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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1225231
審判番号 不服2006-25086  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-06 
確定日 2010-10-12 
事件の表示 特願2004-238309「CETP阻害剤としての4-カルボキシアミノ-2-置換-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 2日出願公開、特開2004-339239〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成11年9月10日(パリ条約による優先権主張 1998年9月17日,米国)を国際出願日とする出願である特願2000-574074号の一部を平成16年8月18日に新たな特許出願としたものであって、平成17年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成18年4月12日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年7月27日付けで拒絶査定がなされたところ、同年11月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、「本願発明の「カプセル、錠剤、懸濁液、エアロゾル、座剤および静脈用溶液から選ばれる形態の製剤」は「医薬」として用いられるものであることが明らかであるから、医薬についての用途発明の一形態であるといえる。また、本願発明における式Iの化合物は、出願人も認めるように新たに提供された化合物であって、医薬としての有用性が公知の化合物であるとはいえない。してみると、明細書に製剤化等についての具体的な記載があったとしても、はじめて医薬として用いられるものである以上、明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をして、医薬としての用途の有用性を裏付ける必要があるものといわざるを得ない。」として、本願明細書の記載は、特許法第36条第4項(平成14年法律等24号附則第2条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる特許法第36条第4項の意。以下、単に「特許法第36条第4項」という。)に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断

(1)本願発明

本願の請求項1?11に係る発明は、平成18年4月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載されたものであって、そのうち請求項1は以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】
式Iの化合物、又は該化合物の薬学的に許容し得る塩を含有するカプセル、錠剤、懸濁液、エアロゾル、座剤および静脈用溶液から選ばれる形態の製剤。
【化1】 (構造式は省略する。)
式I
(置換基の定義は省略する。)」

(2)本願明細書の記載

本願発明に関し、本願明細書には、以下の記載がある。

(a)「【請求項7】
式Iの化合物又はそれらの薬学的に許容し得る塩を他の医薬を組み合わせて含む請求項1?6のいずれか一項に記載の製剤」(【特許請求の範囲】)

(b)「【0001】本発明はコレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害剤、そのような阻害剤を含む医薬組成物並びに高密度リポタンパク質(HDL)-コレステロールを含む特定の血漿脂質濃度の上昇及び他の特定の血漿脂質濃度…によって影響を受ける疾患、例えば、アテローム性動脈硬化及び心血管疾患の治療へのそのような阻害剤の使用に関する。」(段落【0001】参照)

(c)「【0084】
本発明は、治療上有効な量の式Iの化合物、…及び薬学的に許容し得る担体を含む、哺乳動物(ヒトを含む)におけるアテローム性動脈硬化、…の治療のための医薬組成物にも向けられている。
【0085】
本発明は、アテローム性動脈硬化治療量の式Iの化合物、…及び薬学的に許容し得る担体を含む、哺乳動物(ヒトを含む)におけるアテローム性動脈硬化の治療のための医薬組成物にも向けられている。
・・・」(段落【0084】?【0103】参照)

(d)「【0111】
“治療すること”、“治療する”又は“治療”という用語には、ここで用いられる場合、防止に役立ち(例えば、予防的)、かつ対症的な治療が含まれる。
“薬学的に許容し得る”が意味するところは、担体、希釈剤、賦形剤、及び/又は塩がその製剤の他の成分と適合し、それらのレシピエントに対して有害であってはならないことである。」(段落【0111】参照)

(e)「【0209】
本発明の化合物は、他の医薬(例えば、LDL-コレステロール低下剤、トリグリセリド低下剤)と共に、ここに記載される疾患/状態の治療に用いることができる。…」(段落【0209】参照)

(f)「【0229】
本発明の式Iの化合物…の、哺乳動物(例えば、ヒト、男性もしくは女性)における上記疾患/条件の治療での医薬としての有用性は、以下に記載される通常のアッセイ及びイン・ビボ・アッセイにおける本発明の化合物の活性によって示される。このイン・ビボ・アッセイ(当該技術分野における技術のうちにある適切な改変を伴う)は、本発明の化合物の他に、他の脂質又はトリグリセリド制御剤の活性を決定するのに用いることができる。以下に記載される組み合わせプロトコルはここに記載される脂質及びトリグリセリド剤(例えば、本発明の化合物)の組み合わせの有用性を示すのに有用である。このようなアッセイは、本発明の式Iの化合物…(又はここに記載される他の薬剤)の活性を互いに比較し、かつ他の既知化合物の活性と比較することができる手段も提供する。これらの比較の結果は、そのような疾患を治療するため、ヒトを含む哺乳動物における投与量レベルを決定するのに有用である。
【0230】
以下のプロトコルは、もちろん、当業者が変更することができる。
式Iの化合物の高アルファコレステロール活性は、本質的には…に従来記載されるように、リポタンパク質画分間での放射標識脂質の相対転送比を測定することによってコレステリルエステル転送タンパク質の作用に対するこれらの化合物の効果をアッセイすることにより決定することができる。
【0231】
CETPイン・ビトロ・アッセイ 以下は、ヒト血漿(イン・ビトロ)及び動物血漿(エキソ・ビボ)におけるコレステリルエステル転送のアッセイの簡単な説明である:…を比較することで、相対コレステリルエステル転送阻害活性を決定することができる。
【0232】
CETPイン・ビボ・アッセイ イン・ビボでのこれらの化合物の活性は、…に投与することが必要な、対照に対する薬剤の量によって決定することができる。…に類似する方法によってCETP活性を決定する。脂質及び転送活性について得られた値を投薬前に得られたもの及び/又はビヒクルのみを投与したマウスからのものと比較する。
【0233】
血漿脂質アッセイ これらの化合物の活性は、…に必要な薬剤の量を決定することによっても示すことができる(Crook et al. Arteriosclerosis 10, 625, 1990)。…従来記述されるように(Crook et al. Arteriosclerosis 10, 625, 1990)コレステロール濃度を測定することにより、研究中のあらゆる時点で決定することができる。
【0234】
イン・ビボ・アテローム性動脈硬化アッセイ 化合物の抗アテローム性動脈硬化効果は、…を減少させるのに必要な化合物の量によって決定することができる。…減少した脂質の沈積は、対照ウサギ群と比較した、化合物投与群における染色表面積パーセントの減少によって示される。
【0235】
抗肥満プロトコル 体重の減少を生じるCETP阻害剤の能力は、…において評価することができる。…治療群の結果をプラセボ投与群と比較する。
【0236】
イン・ビボ敗血症アッセイ イン・ビボ研究では、…が敗血症ショックから保護されることが示される。したがって、敗血症ショックから保護するCETP阻害剤の能力は、…において示すことができる(…)。…、ビヒクル(マイナスCETP阻害剤)のみを投与したマウスと比較する。(段落【0229】?【0236】参照)

(g)「【0237】
本発明の化合物の投与は、本発明の化合物を全身的及び/又は局所的に送達するあらゆる方法によるものであり得る。これらの方法には経口経路…等が含まれる。一般には、本発明の化合物は経口投与するが、非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内、皮下もしくは髄内)を…利用することができる。
【0238】
一般には、所望の治療効果(例えば、HDLの上昇)を達成するのに十分な量の本発明の化合物を用いる。
一般には、本発明の式Iの化合物…の有効投与量は、0.01ないし10mg/kg/日の範囲…である。」(段落【0237】?【0238】参照)

(h)「【0241】
経口投与については、医薬組成物は溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末等の形態をとることができる。様々な賦形剤…を含む錠剤は、様々な崩壊剤…と共に、結合剤…と一緒に用いられる。加えて、滑沢剤…がしばしば打錠のために非常に有用である。類似の型の固体組成物は軟及び硬充填カプセルにおける充填剤としても用いられる;…好ましい製剤は、軟ゼラチンカプセル内の、油…中の溶液又は懸濁液である。…経口投与に水性懸濁液及び/又はエリキシルが望ましい場合、本発明の化合物を水、…及びそれらの様々の同様の組み合わせに加えて、様々な甘味料…と組み合わせることができる。
【0242】
非経口投与については、…の溶液を、対応する水溶性塩の無菌水溶液に加えて用いることができる。…これらの水溶液は、静脈内…注射の目的に特に適する。これに関して、用いられる無菌の水性媒体は、全て、当業者に公知の標準技術によって容易に得ることができる。
【0243】
経皮(例えば、局所)投与については、希釈した無菌の、水性又は部分的に水性の溶液(通常、約0.1%ないし5%の濃度)であって、他の点では上記非経口溶液に類似する溶液を調製する。
【0244】
特定の量の活性成分を含む様々な医薬組成物の調製方法は当業者には公知であり、又はこの開示に照らして明らかであろう。医薬組成物の調製方法の例については、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easter, Pa., 15th Edition (1975) を参照のこと。
【0245】
本発明による医薬組成物は、0.1%-95%…の本発明の化合物(…)を含むことができる。いかなる場合であっても、投与しようとする組成物又は製剤は、本発明による化合物(1種類もしくは複数種類)を治療する被験者の疾患/状態、例えばアテローム性動脈効果、を治療するのに有効な量含む。」(段落【0241】?【0245】参照)

(i)「【0250】
…本発明の化合物は、一般には、都合のよい剤形で投与される。…
【0251】
以下の製剤において、“活性成分”は本発明の化合物を意味する。
硬ゼラチンカプセルは以下ものを用いて調製する:
製剤1:ゼラチンカプセル
【0252】
【表1】…
【0253】
錠剤製剤は以下の成分を用いて調製する:
製剤2:錠剤
【0254】
【表2】…
【0255】
これらの成分を配合して圧縮し、錠剤を形成する。

製剤3:錠剤
【0256】
【表3】…
【0257】
…打錠機で圧縮して錠剤を得る。
【0258】
用量5ml当たり各々0.25-100mgの活性成分を含む懸濁液は以下のように製造する:
製剤4:懸濁液
【0259】
【表4】…
【0260】
…、十分な水を添加して必要な容積とする。
【0261】
以下の成分を含むエアロゾルを調製する:
製剤5:エアロゾル
【0262】
【表5】…
【0263】
…弁ユニットを容器に取り付ける。
【0264】
座剤は以下のように調製する:
製剤6:座剤
【0265】
【表6】…
【0266】
…の座剤の型に注ぎ入れ、冷却する。
【0267】
静脈内製剤は以下のように調製する:
製剤7:静脈内溶液
【0268】
【表7】…
【0269】
上記成分の溶液を…静脈内投与する。
軟ゼラチンカプセルは以下のものを用いて調製する:
製剤8:油製剤を含む軟ゼラチンカプセル
【0270】
【表8】… 」(段落【0250】?【0270】参照)

(3)本願発明の内容

本願発明に係る製剤は、特許請求の範囲において、「医薬」なる文言が用いられていないとしても、式Iの化合物をアテローム性動脈硬化等を治療するのに有効な量で含む、式Iの化合物に特有の薬理効果を利用した医薬製剤をその本質的な部分として包含することは、以下のとおり、特許請求の範囲の記載から明らかである。
すなわち、本願発明は、「…該化合物の薬学的に許容し得る塩を含有する」こと、つまり、ヒトに対して有害でない塩(摘示事項(d))を用いるものであること、また、「座剤」、「静脈用溶液」は、医薬特有の製剤の形態であり、医薬以外の用途を想定しにくいものであること、請求項1に係る発明の下位概念の発明である請求項7には、「…他の医薬を組み合わせて含む…製剤」と「他の医薬を組み合わせ」ることが記載されている(摘示事項(a))ことから、本願発明に係る「製剤」は、医薬として用いるものを包含していることは明らかである。

また、発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、本願発明に係る「製剤」が医薬に用いられることは、以下のとおり、明らかである。
すなわち、本願明細書には、本願発明は、CETP阻害剤を含む医薬組成物、アテローム性動脈硬化及び心疾患の治療へのそのような阻害剤の使用に関するものであること(摘示事項(b))、治療上有効な量の式Iの化合物を含む、哺乳動物におけるアテローム性動脈硬化等の治療のための医薬組成物にも向けられていること(摘示事項(c))、式Iの化合物の、哺乳動物における上記疾患/条件の治療での医薬としての有用性は、通常のアッセイ及びイン・ビボ・アッセイにおける本発明の化合物の活性によって示されること(摘示事項(f))が記載されている。
さらに、「製剤」に関しては、式Iの化合物の投与のために医薬組成物は、溶液、懸濁液、錠剤等の形態をとることができ、医薬組成物は0.1%-95%の本発明による化合物を含むことができ、いかなる場合であっても、投与しようとする組成物又は製剤は、本発明による化合物を治療する被験者の疾患/状態、例えばアテローム性動脈硬化、を治療するのに有効な量含むこと(摘示事項(h)、本発明の化合物は、一般には、都合のよい剤型で投与されること(摘示事項(i))が記載されている。
そうしてみると、上記した本願明細書の記載並びに出願時の技術常識をも考慮し、発明を特定するための事項の意味内容を解釈すると、本願発明に係る製剤は、特許請求の範囲において、「医薬」なる文言が用いられていないとしても、本願発明に係る「製剤」は、医薬として用いるものを包含していることは明らかであり、さらには、本願発明に係る「製剤」が、式Iの化合物をアテローム性動脈硬化等を治療するのに有効な量で含む、式Iの化合物に特有の薬理効果を利用した医薬製剤として用いられる態様を包含するものであることも明らかである。

(4)検討

特許法第36条第4項は、「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定し、その経済産業省令に当たる特許法施行規則24条の2は、明細書に「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきことを規定する。
つまり、特許法には、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより」、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」ことが規定されている。

したがって、本願発明の製剤が、医薬として用いられるものを包含する以上、本願の発明の詳細な説明の項には、当業者が該製剤を医薬として使用できるように記載されている必要があるということになる。
そして、上述のとおり、本願発明は、式Iの化合物に特有の薬理効果を利用した医薬製剤として用いられる態様を包含するものであるが、上記薬理効果は、本願優先日当時、式Iの化合物の作用として、当業者に知られていなかったものと認められる。
そうすると、化学物質の有用性については、例えば、ある化学構造上の特徴と薬理作用との関連性が十分研究されているような特殊な場合には、ある程度の予測性があるものの、通常は、化学構造のみから薬理作用を予測することは困難であり、化学物質が、その医薬用途において有効なものとして使用できるかどうかは、薬理試験又はそれに準ずる試験での結果を得て初めてわかることであるから、発明の詳細な説明の項に、「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が明確かつ十分に記載されているというためには、薬理試験又はそれに準ずる試験の結果が必要である。
そして、このことは、特許請求の範囲において、医薬用途に用いることが明記されているか否か、また、さらに、特許請求の範囲に具体的な医薬用途が記載されているか否かに左右されるものではない。

これを本願発明についてみると、本願発明は、式Iの化合物に特有の作用効果を利用する「カプセル、錠剤、懸濁液、エアロゾル、座剤および静脈用溶液から選ばれる形態の製剤。」の発明であるが、上記したとおり、式Iの化合物をアテローム性動脈硬化等を治療するのに有効な量で含む、式Iの化合物に特有の薬理効果を利用した医薬製剤をその本質的な部分として包含するもの、すなわち、医薬発明を包含するものである。
そして、本願発明の式Iの化合物は、技術常識を考慮しても化学構造からその医薬としての有用性を予測することは困難であることから、本願明細書の発明の詳細な説明に、式Iの化合物が医薬として有用であることを裏付ける薬理試験結果またはそれと同視すべき程度の記載をして上記用途の有用性を裏付ける必要がある。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
摘示事項(b)の記載によれば、式Iの化合物を、アテローム性動脈硬化等の治療のための医薬組成物に用いることができると説明されている。
摘示事項(e)、(f)には、式Iの化合物を治療効果を得ることを目的として投与するための投与経路、有効投与量、医薬組成物の形態や賦形剤、添加剤等が記載され、カプセル等の剤型の調整例が記載されている。しかしながら、投与経路、投与量及び剤型に関する記載のみによっては、式Iの化合物の医薬としての有用性が裏付けられるものではない。
また、摘示事項(d)には、式Iの化合物の、哺乳動物における上記疾患/条件の治療での医薬としての有用性は、通常のアッセイ及びイン・ビボ・アッセイにおける本発明の化合物の活性によって示されることが記載され、CETPイン・ビトロ・アッセイ、CETPイン・ビボ・アッセイ、血漿脂質アッセイ、イン・ビボ・アテローム性動脈硬化アッセイ、抗肥満プロトコル、イン・ビボ敗血症アッセイの方法が記載されているが、本願明細の発明の詳細な説明には、式Iの化合物が医薬としてアテローム性動脈硬化等の治療に効果を示すことを裏付けるに足りる具体的な実験結果についての記載はない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、単に式Iの化合物についてCETP阻害活性、アテローム性動脈硬化の治療効果等を摘示事項(d)の方法でアッセイすることと、その医薬用途が形式的に述べられているのみであって、式Iの化合物、又は該化合物の薬学的に許容し得る塩が医薬として有用であることを裏付ける薬理試験結果又は薬理試験結果と同視すべき程度の記載がないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

なお、請求人は、平成19年1月24日付けの審判請求書の請求の理由の手続補正書において、原査定は、特許請求の範囲に何ら記載されていない事項を付加して発明を認定するという発明認定の原則に反する誤った手法を用い、合理的な根拠を欠く理由に基づいて、本願発明を「医薬についての用途発明」と認定している旨、本願発明は、「医薬についての用途発明」の一態様というよりは、むしろ「新規化合物の発明」の一態様として把握した方が適切なものである旨を主張している。
しかしながら、請求人の主張する発明の認定は、新規性並びに進歩性の判断の対象となる発明である「請求項に係る発明」の認定の運用についてのものであり、発明の把握は、第36条第5項の規定により請求項に記載された、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(「発明を特定するための事項」)に基づいて行い、発明を特定するための事項の意味内容の解釈にあたっては、請求項の記載のみでなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮すべきであるところ、上記3.(3)で検討したとおり、本願発明に係る製剤は、特許請求の範囲に「医薬」なる文言がないとしても、明細書の記載から式Iの化合物の薬理効果を利用した医薬製剤、すなわち医薬組成物を本質的な部分として包含するものであり、すなわち、医薬発明を包含するものであることは明らかである。
また、化合物の発明と、該化合物を含有する医薬組成物の発明とは、別の概念の発明であり、上位・下位の関係にあるものではなく、本願発明は、請求人の主張する「新規化合物の発明の一態様」であるとは認められない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。。
 
審理終結日 2010-04-26 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-24 
出願番号 特願2004-238309(P2004-238309)
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 佳予子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
上條 のぶよ
発明の名称 CETP阻害剤としての4-カルボキシアミノ-2-置換-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン  
代理人 高木 千嘉  

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