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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部無効 2項進歩性  A61B
管理番号 1224188
審判番号 無効2008-800273  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-05 
確定日 2010-10-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第1907623号発明「医療用器具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第1907623号の発明は、平成2年12月29日に出願され、平成7年2月24日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後当審においてなされた手続の経緯は以下のとおりである。
無効審判請求 平成20年12月5日
答弁書(被請求人) 平成21年3月2日
参加申請(被請求人) 平成21年3月9日
参加許否の決定 平成21年6月11日
口頭審理陳述要領書(1)(2)(3)(請求人)
平成21年9月4日
口頭審理陳述要領書(1)(2)(被請求人)
平成21年9月4日
口頭審理 平成21年9月4日
(なお、本件は口頭審理がなされた後、書面審理に切り替えて審理されたものである。)

2.本件特許発明
特許第1907623号の請求項1ないし7にかかる発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本件特許発明1ないし7」という。)
「【請求項1】 縫合糸挿入用穿刺針と、該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と、該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと、前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり、前記スタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており、さらに、該環状部材は、前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。
【請求項2】 第1の縫合糸挿入用穿刺針と、該第1の縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた第1の縫合糸把持用穿刺針と、該第1の縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された第1のスタイレットと、第2の縫合糸挿入用穿刺針と、該第2の縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた第2の縫合糸把持用穿刺針と、該第2の縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された第2のスタイレットと、前記第1の縫合糸挿入用穿刺針、前記第1の縫合糸把持用穿刺針、前記第2の縫合糸挿入用穿刺針および前記第2の縫合糸把持用穿刺針のそれぞれの基端部が、四角形の頂点を形成するように固定する固定部材とからなり、前記第1のスタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記第1の縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な第1の環状部材を有しており、そして、該第1の環状部材は、前記第1の縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記第1の縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該第1の環状部材の内部を貫通するように該第1の縫合糸挿入用穿刺針方向に延び、さらに、前記第2のスタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記第2の縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な第2の環状部材を有しており、そして、該第2の環状部材は、前記第2の縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記第2の縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該第2の環状部材の内部を貫通するように該第2の縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。
【請求項3】 前記医療用器具は、前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が、摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項1に記載の医療用器具。
【請求項4】 前記医療用器具は、前記第1の縫合糸挿入用穿刺針、前記第1の縫合糸把持用穿刺針、前記第2の縫合糸挿入用穿刺針および前記第2の縫合糸把持用穿刺針が、摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項2に記載の医療用器具。
【請求項5】 前記固定部材は、平板状となっている請求項1または2に記載の医療用器具。
【請求項6】 前記縫合糸把持用穿刺針の先端の刃面は、前記縫合糸挿入用穿刺針方向に向かって開口している請求項1ないし5のいずれかに記載の医療用器具。
【請求項7】 前記管状部材の先端部は、ほぼ先端を中心とするV字状、またはU字状の縫合糸把持部を有している請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用器具。」

3.請求人の主張の概要
(3-1)無効理由1
本件特許発明1ないし7は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

(3-2)無効理由2
本件特許発明1ないし7は、「該環状部材は、前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」については、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第5項第1号(平成2年法)の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、平成5年に改正された同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3-3)証拠方法
請求人は、審判請求書とともに甲第1号証ないし甲第5号証を、口頭審理陳述要領書(1)(2)とともに甲第6号証ないし甲第16号証を提出した。

甲号各証は以下のとおりである。
○甲第1号証:米国特許4779616号明細書
○甲第2号証:米国特許4586490号明細書
○甲第3号証:特開昭63-23651号公報
○甲第4号証:特開昭55-54963号公報
○甲第5号証:"Gastrostomy Without Laparotomy: A Percutaneous Endoscopic Technique" Journal of Pediatric Surgery, Vol 15, No.6 (December)「開腹術を行わない胃瘻造設術: 経皮内視鏡的技術」 ジャーナル オブ ぺディアトリック サージェリー 15巻6号 (1980年12月)ミヒャエル W.L. ガウンデラ、ジェフリ L. ポンスキ、ロバート J. アイザント ジュニア p.872-875
○甲第6号証:関節鏡的診断と関節鏡視下手術 整形外科MOOK No.44 (昭和61年6月30日) 金原出版株式会社 木村雅史 p.127、138-147 池内宏 p.148-151
○甲第7号証:鏡視下半月板の手術 臨床整形外科24巻7号 (1989年7月) 医学書院 池内宏(東京逓信病院整形外科)p.805-814
○甲第8号証:硬膜外麻酔 克誠堂出版株式会社 (1985年11月1日) 西邑信夫 p.100-103
○甲第9号証:硬膜外投与用針ディスポ-ザブル硬膜外針取り扱い説明書 (承認年月 昭和47年12月) p.1-4
○甲第10号証:第11版 医療用ディスポーザブル製品 '98?'99カテーテル&チューブ、IVR製品市場の中期予測と関連製品の徹底分析 株式会社矢野経済研究所京都支社 (1999年1月27日) p.261-267
○甲第11号証:平成20年(ワ)第19874号(特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面(2) (2008年11月17日) クリエートメディック株式会社
○甲第12号証:米国特許4669473号明細書
○甲第13号証:特開平3-4845号公報
○甲第14号証:米国特許4316469号明細書
○甲第15号証:平成20年(ワ)第19874号(特許権侵害差止等請求事件)の訴状 (2008年7月17日) クリエートメディック株式会社
○甲第16号証:平成20年(ワ)第19874号(特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面(3) (2009年3月23日) クリエートメディック株式会社

4.被請求人の主張の概要
(4-1)無効理由1に対して
本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないので、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当せず、無効とすべきではない。

(4-2)無効理由2に対して
本件特許発明1ないし7は、特許法第36条第5項第1号(平成2年法)の規定に違反して特許されたものではないので、その特許は、平成5年に改正された同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきではない。

5.当審の判断
(5-1)証拠方法の内容
(a)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載および図示がある。
(a-1)第1欄第29?32行
「The paths of needle travel in the procedural steps just described are generally parallel to one another in closely spaced relationship.」『上記処置工程において針の通過した2つの跡は、通常、平行で近接した空間関係にある。』(『』内は請求人による訳。以下、同じである。)

(a-2)第2欄第13?21行
「FIG. 4 is a sectional view of a portion of the device shown in FIG. 1 in operative relationship with a segment of a cylindrical needle.
Referring to FIGS. 1-3, an elongated rod 10 has secured to one end thereof a handle 12 of any convenient configuration. Preferably, rod 10 and handle 12 are formed of stainless steel. An elongated elliptically-shaped loop 14 is secured to the end of rod 10 opposite handle 12.」『図4は、図1に示された器具の、円筒状針との関係を示す部分断面図である。
図1?3を参照すると、長尺状のロッド10は一端がハンドル12に取り付けられている。ロッド10とハンドル12はステンレス鋼でできているのが好ましい。長楕円形状に形成されたループ14は、ハンドル12の反対側のロッド10の端に固定されている。』

(a-3)第2欄第26?33行
「Since loop 14 is formed of thin stranded lengths of wire, it is resilient whereby it can be compressed and then can return to its original configuration when the compression forces are released.
In FIG. 4, the loop 14 is illustrated in its compressed state within an elongated cylindrical cannula 18. A cannula suitable for use with loop 14 is a conventional spinal needle.」『ループ14は撚り合わされた細いワイヤで形成ているため、弾力性を有しており、圧縮して折りたたむことが可能であり、また圧縮から開放されると元の形状に復帰できる。
図4に示すように、ループ14は円筒状カニューラ18の中で圧縮されている。カニューラは従来使用されている脊髄針を用いることができる。』

(a-4)第2欄第37?41行
「In a typical arthroscopic procedure, three incisions are made to receive, respectively: an optic system (arthroscope) for allowing the involved surgical area to be viewed on a television monitor; the instruments for performing the surgery; and an irrigation device.」『典型的な関節鏡手術において、3つの切開が実施される。それぞれ、手術部位をテレビモニターで観察できる光学システム(関節鏡)挿入用切開、手術器具挿入用切開、そして洗浄挿入用切開である。』

(a-5)第2欄第45?47行
「In accordance with the present invention, a pair of cannulas 18 are inserted through the skin in closely spaced relationship.」『本発明によれば、ペアのカニューラ18が皮膚を通して近接した部位に挿入される。』

(a-6)第2欄第51?52行
「The surgeon then grasps the surgical device by handle 12 and passes loop 14 through one of the cannulas 18.」『外科医は次にハンドル12で外科器具をつかみ、一本のカニューラ18の中にループ14を通す。』

(a-7)第2欄第55行?第3欄第2行
「The surgeon then inserts one end of a length of suture material through the incision provided for receiving the surgical instruments. Utilizing the television monitor for guidance, the end of the suture material is threaded through loop 14. The loop then is withdrawn through cannula 18. As the loop re-enters the distal end of the cannula, the suture material is snagged within the crimped portion 16 of the loop. This prevents the material from escaping the loop. When the loop completely exits the proximal end of cannula, the captured end of the suture material is removed from the loop. The surgeon then inserts the device through the second cannula 18, whereupon the procedure just described is repeated for the other end of the length of suture material.」『次いで外科医は、縫合糸の一端を、外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入する。ガイド用テレビモニターを利用しながら、縫合糸の端がループ14の中に通される。次いで、ループはカニューラ18内に引き戻される。ループが再びカニューラの先端に入り込むと、縫合糸は掴み部16に引っ掛かる。これにより、縫合糸がループから外れることが防止される。ループが完全にカニューラの基端部から取り出されると、掴まれた縫合糸の端はループから外される。外科医は次に第2のカニューラ18にデバイスを通し、縫合糸のもう一方の端に対して上記と同様な処置を行う。』

(a-8)図1?4には、先端にループ14が設けられたロッド10を、カニューラ18の中に挿入した処置具の図示がある。

上記(a-1)ないし(a-8)の記載事項および図示内容より、甲第1号証には、「円筒状カニューラ18と、該円筒状カニューラ18の内部に挿入され、これの先端からループ14が取り出される『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』とを備え、前記『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』は、先端に設けられて弾力性を有し、前記円筒状カニューラ18の内部に挿入されるループ14を有する、処置具。」の発明が開示されている。

(b)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載および図示がある。
(b-1)第1欄下から第2行?第2欄第8行
「A needle insertion instrument means for interstitial radiotherapy which permits the simultaneous insertion in difficult areas of a plurality of spaced parallel needles in a single plane, and requires only one hand for its operation while permitting the other hand to remain free to support the area of the body being implanted for providing continuous bimanual stereotactic guidance of the needles as they are advanced into the body, would be of great advantage in allowing easier, more accurate, and faster insertion of such needles.」『同一平面内に平行配置された複数の針を穿刺困難な部位に同時に穿刺することを可能にする放射線治療用穿刺器具であって、片手で操作でき、他方の手で穿刺領域を支持できるようにして、穿刺針を体内に向かって前進させていく段階においても、両手による定位誘導を継続できるようにした穿刺器具は、非常に有用であり、容易、正確かつ迅速な穿刺を実現することができる。』

(b-2)第2欄第11?26行
「Accordingly, a principal object of the invention is to provide a new and improved instrument means for inserting a plurality of parallel needles into the body for interstitial radiotherapy which overcomes deficiencies of devices previously employed.
Another object of the invention is to provide a new and improved instrument means for simultaneously inserting a plurality of parallel needles in the same plane into the body for interstitial radiotherapy.
A further object of the invention is to provide a new and improved instrument means for simultaneously inserting a plurality of parallel needles into the body for interstitial radiotherapy which may be moved in retrograde fashion along the implant needles which are being advanced into the body, for permitting long needles to be inserted without risk of bending.」『したがって、本発明の主要な目的は、平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する、新規で改良された、従来の処置器具の欠点を解決する処置器具を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、同一平面内に平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する、新規で改良された処置器具を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する新規で改良された処置器具であって、体内に向かって前進する穿刺針に対して後退するように動かすことができるとともに、長い針でも曲がる危険性なしに挿入可能とする処置器具を提供することにある。』

(b-3)第2欄第35?38行
「A further object of the invention is to provide a new and improved instrument means for simultaneously inserting a plurality of parallel needles into the body for interstitial radiotherapy using one hand」『発明の別の目的は、同一平面内に平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に片手で人体に穿刺する、新規で改良された処置器具を提供することにある。』

(b-4)第4欄第47行?第5欄第3行
「A needle retaining means 44 which is secured with the unit 12 slidably receives and retains a plurality of needles 46 for insertion into the tissue of a body 48 through its skin or surface 49. ・・・The needle retaining means 44 also includes a needle aligning device 66 of rectangular form having a pair of spaced vertical side elements 68, 70 extending downwardly from the end 58 of the elongated portion 56 and a bottom horizontal element 72 connecting the lower ends of the side elements 68, 70. The side element 68 has a plurality of vertically spaced openings 74 aligned with openings 76 of the side element 70 for slidably receiving through each pair of the aligned openings a respective one of the plurality of needles 46 and positioning them in parallel relation in the same plane.」『針保持部44はユニット12に摺動可能なように固定されており、皮膚または体表面49から体の組織48へ穿刺するために複数の針46を保持する。・・・(省略)・・・針保持部44はまた、長方形の針整列部材66を有する。これは細長いパーツ56の前方端58から離れた位置で垂直方向に伸びた横板68,70と、横板68,70の端部と垂直に結合する板72を持つ。横板68は横板70の穴76と協調する複数の離れた垂直穴74を有し、位置の合わさった一組の穴を介して複数の針46のそれぞれが摺動可能に保持され、同一平面に平行に位置される。』

(b-5)第5欄第24?44行
「One side of the stop means 78 has a plane vertical surface 85 for engaging the rear ends 86 of each the needles 46 for aligning their front sharpened ends 88 to extend an equal distance beyond the clamping means 28 of the unit 12. The amount to which the needles 46 extend beyond the clamping means 28 may be adjusted by loosening the screw means 80 and sliding the stop means 78 along the slot 64 to the desired position and retightening the screw means 80. The side of the stop means 78 opposite its surface 85 is provided with a plurality of stepped vertical surfaces 90, which engage the ends 86 of the needles 46 when the stop means 78 is positioned as shown in FIG. 6 by loosening the screw means 80 and reversing the stop means 78. When so positioned the front pointed ends 88 of the needles extend different or unequal distances beyond the clamping means 28. This arrangement may be desirable when the needles 46 are to pierce skin or dense tissue requiring greater force to be concentrated on a single needle for easier insertion of each of the sharpened ends of the needles.」『固定部材78の一面には、平坦な垂直面85が設けられている。垂直面85が設けられることにより、複数の針46の各基端86を固定し、各針46の尖った先端88を器具12のクランプ手段28から等間隔で離すことができる。クランプ手段28を超えた針46の長さはネジ80を緩め、固定部材78を穴64に沿って望みの位置に摺動させ再びネジ80を締めることで調節される。固定部材78の垂直面85と反対側には複数の段のある垂直面90を有し、これは固定部材78がFIG.6のように位置するときにネジ80を緩めて固定部材78を戻すことで針46の基端86と係合する。このように位置したとき、針の先端88はクランプ手段28を超えて異なった距離だけ伸びる。このような配置は針46がそれぞれの先端が容易に挿入できるように集中した大きな力を必要とする皮膚や深い組織を貫通する際に望ましい。』

(b-6)第5欄第46?49行
「the needles 46 are inserted through respective pairs of aligned opening 74,76 of the needle aligning device 66 with the needle back ends 86 engaging the stop means 78.」『針整列部材66には、対となる孔74,76が設けられている。複数の針46は、各々孔74,76に通されており、基端86は固定部材78に係合している。』

(b-7)Fig.1およびFig.6には、固定部材78を用いて複数の針46の基端部を固定することの図示があり、Fig.6およびFig.4には、針整列部材66が、複数の針46の先端側において複数の針46を整列させること、および孔74を有する第1の平板状部材と、孔76を有する第2の平板状部材とが一体化することの図示がある。

上記(b-1)ないし(b-7)の記載事項および図示内容より、甲第2号証には、「所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた複数の針46と、複数の針46の基端部が固定された針整列部材66とを有する、処置器具。」の発明が開示されている。

(c)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
(c-1)公報第5頁右上欄第4行?同左下欄第4行
「内蔵アンカーを利用した内蔵壁のモビライゼイション法すなわち孔あけ法を第3図乃至第7図に示す。第3図を参照すれば、前記方法の好適な実施例において、身体の外側から皮膚と内臓壁を貫いて内臓の内腔まで針を刺して通路すなわち道が形成されている。前記実施例において、カニュールすなわち16ゲージのプラスチック製シース40を上部に付着した長さ15cmの22ゲージの針39を針刺しに使用している。膨張した内臓内腔に突出針を入れると外側のカニュールすなわちシースはその上を前進し、シースがその場所に残って道を造る。シースが固定すると針は除かれる。第3図は身体の内側から腹壁41と内臓壁43と貫いて内臓42の内腔44にのびている道を形成するプラスチックのシース40を示している。
第4図はシース40によってできた道から内腔44の中にクロスバー11が挿入される方法の別の工程を示す。クロスバー11は挿入中に道の長手方向の軸線に沿って整列し、縫合線12,20がシース40の中を引きずられ、それらの非着端部18,21が体の外側に留まっている。」

(c-2)第3図および第4図には、針39とプラスチック製シース40を一体にした状態で穿刺を行い、穿刺後、針39を抜き去り、その後、プラスチック製シース40の内部に、先端にクロスバー11の設けられた糸状部材を挿入して前進させ、クロスバー11を体内に導くことの図示がある。

(d)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(d-1)第3頁左下欄下から第3行?第4頁右上欄下から第3行
「この発明のカテーテルによってペースメーカー電極を患者の右心房内壁面に固定するには次の様にして行う。
前述した様に患者の鎖骨中央下を局所的に切開してカテーテル1を右心房内に挿入し、外管2の先端部にある上記電極9a、9bを右心房内壁面に接触させる(第5図)。そして導線10a、10bの後端を心内膜電位測定器に接続して右心房内膜に生じる電位の測定を行い、又、導線10a、10bの後端を体外式ペースメーカーに接続して右心房に電流を送り、右心房電気刺激閾値を測定する。この心内膜電位の測定と、電気刺激閾値の測定はカテーテルの先端部を右心房内で移動させ、電極9a、9bを内壁面の種々な部位に接触させることによって繰返し行い、ペースメーカー電極を固定する最適位置を探すのである。
かくして最適位置が決ったら、カテーテルの移動を止めて先端部をその位置にとどめ、内芯部材3の後部を外管中に押込んで前述した様に右心房内で外管の先端に必要大きさのループ4を形成させる(第6図)。それから患者の第4肋間胸骨右縁に約2cmばかりの皮膚切開を行い、エックス線透視下で切開部より右心房内に形成したループ4の中心を目がけてペニューラ針12を穿刺し、ペニューラ針の先端をループの手前に位置させる。
次にペニューラ12にペースメーカー電極固定用の二つ折りなどした誘導鋼線13を折返し端部から挿込み、右心房内のループ4の中心付近を通過させた後(第7図)、外管2に対し内芯部材3を後に引張ってループ4を縮小させ、遂には内芯部材3の先端を外管の先端から引込めることにより内芯部材と外管の先端間で誘導鋼線12を把持し(第8図)、次にカテーテルを体外に抜出す(第9図)ことにより把持した誘導鋼線13の端部を体外に取出し、誘導鋼線の把持を釈放する。そして、ペースメーカー電極14を先端部外面に露出して有する被覆電極線14'の先端を糸など15により誘導鋼線13に連結し(第10図)、ペニューラ針12に通っている誘導鋼線13の基部を引張って誘導鋼線13により被覆電極線14'を右心房内に引込む。この操作によってペニューラ針12からは誘導鋼線13が先ず体外に引出され、次には糸15の一部が出て来る。そして糸に連結されたペースメーカー電極の被覆電極線14'の先端がペニューラ針12の右心房内に突入した先端に引懸って糸15が最早引出せなくなったらペニューラ針12を体外から抜去した後、この糸を第4肋間胸骨右骨右縁の皮下組織に縫合し、電極線14'の末端に接続した植込み用ペースメーカー16は右前胸部の皮下を剥離して作った間隙に収め皮膚は縫合する。
これによりカテーテル1は求めた最適位置でループを形成し、ペニューラ針はそのループの中心めがけて穿刺してあるため、誘導鋼線13、糸15で引張られてペニューラ針の先端に引懸った被覆電極線14'の先端部にあるペースメーカー電極14はカテーテルが求めた最適位置ないしその極く近傍において心房内壁面と接触することになる。」

(d-2)第5図ないし第10図には、カテーテル1を心臓に導き、心臓内において、カテーテル1先端からループ4を突出させてループ4を広げ、このループ4の中心をめがけてベニューラ針12を切開部より穿刺し、ベニューラ針の先端をループ手前に位置させ、次にペースメーカー電極固定用の二つ折りなどした誘導銅線13の端部をベニューラ針12の先端から突出させてループ4の中心付近を通過させ、この後にループ4を縮小させて誘導銅線12を把持し、次にカテーテル1を体外に抜出すことにより把持した誘導銅線13の端部を体外に取出すことの図示がある。

(e)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載および図示がある。
(e-1)第872頁右欄第24?36行
「The Medicut is then introduced across the abdominal and gastric walls with a quick motion to pierce all the layers without pushing the stomach away. Gastroscopic visualization assures proper positioning of the cannula (Fig. 2). A wire snare passed through the gastroscope is looped around the cannula. With the plastic sheath in place, the metallic needle is removed and a long No.2 black silk thread is inserted. As the dark thread exits from the plastic cannula, it is grasped with the snare of the endoscope (Fig. 3). When the string is secure in the snare, it is brought out through the mouth together with the endoscope (Fig. 4). This suture is tied to the string attached to the previously prepared 16 French Mushroom catheter」『Medicut(静脈用カニューラ)を腹壁を介して胃壁にすばやい動作で挿入し、胃内へ挿入する。内視鏡下でカニューラが適切な位置にあることを確認する(Fig.2)。内視鏡を介して挿入したワイヤースネアはカニューラの周辺で輪を広げる。プラスチックシースを残して、金属針を取り除き、長いNo2サイズの黒いシルク製縫合糸を挿入する。プラスチックカニューラから入れた縫合糸を内視鏡のスネアにて捕捉する(Fig.3)。縫合糸がスネアにて確実に把持された後、内視鏡と一緒に口から取り出す(Fig.4)。この縫合糸と先に準備していた16フレンチサイズのマッシュルームカテーテルとを結び合わせる。』

(e-2)Fig.3には、ENDOSCOPE(内視鏡)先端からSNARE(スネア)が突出し、SNARE(スネア)の中心をMEDICUT(静脈用カニューラ)が貫通し、MEDICUT(静脈用カニューラ)の先端から縫合糸が延出することの図示がある。

(f)甲第6号証
(f-1)第139頁右欄下から第5行?同末行
「Clancyらが考案したmeniscal stitcherが1983年末に市販された。この方法は、長い外套管に糸を通した長い直針を通し、外套管をガイドとして直針を関節外に押し出し、半月板に糸をかける方法である。」

(g)甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載および図示がある。
(g-1)第813頁左欄下から第5行?第814頁左欄第14行
「3.外周縁部縫合術(図20)
半月板制動術から発展した半月板外縁と冠靱帯の縫合術である。外周縁部損傷に行う。鋭匙鉗子、ディスポの18ゲージ長針2本、2-0ナイロン糸数本、小コッヘルなどを使用する。まず鋭匙鉗子で損傷部の新鮮化を行う。18ゲージ長針の1本に2-0ナイロン糸を通し先端を出しておく。針の先端から約1cm位のところを約30度位に指で曲げる。鏡視下に刺入部を十分確認後、この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し、冠靱帯のところで一度先端を出し、改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し、このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してからループを静かに締め、最初の針をナイロン糸を残して抜去し、第2の針をループがゆるまないようおさえたまま抜去すると、半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ、最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し、そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから、初めの糸をループに関節外で通し、ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる。著者は先端を曲げた糸通しと小ペアンで行っていたが現在はこの方法を行っている。この方法は英国のDandyが早く行い、それとは関係なく片山、木村らによって行われた。後節の縫合は同側の後穿刺部に小皮切を加え、膝窩腔でsemiclosedの術式で冠靱帯と半月板を縫合する。同様に長い針を曲げて使う。市販の縫合器を使わないのは半月板と冠靱帯を縫合する意義に対する配慮が足りないと思われるからである。またそれを後節の縫合に使って関節外の重要な血管、神経を損傷した例が外国にある。
術後、膝軽度屈曲位でギプス包帯をまく。」

(g-2)図20には、体内において、縫合糸把持用穿刺針の先端から突出させたループでもって、縫合糸把持用穿刺針より所定距離離間した縫合糸挿入用穿刺針の先端から突出させた縫合糸を把持することの図示がある。

(h)甲第8号証
甲第8号証には、以下の記載がある。
(g-1)第101頁下から第2行?第102頁下から第8行
「注)硬膜外穿刺針
通常硬膜外穿刺に用いられる針は、針先の形状から直針と曲針(Huber point)の2種類がある(図78)。直針は針軸と切口(gevel)の角度は普通の注射針と比べ鈍(45°ぐらい)になっている。曲針はTuohy針として有名であるが、硬膜を破りにくく、持続用カテーテルを一方向へ導くことができる。私はこれを改良し翼付きとし、先端の角度もやや工夫を行った(第79、左から2番目)。これはまた肉薄で18Gでカテーテルを通過させることができ、切口も鈍にしてありカテーテルの切断を防止するようになっている。
最近はディスポーザブルのものも発売されているが、やや先端が鋭過ぎる感じがする。
持続硬膜外麻酔用カテーテル
市販のものでポリエチレン製(八光商事、トップ)とナイロン製(テルモ、ポーテックス)のもの、および材質に造影剤を混じてX線不透過にした製品(テルモ、ポーテックス)がある。日常の使用にはポリエチレン、ナイロン製のもので十分であるが、研究や診療上カテーテル先端位置を確認する必要のあるときは造影剤入りの材質のものが便利である。いずれも内径0.1mm、長さは90cm前後である。」

(i)甲第9号証
甲第9号証には、以下の記載および図示がある。
(i-1)第1頁
「販売名 ディスポ-ザブル硬膜外針」、「承認年月 昭和47年12月」、「一般的名称 36191010 硬膜外投与用針」

(i-2)第2頁
「3.硬膜外針の刃面を患者の頭部に向け皮膚へ垂直に穿刺する。」、「8.以後必要な処置を行う。(硬膜外カテーテルの挿入、麻酔薬の注入を行う。)硬膜外針の先端より約5cm硬膜外麻酔カテーテルを挿入する。」

(i-3)第4頁
「氏名又は名称 株式会社八光 第一種医療機器製造販売業」

(j)甲第10号証
甲第10号証には、以下の記載がある。
(j-1)第261頁
「硬膜外カテーテル 単体、キット市場推移」、「93年度 110万本(セット)」、「同市場は八光商事のドル箱が続いているものの、マーケットは単体市場からカスタムキットにシフトしつつ他メーカの攻勢を防いでいる。」

(k)甲第11号証
甲第11号証には、以下の記載がある。
(k-1)第7頁第4から6行
「医師が、2本の穿刺針を同時に穿刺する場合、2本の針が平行でない穿刺方法(わざわざイエロー針がスネアの中心を外れるような穿刺方法)を選ぶはずもないのである。)」

(l)甲第12号証
甲第12号証には、以下の記載および図示がある。
(l-1)第6欄第65行?第7欄第8行
「FIG. 11 shows a tool 400 for deploying fastener 305. Tool 400 may be considered as comprising two of the tools 100 of FIG. 2 joined together. More specifically, tool 400 comprises a pair of parallel hollow sheaths or needles 405 and 406 and a pair of plungers or rams 410 and 411.
Sheath 405 is a cylindrical tube that terminates in a flat annular surface 415 at its front end and a flat surface 420 at its rear end. Front surface 415 is disposed at an inclined angle (approximately 30 degrees) relative to the longitudinal axis of sheath 405, so that the sheath is effectively sharply pointed at its front end.」『図11は、ファスナー305を留置するための処置具400を示す。処置具400は、図2の処置具100が2つ連結されて構成されていると考えられる。
処置具400は一対の平行な中空シース若しくは針405及び406と、一対のプランジャー若しくはピストン410及び411とから構成されている。
シース405は中空チューブであり、先端部で平らな輪状の表面415を有し、基端部では平らな面420を有している。先端部表面415は、シース405の軸線方向に対して約30度に斜めカットされている。こうすることで、シースは先端部において有効で鋭角な先端となる。』(下線は請求人により付与された。以下、同じである。)

(l-2)第7欄第55?64行
「Sheaths 405 and 406 are attached to one another to form a unitary tool. Such attachment may be achieved in any number of ways well known to one skilled in the art, but preferably this attachment is achieved by a rigid cross member 443 attached to both sheaths, with or without the use of additional support members. Sheaths 405 and 406 are attached together so that their front tips are aligned with one another, as are their rear surfaces 420 and 421, their slots 430 and 431, and their stops 445 and 446.」『シース405と406とは、単一器具として形成されるようお互いに固定される。そのような固定は、当業者によく知られる多くの方法によって実現されるが、両方のシースに対し、補助手段とともに、または補助手段なしに、両方のシースに取り付けられた剛性横断手段443で固定することが好ましい。シース405と406は、一緒に固定されているため、先端部はお互いにそろっており、基端部表面420と421、溝430と431及びストップ445と446も同様である。』

(l-3)図11には、シース405及び406が、固定部材(剛性横断手段443)により固定されることの図示がある。

(m)甲第13号証
甲第13号証には、以下の記載がある。
(m-1)特許請求の範囲
「体壁に挿入される挿入部が異形パイプで形成された外套管と、この外套管内に互いの軸線をほぼ平行にして挿入可能な円形断面の複数の導入補助針とからなることを特徴とする挿入補助具。」

(m-2)公報第2頁左上欄第12?末行
「上記課題を解決するためにこの発明は、体壁に挿入される挿入部が異形パイプで形成された外套管と、この外套管内に互いの軸線をほぼ平行にして挿入可能な円形断面の複数の導入補助針とから挿入補助具を構成する。
それによって、体壁に複数の補助針を並列に穿刺してから、これら補助針をガイドにして外套管を体壁に挿通する。」

(m-3)公報第3頁右上欄下から第2行?同左下欄第3行
「第8図に示すようにガイド体47に穿設された一対の通孔48にそれぞれ第2の導入補助針46を挿通し、上記第2の導入補助針45と軸線をほぼ平行にして体壁Bに穿刺する。」

(n)甲第14号証
甲第14号証には、以下の記載がある。
(n-1)第4欄第12?26行
「The apparatus may contain a group of needles 2 with stops 6 arranged in parallel and having a common actuator intended for the simultaneous movement of the needles 2 relative to the stops 6. This apparatus has a body shaped like a yoke 15 (FIG. 3), rigidly connected with rods 16, which, in turn, are fastened with a bracket 17 by means of pins 18. The actuator, serving to move the hollow needles 2 relative to the stops 6, is formed by a brace 19 which has a handle 20 at one end and connected through a pin 21 (FIGS. 3 and 4) with a plate 22 and by a pin 23 (FIG. 3) with an attachment 24 (FIGS. 3 and 5). The plate 22 and attachment 24 form the slide of the actuator. Made in the attachment 24 are through holes 25 (FIG. 5), in which the rear ends of the needles 2 (FIG. 3) are fastened.」『器具は、平行に配列された一連の中空針2と停止部材6を含み、停止部材6にリンクした中空針2の同時動作のための共通のアクチュエーターを持っている。この器具は、くびき(横木)15(図3)のような形状の本体を持ち、ロッド16と堅く連結され、同様にピン18にてブラケット17と堅く留められている。
停止部材6にリンクして中空針2を動かすためのアクチュエーターは、一端にハンドル20を持ち、ピン21にてプレート22(図3、4)、ピン23にてアタッチメント24(図3、5)が連結されている締め具19で形成されている。プレート22とアタッチメント24は、アクチュエーターのスライドを形成する。アタッチメント24には孔25が形成されており(図5)、そこに中空針2(図3)の後端が固定されている。』

(o)甲第15号証
甲第15号証には、以下の記載がある。
(o-1)第17頁下から第10行?同下から第8行
「本件発明における固定部材の機能は、縫合糸挿入用穿刺針の位置が、縫合糸を挿入したときに、正しく、環状部材の中を通過するように位置決めすることにある。」

(o-2)第18頁7?9行
「本件特許発明において、縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針をほぼ並行に固定して使用するのは、スタイレットの開口部材の内側に縫合糸が確実に挿入される位置関係を実現するためである。」

(o-3)第20頁下から第6行?第22頁第6行
「使用態様3(同時穿刺後ロックする方法)
最初からホワイトウイングとブルーウイングが重ねて保持し、ロックはせずにホワイト針とイエロー針を同時に穿刺するが、穿刺後ロックしたうえで、縫合糸を通す作業を行う。
本件特許請求項1の構成要件Dは、「前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材からなり」であり、固定の態様ならびに固定される時期については限定をしていない。ロック機構を作動させた場合に、固定されていることは議論の余地がないが、ロックの時期が、穿刺針の穿刺前である必要はない。甲第4号証図3の、これから縫合糸をイエロー針を通して胃内に挿入する段階で、ホワイトウイングとブルーウイングがロックされた状態を請求項1と対比すると、構成要件A?Dはいずれも充足されている。この態様により使用される場合は、本件特許の明白な侵害行為が存在する。
実施例では、穿刺前から2本の針が一体化されているが、これはあくまで実施例であって、本件特許発明がこの態様に限定されるものではない。

使用態様4(別々に穿刺後ロックする方法)
ホワイト針を穿刺した後にイエロー針を穿刺するが、ホワイトウイングとブルーウイングを重ねてロックしたうえで、縫合糸を通す作業を行う。
穿刺後、縫合糸を挿入する段階で、ホワイトウイングとブルーウイングがロックされた場合、本件特許の明白な侵害行為が存在することは、使用態様3で述べたとおりである。
実施例では、穿刺前から2本の針が一体化されているので、同時に穿出されるが、これはあくまで実施例であって、本件特許発明がこの態様に限定されるものではない。」

使用態様5(最後までロックしないで同時穿刺する方法)
最初からホワイトウイングとブルーウイングを重ねて保持し、ホワイト針とイエロー針を同時に穿刺するが、ロックをしないまま、最後までの作業を行う。
被告製品を観察すると、ホワイトウイングとブルーウイングを重ねて、2本の針を平行に位置決めし、同時に穿刺することは容易な作業態様である。
侵害の有無に関する判断では、使用態様2と類似するが、2本の針が実施例と同様に同時に穿刺される点で、使用態様2よりもさらに侵害と認められるべき理由がある。
甲第4号証2頁の使用時注意に以下の記載がある。
8)縫合糸把持用穿刺針と縫合糸挿入用穿刺針を把持して同時に穿刺しな いこと。把持 ゆるみが生じ意図通りの方向に穿刺できないため、臓器の 損傷、誤穿刺や出血の危険がある。
この記載は、まさに被告らが、被告製品はホワイトウイングとブルーウイングを重ねて、2本の針を平行に位置決めし、同時に穿刺されうる構成であることを認識していたことを明示している。」

(p)甲第16号証
甲第16号証には、以下の記載がある。
(p-1)第15頁下から11行?同下から10行
「本件特許発明における2本の針の固定とは、両者を平行な位置関係に保持して穿刺することを目的とする。」

(5-2)無効理由1について
○本件特許発明1について
甲第1号証には、上記(5-1)(a)で示したように「円筒状カニューラ18と、該円筒状カニューラ18の内部に挿入され、これの先端からループ14が取り出される『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』とを備え、前記『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』は、先端に設けられて弾力性を有し、前記円筒状カニューラ18の内部に挿入されるループ14を有する、処置具。」の発明が開示されている。
ここで、本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、
甲第1号証記載の発明の「円筒状カニューラ18」、「ループ14」、「円筒状カニューラ18の内部に挿入され、これの先端からループ14が取り出される」、「『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』」、「先端に設けられて弾力性を有し、円筒状カニューラ18の内部に挿入される」、「処置具」は、
本件特許発明1の「縫合糸把持用穿刺針」、「環状部材」、「縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された」、「スタイレット」、「先端に弾性材料により形成され、縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な」、「医療用器具」にそれぞれ相当し、
甲第1号証記載の発明の「とを備え」と本件特許発明1の「とからなり」とは、「とを備え」という点で共通することから、
甲第1号証記載の発明は、「縫合糸把持用穿刺針と、該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットとを備え、前記スタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有する医療用器具。」に相当し、この点において両者は一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本件特許発明1は、「縫合糸挿入用穿刺針」と、「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、スタイレットと、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とからなり、「さらに、環状部材は、縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ものであるのに対して、
甲第1号証記載の発明は、縫合糸把持用穿刺針とスタイレットとを備えるにすぎず、上記「縫合糸挿入用穿刺針」、「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」、「さらに、環状部材は、縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との構成を有するものではない点。

<相違点>について検討する。
(i)甲第1号証記載の発明は、上記<相違点>で示したように、「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とを有するものではなく、また、甲第3ないし10号証記載の事項は、上記(5-1)(c)ないし(j)で示したように、「中空針を介して糸状部材を体内に挿入する」構成を有するものであるものの、甲第1号証記載の発明と同じく、上記「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とを有するものではない。
そして、甲第1、3ないし10号証には、上記「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とを構成することの示唆がない。

(ii)甲第2号証には、上記(5-1)(b)で示したように、「所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた複数の針46と、複数の針46の基端部が固定された針整列部材66とを有する、処置器具。」の発明が開示されており、甲第12号証には、上記(5-1)(l)で示したように、「シース405及び406が固定部材(剛性横断手段443)により固定されること」の開示があり、甲第13号証には、上記(5-1)(m)で示したように、「別々に穿刺される複数の針を固定部材(ガイド体47)により固定すること」の開示があり、甲第14号証には、上記(5-1)(n)で示したように、「複数の針を固定部材(アタッチメント(24)により固定すること」の開示があることから、甲第2、12ないし14号証記載の事項は、「ほぼ平行に設けられた複数の針を固定する固定部材」を有するものである。
しかしながら、甲第2、12ないし14号証記載の事項は、縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針に関するものではない。
そして、甲第2、12ないし14号証には、上記「ほぼ平行に設けられた複数の針を固定する固定部材」を、縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針に適用することの示唆がない。

上記(i)、(ii)からして、甲第1、3ないし10号証には、上記「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とを構成することの示唆がなく、また、甲第2、12ないし14号証には、上記「ほぼ平行に設けられた複数の針を固定する固定部材」を、縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針に適用することの示唆がないので、甲第1ないし10、12ないし14号証記載の事項を組み合わせたとしても、上記「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とを構成することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
さらに、甲第11、15、16号証は、本件特許発明1ないし7にかかる侵害事件において被請求人(特許権者)が裁判所に提出した書面であって、公知技術を示すものではなく、また、本件特許発明1の発明特定事項の技術的認定はあくまで本件特許明細書の記載に基いて行われるべきであることから、当審の判断を左右するものではない。
したがって、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、甲第1ないし16号証記載の事項に基いて当業者が容易になし得ることではない。
そして、本件特許発明1の「・・・この医療用器具を用いることにより、前腹壁と内臓壁、例えば、前腹壁と胃体部前壁とを容易、かつ短時間に、さらに安全かつ確実に固定することができ、この固定にともなう患者への侵襲も、穿刺針の穿刺という極めて少ないものであり、患者に与える負担も少ない。」(【0026】【発明の効果】)という効果は、特に、上記「縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた」縫合糸把持用穿刺針と、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」とを有することで生じるものであるということができることから、甲第1ないし16号証記載の事項から当業者が十分に予測し得るものではない。
よって、本件特許発明1は、甲第1ないし16号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

○本件特許発明2ないし7にかかる発明について
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1の上記相違点にかかる構成を有するものであることから、本件特許発明1と同様の理由で、甲第1ないし16号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5-3)無効理由2について
本件特許明細書には、
「【0012】縫合糸把持用穿刺針2は、内部に、スタイレット4を摺動可能に挿通する中空状のものであり、金属、例えば、ステンレスにより形成されており、先端に皮膚への穿刺用の刃面を有している。縫合糸挿入用穿刺針2としては、皮膚への穿刺とスタイレットの挿入ができればどのようなものでもよいが、具体的には、外径が、21G?16G程度のもの、さらには、19G?16Gのものが好ましく、特に17G(約1.40mm)?18G(約1.20mm)のものが好ましい。また、長さは、60mm?120mm程度のものが好ましく、特に、70?90mm程度のものが好ましい。また、縫合糸把持用穿刺針2としては、上述した縫合糸挿入用穿刺針3と同じもの、また同程度の外径のものを用いてもよい。『さらに、後述するスタイレット4の環状部材5が、確実に縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにするために、縫合糸把持用穿刺針2の先端の刃面は、図1に示すように、縫合糸挿入用穿刺針3方向に向かって開口していることが好ましい。また、この縫合糸把持用穿刺針2としては、通常の直管状のものでもよい。また、図1に示すような、刃面部分を含む先端部が、湾曲したものを用いてもよい。このようにすれば、より確実に、後述するスタイレット4の環状部材5が、縫合糸挿入用穿刺針方向に延びるようにすることができる。』そして、縫合糸把持用穿刺針2の後端には、縫合糸把持用穿刺針ハブ7が取り付けられており、このハブ7の開口端は、後述するスタイレットハブ9と係合するように構成されている。そして、ハブ7は、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリカーボネートなどの合成樹脂より形成される。さらに、このハブ7は、固定部材6に固定されており、その結果、固定部材6は、縫合糸把持用穿刺針2の基端部を固定している。このため、縫合糸把持用穿刺針は、縫合糸挿入用穿刺針3より所定距離離間し、かつ、ほぼ平行となっている。両者間の距離は、縫合糸が前腹壁と内臓壁とを固定する長さとなるものであり、5mm?30mm程度が好適である。
上記範囲内であれば、前腹壁と内臓壁との固定も十分に行え、また、2本の穿刺針を穿刺する際の抵抗もあまり大きなものとはならない。特に好ましくは、10?20mmである。」(『 』は、当審において付与した。以下、同じ。)
「【0015】スタイレット4は、図1および図2に示すように、縫合糸把持用穿刺針2の内径より小さい外径を有する棒状部材13と、この棒状部材13の先端に固定された環状部材5と、棒状部材13の基端部に固定されたスタイレットハブ9とを有している。そして、環状部材5は、弾性材料により形成されており、縫合糸把持用穿刺針2の先端より突出した状態では、図1および図2に示すような、環状となり、突出させない状態では、図4に示すように、変形し、ほぼ直線状となり縫合糸把持用穿刺針2の内部に収納可能である。よって、スタイレット4の棒状部材13および環状部材5部分は、縫合糸把持用穿刺針2の内部を摺動可能となっている。この実施例のスタイレット4は、穿刺針2より抜去可能となっている。また、スタイレット4は、少なくとも、環状部材5を穿刺針2の内部に収納できることおよび穿刺針2の先端より突出できるように摺動可能なものであれば、必ずしも、穿刺針2より抜去可能でなくてもよい。そして、スタイレット4の環状部材5は、穿刺針2の先端より突出した状態において、『図1および図2に示すように、縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が、環状部材5の内部を貫通するように縫合糸挿入用穿刺針3方向に延びるように形成されている。具体的には、図1に示すように、環状部材5は、棒状部材13の先端にある程度の角度をもって固定されており、さらに、環状部材5は、側面から見た状態にて、中央部または中央部より若干先端側部分が底部となる湾曲形状となっていることが好ましい。このように形成することにより、縫合糸挿入用穿刺針3の中心軸またはその延長線が、より確実に環状部材5の内部を貫通するようになる。』さらに、環状部材5の先端部は、ほぼ先端を中心とするV字またはU字状となっており、距離が狭くなった縫合糸把持部14を形成していることが好ましい。このような、縫合糸把持部14を設けることにより、縫合糸挿入用穿刺針3より突出する縫合糸12をより確実に、把持することができる。」との記載、特に、上記『 』部の記載、【図1】および【図2】の図示があり、
これらからして、発明の詳細な説明には、「環状部材は、縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」ことについて、これを達成するに必要な具体的態様が十分に示されているということができる。
さらに、「環状部材は、縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる」との記載が、ただちに明細書に具体的に裏付けのない態様を含むものであるとすることはできない。

(5-4)まとめ
以上のとおりであるから、請求人が主張している無効理由1、2によっては、本件特許発明1ないし7についての特許を無効とすることはできない。

6.むすび
したがって、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1ないし7にかかる発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-03 
結審通知日 2009-12-07 
審決日 2009-12-21 
出願番号 特願平2-416573
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61B)
P 1 113・ 534- Y (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一川端 修  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 岩田 洋一
豊永 茂弘
登録日 1995-02-24 
登録番号 特許第1907623号(P1907623)
発明の名称 医療用器具  
代理人 工藤 敦子  
代理人 増井 和夫  
代理人 速水 進治  
代理人 森 修一郎  
代理人 平出 貴和  
代理人 森 修一郎  
代理人 工藤 敦子  
代理人 山田 徹  
代理人 増井 和夫  
代理人 田中 成志  
代理人 豊島 真  
代理人 平出 貴和  
代理人 菊池 毅  
代理人 速水 進治  
代理人 田中 成志  
代理人 菊池 毅  
代理人 山田 徹  
代理人 豊島 真  

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