68)上の外部孔(92)の任意の1つに通すために設けられている。これによって、単に飛出しピン(108)を任意の選択した内側の孔(82)へ合わせるだけで、補助カム部材(94)が索ホイール(68)上の様々な位置へ取付けられる。
開示した装置(l0)は、運動サイクル中に変化抵抗を所定範囲で生じる様に使用することが出来る。それは補助カム部材(94)がウェイト部材(34)によって索(36)に加わる力の半径を増加させる役割を果たすからである。従って、この体操装置(10)は、最大抵抗を運動サイクルの初期、終期、中間の何れでも生じさせることか出来る。
例えば、運動範囲が120度であって、体操者が運動サイクルの真中のときに最大抵抗が生じることを希望する場合、カム部材(94)上の飛出しピン(108)を緩めて、カム部材(94)を索案内溝(70)に沿って動かし、カム部材(94)の最大厚さが運動サイクル中の60度の点に対応させる。そして飛出しピン(108)をその位置での孔(82)へ嵌める。
例えば第3図に於て、抵抗が作用する運動範囲では、体操者は受け部材(62)、軸(58)、索ホイール(68)を反時計方向へ動かしている。体操者が120度の運動サイクルの真中で最大抵抗が生じることを望むときは、彼又は彼女は、カム部材(94)を時計方向へ移動させ、それの最大厚さの点が、接点(92)を越えて60度とする。体操者か運動の抵抗作用期間の終りで生じることを望む場合は、索ホイール(68)上でのカム部材(94)の最大厚さの点が接点(92)から120度の位置となる様にすればよい。
最大の運動抵抗が運動の開始点で生じることを望む場合は、カム部材(94)はその最大厚さが接点(92)の開始点に移動させると共に、索(36)は索ホイール(68)の初期有効半径が増えた分だけ長くせねばならないことが判明した。
ウエイト受け台(28)で索(36)の長さを延ばす様な操作をするよりも、索取付手段(84)の飛出しピン(90)を緩め、索取付手段(84)を時計方向へ移動させて索(36)が補助カム部材(94)の周りを通る様にし、飛出しピン(90)を再び対応する内側の孔(86)へ嵌めるのがよい。
体操者が運動の全期間を通じて一定抵抗を選ぶ場合は、補助カム部材(94)を時計方向へ移動させ、補助カム部材のどの部分も運動範囲に入らない様にして、飛出しピン(108)を適当な孔(82)へロックし、その位置を保持すればよい。」(第7ページ右上欄第3行?第9ページ右上欄第13行)

2 引用例1に記載された発明の認定
上記記載から、引用例1には、体操装置に関し、
「使用者の筋肉組織の適切な発達とリハビリーテーションを行なうものであり、使用者に作用する抵抗パターンが一定或いは変化出来る体操装置であって、
支持フレーム
該支持フレーム中にて上下動可能であって、複数ウエイト部材を着脱可能に取り付けるウエイト受け台
前記支持フレームによって支持された索案内手段
一端を前記ウエイト受け台へ取付け、前記索案内手段を通って延びる索
前記フレームへ回転可能に支持された水平軸
前記軸に取付けられ、使用者の操作によって前記軸を回転させる受け部材
前記軸上へ一緒に回転すべく取付けられ、前記索の他端を止めている索ホイール、及び、
索受け補助面を形成する補助カム部材
からなり、
体操装置の通常の使用中は体操者は体操位置へ入り、受け部材を操作して、それを軸の回りで回転させ体操し、索の一端が軸上の索ホイールへ取り付けられ、索の他端はウエイト受け台へ取り付けているから、受け台上のウエイト部材はウエイト板の重量が軸の中心から索ホイールに対する索の接点の距離を掛けたトルクによって軸の回転を抵抗し、
索ホイールは円弧状の索受け面を有しており、使用者が受け部材を回すことにより軸を回転させて前記索を巻きつけており、
補助カム部材は前記索ホイールへ取付けられて、索ホイール受け補助面が少なくとも前記索受け面の一部へ重なって変形索受け面を構成し、
また、補助カム部材は、ウエイト部材によって索に加わる力の半径を増加さて変化抵抗を生じさせることにより、運動サイクル中に変化抵抗を所定範囲で生じる様に使用することが出来るようにするものであり、
具体的には、例えば、運動範囲が120度であって、体操者が運動サイクルの真中のときに最大抵抗が生じることを希望する場合、カム部材の最大厚さが運動サイクル中の60度の点に対応させることによって、変化抵抗を所定範囲で生じさせるものである体操装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第4 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断
1 対比
(1)ここで、本願発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「使用者の筋肉組織の適切な発達とリハビリーテーションを行なうものであり、使用者に作用する抵抗パターンが一定或いは変化出来る体操装置」が、本願発明の「使用者に所定の負荷を与えることによりリハビリテーションや高齢者の筋力維持を行い得るトレーニング装置」に相当する。

イ 引用発明の「ウエイト受け台」、「索案内手段」、「索」、「(回転可能な)水平軸」、「受け部材」及び「索ホイール」は、「体操装置の通常の使用中は体操者は体操位置へ入り、受け部材を操作して、それを軸の回りで回転させ体操し、索の一端が軸上の索ホイールへ取り付けられ、索の他端はウエイト受け台へ取り付けているから、受け台上のウエイト部材はウエイト板の重量が軸の中心から索ホイールに対する索の接点の距離を掛けたトルクによって軸の回転を抵抗」するから、引用発明の「ウエイト受け台」、「索案内手段」、「索」、「(回転可能な)水平軸」、「受け部材」及び「索ホイール」が、本願発明の「前記使用者が行うトレーニング運動を前記所定の負荷に伝達するための負荷機構」に相当する。

ウ 引用発明の「ウエイト受け台」に着脱可能に取り付けられる「複数ウエイト部材」が、本願発明の「前記負荷機構に機械的に接続され、前記負荷機構から前記使用者の運動エネルギーを受ける負荷」に相当する。

エ 引用発明の「案内手段」と本願発明の「滑車」は、力伝達のための「案内手段」である点で一致し、また、引用発明の「複数のウエイト部材」は、本願発明の「錘」に相当する。
よって、引用発明の「索」が「一端を前記ウエイト受け台へ取付け」られて、前記索案内手段を通って延び、「他端」を「索ホイール」に止められていることと、本願発明の「前記負荷は、前記負荷機構からの力が少なくとも1つの滑車を介して伝達される錘からなって」いることとは、「負荷は、負荷機構からの力が少なくとも1つの案内部材を介して伝達される錘からなって」いる点で一致する。

オ 引用発明の「索ホイール」は「円弧状の索受け面を有しており、使用者が受け部材を回すことにより軸を回転させて前記索を巻きつけて」いるものであるから、索の案内手段であるといえる。よって、引用発明の「索ホイール」と本願発明の「滑車」は、(力伝達の)「案内手段」である点で一致する。

カ 引用発明の「(ウエイト部材によって索に加わる力の)半径」は、それに「ウエイト部材によって索に加わる力」を掛けることによって規定(計算)されるトルクを生じさせるものであり、そのトルクに抵抗するトルクを生じさせるための体操者が発揮すべき力(筋力)を規定するものである。同様に、本願発明の「回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離」は、それに「負荷の荷重」を掛けることによって規定(計算)されるトルクを生じさせるものであり、そのトルクに抵抗するトルクを生じさせるための使用者が発揮すべき力(筋力)を規定するものである。したがって、引用発明の「(ウエイト部材によって索に加わる力の)半径」及び「ウエイト部材によって索に加わる力」が、それぞれ、本願発明の「回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離」及び「負荷の荷重」に相当する。すなわち、引用発明の「ウエイト部材によって索に加わる力の半径を増加さて変化抵抗を生じさせる」こと、及び、「(具体的には、例えば、)カム部材の最大厚さが運動サイクル中の60度の点に対応させる」ことが、本願発明の「回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させる」ことに相当する。
そして、引用発明の「ウエイト部材によって索に加わる力の半径を増加さて変化抵抗を生じさせることにより、運動サイクル中に変化抵抗を所定範囲で生じる様に使用することが出来るようにするものであり、具体的には、例えば、運動範囲が120度であって、体操者が運動サイクルの真中のときに最大抵抗が生じることを希望する場合、カム部材の最大厚さが運動サイクル中の60度の点に対応させることによって、変化抵抗を所定範囲で生じさせる」ことは、運動サイクル中の変化抵抗生じる所定範囲(具体的には、例えば、120度の運動範囲で最大抵抗が生じる位置を真中とすること)と、変化抵抗を生じさせるように、ウエイト部材によって索に加わる力の半径を増加さる範囲(具体的には、例えば、運動サイクル中の60度の点に対応させる位置でカム部材を最大厚さとすること)を、対応させることを意味しているから、本願発明の「前記使用者が行うトレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性に示された、前記一動作の初めから動作の終了の時点までの瞬間毎の必要な力」を、「回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させる」ことによって表した形状とすることに相当する。
以上を踏まえ、また、引用発明の「補助カム部材は、ウエイト部材によって索に加わる力の半径を増加さて変化抵抗を生じさせることにより、運動サイクル中に変化抵抗を所定範囲で生じる様に使用することが出来るようにするものであり、具体的には、例えば、運動範囲が120度であって、体操者が運動サイクルの真中のときに最大抵抗が生じることを希望する場合、カム部材の最大厚さが運動サイクル中の60度の点に対応させることによって、変化抵抗を所定範囲で生じさせるものである」ことは、補助カム部材を、希望する運動サイクルに応じて付加することにより、抵抗負荷を変化させることであり、これに対して、本願発明の「前記滑車の少なくとも1つが、前記使用者が行うトレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性に示された、前記一動作の初めから動作の終了の時点までの瞬間毎の必要な力を、回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させることによって表した形状の負荷変化手段とされて」いることは、滑車を、出力特性に応じて応じて変形させることにより、負荷変化手段として機能させることであることにかんがみれば、両者は、構成及び機能において共通したものであるといえるから、引用発明の「補助カム部材」が、本願発明の「負荷変化手段」に相当する。

キ 引用発明の「運動範囲が120度であって、体操者が運動サイクルの真中のときに最大抵抗が生じることを希望する場合、カム部材の最大厚さが運動サイクル中の60度の点に対応させることによって、変化抵抗を所定範囲で生じさせる」ことは、120度の運動サイクルの開始時点から抵抗を漸増させ、60度の点で抵抗が最大値となり、その後漸減するという作用を奏するものといえるから、本願発明の「前記負荷変化手段が、前記一動作の初めから前記負荷が漸増したのち、前記一動作の初めから動作の終了までの間の、前記出力特性に対応する或る一つの時点で前記負荷が最大となり、その後、前記一動作の終了の時点に至る迄、前記使用者に掛かる負荷が漸減する様構成されて」いることに相当する。

(2)本願発明と引用発明の一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「使用者に所定の負荷を与えることによりリハビリテーションや高齢者の筋力維持を行い得るトレーニング装置であって、
前記使用者が行うトレーニング運動を前記所定の負荷に伝達するための負荷機構と、
前記負荷機構に機械的に接続され、前記負荷機構から前記使用者の運動エネルギーを受ける負荷とを備え、
前記負荷は、前記負荷機構からの力が少なくとも1つの案内手段を介して伝達される錘からなっており、
前記力伝達の案内手段の少なくとも1つが、
前記使用者が行うトレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性に示された、前記一動作の初めから動作の終了の時点までの瞬間毎の必要な力を、回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させることによって表した形状の負荷変化手段とされており、さらに、
前記負荷変化手段が、
前記一動作の初めから前記負荷が漸増したのち、
前記一動作の初めから動作の終了までの間の、前記出力特性に対応する或る一つの時点で前記負荷が最大となり、
その後、前記一動作の終了の時点に至る迄、前記使用者に掛かる負荷が漸減する様構成されている、
トレーニング装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(3)本願発明と引用発明の相違点
ア 相違点1
本願発明及び引用発明の両者は力伝達の案内手段の1つを負荷変化手段とした点においては共通しているところ、該負荷変化手段とした案内手段が、本願発明では「滑車」であるのに対し、引用発明では「索ホイール、及び、補助カム部材」である点。

イ 相違点2
本願発明は「使用者の血圧に負担をかけないようにした」ものであるのに対し、引用発明にはそのような限定がなされていない点。

2 相違点についての検討
(1)次に、上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
力伝達の案内手段、すなわち、索の案内手段として滑車は周知のものである。また、負荷変化手段をどの案内手段に設けるかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得ることであるあるから、引用発明においても、案内手段として周知の滑車を採用し、そして、負荷変化手段を設ける案内手段として、当該滑車を選択することは当業者が容易になし得たことに過ぎない。

イ 相違点2について
負荷変化の形状については、使用者の要請等に応じて適宜設定し得ることであり、負荷変化手段の形状を決定する際に、使用者の体調・力量・安全性等の事情を考慮することは当然のことである。特に「リハビリテーション」を行う際には、「血圧」を含めて身体の各要素に細心の注意が必要であることも当然のことであるといえる。
したがって、本願の当初明細書には、負荷変化の形状(カム)のパターンと血圧の関係については、明記されていないことをも踏まえると、使用者の筋肉組織の適切な発達に加えてリハビリーテーションを行なうことも目的とする引用発明において、「使用者の血圧に負担をかけないように」する負荷変化の形状を選択できるようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 補正案について
(1)次に、平成22年6月22日付けで請求人から提出された補正案の、請求項1に係る発明における補正事項(下記アないしキにおける記載参照)について、述べる。

ア 「予め把握された、前記使用者に前記リハビリテーションや前記筋力維持を行わせるべき身体部位のトレーニング運動の一動作中において前記使用者の身体部位が発揮すべき力の出し方を表す出力特性」の補正事項については、上記「第4 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断」の「1 対比」の「(1)」の「カ」でも述べたように、引用発明の「カム設計に必要とされる発揮すべき(希望される)力のパターン」が、本願発明の「トレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性出力特性」に相当するものであることから、本願発明の上記「トレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性出力特性」は、「予め把握された」ものであるといえること、また、本願発明の「使用者に所定の負荷を与えることによりリハビリテーションや高齢者の筋力維持を行い得るトレーニング装置」の記載から、本願発明の「トレーニング運動」は、「使用者に前記リハビリテーションや前記筋力維持を行わせるべき身体部位のトレーニング運動」であることから、上記補正事項は実質的に補正前の本願発明において特定されていた事項である。

イ 「必要な力のパターンを」「表した」の補正事項については、本願発明の「必要な力を」「表した」と実質的に同じ意味であるから、上記補正事項は実質的に補正前の本願発明において特定されていた事項である。

ウ 「前記出力特性において、前記使用者が力を発揮すべきでない位置に相当する,前記一動作の初めおよび動作の終了の時点においては前記負荷が前記使用者の前記身体部位に対して漸増又は漸減する態様で与えられ得る構成とされている」の補正事項については、補正前の本願発明の「前記負荷変化手段が、前記一動作の初めから前記負荷が漸増したのち、前記一動作の初めから動作の終了までの間の、前記出力特性に対応する或る一つの時点で前記負荷が最大となり、その後、前記一動作の終了の時点に至る迄、前記使用者に掛かる負荷が漸減する」の記載から、一動作の初め及び終了時点が「使用者が力を発揮すべきでない位置に相当する」ものであり、その時点は「前記負荷が前記使用者の前記身体部位に対して漸増又は漸減する態様で与えられ得る」といえるから、上記補正事項は実質的に補正前の本願発明において特定されていた事項である。

エ 「所定の期間で最大の前記負荷が前記使用者の前記身体部位に対して与えられ得る」の補正事項については、補正前の本願発明の「前記出力特性に対応する或る一つの時点で前記負荷が最大となり」によって実質的に特定されているといえる。なお、上記補正事項においては、「所定の期間」という記載によって、最大の負荷を与える時点に幅があるように記載されているが、最大の負荷を与える時点に幅を持たせるか否かは、それによって当業者の予測を超える格別の作用効果が生じるものでもないことから、単なる設計的事項であり、実質的な差異とはならない。

オ 「前記出力特性において前記使用者の前記身体部位が力を発揮すべき、或いは発揮すべきでない位置と、前記負荷変化手段において前記使用者の前記身体部位に対して与えられる前記負荷が増減する位置とが互いに対応する構成されており」の補正事項については、補正前の本願発明の「前記使用者が行うトレーニング運動の一動作中において発揮すべき力の出し方を表す出力特性に示された、前記一動作の初めから動作の終了の時点までの瞬間毎の必要な力を、回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させることによって表した形状の負荷変化手段とされて」の記載によって、「身体部位が力を発揮すべき、或いは発揮すべきでない位置」と実際に「身体部位に対して与えられる(べき)前記負荷」を与える位置が対応することが特定され、また、補正前の本願発明の「前記一動作の初めから前記負荷が漸増したのち」及び「その後、前記一動作の終了の時点に至る迄、前記使用者に掛かる負荷が漸減する」の記載によって「負荷が使用者の身体部位に対して漸増又は漸減する態様で与えられ」ることが特定されているから、上記補正事項は実質的に補正前の本願発明において特定されていた事項である。

カ 「このようにして予め準備された前記負荷変化手段を前記トレーニング装置に装備して」の補正事項については、補正前の本願発明の「発揮すべき力の出し方を表す出力特性に示された」、「瞬間毎の必要な力」を、「回転中心から負荷の荷重が働く作用線に対する垂線上の距離を適宜変化させることによって表した(形状の)」「負荷手段」という特定によって、本願発明においても「負荷手段」は「予め準備された」ものであるといえること、及び、本願発明においても当然に、負荷手段は「トレーニング装置に装備」して使用するものであるといえることから、上記補正事項は実質的に補正前の本願発明において特定されていた事項である。
なお、上記の「このようにして予め準備された前記負荷変化手段を前記トレーニング装置に装備して」について、「負荷手段」は「予め」形成され、「トレーニング装置に装備」されて使用するものであるという製造方法又は使用方法についての限定であるとすれば、補正前の本願発明にはその点は明記されていないが、当該製造方法又は使用方法の特定は、引用発明の「補助カム部材」は「前記索ホイールへ取付けられて、索ホイール受け補助面が少なくとも前記索受け面の一部へ重なって変形索受け面を構成」するものであるから、引用発明が有する事項に過ぎない。

キ 「前記使用者に前記リハビリテーションや前記筋力維持を行わせるべき身体部位のトレーニングをさせる」の補正事項については、補正前の本願発明において「使用者に所定の負荷を与えることによりリハビリテーションや高齢者の筋力維持を行い得るトレーニング装置」と記載されている事項である。

(2)以上のように、上記補正案のすべての補正事項は、実質的に補正前の本願発明において特定されていた事項であるということができる。又は、仮に、その一部に、補正前の本願発明において明記されていない事項があったとしても、それは、実質的な差異とはならない事項であるか、若しくは、引用発明が具備する事項であるから、補正案によって補正された請求項1に係る発明についても、本願発明と同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるから、上記補正案を採用したとしても、結論には影響を与えるものではない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 結言
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-22 
結審通知日 2010-07-28 
審決日 2010-08-11 
出願番号 特願2002-302164(P2002-302164)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 橋本 直明
森林 克郎
発明の名称 トレーニング装置  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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