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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25D
管理番号 1225568
審判番号 不服2008-20367  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-07 
確定日 2010-10-21 
事件の表示 特願2003-284316号「冷蔵庫」拒絶査定不服審判事件〔平成17年2月24日出願公開、特開2005-49079号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月31日の出願であって平成20年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年8月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年9月8日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年9月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年9月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。

[理由]
本件補正は、補正事項として、特許請求の範囲を、次のように補正することを含むものである。
「 【請求項1】
冷蔵温度帯室を備える冷蔵庫において、
この冷蔵温度帯室に食用酸を含浸させたフィルタを設け、
この食用酸とは、L-アスコルビン酸と、L-アスコルビン酸より酸化防止機能は弱いが解離定数が高くL-アスコルビン酸と混合されるとL-アスコルビン酸の酸化防止機能の長寿命化を助けるクエン酸及び/又はりんご酸であることを特徴とするの冷蔵庫。
【請求項2】
前記フィルタに隣接して、又は、前記フィルタと一体に、水分の吸収と放出作用を有する調湿作用体を設け、
前記冷蔵温度帯室は野菜室であり、この野菜室内に配置され上面開口を蓋体で覆われ、周囲から間接的冷却される野菜容器を備え、
この蓋体に、空気取入口を有する収納部を設け、この収納部に前記フィルタを収納したことを特徴とする請求項1に記載の冷蔵庫。」(下線は当審で付与。以下、同様。)

ここで補正後の請求項1は、査定時の特許請求の範囲の、請求項1を引用する形式で記載された請求項15を独立請求項として記載したものに相当する。
一方、補正後の請求項2は、査定時の特許請求の範囲の、いずれの請求項にも相当するものではなく、また、いずれかの請求項記載の発明を減縮したものでもない。
すなわち、補正後の請求項2は冷蔵温度帯室についての発明特定事項を含むものであるから、同じく冷蔵温度帯室についての発明特定事項を含む査定時の請求項4,5,6のいずれかを減縮したものにあたるか検討すると、査定時の請求項4?6に共通して包含されている冷蔵温度帯室についての発明特定事項は「前後に引出自在な引出扉裏面に上面開口せる野菜容器が取り外し可能に固定され、この野菜容器の野菜室内への収納時にその上面開口が蓋体で覆われる」であるが、補正後の請求項2は「冷蔵温度帯室は野菜室であり、この野菜室内に配置され上面開口を蓋体で覆われ、周囲から間接的冷却される野菜容器を備え」となっており、冷蔵温度帯室が前後に引出自在な引出扉裏面にあるという発明特定事項及び冷蔵温度帯室が取り外し可能に固定されているという発明特定事項を削除するものであるので、補正後の請求項2は査定時の請求項4,5,6のいずれかを減縮したものではない。
さらに、補正後の請求項2では「前記フィルタ(注:食用酸を含浸させたフィルタ)に隣接して、又は、前記フィルタと一体に、水分の吸収と放出作用を有する調湿作用体を設け」と、調湿作用体の設け方について択一的に二つの設け方で限定しているが、査定時の請求項4は「調湿作用体」を発明特定事項として含まないから、補正後の請求項2は査定時の請求項4を限定したものではなく、また、査定時の請求項5は、調湿作用体の下方にフィルタを収納させることのみを特定するものであるのに対し、補正後の請求項2はフィルタと調湿作用体との上下位置関係についての特定がなく、かつ、調湿作用体とフィルタを一体とする択一的記載の要素を付加し拡張するのであるから、補正後の請求項2は査定時の請求項5を限定したものではなく、さらに、査定時の請求項6は実質的に調湿作用体とフィルタを一体とする態様のみを特定するものであるのに対し、補正後の請求項2は、「前記フィルタに隣接して・・・調湿作用体を設け」る択一的記載の要素を付加し拡張するものであるから、補正後の請求項2は査定時の請求項6を限定したものではない。なお、上記調湿作用体の設け方については、査定時の請求項2に特定されているが、査定時の請求項2は上記した冷蔵温度帯室についての発明特定事項を含むものではない以上、補正後の請求項2は査定時の請求項2を限定したものではない。
したがって、上記請求項2の補正事項を含む本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。

また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の、いずれを目的としたものとも認められない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、審判請求理由等で、補正後の請求項2の発明について、その酸化防止機能を主張している。
そこで、該主張について付加的に検討すると、本件明細書中には、フィルタ中のL-アスコルビン酸が、フィルタと離隔した位置にある野菜等に対して抗酸化作用を及ぼすことができる理由として、段落【0036】に「また、L-アスコルビン酸、クエン酸、りんご酸等の食用酸は、水溶性で、通常温度、即ちマイナス20℃?プラス30℃において蒸気圧を持たない個体性物質であるため、離れた場所にこれらの酸の効果を生ぜしめることが困難であるが、調湿機能付きエチレン脱臭フィルタであるフィルタ43の下方に不織布にL-アスコルビン酸、クエン酸、りんご酸等の食用酸を含浸させて作製したフィルタ44を配設することにより、フィルタ43が湿分排出作用を発揮して微小な水分を放出落下させる際に、前記食用酸が水分(蒸気)に溶解して飛散し野菜容器22内の野菜等にふりかかることとなる。従って、野菜等の鮮度維持が図られ、長期保存が可能となる。」との記載がある。
しかしながら、本願の調湿作用体は、具体的にはB型シリカゲル(本願明細書段落【0033】等参照)であるが、B型シリカゲルは、環境の湿度に応じ可逆的に気相の水分を吸収・放出するものであって、液相の水分を微小な水滴で放出するようなことは技術常識に反するといえる。また、L-アスコルビン酸は水溶性ではあるが、常温で蒸気圧を持たないL-アスコルビン酸が、常温で気相の水(水蒸気)に溶解する、すなわち気体の状態で水蒸気と混合するようなことも技術常識に反することであり、他方、L-アスコルビン酸が調湿作用体の水分放出作用により飛散することは、本願明細書中で試験等により確認されてもいない。
してみると、補正後の請求項2の発明は、酸化防止剤であるL-アスコルビン酸を野菜に伝達する手段に欠けるといわざるを得ないので、補正後の請求項2の発明は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない。
したがって、仮に本件補正を特許請求の範囲の減縮を目的としたものと見なしたとしても、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものとなり得ることを申し添える。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、拒絶査定時の明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「冷蔵温度帯室を備える冷蔵庫において、
この冷蔵温度帯室に食用酸を含浸させたフィルタを設けたことを特徴とする冷蔵庫。」

第4 引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用した、特開昭61-68052号公報(以下、「引用例」という)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(1)「本発明は自動車、事務所、工場、一般家庭等の室内、トイレ、冷蔵庫、衛生マスク等のフィルターに使用され、空気中の悪臭物質や有害物質の除去をする吸着剤である。」(1ページ左下欄8?10行)
(2)「本発明は、フィルター材にL-アスコルビン酸で安定した鉄(II)化合物の水溶液に、バインダーを添加してなる吸着剤であって、溶液状態であり噴霧、塗布あるいは浸漬その他適当な手段で、付着できるようにしたものである。」(1ページ左下欄15?17行)
(3)「この発明において、L-アスコルビン酸で安定した鉄(II)化合物とは、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄に対して3?10重量%のL-アスコルビン酸を添加したものである。この物はアンモニア、メルカプタン、硫化水素といった悪臭成分をよく吸収する・・・・・・多機能な二価イオン吸着剤として知られている。」(1ページ左下欄23行?右下欄4行)

上記記載について検討すると、記載(1)には、冷蔵庫のフィルターに使用され、空気中の悪臭物質を除去する吸着剤が記載されている。言い換えると、記載(1)には、悪臭物質の吸着剤を付着したフィルターを設けた冷蔵庫が記載されている。
そして、記載(2)には、このフィルターは、L-アスコルビン酸で安定した鉄(II)化合物の水溶液に、バインダーを添加してなる吸着剤をフィルター材に付着したものであることが記載されている。
さらに、記載(3)には、L-アスコルビン酸で安定した鉄(II)化合物とは、硫酸第一鉄等の鉄(II)化合物にL-アスコルビン酸を添加したもの、すなわち、鉄(II)化合物とL-アスコルビン酸との混合物であることが記載されている。

上記記載事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
「冷蔵庫に、L-アスコルビン酸を含む混合物を付着したフィルターを設けた冷蔵庫。」

第5 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「冷蔵庫」は、本願発明の「冷蔵庫」に相当する。
そして、引用発明の「L-アスコルビン酸を含む混合物を付着したフィルター」と本願発明の「食用酸を含浸させたフィルタ」とを対比するにあたり、「食用酸」について、本願明細書の記載を参酌すると、段落【0035】等に「L-アスコルビン酸、クエン酸、りんご酸等の食用酸」とあることから、引用発明の「L-アスコルビン酸」は、本願発明でいう「食用酸」に含まれるといえ、また、引用発明の「付着」は、本願発明の「含浸」と実質的に同義であるから、引用発明の「L-アスコルビン酸を含む混合物を付着したフィルター」は本願発明の「食用酸を含浸させたフィルタ」に相当する。

したがって、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
(一致点)
「冷蔵庫において、
食用酸を含浸させたフィルタを設けたことを特徴とする冷蔵庫。」

そして、両者は、次の点で相違する(対応する引用発明(引用例記載)の用語を( )内に示す)。

(相違点)
本願発明の冷蔵庫は、冷蔵温度帯室を備えたものであり、この冷蔵温度帯室に食用酸を含浸させたフィルタを設けているのに対し、引用発明の冷蔵庫は冷蔵温度帯室を備えたものであるか明らかではなく、食用酸を含浸させたフィルタ(L-アスコルビン酸を含む混合物を付着したフィルター)を設ける場所も明らかでない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
一般に、冷蔵温度帯室を備えた冷蔵庫は周知であり、この、冷蔵温度帯室に防臭用のフィルタを設けることも、例えば、原査定の拒絶の理由で引用した、特開平10-238934号公報(【請求項1】等:冷蔵庫の野菜室12に異臭の吸着およびその酸化分解をする調湿機能付きフィルタ23を設けた点参照)に示すように周知であるので、引用発明において、食用酸を含浸させたフィルタ(L-アスコルビン酸を含む混合物を付着したフィルター)を野菜室等の冷蔵庫の冷蔵温度帯室に設けるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-05 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-09-06 
出願番号 特願2003-284316(P2003-284316)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F25D)
P 1 8・ 121- Z (F25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 佐野 遵
松下 聡
発明の名称 冷蔵庫  
代理人 ▲角▼谷 浩  

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