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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1224243
審判番号 不服2008-27047  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-23 
確定日 2010-09-30 
事件の表示 特願2003-428492「キャッピング装置の制御方法及び液滴吐出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-186352〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月25日の出願であって、平成20年5月26日付けで手続補正がなされ、同年9月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年10月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成20年10月23日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のものである。
「印加される駆動信号に応じた圧力を発生する圧力発生素子と、当該圧力発生素子で発生した圧力で加圧された液滴が吐出されるノズル開口とを有する液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置において、
前記ノズル開口の各々からの前記液滴の吐出の有無を検出する検出装置と、
前記圧力発生素子に対して、前記ノズル開口から液滴を吐出させることなく前記ノズル開口近傍を加熱する加熱用駆動信号を印加する駆動信号生成部と、
前記液滴吐出ヘッドに設けられる前記ノズル開口を封止する封止部と、前記圧力発生素子によって前記ノズル開口近傍が加熱されている場合に前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給する負圧供給装置とを有するキャッピング装置と、
前記検出装置の検出結果に応じて、前記駆動信号生成部と前記キャッピング装置が備える負圧供給装置の少なくとも一方を制御する制御装置と
を備えることを特徴とする液滴吐出装置。」

第3 本願の優先日前に頒布された刊行物の記載事項
1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-219254号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【特許請求の範囲】
・・・略・・・
【請求項13】 インクを吐出する吐出口と当該インクの吐出のために利用されるエネルギを発生する吐出エネルギ発生素子とを有する記録ヘッドと、該記録ヘッドに対して圧力を作用することによりインクを排出させる排出手段と、前記吐出口内方の異物を除去して前記記録ヘッドにインク吐出状態を良好にする吐出回復処理にあたり、前記排出手段を駆動すると同時に前記吐出エネルギ発生素子を駆動する手段とを具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項14】 前記吐出エネルギ発生素子はインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生するための電気熱変換素子の形態を有することを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】 前記吐出回復処理に先立ってインクを加熱するようにしたことを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録装置。
・・・略・・・」

(2)「【0002】
【従来の技術】従来のインクジェット記録ヘッドや装置において、膜沸騰を利用した熱エネルギ記録方式は、圧電素子を利用したものに比べて格別に記録特性や記録品位が良く、光エネルギ等を用いた他の熱エネルギ記録に比較しても優れたものとして実用化されている。
【0003】しかしかかる記録ヘッドや記録装置では、記録剤に液体であるインクを用いているため、インク増粘や固化が生じることがあり、これに起因して生じる不都合を解消すべく、インクジェット記録装置においては他の記録装置に見られない固有の構成、すなわち液路内をリフレッシュしたり、吐出口形成面を良好な状態にする手段、所謂記録ヘッドの吐出回復系が設けられている。
【0004】これら吐出回復系には種々の構成のものがあり、まず液路内をリフレッシュするものとして、記録時以外に吐出エネルギ発生素子を駆動して所定のインク受容媒体にインク吐出を行わせるもの(予備吐出または空吐出とも呼ばれる)がある。
【0005】これを開示する特許としては、英国特許第2,169,855号明細書を挙げることができる。この特許は、上記内容以外にインクを予備的に加熱してから後に予備吐出を行うことも開示している。
【0006】また、インク供給系を加圧したり、あるいはインクの吐出口より吸引を行う等、液路に所定の圧力を作用させてインクを吐出口より強制的に排出させるようにしたものもある。
【0007】これを開示する代表的な特許は、米国特許第4,600,931号明細書である。この吸引回復は常に行うものではなく、記録不良が生じるような状況に至る直前或いは不吐状態において行われるものである。吸引回復の発明は多くの出願があり、中でも吸引条件を大にする大回復と通常吸引を行う通常回復とを切換える発明も知られている。」

(3)「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明らは、従来の回復手段について検討したところ、記録時の環境変化(ヘッド温度や周囲温度やシーケンス中の工程等を含む)において予備吐出条件を変化させることは有効であり、吸引や加圧ポンプによる強制排出も通常は有効であるが、以下の問題を見い出すに至った。
【0010】すなわち、より多量にインクを消費し、かつ長時間をかけても、高水準の回復ができない場合がみられたのである。これは、吸引や加圧による強制排出時に特に問題であり、複数吐出口全体に対して均等な吸引力や加圧力が作用せずにインクを無駄にしてしまうことに起因したものであった。特に、この回復力を強めようとポンプの大型化を行ってもそれ程有効でなく、かえってインクの損失量を多大にしていたことが判明した、また、予備吐出による各吐出口からのインク吐出量を増やすことは回復処理に費やされる時間が長くなり記録のスループットが下がってしまう問題がある。これらは低温環境下での回復処理において顕著である。」

(4)「【0027】
【実施例】以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
・・・略・・・
【0030】本例に係る記録ヘッド86は、図中底面側に開口した複数の吐出口を有し、その吐出口に連通した液路部分にインク吐出に利用されるエネルギを発生する吐出エネルギ発生素子が配置される。この吐出エネルギ発生素子としては、吐出口ないし液路の高集積化が可能なことから、熱エネルギ発生素子を用いるのが好適である。」

(5)「【0047】(4) 回復系ユニットの概要
次に本例に係る回復系ユニットについて説明する。
【0048】図5はその回復系ユニットの配設部位および概略構成を説明するための模式図であり、本例においては回復系ユニットをホームポジション側に配設してある。
【0049】回復系ユニットにおいて、300は記録ヘッド86を有する複数のカートリッジCにそれぞれ対応して設けたキャップユニットであり、キャリッジ2の移動に伴って、図12に示すように図中左右方向にスライド可能であるとともに、下上方向に昇降可能である。そしてキャリッジ2がホームポジションにあるときには、記録ヘッド部86と接合してこれをキャッピングする。
・・・略・・・
【0051】さらに、回復系ユニットにおいて、500はキャップユニット300に連通したポンプユニットであり、キャップユニット300を記録ヘッド86を接合させて行う吸引処理等に際してそのための負圧を生じさせるのに用いる。」

(6)「【0109】1頁の記録が終了してその記録媒体が排出されると、引続き図19に示すように加圧コロ510を位置(K)に設定する(ステップSD1)。そしてこの状態でステップSD3にてキャリッジ2をホームポジションに設定し、キャッピングを施す。
【0110】次にステップSD5において小回復動作を行う。ここではまず加圧コロを位置(M)に設定し、この位置で所定時間(例えば0.1秒)保持してインク吸引を行う。その後ステップSD7,SD9,SD11およびSD13にて、それぞれ上記ステップSA3,SA5,SA7およびSA9と同様の処理を行い、装置は記録ヘッドにキャッピングを施した状態で次の記録開始指令を保持することになる。」

(7)「【0111】大回復スイッチ826が操作されると、図20に示す処理が起動される。本手順では、ステップSE1にてキャリッジ2のホームポジション(位置(D))への設定および加圧コロ510のホームポジション(位置(L))への設定を行った後、ステップSE3の大回復を行う。ここでは加圧コロ510を+回転させて位置(L)に再設定し、この位置で所定時間(例えば2?3秒)保持してインク吸引を行う。また、これと同時に所定の空吐出動作を行う。そしてその後ステップSE5,SE7,SE9およびSE11にて、それぞれ、図16のステップSA3,SA5,SA7およびSA9と同様の処理を行い、本手順を終了する。なお、吸引と空吐出とを同時に行うためには、例えば大回復に先立って所定の空吐出用駆動データをドライバ840にセットしておき、適宜のタイミングで起動するようにすればよい。」

(8)「【0132】本発明の第3の実施例では、上記第1または第2の実施例による処理を行う前に、外部ヒータを駆動し、あるいは吐出ヒータに吐出が生じない程度の発熱が生じるように駆動する等により液路内のインク温度を上昇させ、インクの粘度、表面張力を低下させるようにする。これにより、気泡同志が合体して大きな気泡となり易くなり、さらにはインクの流動性も上がるため、第20図中実線で示すように、上記第1または第2の実施例効果を一層向上するものとなる。第2実施例のようにインク落ちさせる方法に適用する場合には、インクの表面張力が低下しているため液路先端でのメニスカス力が弱まり、さらには表面張力の低下によるリフィル周波数の低下が起こるため、吐出の間隔をその本体の最短の吐出間隔(いわゆるベタ印字を行う場合に相当)以下にすることなく、効果的にインク落ちを発生させることができるようになる。」

(9)上記(1)ないし(8)から引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「インク増粘やインク固化に起因して生じる不都合を解消すべく、液路内をリフレッシュしたり、吐出口形成面を良好な状態にする記録ヘッドの吐出回復系が設けられているインクジェット記録装置において、
複数吐出口全体に対して均等な吸引力や加圧力が作用せずにインクを無駄にしてしまうことに起因して、より多量にインクを消費し、かつ長時間をかけても、高水準の回復ができない場合がみられる問題や、予備吐出による各吐出口からのインク吐出量を増やすことは回復処理に費やされる時間が長くなり記録のスループットが下がってしまう問題があり、これらの問題が低温環境下での回復処理において顕著であることをかんがみて、
複数の吐出口を有し、その吐出口に連通した液路部分にインク吐出に利用されるエネルギを発生する熱エネルギ発生素子を用いた吐出エネルギ発生素子が配置された記録ヘッドと、
キャリッジがホームポジションにあるときに、記録ヘッド部と接合してこれをキャッピングするキャップユニットと、該キャップユニットを記録ヘッドに接合させて行う吸引処理等のための負圧を生じさせるのに用いられる、キャップユニットに連通したポンプユニットとを含む回復系ユニットとを備え、
1頁の記録が終了してその記録媒体が排出されると、キャリッジをホームポジションに設定して、記録ヘッド部にキャッピングを施し、所定時間(例えば0.1秒)インク吸引を行う小回復動作を行い、
大回復スイッチが操作されると、キャリッジのホームポジションへの設定を行った後、所定時間(例えば2?3秒)インク吸引を行うと同時に所定の空吐出動作を行う大回復動作を行うものであって、
前記回復動作を行う前に、熱エネルギ発生素子を吐出が生じない程度の発熱が生じるように駆動して液路内のインク温度を上昇させ、インクの粘度、表面張力を低下させて、気泡同志を合体して大きな気泡となり易くし、さらにはインクの流動性を上げることにより回復動作の効果を一層向上させたインクジェット記録装置。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平1-285355号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。
「第1図中、番号20は気泡除去手段でもある回復装置を示す。
この回復装置20は、インクジェットヘッド10のインク吐出口(オリフィス)4に対向して設置され、必要なときのみオリフィス4があるヘッド前面にキャップ8を装着し、ヘッド10内のインクを回復系チューブ9を通して減圧(吸引)ポンプ11によって吸引排出することができる。
前記サブインクタンク15はインクジェットヘッド10と一体的に設けられており、該サブインクタンク15に対してはメインインクタンク17からインク供給チューブ16を通してインクが逐次供給される。
然して、第1図の実施例構造においては、各ノズル1の先端(オリフィス4)近傍に加熱手段としてのヒーター12が配置され、また、各ノズル1の後端のフィルター6近傍にも加熱手段としてのヒーター13が配置されている。
本実施例においては、前記ヒーター12、13は、いずれも、前記減圧ポンプ11がインク吸引を開始すると同時にオンになってインクの加熱を開始し、インク吸引が終了する頃(終了する時およびその直前直後を含む)にオフになるよう制御される。
次に以上説明したインクジェット記録装置の動作を説明する。
ヘッド10内のインクに気泡が存在している時は、減圧ポンプ11によるヘッド10内のインクの吸引を開始すると同時に、ノズル1先端近傍のヒーター12およびノズル1後端のフィルター近傍のヒーター13をオンにしそのまわりのインクを加熱する。
減圧ポンプ11によるインク吸引が終了する頃にヒーター12、13をオフにしインクの加熱を停止する。
このような加熱操作により、ノズル1先端のオリフィス4およびノズル後端のフィルター6の近傍のように、流体抵抗の大きい部分のインクのみが加熱され、インクの粘度が低下することで流体抵抗が小さくなり、サブインクタンク15からノズル1内へインクが流れ込み易くなる。
これとともに、ノズル1内に存在していた気泡は先端オリフィス4を通してヘッド10外へ排出される。
このように、常温のままでは流れにくく気泡除去が困難な部分のインクを加熱して流れやすくするので、容易かつ確実にヘッド10内のインクの気泡を除去することが可能になった。」(公報3頁左上欄13行?同頁左下欄末行)

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「複数の吐出口を有し、その吐出口に連通した液路部分にインク吐出に利用されるエネルギを発生する熱エネルギ発生素子を用いた吐出エネルギ発生素子が配置された記録ヘッド」、「インクジェット記録装置」、「記録ヘッド部と接合してこれをキャッピングするキャップユニット」、「該キャップユニットを記録ヘッドに接合させて行う吸引処理等のための負圧を生じさせるのに用いられる、キャップユニットに連通したポンプユニット」及び「回復系ユニット」は、それぞれ、本願発明の「印加される駆動信号に応じた圧力を発生する圧力発生素子と、当該圧力発生素子で発生した圧力で加圧された液滴が吐出されるノズル開口とを有する液滴吐出ヘッド」、「液滴吐出装置」、「前記液滴吐出ヘッドに設けられる前記ノズル開口を封止する封止部」、「前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給する負圧供給装置」及び「キャッピング装置」に相当する。

2(1)引用発明は、熱エネルギ発生素子を吐出が生じない程度の発熱が生じるように駆動して液路内のインク温度を上昇させるものであるから、引用発明が、このように駆動させるための駆動信号を熱エネルギ発生素子に印加する駆動信号生成部を有していることは当業者に自明である。
(2)本願の明細書には、発明を実施するための最良の形態として、
「【0022】
また、吐出ヘッド20が備える圧電体素子150は、液滴を吐出させるときに印加する駆動電圧と波形(最大電圧、周波数)が異なる駆動電圧を印加することで、ノズル開口111から液滴を吐出させることなくキャビティ121内の液滴溶媒を加熱することができる。つまり、圧電体素子150は、ノズル開口111近傍を加熱する加熱装置として用いることができる。尚、図2及び図3を参照して説明した吐出ヘッドは圧電体素子に体積変化を生じさせて液滴を吐出させる構成であったが、発熱体により液滴溶媒に熱を加えその膨張によって液滴を吐出させるようなヘッド構成であってもよい。また、静電気によって振動板を変形させることにより体積変化を生じさせて液滴を吐出させるような吐出ヘッドであってもよい。」
と記載されていることから、本願発明のノズル開口近傍を加熱する加熱装置は、ノズル開口から液滴を吐出させることなくキャビティ内の液滴溶媒を加熱することができるものを包含し、かつ、液滴溶媒に熱を加えその膨張によって液滴を吐出させる発熱体を包含するものと認められる。
(3)してみると、引用発明の、吐出が生じない程度の発熱が生じるように駆動されて、液路内のインク温度を上昇させる熱エネルギ発生素子を用いた吐出エネルギ発生素子は、本願発明の前記ノズル開口から液滴を吐出させることなく前記ノズル開口近傍を加熱する圧力発生素子に包含されるといえ、また、引用発明の「駆動信号生成部(上記(1)参照。)」が熱エネルギ発生素子に印加する、吐出が生じない程度の発熱が生じるように駆動する駆動信号は、本願発明の「前記ノズル開口から液滴を吐出させることなく前記ノズル開口近傍を加熱する加熱用駆動信号」に相当するといえる。
(4)上記(1)ないし(3)から、引用発明は、本願発明の「前記圧力発生素子に対して、前記ノズル開口から液滴を吐出させることなく前記ノズル開口近傍を加熱する加熱用駆動信号を印加する駆動信号生成部」を備えているといえる。

3 引用発明の「キャリッジがホームポジションにあるときに、記録ヘッド部と接合してこれをキャッピングするキャップユニットと、該キャップユニットを記録ヘッドに接合させて行う吸引処理等のための負圧を生じさせるのに用いられる、キャップユニットに連通したポンプユニットを含む回復系ユニット」と、本願発明の「前記液滴吐出ヘッドに設けられる前記ノズル開口を封止する封止部と、前記圧力発生素子によって前記ノズル開口近傍が加熱されている場合に前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給する負圧供給装置とを有するキャッピング装置」とは、「前記液滴吐出ヘッドに設けられる前記ノズル開口を封止する封止部と、前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給する負圧供給装置とを有するキャッピング装置」である点で一致する。

4 上記2及び引用発明が、キャリッジがホームポジションにあるときに、記録ヘッド部と接合してこれをキャッピングするキャップユニットと、該キャップユニットを記録ヘッドに接合させて行う吸引処理等のための負圧を生じさせるのに用いられる、キャップユニットに連通したポンプユニットとを含む回復系ユニットを備え、1頁の記録が終了してその記録媒体が排出されると、キャリッジをホームポジションに設定して、記録ヘッド部にキャッピングを施し、所定時間(例えば0.1秒)インク吸引を行う小回復動作を行い、大回復スイッチが操作されると、キャリッジのホームポジションへの設定を行った後、所定時間(例えば2?3秒)インク吸引を行うと同時に所定の空吐出動作を行う大回復動作を行うことから、引用発明が、前記駆動信号生成部と「前記キャッピング装置が備える負圧供給装置(回復系ユニットが含むポンプユニット)」とを制御する制御装置を備えていることは当業者に自明である。
そして、引用発明の上記制御手段と本願発明の「前記検出装置の検出結果に応じて、前記駆動信号生成部と前記キャッピング装置が備える負圧供給装置の少なくとも一方を制御する制御装置」とは、「前記駆動信号生成部と前記キャッピング装置が備える負圧供給装置の少なくとも一方を制御する制御装置」である点で一致する。

5 上記1ないし4から、本願発明と引用発明とは、
「印加される駆動信号に応じた圧力を発生する圧力発生素子と、当該圧力発生素子で発生した圧力で加圧された液滴が吐出されるノズル開口とを有する液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置において、
前記圧力発生素子に対して、前記ノズル開口から液滴を吐出させることなく前記ノズル開口近傍を加熱する加熱用駆動信号を印加する駆動信号生成部と、
前記液滴吐出ヘッドに設けられる前記ノズル開口を封止する封止部と、前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給する負圧供給装置とを有するキャッピング装置と、
前記駆動信号生成部と前記キャッピング装置が備える負圧供給装置の少なくとも一方を制御する制御装置と
を備える液滴吐出装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記ノズル開口の各々からの前記液滴の吐出の有無を検出する検出装置を、本願発明が備えているのに対して、引用発明は備えているのか否か特定されていない点。

相違点2:
前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給する前記負圧供給装置が、本願発明においては、前記圧力発生素子によって前記ノズル開口近傍が加熱されている場合に前記負圧を供給するものであるのに対して、引用発明においては、前記圧力発生素子による前記ノズル開口近傍の加熱の後に前記負圧を供給するものである点。

相違点3:
前記駆動信号生成部と前記キャッピング装置が備える負圧供給装置の少なくとも一方を制御する制御装置が、本願発明においては、前記検出装置の検出結果に応じて制御するものであるのに対して、引用発明においては、そのように制御するものであるのか否か特定されていない点。

第5 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
1 相違点1及び3について
(1)引用例1には、インクジェット記録装置において、インクの吐出口より吸引を行い、インクを吐出口より強制的に排出させる吸引回復は常に行うものではなく、不吐状態において行うものであることが記載されている(上記「第3 1(2)」参照。以下「引用例1に記載された技術事項」という。)。
(2)記録ヘッドの各ノズル毎にインク滴が吐出されるか否かを検出する検出装置と、記録ヘッドの回復手段とを備え、前記検出装置でノズルからインク滴が吐出されないことを検出すると、前記回復手段による回復処理を行うインクジェット装置は、本願出願前において周知である(例.特開2001-277543号公報(【0019】、【0034】?【0047】、【0059】参照。ドット抜け検査部により各ノズルのインク滴の吐出検査を行い、不動作ノズルが検出された場合には、ノズルのクリーニングを行うカラーインクジェットプリンタが記載されている。)、特開2003-276220号公報(【0011】?【0021】参照。ノズルの配列方向に移動自在となっており、吐出検出時には移動しながら各吐出口のインク吐出を判別するインク吐出検出装置と、レーザー発生装置、走査手段、インク吐出手段及び液滴回収手段としてのインク回収タンクとからなるインク吐出回復装置とを備え、回復処理を行う際には、前記吐出検出装置で吐出不良と検出されたノズルにレーザービームを選択的に照射し、加熱溶解された異物を含むインクをインク吐出手段で排出してインク回収タンクに回収するものが記載されている。)、特開2002-127458号公報(【0036】、【0054】?【0062】、図6参照。記録ヘッドを第1の電極の上に移動した後、吐出パルスを記録ヘッドに印加してインク滴を前記第1の電極上に吐出するとともに、その吐出動作と同期して第2の電極に導通検出パルスを印加して、前記導通検出パルスがインク滴を通して前記第1の電極に到達したかどうかを導通検出部から出力される信号のレベルに基づいて調べ、インク滴が吐出されたか否かを判断し、インク滴が吐出されていないと判断された場合には、記録ヘッドを吸引キャップと対向する位置に移動し、吸引キャップをインク吐出口に押圧して、吸引ポンプを動作させ、記録ヘッドのインク吐出ノズルを吸引する吸引回復を行うものであって、前記第1の電極と第2の電極のいずれか一方の電極を記録ヘッドの複数のインク吐出口各々に設け、インク吐出口単位にインク吐出がなされたかどうかを検出することができるインクジェットプリンタが記載されている。)。以下「周知技術」という。)。
(3)上記(1)及び(2)から、引用発明において、不吐状態である場合に回復処理を行うものとするために、記録ヘッドの各吐出口毎にインク滴が吐出されるか否かを検出する検出装置を設け、前記検出装置でノズルからインク滴が吐出されないことを検出すると、前記回復系ユニットにより回復処理を行うものとなすことは、当業者が引用例1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことである。
(4)上記(3)のようになした引用発明における「記録ヘッドの各吐出口毎にインク滴が吐出されるか否かを検出する検出装置」は、本願発明の「前記ノズル開口の各々からの前記液滴の吐出の有無を検出する検出装置」に相当する。
また、同じく上記(3)のようになした引用発明における前記制御装置は、前記検出装置でノズルからインク滴が吐出されないことを検出した場合に、回復系ユニットに回復処理を行わせるものであるところ、そのような制御手段は、本願発明の「前記検出装置の検出結果に応じて、前記駆動信号生成部と前記キャッピング装置が備える負圧供給装置の少なくとも一方を制御する制御装置」に相当する。
してみると、引用発明において上記相違点1及び3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことである。

2 相違点2について
(1)引用例2には、次の技術事項が記載されている(上記「第3 2」参照。以下「引用例2に記載された技術事項」という。)。
「気泡除去手段でもある回復装置は、インクジェットヘッドのインク吐出口(オリフィス)に対向して設置され、必要なときのみオリフィスがあるヘッド前面にキャップを装着して、ヘッド内のインクを回復系チューブを通して減圧(吸引)ポンプによって吸引排出することができるものであって、
各ノズルの先端(オリフィス)近傍に加熱手段としてのヒーターが配置され、かつ、各ノズルの後端のフィルター近傍にも加熱手段としてのヒーターが配置されており、これらのヒーターのいずれも、前記減圧ポンプがインク吸引を開始すると同時にオンになってインクの加熱を開始し、インク吸引が終了する時にオフになるように制御されるものであって、
このような加熱操作によって、ノズル先端のオリフィスおよびノズル後端のフィルターの近傍のように流体抵抗の大きい部分のインクのみが加熱され、インクの粘度が低下することで流体抵抗が小さくなり、サブインクタンクからノズル内へインクが流れ込み易くなるとともに、ノズル内に存在していた気泡は先端オリフィスを通してヘッド外へ排出されるように、常温のままでは流れにくく気泡除去が困難な部分のインクを加熱して流れやすくするので、容易かつ確実にヘッド内のインクの気泡を除去することが可能になること。」
(2)上記(1)からして、引用発明におけるインク吸引を行う小回復動作及び大回復動作に際して、容易かつ確実にインクジェットヘッドの回復(ヘッド内のインクの気泡を除去)を行うために、ポンプユニットがインク吸引を開始すると同時に、「前記ノズル開口から液滴を吐出させることなく前記ノズル開口近傍を加熱する圧力発生素子である、熱エネルギ発生素子を用いた吐出エネルギ発生素子」(上記「第4 2」参照。)をオンにしてインクの加熱を開始し、インク吸引が終了する時にオフとして加熱を終了するようになすことは、当業者が引用例2に記載された技術事項に基づいて容易になし得たことである。
(3)上記(2)のようになした引用発明において、「インク吸引を行うべく、キャップユニットに連通したポンプユニットにより吸引処理等のための負圧を生じさせること(前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給)」と、「熱エネルギ発生素子を吐出が生じない程度の発熱が生じるように駆動して液路内のインク温度を上昇させること(前記圧力発生素子によって前記ノズル開口近傍が加熱)」とは同時に行われるものとなる。そのような引用発明の前記負圧供給装置は、前記圧力発生素子によって前記ノズル開口近傍が加熱されている場合に前記ノズル開口から液滴を吐出させる負圧を前記ノズル開口を封止する前記封止部内に供給するものといえる。
よって、引用発明において上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例2に記載された技術事項に基づいて容易になし得たことである。

3 効果について
本願発明の奏する効果は、引用例1に記載された発明、引用例1及び2にそれぞれ記載された技術事項並びに周知技術のそれぞれが奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例1及び2にそれぞれ記載された技術事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例1及び2にそれぞれ記載された技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、他の請求項について検討するまでもなく、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-28 
結審通知日 2010-08-03 
審決日 2010-08-16 
出願番号 特願2003-428492(P2003-428492)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 星野 浩一
藏田 敦之
発明の名称 キャッピング装置の制御方法及び液滴吐出装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 大浪 一徳  
代理人 西 和哉  

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