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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29D
管理番号 1224211
審判番号 不服2007-11342  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-19 
確定日 2010-09-30 
事件の表示 特願2003-309646「タイヤ成形ドラム装置およびタイヤ成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 74870〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成15年9月2日の出願であって、平成19年3月16日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成22年4月15日(起案日)付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、平成22年6月21日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成18年1月27日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
主軸に相互離間可能に設けられた一対のドラムと、
該各ドラムの対向面側でかつ外周に取り付けられるとともに、その外周面上に載置されたサイドウォールを貼付位置へと持ち上げるターンアップブラダと、
前記ターンアップブラダの内周側に、前記ターンアップブラダの前記ドラムに対する取り付け部近傍に設けられた支点を中心にして起倒可能に設けられ、かつその外側表面が前記ターンアップブラダを押上げて前記サイドウォールを前記貼付位置に押し付ける押上げ部材と、
を備えたことを特徴とするタイヤ成形ドラム装置。 」

3.引用刊行物とその記載事項
(刊行物1)
特開2002-81404号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「空液式速度調整機構」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「【0014】図1に示すように、中空の主軸1上をスライド可能なドラム(フレーム)2には、エアピストン3により昇降(拡縮)可能なセグメント4を介してタイヤ部材5の片側が担持され、その折り返し片5aがビードワイヤ6を介して対象物としてのフィンガ7によりターンアップされるようになっている。」

(イ)「【0026】[第2実施例]図3は本発明の第2実施例を示す空液式速度調整機構付きタイヤ成形機のブラダ押圧用プッシュカン機構の概略構成図である。
【0027】これは、先の実施例における液量調整機構9をタイヤ成形機のブラダ押圧用プッシュカン機構に適用したものである。つまり、タイヤ部材5の折り返し片5aをプラダ20を介してプッシュカン21で押圧するものにおいて、前記プッシュカン21を駆動するシリンダ22に前記油量調整機構9を組み付けたのである。その他の構成は先の実施例と同様なので、図1と同一部材には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0028】この実施例によるも、プッシュカン21の移動速度を、シリンダ22のエア圧の変化にかかわらず、所定の速度に制御でき、タイヤ部材5の折り返し部内にエアを混入するなどの不具合を回避してタイヤの品質劣化を防止することができる。」

(ウ)図3から、ブラダ20はドラム2のタイヤ5側でかつ外周に取り付けられている点、及びプッシュカン21は軸方向に移動可能である点が、また図3及び技術常識から、ブラダ20を膨張させて、該ブラダ20の外周面上に載置された折り返し片5aを貼付位置にターンアップする点が看取できる。

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
[刊行物1記載の発明]
「主軸1にスライド可能なドラム2と
該ドラム2のタイヤ5側でかつ外周に取り付けられるとともに、その外周面上に載置された折り返し片5aを貼付位置へターンアップするブラダ20と
該ブラダ20を介して軸方向に移動することにより折り返し片5aを貼付位置に押圧するプッシュカン21とを備えたタイヤ成形機のプラダ押圧用プッシュカン機構。」

(刊行物2)
特開平9-226020号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「タイヤ構成部材の折返し機構」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(エ)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ビードとタイヤ成形ドラムのビードロック体とにより挟持された部位より軸方向外側のタイヤ構成部材を半径方向外側に向かって折り返す折返し機構に関する。」

(オ)「【0002】
【従来の技術】従来のタイヤ構成部材の折返し機構としては、例えば図5、6に示すようなものが知られており、このものは、周方向に所定間隔離れて配置されるとともに、タイヤ成形ドラム11の中心軸線Lを含む平面内において直線状に延在する多数の折返しフィンガー12と、半径方向に移動可能なタイヤ成形ドラム11のビードロック体13の半径方向外端部にその軸方向外側面から突出するようにして固定され、前記折返しフィンガー12の基端がピン14を介して回動可能に連結された多数のブラケット15と、各折返しフィンガー12に先端が連結された多数の揺動リンク16と、各揺動リンク16の基端が連結され軸方向に往復動するシリンダケース17を有するシリンダ18とを備え、前記シリンダケース17を軸方向内側に移動させることにより、全ての折返しフィンガー12に揺動力を付与し、これにより、折返しフィンガー12を前記平面内において起立方向に同期揺動させるようにしたものである。
【0003】そして、このような折返し機構によってタイヤ構成部材Tを、詳しくはスティフナーF付きのビードBとタイヤ成形ドラム11のビードロック体13とにより挟持された部位より軸方向外側の折返し領域Rを折り返す場合には、まず、折返しフィンガー12がタイヤ成形ドラム11の中心軸線Lにほぼ平行に延びることで全体として円筒状を呈しているとき、タイヤ成形ドラム11の外側に円筒状をしたタイヤ構成部材Tを搬入して配置するとともに、このタイヤ構成部材Tの外側の所定位置にスティフナーF付きのビードBをセットする。その後、ビードロック体13を半径方向外側に移動させてビードBとビードロック体13とによりタイヤ構成部材Tの軸方向両端部をそれぞれ挟持する。この状態でねじ軸19を回転させることによりビードロック体13同士を互いに接近させながら、ビードロック体13間のタイヤ構成部材Tの内部にエアを充填し、これらビードロック体13間のタイヤ構成部材Tを略トロイダル状に変形させる。次に、シリンダ18に流体を供給してシリンダケース17を軸方向内側に接近させ、揺動リンク16を半径方向外側に向かって(起立方向)に揺動させる。この結果、折返しフィンガー12はこれら揺動リンク16から揺動力を付与されて半径方向外側に(起立方向)同期揺動し、前記挟持された部位より軸方向外側のタイヤ構成部材T(折返し領域R)が半径方向外側に向かって折り返される。」

4.対比 ・判断
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「主軸1」は本願発明の「主軸」に相当し、以下同様に、「ドラム2」は「ドラム」に、「折り返し片5a」は「サイドウォール」に、「ブラダ20」は「ターンアップブラダ」に、「ターンアップする」は「持ち上げる」に、「タイヤ成形機のプラダ押圧用プッシュカン機構」は「タイヤ成形ドラム装置」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1記載の発明の「プッシュカン21」は、ブラダ20を押圧して折り返し片5aを貼付位置へ押付ける「押付け部材」である限りにおいて、本願発明の「押上げ部材」に相当する。
さらに、刊行物1の図3には、一方の「ドラム2」しか記載されていないが、刊行物1記載の発明がタイヤ成形機である以上、ドラム2が一対設けられていることは自明である。
そうすると、刊行物1記載の発明の「スライド可能」は、本願発明の「相互離間可能」に相当し、前者の「ドラム2のタイヤ5側」は後者の「各ドラムの対向面側」に相当する。
したがって、本願発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「主軸に相互離間可能に設けられた一対のドラムと、
該各ドラムの対向面側でかつ外周に取り付けられるとともに、その外周面上に載置されたサイドウォールを貼付位置へと持ち上げるターンアップブラダと、
前記ターンアップブラダを押圧して前記サイドウォールを前記貼付位置に押し付ける押付け部材と、
を備えたタイヤ成形ドラム装置。」
で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、押付け部材が「ターンアップブラダの内周側に、ターンアップブラダのドラムに対する取り付け部近傍に設けられた支点を中心にして起倒可能に設けられ、かつその外側表面がターンアップブラダを押上げてサイドウォールを貼付位置に押し付ける押上げ部材」であるのに対して、刊行物1記載の発明は、押付け部材が「折り返し片5aをブラダ20を介して軸方向に移動することにより押圧するプッシュカン21」である点。

上記相違点1について検討する。
刊行物2には、タイヤ構成部材Tの折返し領域Rの内周側に、ピン14を中心にして回動可能に設けられた折返しフィンガー12を備えたタイヤ構成部材の折返し機構の発明が記載されている(上記記載事項(オ)参照)。また、図5,6を参酌すると、折返しフィンガー12はピン14を中心として回動することから、その外側表面が折返し領域Rを貼付位置に押し付ける押上げ部材であるといえる。
そして、刊行物2記載の発明の折返しフィンガー12は、ブラダを介さずに直接タイヤ構成部材Tの折返し領域Rを押し付けるものであるが、押圧力を付与して折返し領域Rをタイヤ構成部材Tに押し付ける点において、刊行物1記載の発明のプッシュカン21と同じ機能を有するものである。
そうすると、刊行物1記載の発明において、ブラダ20に押圧力を付与する手段として、プッシュカン21に代えて、刊行物2記載のピンを中心に回動する折返しフィンガーを適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。そして、そのようにしたものは、実質的に上記相違点1に係る本願発明の構成を具備しているといえる。

また、刊行物1記載の発明のプッシュカン21に代えて、刊行物2記載の折返しフィンガーを適用したものは、当然にブラダ20のドラム2に対する取り付け部近傍に折返しフィンガーの支点が設けられるような構成となるから、折り返し片5aを根元(内周)側から貼付位置に押し付けるという作用効果を奏することも、当業者であれば容易に理解できることである。
よって、本願発明の「サイドウォールを根元(内周)側から貼付位置に押し付ける」という作用効果は、刊行物1及び2に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

なお、審判請求人は、当審拒絶理由に対する平成22年6月21日付け意見書において、「(ア)刊行物1における押圧力を付与して折返し領域Rをタイヤ構成部材Tに押し付ける部材は、ブラダと、プッシュカンとの組み合わせたものであり、プッシュカン21のみを折返しフィンガー12と置き換えることは考えられない。
(イ)刊行物1、2の引用された構造は、ともに「サイドウォールを根元(内周)側から貼付位置に押し付ける」ことができないという問題点を有しています。言い換えますと、本願発明1の効果を備えていません。
(ウ)刊行物2には、ブラダがタイヤ端部に直接接している構造については、何ら記載がありませんし、それを示唆する記載もありません。したがって、折返しフィンガー12を刊行物1のプッシュカン21に代えるという発想は、当業者といえども容易に想到できません。
(エ)刊行物2を見て、当業者はサイドウォールを根元(内周)側から貼付位置に押し付けるためには、複雑な構造をしたリンク機構を用いた押圧部材とすることが必要であるとの認識を得られるだけである。
したがって、刊行物1と刊行物2とを組み合わせて、本願発明1とすることに動機付けが存在していないと存じますので、本願発明1は、刊行物1および刊行物2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではないと確信いたします。」(「1.拒絶理由通知に対する意見」「B.本願発明1と刊行物1、2に記載の発明との対比の項」を参照)と主張している。
確かに、刊行物1記載の発明では、押圧力を付与して折り返し片5aをタイヤ部材5に押し付ける部材は、ブラダ20と、プッシュカン21とを組み合わせたものである。
しかしながら、刊行物1記載の発明のブラダ20とプッシュカン21は、一体不可分の構成ではなく、各々において、個別に従来技術の置換が可能であることは、当業者に容易に理解できることであり、また、プッシュカン21に代えて刊行物2記載の折返しフィンガーを適用することを阻害する特段の事情があるとも認められない。
そうすると、刊行物1記載のプッシュカンと刊行物2記載の折返しフィンガーは、タイヤ部材に押圧力を付与して折り返し片を押し付けるという共通の機能を有することから、前者に代えて後者の適用を試みる動機付けは十分にあるといえる。
また、本願発明の作用効果については、上述のとおりである。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-26 
結審通知日 2010-07-27 
審決日 2010-08-19 
出願番号 特願2003-309646(P2003-309646)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 祥吾  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 山岸 利治
藤村 聖子
発明の名称 タイヤ成形ドラム装置およびタイヤ成形方法  
代理人 藤田 考晴  

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