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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1225285
審判番号 不服2008-15856  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-23 
確定日 2010-10-13 
事件の表示 平成10年特許願第 13861号「空腸チューブ取付装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月11日出願公開、特開平10-211258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年1月27日(パリ条約による優先権主張1997年1月27日、米国)の出願であって、平成20年3月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成20年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】 基端側開口端部と先端側開口端部とを備えたシングルルーメンチューブと、
基端側開口端部に設けられたバルブと、
先端側開口端部に設けられ、上記シングルルーメンチューブに接続された膨張可能なバルーンと、を有し、
膨張したバルーンの径は空腸供給チューブの径よりも大きく、
萎んだバルーンの径は空腸供給チューブのルーメンの径よりも小さく、
上記膨張可能なバルーンを萎ませることで空腸供給チューブから取り除き可能に形成されていることを特徴とする空腸チューブ取付装置。」(なお、下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項である「膨張可能なバルーン」について、その径を「膨張したバルーンの径は空腸供給チューブの径よりも大きく、萎んだバルーンの径は空腸供給チューブのルーメンの径よりも小さく、」と限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

3-1
引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、特開平7-299145号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a.「【請求項1】 1以上の内腔を有するチューブと、前記チューブの必要な箇所に配置され必要数の前記内腔と連通する1以上のバルーンとを有してなる医療用ガイドワイヤ。」(特許請求の範囲)

b.「【従来の技術】医療用ガイドワイヤは、カテーテル等医療用管腔構造物の先端部分を被術者体内の所要部位へ誘導する目的で用いられる可撓性の細い金属線である。・・・ガイドワイヤの使用法の一つとして、カテーテル等に先立って被術者の体内へ挿入される場合がある。ガイドワイヤの先端がJ型形状に曲げられているものにあっては、この曲り部分がアンカー効果を奏して被術者体内の目標部位に定位する。この状態でガイドワイヤの手元側端部を管腔構造物先端の内腔に通し、当該管腔構造物の先端部分をガイドワイヤに沿って被術者の体内へ送り込む。こうすることにより、当該管腔構造物が柔らかくて自己推進性を有しない場合でも、これを被術者体内の目標部位へ能率よく送り込むことが可能になる。」(段落【0002】?【0003】)

c.「【作用】本発明に係る医療用ガイドワイヤ(以下、本ガイドワイヤという)では、例えばその先端に有するバルーンを被術者体内の目標部位へ到達させた後に膨張させることによりアンカー効果を大ならしめ、これを当該部位に適度の力で安定的に固定することができる。またバルーンを収縮させることにより、いつでも容易にその固定を解くことができる。
【0012】また本ガイドワイヤでは、従来のガイドワイヤとは異なり、アンカー効果を受持つのがバルーンであるので、被術者の体内組織に対する接触面積が大きい。」(段落【0011】?【0012】)

d.「例えば本ガイドワイヤの中間部分に複数個のバルーンを設けるならば、それらを順次膨張させて血管等の狭搾箇所を押し拡げつつカテーテルの先端を誘導し、カテーテルの先端が当該バルーンの位置に到達したならばバルーンを収縮させてその位置を通過させる使用法が可能になる。・・・複数個のバルーンを同時に膨張収縮させる場合には単独の内腔で足りる。」(段落【0014】?【0015】)

e.「実際にカテーテル等管腔構造物が挿入される血管等の太さは、概ね2mmから30mm程度の範囲であり、それに応じて本ガイドワイヤのバルーンの膨張時の外径を選択できることが求められる。そのため、長さ2mmないし50mmのバルーン付ガイドワイヤを適当な刻みで予め用意しておく。」(段落【0018】)

f.「(第1実施例)図1は、本発明の第1実施例に係るバルーン付ガイドワイヤの構造説明図である。図中の参照符号1は本実施例に係るバルーン付ガイドワイヤ(以下、本ガイドワイヤ1という)の全体、2はバルーン、3は1本の内腔4を有するチューブ、5はバルーンの膨張を維持するためのバルブ、6は送気用シリンジを示している。すなわち本ガイドワイヤ1は先端に1個のバルーンを備えている。」(段落【0023】)

g.記載事項aの「内腔と連通する1以上のバルーン」及び記載事項cの「その先端に有するバルーン」なる記載からみて、チューブ3の先端は開口を有しているといえる。

h.記載事項e及び図1におけるチューブとバルブとの配置からみて、チューブ3のバルブ側の端部は、開口を有しているといえる。

i.記載事項bにおける医療用ガイドワイヤ及びカテーテルの使用法に関する記載、記載事項cのアンカー効果に関する記載によれば、バルーン2の膨張時の径はカテーテルの径よりも大きいものといえる。

j.記載事項bの「医療用ガイドワイヤは、カテーテル等医療用管腔構造物の先端部分を被術者体内の所要部位へ誘導する」との記載によれば、ガイドワイヤは、カテーテル等を被術者体内の所要部位に取り付けるために使用される取付装置といえる。

k.記載事項dによれば、単独の内腔を備えたガイドワイヤに接続された複数のバルーンについて、収縮したバルーンはカテーテル内で移動可能となっているものいえる。

よって、これらの記載事項を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すれば、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「開口を有するバルブ側端部と開口を有する先端とを備えた一の内腔を有するチューブ3と、
開口を有するバルブ側端部に設けられたバルブ5と、
開口を有する先端に設けられ、上記一の内腔を有するチューブ3に接続された膨張可能なバルーン2と、を有し、
膨張したバルーン2の径はカテーテルの径よりも大きい、
カテーテル取付装置」

3-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「一の内腔を有するチューブ3」、「バルブ5」、「バルーン2」は、各文言の意味、形状又は機能等からみて本願補正発明の「シングルルーメンチューブ」、「バルブ」、「バルーン」に相当し、以下同様に、「開口を有するバルブ側端部」は「基端側開口端部」に、「開口を有する先端」は「先端側開口端部」に、それぞれ相当する。

また、記載事項bに「カテーテル等医療用管腔構造物」と記載されるように、カテーテルとはチューブ形状の構造物であることから、引用発明の「カテーテル」と本願補正発明の「空腸供給チューブ」又は「空腸チューブ」とは、「医療用管腔構造物」である点において共通してる。

してみると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
基端側開口端部と先端側開口端部とを備えたシングルルーメンチューブと、
基端側開口端部に設けられたバルブと、
先端側開口端部に設けられ、上記シングルルーメンチューブに接続された膨張可能なバルーンと、を有し、
膨張したバルーンの径は医療用管腔構造物の径よりも大きい、
医療用管腔構造物取付装置。

(相違点1)
本願補正発明における医療用管腔構造物が空腸供給チューブであるのに対し、引用発明における医療用管腔構造物は、どのように用いられるカテーテルであるのか不明な点。

(相違点2)
本願発明では、萎んだバルーンの径は医療用管腔構造物のルーメンの径よりも小さく、膨張可能なバルーンを萎ませることで医療用管腔構造物から取り除き可能に形成されているのに対し、引用発明では、萎んだバルーンの径と医療用管腔構造物のルーメンの径との関係、及び萎んだバルーンが医療用管腔構造物から取り除き可能であるのか否かについて、いずれも不明である点。

3-3 相違点の判断
上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
例えば、特開平4-303461号公報(段落【0023】参照)や特開平6-210002号公報(段落【0001】?【0002】参照)に示されるように、医療用管腔構造物を用いて患者の空腸部に栄養素等を供給することは、従来より慣用される技術事項であることから、引用発明におけるカテーテルを、空腸へ栄養素等を供給する医療用管腔構造物に適用し、「空腸供給チューブ」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用例には、シングルルーメンチューブに接続された複数のバルーンについて、収縮したバルーンをカテーテル内で移動可能とする事項も記載されている(記載事項d、k参照)。ここで、例えば、特開昭59-181121号公報(特に、第1図及び第5図のバルーン11参照)に示されるように、バルーンを医療用管腔構造物のルーメン内で挿入・抜脱移動させる際に、収縮したバルーンの径を医療用管腔構造物のルーメンの径よりも小さくすることが、医療用管腔構造物に関する技術分野において、従来より普通に行われている事項であることを考慮すれば、記載事項dにおける「バルーンを収縮させてその位置を通過させる」際のバルーンも、その径がカテーテル内腔の径よりも小さくなることで、カテーテル内を移動可能なものと認められる。
そして、腸管内に薬液等を注入する医療用管腔構造物において、医療用管腔構造物に挿入されたガイドワイヤを取り除き可能とすることが、例えば、特開平06-277292号公報の段落【0008】、特開平08-155033号公報の段落【0019】に示されるように、従来より周知の技術事項であることを踏まえれば、引用発明におけるバルーンの径を、収縮時には医療用管腔構造物のルーメンの径よりも小さくすると共に、収縮したバルーンを医療用管腔構造物内で移動可能とするに当たり、その移動を、バルーン及びシングルルーメンチューブを医療用管腔構造物から取り除くための移動として、「萎んだバルーンの径は医療用管腔構造物のルーメンの径よりも小さく、膨張可能なバルーンを萎ませることで医療用管腔構造物から取り除き可能」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び周知慣用技術から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえない。

なお、請求人は、平成20年10月6日付け上申書において、「本発明は、ガイドワイヤを抜去することは引用文献2、3に示すごとく本願出願時周知であったとする拒絶査定における審査官殿の指摘に対し、これら引用文献に示されるガイドワイヤと本願発明の空腸チューブ取付装置(ガイドワイヤに相当)とは技術的に相違しているというものです。これら文献に記載の構造では、いずれもバルーンはチューブに取付けられたものであって、ガイドワイヤに取付けられたものではありません。この結果、拒絶査定に指摘されたように、ガイドワイヤが抜去可能であったとしても、それはガイドワイヤのみを抜き出すのであって、本願発明にあるようにバルーンと共にガイドワイヤを抜き出すよう構成されたものではありません。したがい、両引例は本出願の発明を開示、示唆したものとはならず、したがって当業者がこれらの引例に基づいて本願発明を想起するものとはなりません(詳細は審判請求書に記載しております)。つまり、補正後の請求項1は、出願時において独立して特許を受けられるものとなっており、また両引例に基づいて拒絶されるものでもありません。」との主張をするが、引用発明におけるバルーンの径と医療用管腔構造物のルーメンの径の関係について、特開昭59-181121号公報第1図及び第5図を参照しつつ、記載事項dの「バルーンを収縮させてその位置を通過させる」点に関する事項を採用すれば、ガイドワイヤを抜去可能とした際に、バルーンとガイドワイヤとが共に抜き出し可能となることは明らかであることから、請求人の「補正後の請求項1は、出願時において独立して特許を受けられるものとなっており、また両引例に基づいて拒絶されるものでもありません。」との主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成19年11月8日付け手続補正書により補正された明細書の、許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 基端側開口端部と先端側開口端部とを備えたシングルルーメンチューブと、
基端側開口端部に設けられたバルブと、
先端側開口端部に設けられ、上記シングルルーメンチューブに接続された膨張可能なバルーンと、を有し、
上記膨張可能なバルーンを萎ませることで空腸供給チューブから取り除き可能に形成されていることを特徴とする空腸チューブ取付装置。」

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「膨張可能なバルーン」について、「膨張したバルーンの径は空腸供給チューブの径よりも大きく、萎んだバルーンの径は空腸供給チューブのルーメンの径よりも小さく、」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2、3-3に記載したとおり、引用発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-11 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-06-01 
出願番号 特願平10-13861
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61J)
P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 関谷 一夫
岩田 洋一
発明の名称 空腸チューブ取付装置  
代理人 山田 卓二  
代理人 田中 光雄  

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