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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1224640
審判番号 不服2007-6448  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-02 
確定日 2010-09-08 
事件の表示 特願2002-566250「ポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年8月29日国際公開、WO02/66537、平成16年10月21日国内公表、特表2004-532291〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年2月20日(パリ条約による優先権主張 2001年2月21日 英国及び2001年4月20日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成15年 8月20日:国内書面提出
同年10月17日:翻訳文提出
同年10月31日:出願審査の請求及び手続補正書の提出
平成18年 5月 1日:(起案日)拒絶理由の通知
同年11月 6日:意見書及び手続補正書の提出
同年11月29日:(起案日)拒絶をすべき旨の査定
平成19年 3月 2日:拒絶査定不服審判の請求
同年 4月 2日:手続補正書の提出
同年 5月15日:手続補正書(審判請求書の補正)の提出
同年10月 9日:前置審査の結果の報告
≪以下は当審における手続≫
平成20年11月25日:(起案日)前置審査の結果に基づく審尋
平成21年 2月24日:回答書の提出
同年 8月18日:(起案日)平成19年4月2日提出の手続補正 書による補正の却下の決定及び拒絶理由の通知
平成22年 3月 1日:意見書及び手続補正書の提出

2.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」ともいう。)は、平成22年3月1日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、以下のとおりのものと認める。

【請求項1】 一つ以上の下記一般式を有する単位を含む、光学デバイスに使用するためのポリマーであって、
【化1】

(i)前記第1構造単位は一般式(V)を有し、
【化2】

(V)
上記式中R及びR^(1)は同じでも異なっていてもよく、それぞれ300未満の分子量を有する置換されていてもよいアルキルまたはアルコキシ基であり、
(ii)第2構造単位[Ar]は置換されていてもよい2,7-結合9,9ジアルキルフルオレン、2,7-結合9,9ジアリールフルオレン、2,7-結合9,9-スピロフルオレン、2,7-結合インデノフルオレン、2,5-結合ベンゾチアジアゾール、2,5-結合アルキル ベンゾチアジアゾール、2,5-結合ジアルキル ベンゾチアジアゾール、2,5-結合チオフェンまたはトリアリールアミンである、前記ポリマー。
【請求項2】 各置換基が20個未満の炭素原子を含む請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】 直鎖ポリマーである請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】 基板と、前記基板上に支持された請求項1ないし3のいずれかに記載のポリマーとを含んでなる光学デバイス。
【請求項5】 前記光学デバイスがエレクトロルミネッセントデバイスを含む請求項4に記載の光学デバイス。
【請求項6】 請求項1ないし3のいずれかに記載のポリマーの製法であって、
前記製法は、
(a)(i)および(ii)を含んでなる第一芳香族モノマー:
(i)請求項1または2に記載の第1構造単位;及び/または
(ii)請求項1または2に記載された第2構造単位[Ar]、及び硼酸基、硼酸エステル基及びボラン基から選択される少なくとも2つの反応性硼素誘導体基、及び
(b)上記第1及び第2構造単位とは別の、または追加の第1及び/または第2構造単位、及び少なくとも2つの反応性ハロゲン官能基を含んでなる第二芳香族モノマー、
とを重合することを含み、
その際反応性混合物は触媒量のパラジウム触媒と、反応性硼素誘導体基を-B(OH)_(3)アニオンに変換するのに十分な塩基とを含む前記製法。
【請求項7】 各第一及び第二芳香族モノマーが硼素誘導体基及びハロゲン官能基から選択される反応性基を2つだけ有する請求項6に記載の製法。

3.当審で通知した拒絶の理由の概要
当審における平成21年8月18日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由は、以下の理由2を含むものである。

「2.この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

この理由2は、概略、発明の詳細な説明には、請求項1?11に係る発明のポリマーが製造される、すなわち請求項1?11に係る発明のポリマーが提供されることが裏付けられて記載されているとはいえないし、請求項12及び13に係る発明の光学デバイスについても、発明の詳細な説明において、実際に請求項1に係る発明のポリマーを光学デバイスに用い、その性能を確認することはなされていないから、請求項1?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められないことをその根拠とするものである。
(なお、請求項の番号は、平成18年11月6日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の記載に基づいている。)

4.当審の判断
(1)はじめに
当審において先に通知した拒絶理由の理由2、すなわち、本願明細書の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとしたことの妥当性について検討する。
特許法第36条第6項は、「特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。
そこで、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものであるかどうかについて検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されているものと認められる。
a.「エレクトロルミネッセントデバイスの領域では、新しいポリマー、特に効率的な正孔または電子運搬物質であるポリマーを開発するために多くの研究が行われている。現在ある正孔または電子運搬ポリマーに代わるものとして、このようなポリマー類が必要である。この代替物はエレクトロルミネッセントデバイスに使用した際の性能がよりすぐれていることが好ましい。所望のポリマーは、ポリマーの溶解性や加工性、デバイスに使用した際のポリマーの寿命等の光学デバイス特性が良好なものである。
以上の観点から、本発明の目的は新しいポリマーを提供することである。本発明のもう一つの目的は上記ポリマーを使用することである。本発明のまた別の目的は上記ポリマーの製造のために使用できるモノマー単位を提供することである。最後に、本発明の目的は上記ポリマーの製法、特に本発明によって与えられるモノマー単位を使用する上記ポリマーの製法を提供することである。」(段落0018?0019)
b.「本発明のポリマーが効率的な正孔及び/または電子(正及び/または負電荷キャリヤー)運搬物質として、または発光物質として働くことができ、その際式(I)の構造単位はポリマー鎖における一つ以上のその他の構造単位または構造単位鎖を結合する結合基として使用され、上記ポリマーが以下に記載するようにエレクトロルミネッセントデバイスに使用される際には各構造単位または構造単位鎖は独立的に、正孔の運搬、電子の運搬、または発光が可能な領域をポリマー主鎖に沿って形成することを出願人は見いだした。
ポリマー主鎖における結合基の使用は多くの理由で有用である。上記結合基は、ポリマーがスズキ重合によって合成される際に特に有用である。そのわけは、上記結合基を使用して上記ポリマー鎖の構造単位類の位置をコントロールできるからである。本発明のポリマーにおいて、上記ポリマーを下記のようにエレクトロルミネッセントデバイスに使用した際には、第二の構造単位Arが単独で、または一種類以上のその他の構造単位と共役して、正孔の運搬、電子の運搬、または発光が可能な、ポリマー主鎖に沿った領域を形成する。
それらの結合基としての使用に加えて、式(I)の構造単位はそれ自体、単独で、またはその他の構造単位、例えば式(I)であらわされる一種類以上の構造単位及び/または一種類以上の第二の構造単位Ar等と共役して、電子の運搬または発光が可能な、ポリマー主鎖に沿った領域を形成することができる。
これらのポリマーの多くがとりわけ好都合なのは、式(I)の構造単位が概してポリマー主鎖の平面からねじれ出ることが可能だからであることが判明した。このねじれは、フルオレン反復単位を含む同種のポリマー類と比較して、積み重なって結晶を形成する傾向を減らす結果となる。その上、このねじれはポリマーの共役の減少を起こし得る。なぜならば非平面分子は平面分子のように効率的に共役できないからである。これはHOMO-LUMOギャップの増加を起こす。
第一構造単位上の少なくとも一つの置換基は300未満の分子量を有する。これはポリマーの溶解性を改善するという利点を有する。さらに、このような置換基を利用して、電子及び立体効果によってポリマーのバンドギャップを調整することができる。……
本発明において考慮すべき重要因子は共役である。少なくともビフェニルまたはターフェニル反復単位によって、上記ポリマーは少なくとも一部分は共役していなければならないのは当然である。上記ポリマーはポリマー主鎖の長さに沿ってほとんど完全に共役することができる。本発明において、上記の領域または各領域の第一構造単位は直接Arと共役結合しなければならない。すなわち、第一構造単位は、第一構造単位へのまたは第一構造単位からの、ポリマー主鎖の長さに沿った電子運搬を阻止する結節を介してArに直接結合してはならない。」(段落0025?0030)
c.「本発明の第一の面の第一実施態様及び第二実施態様の両方に関連して、Arが2,7-結合9,9ジアルキルフルオレン、2,7-結合9,9ジアリールフルオレン、2,7-結合9,9-スピロフルオレン、2,7-結合インデノフルオレン、2,5-結合ベンゾチアジアゾール、2,5-結合アルキル ベンゾチアジアゾール、2,5-結合ジアルキル ベンゾチアジアゾール、2,5-結合 置換または未置換チオフェンまたはトリアリールアミン等の発光体(lumophore)を含むポリマーは特に有用であると考えられる。これら基の各々は置換されてもよい。これらの基は、生成するポリマーの特性に貢献するポテンシャル、特にポリマー主鎖の共役に貢献するポテンシャルをもつために有用であると考えられる。上に説明したように、共役度はポリマーのHOMO-LUMOバンドギャップを或る程度コントロールする。そこでArを選択してポリマーの発光色(波長)を選択することができる。
所望波長を有する光の上記ポリマーからの発光を起こす上記のもの以外の発光体も使用できる。
Arとして有用と考えられる幾つかの特殊の基を以下に記載し、参照番号1ないし21によって示す。
Ar=トリアリールアミンであれば、参照番号1-6によって示される単位が有用である:
……
Ar=ヘテロアリールであるとき、参照番号7-21によってあらわされる単位が有用である:
……
【化44】

……」(段落0054?0059)
d.「Arの性質がポリマー特性に影響を与えることは熟練せる当業者にとっては当然のことである。Arは選択され、それが存在する領域の、したがってポリマー全体の正孔及び/または電子運搬特性を改善する。
上記領域または各領域において、そして多分全ポリマーにおいて、良い電子運搬特性をもつことが望ましい場合、Arは、上記の領域または各領域が共役主鎖を含むように選択される。その結果、上記の領域または各領域は上記の領域または各領域の全長を横切る電子運搬を阻止するいわゆる結節を全くもたなくなる。いわゆる結節の一例は窒素原子である。
上記の領域または各領域において、そして多分全ポリマーにおいて、良い正孔運搬特性をもつことが望ましい場合、上記領域または各領域はポリマー主鎖に結節を含む。この目的のために、Arは上に例示したようにトリアリールアミンを含んでなることが好ましい。好ましいトリアリールアミンはトリフェニルアミン類である。
本発明による正孔運搬ポリマーの例は、トリアリールアミン第二構造単位と下から選択される第一構造単位とからなる1:1コポリマーである:
【化51】

【化52】(構造式省略)
【化53】(構造式省略)
本発明による電子運搬ポリマーの一例はベンゾチアジアゾール第二構造単位と正孔運搬ポリマーに関連して上に示したものから選択される第一構造単位とからなる1:1コポリマーである。
本発明による発光ポリマーの一例は正孔運搬ポリマーに関連して上に示したものから選択される第一構造単位50%;ベンゾチアジアゾール構造単位25%;及び上に参照番号18によって示した構造単位25%からなるターポリマーである。
本発明によるポリマーはホモポリマー、コポリマー、ターポリマーまたはより高次のポリマーを包含する。この点で、構造単位または反復単位はモノマー単位とは区別される。ホモポリマー(すなわち一種類のモノマーの重合によって合成される)は、一種類のモノマー単位を有し、一種類以上の異なる構造単位または反復単位を有すると定義づけられる。
本発明によるコポリマー、ターポリマーまたはより高次のポリマーには、規則的に交互に代わるランダム及びブロックポリマーが含まれ、その際このポリマーの生成に使用される各モノマーのパーセンテージは変動し得る。」(段落0064?0071)
e.「本発明の第二の局面により、本発明のポリマーを光学デバイスの一成分として使用することが提案される。より具体的に述べれば、上記光学デバイスにはエレクトロルミネッセントデバイスが含まれる。
処理し易さのためには上記ポリマーが可溶性であるのが好ましい。置換基を適切に選択し、上記ポリマーに特定溶媒系における溶解性を与え、例えば或る基質上に上記ポリマーを付着させる。……」(段落0072?0073)
f.「本発明の第三の局面により、基質と、上記基質上に支持された本発明の第一の面によるポリマーとを含んでなる光学デバイスまたはその成分が提供される。上記光学デバイスはエレクトロルミネッセントデバイスであるのが好ましい。より好ましくは、正電荷キャリヤーを注入するための第一電荷注入層と、負電荷キャリヤーを注入するための第二電荷注入層と、第一及び第二電荷注入層の間に位置し、正-及び負電荷キャリヤーを受け入れ、結合し、光を発生する発光物質からなる発光層とを含むエレクトロルミネッセントデバイスが作成される。上記発光層は、(i)負電荷キャリヤー(電子)を第二電荷注入層から発光物質まで運搬し、(ii)正電荷キャリヤー(正孔)を第一電荷注入層から発光物質まで運搬し、または(iii)正-及び負電荷キャリヤーを受け入れ、結合し、光を発生する、本発明の第一の面によるポリマーを含む。
上記発光層は、本発明による一種類以上のポリマー及び任意にその他の種々のポリマーを含む諸物質のブレンドから形成できることは理解される。上記のように、正孔及び/または電子を電極から発光物質まで運ぶ運搬効率を改善するために本発明による一種類以上のポリマーが含まれる。或いは、それらはそれ自体発光物質として含まれ得る。
エレクトロルミネッセントデバイスに使用できる本発明によるポリマーを含むブレンドの一例は、上に定義した発光ポリマー>0.1%と、正孔運搬ポリマーとからなるブレンドである。
或いは、本発明によるポリマーは、第一または第二電荷注入層と発光層との間に位置する別個の層としてエレクトロルミネッセントデバイスに使用できる。また、発光層である別個の層としても使用できる。これら別個の層は任意に、一つ以上の(付加的)正孔及び/または電子運搬層と接触することができる。」(段落0075?0078)
g.「本発明によるポリマーの製造に使用される数種の重合法が知られている。
特に適した一方法は国際特許出願WO00/53656に開示されている。この内容は参考として本明細書に組み込まれる。これは共役ポリマーの製法を記載している。この方法は、反応混合物中で、(a)硼酸基、硼酸エステル基及びボラン基から選択される少なくとも2つの反応性硼素誘導体基を有する芳香族モノマーと、少なくとも2つの反応性ハリド官能基を有する芳香族モノマーとを重合させるか;または(b)1つの反応性ハリド官能基と、硼酸基、硼酸エステル基及びボラン基から選択される1つの反応性硼素誘導体基を有する芳香族モノマーを重合させることを含み、上記反応混合物は芳香族モノマー類の重合を適切に触媒する触媒量の触媒、及び反応性硼素誘導体官能基を活性重合性単位、特に-BX_(3)^(-)アニオン基、に変換するのに十分な量の有機塩基を含む。上記式中、XはFとOHとからなる群から独立的に選択される。
この方法によって生成した本発明によるポリマーは特に都合がよい。それは反応時間が短く、残留触媒(パラジウム等)量が小さいからである。
もう一つの重合法が米国特許第5,777,070号に開示されている。その方法は硼酸、C1-C6硼酸エステル、C1-C6ボラン及びこれらの組み合わせから選択した2つの反応性基を有するモノマー類と、芳香族ジハロゲン官能性モノマー類とを接触させるか、或いは1つの反応性硼酸、硼酸エステルまたはボラン基及び1つの反応性ハロゲン官能基を有するモノマー類を互いに接触させることを含んでなる。
また別の重合法は“マクロモレキュール(Macromolecules)”31巻、1099-1103ページ(1998)によって公知である。上記重合法はジブロミド モノマーのニッケル触媒カップリングを含む。この方法は一般に“ヤマモト重合”として知られている。
本発明の第四の面により、上に定義したポリマーの製法であって、
(a)
(i)前記のいずれかの実施態様で定義された第一構造単位;及び/または
(ii)上に定義された第二構造単位[Ar]と、
硼酸基、硼酸エステル基及びボラン基から選択される少なくとも2つの反応性硼素誘導体基とを含む第一芳香族モノマーと;
(b)上記の第一及び第二構造単位とは別の、またはこれらに追加した第一及び/または第二構造単位と、少なくとも2つの反応性ハロゲン官能基とを含んでなる第二芳香族モノマーと;
を反応性混合物中で重合することを含んでなる製法が提供される。その際上記反応混合物は、触媒量のパラジウム触媒と、反応性硼素誘導体基を活性重合性単位、特に-B(OH)_(3)アニオンに変換するのに十分な量の塩基を含む。
本発明の第四の局面による上で定義したポリマーの別の製法も提供される。その製法は
(a)
(i)上のいずれかの実施態様で定義された第一構造単位;及び/または
(ii)上に定義された第二構造単位[Ar];及び
1つの反応性ハロゲン官能基及び1つの反応性硼素誘導体基を含む第一芳香族モノマーと;(b)上記の第一及び第二構造単位とは別の、またはこれらに追加した第一及び/または第二構造単位、及び1つの反応性ハロゲン官能基及び1つの反応性硼素誘導体基を含む第二芳香族モノマーと;
とを反応混合物中で重合させることを含み、各ボラン誘導体基は硼酸基、硼酸エステル基及びボラン基から選択され、上記反応混合物は触媒量のパラジウム触媒と、反応性硼素誘導体基を活性重合性単位、特に-B(OH)_(3)^(-)アニオンに変換するのに十分な量の塩基とを含む。
好ましくは上記塩基はテトラ-アルキルアンモニウムヒドロキシドまたはテトラ-アルキルアンモニウムカルボネート等の有機塩基である。
各第一及び第二芳香族モノマーは、硼素誘導体基とハロゲン官能基とから選択される反応性基を2つだけ含み、直鎖ポリマーを形成するのが好ましい。」(段落0079?0087)
h.「モノマーの合成
請求項1の式(I)の反復単位を形成するために重合するモノマーの合成法を下に概略示す。
……
ジアルキルビフェニルモノマーの製法
【化55】

ジアルキルビフェニルモノマーの製法(経路2)
【化56】(反応式省略)
ジアルキルビフェニルモノマーの製法(経路3)
【化57】(反応式省略)」(段落0090、0092?0094)
i.「モノマー実施例2・4,4'-ジブロモ-2,2'-ジオクチル-1,1'-ビフェニル2,2'-ジカルバルデヒドビフェニルの製法
……
4,4'-ジニトロ-2,2'-ジカルバルデヒド ビフェニルの製法
……
4,4'-ジニトロ-2,2'-アルケニルビフェニルの製法
……
4,4'-ジアミノ-2,2'-ビスオクチルビフェニルの製法
……
4,4-ジブロモ-2,2-ビスオクチルビフェニルの製法
【化73】

4,4-ジアミノ 2,2-ジオクチルビフェニル(2.1g)及び10%H_(2)SO_(4)(11.35mL)の懸濁液を0℃に冷却した。温度を3℃未満に維持しながら亜硝酸ナトリウム(780mg、mmol)の水(7.24mL)溶液をゆっくり加えた。この溶液を0℃に再冷却し、さらに30分間撹拌した。臭化銅(I)(7.75g、mmol)のHBr(48%、77.5mL)溶液を調製した。上記溶液を-20℃に冷やした後、ジアゾニウム塩をゆっくり加えた。反応混合物を-20℃で5分間撹拌し、室温になるまで静置した。それから上記反応混合物を50℃に3時間加熱し、それから室温まで冷まし、静置した。生成物は固体として沈殿し、これを濾別した。固体をチオ硫酸ナトリウムと水で洗った。カラムクロマトグラフィーにより精製するとモノ-ブロモ前駆体と生成物との混合物2.4gが得られた。クーゲル蒸留により、所望生成物950mg(34.6%)が得られた。粗GC-MSは生成物63%及びモノブロモ前駆体30%を示した;^(1)H NMR(CDCl_(3))7.42(2H、d、J 1.6)、7.34(2H、dd、J 2.0、8.4)、6.93(2H、d、J 7.6)、2.33-2.20(4H、m)、1.40-1.38(4H、m)、1.27-1.14(20H、m)、0.88(6H、t、J 6.4);^(13)C NMR 143.283、138.899、131.961、131.519、128.675、121.691、33.146、32.025、30.721、29.532、29.410、29.280、22.838、14.284。」(段落0106?0110)
j.「B部 - ポリマーの製法
本発明によるポリマー類は、WO00/53656の方法により第一及び第二芳香族モノマーの50:50反応性混合物をスズキ重合で重合し、下に示すようなABコポリマーを提供するというやり方で製造した。
【化74】(構造式省略)
【化75】(構造式省略)
【化76】(構造式省略)
【化77】(構造式省略)
【化78】(構造式省略)
【化79】

【化80】

【化81】(構造式省略)
【化82】

」(段落0111)
k.「C部 - 光学デバイス
適切なデバイス構造を図1に示す。陽極(2)はガラスまたはプラスチック基板(1)上に支持された透明なインジウム-錫酸化物の層である。陽極(2)層の厚さは1000ないし2000Å、通常は1500Åである。陰極(5)は約1500Åの厚さをもつCa層である。両電極の間には約1000Åまでの厚さを有する発光層(4)がある。上記発光層(4)は本発明による発光ポリマーを0.1ないし100重量%含み、発光層の残りは正孔運搬物質からなる。
好都合なのは、上記デバイスが約1000Åの厚さを有するPEDOTの正孔運搬物質層(3)を含むことである。層(6)は適切な厚さのカプセル層である。」(段落0112?0113)

(3)本願発明1についての検討
本願発明1は、「光学デバイスに使用するためのポリマー」に係る発明であって、その発明の課題は、発明の詳細な説明の記載からみて、「現在ある正孔または電子運搬ポリマーの代替物であって、エレクトロルミネッセントデバイスに使用した際の性能がよりすぐれ、ポリマーの溶解性や加工性、デバイスに使用した際のポリマーの寿命等の光学デバイス特性が良好な、新しいポリマー、特に効率的な正孔または電子運搬物質であるポリマーを提供する」(段落0018?0019:摘示a)点にあると認められる。
ポリマー等の化学物質発明の分野においては、一般的にその化学構造からその物理化学的性質を正確に予測することは困難であり、また、ポリマーの製造にあたっては、重合反応が目的どおりに進行し、所望のポリマーが製造されるか否かは、実際に、該反応の諸条件を検討してみなければわからないのが通常のことであるから、上記課題を解決できるというためには、本願発明1のポリマーが、確かに製造され、「エレクトロルミネッセントデバイスに使用した際の性能がよりすぐれ、ポリマーの溶解性や加工性、デバイスに使用した際のポリマーの寿命等の光学デバイス特性が良好」という性質を有することが、発明の詳細な説明において、客観的に開示される必要があるといえる。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
段落0079?0083(摘示g)には、公知刊行物を引用しつつ数種の重合法が紹介されているが、いずれも一般的な重合法が示されているにすぎない。また、本願発明6及び7並びに段落0084?0087(摘示g)には、本願発明1のポリマーの製法が記載されているが、これらも本願発明1のポリマーを製造するための一般的な手法を示すのみで、具体的な重合条件までを開示するものではない。
また、実施例としては、段落0111(摘示j)に
「本発明によるポリマー類は、WO00/53656の方法により第一及び第二芳香族モノマーの50:50反応性混合物をスズキ重合で重合し、下に示すようなABコポリマーを提供するというやり方で製造した。」と記載しつつ、【化74】?【化82】として9つの繰り返し単位(なお、これらのうち本願発明1に相当するコポリマーは【化79】、【化80】及び【化82】の3つのみである。)が挙げられているが、実際に第一及び第二芳香族モノマーとしていかなるものを用いたのかは記載されていないし、そのスズキ重合における、溶媒、触媒、重合温度、重合圧力及び重合時間等の具体的な重合条件についても記載されていない。さらに、各繰り返し単位に相当するコポリマーの同定に必要な分析データも提示されておらず、当該コポリマーが実際に製造され、その構造が確かに【化74】?【化82】(特に、【化79】、【化80】及び【化82】)で示されるものであることは何ら客観的に確認されてはいない。
そして、本願明細書には、一部のモノマーの合成についてはその反応経路を含めて詳細に説明され(段落0090、0092?0094:摘示h)、実施例にてその合成条件とともに、その中間体を含めて同定に必要な分析データを示している(段落0106?0110のモノマー実施例2:摘示i)。そして、モノマー実施例2で合成するモノマーは本願発明1の第1構造単位を構成するモノマーとして使用可能なものといえる(請求項6及び段落0084(摘示g)における(b)の第1構造単位と2つの反応性ハロゲン官能基とを含んでなる第二芳香族モノマーに該当する。)。しかし、4,4'-結合ビフェニル基の3位及び3'位の置換基が、【化79】及び【化80】のコポリマーではいずれもメチル(CH_(3))基、【化82】のコポリマーではいずれもヘプチル(C_(7)H_(15))基であるのに対し(段落0111:摘示j)、モノマー実施例2で合成されたモノマーはいずれもn-オクチル(C_(8)H_(17))基である点で(段落0110:摘示i)、【化79】、【化80】及び【化82】のコポリマーは、モノマー実施例2で合成されたモノマーを使用するものとはいえないことから、これらのコポリマーは第1構造単位を構成するモノマーについても記載されているとはいえず、実際に【化74】?【化82】、とりわけ【化79】、【化80】及び【化82】のコポリマーが確かに製造されるか否かは不明である。
さらに、仮に、当該ポリマーの製造に、モノマー実施例2で合成されたモノマーを第1構造単位として使用するものとしても、それと共重合するモノマー(請求項6及び段落0084(摘示g)における(a)(ii)の第2構造単位[Ar]と硼酸基、硼酸エステル基及びボラン基から選択される少なくとも2つの反応性硼素誘導体基とを含んでなる第一芳香族モノマー)及び両者を重合する際の具体的な重合条件は何ら記載されておらず、詳細は不明である。
そして、本願発明1のポリマーは、エレクトロルミネッセントデバイスに使用した際には、正孔及び/または電子運搬物質、あるいは発光物質として働くことができるものであることが記載されているが(摘示b及びf)、上記実施例においては、【化74】?【化82】、とりわけ【化79】、【化80】及び【化82】のコポリマーの物理化学的性質の確認は何らなされていないから、当該コポリマーがエレクトロルミネッセントデバイスに使用した際に如何なる作用効果を奏するかは全く不明である。
したがって、当該ポリマーが「エレクトロルミネッセントデバイスに使用した際の性能がよりすぐれ、溶解性や加工性、デバイスに使用した際のポリマーの寿命等の光学デバイス特性が良好」との性質を有するか否かも不明である。
そうであるから、発明の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を参酌しても、本願発明1のポリマーが製造され、光学デバイスに使用するための所望の性質を有すること、すなわち、本願発明1のポリマーが提供されることが認識できる程度に記載されているとはいえない。
したがって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(4)本願発明2及び3についての検討
本願発明2及び3は、いずれも本願発明1を引用しつつ、その一部の発明特定事項をさらに限定するポリマーに係る発明である。
上記(3)に記載したように、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないことから、これを引用する本願発明2及び3のポリマーについても、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(5)本願発明4及び5についての検討
本願発明4及び5は、本願発明1のポリマーを含む光学デバイスに係る発明である。
しかるに、上記(3)に記載したように、発明の詳細な説明には、本願発明1のポリマーが提供されることが認識できる程度に記載されていない。
また、発明の詳細な説明には、本願発明1のポリマーが、エレクトロルミネッセントデバイスに使用した際には、正孔及び/または電子運搬物質、あるいは発光物質として働くことができるものであることが記載されているものの(摘示b、e及びf)、実施例においては
「適切なデバイス構造を図1に示す。陽極(2)はガラスまたはプラスチック基板(1)上に支持された透明なインジウム-錫酸化物の層である。陽極(2)層の厚さは1000ないし2000Å、通常は1500Åである。陰極(5)は約1500Åの厚さをもつCa層である。両電極の間には約1000Åまでの厚さを有する発光層(4)がある。上記発光層(4)は本発明による発光ポリマーを0.1ないし100重量%含み、発光層の残りは正孔運搬物質からなる。
好都合なのは、上記デバイスが約1000Åの厚さを有するPEDOTの正孔運搬物質層(3)を含むことである。層(6)は適切な厚さのカプセル層である。」(段落0112?0113:摘示k)と記載されているのみであって、実際に本願発明1のポリマーを光学デバイスに用い、その性能を確認することはなされていない。
したがって、発明の詳細な説明には、本願発明4及び5の光学デバイスが、確かに提供され、所望の性質を有することは裏付けられていない。
よって、本願発明4及び5は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

5.審判請求人の主張について
請求人は、平成22年3月1日提出の意見書の「3.2 理由2」において、
「審査官は、本願発明1のポリマーは明細書の記載によって裏付けられるものではないと指摘されました。
上記のご指摘に鑑み、出願人は、第1構造単位と第2構造単位を上記のとおり限定致しました。
補正後の本願発明1に記載のポリマーは、0069段落の記載のターポリマー(正孔運搬ポリマーとしての第一構造単位50%;電子運搬ポリマーとしてのベンゾチアジアゾール構造単位25%;及び、発光構造単位としての参照番号18で示される構造単位([化44])を含むターポリマー)等によってサポートされます。
審査官は、本願発明1のポリマーの合成は、明細書の記載(B部-ポリマーの製法)によって裏付けられていないと指摘されました。
しかしながら、本補正により、第1構造単位と第2構造単位は明細書に具体的に記載されたものから自明な範囲に限定されました。そして、これらを第一及び第二芳香族モノマーの構造も限定されました。
本願明細書の0095?0096段落にはスズキ重合を用いたターフェニルモノマーの合成経路が記載されております。また、本願明細書の0080?0081段落には、WO00/53656記載の共役ポリマーの製法が記載されております。
スズキ重合は当該分野で周知の方法であり、上記0095?0096段落とWO00/53656の記載を参照すれば、第一及び第二芳香族モノマーをスズキ重合で重合することにより本願発明のポリマーを合成することは、当業者であれば容易に実施しうるものと思料致します。
また、C部には、本願発明のポリマーを用いた光学デバイスの製造が記載されております。0018?0019段落に記載されるように、本願発明のポリマーは、溶解性や加工性、デバイスに使用した際のポリマー寿命等の光学デバイス特製が良好な新規なポリマーです。
以上のとおり、補正後の本願発明1のポリマーやその製法、これを用いた光学デバイスは明細書の記載によって裏付けられており、ご指摘の理由2には該当致しません。」
と主張している。

しかしながら、先の拒絶理由の理由2は、特許法第36条第6項第1号違反を指摘するものであるから(請求人は平成22年3月1日提出の意見書の「1.拒絶理由の概要」において、理由2を特許法第36条第6項第2号違反と記載しているが、上記した主張内容からみて、これは錯誤による誤記と認める。)、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないことを指摘するものであり、発明を容易に実施できるか否かを問うものではない。そして、この規定の要件については、上記4.で述べたように、「ポリマー等の化学物質発明の分野においては、一般的にその化学構造からその物理化学的性質を正確に予測することは困難であり、また、ポリマーの製造にあたっては、重合反応が目的どおりに進行し、所望のポリマーが製造されるか否かは、実際に、該反応の諸条件を検討してみなければわからないのが通常のことであるから、上記課題を解決できるというためには、本願発明1のポリマーが、確かに製造され、「エレクトロルミネッセントデバイスに使用した際の性能がより優れ、溶解性や加工性、デバイスに使用した際のポリマーの寿命等の光学デバイス特性が良好」という性質を有することが、発明の詳細な説明において、客観的に開示される必要があるといえる」のであって、発明の詳細な説明に、単に一般的な重合法、光学デバイスの製造法が記載されているだけでは足りず、実際に製造され、所望の性質を有することが具体的な裏付けをもって記載されていなければならないものである。
にもかかわらず、本願の明細書の発明の詳細な説明には、請求人が指摘する箇所を含めて、本願発明1に係るコポリマーについて具体的な裏付けをもって記載されているといえないことは上記したとおりである。
よって、請求人の上記主張について採用することはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その他の理由について検討するまでもなく、本願は当審が通知した拒絶理由の理由2により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-19 
出願番号 特願2002-566250(P2002-566250)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08G)
P 1 8・ 536- WZ (C08G)
P 1 8・ 537- WZ (C08G)
P 1 8・ 55- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智辰己 雅夫  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 前田 孝泰
渡辺 仁
発明の名称 ポリマー  
代理人 田中 玲子  
代理人 大野 聖二  
代理人 北野 健  
代理人 森田 耕司  
代理人 山田 勇毅  

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