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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1225927
審判番号 不服2008-389  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-07 
確定日 2010-10-29 
事件の表示 特願2003-194463「ゴム製コアを持つ低圧縮率、弾性ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日出願公開、特開2004- 41734〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月9日の出願(パリ条約による優先権主張 2002年7月9日 米国)であって、平成18年9月5日及び平成19年9月5日に手続補正がなされ、平成19年9月5日付け手続補正は平成19年10月3日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶査定され、これに対して、平成20年1月7日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年2月6日に手続補正がなされたものである。

第2 平成20年2月6日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年2月6日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成20年2月6日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前に、
「【請求項1】 カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、ポリブタジエン、フリーラジカル源およびハロゲン化有機硫黄化合物を含むシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含むことを特徴とする、上記ゴルフボール。
【請求項2】 カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、第一のトランス-異性体分を含む、一定量のポリブタジエン、フリーラジカル源およびハロゲン化有機硫黄化合物を含むシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含有し、該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも10%大きなトランス-異性体分の第二の量を含むことを特徴とする、上記ゴルフボール。
【請求項3】 該ハロゲン化有機硫黄化合物が、ペンタフルオロチオフェノール、2-フルオロチオフェノール、3-フルオロチオフェノール、4-フルオロチオフェノール、2,3-フルオロチオフェノール、2,4-フルオロチオフェノール、3,4-フルオロチオフェノール、3,5-フルオロチオフェノール、2,3,4-フルオロチオフェノール、3,4,5-フルオロチオフェノール、2,3,4,5-テトラフルオロチオフェノール、2,3,5,6-テトラフルオロチオフェノール、4-クロロテトラフルオロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、2-クロロチオフェノール、3-クロロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、2,3-クロロチオフェノール、2,4-クロロチオフェノール、3,4-クロロチオフェノール、3,5-クロロチオフェノール、2,3,4-クロロチオフェノール、3,4,5-クロロチオフェノール、2,3,4,5-テトラクロロチオフェノール、2,3,5,6-テトラクロロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、2-ブロモチオフェノール、3-ブロモチオフェノール、4-ブロモチオフェノール、2,3-ブロモチオフェノール、2,4-ブロモチオフェノール、3,4-ブロモチオフェノール、3,5-ブロモチオフェノール、2,3,4-ブロモチオフェノール、3,4,5-ブロモチオフェノール、2,3,4,5-テトラブロモチオフェノール、2,3,5,6-テトラブロモチオフェノール、ペンタヨードチオフェノール、2-ヨードチオフェノール、3-ヨードチオフェノール、4-ヨードチオフェノール、2,3-ヨードチオフェノール、2,4-ヨードチオフェノール、3,4-ヨードチオフェノール、3,5-ヨードチオフェノール、2,3,4-ヨードチオフェノール、3,4,5-ヨードチオフェノール、2,3,4,5-テトラヨードチオフェノール、又は2,3,5,6-テトラヨードチオフェノールを含む、請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】 該物質が、実質的に酸化防止剤を含まない、請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項5】 該フリーラジカル源対該酸化防止剤の比が、10またはそれ以上である、請求項4記載のゴルフボール。
【請求項6】 該フリーラジカル源対該シス-トランス触媒の比が、1またはそれ以下である、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項7】 該フリーラジカル源対該シス-トランス触媒の比が、1を越える値である、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項8】 該コアの内部で測定した第一の硬さが、該コアの外表面において測定した第二の硬さと、少なくとも10%異なっている、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項9】 該ハロゲン化有機硫黄化合物が、2.2phr以上の量で存在する請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項10】 該コアの内部で測定した第一の硬さが、該コアの外表面において測定した第二の硬さと、少なくとも10%異なっている、請求項2記載のゴルフボール。
【請求項11】 該物質が、少なくとも20%のトランス-異性体分を含む請求項1記載のゴルフボール。
【請求項12】 該トランス-異性体分の第一の量が、該トランス-異性体分の第二の量より少なくとも20%低い請求項2記載のゴルフボール。
【請求項13】 該トランス-異性体分の第二の量が、該コア外表面で測定され、また該コア内部で測定されたトランス-異性体分の第三の量が、該トランス-異性体分の第一の量よりも大きい、請求項2記載のゴルフボール。
【請求項14】 該トランス-異性体分の第三の量が、該トランス-異性体分の第二の量よりも、3%またはそれ以上だけ小さい、請求項12記載のゴルフボール。
【請求項15】 該トランス-異性体分の第三の量が、該トランス-異性体分の第二の量よりも、5%またはそれ以下だけ小さい、請求項12記載のゴルフボール。
【請求項16】 カバーがポリウレタン又はポリウレアを含む、請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項17】 ゴルフボールがさらに該コアと該カバーの間に配置された内側カバー層を含み、該内側カバー層がイオノマー物質を含む請求項16記載のゴルフボール。
【請求項18】 該カバーが、30?60ショアD硬さを有する請求項16記載のゴルフボール。
【請求項19】 該カバーが、30?60ショアD硬さを有し、該内側カバー層が50?75ショアD硬さを有する請求項17記載のゴルフボール。」とあったものを、

「【請求項1】 カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、ポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み、該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であり、該シス-トランス触媒が金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分を含み、かつポリブタジエン100部に対して2.2部以上の量で存在することを特徴とする、上記ゴルフボール。
【化1】

式中、R_(1)-R_(5)は、独立してC_(1)-C_(8)アルキル基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシレート基、スルホネート基、又は水素原子を示す。
【請求項2】 カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、第一のトランス-異性体分を含む、一定量のポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含有し、
該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み、該シス-トランス触媒がポリブタジエン100部に対して2.2部以上の量で存在すること、及び金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分を含むものであること、該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であることを特徴とする、上記ゴルフボール。
【化2】

式中、R_(1)-R_(5)は、独立してC_(1)-C_(8)アルキル基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシレート基、スルホネート基、又は水素原子を示す。
【請求項3】 該有機硫黄成分が、ペンタフルオロチオフェノール、2-フルオロチオフェノール、3-フルオロチオフェノール、4-フルオロチオフェノール、2,3-フルオロチオフェノール、2,4-フルオロチオフェノール、3,4-フルオロチオフェノール、3,5-フルオロチオフェノール、2,3,4-フルオロチオフェノール、3,4,5-フルオロチオフェノール、2,3,4,5-テトラフルオロチオフェノール、2,3,5,6-テトラフルオロチオフェノール、4-クロロテトラフルオロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、2-クロロチオフェノール、3-クロロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、2,3-クロロチオフェノール、2,4-クロロチオフェノール、3,4-クロロチオフェノール、3,5-クロロチオフェノール、2,3,4-クロロチオフェノール、3,4,5-クロロチオフェノール、2,3,4,5-テトラクロロチオフェノール、2,3,5,6-テトラクロロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、2-ブロモチオフェノール、3-ブロモチオフェノール、4-ブロモチオフェノール、2,3-ブロモチオフェノール、2,4-ブロモチオフェノール、3,4-ブロモチオフェノール、3,5-ブロモチオフェノール、2,3,4-ブロモチオフェノール、3,4,5-ブロモチオフェノール、2,3,4,5-テトラブロモチオフェノール、2,3,5,6-テトラブロモチオフェノール、ペンタヨードチオフェノール、2-ヨードチオフェノール、3-ヨードチオフェノール、4-ヨードチオフェノール、2,3-ヨードチオフェノール、2,4-ヨードチオフェノール、3,4-ヨードチオフェノール、3,5-ヨードチオフェノール、2,3,4-ヨードチオフェノール、3,4,5-ヨードチオフェノール、2,3,4,5-テトラヨードチオフェノール、又は2,3,5,6-テトラヨードチオフェノールを含む、請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】 該物質が、実質的に酸化防止剤を含まない、請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項5】 該フリーラジカル源対該酸化防止剤の比が、25またはそれ以上である、請求項4記載のゴルフボール。
【請求項6】 該フリーラジカル源対該シス-トランス触媒の比が、1またはそれ以下である、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項7】 該フリーラジカル源対該シス-トランス触媒の比が、1を越える値である、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項8】 該コアの内部で測定した第一の硬さが、該コアの外表面において測定した第二の硬さと、少なくとも10%異なっている、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項9】 該有機硫黄成分が、2.3phr以上の量で存在する請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項10】 該コアの内部で測定した第一の硬さが、該コアの外表面において測定した第二の硬さと、少なくとも10%異なっている、請求項2記載のゴルフボール。
【請求項11】 該物質が、少なくとも20%のトランス-異性体分を含む請求項1記載のゴルフボール。
【請求項12】 該トランス-異性体分の第一の量が、該トランス-異性体分の第二の量より少なくとも20%低い請求項2記載のゴルフボール。
【請求項13】 該トランス-異性体分の第二の量が、該コア外表面で測定され、また該コア内部で測定されたトランス-異性体分の第三の量が、該トランス-異性体分の第一の量よりも大きい、請求項2記載のゴルフボール。
【請求項14】 該トランス-異性体分の第三の量が、該トランス-異性体分の第二の量よりも、3%またはそれ以上だけ小さい、請求項12記載のゴルフボール。
【請求項15】 該トランス-異性体分の第三の量が、該トランス-異性体分の第二の量よりも、5%またはそれ以下だけ小さい、請求項12記載のゴルフボール。
【請求項16】 カバーがポリウレタン又はポリウレアを含む、請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項17】 ゴルフボールがさらに該コアと該カバーの間に配置された内側カバー層を含み、該内側カバー層がイオノマー物質を含む請求項16記載のゴルフボール。
【請求項18】 該カバーが、30?60ショアD硬さを有する請求項16記載のゴルフボール。
【請求項19】 該カバーが、30?60ショアD硬さを有し、該内側カバー層が50?75ショアD硬さを有する請求項17記載のゴルフボール。」に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

(2)上記(1)の本件補正は、以下の補正内容を含む。
本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「シス-トランス触媒」に含まれる成分を、「ハロゲン化有機硫黄化合物」から、「金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分」とする。
「【化1】

式中、R_(1)-R_(5)は、独立してC_(1)-C_(8)アルキル基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシレート基、スルホネート基、又は水素原子を示す。」
(3)上記(2)の一般式中のR_(1)-R_(5)が、独立してC_(1)-C_(8)アルキル基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシレート基、スルホネート基、又は水素原子を示すことから、該一般式で示される化合物には、例えば、R_(1)-R_(5)がすべて水素原子であるような、ハロゲン原子を全く含まない有機硫黄化合物が含まれる。
(4)金属がハロゲン化有機硫黄化合物でないことは明らかである。
(5)上記(3)及び(4)から、上記(2)の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「シス-トランス触媒」を、ハロゲン化有機硫黄化合物を含むものから、ハロゲン化有機硫黄化合物を含まないものにまで拡張しようとするものである。

2 本件補正の目的
上記1(2)の補正内容を含む請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を拡張するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。
したがって、本件補正は、旧特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

3 補正却下の決定についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、旧特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 独立特許要件(補正却下の決定についての付言)
なお、念のため、本件補正が、旧特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとした場合に、本件補正後の請求項1ないし19に係る発明(以下「本願補正発明1ないし19」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(1)特許法第36条第4項第1号違反
本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
ア 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0005】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、改良された構造を持つゴルフボールに組み込まれた、改良されたコアおよびカバー組成物を含むソフトな感触、良好なスピン特性および飛距離に関して最適なゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、ポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み、該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であり、該シス-トランス触媒が金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分を含み、かつポリブタジエン100部に対して2.2部以上の量で存在することを特徴とする、上記ゴルフボール。【化1】(省略)」(以下「本願補正発明1特定事項」という。)及び本願明細書の特許請求の範囲の請求項2に示された「カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、第一のトランス-異性体分を含む、一定量のポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含有し、該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み、該シス-トランス触媒がポリブタジエン100部に対して2.2部以上の量で存在すること、及び金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分を含むものであること、該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であることを特徴とする、上記ゴルフボール。【化2】(省略)」(以下「本願補正発明2特定事項」という。)との多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定で規定する技術的意義は明らかでない。

イ 本願の明細書の発明の詳細な説明には、以下の(ア)ないし(エ)の記載がある。
(ア) 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、改良された構造を持つゴルフボールに組み込まれた、改良されたコアおよびカバー組成物を含むゴルフボールを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
一般に、本発明のゴルフボールは、コアと該コアの周りに同心状に設けられたカバーとを含み、転化反応により生成された材料(反応生成物)は、好ましくは該コアの少なくとも一部に配置される。このゴルフボールは、また該コアと該カバーとの間に設けられた追加の層を含むことができる。
該ポリブタジエン反応生成物は、好ましくは十分な量のポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒を転化反応させることにより、該ポリブタジエン中のシス-異性体の一部をトランス-異性体に転化することにより生成される。ここで、該反応はトランス-異性体およびシス-異性体を含む物質を生成するのに十分な温度にて起こり、また該物質は、該転化反応前に存在していたトランス-異性体の量よりも大きな、トランス-異性体の量を含む。
【0006】
該シス-トランス触媒は、有機硫黄化合物、無機スルフィド、周期律表第VIA族成分、またはその組合せを含むことができる。一態様において、該有機硫黄化合物は、実質的に金属を含まず、またジフェニルジスルフィドまたはジトリルジスルフィドまたはこれら両者の内少なくとも一つを含む。もう一つの態様において、該有機硫黄化合物は、ジトリルジスルフィドを含む。更に別の態様において、該シス-トランス触媒は、更に芳香族有機金属化合物、金属-有機硫黄化合物、芳香族有機化合物またはこれらの組合せの内少なくとも一つを含む。
好ましくは、該シス-トランス触媒は、ポリブタジエン100部あたり約0.1?25部、好ましくはポリブタジエン100部あたり約0.1?12部、より好ましくはポリブタジエン100部あたり約0.1?8部なる範囲の量で存在する。一態様において、該シス-トランス触媒は、少なくとも約32%のトランス-異性体を含む、該ポリブタジエン反応生成物を生成するのに十分な量で存在する。」
(イ) 「【0016】
何等特定の理論に拘泥するつもりはないが、少量の1,2-ポリブタジエン異性体(「ビニル-ポリブタジエン」)が、初期ポリブタジエンおよび該反応生成物において望ましいと考えられる。典型的に、該ビニル-ポリブタジエン異性体含有率は、約7%未満、好ましくは約4%未満、およびより好ましくは約2%未満である。
触媒
何等特定の理論に拘泥するつもりはないが、該フリーラジカル源との組合せによる、該シス-トランス触媒成分は、ある割合の該ポリブタジエンポリマー成分を、そのシス-配座からトランス-配座に転化するように機能するものと考えられる。従って、このシス-トランス転化は、シス-トランス触媒、例えば有機硫黄または金属含有有機硫黄化合物、硫黄または金属を含まない置換または無置換の芳香族有機化合物、有機スルフィド化合物、芳香族有機金属化合物、またはこれらの混合物の存在を必要とする。
【0017】
ここで使用する「シス-トランス触媒」とは、所定の温度にて、シス-異性体の少なくとも一部をトランス-異性体に転化するであろう任意の成分またはその組合せを意味する。このシス-トランス触媒成分は、1またはそれ以上のここに記載するシス-トランス触媒を含むことができるが、典型的には少なくとも一種の有機硫黄成分、周期律表第VIA族成分、無機スルフィド、またはこれらの組合せを含む。一態様において、このシス-トランス触媒は、有機硫黄成分と、無機スルフィド成分または第VIA族成分とのブレンドである。
本発明に言及する際にここで使用する用語「有機硫黄化合物」または「有機硫黄成分」とは、炭素、水素および硫黄を含む任意の化合物を意味する。ここで使用する用語「硫黄成分」とは、成分、即ち元素状硫黄、ポリマー状硫黄またはその組合せを意味する。更に、「元素状硫黄」とは、S_(8)のリング構造を意味し、また「ポリマー状硫黄」とは、該元素状硫黄に対して少なくとも一つの付随的な硫黄を含む構造を持つものである。
【0018】
該シス-トランス触媒は、典型的に、該トランス-ポリブタジエン異性体含有率を高め、全弾性ポリマー成分を基準として、約5?70%のトランス-異性体ポリブタジエンを含む該反応生成物を得るのに十分な量で存在する。従って、このシス-トランス触媒は、好ましくは全弾性ポリマー成分100部当たり、約0.1?約25部なる範囲の量で存在する。ここで使用する用語「100部当たりの部」とは、「phr」としても知られ、全ポリマー成分100質量部に対して、混合物中に存在する特定の成分の質量部数として定義される。数学的には、ある成分の質量を該ポリマーの全質量で割り、ファクタ100を乗じたものとして表すことができる。一態様において、このシス-トランス触媒は、該弾性ポリマー成分全体の約0.1?約12 phrなる範囲、好ましくは約0.1?約10 phrなる範囲、より好ましくは約0.1?約8 phr、およびより一層好ましくは約0.1?約5 phrなる範囲の量で存在する。
【0019】
好ましくは、有機硫黄化合物または成分は、芳香族有機硫黄成分、例えばアリール化合物を含む。より好ましくは、本発明において使用するのに適した有機硫黄成分は、少なくとも一種のジフェニルジスルフィド、4,4'-ジトリルジスルフィド、2,2'-ベンズアミドジフェニルジスルフィド、ビス(2-アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(4-アミノフェニル)ジスルフィド、ビス(3-アミノフェニル)ジスルフィド、2,2'-ビス(4-アミノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(3-アミノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(4-アミノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(5-アミノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(6-アミノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(7-アミノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(8-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(2-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(3-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(3-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(4-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(5-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(6-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(7-アミノナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(8-アミノナフチル)ジスルフィド、1,2'-ジアミノ-1,2'-ジチオジナフタレン、2,3'-ジアミノ-1,2'-ジチオジナフタレン、ビス(4-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4-フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2-クロロ-5-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6-ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-シアノフェニル)ジスルフィド、ビス(2-シアノフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ニトロフェニル)ジスルフィド、ビス(2-ニトロフェニル)ジスルフィド、エチル2,2'-ジチオ安息香酸、メチル2,2'-ジチオ安息香酸、2,2'-ジチオ安息香酸、エチル4,4'-ジチオ安息香酸、ビス(4-アセチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2-アセチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ホルミルフェニル)ジスルフィド、ビス(4-カルバモイルフェニル)ジスルフィド、1,1'-ジナフチルジスルフィド、2,2'-ジナフチルジスルフィド、1,2'-ジナフチルジスルフィド、2,2'-ビス(1-クロロジナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(1-ブロモナフチル)ジスルフィド、1,1'-ビス(2-クロロナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(1-シアノナフチル)ジスルフィド、2,2'-ビス(1-アセチルナフチル)ジスルフィド、等またはこれらの混合物を含む。最も好ましい有機硫黄成分は、ジフェニルジスルフィド、4,4'-ジトリルジスルフィド、またはこれらの混合物、特に4,4'-ジトリルジスルフィドを含む。
【0020】
一態様において、該少なくとも一種の有機硫黄成分は、実質的に金属を含まないものである。ここで使用する用語「実質的に金属を含まない」とは、約10質量%未満、好ましくは約5質量%未満、より好ましくは約3質量%未満、より一層好ましくは約1質量%未満および最も好ましくは約0.01質量%未満を意味する。硫黄または金属を含まない、適当な置換または未置換の芳香族有機成分は、ジフェニルアセチレン、アゾベンゼン、またはこれらの混合物を含むが、これらに制限されない。該芳香族有機基は、好ましくはそのサイズにおいて、C_(6)?C_(20)およびより好ましくはC_(6)?C_(10)なる範囲内にある。
該有機硫黄シス-トランス触媒が存在する場合、これは好ましくは該弾性ポリマー成分全体を基準として、任意の位置において少なくとも約12%のトランス-異性体を、好ましくは任意の位置において約32%を越えるトランス-異性体ポリブタジエンを含む反応生成物を生成するのに十分な量で存在する。該有機硫黄シス-トランス触媒は、また任意の位置において少なくとも約10%の、より好ましくは少なくとも約15%のおよびより一層好ましくは少なくとも約20%のトランス-異性体を含む反応生成物を生成するのに十分な量で存在する。更に別の態様において、該シス-トランス触媒は、任意の位置において少なくとも約25%の、より好ましくは少なくとも約30%のおよびより一層好ましくは少なくとも約35%のトランス-異性体を含む反応生成物を生成するのに十分な量で存在する。更に多量のシス-トランス触媒を使用して、より一層高い率でトランス-異性体を作ることも可能である。例えば、該シス-トランス触媒は、任意の位置において少なくとも約38%の、より好ましくは少なくとも約40%のおよびより一層好ましくは少なくとも約45%のトランス-異性体を含む反応生成物を生成するのに十分な量で存在する。
【0021】
一態様において、該有機硫黄シス-トランス触媒は、約0.5 phrまたはそれ以上の量で、該反応生成物中に存在する。もう一つの態様において、該シス-トランス触媒は第VIA族成分を含み、これは約0.6 phrまたはそれ以上、好ましくは約10 phrまたはそれ以上およびより好ましくは約2.0 phrまたはそれ以上の量で、該反応生成物中に存在する。
適当な金属-含有有機硫黄成分は、ジエチルジチオカルバメート、ジアミルジチオカルバメート、およびジメチルジチオカルバメート、またはこれらの混合物のカドミウム、銅、鉛およびテルル類似体を含むが、これらに限定されない。
一態様において、該金属-含有有機硫黄シス-トランス触媒は、約1.0 phrまたはそれ以上、好ましくは約2.0 phrまたはそれ以上、より好ましくは約2.5 phrまたはそれ以上およびより一層好ましくは約3.0 phrまたはそれ以上の量で、該反応生成物中に存在する。
一態様において、有機硫黄成分は、ハロゲン化有機硫黄化合物である。ハロゲン化有機硫黄化合物は、以下の一般式で示されるものを含むが、これらに限定されない:
【0022】
【化1】(略)
【0023】
該一般式において、R1-R5は、任意の順序のC1-C8アルキル基、ハロゲン原子、チオール基(-SH)、カルボキシレート基、スルホネート基、および水素原子、およびペンタフルオロチオフェノール、2-フルオロチオフェノール、3-フルオロチオフェノール、4-フルオロチオフェノール、2,3-フルオロチオフェノール、2,4-フルオロチオフェノール、3,4-フルオロチオフェノール、3,5-フルオロチオフェノール、2,3,4-フルオロチオフェノール、3,4,5-フルオロチオフェノール、2,3,4,5-テトラフルオロチオフェノール、2,3,5,6-テトラフルオロチオフェノール、4-クロロテトラフルオロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、2-クロロチオフェノール、3-クロロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、2,3-クロロチオフェノール、2,4-クロロチオフェノール、3,4-クロロチオフェノール、3,5-クロロチオフェノール、2,3,4-クロロチオフェノール、3,4,5-クロロチオフェノール、2,3,4,5-テトラクロロチオフェノール、2,3,5,6-テトラクロロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、2-ブロモチオフェノール、3-ブロモチオフェノール、4-ブロモチオフェノール、2,3-ブロモチオフェノール、2,4-ブロモチオフェノール、3,4-ブロモチオフェノール、3,5-ブロモチオフェノール、2,3,4-ブロモチオフェノール、3,4,5-ブロモチオフェノール、2,3,4,5-テトラブロモチオフェノール、2,3,5,6-テトラブロモチオフェノール、ペンタヨードチオフェノール、2-ヨードチオフェノール、3-ヨードチオフェノール、4-ヨードチオフェノール、2,3-ヨードチオフェノール、2,4-ヨードチオフェノール、3,4-ヨードチオフェノール、3,5-ヨードチオフェノール、2,3,4-ヨードチオフェノール、3,4,5-ヨードチオフェノール、2,3,4,5-テトラヨードチオフェノール、2,3,5,6-テトラヨードチオフェノール、およびこれらの亜鉛塩であり得る。
【0024】
好ましくは、該ハロゲン化有機硫黄化合物は、ペンタクロロチオフェノールであり、これはニート(neat)型あるいは商品名ストラクトール(STRUKTOLTM)の下で市販されており、これは45%(2.4部のPCTPに相当)にて担持された、該硫黄化合物ペンタクロロチオフェノールを含むクレーを主成分とする担体である。このストラクトールは、OH、ストーの、米国におけるトラクトール(Struktol)社から市販品として入手できる。PCTPは、ニート形状でCA、サンフランシスコのエチナケム(eChinachem)社から、また塩の状態でCA、サンフランシスコのエチナケム社から市販品として入手できる。最も好ましくは、該ハロゲン化有機硫黄化合物は、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩であり、CA、サンフランシスコのエチナケム社から市販品として入手できる。本発明の該ハロゲン化有機硫黄化合物は、好ましくは約2.2 phrを越える量、より好ましくは約2.3 phr?約5 phrなる範囲の量、および最も好ましくは約2.3 phr?約4 phrなる範囲の量で存在する。」
(ウ) 「【0035】
・・(中略)・・
酸化防止剤
典型的に、酸化防止剤は、公知のゴルフボールコア組成物に含まれており、その理由は、酸化防止剤がゴルフボールコアで使用する化合物の製造業者によって供給される材料中に含まれているからである。如何なる特定の理論にも拘泥するつもりはないが、該反応生成物における多量の酸化防止剤の存在は、該酸化防止剤が、該フリーラジカル源の少なくとも一部として消費されることから、低いトランス-異性体含有率をもたらす可能性がある。従って、前に記載した該反応生成物における該フリーラジカル源を大量に、例えば約3 phrなる量で使用しても、約0.3 phrを越える酸化防止剤の量が、シス-トランス転化を補助するために実際に利用できる、該フリーラジカルの有効量を大幅に減じる可能性がある。
【0036】
該組成物における酸化防止剤の存在は、フリーラジカルが十分に該シス-トランス転化を補助する能力を、阻害してしまう可能性があると考えられるので、該転化のために提供される、フリーラジカルの十分な量を保証する一つの方法は、該組成物内に存在するフリーラジカルの初期レベルを高めて、該組成物中の酸化防止剤との相互作用後に、十分な量のフリーラジカルを残すことである。このように、該組成物に与えられたフリーラジカルの初期の量は、少なくとも約10%だけ増大することができ、またより好ましくは少なくとも約25%だけ増大させて、残留フリーラジカルの有効量が、該所定のシス-トランス転化を十分にもたらすのに満足な値とする。該組成物内に存在する酸化防止剤の量に依存して、フリーラジカルの初期の量は、少なくとも50%、100%または必要に応じて更に高い量まで高めることができる。以下で論じるように、該組成物におけるフリーラジカルの量の選択は、フリーラジカル対酸化防止剤の所定の比に基いて決定することができる。
【0037】
もう一つの方法は、該組成物における酸化防止剤の濃度を減じまたはこれを排除することである。例えば、本発明の反応生成物は、酸化防止剤を実質的に含まず、結果として該シス-トランス転化に対する、該フリーラジカルの高い利用性を達成することができる。ここで使用する用語「実質的に含まない」とは、一般に該ポリブタジエン反応生成物が、約0.3 phr未満の酸化防止剤を含み、好ましくは約0.1 phr未満の酸化防止剤を含み、より好ましくは約0.05 phr未満の酸化防止剤を含み、および最も好ましくは約0.01 phrまたはそれ以下の酸化防止剤を含むことを意味する。
酸化防止剤の量は、転化後のトランス-異性体分の量と相関関係を持つことがここで示された。例えば、0.5 phrの酸化防止剤を含み、約168℃(335°F)にて11分間硬化したポリブタジエン反応生成物は、該中心の外表面において約15%のトランス-異性体含有率、および該転化反応後の内部位置における約13.4%なるトランス-異性体含有率をもたらす。これとは対照的に、実質的に酸化防止剤を含まない同一のポリブタジエン反応生成物は、外側表面における約32%なるトランス-異性体含有率、および該転化反応後の内部位置における約21.4%なるトランス-異性体含有率をもたらす。
【0038】
一態様において、該フリーラジカル源対酸化防止剤の比は、約10を越え、好ましくは約25を越え、およびより好ましくは約50を越える。もう一つの態様において、このフリーラジカル源-酸化防止剤の比は約100またはそれ以上、好ましくは約200またはそれ以上、より好ましくは250またはそれ以上、およびより一層好ましくは約300またはそれ以上である。
該反応生成物が、実質的に酸化防止剤を含まない場合、該フリーラジカル源の量は、約3 phrまたはそれ以下、好ましくは約2.5 phrまたはそれ以下、およびより好ましくは約2 phrまたはそれ以下であり得る。一態様において、該反応生成物における該フリーラジカルの量は、約1.5 phrまたはそれ以下、好ましくは約1 phrまたはそれ以下、およびより好ましくは約0.75 phrまたはそれ以下である。
【0039】
該反応生成物が、約0.1 phrまたはそれ以上の酸化防止剤を含む場合、該フリーラジカル源は、好ましくは約1 phrまたはそれ以上の量で存在する。一態様において、該反応生成物が、約0.1 phrまたはそれ以上の酸化防止剤を含む場合、該フリーラジカル源は、約2 phrまたはそれ以上の量で存在する。別の態様において、酸化防止剤が、約0.1 phrまたはそれ以上の量で存在する場合、該フリーラジカル源は約2.5 phrまたはそれそれ以上の量で存在する。
一態様において、該反応生成物が、約0.05 phrを越える酸化防止剤を含む場合、該フリーラジカル源は、好ましくは約0.5 phrまたはそれ以上の量で存在する。別の態様において、該反応生成物が、約0.05 phrを越える酸化防止剤を含む場合、該フリーラジカル源は、約2 phrまたはそれ以上の量で存在する。更に別の態様において、酸化防止剤が、約0.05 phrまたはそれ以上の量で存在する場合、該フリーラジカル源は約2.5 phrまたはそれそれ以上の量で存在する。」
(エ) 「【0118】
実施例33-35:ハロゲン化有機硫黄化合物を含むコア
各々外径約4.01 cm (1.58 in)を持つ3つの中実コアを、ポリブタジエンゴム、亜鉛ジアクリレート、酸化亜鉛、ジクミルパーオキシド、硫酸バリウムおよび着色剤の分散物を含む組成物から製造した。従来技術の代表的なコアの一つを、コントロールとして用いた(実施例33)。残りの2つのコアは、各々付随的に5.3部のストラクトール(StruktolTM) (実施例34)および2.4部のペンタクロロチオフェノール(PCTP)の亜鉛塩(実施例35)とブレンドした。5.3部のストラクトールは、2.4部のPCTPを含む。これら中実コア用の特定の組成を、以下の表10に示す。
【0119】
・・(中略)・・
【0120】
表10(続き)

(オ) しかしながら、上記記載(ア)ないし(エ)を参酌しても、本願補正発明1ないし19の「金属と上記一般式(【化1】(略))で示される有機硫黄成分を含むシス-トランス触媒」に相当するペンタクロロチオフェノール(PCTP)の亜鉛塩を含む具体例である実施例35において、「シス-トランス触媒の転化反応により生成された物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含む」のか否か不明である。さらに、実施例35で使用されるコア成分中に含まれる酸化防止剤の具体的な値も不明である。
したがって、上記実施例35に記載のコアが、特許請求の範囲の請求項1に記載の「ポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み」及び特許請求の範囲の請求項2に記載の「該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み」並びに特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の「該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上である」を満たすか否かは明らかでない以上、従来のゴルフボールに比して「改良された構造を持つゴルフボールに組み込まれた、改良されたコアおよびカバー組成物を含むソフトな感触、良好なスピン特性および飛距離に関して最適なゴルフボールを得る」という本願補正発明1ないし19の効果は、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を以てしては、当業者といえども理解できない。
(カ)上記(オ)のとおり、本願の発明の詳細な説明は、本願補正発明1ないし19について、技術的意義が明らかでなく、また当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

ウ まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、当業者が本願補正発明1ないし19に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本願補正発明1ないし19は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2) 特許法第36条第6項第1号違反
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし19の記載について
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明は、多数の数値限定でゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明1特定事項及び特許請求の範囲の請求項2の本願補正発明2特定事項に係る多数の数値限定に関する記載について、以下に検討する。
ア 本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び特許請求の範囲の請求項2の上記記載との技術的関係
(ア) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0005】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、ソフトな感触、良好なスピン特性および飛距離に関して最適なゴルフボールを提供する必要性から、改良された構造を持つゴルフボールに組み込まれた、改良されたコアおよびカバー組成物を含むゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された本願補正発明1特定事項及び特許請求の範囲の請求項2に示された本願補正発明2特定事項に関する数値限定に関連して、上記(1)イ(ア)ないし(エ)に示す記載がある。
(ウ) 上記(イ)から、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明1特定事項に関する数値限定及び許請求の範囲の請求項2の本願補正発明2特定事項に関する数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)にて検討したとおり、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明1特定事項及び特許請求の範囲の請求項2の本願補正発明2特定事項に関する数値限定と、本願明細書に開示された発明の課題との間に、明確な技術的関係があるとは、当業者といえども理解することができない。

イ 小括
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明1特定事項及び特許請求の範囲の請求項2の本願補正発明2特定事項に関する数値限定と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。

ウ 本願明細書における具体例の開示からの検討
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の「該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み」及び特許請求の範囲の請求項2の「該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み」並びに本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であり」について、以下に検討する。
a 本願明細書の発明の詳細な説明に記載の具体例について、本願の明細書に記載の実施例35が前記「該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み」及び前記「該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み」並びに本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であり」を満たすか否かは明らかでないことは、上記(1)で述べたとおりである。
b してみれば、上記aから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み」及び特許請求の範囲の請求項2に記載された「該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み」並びに本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であり」との数値限定に対応する具体例が、一例も記載されていないことになる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み」及び特許請求の範囲の請求項2に記載された「該物質が、トランス-異性体分の第一の量よりも少なくとも20%大きなトランス-異性体分の第二の量を含み」並びに本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「該フリーラジカル源対酸化防止剤の比が、10またはそれ以上であり」との数値限定に関し、具体例を開示していないという点からみて、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。
エ まとめ
上記アないしウにて検討したとおりであるから、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の上記記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2並びに請求項1又は請求項2の従属請求項(請求項3ないし19)の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。
よって、本願補正発明1ないし19は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3) 特許法第29条第2項違反
ア 刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第00/38787号(以下「引用例」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
(ア)「The present invention relates to one-piece golf balls and two piece golf balls having a core and a cover,or multilayer golf balls having a solid, hollow, or fluid-filled center, at least one intermediate layer disposed concentrically adjacent to the center, and a cover. At least one of the center, cover, or intermediate layer is formed from the conversion reaction of an amount of polybutadiene, a free radical source, and a cis-to-trans catalyst including at least one inorganic sulfide at a sufficient temperature to form a polybutadiene reaction product that includes an amount of trans-polybutadiene greater than the amount of trans-polybutadiene present before the conversion reaction, and a cis-to-trans catalyst including at least one inorganic sulfide. The reactants, reaction product, or both, may optionally include other components, such as a free radical source, a crosslinking agent, a filler, or any combination thereof. Preferably, the reaction product has a first dynamic stiffness measured at -50℃ that is less than about 130 percent of a second dynamic stiffness measured at 0℃. More preferably, the first dynamic stiffnesses is less than about 125 percent of the second dynamic stiffness.」(9頁33行?10頁10行)
(審決訳:本発明は、コアとカバーとをもつワンピースゴルフボールおよびツーピースゴルフボール、または中実、中空、もしくは流体充填中心、該中心と同心状に隣接して設けられた少なくとも1層の中間層、およびカバーを有する多層ゴルフボールに関する。該中心、カバー、または中間層の少なくとも一つは、一定量のポリブタジエン、フリーラジカル源、および少なくとも1種の無機スルフィドを含むシス-トランス触媒の、転化反応により製造される。該転化反応は、この反応前に存在するトランス-ポリブタジエンの量を越える、一定量のトランス-ポリブタジエンを含有する、ポリブタジエン反応生成物を形成するのに十分な温度にて行われる。これら反応物、反応生成物またはこれら両者は、場合により他の成分、例えばフリーラジカル源、架橋剤、フィラー、またはこれらの任意の組み合わせを含むことができる。好ましくは、この反応生成物は、0℃にて測定した第二動的剛性の約130%未満の、-50℃にて測定した第一動的剛性を有する。より好ましくは、該第一動的剛性は、該第二動的剛性の約125%未満である。)
(イ)「The cis-to-trans catalyst is preferably present in an amount from about 0.1 to 25 parts per hundred of the total resilient polymer component. More preferably, the cis-to-trans catalyst is present in an amount from about 0.1 to 12 parts per hundred of the total resilient polymer component. Most preferably, the cis-to-trans catalyst is present in an amount from about 0.1 to 8 parts per hundred of the total resilient polymer component. The cis-to-trans catalyst is typically present in an amount sufficient to produce the reaction product so as to increase the trans- polybutadiene isomer content to contain from about 5 percent to 70 percent trans- polybutadiene based on the total resilient polymer component.
A free-radical initiator is required in the reactants to form the reaction product of the invention. The free-radical source is typically a peroxide, and preferably an organic peroxide. Suitable free-radical sources include di-t-amyl peroxide, di(2-t-butylperoxyisopropyl)benzene peroxide, 1,l-bis(t-butylperoxy)-3,3,5-trimethylcyclohexane, dicumyl peroxide, di-t-butyl peroxide, 2,5-di-(t-butylperoxy)-2,5-dimethyl hexane, n-butyl-4,4-bis(t-butylperoxy)valerate, lauryl peroxide, benzoyl peroxide, t-butyl hydroperoxide, and the like, and any mixture thereof. The peroxide is typically present in an amount greater than about 0.1 parts per hundred of the total resilient polymer component, preferably about 0.1 to 15 parts per hundred of the resilient polymer component, and more preferably about 0.2 to 5 parts per hundred of the total resilient polymer component. The free radical initiator may also be one or more sources such as an electron beam, UV or gamma radiation, x-rays, or any other high energy radiation source capable of generating free radicals.」(12頁4行?24行)
(審決訳: 好ましくは、このシス-トランス触媒は、該反発弾性ポリマー成分全体100部当たり、約0.1?25部なる量で存在する。より好ましくは、該シス-トランス触媒は、該反発弾性ポリマー成分全体100部当たり、約0.1?12部なる量で存在する。最も好ましくは、該シス-トランス触媒は、該反発弾性ポリマー成分全体100部当たり、約0.1?8部なる量で存在する。該シス-トランス触媒は、典型的には該トランス-ポリブタジエン異性体含有率を高め、該反発弾性ポリマー成分全体を基準として、約5%?70%のトランス-ポリブタジエンを含むように、該反応生成物を製造するのに十分な量で存在する。
該反応試薬において、本発明の反応生成物を形成するために、フリーラジカル開始剤が必要となる。このフリーラジカル源は、典型的には過酸化物であり、好ましくは有機過酸化物である。適当なフリーラジカル源は、ジ-t-アミルパーオキシド、ジ(2-t-ブチル-パーオキシイソプロピル)ベンゼンパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド等、および任意のこれらの混合物を含む。このパーオキシドは、典型的には該反発弾性ポリマー成分100部当たり、約0.1部を越える量、好ましくは該反発弾性ポリマー成分100部当たり、約0.1?15部なる範囲の量、およびより好ましくは該反発弾性ポリマー成分100部当たり、約0.2?5部なる範囲の量で存在する。このフリーラジカル開始剤は、また電子線、UVまたはγ放射線、x-線またはフリーラジカルを発生し得るあらゆる他の高エネルギー輻射線源等の、1種以上の源であっても良い。)
(ウ)「To produce a polymer reaction product that exhibits the higher resilience and lower modulus (low compression) properties that are desirable and beneficial to golf ball playing characteristics, high-molecular-weight cis-l,4-polybutadiene, preferably may be converted to the trans- isomer during the molding cycle. The polybutadiene material typically has a molecular weight of greater than about 200,000. Preferably, the polybutadiene molecular weight is greater than about 250,000, more preferably between about 300,000 and 500,000. Without wishing to be bound by any particular theory, it is believed that the cis-to-trans catalyst compound(s), in conjunction with the free radical source, acts to convert a percentage of the polybutadiene polymer component from the cis-to the trans- conformation. The cis-to-trans conversion requires the presence of a cis-to-trans catalyst, such as an organosulfur or metal-containing organosulfur compound, a substituted or unsubstituted aromatic organic compound that does not contain sulfur or metal, an inorganic sulfide compound, an aromatic organometallic compound, or mixtures thereof. As used herein, cis-to-trans catalyst means any compound or a combination thereof, that will convert at least a portion of cis-polybutadiene isomer to trans- polybutadiene isomer at a given temperature. The cis-to-trans catalyst component may include one or more of the other cis-to-trans catalysts described above, but must include at least one inorganic sulfide compound.
Suitable organosulfur compounds include, but are not limited to, 4,4fdiphenyl disulfide, 4,4f-ditolyl disulfide, or 2,2'-benzamido diphenyl disulfide, or a mixture thereof. When used, the organosulfur cis-to-trans catalyst is present in an amount sufficient to produce the reaction product so as to contain at least about 12 percent trans-polybutadiene isomer, but preferably is present in an amount of greater than about 32 percent trans-polybutadiene isomer based on the total resilient polymer component. Suitable metal-containing organosulfur compounds include, but are not limited to, cadmium, copper, lead, and tellurium analogs of diethyldithiocarbamate, diamyldithiocarbamate, and dimethyldithiocarbamate, or mixtures thereof. 」(10頁29行?11頁20行)
(審決訳:ゴルフボールの競技特性にとって望ましく、かつ有利な上記のより高いレジリエンスおよびより低い弾性率(低い圧縮)特性を示す、ポリマー反応生成物を得るためには、高分子量シス-1,4-ポリブタジエンを、好ましくは該成形サイクル中に、該トランス-異性体に転化できる。このポリブタジエン材料は、典型的には、約200,000を越える分子量を有する。好ましくは、該ポリブタジエンの分子量は、約250,000を越え、より好ましくは約300,000?500,000の範囲内にある。如何なる特定の理論にも拘泥するつもりはないが、該フリーラジカル源と組み合わせた、このシス-トランス触媒化合物は、該ポリブタジエンポリマー成分の一定割合を、そのシス-形状からトランス-形状に転化するように作用する。このシス-トランス転化は、シス-トランス触媒、例えば有機硫黄または金属-含有有機硫黄化合物、硫黄または金属を含まない置換または無置換の芳香族有機化合物、無機スルフィド化合物、芳香族有機金属化合物、またはこれらの混合物の存在を必要とする。本明細書で使用する用語「シス-トランス触媒」とは、所定の温度において、シス-ポリブタジエン異性体の少なくとも一部を、トランス-ポリブタジエン異性体に転化する、任意の化合物またはその組み合わせを意味する。このシス-トランス触媒成分は、一種以上の上記他のシス-トランス触媒を含むことができるが、少なくとも一種の無機スルフィド化合物を含む必要がある。
適当な有機硫黄化合物は、4,4'-ジフェニルジスルフィド、4,4'-ジトリルジスルフィド、または2,2'-ベンズアミドジフェニルジスルフィド、またはこれらの混合物を含むが、これらに制限されない。該有機硫黄シス-トランス触媒を使用する場合、該触媒は、少なくとも約12%のトランス-ポリブタジエン異性体を含むように、該反応生成物を製造するのに十分な量で存在するが、好ましくは該反発弾性ポリマー成分全体を基準として、約32%を越える量でトランス-ポリブタジエン異性体を含む。適当な金属含有有機硫黄化合物は、ジエチルジチオカルバメート、ジアミルジチオカルバメート、およびジメチルジチオカルバメート、またはこれらの混合物の、カドミウム、銅、鉛、およびテルル類似体を含むが、これらに制限されない。)
(エ)「EXAMPLE 1: A Core Prepared From According to the Invention, Employing an Organosulfur Cis-to-trans Catalyst.
A core according to the present invention was created employing an organosulfur compound as the cis-to-trans conversion catalyst. The resultant core properties clearly demonstrate the advantages of a golf ball core made according to the current invention as compared to example cores constructed with conventional technology. The components and physical characteristics are presented in Table 2.
The compressive load of a core prepared according to the invention is approximately half of the compressive load of cores constructed in accordance with U.S. Patent No. 5,697,856, U.S. Patent No. 5,252,652, and U.S. Patent No. 4,692,497, while at the same time retaining roughly the same, and in some cases higher, CoR (resilience). The core made according to the current invention has a lower compressive load (soft), yet resilient (fast). The compressive load is greater than that of a core constructed in accordance with U.S. Patent No. 3,239,228, but has a significantly higher CoR. The core of U.S. Patent No. 3,239,228 is very soft and very slow (very low CoR).
The percent change in dynamic stiffness from O°C to -50°C was also measured at both the edge and center of the cores. The dynamic stiffness at both the edge and the center of the core of the current invention varied only slightly, less than 20 percent, over the temperature range investigated. The core made according to U-S. Patent No. 3,239,228 varied over 230 percent, whereas the cores made according to other conventional technology, had a dynamic stiffness that varied by greater than 130 percent, and typically by as much as 150 percent, over the same temperature range.
The percent of trans- conversion was also measured at both the center and edge of the core prepared according to the current invention, and for cores prepared as disclosed in the same four patents mentioned above, allowing a trans- gradient to be calculated. The core according to the current invention had a trans- gradient of about 32 percent from edge to center. For the core prepared according to the current invention, the pre- and post-cure trans- percentages was also measured to determine the effectiveness of that process. The percentage of polybutadiene converted to the trans- isomer ranged from almost 40 percent at the center to greater than 55 percent at the edge. Two of the cores prepared according to conventional technology, U.S. Patent No. 3,239,228 and U.S. Patent No. 4,692,497, had a zero trans- gradient. A third core, prepared according to U.S. Patent No. 5,697,856, had only a slight trans- gradient, less than 18 percent from edge to center. A fourth core, prepared according to U.S. Patent No. 5,252,652, had a very large gradient, almost 65 percent from edge to center.」(22頁1行?35行)
(審決訳: 実施例1:有機硫黄シス-トランス触媒を用いて、本発明に従って調製したコア
本発明のコアを、該シス-トランス触媒として有機硫黄化合物を使用して、製造した。得られたコアの諸特性は、明らかに従来技術により製造したコアの例と比較して、本発明に従って製造したゴルフボールコアが優れていることを示している。その成分および物性を、以下の表2に示す。
本発明により調製したコアの圧縮荷重は、米国特許第5,697,856号、同第5,252,652号および同第4,692,497号に従って製造したコアの圧縮荷重の約半分であり、かつ同時にほぼ同一の、および幾つかの場合にはより高いCoR(レジリエンス)を維持していた。本発明に従って製造したコアは、低い圧縮荷重(軟質)をもち、依然として反発弾性(硬い)を維持していた。この圧縮荷重は、米国特許第3,239,228号に従って製造したコアの圧縮荷重よりも大きいが、かなり高いCoRをもつ。米国特許第3,239,228号のコアは、極めて柔軟かつ極めて不活発(極めて低いCoR)である。
0?-50℃における動的剛性の変化率をも、該コアの端部および中心部両者において測定した。本発明のコアの端部および中心部両者における動的剛性は、検討した温度範囲に渡り、20%未満で、ほんの僅かに変動した。米国特許第3,239,228号に従って製造したコアは、230%を超えて変動し、一方他の公知の技術に従って製造したコアは、同一の温度範囲において、130%を越えて、および典型的には150%程度まで変動する、動的剛性を有していた。
トランス転化の割合も、本発明により製造したコア、および上記4つの特許に記載のようにして製造したコアの端部および中心部両者において測定して、トランス-勾配(gradient)の算出を可能とした。本発明によるコアは、端部から中心へのトランス-勾配約32%を有していた。本発明により調製したコアについて、硬化前および硬化後のトランスの割合をも測定して、この方法の有効性を評価した。該トランス-異性体に転化されたポリブタジエンの割合は、中心における殆ど40%から、端部における55%を越える値までの範囲内にあった。従来技術、即ち米国特許第3,239,228号および同第4,692,497号に従って製造した2つのコアは、トランス勾配零であった。米国特許第5,697,856号に従って調製した第三のコアは、18%未満に過ぎない、ほんの僅かな端部から中心へのトランス勾配を有していた。米国特許第5,252,652号に従って製造した第四のコアは、殆ど65%という極めて大きな端部から中心へのトランス勾配を有していた。)
(オ)「

」(25頁)
(審決訳:

)
(カ)摘記(ア)ないし(オ)から、引用例、特に実施例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コアとカバーとをもつゴルフボールであって、
前記コアが、ポリブタジエン100部、酸化亜鉛5部、フリーラジカル源であるジクミルペルオキシド3部、ジアクリル酸亜鉛25部、シス-トランス触媒であるジトリルジスルフィド2.5部からなり、
トランス-異性体に転化されたポリブタジエンの割合が、コア表面で55.8%、コア中心で37.8%である、
ゴルフボール。」

イ 対比
本願補正発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「トランス-異性体に転化されたポリブタジエン」は、「シス-トランス触媒であるジトリルジスルフィド」の転化反応により生成された物質であることが、当業者に自明であるから、引用発明の「ポリブタジエン100部、酸化亜鉛5部、フリーラジカル源であるジクミルペルオキシド3部、ジアクリル酸亜鉛25部、シス-トランス触媒であるジトリルジスルフィド2.5部からなり、トランス-異性体に転化されたポリブタジエンの割合が、コア表面で55.8%、コア中心で37.8%である」は、本願補正発明1の「ポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み」に相当する。
(イ)引用発明の「シストランス触媒」であるジトリルジスルフィドが、有機硫黄化合物であることは当業者に自明であるから、引用発明の「シス-トランス触媒」と本願補正発明1の「金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分を含むシス-トランス触媒」とは、「有機硫黄成分を含む」点で一致する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、本願補正発明1と引用発明とは、
「カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、ポリブタジエン、フリーラジカル源およびシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含み、該シス-トランス触媒が有機硫黄成分を含む、上記ゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記シス-トランス触媒が、本願補正発明1では、「金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分を含む」ものであり、「ポリブタジエン100部に対して2.2部以上の量で存在する」のに対して、
「【化1】
式中、R_(1)-R_(5)は、独立してC_(1)-C_(8)アルキル基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシレート基、スルホネート基、又は水素原子を示す。」
引用発明では、ジトリルジスルフィドであり、ポリブタジエン100部に対して2.5部である点。

相違点2:
前記フリーラジカル源に関して、本願補正発明では、「フリーラジカル源対酸化防止剤の比が10またはそれ以上」であるのに対して、引用発明では、そうであるのか明らかでない点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
a 「ペンタクロロチオフェノール」及び「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」を、それぞれ「2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール」及び「2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩」ともいうことは、以下(a)ないし(c)から明らかである。
(a)「チオフェノール」を「ベンゼンチオール」ともいうことは、本願優先日前における技術常識である(例.特開平10-199334号公報段落【0021】「・・(略)・・チオフェノール(ベンゼンチオール)・・(略)・・」及び特開平6-80657号公報段落【0033】「・・(略)・・ベンゼンチオール(チオフェノール)・・(略)・・」参照。)。
(b) 上記(a)から、「ペンタクロロチオフェノール」及び「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」を、それぞれ「ペンタクロロベンゼンチオール」及び「ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩」といえる。
(c) 上記(b)の「ペンタクロロベンゼンチオール」及び「ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩」を、それぞれ「2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール」及び「2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩」とも称すことは自明である。
b ゴルフボールのコア用ゴム組成物において、ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩(2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩)を、基材ゴム100重量部に対して2.2質量部以上含有させることは、本願の優先日前に周知である(例.特開2001-149505号公報特に「【0002】・・(中略)・・ソリッドゴルフボールにおいては、ワンピースソリッドゴルフボール、ツーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールのソリッドコア、場合によってはスリーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールの中間層やカバーの材料にゴム組成物が用いられている。・・(中略)・・【0003】このようなゴルフボールに使用されるゴム組成物は、・・(中略)・・」、「【0016】本発明のゴム組成物は、・・(中略)・・【0017】・・(中略)・・更に、必要によりペンタクロロチオフェノール亜鉛塩やジフェニルジスルフィド等の有機硫黄化合物などの加硫剤を基材ゴム100部に対して0.01?5部の範囲で配合することができる。」、特開2001-149503号公報特に「【0002】・・(中略)・・ソリッドゴルフボールにおいては、ワンピースソリッドゴルフボール、ツーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールのソリッドコア、場合によってはスリーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールの中間層やカバーの材料にゴム組成物が用いられている。・・(中略)・・【0003】このようなゴルフボールに使用されるゴム組成物は、・・(中略)・・」、「【0014】本発明のゴム組成物は、・・(中略)・・【0015】・・(中略)・・更に、必要によりペンタクロロチオフェノール亜鉛塩やジフェニルジスルフィド等の有機硫黄化合物などの加硫剤を基材ゴム100部に対して0.01?5部の範囲で配合することができる。」、特開2001-198238号公報特に「【0011】【発明の実施の形態】本発明のゴルフボールは、コアが下記ゴム組成物の加硫体の部分を含んでいる」、「【0023】本発明に係るコア用ゴム組成物には、さらに有機硫黄化合物を含有することが好ましい。有機硫黄化合物としては、下記(2)式で表わされるチオフェノール類、下記(3)式で表れるスルフィド類、下記(4)式で表わされるチオフェノール亜鉛類が好ましく用いられる。」、「【0031】(4)式で表わされる硫黄化合物としては、ベンゼンチオール亜鉛塩、4-クロロベンゼンチオール亜鉛塩、3-クロロベンゼンチオール亜鉛塩、4-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、3-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、4-ヨードベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,6-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2,4,6-トリクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオール亜鉛塩、・・(中略)・・特に4-クロロベンゼンチオール亜鉛塩、4-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、4-フルオロベンゼンチオール亜鉛塩、4-ヨードベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2,4,5-トリクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオール亜鉛塩が挙げられる。【0032】コア用ゴム組成物における基材ゴム100質量部に対する有機硫黄化合物の含有量の好ましい下限は、0.05質量部、より好ましくは0.1質量部である。基材ゴム100質量部に対する含有量の好ましい上限は、3質量部、より好ましくは2質量部である。3質量部越えるとコンプレッションが大きくなって反発性が低下する傾向にあり、0.05質量部未満では反発力増大効果が有効に発揮されない。」及び特開平11-262544号公報特に「【0017】本発明のゴルフボールのコアには、上記成分に加えて有機硫黄化合物および/またはその金属塩を含有する。有機硫黄化合物としては、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、4-ブロモチオフェノール、4-フルオロチオフェノール、4-t-ブチル-o-チオフェノール、4-t-ブチルチオフェノール、2,3-ジクロロチオフェノール、2,4-ジクロロチオフェノール、2,5-ジクロロチオフェノール、2,6-ジクロロチオフェノール、3,4-ジクロロチオフェノール、3,5-ジクロロチオフェノール、2,4,5-トリクロロチオフェノール、・・(中略)・・o-トルエンチオール、m-トルエンチオール、p-トルエンチオール、・・(中略)・・等のチオフェノール類;・・(中略)・・金属塩としては、ナトリウム塩、亜鉛塩等が挙げられるが、反発性能の点で亜鉛塩が好ましい。配合量は、基材ゴム100重量部に対して、0.1?3.0重量部、好ましくは0.2?2.5重量部、より好ましくは0.3?1.5重量部である。0.1重量部未満では配合量が少な過ぎて、有機硫黄化合物および/またはその金属塩の効果が発揮できず、3.0重量部を越えると加硫速度が小さくなり過ぎて加硫時間が長くなる。」参照。以下「周知技術1」という。)。
c 引用例には、シス-トランス触媒として、金属含有有機硫黄化合物を用いることができる旨記載されている(上記第2〔理由〕4(3)ア摘記(ウ)参照。)。
d 上記b及びcから、引用発明のシス-トランス触媒として、ジトリルジスルフィドに代えて、金属含有有機硫黄化合物であるペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を用いることは、引用例に記載された事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易になし得たことである。
e 上記dの「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」は、亜鉛である金属と、以下の一般式で示される有機硫黄成分のR_(1)ないしR_(5)がすべて塩素原子からなるハロゲン原子で示される有機硫黄成分であるから、本願補正発明の「金属と以下の一般式で示される有機硫黄成分」に相当する。
【化1】

式中、R_(1)-R_(5)は、独立してC_(1)-C_(8)アルキル基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシレート基、スルホネート基、又は水素原子を示す。
f 上記d及びeから、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、引用例に記載された事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
a 「酸化防止剤」を「老化防止剤」ともいうことは、本願優先日前における技術常識である(例.特開2002-138184号公報段落【0022】「・・(略)・・酸化防止剤(老化防止剤)・・(略)・・」及び特開2001-214005号公報段落【0009】「・・(略)・・老化防止剤(酸化防止剤)・・(略)・・」参照。)。
b ゴルフボールのコアに老化防止剤を含有させないことは、本願の優先日前に周知である(例.特開2002-11116号公報特に段落【0028】【表1】(ゴルフボールである実施例1ないし4の「コア配合」の「老化防止剤」の欄には、いずれも「-」と記載されており、この「-」は含有しないことを意味するものと認められる。)、特開2002-126129号公報特に段落【0042】【表1】(ゴルフボールである実施例1及び3のコアにおける老化防止剤(1)及び(2)の配合量はいずれも「0」質量部である。)、特開2000-84118号公報特に段落【0011】「・・(中略)・・両者は共に、基材ゴム、共架橋剤、有機過酸化物、有機硫黄化合物、必要に応じて充填材、老化防止剤等を含有するゴム組成物から成る。」及び【0015】「更に本発明のゴルフボールのコアには、充填材(例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等)、高比重金属粉末(例えば、タングステン粉末、モリブデン粉末等)、有機硫黄化合物、老化防止剤またはしゃく解剤、その他ソリッドゴルフボールのコアの製造に通常使用し得る成分を適宜配合してもよい。尚、老化防止剤は0?1.0重量部、更に0.2?0.5重量部が好ましい。」、特開2002-17900号公報特に「【0025】更に本発明のゴルフボールのコアには、・・(中略)・・老化防止剤またはしゃく解剤、その他ソリッドゴルフボールのコアの製造に通常使用し得る成分を適宜配合してもよい。尚、老化防止剤は0?1.0重量部、更に0.2?0.5重量部が好ましい。」、特開2002-768号公報特に「【0024】更に本発明のゴルフボールのコアには、・・(中略)・・老化防止剤またはしゃく解剤、その他ソリッドゴルフボールのコアの製造に通常使用し得る成分を適宜配合してもよい。尚、老化防止剤は0?1.0重量部、更に0.2?0.5重量部が好ましい。」参照。以下「周知技術2」という。)。
c 上記bから、引用発明のコアを、酸化防止剤を含有しないものとし、上記相違点2に係る本願補正発明1の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(ウ)効果について
本願補正発明1の奏する効果は、引用発明の奏する効果、技術常識、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び周知技術2の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

エ まとめ
したがって、本願補正発明1は、引用例に記載された発明、技術常識、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小括
上記(1)ないし(3)のとおり、本願補正発明1ないし19は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし19に係る発明は、平成18年9月5日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項によってそれぞれ特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)で、本件補正前の請求項1として記載したものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記第2〔理由〕4(3)アに記載したとおりである。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明において、「トランス-異性体に転化されたポリブタジエン」が、「シス-トランス触媒であるジトリルジスルフィド」の転化反応により生成された物質であること、「ジトリルジスルフィド」が有機硫黄化合物であることは、いずれも当業者に自明であるから、引用発明の「ポリブタジエン100部、酸化亜鉛5部、フリーラジカル源であるジクミルペルオキシド3部、ジアクリル酸亜鉛25部、シス-トランス触媒であるジトリルジスルフィド2.5部からなり、トランス-異性体に転化されたポリブタジエンの割合が、コア表面で55.8%、コア中心で37.8%である」と本願発明の「ポリブタジエン、フリーラジカル源およびハロゲン化有機硫黄化合物を含むシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含む」とは、「ポリブタジエン、フリーラジカル源および有機硫黄化合物を含むシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含む」点で一致する。

(イ)上記(ア)から、本願発明と引用発明とは、
「カバーとコアとを持つゴルフボールであって、該コアが、ポリブタジエン、フリーラジカル源および有機硫黄化合物を含むシス-トランス触媒の転化反応により生成された物質を含み、該物質が少なくとも10%のトランス-異性体分を含む、上記ゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点3:
前記有機硫黄化合物が、本願発明では、「ハロゲン化有機硫黄化合物」であるのに対して、引用発明では、ジトリルジスルフィドである点。

4 判断
上記相違点3について検討する。
(1)相違点3について
ア 「ペンタクロロチオフェノール」及び「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」を、それぞれ「2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール」及び「2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩」ともいうことは、上記第2[理由]4(3)ウ(ア)aで述べたとおりである。
イ ゴルフボールのコア用ゴム組成物において、ペンタクロロチオフェノール(2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール)又はペンタクロロチオフェノール亜鉛塩(2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩)を含有させることは、本願の優先日前に周知である(例.上記特開2001-149505号公報特に「【0002】・・(中略)・・ソリッドゴルフボールにおいては、ワンピースソリッドゴルフボール、ツーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールのソリッドコア、場合によってはスリーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールの中間層やカバーの材料にゴム組成物が用いられている。・・(中略)・・【0003】このようなゴルフボールに使用されるゴム組成物は、・・(中略)・・」、「【0016】本発明のゴム組成物は、・・(中略)・・【0017】・・(中略)・・更に、必要によりペンタクロロチオフェノール亜鉛塩やジフェニルジスルフィド等の有機硫黄化合物などの加硫剤を基材ゴム100部に対して0.01?5部の範囲で配合することができる。」、上記特開2001-149503号公報特に「【0002】・・(中略)・・ソリッドゴルフボールにおいては、ワンピースソリッドゴルフボール、ツーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールのソリッドコア、場合によってはスリーピース以上のマルチプルソリッドゴルフボールの中間層やカバーの材料にゴム組成物が用いられている。・・(中略)・・【0003】このようなゴルフボールに使用されるゴム組成物は、・・(中略)・・」、「【0014】本発明のゴム組成物は、・・(中略)・・【0015】・・(中略)・・更に、必要によりペンタクロロチオフェノール亜鉛塩やジフェニルジスルフィド等の有機硫黄化合物などの加硫剤を基材ゴム100部に対して0.01?5部の範囲で配合することができる。」、上記特開2001-198238号公報特に「【0011】【発明の実施の形態】本発明のゴルフボールは、コアが下記ゴム組成物の加硫体の部分を含んでいる」、「【0023】本発明に係るコア用ゴム組成物には、さらに有機硫黄化合物を含有することが好ましい。有機硫黄化合物としては、下記(2)式で表わされるチオフェノール類、下記(3)式で表れるスルフィド類、下記(4)式で表わされるチオフェノール亜鉛類が好ましく用いられる。」、「【0029】(2)式で表わされる有機硫黄化合物としては、ベンゼンチオール、4-クロロベンゼンチオール、3-クロロベンゼンチオール、4-ブロモベンゼンチオール、3-ブロモベンゼンチオール、4-フルオロベンゼンチオール、4-ヨードベンゼンチオール、2,5-ジクロロベンゼンチオール、3,5-ジクロロベンゼンチオール、2,6-ジクロロベンゼンチオール、2,5-ジブロモベンゼンチオール、3,5-ジブロモベンゼンチオール、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール、2,4,6-トリクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール、、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオール、4-ニトロベンゼンチオール、2-ニトロベンゼンチオール、特に4-クロロベンゼンチオール、4-ブロモベンゼンチオール、4-フルオロベンゼンチオール、4-ヨードベンゼンチオール、2,5-ジクロロベンゼンチオール、3,5-ジクロロベンゼンチオール、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール、2,4,5-トリクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオールが挙げられる。」、「【0031】(4)式で表わされる硫黄化合物としては、ベンゼンチオール亜鉛塩、4-クロロベンゼンチオール亜鉛塩、3-クロロベンゼンチオール亜鉛塩、4-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、3-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、4-ヨードベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,6-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2,4,6-トリクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオール亜鉛塩、・・(中略)・・特に4-クロロベンゼンチオール亜鉛塩、4-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、4-フルオロベンゼンチオール亜鉛塩、4-ヨードベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、3,5-ジブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール亜鉛塩、2,4,5-トリクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール亜鉛塩、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオール亜鉛塩が挙げられる。【0032】コア用ゴム組成物における基材ゴム100質量部に対する有機硫黄化合物の含有量の好ましい下限は、0.05質量部、より好ましくは0.1質量部である。基材ゴム100質量部に対する含有量の好ましい上限は、3質量部、より好ましくは2質量部である。3質量部越えるとコンプレッションが大きくなって反発性が低下する傾向にあり、0.05質量部未満では反発力増大効果が有効に発揮されない。」及び上記特開平11-262544号公報特に「【0017】本発明のゴルフボールのコアには、上記成分に加えて有機硫黄化合物および/またはその金属塩を含有する。有機硫黄化合物としては、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、4-ブロモチオフェノール、4-フルオロチオフェノール、4-t-ブチル-o-チオフェノール、4-t-ブチルチオフェノール、2,3-ジクロロチオフェノール、2,4-ジクロロチオフェノール、2,5-ジクロロチオフェノール、2,6-ジクロロチオフェノール、3,4-ジクロロチオフェノール、3,5-ジクロロチオフェノール、2,4,5-トリクロロチオフェノール、・・(中略)・・o-トルエンチオール、m-トルエンチオール、p-トルエンチオール、・・(中略)・・等のチオフェノール類;・・(中略)・・金属塩としては、ナトリウム塩、亜鉛塩等が挙げられるが、反発性能の点で亜鉛塩が好ましい。配合量は、基材ゴム100重量部に対して、0.1?3.0重量部、好ましくは0.2?2.5重量部、より好ましくは0.3?1.5重量部である。0.1重量部未満では配合量が少な過ぎて、有機硫黄化合物および/またはその金属塩の効果が発揮できず、3.0重量部を越えると加硫速度が小さくなり過ぎて加硫時間が長くなる。」参照。以下「周知技術3」という。)。
ウ 引用例には、シス-トランス触媒として、有機硫黄化合物及び金属含有有機硫黄化合物を用いることができる旨記載されている(上記第2〔理由〕4(3)ア摘記(ウ)参照。)。
エ 上記イ及びウから、引用発明のシス-トランス触媒として、ジトリルジスルフィドに代えて、有機硫黄化合物であるペンタクロロチオフェノール又は金属含有有機硫黄化合物であるペンタクロロチオフェノール亜鉛塩を用いることは、引用例に記載された事項及び周知技術3に基づいて当業者が容易になし得たことである。
オ 上記エの「ペンタクロロチオフェノール」及び「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」は、いずれもハロゲンである塩素を含む有機硫黄化合物であるから、本願発明の「ハロゲン化有機硫黄化合物」に相当する。
カ 上記エ及びオから、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、引用例に記載された事項及び周知技術3に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(2)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用例に記載された事項及び周知技術3の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-31 
結審通知日 2010-06-03 
審決日 2010-06-15 
出願番号 特願2003-194463(P2003-194463)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A63B)
P 1 8・ 536- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之赤坂 祐樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
菅野 芳男
発明の名称 ゴム製コアを持つ低圧縮率、弾性ゴルフボール  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 西島 孝喜  

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