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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A21C
管理番号 1224798
判定請求番号 判定2010-600030  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2010-11-26 
種別 判定 
判定請求日 2010-06-08 
確定日 2010-09-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第4297499号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「食品蒸練機」は、特許第4297499号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1.請求の趣旨・手続の経緯
本件判定の請求は、平成22年6月8日になされ、その請求の趣旨は、イ号物件は、特許第4297499号発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるというものである。
イ号物件は、被請求人である株式会社飯田製作所が製造している「食品蒸練機」であって、その構成は、甲第3号証の1、甲第3号証の2の図面(以下「イ号図面」という。)、甲第4号証における、被請求人のウェブページに示されている製品の写真(以下「イ号写真」という。)で示されるものである。
これに対して、同年6月29日付け(発送日:同年7月1日)で被請求人に判定請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたところ、同年7月28日に答弁書が提出された。

第2.本件特許発明
1.本件特許発明
本件特許発明は、明細書、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
本件特許発明は、それぞれ符号を付けて分説して記載すると、次のとおりのものである。(以下「構成要件(A)」などという。)

(A)横型食品蒸練機であって、
(B)蒸練用容器の側部に配置された生地取出口用蓋の内壁の周縁に、蒸練
室の外周部に対向する個所に、ポケットが設けられており、
(C)前記ポケット内に、前記内壁の内面と実質的に面一になるようにパッ
キンが装着されており、
(D)前記生地取出口用蓋を閉鎖すると、前記蒸練室の前記外周部と前記パ
ッキンが当接するように構成されていることを特徴とする
(E)食品蒸練機。

2.本件特許発明の目的及び効果
本件特許明細書の記載によれば、「【0008】本発明の横型食品蒸練機によれば、生地取出口用蓋の閉鎖時にパッキン周辺に隙間が生じないように構成されているので、蒸練時にパッキン周辺に蒸練されない粉が残る等の不都合が発生することがない。」という効果を奏するものである。

第3.イ号物件
1.イ号図面、イ号写真について
(1)甲第3号証の1には、練羽根すきま調整図として、タンク本体(蒸練用容器)内に形成される蒸練室には練羽根本体が設けられたものであり、タンク本体の側面に設けられた生地取出口用蓋には、タンク本体の外周部に当接するパッキン及び、それを収容するポケットが設けられていることが示されている。また、甲第3号証の1のものは、図面に示された構造からみて横型蒸練機である。
(2)甲第3号証の2には、「2袋用蒸練機レギュラー」の正面扉取合い図として、蒸練用容器の側面に設けられた生地取出口用蓋には、蒸練用容器の外周部に当接する口15パッキン及び、それを収容するポケットが設けられており、口15パッキンが1mm生地取出口用蓋の内壁から突出して段差を形成していることが示されている。
(3)甲第4号証には、被請求人が製造する蒸練機のものであって、矢印で示され、線で囲われた部分には、「前蓋パッキン 羽根と前蓋の隙間を無くすことにより、生地の生だまりを解消しました。」と写真と併せて記載されている。

2.イ号物件の構成
イ号物件は、以上の事項から、次のとおりの構成を具備するものと認められる。(以下「構成(ア)」などという。)

(ア)横型食品蒸練機であって、
(イ)蒸練用容器の側部に配置された生地取出口用蓋の内壁の周縁に、蒸練
室の外周部に対向する個所に、ポケットが設けられており、
(ウ)前記ポケット内に、前記内壁の内面から1mm突出するようにパッキ
ンが装着されており、
(エ)前記生地取出口用蓋を閉鎖すると、前記蒸練室の前記外周部と前記パ
ッキンが当接するように構成されている
(オ)食品蒸練機。

第4.本件特許発明及びイ号物件についての当事者の主張
本件特許発明が特許請求の範囲に記載された「第2.1.本件特許発明」のとおりのものであること、イ号図面(甲第3号証の1、甲第3号証の2)、イ号写真(甲第4号証)に示された食品蒸練機を被請求人が製造していることに対して、請求人、被請求人の間に争いはない。
また、イ号物件が、本件特許発明の構成要件(A),(B)を充足していることについて、請求人、被請求人の間に争いはない。
本件特許発明の構成要件(C),(D)と、イ号物件の構成の関係についての、請求人、被請求人の主張は、以下のとおりである。

1.請求人の主張
(1)構成要件(C)について
本件特許発明では、「ポケット内に、内壁の内面と実質的に面一になるようにパッキンが装着されている」のに対して、イ号では、「ポケット内に、内壁の内面から1mm突出するようにパッキンが装着されている」。すなわち、「内壁の内面と実質的に面一になるように」と「内壁の内面から1mm突出するように」との表現上の差違があるものの、「内壁の内面から1mm突出する」状態とは、「内壁の内面と実質的に面一になる」状態に包含される1つの態様にすぎず、この点に実質的な差違はない。仮に、差違があるとしても、均等の範囲に含まれる。(6 請求の理由 ○5、本件特許発明とイ号物件との技術的対比3)(3)と(c)の点、○5は、○で囲われた数字5を示すものである。以下同様。)
(2)構成要件(D)について
両者とも、「生地取出口用蓋を閉鎖すると、蒸練室の外周部とパッキンが当接するように構成されている」。したがって、この点は差違でない。(6 請求の理由 ○5、本件特許発明とイ号物件との技術的対比4)(4)と(d)の点)
(3)均等論について
請求人は、イ号における「内壁の内面から1mm突出する」ことが、本願特許発明の「内壁の内面と実質的に面一になる」と相違するとしても、1)非本質的部分、2)同一目的・同一効果、3)置換容易性、4)イ号の容易推考性、5)経過の参酌の要件を満たすので、イ号は、本件特許発明と均等の範囲に含まれる旨主張している。(6 請求の理由 ○7、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するとの説明(2)の欄を参照。)

2.被請求人の主張
(1)構成要件(C)について
「ポケット内に、内壁の内面から1mm以上突出」について
イ号物件については、前述したとおり「前記ポケット内に、前記内壁の内面から1mm以上突出するようにパッキンが装着」されて構成されており(構成要件(C))、イ号物件においてこのように構成されているのは、使用による寸法変化の影響を加味しているからである。・・(中略)・・すなわち、イ号物件は、使用によって生ずるパッキンの寸法変化を予め見込んで生地取出口用蓋の内壁の内面からパッキンを意図的・積極的に突出させるとともに、生粉が残っても掻き取り易い部位である段差の表面をこのパッキンの突出により積極的につくり(構成要件(C))、この部位に残る生粉をテフロンスクレーパで掻き取るように構成されている(構成要件(E))。(判定請求答弁書第6ページ第1?18行)
(2)構成要件(D)について
構成要件(4)は、「前記生地取出口用蓋を閉鎖すると、前記蒸練室の前記外周部と前記パッキンが当接するように構成されていることを特徴とする」ものであり、「前記パッキン」とあり前段の構成要件の「パッキン」を受けていることから、この「前記パッキン」を「前記ポケット内に、前記内壁の内面と実質的に面一となるように装着されたパッキン」と解して本件特許発明とイ号物件を対比している。(判定請求答弁書第4ページ第27行?第5ページ第5行参照。)
(3)結論
本件特許発明の構成要件(3)及び(4)とイ号物件の構成要件(C)、(D)及び(E)とは、文言上相違するだけでなく、基本的な技術思想を異とするものであり単なる形式的な相違点であるとは言えず実質的な相違点である。
したがって、イ号物件においては、本件特許発明の構成要件(3)及び(4)を欠き、よって、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属さないことは明らかである。(判定請求答弁書第7ページ第21?27行)
(4)均等論について
イ号は、1)非本質的部分、2)同一目的・同一効果、3)置換容易性及びイ号の容易推考性についての要件を満たすものではないから本件特許発明と均等の範囲に含まれるとの請求人の主張は失当である。(判定請求答弁書第8ページ第23行?第11ページ第18行の記載を参照。)

第5.当審の判断
1.争いのない点について
イ号物件の構成(ア),(イ)は、本件特許発明の構成要件(A),(B)を、明らかに充足している。

2.争点1(構成要件(C)の充足性について)
イ号物件の構成(ウ)が、本件特許発明の構成要件(C)を充足するかどうかにつき判断するため両者を対比すると、本件特許発明の構成要件(C)は、「ポケット内に、前記内壁の内面と実質的に面一になるようにパッキンが装着され(る)」(下線部は当審にて加入。以下同様。)のに対し、イ号物件の構成(ウ)は、「ポケット内に、前記内壁の内面から1mm突出するようにパッキンが装着され(る)」点において、少なくとも文言上相違する。
そこで、本件特許発明の構成要件(C)の技術的内容を検討するに、本件特許公報(特許第4297499号公報)における、
「【発明の効果】【0008】本発明の横型食品蒸練機によれば、生地取出口用蓋の閉鎖時にパッキン周辺に隙間が生じないように構成されているので、蒸練時にパッキン周辺に蒸練されない粉が残る等の不都合が発生することがない。」、
「【0011】パッキン26は、シリコン等の公知の材料で形成してよい。なお、生地取出口用蓋20の閉鎖時に、蒸練室24の密閉性が保持され且つ蒸練されない粉が残ってしまうような隙間が生じないように、パッキン26は、ポケット22aと略同じ大きさをもつ矩形横断面形状を有するように形成するのが好ましい。」、
「【0013】以上のように構成された食品蒸練機においては、生地取出口用蓋20を閉鎖すると、パッキン26の周辺に隙間が生ずることなしに、蒸練室24の外周部24aとパッキン26が当接するので、蒸練時にパッキン26周辺に蒸練されない粉が残る事態が発生することがなくなる。また、蒸練用容器10の底内壁10aと側内壁10bとの接合箇所10cに丸みが付けられているので、接合箇所10cの付近に粉が溜まることがない。」の記載等を総合すると、本件特許発明の構成要件(C)は、パッキン周辺に蒸練されない粉が残ることを防止するという課題のもとで、「内壁の内面と実質的に面一になるようにパッキンが装着」されたものと解することができ、「実質的に面一」とは、前記の課題を解決できる範囲における面一か、面一にごく近接した範囲のものを意味するものである。
一方、イ号物件の構成(ウ)の技術的内容について検討するに、甲第3号証の2には、口15パッキンが生地取出口用蓋の内面から1mm突出していることが図面に示されている。このことは、図面に寸法と引出線をもって明示されていることから、イ号物件において設計者が意図的にパッキンを1mm突出するようにしたものと解される。この点について被請求人は、判定請求答弁書において、「イ号物件については、前述したとおり「前記ポケット内に、前記内壁の内面から1mm以上突出するようにパッキンが装着」されて構成されており(構成要件(C))、イ号物件においてこのように構成されているのは、使用による寸法変化の影響を加味しているからである。」(判定請求答弁書第6ページ第2?5行)と述べている。
してみると、イ号物件においては、本件特許発明の「パッキン周辺に蒸練されない粉が残ることを防止する」ものとは異なる、「使用による寸法変化の影響を加味する」という課題を解決するために、内壁の内面から1mm突出するようにパッキンを装着させたものであり、パッキンを内壁の内面から1mm突出させたイ号物件は、パッキンと内壁の段差(甲第3号証の2参照。)に蒸練されない粉が残るものと考えられるから、前記「内壁の内面から1mm突出する」ことは、本件特許発明の課題を解決できる範囲内での面一を含む面一にごく近接した範囲での突出、すなわち本件特許発明の構成要件(C)の「内壁の内面と実質的に面一」を充足するとはいえない。

よって、イ号物件の構成(ウ)は、本件特許発明の構成要件(C)を充足しない。

3.争点2(構成要件(D)の充足性について)
被請求人は、イ号物件の構成(エ)が、本件特許発明の構成要件(D)を充足するかについて検討すると、「前記パッキン」に関して、本件特許発明の構成要件(D)は、構成要件(C)の「パッキン」を、イ号物件の構成(エ)は、構成(ウ)の「パッキン」を、それぞれ引用するものである。
そして、被請求人は、本件特許発明の構成要件(C)「ポケット内に、前記内壁の内面と実質的に面一になるように(装着された)パッキン」に、イ号物件の構成(ウ)「ポケット内に、前記内壁の内面から1mm突出するように(装着された)パッキン」は含まれないとしたから、両者は「前記パッキン」において実質的に相違し、イ号物件の構成(エ)が、本件特許発明の構成要件(D)を充足しない旨主張しているが、構成要件(C)においては、「内壁の内面と実質的に面一になるようにパッキンが装着されており」と、パッキンが装着される態様について限定されているのみであって、パッキン自体の構成に対する限定ではないから、イ号物件の構成(エ)は、本件特許発明の構成要件(D)を充足する。

4.均等の判断
(1)発明の非本質的部分について
本件特許発明の構成要件(A)?(E)のうち、請求人が本件特許発明の最大の特徴であるとする「(D)前記生地取出口用蓋を閉鎖すると、前記蒸練室の前記外周部と前記(生地取出口用蓋に設けられた)パッキンが当接するように構成されていること」は、被請求人が判定請求答弁書に添付した乙第4号証(特開昭63-173538号公報)等からみて公知であるから、上記構成要件(D)をもって発明の本質的部分であるとはいえない。
一方、上記「2.争点1」に挙げた本件特許発明の構成要件(C)の「内壁の内面と実質的に面一になるようにパッキンが装着され」ることは、「蒸練時にパッキン周辺に蒸練されない粉が残る等の不都合が発生することがない」という本件特許発明の効果を奏するために欠くことができないものであるから、この構成要件(C)が発明の本質的部分に相当するものである。
してみると、本件特許発明の構成要件(C)におけるイ号物件との相違点は、発明の本質的な部分であるから、均等の判断における「発明の非本質的部分」の要件を満たさない。

(2)置換可能性について
本件特許発明の構成要件(C)における「内壁の内面と実質的に面一になるように(装着した)パッキン」により、蒸練時にパッキン周辺に蒸練されない粉が残る等の不都合が発生することがないようにしたものである。
一方、イ号物件の構成(ウ)における「内壁の内面から1mm突出するように(装着された)パッキン」は、「使用による寸法変化の影響を加味する」ためのものであり、「パッキン周辺に蒸練されない粉が残ることを防止する」ものとはいえない。
してみると、本件特許発明の構成要件(C)をイ号物件の構成(ウ)に置き換えた際に、特許発明の目的を達成し、同一の作用効果を奏するものとはいえないから、均等の判断における「置換可能性」の要件を満たさない。

(3)まとめ
以上のとおり、上記均等の要件(1),(2)を満たさないから、他の要件につき判断するまでもなく、イ号物件が本件特許発明の構成と均等なものとして本件特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件(C)を充足しているとはいえず、また、均等なものとして本件特許発明の技術的範囲に属するものともいえない。

第6.むすび
したがって、イ号は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2010-08-26 
出願番号 特願2004-195099(P2004-195099)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 稲垣 浩司
松下 聡
登録日 2009-04-24 
登録番号 特許第4297499号(P4297499)
発明の名称 横型食品蒸練機  
代理人 杉山 誠二  
代理人 和田 成則  
代理人 茅原 裕二  

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