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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1224184
審判番号 不服2010-2185  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-01 
確定日 2010-09-24 
事件の表示 特願2004-103545「ピロー包装用複合フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開、特開2005-289399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成16年3月31日に出願されたもので、平成21年7月16日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書についての同年8月31日付け手続補正書が提出されたものの、同年11月13日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたものである。

2.原査定
原査定の拒絶理由は、以下のとおりのものと認める。

「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1;特開平8-25587号公報
2;特開2003-145666号公報
3;国際公開第2004/11252号」

なお、ここにおける、「特開平8-25587号公報」及び「特開2003-145666号公報」を、以下、「引用例1」及び「引用例2」という。

3.当審の判断

3-1.本件の発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書(以下、「本件明細書等」という。)の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「外層からLLDPE/AD/EVOH/Ny/AD/シール層の順で積層された共押出フィルムの外層側にONyフィルムを押出ラミネートしたピロー包装用複合フィルムであって、前記外層側のLLDPEの密度が0.88?0.921g/cm^(3)であることを特徴とするピロー包装用複合フィルム。
但し、LLDPEは直鎖状低密度PEを、ADは接着層を、EVOHはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、Nyはナイロン及びONyは2軸延伸ナイロンを示す。」

3-2.引用例の記載
引用例1又は2には、以下の記載が認められる。

引用例1:
1a;「【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1層がポリオレフィン樹脂層、第2層がポリオレフィン系接着樹脂層、第3層及び第4層のいずれか一方がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層、他方がポリアミド樹脂層、第5層がポリオレフィン系接着樹脂層、第6層がポリオレフィン樹脂層の順で積層されるとともに、上記第1層と第6層のポリオレフィン樹脂が炭素数8のコモノマーを付加した直鎖低密度ポリエチレンまたは、超低密度ポリエチレンから選ばれてなる共押出複合フイルムの第1層側に、二軸延伸ポリアミド樹脂フイルムをドライラミネートしたことを特徴とする縦ピロー包装用複合フイルム。」
1b;「【0005】ここで、上記共押出複合フイルムの第1層と第6層のポリオレフィン樹脂層で使用する炭素数8のコモノマーを付加した直鎖低密度ポリエチレンとしては炭素数8のオクテン-1を付加した直鎖低密度ポリエチレン(以下「LLDPE」という)であり、炭素数8未満のコモノマーを付加したものでは、耐ピンホール性やシール強度に劣るという問題がある。また超低密度ポリエチレン(以下「VLDPE」という)は密度が0.915以下のLLDPEであり、特に低温シール性に優れている。」
1c;「【0011】
【実施例】
実施例1
層構成:
共押出複合フイルム
第1層:炭素数8のコモノマーを付加したLLDPE(25μm)/第2層:PO接(5μm)/第3層:EVOH(15μm)/第4層:ナイロン6(15μm)/第5層:PO接(5μm)/第6層:炭素数8のコモノマーを付加したLLDPE(40μm)を配した構成。上記構成の複合フイルムを共押出し成形法により製膜した。ついでこの共押出複合フイルムの第1層側に、ナイロン6からなるOPAフイルム(15μm)をドライラミネートし、複合フイルムを得た。
【0012】得られた複合フイルムを用いて、縦ピロー包装機(オリヒロ(株)社製)により、トマトケチャップ10Kgを充填した後、開口部をシールし包装体を得た。」

引用例2:
2a;「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材フィルム、無機酸化物の蒸着膜を設けた樹脂のフィルム、および、ヒ-トシ-ル性樹脂層を順次に積層したことを特徴とする餅用個装包材。
【請求項2】 無機酸化物の蒸着膜を設けた樹脂のフィルムが、無機酸化物の蒸着膜の上に、プライマ-剤層を設けることを特徴とする上記の請求項1に記載する餅用個装包材。
【請求項3】 基材フィルムと無機酸化物の蒸着膜を設けた樹脂のフィルムとヒ-トシ-ル性樹脂層とが、ラミネ-ト用接着剤を介してドライラミネ-ト方式または溶融押出樹脂層を介して溶融押出ラミネ-ト方式により積層することを特徴とする上記の請求項1?2のいずれか1項に記載する餅用個装包材。」

3-3.引用例1の発明
引用例1には、その記載全体からして、縦ピロー包装用複合フイルムについての発明が記載され、該発明として、記載1aには、「第1層がポリオレフィン樹脂層、第2層がポリオレフィン系接着樹脂層、第3層及び第4層のいずれか一方がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層、他方がポリアミド樹脂層、第5層がポリオレフィン系接着樹脂層、第6層がポリオレフィン樹脂層の順で積層されるとともに、上記第1層と第6層のポリオレフィン樹脂が炭素数8のコモノマーを付加した直鎖低密度ポリエチレン、又は、超低密度ポリエチレンから選ばれてなる共押出複合フイルムの第1層側に、二軸延伸ポリアミド樹脂フイルムをドライラミネートした、縦ピロー包装用複合フイルム」の発明(以下、「引用請求項発明」という。)が記載されていると認められる。
その一方で、引用請求項発明についての記載であることが明らかな記載1bには、引用請求項発明の「超低密度ポリエチレン」が、密度が0.915以下のLLDPEであることが記載され、そして、その密度の単位がg/cm^(3)であることは明らかである。
また、引用請求項発明は、第3層及び第4層のいずれか一方がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層で、他方がポリアミド樹脂層であるというものであって、第3層がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層で、第4層がポリアミド樹脂層であるものをも包含するものであるし、しかも、記載1cには、上記第3層をEVOHの層、すなわち、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層とし、上記第4層をナイロン6のポリアミド樹脂の層とすることも、引用請求項発明を具体化した実施例として記載されている。
また、引用請求項発明は、その「第1層」及び「第6層」として、上記「超低密度ポリエチレン」が採用されるものであり、そして、上記「第1層」が外層で、上記「第6層」がシール層であることは、記載1b及び1cから明らかである。
以上の検討を踏まえると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「外層である第1層が密度0.915g/cm^(3)以下のLLDPEである超低密度ポリエチレンの層、第2層がポリオレフィン系接着樹脂層、第3層がエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物層、第4層がポリアミド樹脂層、第5層がポリオレフィン系接着樹脂層、シール層である第6層が第1層と同じ超低密度ポリエチレンの層、の順で積層されてなる共押出複合フイルムの第1層側に、二軸延伸ポリアミド樹脂フイルムをドライラミネートした、縦ピロー包装用複合フイルム」

3-4.対比判断

1)本件発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「外層である第1層を構成するLLDPE」は、本件発明の「外層側のLLDPE」に対応し、前者のLLDPEの密度は0.915g/cm^(3)以下で、後者のそれは0.88?0.921g/cm^(3)であり、本件発明の密度範囲は、引用発明の密度範囲に対し、後者密度範囲の上限値を包含するように重複しているから、引用発明と本件発明とで、上記密度に関し、相違はない。
そして、引用発明の「共押出複合フイルム」は、本件発明の「共押出フィルム」に対応し、また、引用発明の「二軸延伸ポリアミド樹脂フイルム」は、本件発明の「ONyフィルム」に対応し、そして、本件発明は、引用発明とは、

「外層からLLDPE/AD/EVOH/Ny/AD/シール層の順で積層された共押出フィルムの外層側にONyフィルムをラミネートしたピロー包装用複合フィルムであって、前記外層側のLLDPEの密度が0.88?0.921g/cm^(3)である、ピロー包装用複合フィルム。
但し、LLDPEは直鎖状低密度PEを、ADは接着層を、EVOHはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、Nyはナイロン及びONyは2軸延伸ナイロンを示す。」である点で一致し、
以下のA点において相違していると認められる。

相違点A;本件発明は、共押出フィルムの外層側にONyフィルムをラミネートする手法が「押出ラミネート」であるのに対し、引用発明の、共押出複合フイルムの外層側に二軸延伸ポリアミド樹脂フイルムをラミネートする手法が「ドライラミネート」である点。

2)相違点Aについて検討する。

2-1)積層構造を有するシート状物を形成する方式として、ドライラミネ-トと押出ラミネ-トとは、共に、この出願前の常套手段であったと認められ(「プラスチック加工技術ハンドブック、706?716頁」、1995年6月12日、日刊工業新聞社発行)、そして、引用発明と同じ装包材の技術分野に関する引用例2の記載2aには、積層構造を有する餅用個装包材につき、その積層構造を形成する方式として、ドライラミネ-トと押出ラミネ-トとが選択的事項として記載されているから、引用発明における、共押出複合フイルムの外層側に二軸延伸ポリアミド樹脂フイルムをラミネートする手法として、ドライラミネートに代えて押出ラミネートを採用すること、即ち、相違点Aは、容易に為し得るものといえる。

2-2)また、相違点Aとしたことの効果も、以下に述べるように、格別なものとはいえないが、「2-1)」で述べたように、積層構造を有するシート状物を形成する方式として、ドライラミネ-トと押出ラミネ-トとは、共に、この出願前の常套手段であったことを踏まえれば、いずれにしても、引用発明におけるドライラミネートに代えて押出ラミネートを採用することは、容易に為し得るものである。
本件明細書等には、以下の記載A及びBが認められる。

A;「【0012】
共押出フィルムとONyは押出ラミネートで接着することが必要である。これはドライラミネートでは接着材が硬いため、最終フィルムが硬くなってしまいピロー適性が悪くなるためと、しごき等による耐ピンホール性が低下するため好ましくない。但し接着性を向上するためにONyにアンカーコート材を塗布しても良い。アンカーコート材としては公知のもの、例えばウレタン系のコーティング材が用いられる。」
B;「【0021】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
実施例1?3及び比較例1?6のフィルムを共押出法と押出ラミネート、ドライラミネート法の組み合わせにて製膜し、評価を行った。(/は共押出、//はドライラミネート、/(PE)/は押出ラミネート)各層下の数値は厚さを示した数値(μm)である。
(実施例1)
ONy/(PE)/LL1/AD/EVOH/Ny/AD/LL2/LL3
15 15 5 5 5 10 5 30 10
LL1:LLDPE、密度0.921g/cm^(3)LL2:メタロセン触媒使用LLDPE、密度0.903g/cm^(3)LL3:LLDPE、密度0.937g/cm^(3)ONy:サントニールSNR(三菱樹脂(株)社製)
EVOH:エバールEP-H101B(クラレ(株)社製)
Ny:ノバミット2030(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)
AD:アドマーNF556(三井化学(株)製)
各実施例、比較例共通
(実施例2)
ONy/(PE)/LL1/AD/EVOH/Ny/AD/LL2/LL3
25 5 5 5 10 5 30 10
LL1:LLDPE、密度0.921g/cm^(3)LL2:メタロセン触媒使用LLDPE、密度0.903g/cm^(3)LL3:LLDPE,密度0.937g/cm^(3)(実施例3)
ONy/(PE)/LL1/AD/EVOH/Ny/AD/LL2/LL3
15 15 10 5 10 10 5 30 10
LL1:LLDPE、密度0.916g/cm^(3)LL2:メタロセン触媒使用LLDPE、密度0.903g/cm^(3)LL3:LLDPE,密度0.921g/cm^(3)(比較例1)
KOP/(PE)/LL
20 20 50
KOP:セネシKOP EG10(ダイセル化学工業(株)製)
LL:リニックス L6102(東洋紡績(株)製)
(比較例1?4も同様)
(比較例2)
(Ny/EVOH/Ny)/(PE)/LL
25 20 50
(Ny/EVOH/Ny):共押出二軸延伸ハイバリアーナイロン
三菱樹脂試作品
(比較例3)
(Ny/MXDNy/Ny)/(PE)/LL
25 20 50
(Ny/MXDNy/Ny):共押出二軸延伸ハイバリアーナイロン
三菱樹脂試作品
(比較例4)
透明蒸着ナイロン/(PE)/LL
15 20 60
透明蒸着ナイロン:テックバリアNY(三菱樹脂(株)製)
(比較例5)
ONy/(PE)/LL1/AD/Ny/EVOH/AD/LL2/LL3
15 15 5 5 10 5 5 30 10
LL1:LLDPE、密度0.921g/cm^(3)LL2:メタロセン触媒使用LLDPE、密度0.903g/cm^(3)LL3:LLDPE、密度0.937g/cm^(3)(比較例6)
ONy//LL1/AD/EVOH/Ny/AD/LL2/LL3
15 20 5 5 10 5 30 10
LL1:LLDPE、密度0.921g/cm^(3)LL2:メタロセン触媒使用LLDPE、密度0.903g/cm^(3)LL3:LLDPE,密度0.937g/cm^(3)<評価方法>
上記各フィルムの評価を行った。
○評価内容
・耐ピンホール強度:ゲルボフレックステスト機にて、5℃×30%RHの条件下で500回行ったときの0.05m^(2)当たりのピンホール発生数を測定した。
【0023】
・摩擦テスト:フィルムを四つ折りにし、その内側に三菱ガス化学製エージレスチェッカー(浸透性の良い赤い液体)を流し、ダンボール上をこすった時のピンホール発生までに要した往復回数を測定。(片道移動距離:15cm)・・・5回測定して平均値を求めた。
【0024】
・貫孔強度:試験針径1.0mm、試験速度50mm/minで貫孔強度を測定。
【0025】
・シール強度:シール面を最適温度でヒートシールし、シール部を垂直方向に15mm幅の短冊状に切り取り、引張試験機を用いて引張速度200mm/minで測定を行った。
【0026】
・酸素透過度の低下:上記ゲルボフレックステスト機で30回行った時の酸素透過度が、テスト前の倍以上となっていた場合を×、倍未満であった場合は○とした。
【0027】
【表1】(審決注;具体的な表は、省略。)」

記載Aには、本件発明において、共押出フィルムにONyフィルムをラミネートする手法として押出ラミネートを採用することの効果につき、これをドライラミネートで行うと耐ピンホール性が低下すると記載され、要するに、ドライラミネートと比して耐ピンホール性の良いことが記載されているものと認められる。
また、記載Bには、実施例1?3及び比較例1?6が記載され、これら具体例によって、本件発明の効果を明らかにしようとしているものと認められ、これら具体例を見ると、ドライラミネートではなく押出ラミネートとした効果を、実施例1?3の、比較例6との対比により、明らかにしようとしているものと認められ、【表1】を見ると、実施例1?3は、少なくとも、耐ピンホール強度で、比較例6に対し、優れていることが見て取れ、このことは、上述した記載Aの記載内容と符合しているものである。
そこで、実施例1?3と比較例6の記載を詳しく見てみることにする。
まずは、ドライラミネートの例とされている比較例6については、ONyとLL1との間に介在する接着剤の具体的成分など、その技術的内容が記載されていないし、また、実施例1?3については、共通して、「ONy/(PE)/LL1」と記載され、これは押出ラミネートを示しているとされているものの、「(PE)」については説明がなく、これはONyとLL1との間にPE、すなわち、ポリエチレンの介在層が存在することを意味していると捕れないこともないが、このポリエチレンが、LL1等については記載されているように、如何なる密度や、如何なる触媒によって得られたかについての記載はなく、更に加えて、実施例2については、各層の厚みについて適正に記載がなされておらず、本件発明の効果を確認するに足る充分な記載となっていない。
また、本件発明は、先に「3-1」で認定したとおりであって、少なくとも、共押出フィルムにONyフィルムを押出ラミネートする際に、これらフィルム間に介在する介在層の構成成分を問わないものである。そして、これら具体例を見ると、実施例1?3は、先に述べたように、ポリエチレンを介在層とした押出ラミネートによるものと解せるが、これら具体例は、該介在層の構成成分を問わない押出ラミネートとドライラミネ-トとを対比評価し得るものとはなっていない。なお、実施例3については、例えば、LL1とLL3の成分の密度が比較例6のそれとは異なっているので、実施例3と比較例6とは、共押出フィルムにONyフィルムをラミネートする手法の違いのみに注目したものにもなっていない。
以上の検討を踏まえると、記載Aには、本件発明において押出ラミネートを採用することの効果が、一応、記載されているものの、具体例によって裏付けられているとはいえないから、本件発明の効果に有意な点を見ることはできないといわざるを得ない。
なお、付言するに、引用例1は、本件請求人に係る特許出願公開公報であり、しかも、その特許出願に係る発明者の一部も、本件発明の発明者と共通しているから、このような引用例1を本件請求人は、知っていたか、或いは、少なくとも、知り得る立場にあったと認められる。そして、引用例1は、これまで述べたことから明らかなように、本件発明に対し、きわめて、重要な先行技術文献であったのであるから、本件発明の効果等、技術的意義を明らかにするために、充分な裏付けがなされるべきで、しかも、その裏付けの内容を明細書に開示すべきものであったと思料する。

3)以上のことから、本件発明は、引用発明及び引用例2に記載の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は相当である。

4)これに対し、請求人は、本件審判に係る審判請求書において、「外層側のLLDPEの密度が0.88?0.921g/cm^(3)である」点に関連して、拒絶理由が通知されておらず、特許法第50条の規定に違反すると主張するので検討する。

4-1)本件にあっては、先に「1」で述べたように、平成21年7月16日付け拒絶理由通知書が送付され、その後、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書について手続補正書が提出されたものである。
そこで、上記拒絶理由通知書を通知した時点での、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の記載について見ると、これは、以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
外層からLLDPE/AD/EVOH/Ny/AD/シール層の順で積層された共押出フィルムの外層側にONyフィルムを押出ラミネートしたことを特徴とするピロー包装用複合フィルム。
但し、LLDPEは直鎖状低密度PEを、ADは接着層を、EVOHはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、Nyはナイロン及びONyは2軸延伸ナイロンを示す。
【請求項2】
シール層がAD層側から(A)/(B)の順で、厚み比(A):(B)=50:50?95:5で積層されていることを特徴とする請求項1記載のピロー包装用複合フィルム。
(A)密度が0.880?0.910g/cm^(3)のシングルサイト触媒を用いて重合して得られたエチレン-αオレフィン共重合樹脂。
(B)密度が0.920?0.940g/cm^(3)のLLDPE
【請求項3】
Ny/AD間の層間接着強度が4.9N/15mm幅以上であることを特徴とする請求項1記載のピロー包装用複合フィルム。
【請求項4】
ONyの厚さが10?30μm、総厚さが50?150μmであることを特徴とする請求項1記載のピロー包装用複合フィルム。
【請求項5】
ONyの押出ラミネート側に印刷が施されていることを特徴とする請求項1記載のピロー包装用複合フィルム。」

そして、この記載によれば、上記拒絶理由通知書で特許を受けることができないと通知された発明は、「外層側のLLDPEの密度が0.88?0.921g/cm^(3)である」点を発明特定事項とはしていなかったものと認められる。
してみると、上記点に関連して、拒絶理由が通知されていないからといって、特許法第50条の規定に違反しているということはできない。

4-2)また、請求人は、要するに、平成21年8月31日付け手続補正書による手続補正によって、上記点は、本件に係る発明の発明特定事項となったから、あらためて、拒絶理由を通知すべきとも主張する。
しかしながら、引用例1には、先に「3-3」で述べたように、引用発明が記載され、上記点は、同じく「3-4」で述べたように、引用発明と比して相違点とは認められないもので、要するに、上記点に関する技術的事項は、拒絶理由通知書で指摘した引用例1に記載されていたといえ、このことだけをもってしても、再度、拒絶理由を通知すべき理由はないというべきである。

4.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-21 
結審通知日 2010-07-28 
審決日 2010-08-10 
出願番号 特願2004-103545(P2004-103545)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 豊島 ひろみ
佐野 健治
発明の名称 ピロー包装用複合フィルム  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  
復代理人 赤塚 正樹  

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