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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B25C
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B25C
審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  B25C
審判 全部無効 特174条1項  B25C
管理番号 1225224
審判番号 無効2005-80121  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-19 
確定日 2010-10-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2842215号「打込機」の特許無効審判事件についてされた平成19年 9月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10380号平成20年11月27日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2842215号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
(1)本件特許第2842215号の請求項1ないし8に係る発明(以下それぞれを、「本件登録時発明1」等という。また、これらを総称して「本件登録時発明」という。)についての出願は、平成6年4月22日(優先権主張平成5年9月22日)に特許出願され、平成9年5月9日及び平成10年6月15日に明細書の記載を補正する手続補正がなされ、平成10年10月23日に特許権の設定登録がなされた。
(2)平成17年4月19日に、請求人より、本件登録時発明1ないし8についての特許を無効とするとの審決を求める審判請求がなされた。
(3)これに対して、被請求人より、平成17年7月15日に審判事件答弁書及び訂正請求書が、平成17年10月4日に口頭審理陳述要領書が、平成17年10月11日及び同年10月18日に上申書が、それぞれ提出された。
(4)一方、請求人より、平成17年9月9日に弁駁書(以下、「第1回弁駁書」という。)が、平成17年10月18日に口頭審理陳述要領書が、それぞれ提出された。
(5)平成17年10月18日に、第1回口頭審理がなされ、その場で、請求人より参考資料が提出されたが、平成17年11月8日付けで、「訂正を認め、本件請求項1ないし7に係る特許を無効とし、本件請求項8に係る特許を維持する」旨の審決(以下、「一次審決」という。)がなされた。
(6)被請求人、請求人は、それぞれ、これを不服として知的財産高等裁判所に当該審決の取消を求める訴え(平成17年(行ケ)第10842号及び平成17年(行ケ)第10847号)を提起した。その後、被請求人は、本件特許第2842215号につき訂正審判の請求(訂正2005-39230号)をしたが、平成18年1月30日に前記一次審決を取り消す旨の決定がなされ、平成18年2月20日に訂正請求書が提出された。
(7)これに対して、請求人は、平成18年3月31日付けで弁駁書(以下、「第2回弁駁書」という。)を提出し、証拠として甲第4ないし31号証を新たに追加した。
(8)そこで、当審は、平成18年5月15日に、請求人のした甲第4ないし31号証の新たな追加を許可しない旨の補正拒否の決定を行うと共に、被請求人に無効理由通知を、請求人に職権審理結果通知を通知した。
(9)被請求人は、平成18年6月19日付けで意見書を提出すると共に、訂正請求書を提出し、これに対して、請求人は、平成18年8月8日付けで弁駁書(以下、「第3回弁駁書」という。)を提出したが、平成18年10月16日付けで、「訂正を認め、本件請求項1ないし5に係る特許を無効とする」旨の審決(以下、「二次審決」という。)がなされた。
なお、平成18年6月19日付け訂正請求書による訂正のうち、登録時の請求項4ないし6の削除については、同請求項の削除を認めた二次審決の送達により、形式的に確定した。
(10)被請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該審決の取消を求める訴え(平成18年(行ケ)第10516号)を提起した。その後、被請求人は、本件特許第2842215号につき訂正審判の請求(訂正2006-39199号)をし、知的財産高等裁判所において平成19年2月14日に前記二次審決を取り消す旨の決定がなされ、平成19年3月5日に訂正請求書及び上申書が提出された。
(11)これに対し、請求人は、平成19年4月16日付けで弁駁書(以下、「第4回弁駁書」という。)を提出し、証拠方法として、第4の1(5)に示される甲第1号証ないし甲第31号証を提出した。
(12)被請求人は、平成19年6月14日に審判事件答弁書を提出した。
(13)平成19年9月28日付けで、「訂正を認め、本件審判の請求は成り立たない」旨の審決(以下、「三次審決」という。)がなされた。
なお、平成19年3月5日付け訂正請求書による訂正のうち、登録時の請求項8の削除については、同請求項の削除を認めた三次審決の送達により、形式的に確定した。
(14)請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該審決の取消を求める訴え(平成19年(行ケ)第10380号)を提起した。その後、知的財産高等裁判所において平成20年11月27日に前記三次審決を取り消す旨の判決がなされた。
(15)被請求人は、平成21年1月23日に上申書を提出し、その後、請求人は、平成21年3月19日に上申書を提出した。
(16)当審は、平成21年3月27日に、平成19年4月16日付けの第4回弁駁書による請求の理由の補正について許可の決定を行い、同日に被請求人に対して特許法第134条第2項に基づく答弁指令を行った。
(17)被請求人は、平成21年4月30日に、答弁書を提出した。
(18)当審は、平成21年5月21日に、平成19年3月5日付けの訂正を認めるとともに、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反する旨の無効理由通知を被請求人に通知するとともに、職権審理結果通知を請求人に通知した。
(19)被請求人は、平成21年6月24日付けで意見書を提出し、同時に訂正請求書を提出した。
(20)請求人は、平成21年7月30日付けで弁駁書を提出した。


第2 訂正請求について
1 訂正請求の内容
被請求人の求める平成21年6月24日付けの訂正請求は、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容を、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項4、5、6及び8を削除し、これに伴い【請求項7】を【請求項4】に訂正する。以下、特許請求の範囲の請求項4というときは訂正後の請求項4を指すものとする。
イ 特許請求の範囲の請求項1、2、4の「ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体」を「ドライブビットを内蔵した打込機本体」に訂正する。
ウ(ア)特許請求の範囲の請求項1及び2の「マガジン前端に設けられ、ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドと、」を「マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、」に訂正する。
(イ)特許請求の範囲の請求項4の「給送部材を収納支持するマガジンと、」を「給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、」に訂正する。
エ(ア)特許請求の範囲の請求項1の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、」を「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、」に訂正する。
(イ)特許請求の範囲の請求項1の「前記ビットガイドの給送路の下方に位置するコンタクトアームの部分に射出路を設け、射出路から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。」を「前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状としたことを特徴とする打込機。」に訂正する。
(ウ)特許請求の範囲の請求項2の「前記ビットガイドの給送路の下方に位置するコンタクトアームの部分に射出路を設けると共に、前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け、該案内部をビットガイドに沿って上下動させる構成とし、射出路から止具を打出すようにしたことを特徴とする打込機。」を「前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし、前記平板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け、該案内部を、前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で、前記ビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。」に訂正する。
(エ)特許請求の範囲の請求項4の「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触するようにしたことを特徴とする打込機。」を「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって、前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列して、前記平板状のコンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で上下移動するようにし、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機。」に訂正する。
オ(ア)特許請求の範囲の請求項1、2、4の「多数の止具集合体」を「側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体」に訂正する。
(イ)特許請求の範囲の請求項4の「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」を「コンタクトアームをスプリングによって下方に押圧する押圧手段」に訂正する。

2 訂正の可否に対する判断
ア 訂正事項アについて
訂正事項アの請求項4、5、6を削除することは、上記第1の(9)で述べたとおり、登録時の請求項4、5、6を削除することを認めた平成18年10月16日付けの二次審決の送達により、既に形式的に確定している。また、訂正事項アの請求項8を削除することは、上記第1の(13)で述べたとおり、登録時の請求項8を削除することを認めた平成19年9月28日付けの三次審決の送達により、既に形式的に確定している。また、これに伴い、請求項の番号を繰り上げ、【請求項7】を【請求項4】とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項イについて
訂正事項イの「ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体」を「ドライブビットを内蔵した打込機本体」に訂正することに関して、特許明細書の段落【0011】には、「給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。」と記載されており、また段落【0008】には、「上記目的は、マガジンの前端に設けられ、止具集合体の先頭の止具が入ると共に前記ドライブビットが通過する給送路をドライブビットの移動方向に沿って設けたビットガイドに上下動可能に支持され、前記給送路の下方に位置する射出路を有し、・・・トリガが操作された時にのみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにすると共にコンタクトアームの下端端面を取付部材の溝に入り得る厚さとすることにより達成される。」と記載されている。
そうすると、訂正前は、ドライブビット以外の打撃駆動手段を含む記載であったのに対し、訂正後は、ドライブビットのみに限定したといえる。
したがって、訂正事項イは、特許明細書の上記記載に基づいて、打込機を、「ドライブビット等の打撃駆動手段を内蔵した打込機本体」を有する打込機から、「ドライブビットを内蔵した打込機本体」を有する打込機に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
ウ 訂正事項ウについて
訂正事項ウ(ア)の「止具集合体が通過する給送路を有し」、「給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」を追加すること、及び訂正事項ウ(イ)の「マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する」を追加することに関して、特許明細書の段落【0011】に、「ビットガイド12には、図1に示す如く、マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ、該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。」、及び「なお、前記給送路121と射出溝122は1個の溝としてもよく、以下説明の便宜上給送路121として説明する。」と記載されており、また段落【0010】に、「該止具集合体を前進させる給送部材13を収納支持するマガジン2の前端には打込機本体1より下方に延びたビットガイド12が設けられている。」と記載されている。
そうすると、訂正事項ウ(ア)ないしウ(イ)は、特許明細書の上記記載に基づいて、ビットガイドに止具集合体が通過する給送路が設けられていること、及び、該給送路の一部がドライブビット及び先頭の止具を案内するものであることを特定し、ビットガイドと給送路との関係を明りょうにするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
エ 訂正事項エについて
(ア)訂正事項エ(ア)、エ(ウ)、エ(エ)の「先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし」、「前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、」を追加することに関して、特許明細書の段落【0012】に「ビットガイド12の前記案内溝123及び突起124に夫々嵌合するコンタクトアーム5の案内竿53及び上下方向に延びた長穴状の案内穴54を介してコンタクトアーム5がビットガイド12に上下動可能に支持されている。」と記載されているとともに、段落【0013】に「給送路121の前面にカバー10を設けたため、前記給送部材13の押圧力をカバー10で受けるようになり、この押圧力がコンタクトアーム5に作用しなくなるので、スプリング6の付勢押圧力を給送部材13の押圧力とは無関係に小さく設定することができるようになる。」と記載されており、また訂正前の請求項4に「前記ビットガイドの前面にプレートを設けると共に、ビットガイドの給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しない構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の打込機。」と記載されている。
また、訂正事項エ(ア)、エ(ウ)、エ(エ)の「前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し」を追加することに関して、訂正前の請求項8に「前記コンタクトアームの前面にプレートを設け、」と記載され、同じく訂正前の請求項1及び請求項2に「マガジン前端に設けられ、・・・少なくとも前面が平板状のビットガイドと、・・・中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと、」と記載されている。そして、本件特許の図面の図1を参照すると、マガジン側から、概略ビットガイド12、コンタクトアーム5、プレート10の順に配列されていることは明らかである。
そうすると、上記訂正部分は、特許明細書の上記記載に基づき、ビットガイド、プレート、コンタクトアームの位置関係を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(イ)訂正事項エ(ウ)の「前記平板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け、」と訂正することに関して、訂正前の請求項2に「ビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部」と記載されており、また本件特許の図面の図1、3、4には、コンタクトアーム5の中間部に設けられた案内竿53、案内穴54を案内する2個の案内部である案内溝123、突起124を設けることが記載されている。
そうすると、本訂正部分は、特許明細書及び図面の上記記載に基づき、コンタクトアームとビットガイドと案内部の位置関係を具体的に特定し明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(ウ)訂正事項エ(ウ)の案内部を、「ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間」と特定する点に関して、本件特許の図面の図1を参照すると、概略、コンタクトアーム5の中間部はビットガイド12の平板状の前面とプレート10の間にあることは明らかである。したがって、本訂正部分は、本件特許の図面の上記記載に基づき、案内部の位置を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(エ)訂正事項エ(エ)の「前記平板状のコンンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で上下移動するようにし」と追加する訂正に関して、訂正前の請求項2に「中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと、」と記載され、また、本件特許の図面の図1を参照すると、概略、コンタクトアーム5の中間部はビットガイド12の平板状の前面とプレート10の間にあることは明らかである。
そうすると、本訂正部分は、特許明細書及び図面の上記記載に基づき、コンタクトアームの中間部の案内を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(オ)訂正事項エ(イ)、エ(ウ)、エ(エ)の「前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし」という訂正部分に関して、特許明細書の段落【0012】に「・・・。ビットガイド12の給送路121の下方に位置するコンタクトアーム先端部51には給送路121に連続する射出穴55が先端部51の下端まで貫通して設けられている。先端がビットガイド12の下端より下方に突出するコンタクトアーム先端部51は・・・」と記載され、また本件特許の図面の図1には当該射出穴の構成が記載されている。
そうすると、本訂正部分は、特許明細書の上記記載に基づき、コンタクトアームの部分に設けられた射出路の形状を具体的に射出孔に特定し、射出穴が設けられているコンタクトアームの場所を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(カ)訂正事項エ(エ)の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにした」という訂正部分に関して、特許明細書の段落【0014】に「また打込み途中において打込み反力により打込機本体1が上方に持ち上げられるが、この際コンタクトアーム5が下降して止具8の頭部に接触するようになり、打込機本体1が前方に移動することがなくなるので、ドライブビットが止具8から外れることがなくなって止具8が完全に打ち込まれるようになると共に取付部材9の表面が打撃されて打撃痕を残すこともなくなる。」と記載されている。
そうすると、本訂正部分は、特許明細書の上記記載に基づき、反力により打込機本体が持ち上がったときのドライブビットの動きを、具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(キ)訂正事項エ(イ)、エ(ウ)、エ(エ)の「コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし」た点を特定した訂正部分に関して、特許明細書の段落【0012】に「先端がビットガイド12の下端より下方に突出するコンタクトアーム先端部51は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とされ、下端部の厚さは前記取付部材9の溝91内に入れるような大きさ例えば3.5mm程度に設定されている。」と記載されている。
そうすると、本訂正部分は、特許明細書の上記記載に基づき、コンタクトアーム先端部の形状を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
オ 訂正事項オについて
(ア)訂正事項オ(ア)の「多数の止具集合体」を「側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体」に訂正する部分に関して、特許明細書の段落【0010】には、「側面が接着剤を介して連結された止具集合体」と記載されている。そして、連結されている止具であるから、止具は多数からなることは明らかである。したがって、本訂正部分は、止具集合体を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
(イ)訂正事項オ(イ)のコンタクトアームを下方に押圧する手段を「スプリングによって」と特定することに関して、特許明細書の段落【0012】に「コンタクトアーム5はビットガイド12との間に設けられたスプリング6によって下方に付勢押圧されている。」と記載されている。したがって、本訂正部分は、押圧手段をスプリングと特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加には該当しない。
カ 特許請求の範囲の実質的な拡張または変更について
訂正事項アないしオは、いずれも特許請求の範囲を実質的に拡張し、または変更するものではないことは明らかである。
キ 請求人の第4回弁駁書に対して
請求人は、第4回弁駁書において、訂正請求が認められるべきでないと主張するところ、以下、その主張に関して検討する。
(ア)請求人は、訂正事項イについて、特許明細書には「ドライブビット」が「打撃駆動手段」の下位概念に相当する根拠が記載されておらず、また「ドライブビット」と同等の機能を発揮する他の手段について記載されていないから、上位概念を下位概念に減縮する訂正でも、複数手段の中から一つの手段を選択するものでもないと主張する。
しかしながら、訂正事項イは、ドライブビット以外の打撃駆動手段をも含む「ドライブビット等の打撃駆動手段」という上位概念を、「ドライブビット」のみである下位概念に限定するものであることは明らかである。
(イ)請求人は、訂正事項ウ(ア)、ウ(イ)により、当初「給送路」として定義されていた領域を「非給送路」とするものであるから、「給送路」の定義を変更しており、また、「ビッドガイド」の構成として、マガジンに収納されている「止具集合体」を「ドライブビット」が通過する部位まで案内する通路が新たに設けられたことになる、と主張する。
しかしながら、特許明細書の段落【0011】に「ビットガイド12には、図1に示す如く、マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ、該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。」、「なお、前記給送路121と射出溝122は1個の溝としてもよく、以下説明の便宜上給送路121として説明する。」という記載があり、給送路121が止具集合体が通過すること、及び給送路121と射出溝122とは1個の溝としてよいことが明記されているから、「給送路の一部」は、給送路121と射出溝122とを1個の溝として、便宜上給送路121とした部分と解される。そうすると、上記給送路についての訂正部分は、訂正前の給送路について特許明細書の記載に沿ったものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものというべきである。また、本件発明の目的、構成及び効果との関係において、後記(エ)にても述べるように、ビットガイドの下端に給送路があるか否かは問題とならないから、上記訂正部分が特許請求の範囲を拡張又は変更するものともいうことはできない。
さらに、先頭の止具が打撃される部位も給送路であるから、止具集合体をドライブビットが通過する部位まで案内する通路が新たに設けられているということはできない。
(ウ)請求人は、訂正事項エ(ア)について、特許請求の範囲に基づいて特定される打込機と、特許明細書の発明の詳細な説明に記載された打込機とはその構造が異なるから、新規事項を追加するものである、と主張する。
しかしながら、特許明細書の請求項1に「・・・少なくとも前面が平板状のビットガイドと、・・・中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと・・・」と記載され、また同明細書の請求項8に「・・・前記コンタクトアームの前面にプレートを設け・・・」と記載されている。さらに、段落【0013】に「ビットガイド12の前面の給送路121、案内溝123等及びコンタクトアーム先端部51の射出穴55、案内竿53等はプレート10によってカバーされる。・・・給送路121の前面にカバー10を設けたため、前記給送部材13の押圧力をカバー10で受けるようになり、この押圧力がコンタクトアーム5に作用しなくなるので、スプリング6の付勢押圧力を給送部材13の押圧力とは無関係に小さく設定することができるようになる。」と記載されている。
したがって、ビットガイドの前面にコンタクトアームの中間部が設けられ、コンタクトアームの前面にプレートが設けられているから、マガジン側からみて、ビットガイド、コンタクトアームの中間部、プレートの順に配列されていることは明らかである。また、本件特許の図面の図1の記載からも、マガジン側からみて、ビットガイド、コンタクトアームの中間部、プレートの順に配列されていることは明らかである。
(エ)請求人は、訂正事項エ(イ)について、「供給路」の定義が変更されたことによって、「給送路」はビットガイドの下端まで設けられていないものになったため、ビットガイドの下端付近には「給送路」は存在しない、と主張する。
しかしながら、(イ)において前述したとおり、特許明細書の段落【0011】の記載から、「給送路の一部」は、給送路121と射出溝122とを1個の溝として、便宜上給送路121とした部分と解される。そして、訂正事項エ(イ)における「ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分」及び「前記給送路に連続する射出穴」は、「コンタクトアームの部分」及び「射出穴」が「給送路」に当接していることを規定するものではないから、ビットガイドの下端に給送路があるか否かは問題とならないものである。
(オ)請求人は、訂正事項エ(ウ)、エ(エ)は、訂正事項エ(ア)、エ(イ)に示したものと同様の理由により違法である、と主張する。
しかしながら、訂正事項エ(ウ)、エ(エ)は、訂正事項エ(ア)、エ(イ)に示したものと同様の理由により適法である。
(カ)請求人は、訂正事項エ(エ)について、「射出路」と「射出穴」が混在した記載になっており、さらに、当該訂正は特許明細書には記載のない事項を伴うものである、と主張している。
しかし、「反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアーム」の射出路は、「コンタクトアームの前面にプレート」が存在するから、反マガジン側の前面に設けられた射出路はプレートによって塞がれ、コンタクトアームの下端に射出穴を形成しているものであり、本件特許の図面の図8、9にも図示されている。
また、段落【0017】に「上記のように構成した結果、コンタクトアーム先端部51を含むコンタクトアーム5を簡単に製造することができるようになると共に止具8が詰まったとしてもカバー10を外すだけの簡単な操作で詰まった止具8を簡単に取り出せるようになり、保守・修理が容易な打込機となる。」と記載されていることから、射出路はプレートによって塞がれていることは明らかである。
(キ)以上のとおり、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法(以下、「改正前特許法」という。)第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 本件特許の請求項1ないし4に係る発明
上記「第2」のとおり、平成21年6月24日付け訂正請求による訂正は認められたので、本件特許の訂正後の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」等という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正請求による訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。

1 本件発明1
「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、
打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延び、下端がビットガイド下端より下方に突出し、中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、
前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状としたことを特徴とする打込機。」

2 本件発明2
「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、
打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延び、下端がビットガイド下端より下方に突出し、中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、
前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし、前記平板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け、該案内部を、前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で、前記ビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。」

3 本件発明3
「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成したことを特徴とする請求項2記載の打込機。」

4 本件発明4
「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、
打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延び、反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアームと、コンタクトアームをスプリングによって下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって、
前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列して、前記平板状のコンンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で上下移動するようにし、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機。」


第4 当事者の主張

1 請求人の主張
本件審判請求書において、請求人は、証拠方法として甲第1、2号証を提出し、以下の4つの無効理由を主張していた。
その後、平成19年4月16日付けの第4回弁駁書により、甲第3号証ないし甲第31号証を追加し、訂正要件違反の主張とともに、訂正後の全ての請求項に対して、特に甲第4号証である米国特許第4657166号明細書、甲第2号証である西独国特許出願公開第2443544号明細書、甲第6号証である仏国発明特許第1510942号明細書を引用して、特許法第29条第2項の規定に違反する旨の主張を追加した。
なお、甲第3号証ないし甲第31号証については、訂正請求にともなう証拠の追加であるので、当審において、平成21年3月27日付けで、補正の許可を行っている。
(1)無効理由1(改正前特許法第17条第2項違反)について
設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「登録明細書等」という。)の特許請求の範囲に記載される以下の構成は、補正によって、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には記載のない新規事項の追加を伴うものであるから、各請求項に係る特許は、特許法第17条の2第3項(第1回弁駁書中で、「改正前特許法第17条第2項」の誤りである旨主張)の規定に違反してされたものである。
ア 登録明細書等の請求項1?7(訂正後の請求項1?4)に「ドライブビット等の打撃駆動手段」と記載されているが、「ドライブビット」以外の構成は、当初明細書等には記載がない。(審判請求書第5頁第2行?第8行等)
イ 登録明細書等の請求項1?6(訂正後の請求項1?3)に「少なくとも前面が平板状のビットガイド」と記載されているが、ビットガイドの「少なくとも前面が平板状」であることは当初明細書等には記載がない。(審判請求書第5頁第33行?第36行、第6頁第6行?第11行等)
ウ 登録明細書等の請求項1?7(訂正後の請求項1?4)に「平板状のコンタクトアーム」と記載されているが、コンタクトアームが「平板状」であることは当初明細書等には記載がない。なお、登録時請求項7における「平板状のコンタクトアーム」に関する主張は、平成17年10月18日に実施された口頭審理において、撤回されている。(審判請求書第6頁第15行?第24行、第9頁第23行?第25行等)
エ 登録明細書等の請求項1?7(訂正後の請求項1?4)に「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」と記載されているが、当該記載は、当初明細書等に記載の「スプリング」を上位概念化するものであって、当初明細書等には記載がない。(審判請求書第6頁第28行?第35行等)
オ 登録明細書等の請求項2?6(訂正後の請求項2,3)に「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」と記載されているが、2個の「案内部」は、当初明細書等に記載の「案内竿53」及び「案内穴54」を上位概念化するものであって、当初明細書等には記載がない案内手段をも包含するものである。(審判請求書第7頁第15行?第22行)
カ 登録明細書等の請求項3(訂正後の請求項3)に、「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」と記載されているが、当初明細書等の実施例、図面では、「案内竿53」を押圧するスプリングは示されているものの、「案内穴54」を押圧するスプリングは示されていないから、押圧手段を「2個のスプリング」により構成することは、当初明細書等には記載されていない。(審判請求書第7頁第30行?第37行)
キ 登録明細書等の請求項4(訂正後削除)の「ビットガイドの給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しない構成とした」との事項は、当初明細書等に記載されていない。(審判請求書第8頁第8行?第21行)
ク 登録明細書等の請求項5、6(訂正後削除)に、「少なくとも射出溝の下端部前面にプレートを設け」と記載され、「射出溝の下端部前面のみにプレートを設ける」構造をも含むこととなったが、「射出溝の下端部前面のみにプレートを設ける」構造は当初明細書等に記載されていない。(審判請求書第8頁第27行?第9頁第3行等)
ケ 登録明細書等の請求項7(訂正後の請求項4)の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触するようにした」との事項は、当初明細書等に記載されていない。(審判請求書第9頁第27行?第36行)
コ 登録明細書等の請求項8(訂正後削除)の「射出部」は、当初明細書等に記載されていない。(審判請求書第10頁第4行?第10行、第10頁第20行?第21行)
サ 登録明細書等の請求項8(訂正後削除)には、「コンタクトアームの前面にプレートを設け、・・・止具の先頭の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにした」と記載されているが、「コンタクトアームの前面」に設けたプレートと「止具の先頭の前面」に設けたプレートとをそれぞれ別のプレートとした態様は、当初明細書等に記載されていない。(審判請求書第10頁第25行?第34行)
(2)無効理由2(改正前特許法第36条第5号第1号違反)について
登録明細書等の特許請求の範囲に記載の以下の構成は、発明の詳細な説明に記載されていないから、各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項(第1回弁駁書中で、「改正前特許法第36条第5項第1号」の誤りである旨主張)の規定に違反してされたものである。
ア 請求項1?6(訂正後の請求項1?3)には、「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」と記載されている。一方、段落【0011】には、「ビットガイド12には、図1に示す如く、マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ、該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。」と記載され、「給送路121」は「ドライブビット」を案内することができない。(審判請求書第5頁第17行?第32行等)
イ 請求項1?7(訂正後の請求項1?4)には、「平板状のコンタクトアーム」と記載されているが、コンタクトアームが「平板状」であることは発明の詳細な説明には記載されていない。(審判請求書第6頁第15行?第24行、第9頁第23行?第25行等)
ウ 請求項3(訂正後の請求項3)には、「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」と記載され、実施例、図面では、「案内竿53」を押圧するスプリングは示されているものの、「案内穴54」を押圧するスプリングは示されていないから、押圧手段を「2個のスプリング」により構成することは、発明の詳細な説明には記載されていない。(審判請求書第7頁第34行?第37行)
エ 請求項8(訂正後削除)には、「コンタクトアームの先端を被打込材に押し付け打込機本体側に押し上げることにより射出部内に供給された止具を打出す打込機」と、トリガーの操作によることなくコンタクトアームの先端を被打込材に押し付けるだけで止具を打出すことができるように記載されているが、トリガーの操作によることなく止具を打出すことができる打込機は発明の詳細な説明には記載されていない。(審判請求書第10頁第11行?第18行)
(3)無効理由3(改正前特許法第36条第5項第2号違反)について
登録明細書等の特許請求の範囲に記載の以下の構成は、明確でないから、各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号(第1回弁駁書中で、「改正前特許法第36条第5項第2号」の誤りである旨主張)の規定に違反してされたものである。
ア 請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「打撃駆動手段」が「ドライブビット」そのものを示すのか、「ドライブビット」を駆動するシリンダその他の手段を示すのか明確でない。(審判請求書第5頁第10行?第13行等)
イ 請求項1?6(訂正後の請求項1?3)の「前面が平板状のビットガイド」がどのような形状を特定しているのか不明である。(審判請求書第5頁第37行?第6頁第5行等)
ウ 請求項1?7(訂正後の請求項1?4)には、「平板状のコンタクトアーム」と記載されているが、コンタクトアームが「平板状」であることは発明の詳細な説明には記載されていないから、不明確である。(審判請求書第6頁第15行?第24行等)
エ 請求項7(訂正後の請求項4)の「反マガジン側の前面」との記載は不明である。(審判請求書第9頁第18行?第23行)
オ 請求項7(訂正後の請求項4)の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触するようにした」との事項は、単に作用を記載したものであるから、発明の内容が不明確である。(審判請求書第9頁第27行?第36行)
カ 請求項8(訂正後削除)の「射出部」は、発明の詳細な説明に記載の「射出穴」、「射出溝」、「射出路」、「給送路」のいずれを示すのか不明であるから、発明の内容が不明確である。(審判請求書第10頁第4行?第10行、第10頁第20行?第25行)
キ 請求項8(訂正後削除)には、「コンタクトアームの前面にプレートを設け、・・・止具の先頭の前面をプレートで受けるようにした」と記載されているが、「コンタクトアームの前面」に設けたプレートと「止具の先頭の前面」に設けたプレートとが同一のものかそれとも別のものなのか不明である。(審判請求書第10頁第22行?第34行)
(4)無効理由4(特許法第29条第2項違反)について
登録明細書等の請求項1?8(訂正後の請求項1?4)は、甲第1、2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1?8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
なお、甲第3ないし31号証について、第1の(16)のとおり、補正の許可を行っている。そして、第2に示したとおり、平成21年6月24日付けの訂正請求は認められている。したがって、請求人の主張する無効理由4は、「訂正後の請求項1?4は、甲第1ないし31号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正後の請求項1?4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである」ということとなった。
(5)証拠方法
請求人の提出する証拠方法は、以下のとおりである。
甲第 1号証:西独国特許出願公開第2700949号明細書
甲第 1号証の1:甲第1号証の翻訳文
甲第 2号証:西独国特許出願公開第2443544号明細書
甲第 2号証の1:甲第2号証の翻訳文
甲第 3号証:実公昭56-6303号公報
甲第 4号証:米国特許第4657166号明細書及び翻訳文
甲第 5号証:米国特許第4621758号明細書及び翻訳文
甲第 6号証:仏国発明特許第1510942号明細書及び翻訳文
甲第 7号証:特公昭46-29234号公報
甲第 8号証:実願平3-40009号(実開平4-133580号)のマイクロフィルム
甲第 9号証:西独国特許出願公開第3715293号明細書および翻訳文
甲第10号証:米国特許第5062562号明細書
甲第11号証:西独国実用新案第7314056号明細書および翻訳文
甲第12号証:特開平3-43163号公報
甲第13号証:米国特許第3713573号明細書および翻訳文
甲第14号証:西独国特許出願公告第1286469号明細書
甲第15号証:米国特許第4573624号公報
甲第16号証:中華民国専利第118052号公告公報、全文明細書および翻訳文
甲第17号証:米国特許第3387541号明細書および翻訳文
甲第18号証:特公昭50-31306号公報
甲第19号証:米国特許第3403600号明細書
甲第20号証:米国特許第3853257号明細書および翻訳文
甲第21号証:特開昭50-58675号公報
甲第22号証:実公昭51-42141号公報
甲第23号証:実願昭55-115623号(実開昭56-52684号)のマイクロフィルム
甲第24号証:実願昭57-71378号(実開昭58-173482号)のマイクロフィルム
甲第25号証:米国特許第3850079号明細書
甲第26号証:特公昭63-42125号公報
甲第27号証:米国特許第3633811号明細書
甲第28号証:米国特許第4220070号明細書
甲第29号証:西独国特許出願公開第3207962号明細書び翻訳文
甲第30号証:実願昭60-185258号(実開昭62-92174号)のマイクロフィルム
甲第31号証:「TA-211/SF50M0」リーフレット写し及び矢示部拡大図

2 当審の平成18年5月15日付け無効理由通知の概要
平成18年5月21日付けで、当審が発した無効理由通知の概要は、以下のとおりである。
「平成18年2月20日付け訂正請求による訂正を認める。
訂正後の請求項1?6にかかる発明についての特許は、引用例1(米国特許第4657166号明細書、すなわち甲第4号証)に記載された発明、及び引用例2(西独国特許出願公開第2443544号明細書、すなわち甲第2号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」

3 当審の平成21年5月21日付け無効理由通知の概要
平成21年5月21日付けで、当審が発した無効理由通知の概要は、以下のとおりである。
「平成19年3月5日付け訂正請求による訂正を認める。
訂正後の請求項1?4にかかる発明についての特許は、引用例1(仏国発明特許第1510942号明細書、すなわち甲第6号証)に記載された発明、及び引用例2(実公昭56-6303号公報、すなわち甲第3号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」

4 被請求人の主張
(1)平成21年4月30日付け審判事件答弁書における被請求人の主張の概要
ア 甲第6号証、甲第4号証、甲第11号証、甲第15号証、甲第3号証記載の打込機及びステープラーはいずれも本件発明と基本的な技術的思想が異なり、いずれも本件発明で解決しようとしている課題1である「建材に押し付ける部材(コンタクトアーム)の中心位置と、止具が出射する部材の中心位置がずれているために、コンタクトアームが溝の内側に入っていても、止具は溝の外側に打込まれてしまい、建材の表面に傷をつくるという問題」、課題2である「打込機本体を押し下げる際、コンタクトアームには下方に、かなり強い力がかかるため、コンタクトアーム先端部により建材等の取付部材の表面を傷付け易いという問題」、課題3である「ドライブビットの位置がずれたり、コンタクトアームがずれて、部材の表面を傷付けることがあるという問題」を解決できるものではない。
また、いずれの公知例も「平板状のコンタクトアームをビットガイドの前面に設けると共に、コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにした」という本件発明の基本的な構成を開示するものではない。
イ 甲第6号証記載発明について、請求人の主張の誤りがあり、本件発明1?4と甲第6号証記載発明との対比・判断においても誤りがある。
ウ その他にも、請求人の主張に関して、一致点、作用効果、取付部材の打撃痕、仕上げ釘打機についての誤りがある。
(2)平成21年6月24日付け意見書における被請求人の主張の概要
ア 刊行物1である仏国発明特許第1510942号明細書記載の発明の認定には、いくつかの点で誤りがある。
イ 本件訂正後の発明1-4と刊行物1記載の発明との対比・判断においても、いくつかの点で誤りがある。
ウ 本件訂正発明と刊行物1に記載された発明との間には、少なくとも相違点1?11がある。そして、相違点に係る構成には重要な意義があり、他の相違点に係る構成と密接に関連するため、それぞれの構成の相互作用により、特有の効果を奏する。
エ 無効理由通知における認定は、平成19年(行ケ)第10380号審決取消請求事件の判示事項と整合しない。
オ 刊行物1記載の発明に、刊行物2である実公昭56-6303号公報記載の発明を適用することには、阻害要因がある。


第5 無効理由1ないし3についての検討
1 無効理由の根拠条文の変更について
被請求人は、平成17年10月11日付け上申書において、無効理由の根拠条文を審判請求書中の「第17条の2第3項」から「第17条第2項」に変更することは、審判請求書の要旨を変更するものであると主張するが、上記変更は、特許を無効にする根拠となる事実に係る主張をそのまま維持したうえで、単に適用条文の誤りを修正するものであって、請求理由に記載した特許を無効にする根拠となる事実を実質的に変更するものではないから、審判請求書の要旨を変更するものではない。なお、無効理由2の「第36条第6項」を「第36条第5項」に変更することについても同様である。

2 無効理由1(改正前特許法第17条第2項違反)についての検討
(1)請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「ドライブビット等の打撃駆動手段」について
訂正請求により「ドライブビット」に訂正されたことにより、当該主張は根拠が無くなった。
(2)請求項1?6(訂正後の請求項1?3)の「少なくとも前面が平板状のビットガイド」について
ビッドガイドの前面に平板状の部分が存在することは、当初明細書等の、例えば図1のビットガイド12を参照することにより、明らかである。
(3)請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「平板状のコンタクトアーム」について
コンタクトアームが板状であることは、当初明細書等の段落【0016】に記載されており、また、「板」とは「材木を薄く平たくひきわったもの」、「金属や石などを薄く平たくしたもの」であるから(広辞苑第4版参照)、平板状のコンタクトアームは、当初明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
(4)請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段」について
当初明細書等の段落【0012】には、「コンタクトアーム5は・・・スプリング6によって下方に付勢押圧されている。」と記載され、コンタクトアームを下方に付勢押圧する部材として、スプリングに限らず、付勢押圧部材として周知のゴム、板バネをも利用可能なことは、技術常識から明らかである。
したがって、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段は、当初明細書に記載された事項の範囲内のものである。
(5)請求項2?6(訂正後の請求項2、3)の「前記コンタクトアームにビットガイドの給送路の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」(平成21年6月24日付け訂正請求により「前記平板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」に訂正された。)について
2個の「案内部」は、コンタクトアームに設けられ、コンタクトアームをビットガイドに沿って上下動させるための部材であり、当該案内機能を発揮するのが、当初明細書等に記載されたコンタクトアームの上下方向の中間部に存在する1個の「案内竿53」と1個の「案内穴54」との組み合わせに限らず、例えば2個の「案内竿53」等、他の態様でも可能であることは、技術常識から明らかである。
したがって、「前記平板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け」は、当初明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
(6)請求項3(訂正後の請求項3)の「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」について
当初明細書等の段落【0016】に「コンタクトアーム5の・・・上下動をスムーズにするため、2個のスプリング6を射出溝56の中心線に対して対称の位置に設け、コンタクトアーム5を下方に付勢押圧するようにしている。」と記載され、また、図8に押圧手段としての「スプリング6」を2つ設けることが示されている。
したがって、「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」は、当初明細書に記載された事項の範囲内のものである。
(7)請求項4の「ビットガイドの給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しない構成とした」について、及び、請求項5、6の「少なくとも射出溝の下端部前面にプレートを設け」について
訂正請求により、請求項4ないし6は削除されている。
(8)請求項7(訂正後の請求項4)の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触するようにした」について
当初明細書等の段落【0014】に、「また打込み途中において打込み反力により打込機本体1が上方に持ち上げられるが、この際コンタクトアーム5が下降して止具8の頭部に接触するようになり、打込機本体1が前方に移動することがなくなるので、ドライブビットが止具8から外れることがなくなって止具8が完全に打ち込まれるようになると共に取付部材9の表面が打撃されて打撃痕を残すこともなくなる。」と記載され、当該事項は当初明細書等に示されている。
(9)請求項8の「射出部」について、及び、「コンタクトアームの前面にプレートを設け、・・・止具の先頭の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにした」について
訂正請求により、請求項8は削除されている。
上記(1)?(9)のとおりであるから、本件発明1?4についての特許は、改正前特許法第17条第2項に規定する要件を満たしている。

3 無効理由2(改正前特許法第36条第5項第1号違反)についての検討
(1)請求項1?6(訂正後の請求項1?3)の「ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する給送路」(訂正請求により「上記止具集合体が通過する給送路を有し、・・・、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした」に訂正された。)について
請求人は、段落【0011】には、「ビットガイド12には、図1に示す如く、マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ、該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。」と記載され、「給送路121」は「ドライブビット」を案内することができないから、請求項1?6(訂正後の請求項1?3)の「ドライブビット・・・を案内する給送路」は発明の詳細な説明に記載されていないと主張する。
しかしながら、登録明細書等の段落【0011】には、「なお、前記給送路121と射出溝122は1個の溝としてもよく、以下説明の便宜上給送路121として説明する。」とも記載され、請求項中の「給送路」は、止具を案内する「給送路121」とドライブビットを案内する「射出溝122」とを併せたものと解される。したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(2)請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「平板状のコンタクトアーム」について
上記の「2(3)」と同様の理由から、請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「平板状のコンタクトアーム」は、登録明細書等の発明の詳細な説明に記載された事項である。
(3)請求項3の「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」について
上記の「2(6)」と同様の理由から、請求項3の「前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成した」は、登録明細書等の発明の詳細な説明に記載された事項である。
(4)請求項8(訂正後削除)の「コンタクトアームの先端を被打込材に押し付け打込機本体側に押し上げることにより射出部内に供給された止具を打出す打込機」について
訂正請求により、請求項8は削除されている。
以上のとおりであるから、本件発明1?4についての特許は、改正前特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、とすることはできない。

4 無効理由3(改正前特許法第36条第5項第2号違反)についての検討
(1)請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「ドライブビット等の打撃駆動手段」について
訂正請求により「ドライブビット」に訂正され、明確となった。
(2)請求項1?6(訂正後の請求項1?3)の「前面が平板状のビットガイド」について
上記「2(2)」に示したように、請求項1?6(訂正後の請求項1?3)の「前面が平板状のビットガイド」が、その前面が平らな板状のビッドガイドを意味するとするのが相当であるから、当該記載に不備はない。
(3)請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「平板状のコンタクトアーム」について
上記「2(3)」に示したように、請求項1?7(訂正後の請求項1?4)の「平板状のコンタクトアーム」との記載に不備はない。
(4)請求項7(訂正後の請求項4)の「反マガジン側の前面」について
例えば、図8でコンタクトアームの左側にマガジンが存在するから、同図でマガジンの存在する左面の反対側のコンタクトアーム右面を指すことは明らかである。
(5)請求項7(訂正後の請求項4)の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触」について
コンタクトアームの作用を特定することで、コンタクトアームを限定するものであるから、当該作用的記載をもって、発明が不明確であるとすることはできない。
(6)請求項8の「射出部」、及び、「コンタクトアームの前面にプレートを設け、・・・止具の先頭の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにした」について
訂正請求により、請求項8は削除されている。
以上のとおりであるから、本件発明1?4についての特許は、改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、とすることはできない。


第6.無効理由4を含む、特許法第29条第2項についての検討

1 本件発明
上記第2のとおり訂正は認められ、また、第5で言及したとおり、訂正後の特許請求の範囲の記載に不備はないから、本件発明1?4は、第3に記載されたとおりのものである。

2 刊行物記載の発明
(1)仏国発明特許第1510942号明細書
本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である仏国発明特許第1510942号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下のとおり記載されている。(なお、翻訳文については、平成19年4月16日付けの第4回弁駁書に添付された甲第6号証翻訳文(以下、「刊行物1の翻訳文」という。)を参照。ここで、被請求人は、平成21年6月24日付けの意見書の第6頁第14行?第28行において、刊行物1の翻訳文第4頁第12行の「前記接触部の他方の部分は・・・」は、「前記ブロックの他方の部分は・・・」と訳すべきであり、また、訳文全体を通して、「接触部」は「接触子」と訳すべきであると主張している。原文を参照しても、そのとおりであることから、以上の点については、被請求人の主張どおりに上記翻訳文を変更している。)
ア 第2頁左欄第43行?右欄第41行(刊行物1の翻訳文第2頁第26行?第3頁第4行を参照。)
「図12に詳しく示した止め金打機作動バルブ36は、図3に示した管36aおよび側管36bにより流体を供給される。
止め金打機作動バルブの本体36cは、ロッド32と同軸である箱状支持体29の突出部29aの中ぐり29bに収容されている。本体36cは、この本体が一端に有するヘッド36dと、止め輪36eとにより所定の位置に保持される。
本体36cは、側管36bに接続される供給開口部36fと、ダクト29cにより箱状支持体29に接続される起点開口部36gと、ヘッド36dに設けられる排出開口部36hとの3種類の一連の開口部を有する。本体の気密性は、前記一連の開口部を同様に遮断するリング29dにより確保される。
起点開口部36gは、本体36cの狭い方の中ぐりに設けられ、前記開口部の両側に支持面36i、36jを有する(図12)。
本体36cでは、制御ロッド32に固定されたすべり弁37が摺動する。
すべり弁37の下部支持面37aは、バルブの最も広幅の部分36kで摺動し、供給開口部36fがこの部分に通じている。前記広幅部分の気密性は、ライニング37bにより確保される。
次いで、支持面36iに対して摺動時の気密性を確保するライニング37dを備えた狭い部分37cがきており、その後、貫り抜き部分37eと、ライニング37gを備えて上部36jと協働する広幅の支持面37fが続く。
この全体の上に載せられるチップ36lは、ヘッド36d内で摺動可能であり、リング36mで漏れ止めがなされる。このチップは、空気の垂直の漏れを防ぎ、バルブ内に埃が侵入しないようにしている。
バルブは、次のように動作する。
すべり弁37が図1に示された低い位置を占有すると、開口部36fから送られる圧縮流体が開口部36gから箱状支持体29に排出される。
図12に示したように、すべり弁37を上昇させると、支持面36iと協働するパッキン37dが供給開口部36fと起点開口部36gとの連通を遮断する一方で、ライニング37gを備えた支持面37fが支持面36jを超えて起点開口部36gと排出開口部36hとを接続する。吸入部と排出部とが直接結合されることはない。
すべり弁37は、パッキン37d、37bに面して存在する直径差により自動的に戻るので、開口部36fにより供給されて常に加圧されているエンクロージャが設けられる。」
イ 第3頁左欄第60行?第4頁左欄37行(刊行物1の翻訳文第3頁下から9行?第4頁下から9行を参照。)
「打込みは、箱状支持体29の底50の広幅の中央開口部を通る。打込みは、この開口部で回転可能であり、また、図2が示すように、プレート50の下に固定されたブロック73を貫通する。
ブロック73に固定されたスペーサ74の下には、コーナーに設けられた穴をねじ76が通って箱状支持体29に固定される角型の固定リング75が配置されている。
リング75が支持するリング77では、ねじ79によりバルブ制御ロッド32に固定される止め具78の先端が支持される。
この機構により、ブロック73およびその従属部材が、このブロックの軸を中心としてどんな角位置を占有しようとも、ロッド32を持ち上げることによってバルブ36を制御することができる。
こうした制御は、接触子80を含む探針装置により行われ、接触子は、図7、8が同様に示すように、ガイド81内でブロック73を垂直に貫通してリング77に到達し、このリングに固定される。接触子は、図2に示されているように、通常はブロック73の下に突出する。止め金打機を降下すると、接触子は、針を留めるべき物体Oと接触し、その場合、接触子はリング77とロッド32を持ち上げてバルブ36を制御し、バルブにより止め金打ち操作が引き起こされる。
ブロック73は、互いに溶接された2個の部分から構成される。ブロックの一方73a(図8)は、打込み71が内部で摺動する溝82を有し、綴じられる針Aが、この溝に配置される。他方の部分73bにはガイド81が設けられており、接触子80がこのガイドの内部を通過している。
前記ブロックの他方の部分は、また、横軸85に連結されるドア84が取り付けられる切込み83を含み、ローレットねじ87を用いてブロック73に固定される板ばね86が、通常、このドアを閉鎖保持する。ドアは、機械の故障を修理したい場合、開けることができる。このためには、ローレットねじ87をゆるめて、板ばね86を片側に軸回転させてからドアを開けて故障した針を除去する。ヒンジ85aは、下に十分に下降して、他の針を保持し、ドアを開けたときにこれらの針が出ないようにする。
ブロック73の後部73aには、また、止め金打機の溝82にセットされる針を導入する垂直開口部88が設けられている(図2、7)。
垂直開口部の後方でブロック73に固定された、矩形の断面を持つ鞘管89は、着脱式のフランジ89aを備え(図7)、この鞘管にマガジン90を導入し、マガジンは、図7が示すように、クランク曲線の板ばね91により所定の位置に保持され、板ばねは、ねじ92によりマガジンに固定され、V字部93により留め金94に係合し、マガジンを支持する鞘管89にねじ95によって前記留め金を固定する。
鞘管は、その上部において、ねじ97で固定された止め具96をさらに支持し、この止め具は、鞘管89への設置時にマガジンの針を止める歯止め98を持ち上げて、歯止めにより留め置かれる針が溝82まで進めるようにしている。
歯止め98は、ねじ101によりマガジン本体に固定された留め金100内で軸99に取り付けられる(図10)。歯止めは、ばね102と組み合わされ(図2)、ばねは、マガジン本体に溶接された中央レール103の側に歯止めを押す。中央レールには、針Aが設置されている。中央レールは、マガジンを機械の所定の位置にセットすると開口部88内に侵入するように、マガジン前方に延長されている。中央レールは、また、一定の長さに沿って後方に延びている。この長さは、マガジンに付与したい容量に応じて変わる。中央レールは、保護カバー105で被覆されている(図2、7、11)。
針を押すU金具106が、この中央レールで移動する。図では、針の備蓄がなくなったときの占有位置でこの金具を示している。
U金具は、プーリ108を通る2個のばね107(図9)によってマガジンの出口に押しやられる。プーリは、軸109によりマガジン本体の側壁に取り付けられている。
ばね107は、U金具の分枝110と、マガジン先端に設けられた横ピン111とに結合される。
マガジンの充填状態を把握できるように、マガジンのハウジング105に穴105a等を設けることができる。チェックしやすくするために、必要に応じてカラーチップをU金具106の穴に設けてもよい。」
ウ 第4頁右欄第29行?第5頁左欄第17行(刊行物1の翻訳文第5頁第17行?第37行を参照。)
「上記の止め金打機の動作は、非常に簡単である。
次々と前後に組み立てられた針Aからなるブロックをマガジン内でレール103に公知の仕方で導入し、第一の針が歯止め98の後ろに係合してブロックが外れなくなるまで、針を押すU金具106に抗してブロックを押して、マガジンを充填する。
次に、鞘管89にマガジンをはめ、マガジンが所定の位置にくると、止め具96の先端が歯止め98を持ち上げて針を進ませることができる。第一の針は、ばね86が当然のことながら閉鎖保持するドア84に接して、溝82に配置される。
場合によってはレール3で止め金打機を移動し、針が留められる場所の上に止め金打機を持っていく。たとえばマガジンのハウジング105をレバーとして用い、ねじ76をゆるめた後で、止め金打機のブロック73を回転させて、針を留めたい位置に対応する位置に止め金打機を配向できる。その後、ねじ76を締めて、選択された位置にこのブロックを固定する。
針を留めつけるには、シリンダブロック7の管22から制御流体を導入してスリーブ29を下降すればよい(図1)。
接触子80が、針Aを留めつけるべき物体Oと接触すると、接触子は物体Oにより停止されるので、リング77を介して、排出時にダクト29cを接続するバルブ36の作用が引き起こされる。
すると、ピストン44-47が下方に移動し、溝82にあった針が物体に留めつけられる。
管22からの制御流体の吸入を遮断して針を持ち上げると、接触子80が解放され、バルブがダクト29cを再び加圧するので、ピストン44-47とその付属部材とが再上昇する。ブレード71が開口部88の上に上昇すると、新しい針Aが溝82にセットされ、装置は再び動作する準備ができる。」
エ ここで、図1から、箱状支持体29は打込み71を内蔵していることは明らかである。
図2が図1の下方に設けられている部分の図であるから、ブロック73やマガジン90が導入される鞘管89が箱状支持体29の下方に位置するものであることは明らかである。当然、マガジン90も、箱状支持体29の下方に設けられることになる。
図2を参照すると、針Aは多数設けられているのが見て取れ、多数の針A集合体となっていることが理解できる。
図7、及び図8の断面図を参照すると、ブロック73は、前面が平板状の一方の部分73aと、他方の部分73bとが溶接されて構成されていることが見て取れる。
垂直開口部88は針A集合体が通過する部分であるので、図2及び図8を参照することにより、垂直開口部88の前端部は、溝82につながっており、打込み71、及び先頭の針Aを案内していることは明らかである。
針A集合体において、先頭の針Aは、その前面が閉鎖保持するドア84で受けられていることは明らかである。
図7を参照すると、接触子80の中間部がブロックの一方の部分73aの前面に設けられていることが見て取れる。そして、接触子80の中間部の前面にブロックの他方の部分73bが設けられ、これをマガジン90側からみると、ブロックの一方の部分73a、接触子80の中間部、ブロックの他方の部分73bの順に配列されているものであることが見て取れる。接触子80はブロック73に対して上下動するものであるので、ブロックの一方の部分73aに対して上下動可能に支持されるものであることは明らかである。
接触子80の上端に設けられたリング77は止め具78を支持し、止め具78はすべり弁37に連結された制御ロッド32に結合され、すべり弁37自体は供給開口部36fから供給される圧縮流体により通常下方に押圧されているので、接触子80自体も下方に押圧されているものであること、すなわち、接触子80を下方に押圧する押圧手段を有するものであることは明らかである。
図7、図8を参照すると、接触子80の中間部はブロックの一方の部分73aと他方の部分73bとの間に設けられたガイド81を通っており、ブロックの一方の部分73aとドア84との間に接触子80の中間部が位置していないことは明らかである。言い換えると、針A集合体が通過する垂直開口部88とドア84との間に接触子80が位置しないように接触子80の中間部をブロックの一方の部分73aに支持するものである。
図7、図8を参照すると、打込み71を案内する垂直開口部88の両側に沿って上方に延びた2個の接触子80の部分が設けられているのが見て取れる。そして、接触子80は上下に動くのであるから、2個の接触子80の部分は、ブロックの一方の部分73aの平板状の前面と他方のブロック73bとの間で、ブロックの一方の部分73aに沿って上下動するものであることは明らかである。
オ 引用例1に記載された発明
これらの記載事項及び図1?14の記載を、本件発明1?4に照らして整理すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。
[刊行物1記載の発明1]
「打込み71を内蔵した箱状支持体29の下方に位置し、多数の針Aよりなる針A集合体及び該針A集合体を前進させるためばね107によって押圧されるU金具106を収納支持するマガジン90と、マガジン90前端に設けられ、上記針A集合体が通過する垂直開口部88を有し、前面が平板状のブロックの一方の部分73aを備え、上記垂直開口部88の一部は打込み71及び打込み71により打撃される先頭の針Aを案内するようにした止め金打機であって、
上端がバルブ制御ロッド32に固定された止め具78の先端を支持するリング77に到達し、下端がブロック73下端より下方に突出し、中間部がブロックの一方の部分73aの前面に設けられると共にブロックの一方の部分73aに上下動可能に支持された接触子80と、接触子80を下方に押圧する押圧手段とを備え、接触子80が上昇することにより打込み71の駆動を開始させるようにした止め金打機であって、
前記接触子80の前面にブロックの他方の部分73bを設けることにより、前記マガジン90側から前記ブロックの一方の部分73a、接触子80の中間部、前記ブロックの他方の部分73bの順に配列し、先頭の針Aの前面を閉鎖保持されているドア84で受けるようにし、前記針A集合体が通過する垂直開口部88とドア84との間に接触子80が位置しないように前記接触子80の中間部をブロックの一方の部分73aに支持し、ブロックの一方の部分73aとドア84との間の溝82にある針Aを打出すようにした止め金打機。」
[刊行物1記載の発明2]
「刊行物1記載の発明1において、前記接触子80の中間部にブロック73の前記打込み71を案内する垂直開口部88の部分の両側に沿って上方に延びた2個の接触子80の部分を設け、該接触子80の部分を、ブロックの一方の部分73aの平板状の前面と他方の部分73bとの間で、ブロックの一方の部分73aに沿って上下動させる構成とした止め金打機。」
[刊行物1記載の発明3]
「打込み71を内蔵した箱状支持体29の下方に位置し、多数の針Aよりなる針A集合体及び該針A集合体を前進させるためばね107によって押圧されるU金具106を収納支持するマガジン90と、マガジン90前端に設けられ、上記針A集合体が通過する垂直開口部88を有し、前面が平板状のブロックの一方の部分73aを備え、上記垂直開口部88の一部は打込み71及び打込み71により打撃される先頭の針Aを案内するようにした止め金打機であって、
上端がバルブ制御ロッド32に固定された止め具78の先端を支持するリング77に到達した接触子80と、接触子80を下方に押圧する押圧手段とを備えた止め金打機であって、
前記接触子80の前面にブロックの他方の部分73bを設けることにより、前記マガジン90側から前記ブロックの一方の部分73a、接触子80の中間部、前記ブロックの他方の部分73bの順に配列して、接触子80の中間部をブロックの一方の部分73aの平板状の前面と他方の部分73bとの間で上下移動するようにし、先頭の針Aの前面を閉鎖保持されているドア84で受けるようにし、前記針A集合体が通過する垂直開口部88とドア84との間に接触子80が位置しないように前記接触子80の中間部をブロックの一方の部分73aに支持し、ブロックの一方の部分73aとドア84との間の溝82にある針Aを打出すようにし、接触子80が上昇することにより打込み71の駆動を開始させるようにした止め金打機。」

(2)実公昭56-6303号公報
本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である実公昭56-6303号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に以下のとおり記載されている。
ア 第2欄第14行?第16行
「本考案は圧縮空気を動力源としロツド状ドライバによって釘打出し用ノーズから釘を打出す空気式釘打機に関する。」
イ 第6欄第27行?30行
「本考案の目的は被打込材の狭い凹みの内部でもセイフテイアームが安全装置として十分に機能するとともに釘打込点を正確に定めることのできる空気式釘打機を提供することである。」
ウ 第7欄第23行?第9欄第16行
「以下、本考案の好適な実施例を第4図ないし第6図に基づいて詳細に説明する。第1図ないし第3図に示した従来例と変りない部分については同一の番号又は符号を使用する。この実施例において、トリガバルブステム4、手動トリガ3、伝達レバー12及びコンタクトアーム8Aの作業端11の掛合関係は第3図に示す従来例と変ることはないので説明を省略する。
ハウジング1から下方に釘打出し用固定ノーズ2Bが突設されている。この釘打出し用固定ノーズ2B内にはドライバガイド孔20が長手方向に形成されている。このドライバガイド孔20内に釘21が1本づつ送り込まれてくる。この釘21を、ドライバガイド孔20内を往復移動するロツド状ドライバが打撃して被打込材に打込む。ドライバガイド孔20の下端にこのドライバガイド孔20よりも大径のスライド孔22がこのドライバガイド孔20と同軸状に形成されている。ドライバガイド孔20を形成する第一周壁2Cとスライドガイド孔22を形成する第二周壁22bとの間には肩部2Dが形成される。スライドガイド孔22には釘打出し用可動ノーズ23の上部24が嵌挿されている。これによつて、釘打出し用可動ノーズ23は釘打出し用固定ノーズ2Bの長手方向に往復移動することができる。しかも、釘打出し用可動ノーズ23の外壁面23aはスライドガイド孔22の内壁面22aに完全に摺動接触しているので、釘打出し用可動ノーズ23の釘打出し用固定ノーズ2Bに対する横振れは生じない。
上記肩部2Dは釘打出し用可動ノーズ23の上昇限度を規制する上限位置ストツパとして機能する。
釘打出し用可動ノーズ23の内部にもドライバガイド孔20aが形成されている。ドライバガイド孔20の径とドライバガイド孔20aの径とは同一であり、しかもドライバガイド孔20及び20aは同軸に形成されている。
ドライバガイド孔20aの上端部位は載頭用円錐状の釘拾い孔部20bがドライバガイド孔20aと同軸状に形成されている。この釘拾い孔部20bは釘21がドライバガイド孔20からドライバガイド孔20aに移動する際に釘21をスムースに案内する。
釘打出し用可動ノーズ23の外壁面23aにはこの釘打出し用可動ノーズ23から十分離れた位置に円環状の取付溝23bが形成され、この取付溝23bにセイフテイアーム8の下端に位置する結合部25の掛合爪26,27及び28が組付けられる(第5図参照)。掛合爪26と掛合爪27とは釘打出し用可動ノーズ23の一直径の両端において対向するように取付溝23bに組付けられ、掛合爪28は掛合爪26及び27の中間位置において取付溝23bに組付けられている。従つて、釘打込作業中には釘打出し用固定ノーズ2Bに対してその長手方向にずか往復動しない釘打出し用可動ノーズ23からセイフテイアーム8Aの結合部25が離脱することはない。
セイフテイアーム8Aは、圧縮コイルスプリング9によつて常時下方に付勢されるとともに図示しない下限位置ストツパによつて下降限度を一定に規制される。第4図に示すようにセイフテイアーム8Aがその下限位置に静止している時にも釘打出し用ノーズ23の上部24はスライドガイド孔22内に嵌挿されている。
セイフテイアーム8Aの下限位置ストツパを取外した後、釘打出し用可動ノーズ23を釘打出し用固定ノーズ2Bから抜取りセイフテイアーム8Aの結合部25から取外すことは容易である。
このように上記の実施例においては釘打出し用可動ノーズ23がセイフテイアーム8Aの先端操作部として作用し、被打込材に押付けられることによつて伝達レバー12の回動中心としての一端部13を上昇させた位置で下降不能に支持する。この釘打出し用ノーズ23は釘打出し用固定ノーズ2Bに対して完全に同軸上を往復移動するため、釘打込点にドライバガイド孔20及び20aの中心軸を正確に設定することができる。更に、釘打出し用可動ノーズ23の外径は釘打出し用固定ノーズ2Bの外径よりも小さいので、被打込材の狭い凹み等の中に釘打込点を定める場合にもセイフテイアーム8Aが本来の安全装置として機能することを障げない。」
エ 上記摘記事項ウにおいて、「従来例と変りない部分については同一の番号又は符号を使用する。」と記載されているところ、従来例の記載である第3欄最下行?第4欄第5行には、次の記載がある。
「ハウジング1から下方に突出したトリガバルブステム4と、セイフテイアーム8Aの基端作業部8bの上端に形成された作業端11との間において、手動トリガ3がハウジング1に枢支されている。手動トリガ3の下端には指当て板15が設けられている。」
オ また、同じく、従来例の記載である第4欄第20行?第35行には、次の記載がある。
「トリガバルブステム4がその上死点まで移動し得るのは、セイフテイアーム8Aの接触操作端10が被打込材に押付けられてノーズ先端部5の先端面5aと並ぶ位置まで移動され、この移動量だけセイフテイアーム8Aの作業端11が移動して伝達レバー12の一端部13を押上げその位置でこの一端部13を下降不能に支持し、かつ、手動トリガ3の上端部3aがハウジング1に当接するまで反時計方向に回動された(引き操作)時のみである。
換言すれば、セイフテイアーム8Aの接触操作端10が完全に被打込材に押付けられる条件、又は手動トリガ3が完全に引き操作される条件のうち一方のみが満されてもトリガバルブステム4は上死点に達することができず、ドライバによる釘の打出しは生起しない。」
キ ここで、第4図を参照すると、セイフテイアーム8Aの上端である作業端11が、手動トリガ3の近傍まで延びていることは明らかである。さらに、セイフテイアーム8Aには、その下端に位置する結合部25により、釘打出し用可動ノーズ23が組み付けられ、当該釘打出し用可動ノーズ23の部分は、釘打出し用固定ノーズ2Bの下端よりも下方に突出していることが見て取れる。
ク 刊行物2記載の発明
これらの記載事項及び第4図、第5図の記載によると、刊行物2には以下の発明が記載されていると認められる。
[刊行物2記載の発明]
「ハウジング1の下方に位置した釘打出し用ノーズ2Bを備えた空気式釘打機であって、
ハウジング1に設けられた手動トリガ3と、上端である作業端11が手動トリガ3近傍まで延びるセイフテイアーム8Aと、当該セイフテイアーム8Aに組み付けられ、下端が釘打出し用固定ノーズ2Bより下方に突出する釘打出し用可動ノーズ23と、セイフテイアーム8Aを下方に押圧する圧縮コイルスプリング9とを備え、セイフテイアーム8Aが上昇し、手動トリガ3が操作された時のみドライバによる釘の打出しを生起させるようにした空気式釘打機であって、
前記釘打出し用固定ノーズ2Bのドライバガイド孔20の下端よりも突出した釘打出し用可動ノーズ23の部分にドライバガイド孔20と同一の径で同軸のドライバガイド孔20aを前記釘打出し用可動ノーズ23の下端まで貫通して設け、該ドライバガイド孔20aから釘を打出すようにした安全装置として十分に機能するとともに釘打込点を正確に定めることのできる空気式釘打機。」

3 対比・判断

(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と刊行物1記載の発明1とを対比すると、後者の「打込み71」は前者の「ドライブビット」に、後者の「箱状支持体29」は前者の「打込機本体」に、後者の「針A」は前者の「止具」に、後者の「ばね107」は前者の「スプリング」に、後者の「U金具106」は前者の「給送部材」に、後者の「マガジン90」は前者の「マガジン」に、後者の「垂直開口部88」は前者の「給送路」に、後者の「ブロックの一方の部分73a」は前者の「ビットガイド」に、後者の「接触子80」は前者の「コンタクトアーム」に、後者の「止め金打機」は前者の「打込機」に、それぞれ相当することは明らかである。
後者の「接触子80が上昇することにより打込み71の駆動を開始させる」ことは、「コンタクトアームが上昇することを1つの要因としてドライブビットの駆動を開始させる」限りにおいて、前者の「コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させる」ことと共通する。
後者の「ブロックの他方の部分73b」と「ドア84」とを合わせた「部材」は、マガジン90側からブロックの一方の部分73a、接触子80の中間部の順で、その次に配列し、先頭の針Aを当該部材で受けるようにし、針A集合体が通過する垂直開口部88と当該部材との間に接触子80が位置しないように接触子80の中間部をブロックの一方の部分73aに支持するものと言えるものである。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、
下端がビットガイド下端より下方に突出し、中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持されたコンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇することを1つの要因としてドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、
前記コンタクトアームの前面に部材を設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記部材の順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなく部材で受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路と部材との間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持し、止具を打出すようにした打込機。」
[相違点1]
止具集合体に関して、前者は、側面が接着剤を介して連結されたものであると特定しているのに対して、後者は、止具集合体に相当する針A集合体が連結されたものであるのかどうか不明な点。
[相違点2]
ドライブビットの駆動を開始させる手段に関して、前者は、打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延びるコンタクトアームとを有し、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみドライブビットの駆動を開始させているのに対して、後者は、コンタクトアームに相当する接触子80が上昇することにより打込み71の駆動を開始させるものであって、トリガを特に有していない点。
[相違点3]
コンタクトアームの形状に関して、前者は、「平板状」としているのに対して、後者は、コンタクトアームに相当する接触子80の形状が不明な点。
[相違点4]
部材に関して、前者は、一体部材としてのプレートを用いているのに対して、後者は、ブロックの他方の部分73bとドア84とを合わせたものとしている点。
[相違点5]
止具の打出しに関して、前者は、ビットガイドの給送路の下端より突出したコンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにしているのに対して、後者は、コンタクトアームに相当する接触子80にそのような射出穴を有していない点。
[相違点6]
コンタクトアーム先端部の形状に関して、前者は、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状としているのに対して、後者は、コンタクトアームに相当する接触子80の先端部はそのような形状ではない点。
イ 判断
相違点1?6について検討する。
(ア)相違点1について
側面が接着剤を介して連結された多数の止具からなる止具集合体自体は、ステープルの針に見られるように従来周知の事項であることからすれば、刊行物1記載の発明1においても、止具集合体である針A集合体の各針Aの側面を接着剤により連結することは、当業者が容易になし得たものである。
(イ)相違点2について
ドライブビットの駆動を開始させるために、打込機本体にトリガを設けるとともに、コンタクトアームの上端をトリガ近傍まで延びるものとし、コンタクトアームが上昇し、かつトリガが操作された時のみドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機は、刊行物2記載の発明のほか、例えば、甲第1号証である西独国特許出願公開第2700949号明細書(第15頁第16行?第22行(甲第1号証の翻訳文第4頁第40行?第42行)、及び図面の図1?4を参照。)、甲第2号証である西独国特許出願公開第2443544号明細書(第7頁第16行?第27行(甲第2号証の翻訳文第3頁第8行?第14行)、及び図面の図2参照。)に記載されているように、従来周知の事項である。
してみると、刊行物1記載の発明1において、打込機本体に相当する箱状支持体29にトリガを設け、トリガが操作された時に針の打ち込みを開始させること、そして、そのために、接触子80の上端を該トリガ近傍まで延びるものとし、接触子80が上昇し、かつトリガが操作された時のみ針Aの打ち込みを開始させるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(ウ)相違点3について
コンタクトアームを平板状のものとすることは、例えば、上記西独国特許出願公開第2443544号明細書(接触素子24を参照。)、甲第4号証である米国特許第4657166号明細書(移動自在裏当てプレート102を参照。図面の図25?図31を参照すると、移動自在裏当てプレート102がほぼ平板状のものとして記載されている。)、甲第5号証である米国特許第4621758号明細書(内部可動駆動刃案内及び針位置決め部材60を参照。図面の図36?図41を参照すると、部材60がほぼ平板状のものとして記載されている。)にそれぞれ記載されているように従来周知の事項であり、また、コンタクトアームを平板状のものとしても、そのことによる予測不能な作用ないし効果も格別見当たらないことからすれば、刊行物1記載の発明1において、コンタクトアームに相当する接触子80を平板状とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(エ)相違点4について
刊行物1記載の発明1において、ドア84を設けているのは、摘記事項2(1)のイに「ドアは、機械の故障を修理したい場合、開けることができる。」と記載されているように、故障の際の修理を目的とするものである。してみると、刊行物1記載の発明1において、故障の際の修理を考慮しないようにすることは当業者が容易に想到し得たことであり、そうであれば、ドア84を開閉自在でなく、ブロックの他方の部分73bと一体のものとし、プレートとすることは、当然の設計変更に過ぎない。
(オ)相違点5について
刊行物2記載の発明において、「釘打出し用固定ノーズ2B」、「ドライバガイド孔20」、「釘打出し用可動ノーズ23」、「ドライバガイド孔20a」、「釘」、「空気式釘打機」は、それぞれ、本件発明1の「ビットガイド」、「給送路」、「コンタクトアーム」、「射出穴」、「止具」、「打込機」に相当する。また、「同一の径で同軸」であることは、「連続する」ものと言えることは明らかである。してみると、刊行物2記載の発明は、「ビットガイドの給送路の下端より突出したコンタクトアームの部分に給送路に連続する射出穴をコンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにした打込機。」と言い換えることができる。そして、刊行物2記載の発明においても、釘打込点を正確に定めることのできるもの、すなわち、本件発明1にしたがって言い換えると、コンタクトアームの穴に正確に止具がガイドされるものであると言えるものである。
そして、刊行物1記載の発明1も、刊行物2記載の発明も、ともに止具を打ち込む打込機に関する技術であるから、刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明1に適用し、ブロック73の垂直開口部88の下端よりも突出した接触子80の部分に垂直開口部88に連続した射出穴を接触部の下端まで貫通して設け、該射出穴から止具に相当する針Aを打出すようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(カ)相違点6について
コンタクトアームの先端部の幅を下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とすることは、甲第13号証である米国特許第3713573号明細書(図面のFig.1における「foot portion32」参照。)や甲第15号証である米国特許第4573624号明細書(図面のFig.1における「channel21」の最下端付近参照。)に見られるように従来周知の事項であることから、刊行物1記載の発明1も、そのコンタクトアームに相当する接触子80の先端部を下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とすることは、当業者が容易になし得たものである。
(キ)作用・効果について
作用・効果についても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の事項から予測可能なものであって、特別のものではない。
(ク)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明、及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と刊行物1記載の発明2とを対比すると、後者の「接触子80の部分」は前者の「案内部」に相当する。また、後者において、ブロック73はブロック73の一方の部分73aと他方の部分73bとから構成されるものであるので、後者の「ブロック73の前記打込み71を案内する垂直開口部88の部分」、及び「ブロックの一方の部分73aに沿って上下動させる」は、前者の「ビットガイドのドライブビットを案内する給送路の部分」、及び「ビットガイドに沿って上下動させる」に相当する。
したがって、両者は、下記の一致点2で一致し、上記相違点1?6で相違する。
[一致点2]
「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、
下端がビットガイド下端より下方に突出し、中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持されたコンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇することを1つの要因としてドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、
前記コンタクトアームの前面に部材を設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記部材の順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなく部材で受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路と部材との間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持し、止具を打出すようにし、前記コンタクトアームの中間部にビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け、該案内部を、ビットガイドの平板状の前面と部材との間で、ビットガイドに沿って上下動させる構成とした打込機。」
イ 判断
相違点1?6についての判断は、前記(1)イで、説示したとおりである。
したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明、及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と引用例1記載の発明2とを対比すると、両者は、上記の一致点2で一致し、上記相違点1?6及び下記の相違点7で相違する。
[相違点7]
本件発明3は、押圧手段を、2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成としたものであるのに対して、引用例1記載の発明2は、そのような押圧手段を用いていない点。
イ 判断
相違点1?7について検討する。
(ア)相違点1?6について
相違点1?6についての判断は、前記(1)イで説示したとおりである。
(イ)相違点7について
押圧手段の一種としてのスプリングは、よく知られているから、押圧手段としてスプリングを採用し、本件発明の上記相違点7に係る事項とすることは、当業者が容易になし得るものである。
(ウ)まとめ
以上のとおり、本件発明3は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明、及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と刊行物1記載の発明3とを対比すると、両者は、下記の一致点3で一致し、上記相違点1?6の他、下記の相違点8?10で相違する。
[一致点3]
「ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、
コンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって、
前記コンタクトアームの前面に部材を設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記部材の順に配列し、コンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの平板状の前面と前記部材との間で上下移動するようにし、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなく部材で受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路と部材との間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、止具を打出すようにした打込機。」
[相違点8]
コンタクトアームに関して、前者は、反マガジン側の前面に射出路を設けているのに対して、後者は、そのような射出路を有しない点。
[相違点9]
コンタクトアームを下方に押圧する手段に関して、前者は、「スプリング」と特定しているのに対して、後者は、そのような押圧手段を用いていない点。
[相違点10]
前者は、打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触してドライブビットが止具から外れないようにしたのに対して、後者は、そのように特定されていない点。
イ 判断
相違点1?6、8?10について検討する。
(ア)相違点1?6について
相違点1?6についての判断は、前記(1)イで、説示したとおりである。
(イ)相違点8について
コンタクトアームの反マガジン側の前面に射出路を設けることの意味は、平成19年6月14日付けの審判事件答弁書第9頁第5行?第9行によると、「射出路」とは「射出穴」のことであると主張している。してみると、相違点8は実質的に相違点5と同じである。そして、相違点5については、前記(1)イ(オ)相違点5について」で、説示したとおりである。
(ウ)相違点9について
押圧手段の一種としてのスプリングは、よく知られているから、押圧手段としてスプリングを採用することは、当業者が容易になし得るものである。
(エ)相違点10について
刊行物2記載の発明は、言い換えると、「ビットガイドの給送路の下端よりも突出したコンタクトアームの部分に給送路に連続する射出穴をコンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにした打込機。」である。そして、刊行物2記載の発明においても、コンタクトアームに相当するセイフテイアーム8Aは圧縮コイルスプリングにより下方に押圧されているものである。
してみると、刊行物2記載の発明においても、打込み反力によってハウジング1が上昇しても、セイフテイアーム8Aに結合された釘打出し用可動ノーズ23は、下降するものである。
そして、刊行物2記載の発明では、釘打出し用固定ノーズ2Bのドライバガイド孔20と釘打出し用可動ノーズ23のドライバガイド孔20aとは同一の径で同軸であるので、釘打出し用可動ノーズ23のドライバガイド孔20aに止具が接触してドライバが止具から外れないものであることは明らかである。
以上のとおりであるので、刊行物1記載の発明3に刊行物2記載の発明を採用することにより、当然、相違点10に係る構成を備えるものである。
(エ)まとめ
以上のとおり、本件発明4は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本件発明1?4は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求人の主張する特許法第29条第2項に関する他の無効理由や平成18年5月15日付け無効理由通知における無効理由について検討するまでもなく、本件発明1?4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 平成21年6月24日付け意見書による被請求人の主張に対して
(1)被請求人は、刊行物1に記載された発明において、すべり弁37は、接触子80の位置に応じてダクト29cを加圧状態にするか排気状態にするかを切り換えるバルブであり、接触子80に対する押圧手段ではないと主張する(上記意見書の第6頁最下行?第7頁第19行)。
しかしながら、刊行物1の第2頁右欄第37行?第41行(刊行物1の翻訳文第3頁第3行?第4行)に「すべり弁37は、パッキン37d、37bに面して存在する直径差により自動的に戻るので、開口部36fにより供給されて常に加圧されているエンクロージャが設けられる。」と記載されているように、すべり弁37は通常の状態においては、下方に押圧され、接触子80に対する押圧手段として機能していることは明らかである。
(2)被請求人は、平成21年5月21日付け無効理由通知書における第13頁第8行?第13行の認定は妥当ではない。刊行物1記載の発明は、「コンタクトアームの一部に給送路に連続する射出穴が設けられていること」の前提を欠き、単に接触子80とドア84及びブロック部分73aとの配置関係を認定判断しているだけであると主張する(上記意見書の第7頁第20行?第8頁第14行)。
しかしながら、刊行物1記載の発明において、ブロックの一方の部分73aとドア84との間に接触子80の中間部が位置していないことは明らかであり、また、コンタクトアームに射出穴を設けることについては相違点5として容易性を判断している。
(3)被請求人は、本件発明においては、コンタクトアームが上昇しただけでは安全性が確認されただけであり、ドライブビットの駆動が開始されないのに対し、刊行物1記載発明では、接触子80が上昇すると、それだけでドライブビットの駆動が開始されるから、明らかに接触子80はコンタクトアームに相当する部材ではなく、むしろ本件発明のトリガと類似する機能を有すると主張する(上記意見書の第8頁第21行?第10頁第15行)。
しかしながら、本件発明においては、コンタクトアームの先端が取り付け部材に接触することにより、コンタクトアームが上昇し、ドライブビットの駆動を開始するためのトリガが有効にならないところ、刊行物1記載の発明においても、接触子80が取り付け部材に接触して上昇することにより、ドライブビットに相当する打込みの駆動が開始するもので、止具を打ち出すための契機の1つであるという同様の機能を奏するものであることは明らかである。本件発明では、さらに、トリガを操作することによりドライブビットの駆動を開始するものであるが、相違点2についての判断で言及しているとおり、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作されたときのみドライブビットの駆動を開始する打込み機は、刊行物2やその他の文献に記載されているように従来周知の技術である。
(4)被請求人は、刊行物1記載の発明において、1つのブロック73を形成する母材の一方73aをビットガイドと認定し、母材の他方73bをプレートと認定すること自体がそもそも妥当でないと主張し、また、刊行物1記載の発明において、ドア84を開閉自在でなく、ブロックの他方の部分73bと一体のものとすることは、当業者が容易に想定し得たものであると認定しているが、この認定は、故障の際に修理をしないようにするという前提に基づいて結論を述べており、何故、修理をしないようにすることが妥当であるのか理由が示されていないから、一体的に形成されているブロック73の一方の母材73aから他方の母材73bを切り離し、ドア84と一体にしてプレートを構成することが自明であると認定判断する根拠が全くないと主張する(上記意見書の第10頁第16行?第11頁第22行)。
しかしながら、ドア84が閉鎖状態の時、先頭の止具、すなわち針Aを受けるものであって、本件発明におけるプレートと同じ作用や機能を有するものである。そして、刊行物1記載の発明では、ドア84をブロックの他方の部分73bと別体としているが、それは故障の際の修理を考慮したことにより、敢えてドア84をブロックの他方の部分73bから分離したものであって、故障の際に修理のために壁部材を取り外し自在に構成することからみれば、故障の際の修理を考えないで壁部材を一体のものとして構成することは、自明の範囲であると考えられる。したがって、刊行物1記載の発明において、故障の際に修理のためにドア84を開閉自在に構成することに代えて、故障の際の修理を考えないようにすること、そして、そのためにドア84はブロックの他方の部分73bと一体のものとすることは、当業者が容易になし得たものであると考えざるをえない。
(5)被請求人は、刊行物1記載の発明の接触子80は、引き金ではないものの機能的には本件発明のトリガに相当する部材であるから、すでにトリガに相当する接触子80を備える刊行物1記載の発明に、刊行物2記載発明のトリガを適用するという認定自体が不合理であると主張する(上記意見書の第11頁23行?第12頁第23行)。
しかしながら、刊行物1記載の発明の接触子80は、機能的に本件発明のコンタクトアームに近いものであることは上記(3)で述べたとおりであり、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することは相違点2についての判断で言及したとおりである。
(6)被請求人は、本件発明は、コンタクトアームが平板状であって、ビットガイドとプレートにガイドされながら平板状のビットガイドの前面を上下動する構成が極めて重要になり、従って、コンタクトアームが平板状であることは、他の構成要件と密接に関連し、相互の作用により仕上げ用釘打機を実現する上で極めて重要な意義を有すると主張する(第12頁第24行?第13頁第27行)。
しかしながら、平板状のコンタクトアーム自体が従来周知なことは相違点3についての判断で言及したとおりであり、また、一般に、平面状の部材に対して摺動する部材の摺動面を平面状とすることは従来普通に行われていることからすれば、刊行物1記載の発明においても、平板状のビットガイドに相当するブロックの一方の部分73aの前面を上下動する接触子80の部分も平板状とすることは、当業者が容易になし得たものである。
(7)被請求人は、本件発明と刊行物1記載の発明との間には、多数の相違点があり、これらの相違点に係る構成が相互に密接に関連して、刊行物1及び刊行物2記載の発明では奏し得ない格別の効果を奏するのであるから、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないと主張する(上記意見書の第17頁第19行?第20頁第21行)。
しかしながら、被請求人の主張する作用ないし効果は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の発明、及び従来周知の事項からすべて予測し得るものであって、格別なものは見当たらない。
(8)被請求人は、平成21年5月21日付けの無効理由通知における認定は、平成19年(行ケ)第10380号審決取消事件の判示事項と整合しないと主張する(上記意見書の第20頁第22行?第24頁第4行)。
しかしながら、上記審決取消事件の判決文の第86頁下から3行?最下行には、「本件無効審判について,請求不成立の審決をするに際し,刊行物1(当審注:甲第4号証である米国特許第4657166号明細書)記載の発明に刊行物3(当審注:甲第6号証である仏国発明特許第1510942号明細書)記載の事項を適用することについて,判断を示す必要はないというべきである。」と記載され、同じく判決文の第111頁第12行?第21行には、「刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判請求書の要旨を変更するものであって,かつ,特許法131条の2第2項の規定による補正の許可及び被告(被請求人)に対する同法134条2項の答弁書の提出の機会の付与も,同法153条2項の規定による通知及び当事者に対する意見申立ての機会の付与もされていないものといえる。・・・刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,刊行物3に基づく公知事実によって構成されているという点に関し,本件無効審判の手続において,適法に主張されたものということはできない。」と記載され、同じく判決文の第112頁下から6行?下から2行には、「本件審決は,特許法が規定する適正な手続を経ることなく,無効理由4のうち刊行物3に基づく公知事実によって構成される理由について,・・・部分的かつ断片的な説示をして,当該無効理由が成立しない旨の判断を示した点において,適切さを欠くものであったというべきである。」と記載され、同じく判決文の第113頁第19行?第22行には、「審判体としては,本件第4訂正により特許請求の範囲に付加された構成との関係で,刊行物3に基づく公知事実を主張する必要が生じたものとして,特許法131条の2第2項1号の規定による補正の許可をすべきものといえる。」と記載されているように、刊行物3である仏国発明特許第1510942号明細書は適法に採用された証拠ではないことから、同証拠に記載された公知事実に基づく特許法第29条2項違反の無効理由について判断はしていないものである。
(9)被請求人は、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載の発明を適用することには阻害要因があると主張し、その阻害要因として、
刊行物1記載の発明の対象は、止め金機構全体がレールに沿って移動するような大型機械であり、据置き型の装置であるのに対して、刊行物2に記載された発明は本件発明と同様に、携帯型打込機であり、誤操作により人や動物を傷つけることがないように、安全装置としてコンタクトアームに相当するセーフティアーム8Aが用いられている。刊行物1記載の発明は据置き型の機械であり、止具は常に上部から下方に向かって打出されるから、手に持って誤操作をし、人や動物を傷つけるという事故は起こらない。このため刊行物1記載の発明には、刊行物2記載発明のトリガやコンタクトアームという技術思想はなく、ドライブビットの駆動に関しては、単に接触子が設けられているに過ぎない。また、刊行物1の接触子と、刊行物2記載のセーフティレバーとは機能が異なるのであるから接触子をセーフティレバーに置き換えただけでは刊行物1記載の発明は正常に動作しない。従って、接触子をセーフティレバーに置き換えることには阻害要因が存在するか、理由の不備があると主張する(上記意見書の第24頁第5行?第26頁第3行)。
しかしながら、刊行物1記載の発明において、止具の射出にコンタクトアームの上昇とトリガの操作の2つの操作を要するものを適用できないとする阻害要因は格別見当たらず、また、刊行物1の接触子80が本件発明のコンタクトアームと同様の機能を有するものであることは、上記(3)のとおりである。
(10)以上のとおりであるので、被請求人の平成21年6月24日付け意見書に基づく上記主張は、採用できない。

第7.むすび
したがって、本件発明1?4についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
打込機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延び、下端がビットガイド下端より下方に突出し、中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状としたことを特徴とする打込機。
【請求項2】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延び、下端がビットガイド下端より下方に突出し、中間部がビットガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平板状のコンタクトアームと、コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって、
前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列し、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし、前記平板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け、該案内部を、前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で、前記ビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。
【請求項3】前記押圧手段を、前記2個の案内部を下方に押圧する2個のスプリングにより構成したことを特徴とする請求項2記載の打込機。
【請求項4】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し、側面が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマガジンと、マガジン前端に設けられ、上記止具集合体が通過する給送路を有し、少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え、上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって、打込機本体に設けられたトリガと、上端がトリガ近傍まで延び、反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクトアームと、コンタクトアームをスプリングによって下方に押圧する押圧手段とを備えた打込機であって、前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより、前記マガジン側から前記ビットガイド、前記コンタクトアームの中間部、前記プレートの順に配列して、前記平板状のコンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で上下移動するようにし、先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし、前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に、前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して設け、該射出穴から止具を打出すようにし、コンタクトアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし、コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタクトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は止具打込後にきれいな仕上りが要求される打込機に関するものである。本発明打込機の駆動源としては、電気、圧縮空気またはガス等種々のものが利用可能であるが、以下圧縮空気式打込機として説明する。
【0002】
【従来の技術】
建築内装の幅木、回り縁等の仕上建材等の取付部材を取り付ける方法は、該取付部材を接着剤により接着した後に小頭径の止具を取付部材に設けられた所定幅の溝内に打ち込んで取り付けるのが一般的である。該止具は、前記取付部材の外観色に合わせて止具頭部を同色に着色し、かつ取付部材の溝部に打込むため小頭径として、打込後に傷、打痕が残らないように配慮してきれいな仕上りが要求される。
【0003】
従来、かかる止具を打込む打込機は、図6に示す如く、止具8を指定位置に打込むための狙い易さと前記取付部材9の溝91の底にコンタクトアーム5の先端部51を入り込ませる必要があるため、コンタクトアーム先端部51を、鋭角に先細とすると共に厚みを薄くした形状とし、下方に突出したコンタクトアーム先端部51を狙い打ちする際の目安として使用している。前記取付部材9の溝91の幅は種々存在するが3.5?7mmが主流であり、またコンタクトアーム5と共に射出部を構成するノーズ部材56の先端部とコンタクトアーム先端部51の厚さの和(以下説明の便宜上この厚さを先端部厚さという)は、強度上の問題からあまり薄くすることはできず、約4mm程度に形成されているのが一般的である。なお溝91の幅が先端部厚さより小さい場合にはポンチ等を用いて打ち込んでいるのが一般的である。
【0004】
止具8の打込みは、周知の如く、コンタクトアーム先端部51を取付部材9に押し付け、コンタクトアーム上端部52を上昇させると共にトリガ3を引いてバルブプランジャ4を押し上げ、図示しないトリガバルブを介して図示しないシリンダ内に圧縮空気を供給して図示しないドライブビットを下降させることにより行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記した如く、止具8を打込む際はコンタクトアーム先端部51を取付部材9の溝91の底に押し当てて打込動作を行い、コンタクトアーム先端部51とノーズ部材56の先端が正しく溝91内に挿入した状態で打込みを開始すると止具8は確実に溝91内に打込まれるようになり何ら問題が生じることはないが、特に前記溝91の幅が前記先端部厚さとほぼ等しい幅あるいは狭い幅91を有する取付部材9の場合には次のような問題があった。
【0006】
かかる打込作業は打込まれる止具8の数が非常に多いため短時間で多数の止具8を打込む必要があり、上記した如くコンタクトアーム先端部51を目安にして打込んでいるのが実情である。このためコンタクトアーム先端部51及びノーズ部材56を溝91の底に押し当てたつもりであっても、例えば図7に示す如く、ノーズ部材56が溝91内に入っていないことがあり、この状態で打込開始されると、取付部材9の表面に止具8を打込んでしまい仕上りが悪くなる。また打込み途中において打込み反力により打込機本体1が上方に持ち上げられて打込機本体1が前方に移動し、前記ドライブビットが止具8から外れて取付部材9の表面を打撃してしまう恐れがあり、この場合には取付部材9の表面に打撃痕を残すと共に止具8が完全に打ち込まれないということがあった。更にコンタクトアーム先端部51を図7の如く押し当てた状態において、溝91の深さが深い場合には、コンタクトアーム先端部51が溝底まで完全に入らないことがあり、この場合にはコンタクトアーム5が上昇しないので打込開始できない。かかる問題を解消するためには、上記した如く、1個の止具8を打ち込むごとに先端部51及びノーズ部材56を完全に溝91の底に押し当てた状態にしてからトリガ3を操作して打込みを開始すればよいが、打込効率が低下し多数の止具8を短時間で打込むことができなくなってしまう。
【0007】
マガジン2内の止具8は図示しないスプリングによって付勢押圧されている給送部材によって送られ、該給送部材による押圧力はコンタクトアーム5に作用している。該押圧力に打勝ってコンタクトアーム5を下方に移動させる必要があるため、コンタクトアーム5を下方に付勢するスプリングの荷重を強く設定しなければならない。このためコンタクトアーム先端部51によって取付部材9に圧痕を残して取付部材9の表面を傷つける恐れがあると共にコンタクトアーム先端部51が薄肉形状とされているため、誤って打込機本体1を落下した時等にコンタクトアーム先端部51が変形、破損するという欠点もあった。本発明の目的は、上記した従来技術の欠点をなくし、止具を取付部材の溝内に確実に打込めるようにして打込後の仕上り状態が良く、かつ落下時等の衝撃に耐え得る十分な強度を有する打込機を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、マガジンの前端に設けられ、止具集合体の先頭の止具が入ると共に前記ドライブビットが通過する給送路をドライブビットの移動方向に沿って設けたビットガイドに上下動可能に支持され、前記給送路の下方に位置する射出路を有し、上端が前記トリガ近傍まで延び、下端がビットガイドの下端より下方に突出したコンタクトアームを設け、該コンタクトアームが上昇し、トリガが操作された時にのみ前記ドライブビットの駆動を開始させるようにすると共にコンタクトアームの下端端面を取付部材の溝に入り得る厚さとすることにより達成される。
【0009】
【作用】
上記のように構成された本発明打込機によれば、コンタクトアーム先端部に止具が通過する射出路を設けたので、コンタクトアーム下端を取付部材の溝底に押し当てるだけで止具を確実に打ち込めるようになり、打込効率及び仕上り状態を向上できる。またコンタクトアーム下端の厚さを従来周知の打込機に比べ小さくできるのでより狭い溝内に打ち込めるようになる。更にコンタクトアーム下端部の面積を大きくして強度を大きくしたので打込機の寿命を向上できる。
【0010】
【実施例】
以下実施例を示した図1?図5を参照して本発明を説明する。側面が接着剤を介して連結された止具集合体(図1においては1個の止具8のみを示した)及び該止具集合体を前進させる給送部材13を収納支持するマガジン2の前端には打込機本体1より下方に延びたビットガイド12が設けられている。なお前記給送部材13は図示しないスプリングによってビットガイド12側に付勢押圧されている。
【0011】
ビットガイド12には、図1に示す如く、マガジン2の止具集合体が通過する給送路121が設けられ、該給送路121の底は止具8の足先端を支持するようになっている。給送路121の前方には止具集合体の先頭の止具8が入ると共に打込機本体1内の図示しないドライブビットが上下動するための射出溝122が下端まで貫通して設けられている。またビットガイド12の前面には給送路121、射出溝122と平行に延びた案内溝123及び前面から突出した突起124が設けられている。なお、前記給送路121と射出溝122は1個の溝としてもよく、以下説明の便宜上給送路121として説明する。また給送路121の上方にある複数の凹凸部は、異なる長さの複数の止具8を打込めるようにするためのものであるが、周知構成のものであると共に本発明とは直接関係しないものであるので、詳細な説明は省略する。
【0012】
ビットガイド12の前面下方及びトリガ近傍に位置する先端部51及び上端部52を有するコンタクトアーム5がビットガイド12に上下動可能に支持されている。すなわちビットガイド12の前記案内溝123及び突起124に夫々嵌合するコンタクトアーム5の案内竿53及び上下方向に延びた長穴状の案内穴54を介してコンタクトアーム5がビットガイド12に上下動可能に支持されている。コンタクトアーム5はビットガイド12との間に設けられたスプリング6によって下方に付勢押圧されている。ビットガイド12の給送路121の下方に位置するコンタクトアーム先端部51には給送路121に連続する射出穴55が先端部51の下端まで貫通して設けられている。先端がビットガイド12の下端より下方に突出するコンタクトアーム先端部51は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とされ、下端部の厚さは前記取付部材9の溝91内に入れるような大きさ例えば3.5mm程度に設定されている。前記コンタクトアーム上端部52は、図2に示す如く、トリガ3近傍まで延び、先端部51が取付部材9等の被打込材に接触しないで下方に突出している時、トリガ3の突出部31を係止するようにしてトリガ3を操作できないようにしている。なおコンタクトアーム上端部52はトリガ3を直接操作できないようにするとしたが、例えば図6に示す如く、トリガ3とトリガプランジャ4との間に介在するトリガプレートを押し上げるタイプとしてもよいことはもちろんである。
【0013】
ビットガイド12の前面の給送路121、案内溝123等及びコンタクトアーム先端部51の射出穴55、案内竿53等はプレート10によってカバーされる。該プレート10はビットガイド12及び突起124に設けられたねじ穴にねじ嵌合する2個のねじ11によってビットガイド12に装着固定される。給送路121の前面にカバー10を設けたため、前記給送部材13の押圧力をカバー10で受けるようになり、この押圧力がコンタクトアーム5に作用しなくなるので、スプリング6の付勢押圧力を給送部材13の押圧力とは無関係に小さく設定することができるようになる。この結果、コンタクトアーム先端部51の下端が平坦であることと相俟って、取付部材9表面の変形、傷つきを防止することが可能となる。
【0014】
上記実施例によれば、射出穴55を有するコンタクトアーム先端部51を取付部材9の溝91内に入れれば、止具8は確実に取付部材9の溝91内に打込まれるので、取付部材9の表面を傷つける恐れがなくなって仕上りが良くなると共に短時間で多数の止具8を打込めるようになり打込効率及び操作性が向上する。また打込み途中において打込み反力により打込機本体1が上方に持ち上げられるが、この際コンタクトアーム5が下降して止具8の頭部に接触するようになり、打込機本体1が前方に移動することがなくなるので、ドライブビットが止具8から外れることがなくなって止具8が完全に打ち込まれるようになると共に取付部材9の表面が打撃されて打撃痕を残すこともなくなる。更にコンタクトアーム先端部51の厚さを薄くできるので、より狭い溝91を有する取付部材9を打込固定することが可能となると共にコンタクトアーム先端部51をパイプ状として強度を大きくできるので落下時等の変形、破損を防止することが可能となり、結果として長寿命の打込機を提供できるようになる。
【0015】
しかし上記実施例においては次のような問題があることが分かった。すなわち、コンタクトアーム先端部51は溶接によって形成されるが、溶接工程があるために製造困難、部品単価が高価、品質がばらつくことである。またコンタクトアーム先端部51がパイプ状となっているので、射出穴55中に止具8が詰まるとこの詰まりを解消する作業が非常に困難となることである。
【0016】
図8、図9はかかる欠点を解消するための本発明の他の実施例を示すもので、コンタクトアーム先端部51をパイプ状とせず、コンタクトアーム5と一体の1枚の板状とし、射出穴55の代わりに射出溝56を形成すると共に該射出溝56の下端近傍両側にプレート10側に突出した一対の凸部57を設けたことを特徴とするものである。前記コンタクトアーム5は上端部52から凸部57まで例えばロストワックス等の方法によって一体成形される。なおコンタクトアーム5の上下動時の傾きをなくすと共に上下動をスムーズにするため、2個のスプリング6を射出溝56の中心線に対して対称の位置に設け、コンタクトアーム5を下方に付勢押圧するようにしている。またカバー10の下端部100は前記凸部57の間に入るように先細とされている。
【0017】
上記のように構成した結果、コンタクトアーム先端部51を含むコンタクトアーム5を簡単に製造することができるようになると共に止具8が詰まったとしてもカバー10を外すだけの簡単な操作で詰まった止具8を簡単に取り出せるようになり、保守・修理が容易な打込機となる。また凸部57を設けたので、コンタクトアーム先端部51の強度を上記実施例程度にすることが可能となり、落下時等に損傷することもなくなる。
【0018】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、コンタクトアーム先端部を被打込材の溝内に入れるだけで止具を確実に溝内に打込めるようになって被打込材の表面を傷つけることなく打込むことが可能となり、仕上りを良くすることができると共に打込効率及び操作性が大幅に向上し、短時間で多数の止具を打込めるようになる。更にコンタクトアーム先端部の変形、破損を防止することが可能となり、結果として長寿命の打込機を提供できるという効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明打込機の一実施例を示す要部斜視図。
【図2】図1の側面図。
【図3】図1のカバーを取外した状態を示す正面図。
【図4】コンタクトアームが上昇した例を示す図3相当の正面図。
【図5】本発明打込機による打込状態を示す側面図。
【図6】従来の打込機の一例を示す側面図。
【図7】図6の打込状態を示す側面図。
【図8】本発明打込機の他の実施例を示す要部斜視図。
【図9】図8の側面図。
【符号の説明】
1は打込機本体、3はトリガ、5はコンタクトアーム、51は先端部、52は他端、53は案内竿、54は案内穴、55は射出穴、56は射出溝、57は凸部、6はスプリング、8は止具、9は取付部材、12はビットガイド、121は給送路、122は射出溝、123は案内溝、124は突起、10はプレートである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-10-25 
結審通知日 2009-09-02 
審決日 2005-11-08 
出願番号 特願平6-84823
審決分類 P 1 113・ 55- ZA (B25C)
P 1 113・ 534- ZA (B25C)
P 1 113・ 831- ZA (B25C)
P 1 113・ 121- ZA (B25C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 島田 信一  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 佐々木 一浩
野村 亨
登録日 1998-10-23 
登録番号 特許第2842215号(P2842215)
発明の名称 打込機  
代理人 井坂 光明  
代理人 井坂 光明  
代理人 井沢 博  
代理人 井沢 博  
代理人 七條 耕司  
代理人 高田 修治  

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