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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1225471 |
審判番号 | 不服2005-21463 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-11-07 |
確定日 | 2010-10-14 |
事件の表示 | 特願2000-193043「固形の熱成形し得る放出制御医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月 6日出願公開、特開2001- 31591〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成12年6月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年6月28日,(FR)フランス共和国)の出願であって,拒絶理由通知に応答して平成16年6月14日付けで手続補正がなされたが,平成17年8月1日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成17年11月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 本願の請求項1?26に係る発明は,平成16年6月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は,次のとおりである。 「固形の放出制御医薬組成物であって、少なくとも1の活性成分、ならびに少量の第四級アンモニウム基を有する、アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーであるポリメタクリラート類の群から選択される1又はそれ以上のポリマーの熱成形し得る混合物を含み、活性成分の放出が、使用するポリメタクリラートの特性、活性成分に対するその量、及び該組成物の製造に用いる技術によってのみ制御されることを特徴とする医薬組成物。」(以下,「本願発明」という。) 2.引用例 これに対して,原査定の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表平10-508608号公報(以下,「引用例A」という。)には,以下の事項が記載されている。 (a-1)「23.オピオイド鎮痛剤、ならびにアルキルセルロース、アクリルおよびメタクリル酸ポリマーおよびコポリマー、シェラック、ゼイン、水添ヒマシ油、水添植物油、およびこれらの混合物からなる群から選択される1以上の疎水性物質、を含む溶融押出し配合物を、所望の治療効果を与えるのに有効な量の治療活性薬を含有し、約8-約24時間の期間、該治療活性薬の持続放出をもたらす単位用量に分割した、持続放出性医薬製剤。」(請求項23) (a-2)「25.経口投与に好適な持続放出性押出し医薬品からの治療活性薬の放出特性を制御する方法であって、 持続放出性押出し医薬品が、治療活性薬に(1)アルキルセルロース、アクリルおよびメタクリル酸ポリマーならびにコポリマー、シェラック、ゼイン、水添ヒマシ油、水添植物油、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される疎水性物質、および(2)任意成分として、融点が30-200℃である、天然および合成ワックス、脂肪酸、脂肪族アルコールおよびこれらの混合物からなる群から選択される疎水性可融性担体遅延化物質を配合し、混合物を押出すのに十分な程度軟化させるのに十分な温度に該配合物を加熱し、該加熱混合物を直径0.1-3mmのストランドとして押し出し、該ストランドを冷却し、そして、場合によっては、該ストランドを分割して、該押出し物の多重粒子を形成させることによって製造されるものであり、 制御する方法が、押出し段階中に存在する空気の量を調節することによって、押出しによって得られる押出し物の多孔度を調節することを含む方法。」(請求項25) (a-3)「マトリックス成分 本発明の押出物は少なくとも1種の疎水性材料を含む。この疎水性材料は、オピオイド鎮痛剤の持続性放出を最終処方に付与する。本発明に従って用いることができる好ましい疎水性材料には、天然もしくは合成セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース)のようなアルキルセルロース類、アクリル及びメタクリル酸ポリマー及びコポリマー、シェラック、ゼイン、水素化ヒマシ油もしくは水素化植物油を含むワックスタイプの物質、又はそれらの混合物が含まれる。… 本発明の特定の好ましい態様において、この疎水性材料は、アクリル酸及びメタクリル酸コポリマー類、…を含むがこれらに限定されるものではない薬学的に許容し得るアクリルポリマーである。」(第18頁下から第21行?第3行) (a-4)「本発明による固体持続放出性経口剤形の調製を容易にするため、本発明のさらなる側面において、オピオイド類又はそれらの塩を持続放出性溶融押出マトリックスに組込むことを包含する本発明による固体持続放出性経口剤形の調製方法が提供される。マトリックスへの組込みは、例えば、オピオイド鎮痛剤を少なくとも1種の疎水性材料及び、好ましくは、さらなる遅延化材料(疎水性可融性担体)と配合して均質の混合物を得ることにより行うことができる。」(第20頁下から第16行?第11行) (a-5)「…本発明の溶融押出処方の徐放性プロフィールは、例えば、遅延化剤、すなわち疎水性ポリマー、の量を変更すること、疎水性ポリマーに対する可塑剤の量を変更すること、さらなる成分もしくは賦形剤を含めること、製造方法を変更すること等により変更することができる。…」(第22頁末行?第23頁第3行) (a-6)「 実施例1-2 徐放性クロルフェニラミン処方 これらの例において、上記製造手順に従い、エチルセルロース及びアクリルポリマー(Eudragit RSPO)をそれぞれ遅延化剤として用いて、マレイン酸クロルフェニラミン徐放性ペレットを調製した。…」(第26頁下から第8?4行) (a-7)「 実施例3-6 徐放性モルヒネ処方 実施例3 実施例2において用いられる賦形剤を使用して硫酸モルヒネ徐放性ペレットを作製した。 …」(第27頁) 3.当審の判断 (1)対比 引用例Aには,オピオイド鎮痛剤ならびに疎水性物質を含む溶融押出し配合物からなる持続放出性医薬製剤が記載され(摘記事項(a-1)),当該持続放出性医薬製剤は,固体持続放出性経口剤形として調製されている(摘記事項(a-4))ので,固形であることは明らかであり,また,当該疎水性物質の具体的態様として好ましくはアクリルポリマーを用いることが記載されている(摘記事項(a-3),(a-6),(a-7))から,引用例Aには,次の発明が記載されているといえる。 「オピオイド鎮痛剤ならびにアクリルポリマーを含む溶融押出し配合物からなる固形の持続放出性医薬製剤。」(以下,「引用発明」という。) そこで,本願発明と引用発明とを対比する。 (i)本願発明の「少なくとも1の活性成分」は,医薬組成物における鎮痛剤などの活性成分である(本願明細書段落【0042】参照)から,引用発明の「オピオイド鎮痛剤」を包含するものである。 (ii)引用発明の「アクリルポリマー」と本願発明の「少量の第四級アンモニウム基を有する、アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーであるポリメタクリラート類の群から選択される1又はそれ以上のポリマー」は,アクリル系ポリマーである点で共通するものである。 (iii)本願発明の「熱成形し得る混合物」は,溶融した混合物を押出機で押出したものであってよい(本願明細書段落【0037】参照)から,引用発明の「溶融押出し配合物」は,本願発明の「熱成形し得る混合物」に相当する。 (iv)本願発明の「放出制御医薬組成物」は,本願明細書段落【0023】に,「放出制御医薬組成物は、活性成分を、数分間(即時放出に相当)?20時間を超える期間(放出延長に相当)にわたって放出するものであると理解され、該放出は、組成物の投与後都合に合わせて遅延される方法で行われることが可能である。…」と記載されているように,薬物を即時に又は長期にわたり放出する医薬組成物を意味するから,引用発明の「持続放出性医薬製剤」を包含するものである。 よって,両者は「活性成分ならびにアクリル系ポリマーを含む熱成形し得る混合物を含む固形の放出制御医薬組成物。」で一致し,以下の点で相違する。 (相違点1)アクリル系ポリマーについて,本願発明では「少量の第四級アンモニウム基を有する、アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーであるポリメタクリラート類の群から選択される1又はそれ以上のポリマー」であるのに対し,引用発明では「アクリルポリマー」である点。 (相違点2)活性成分の放出について,本願発明では,「使用するポリメタクリラートの特性、活性成分に対するその量、及び該組成物の製造に用いる技術によってのみ制御される」と特定しているのに対し,引用発明ではそのことについて特定していない点。 (2)判断 (相違点1について) 本願発明の「少量の第四級アンモニウム基を有する、アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーであるポリメタクリラート類の群から選択される1又はそれ以上のポリマー」とは,本願明細書において,「…該ポリメタクリラートは、一般的にオイドラギット(登録商標)の名称によって示されており…」(段落【0024】)とされ,更に,「…本発明の範囲内で好ましく使用されるものは、オイドラギット(登録商標)RL及びRSであり、これは、少量の第四級アンモニウム基を有する,アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーを指す。…特に好都合には、本発明の熱成形し得る混合物に使用するオイドラギット(登録商標)製品は、オイドラギット(登録商標RLPO及び/又はRSPOであり、これは、相対的割合がそれぞれ1:2:0.2及び1:2:0.1であるポリ(エチルアクリラート、メチルメタクリラート、トリメチルアミノエチルメタクリラートクロリド)に相当する。」(段落【0026】?【0032】)なる記載からすれば,具体的にはオイドラギット(登録商標)RL及びRS,より好ましくは,オイドラギット(登録商標)RLPO及び/又はRSPOを意味するものである。そして,それらのオイドラギット(登録商標)RLPO及び/又はRSPOは実施例でも用いられている。 一方,引用例Aの実施例には,アクリルポリマーとして「Eudragit RSPO」を用いたと記載されていることから(摘記事項(a-6),(a-7)),引用発明におけるアクリルポリマーの好ましい一つの態様は「Eudragit RSPO」であると解される。そして,当該「Eudragit RSPO」が本願発明で用いる「オイドラギット(登録商標)RSPO」に相当することは明らかである。 してみると,アクリル系ポリマーの具体例の1つがオイドラギット(登録商標)RSPOであるという点において本願発明と引用発明は同じであるから,相違点1は両者の実質的な相違点であるとはいえない。 (相違点2について) 本願発明の活性成分の放出が,「使用するポリメタクリラートの特性、活性成分に対するその量、及び該組成物の製造に用いる技術によってのみ制御される」とは,本願明細書の段落【0017】の「本発明は、簡単かつ経済的な方法で、1又はそれ以上の活性成分、及び可塑特性を有する、薬学的に許容しうるポリマーの単純な混合物により、可塑剤又は遅延剤を添加することなく、該混合物を熱成形することにより、固形の放出制御医薬組成物を直接得ることを可能とする。該組成物中の活性成分の放出の制御は、単に、使用する可塑性ポリマー、及び活性成分のそれと相対的であるその量を適宜選択することによって得られる。…」なる記載からすれば,可塑剤や遅延剤を添加することなく,活性成分と特定のポリメタクリラートの単純な2成分の混合物を熱成形するという手段により,活性成分の放出制御を達成することを意味すると解される。ここで,「(相違点1について)」で検討したとおり,本願発明のポリメタクリラートと引用発明のアクリルポリマーは共にオイドラギット(登録商標)RSPOである点において実質的に相違するものではない。 そこで,引用例Aの記載及び本願の優先権主張日前の当分野の技術常識から,可塑剤や遅延剤を添加することなく活性成分とオイドラギット(登録商標)RSPOとの単純な2成分の混合物を熱成形することで活性成分の放出を制御することができることを当業者が容易に想到することができるか否かについて以下検討する。 引用例Aには,オピオイド鎮痛剤(活性成分)と疎水性物質(アクリルポリマー等)の2成分を含む混合物を熱成形する医薬製剤が活性成分の持続放出をもたらすことが記載されているのであるから(摘記事項(a-1)),引用発明では活性成分とアクリルポリマー(オイドラギット(登録商標)RSPO)の2成分を必須成分とする混合物を,別途の可塑剤や遅延剤を添加することなく熱成形処理にかけて製造すれば,活性成分の放出制御を可能とする医薬組成物が得られると解するのが自然である。 また,引用例Aには,好ましい態様がアクリルポリマーである疎水性材料が活性成分の持続性放出を付与すること,具体的には,オイドラギット(登録商標)RSPOが遅延化剤として使用できることが記載されている(摘記事項(a-3),(a-6))。そもそも,オイドラギット(登録商標)のRSをマトリックスとして使用することで薬物の徐放化が可能であることは本願の優先権主張日前に当分野において広く知られていることである(例えば,”星登等著,医薬品添加剤要覧, 平成4年11月25日発行,株式会社薬業時報社”の第42?43頁参照)。してみると,オイドラギット(登録商標)RSPOは医薬製剤のマトリックスとして使用されると活性成分の放出を制御する特性を有しているといえる。 更に,引用例Aには,徐放性プロフィール,すなわち,医薬製剤の活性成分の放出パターンは,遅延化剤の量に影響されること(摘記事項(a-5)),また,活性成分の放出特性の制御は,「…押出し段階中に存在する空気の量を調節することによって、押出しによって得られる押出し物の多孔度を調節すること」によって行われることが言及されている(摘記事項(a-2))ことから,(活性成分に対する)遅延化剤の量や熱成形するという製造に用いる技術によっても,活性成分の放出を制御することが可能であることが明らかにされている。 ところで,引用例Aには,具体的態様としては,硫酸モルヒネ(オピオイド鎮痛剤),オイドラギット(登録商標)RSPOの2成分以外にステアリン酸等が記載されており(摘記事項(a-7)),前記2成分の単純な混合物を熱成形して調製した医薬組成物について具体例は示されていないものの,上で検討したとおり,オイドラギット(登録商標)RSPO自体が医薬製剤のマトリックスとして使用されると活性成分の放出を制御するという特性を備えていること,また,引用例Aには,疎水性可融性担体遅延化物質(ステアリン酸(脂肪酸)等)は,あくまで任意に又は好ましくは添加し得る成分として記載されていること(摘記事項(a-2),(a-4))を考慮すると,引用発明で活性成分の放出を制御するためには,更に疎水性可融性担体遅延化物質も添加されなければならないと解するべきではない。 してみると,活性成分とアクリル系ポリマー(オイドラギット(登録商標)RSPO)の2成分の混合物を熱成形することで調製された医薬組成物である引用発明において,可塑剤や遅延剤を添加することなく,オイドラギット(登録商標)RSPOの特性,活性成分に対するその量,及び医薬組成物の製造に用いる技術という観点のみから,活性成分の放出が制御されることを見出すことは当業者が容易になし得ることである。 そして,本願発明の効果についても,当業者にとって予測困難な格別顕著なものであるとは認められない。 よって,本願発明は,周知技術を勘案し,引用例Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 それ故,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-17 |
結審通知日 | 2009-07-28 |
審決日 | 2009-08-13 |
出願番号 | 特願2000-193043(P2000-193043) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上條 のぶよ |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
内田 淳子 伊藤 幸司 |
発明の名称 | 固形の熱成形し得る放出制御医薬組成物 |
代理人 | 齋藤 房幸 |
代理人 | 津国 肇 |
復代理人 | 小澤 圭子 |