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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1224155
審判番号 不服2008-17734  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-10 
確定日 2010-09-24 
事件の表示 特願2004- 74892号「冷凍サイクル装置および冷凍サイクル」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日出願公開、特開2005-265223号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年3月16日の出願であって、平成19年9月4日付け拒絶理由通知に対して、平成19年11月12日付けで手続補正がされたが、平成20年5月29日付けで拒絶査定され(発送日:平成20年6月10)、これに対し、同年7月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月6日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成20年8月6日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年8月6日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前に、
「低温側の熱を高温側に移動させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルであって、
冷媒を高圧状態にする冷媒圧縮機(1)と、
前記冷媒圧縮機(1)から吐出した高圧冷媒の熱を放熱する高圧側熱交換器(2)と、
前記高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒を流入させる第1冷媒通路(11)、および前記第1冷媒通路(11)に第1絞り部(S1)として設けられ第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて前記第1冷媒通路(11)を通過する冷媒量を調節する減圧手段を備える温度式膨張弁(5)と、
前記第1絞り部(S1)の下流側に気密に接続された冷媒流入口(3a)から流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させる第2絞り部(S2)としてのノズル(31)、前記ノズル(31)から噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸入口(3b)から気相冷媒を吸引し、前記ノズル(31)から噴射する冷媒と前記冷媒吸入口(3b)から吸引した気相冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させる昇圧部(32、33)、および前記昇圧部(32、33)の下流に設けられ冷媒を吐出する冷媒流出口(3c)を有するエジェクタ(3)と、
冷媒流出側が前記第2冷媒通路(12)を介して前記冷媒圧縮機(1)の吸入側に接続され、前記エジェクタ(3)の冷媒流出口(3c)から吐出される冷媒を蒸発させる第1蒸発器(4)と、
冷媒の流れを前記高圧側熱交換器(2)と前記温度式膨張弁(5)との間で分岐し、他の温度式膨張弁を介することなく前記冷媒吸入口(3b)へ導く分岐流路(R2)と、
前記分岐流路(R2)に配置されて冷媒を蒸発させる第2蒸発器(6)とを備えることを特徴とする冷凍サイクル。」

とあったものを、

「低温側の熱を高温側に移動させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルであって、
冷媒を高圧状態にする冷媒圧縮機(1)と、
前記冷媒圧縮機(1)から吐出した高圧冷媒の熱を放熱する高圧側熱交換器(2)と、
前記高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒を流入させる第1冷媒通路(11)、および前記第1冷媒通路(11)に第1絞り部(S1)として設けられ第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて前記第1冷媒通路(11)を通過する冷媒量を調節する減圧手段を備える温度式膨張弁(5)と、
前記第1絞り部(S1)の下流側に気密に接続された冷媒流入口(3a)から流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させる第2絞り部(S2)としてのノズル(31)、前記ノズル(31)から噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸入口(3b)から気相冷媒を吸引し、前記ノズル(31)から噴射する冷媒と前記冷媒吸入口(3b)から吸引した気相冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させる昇圧部(32、33)、および前記昇圧部(32、33)の下流に設けられ冷媒を吐出する冷媒流出口(3c)を有するエジェクタ(3)と、
冷媒流出側が前記第2冷媒通路(12)を介して前記冷媒圧縮機(1)の吸入側に接続され、前記エジェクタ(3)の冷媒流出口(3c)から吐出される冷媒を蒸発させる第1蒸発器(4)と、
冷媒の流れを前記高圧側熱交換器(2)と前記温度式膨張弁(5)との間で分岐し、前記冷媒吸入口(3b)へ導く分岐流路(R2)と、
前記分岐流路(R2)に配置されて冷媒を蒸発させる第2蒸発器(6)とを備え、 前記温度式膨張弁は、前記高圧側熱交換器(2)から前記第1蒸発器(4)への流路(R1)と、前記高圧側熱交換器(2)から前記第2蒸発器(6)への流路(R2)のうち、前記高圧側熱交換器(2)から前記第1蒸発器(4)への流路(R1)のみに設けられ、 前記温度式膨張弁(5)の前記減圧手段は、前記第1蒸発器(4)及び前記第2蒸発器(6)を通過した後に前記温度式膨張弁(5)の前記第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて冷媒量を調節することを特徴とする冷凍サイクル。」との補正(下線は、当審にて付与。)を含むものである。

上記補正は、補正前の「他の温度式膨張弁を介することなく」を「前記温度式膨張弁は、前記高圧側熱交換器(2)から前記第1蒸発器(4)への流路(R1)と、前記高圧側熱交換器(2)から前記第2蒸発器(6)への流路(R2)のうち、前記高圧側熱交換器(2)から前記第1蒸発器(4)への流路(R1)のみに設けられ」と言い換えると共に、願書に最初に添付した明細書の【0048】ないし【0049】及び図1を根拠として、温度式膨張弁(5)の作用について「前記温度式膨張弁(5)の前記減圧手段は、前記第1蒸発器(4)及び前記第2蒸発器(6)を通過した後に前記温度式膨張弁(5)の前記第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて冷媒量を調節する」を追加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭46-80027号(実開昭48-36460号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 「本考案は毛細管出口での冷媒流速を有効に利用し得るようにした冷凍機に関する。
従来、冷凍機は単に圧縮機、凝縮器、毛細管、および蒸発器等を順次連通して冷凍サイクルを構成し、上記凝縮器で凝縮液化した液冷媒が蒸発器で蒸発気化する際の蒸発気化熱で冷凍室内を冷却するようになっている。 一方、このとき、上記毛細管出口での冷媒流速は通常50m/s以上であり、かなりのエネルギーを有しているがなんら利用されておらずすこぶる不経済である。」(第1頁15-第2頁5行)

イ 「本考案は上記事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは毛細管出ロでの冷媒流速を利用することにより機能の拡大と冷凍効率の向上を計り得るようにした冷凍機を提供しようとするものである。」(第2頁6-10行)

ウ 「本考案の一実施例を図面にもとづいて説明する。図中1は冷媒を吸入圧縮し高温高圧の冷媒ガスとして吐出する圧縮器である。
また、この圧縮器1の吐出側には吐出された冷媒ガスを凝縮液化する凝縮器2、高圧の液冷媒を減圧する第1の毛細管3、および減圧された液冷媒を蒸発気化する主蒸発器4を直列に介して上記圧縮機1の吸込側が連通されていて冷凍サイクルを構成している。
さらに、上記第1の毛細管3と主蒸発器4とを接続する接続管5の中途部にはインゼクタ6が設けられているとともに、このインゼクタ6の冷媒吸上げ孔6aには上記凝縮器2と第1の毛細管3とを接続する接続管7の中途部から分岐した冷媒導通管8が連通されている。
また、この冷媒導通管8の中途部には接続管7との分岐点9側から第1の毛細管3より長寸の第2の毛細管10および補助蒸発器11が順次設けられている。
つぎに、このように構成された冷凍機の作用について説明する。圧縮機1より吐出された冷媒は実線矢印で示す方向に循環され主蒸発器4での冷媒の蒸発気化熱で冷凍室内(図示しない)を冷却することになる。
また、このときインゼクタ6での冷媒流速は通常50m/s以上であるため、冷媒吸上げ孔6a内は負圧になり接続管7内の一部の冷媒は破線矢印で示すように冷媒導通管8を介して吸い上げられる。
そして、冷媒導通管8内を導通する冷媒は第2の毛細管10によって減圧されたのち補助蒸発器11で蒸発気化することになる。なおこのとき補助蒸発器11内の圧力は主蒸発器4内の圧力よりもインゼクタ6の効果を受けて低下し、蒸発温度も低下する。
また、一方、インゼクタ6を通過した冷媒は冷媒導通管8内の冷媒を吸い上げる仕事をしたためにエンタルピ(熱エネルギー)が減少し、その分だけ冷凍効果が向上することになる。 本考案は以上説明したように第1の毛細管の吐出側にインゼクタを設けるとともに、このインゼクタの冷媒吸上げ孔に凝縮器と第1の毛細管との間から分岐し中途部に第2の毛細管および補助蒸発器を備えた冷媒導通管を連通したものである。
したがつて、インゼクタの効果によつて補助蒸発器の温度を主蒸発器の温度より低温度にすることができ機能拡大を計ることができるとともに主蒸発器での冷媒のエンタルピが減少し冷凍効果を向上することができるなど種々の実用的効果を奏する。」(第2頁11行-第5頁1行)

エ 図面には、インゼクタ6が管径を細くした絞り部であることが開示され、「インゼクタ6での冷媒流速は通常50m/s以上である」(第3頁14-15行)との記載と併せみると、インゼクタ6は、冷媒を減圧膨張させながら噴出していると認められる。

上記記載事項及び図示内容を総合し、第1の毛細管3の絞り部及びインゼクタ6の絞り部について、冷媒の流れ方向から順に、第1絞り部及び第2絞り部と区別し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「低温側の熱を高温側に移動させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルであって、 冷媒を高圧状態にする圧縮器1と、
圧縮器1から吐出した高温高圧の冷媒ガスを凝縮液化する凝縮器2と、
凝縮器2から流出する高圧の液冷媒を流入させ第1絞り部として設けられ減圧する第1の毛細管3と、
第1絞り部の下流側に接続された入口から流入する冷媒を減圧膨張させる第2絞り部、第2絞り部から噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸上げ孔6aから気相冷媒を吸引し、冷媒を吐出する出口を有するインゼクタ6と、 冷媒流出側が圧縮器1の吸入側に接続され、インゼクタ6の出口から吐出される冷媒を蒸発させる主蒸発器4と、
冷媒の流れを凝縮器2と第1の毛細管3との間で分岐し、冷媒吸上げ孔6aへ導く冷媒導通管8と、
冷媒導通管8に配置されて冷媒を蒸発させる補助蒸発器11とを備える冷凍サイクル。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-44906号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 「エジェクタサイクルとは、周知のごとく、エジェクタ内のノズルにて冷媒を減圧膨張させて蒸発器にて蒸発した気相冷媒を吸引するとともに、膨張エネルギーを圧力エネルギーに変換して圧縮機の吸入圧を上昇させる蒸気圧縮式冷凍機である。

ところで、ノズルは圧力エネルギーを速度エネルギーに変換するものであるが、ノズルを通過する冷媒は、飽和液線を跨ぐようにして減圧されるため、ノズルの途中で冷媒が気液二相状態となり、ノズルの喉部(ノズル内において最も断面積が小さくなる部位)の壁面近傍において冷媒が沸騰する。一方、ノズルの内壁から離れた中央部においては、冷媒が沸騰し難いため、冷媒の液滴を微粒化することが難しく、ノズル効率及びエジェクタ効率の低下をもたらす要因となっている。

この問題に対して、例えば特開平5-149652号公報に記載の発明では、ノズルの上流側に開度が固定された固定絞りを配置することより、固定絞りとノズル(エジェクタ)との2段にて冷媒を減圧している。

つまり、初段のノズル(この例では、固定絞り)にて冷媒を一度沸騰させ、二段目のノズル(この例では、エジェクタのノズル)の入口部にて冷媒を拡大させて圧力を回復させることにより、沸騰核を生成させたまま二段目のノズルにて沸騰させるものである。

このため、この二段絞り方式では、二段目のノズルにおける冷媒の沸騰を促進することができるので、ノズルの内壁から離れた中央部においても冷媒を沸騰させることができ、冷媒の液滴を微粒化してノズル効率及びエジェクタ効率を向上させることができる。
しかし、上記公報に記載の発明では、一段目の絞りが固定絞りであるため、流量調整ができず、負荷変動対応範囲が非常に小さくなってしまうという問題点がる。」(【0002】-【0007】)

イ 「本発明は、上記点に鑑み、第1には、従来と異なる新規なエジェクタサイクルを提供し、第2には、広範囲の負荷変動に対応し得るエジェクタサイクルを提供することを目的とする。」(【0012】)

ウ 「(第1実施形態)
本実施形態は、本発明に係るエジェクタサイクルを、食品や飲料等を冷蔵・冷凍保存するショーケース用の蒸気圧縮式冷凍機に適用したものであって、図1はエジェクタサイクルの模式図である。

圧縮機10は冷媒を吸入圧縮する電動式の圧縮機であり、放熱器20は圧縮機10から吐出した高温・高圧の冷媒と室外空気とを熱交換して冷媒を冷却する高圧側熱交換器である。

また、蒸発器30は、ショーケース内に吹き出す空気と低圧冷媒とを熱交換させて液相冷媒を蒸発させることにより冷凍能力を発揮する低圧側熱交換器であり、エジェクタ40は放熱器20から流出する冷媒を減圧膨張させて蒸発器30にて蒸発した気相冷媒を吸引するとともに、膨張エネルギーを圧力エネルギーに変換して圧縮機10の吸入圧を上昇させるエジェクタである。

そして、エジェクタ40は、流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を等エントロピ的に減圧膨張させるノズル41、ノズル41から噴射する高い速度の冷媒流の巻き込み作用により蒸発器30にて蒸発した気相冷媒を吸引しながら、ノズル41から噴射する冷媒流とを混合する混合部42、及びノズル41から噴射する冷媒と蒸発器30から吸引した冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させるディフューザ43等からなるものである。

このとき、混合部42においては、駆動流の運動量と吸引流の運動量との和が保存されるように駆動流と吸引流とが混合するので、混合部42においても冷媒の圧力が(静圧)が上昇する。

一方、ディフューザ43においては、通路断面積を徐々に拡大することにより、冷媒の速度エネルギ(動圧)を圧力エネルギ(静圧)に変換するので、エジェクタ40においては、混合部42及びディフューザ43の両者にて冷媒圧力を昇圧する。そこで、以下、混合部42とディフューザ43とを総称して昇圧部と呼ぶ。」(【0023】-【0028】)

エ 「可変絞り80は、放熱器20とエジェクタ40との間の冷媒通路、つまりノズル41の冷媒流れ上流側に設けられて放熱器20から流出した高圧冷媒を気液二相域まで減圧膨脹させる膨脹弁であり、この可変絞り80は、蒸発器30の冷媒出口側における冷媒過熱度が所定範囲(例えば、0.1deg?10deg)になるように絞り開度を制御するもので、周知の温度式膨脹弁と同様な構造のもである。

具体的には、蒸発器30の冷媒出口側における冷媒温度を感知する感温部81内のガス圧と蒸発器30内の圧力及びバネ圧との釣り合いにより絞り開度を制御すする、いわゆる内部均圧式温度膨張弁と同様な構造を有するものである。

このため、蒸発器30内の圧力、つまり蒸発器30での熱負荷が高くなると、可変絞り80の開度が大きくなり、逆に、蒸発器30内の圧力、つまり蒸発器30での熱負荷が低くなると、可変絞り80の開度が小さくなる。

また、本実施形態では、可変絞り80のバルブボディ82をエジェクタ40と一体化して、可変絞り80及びエジェクタ40から減圧部の小型化を図っている。」(【0032】-【0035】)

オ 「(第2実施形態)
第1実施形態では、蒸発器30の冷媒出口側における冷媒過熱度が所定範囲になるように可変絞り80の絞り開度を制御したが、本実施形態は、図3に示すように、圧縮機10の冷媒吸入側における冷媒過熱度が所定範囲(例えば、0.1deg?30deg)になるように可変絞り80の絞り開度を制御するものである。」(【0044】)

カ 「80…可変絞り(温度式膨脹弁)。」(【図面の簡単な説明】)

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の課題及び発明が記載されている。

(課題)
「エジェクタサイクルにおけるノズルが有した問題を解決するために、ノズルの上流側に開度が固定された固定絞りを配置した二段絞り方式を開発したものの、一段目の絞りが固定絞りであるため、流量調整ができず、負荷変動対応範囲が非常に小さくなってしまうという問題点が残ったので、その問題点を解決すること。」

(発明)
「放熱器20から流出する冷媒を流入させる第1の管路、および前記第1の管路に第1絞り部として設けられ圧縮機10の吸入側に繋がる第2の管路を流通する冷媒の過熱度に応じて第1の管路を通過する冷媒量を調節する弁を備える可変絞り80と、
第1絞り部の下流側に気密に接続された冷媒流入口から流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させる第2絞り部としてのノズル41、ノズル41から噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸入口から気相冷媒を吸引し、ノズル41から噴射する冷媒と冷媒吸入口から吸引した気相冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させる昇圧部42、43、および昇圧部42、43の下流に設けられ冷媒を吐出する冷媒流出口を有するエジェクタ40とからなるエジェクタサイクル。」

(3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-222443号公報(以下「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 「冷凍サイクルは、気相冷媒を圧縮する冷媒圧縮機2と、この冷媒圧縮機2で圧縮された高圧冷媒を冷却して液化する冷媒凝縮器3と、この冷媒凝縮器3で液化した冷媒を気液分離して一時的に液冷媒を貯留するレシーバ4と、このレシーバ4から供給された液冷媒を減圧させる本発明の膨張弁1と、この膨張弁1で減圧された冷媒を車室内へ送風される空気との熱交換によって蒸発させる冷媒蒸発器5等より構成されている。」(【0014】)

イ 「膨張弁1は、弁ブロック6、エレメント部7、伝熱部8、伝達ロッド9、及びボール弁10等より構成されている。弁ブロック6は、例えばアルミニウム製で略直方体形状に設けられ、第1の冷媒通路11と第2の冷媒通路12を有している。

第1の冷媒通路11は、レシーバ4の出口側に接続される流入ポート11a、冷媒蒸発器5の入口側に接続される流出ポート11b、及び流入ポート11a側と流出ポート11b側とを連通する連通孔11cを有し、この連通孔11cの入口側(流入ポート11a側)に円錐状のシート面11dが設けられている。

第2の冷媒通路12は、冷媒蒸発器5の出口側に接続される流入ポート12a、冷媒圧縮機2の入口側に接続される流出ポート12b、及び流入ポート12aと流出ポート12bとを連通し、伝熱部8へも連通する連通路12cを有している。」(【0015】-【0017】)

ウ 「次に、膨張弁1の作動を説明する。連通孔11cを通過する冷媒流量は、ボール弁10の開度、即ちシート面11dに対するボール弁10の位置(リフト量)によって決定される。そのボール弁10は、ダイヤフラム13を図1の下方へ付勢するダイヤフラム室17の圧力と、ダイヤフラム13を図1の上方へ付勢するスプリング22の荷重及びサイクル内の低圧圧力(ダイヤフラム13の下側に作用する冷媒蒸気の圧力)とが釣り合った位置に移動する。

そこで、蒸発圧力が安定している状態から車室内の温度が上昇し、冷媒蒸発器5で急速に冷媒が蒸発すると、冷媒蒸発器5の出口部の冷媒蒸気の温度(過熱度)が高くなる。これにより、第2の冷媒通路12を流れる冷媒蒸気の温度変化が伝熱部8及びダイヤフラム13を介してダイヤフラム室17に封入されているガスに伝達され、そのガスの温度上昇に伴ってダイヤフラム室17の圧力が上昇する。

その結果、ダイヤフラム13が図1の下方へ押し下げられ、伝熱部8及び伝達ロッド9を介してボール弁10が図1の下方へ移動することにより、弁開度が大きくなって冷媒蒸発器5へ供給される冷媒流量が増加する。

一方、車室内の温度が低下して冷媒蒸発器5の出口部の過熱度が低くなると、第2の冷媒通路12を流れる冷媒蒸気の温度変化がダイヤフラム室17のガスに伝達され、そのガスの温度低下に伴ってダイヤフラム室17の圧力が低下する。

その結果、ダイヤフラム13が図1の上方へ押し上げられてボール弁10が図1の上方へ移動することにより、弁開度が小さくなって冷媒蒸発器5へ供給される冷媒流量が減少する。以上の動作により、通常のサイクル運転時には、冷媒蒸発器5で蒸発した冷媒蒸気の温度(過熱度)が例えば略5℃になるように弁開度を調節して、連通孔11cを流れる冷媒流量をコントロールしている。」(【0028】-【0032】)

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例3には、次の発明が記載されている。

「冷媒凝縮器3から流出する冷媒を流入させる第1冷媒通路11、および第1冷媒通路11に絞り部として設けられ第2冷媒通路12を流通する冷媒の過熱度に応じて第1冷媒通路11を通過する冷媒量を調節するボール弁10を備える膨張弁1と、
冷媒流出側が第2冷媒通路12を介して冷媒圧縮機2の吸入側に接続され、第1冷媒通路11から吐出される冷媒を蒸発させる冷媒蒸発器5とからなる冷凍サイクル」

3 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明と本件補正発明とは、低温側の熱を高温側に移動させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルである点で共通し、引用発明の「圧縮器1」が本件補正発明の「冷媒圧縮機(1)」に相当し、以下同様に、「高温高圧の冷媒ガス」が「高圧冷媒」に相当し、冷媒が凝縮液化することで放熱することは明らかであるから、「凝縮液化する凝縮器2」が「熱を放熱する高圧側熱交換器(2)」に相当する。

そして、引用発明の「第1の毛細管3」と本件補正発明の「温度式膨張弁(5)」とは、冷凍サイクル中で冷媒を減圧する絞り手段であることで共通し、引用発明の「凝縮器2から流出する高圧の液冷媒」が本件補正発明の「高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒」に相当し、「第1絞り部」が「第1絞り部(S1)」に相当するから、高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒を流入させ第1絞り部として設けられ減圧する絞り手段である点で共通する。

また、引用発明の「インゼクタ6」と本件補正発明の「エジェクタ(3)」とは、冷凍サイクル中で冷媒を噴射させる噴射手段であって、引用発明の「入口」が本件補正発明の「冷媒流入口(3a)」に相当し、以下同様に、「出口」が「冷媒流出口(3c)」に相当し、「冷媒吸上げ孔6a」が「冷媒吸入口(3b)」に相当し、「第2絞り部」が「第2の絞り部(S2)」に相当するから、第1絞り部(S1)の下流側に接続された冷媒流入口(3a)から流入する冷媒を減圧膨張させる第2絞り部(S2)、第2絞り部(S2)から噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸入口(3b)から気相冷媒を吸引し、冷媒を吐出する冷媒流出口(3c)を有する点で共通する。

また、引用発明の「主蒸発器4」と本件補正発明の「第1蒸発器(4)」とは、冷凍サイクル中で冷媒を蒸発させる主たる蒸発器であり、冷媒流出側が冷媒圧縮機(1)の吸入側に接続され、噴射手段の冷媒流出口(3c)から吐出される冷媒を蒸発させる第1蒸発器(4)である点で共通する。

また、引用発明の「冷媒導通管8」は、冷凍サイクル中で冷媒の流れを分岐する分岐流路であり、冷媒の流れを高圧側熱交換器(2)と絞り手段との間で分岐し、冷媒吸入口(3b)へ導くから、本件補正発明の「分岐流路(R2)」に相当する。

また、引用発明の「補助蒸発器11」は、分岐流路に配置され、冷媒を蒸発させる従たる蒸発器であるから、本件補正発明の「第2蒸発器(6)」に相当する。

したがって、両者は、

「低温側の熱を高温側に移動させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルであって、
冷媒を高圧状態にする冷媒圧縮機(1)と、
冷媒圧縮機(1)から吐出した高圧冷媒の熱を放熱する高圧側熱交換器(2)と、
高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒を流入させ第1絞り部として設けられ減圧する絞り手段と、
第1絞り部(S1)の下流側に接続された冷媒流入口(3a)から流入する冷媒を減圧膨張させる第2絞り部(S2)、第2絞り部(S2)から噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸入口(3b)から気相冷媒を吸引し、冷媒を吐出する冷媒流出口(3c)を有する噴射手段と、
冷媒流出側が冷媒圧縮機(1)の吸入側に接続され、噴射手段の冷媒流出口(3c)から吐出される冷媒を蒸発させる第1蒸発器(4)と、
冷媒の流れを高圧側熱交換器(2)と絞り手段との間で分岐し、冷媒吸入口(3b)へ導く分岐流路(R2)と、
分岐流路(R2)に配置されて冷媒を蒸発させる第2蒸発器(6)とを備えた冷凍サイクル。」

で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本件補正発明では、
絞り手段が、温度式膨張弁(5)であって、高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒を流入させる第1冷媒通路(11)、および第1冷媒通路(11)に設けられ第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて第1冷媒通路(11)を通過する冷媒量を調節する減圧手段を備え、
噴射手段が、エジェクタ(3)であって、冷媒流入口(3a)が第1絞り部(S1)の下流側に気密に接続され、流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させるノズル(31)を有し、当該ノズル(31)が高い速度の冷媒流を噴射し、当該ノズル(31)が噴射する冷媒と冷媒吸入口(3b)から吸引した気相冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させる昇圧部(32、33)を備え、冷媒流出口(3c)が昇圧部(32、33)の下流に設けられ、
第1蒸発器(4)の冷媒流出側が前記第2冷媒通路(12)を介して冷媒圧縮機(1)の吸入側に接続され、
温度式膨張弁が、高圧側熱交換器(2)から第1蒸発器(4)への流路(R1)と、高圧側熱交換器(2)から前記第2蒸発器(6)への流路(R2)のうち、高圧側熱交換器(2)から第1蒸発器(4)への流路(R1)のみに設けられ、
温度式膨張弁(5)の減圧手段が、第1蒸発器(4)及び第2蒸発器(6)を通過した後に温度式膨張弁(5)の第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて冷媒量を調節するのに対し、

引用発明では、
絞り手段及び噴射手段が、第1の毛細管3及びインゼクタ6であり、それぞれが、かかる構成を有しない点。

4 当審の判断
以下、前記相違点について検討する。

(1)引用例2に記載された発明と本件補正発明とを対比する。
引用例2に記載された発明の「可変絞り80」と本件補正発明の「温度式膨張弁(5)」とは、温度式膨張弁であり、引用例2に記載された発明の「放熱器20」が本件補正発明の「高圧側熱交換器(2)」に相当し、以下同様に、「第1絞り部」が「第1絞り部(S1)」に相当し、「弁」が「減圧手段」に相当し、「圧縮機10」が「冷媒圧縮機(1)」に相当する。

また、引用例2に記載された発明の「冷媒流入口」が本件補正発明の「冷媒流入口(3a)」に相当し、以下同様に、「第2絞り部」が「第2絞り部(S2)」に相当し、「ノズル41」が「ノズル(31)」に相当し、「冷媒吸入口」が「冷媒吸入口(3b)」に相当し、「昇圧部42,43」が「昇圧部(32、33)」に相当するから、「エジェクタ40」は「エジェクタ(3)」に相当し、「エジェクタサイクル」は「冷凍サイクル」に相当する。
よって、引用例2に記載された発明は、
「高圧側熱交換器から流出する冷媒を流入させる第1の管路、および第1の管路に第1絞り部として設けられ冷媒圧縮機の吸入側に繋がる第2の管路を流通する冷媒の過熱度に応じて第1の管路を通過する冷媒量を調節する減圧手段を備える温度式膨張弁と、
第1絞り部の下流側に気密に接続された冷媒流入口から流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させる第2絞り部としてのノズル、ノズルから噴射する高い速度の冷媒流により冷媒吸入口から気相冷媒を吸引し、ノズルから噴射する冷媒と冷媒吸入口から吸引した気相冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させる昇圧部、および昇圧部の下流に設けられ冷媒を吐出する冷媒流出口を有するエジェクタとからなる冷凍サイクル」といえる。

(2)次に、引用例3に記載された発明と本件補正発明とを対比する。
引用例3の「冷媒凝縮器3」が本件補正発明の「高圧側熱交換器(2)」に相当し、以下同様に、「冷媒蒸発器5」が「第1蒸発器(4)」に相当し「第1冷媒通路11」が「第1冷媒通路(11)」に相当し、「第1冷媒通路11」が「第1冷媒通路(11)」に相当し、「第2冷媒通路12」が「第2冷媒通路(12)」に相当し、「ボール弁10」が「減圧手段」に相当し、「膨張弁1」が「温度式膨張弁(5)」に相当し、「冷凍サイクル」が「冷凍サイクル」に相当する。
よって、引用例3に記載された発明は、
「高圧側熱交換器から流出する冷媒を流入させる第1冷媒通路、および第1冷媒通路に絞り部として設けられ第2冷媒通路を流通する冷媒の過熱度に応じて第1冷媒通路を通過する冷媒量を調節する減圧手段を備える温度式膨張弁と、
冷媒流出側が第2冷媒通路を介して冷媒圧縮機の吸入側に接続され、第1冷媒通路から吐出される冷媒を蒸発させる第1蒸発器とからなる冷凍サイクル」といえる。

(3)この出願時に、冷凍サイクルで使用される毛細管と膨張弁とが、冷媒を減圧膨張させる手段である点で共通する一方、膨張弁が開度を冷媒の温度によって調整可能であるのに対し、毛細管が開度を固定する点で異なることは、技術常識(例えば、「100万人の空気調和」第212-213頁 昭和59年12月20日 第1版第12刷 株式会社オーム社発行)である。

そして、この技術常識を踏まえれば、引用発明の「第1の毛細管3」が、冷媒吸入口(3b)から気相冷媒を吸引する噴射手段(インゼクタ6)の上流側に位置する固定絞りであると見て取ることができる。

一方、引用例2に記載された発明は、冷媒吸入口から気相冷媒を吸引するノズルの上流側に固定絞りを配置した場合、一段目の絞りが固定されるため、流量調整ができず、負荷変動対応範囲が非常に小さくなってしまうという問題点を解決するために創作されたものである。

そうしてみると、引用発明の「第1の毛細管3」が引用例2の課題に示された「ノズルの上流側に配置された一段目の絞りが固定絞り」に該当することは、当業者が容易に理解し得るから、引用発明の「絞り手段」(第1の毛細管3)及び「噴射手段」(インゼクタ6)に、引用例2に記載された発明の「温度式膨張弁」及び「エジェクタ(3)」を適用しようすることは、当業者が容易に着想し得ることである。

また、引用例2に記載された発明の「温度式膨張弁」と引用例3に記載された発明の「温度式膨張弁」とは、冷媒圧縮機に流入する冷媒の過熱度に応じて高圧側熱交換器から流出する冷媒の冷媒量を調節する減圧手段を備える点で共通するものであるから、引用例2に記載された発明の「温度式膨張弁」に、引用例3に記載された発明の「温度式膨張弁」を採用する程度のことは、当業者の通常の創作能力の範囲内といえる。

したがって、引用発明に、引用例2及び3に記載された発明を適用して、「絞り手段が、温度式膨張弁(5)であって、高圧側熱交換器(2)から流出する冷媒を流入させる第1冷媒通路(11)、および第1冷媒通路(11)に設けられ第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて第1冷媒通路(11)を通過する冷媒量を調節する減圧手段を備え、
噴射手段が、エジェクタ(3)であって、冷媒流入口(3a)が第1絞り部(S1)の下流側に気密に接続され、流入する高圧冷媒の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して冷媒を減圧膨張させるノズル(31)を有し、当該ノズル(31)が高い速度の冷媒流を噴射し、当該ノズル(31)が噴射する冷媒と冷媒吸入口(3b)から吸引した気相冷媒とを混合させながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換して冷媒の圧力を昇圧させる昇圧部(32、33)を備え、冷媒流出口(3c)が昇圧部(32、33)の下流に設けられ、
第1蒸発器(4)の冷媒流出側が前記第2冷媒通路(12)を介して冷媒圧縮機(1)の吸入側に接続され」るようにすることは、当業者が容易に為し得ることである。

また、その結果、「温度式膨張弁は、高圧側熱交換器(2)から第1蒸発器(4)への流路(R1)と、高圧側熱交換器(2)から第2蒸発器(6)への流路(R2)のうち、高圧側熱交換器(2)から第1蒸発器(4)への流路(R1)のみに設けられ」ることになり、第1蒸発器(4)には、「エジェクタ(3)の冷媒流出口(3c)から吐出される冷媒」が流入し、「温度式膨張弁(5)の減圧手段は、第1蒸発器(4)及び第2蒸発器(6)を通過した後に温度式膨張弁(5)の第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて冷媒量を調節する」ことになることは、当業者が容易に把握し得ることである。

(4)本件補正発明の奏する効果は、引用発明、引用例2及び3に記載された発明のそれぞれの効果の総和以上のものではなく、当業者が予測できる範囲内のものである。

そうしてみると、本件補正発明は、引用発明、引用例2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

よって、本件補正発明は、引用発明、引用例2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年8月6日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成19年11月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例1ないし3の記載事項及び引用例1ないし3に記載された発明は、前記「第2〔理由〕2(1)ないし(3)」に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本件補正発明において、「前記温度式膨張弁(5)の前記減圧手段は、前記第1蒸発器(4)及び前記第2蒸発器(6)を通過した後に前記温度式膨張弁(5)の前記第2冷媒通路(12)を流通する冷媒の過熱度に応じて冷媒量を調節する」との限定を省き、「前記温度式膨張弁は、前記高圧側熱交換器(2)から前記第1蒸発器(4)への流路(R1)と、前記高圧側熱交換器(2)から前記第2蒸発器(6)への流路(R2)のうち、前記高圧側熱交換器(2)から前記第1蒸発器(4)への流路(R1)のみに設けられ」を「他の温度式膨張弁を介することなく」を言い換えたものである。

そうしてみると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、引用発明、引用例2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明、引用例2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用例2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-20 
結審通知日 2010-07-27 
審決日 2010-08-09 
出願番号 特願2004-74892(P2004-74892)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
P 1 8・ 575- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾川上 佳マキロイ 寛済  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長崎 洋一
冨岡 和人
発明の名称 冷凍サイクル装置および冷凍サイクル  
代理人 永井 聡  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  
代理人 久保 貴則  

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