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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1225971
審判番号 不服2007-28915  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-25 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 平成11年特許願第123270号「エアワッシャ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月14日出願公開、特開2000-312810〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成11年4月30日に出願した特許出願であって、平成19年3月22日付けで拒絶理由が通知され、平成19年5月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成19年9月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月25日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年11月26日付けで手続補正がなされたものであり、その後、平成22年4月6日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が同年5月28日に提出されたものである。

II.平成19年11月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正により、本願の願書に添付した本願明細書の【特許請求の範囲】が次のように補正された。
【請求項1】
空気入口と空気出口とを有し、空気入口から空気出口に向かって空気流が生じる水噴霧室を形成する本体ケーシングと、空気入口に配置する最上流ワッシャメディアと、水噴霧室の最下流位置に配置する最下流ワッシャメディアと、最上流ワッシャメディアより下流側の水噴霧室内に位置し、空気流とは逆方向に向けて最上流ワッシャメディアに達する噴霧水を発生させる噴霧ノズルを備えるエアワッシャであって、
本体ケーシングの水噴霧室より下流側が冷却室をなし、冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置し、冷却コイルが空気流方向に沿って波形状の伝熱面を有するか、もしくは空気流方向に貫通するスリット部を有する熱交換フィンを備えてエリミネータを兼ねることで、本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化したことを特徴とするエアワッシャ。
【請求項2】
本体ケーシングが水噴霧室に対応する側部で最下流ワッシャメディアの上流側に点検口を有し、少なくとも、最下流ワッシャメディアを複数に分割して水噴霧室内に着脱自在に配設して、本体ケーシングで装置全体をトラック輸送の寸法制限内に一体化したことを特徴とする請求項1に記載のエアワッシャ。
【請求項3】
水噴霧室の下部に配置して水噴霧室から流下する噴霧水および冷却コイルから流下する凝縮水を受け止める貯水槽と、貯水槽内の循環水を噴霧ノズルに循環供給する循環水供給系と、補給水を供給する補給水供給系とを備え、冷却コイルを貯水槽の上方に水面と間隔をあけて配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載のエアワッシャ。

2.上記本件補正については、補正前の平成19年5月25日付けの手続補正書により補正された本願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】に記載された発明特定事項の「本体ケーシング」及び「冷却コイル」に関連して「本体ケーシングの水噴霧室より下流側が冷却室をなし、冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置」すること、「本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化した」ことを限定することを含むものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3.独立特許要件について
3-1.引用例の記載事項
(1)引用例1:特開平10-192642号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】空気入口と空気出口と水槽とを有し前記空気入口から前記空気出口に向かって空気流が生じる水噴霧室、
前記空気入口に配置される第1ワッシャメディア、
前記空気出口に配置される第2ワッシャメディア、
前記水噴霧室に設けられて前記空気流とは逆方向に前記第1ワッシャメディアに届く噴霧水を発生するノズル、
前記水槽から前記ノズルに水を循環する循環ポンプ、および前記第2ワッシャメディアのさらに前記空気出口側に設けられたエリミネータを備える、エアワッシャ。
【請求項2】前記エリミネータのさらに前記空気出口側に設けられる冷却器を備える、請求項1記載のエアワッシャ。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「【発明の効果】第1の発明によれば、噴霧水を空気流に対向するように噴射し、折り返すように空気を加湿するので、空気の流量に対する噴霧水の量の割合を低く設定しても、第1および第2ワッシャメディアによって空気中の塵埃を十分に除去するとともに効率よく空気を加湿できる。したがって、水噴霧装置のノズルに水を循環するポンプの出力を低減することができる。
また、従来のように水噴霧室内に空気流の方向に延びる仕切板やこれに対応する複数のノズルを配置する必要がないので、水噴霧室における空気流の方向の長さを短縮でき、エアワッシャ本体を小型化できる。また、効率よく空気を加湿できるということは噴霧水と空気の接触がよいことであり、有害ガスの除去にも有効である。
第2の発明によれば、有害なガス等を凝縮水中に取り込ませるので、その除去効率をさらに高めることができる。・・・」(段落【0010】?【0012】)
(ウ)「水噴霧室12の空気出口12bには、水噴霧室12と同様の流路断面形状を有する所定長さの冷却室36が接続される。そして、冷却室36内には冷却器として冷却コイル38が設けられる。冷却コイル38の冷却能力は、図示しない制御弁等によって制御される。また、冷却室36の下方には、ドレンパン40が配置され、このドレンパン40の凹みには、冷却室36の外部へ通じるドレンパイプ42が接続される。そして、水噴霧室12の下流側には図示しない送風機が配置され、この送風機を作動することによって水噴霧室12内を空気が通過される。」(段落【0018】)
(エ)「水噴霧室12から流出された空気は、冷却室36に流入し、冷却コイル38によって冷却される。このとき空気中の有害なガス等を空気中の水蒸気とともに凝縮水に取り込ませることによって、有害ガスの低減をさらに図ることができる。図5には、図4で示した空気の状態変化を示す。なお、図4および図5に示す・・・は互いに対応される。すなわち、は第1ワッシャメディア32の直前の状態、は第1ワッシャメディア32を通過直後の状態、は第2ワッシャメディア34の直前の状態、はエリミネータ22通過直後の状態、は冷却コイル38通過直後の状態を示す。」(段落【0021】)
(オ)【図4】(第6頁)には、水噴霧室内の拡大図及び冷却コイルの模式図が図示され、冷却コイル38にフィンが設けられていることが窺える。

(2)引用例2:特開昭53-108073号公報(原査定で提示された周知例)には、次の事項が記載されている。
(ア)「(1)湿式排ガス処理装置において、気液接触部以降の水分含有ガスと接触する装置表面を、該ガスの飽和温度以下に冷却し、該装置表面に水分を凝縮させ、生成した凝縮水を該装置表面を覆って流すことを特徴とする湿式排ガス処理装置におけるスケールの付着防止および洗浄方法。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)「実施例1
第1図に示すフローよりなる2000Nm^(3)/Hの重油焚きボイラ排ガスを処理する湿式石灰石膏法排煙脱硫装置において、第4図に示す冷媒通過パイプ1を備えたエレメントbを有するミスト除去装置を設置した。・・・
第5図には、ミスト除去装置のエレメントbの種々な態様を示すもので、空白部に冷媒が通るようになっているものである。
まず第5図(i)に示す断面を有するエレメントを設置し、・・・今度は水を冷媒としてエレメントの冷媒通過パイプに供給して連続運転を開始した。約120時間後、ガス流路の狭隘化は全くと云える程生じていなかった。」(第3頁右上欄下から5行?同頁左下欄末行)
(ウ)「第4図」(第5頁)には、「エレメントbの冷媒通過パイプ1が設けられた構造」が図示されている。
(エ)「第5図」(第5頁)には「エレメントの断面構造」が図示され、そこには「ジグザグ状のエレメント(i)?(iv)」が見て取れる。

(3)引用例3:特開昭60-235625号公報(原査定で提示された周知例)には、次の事項が記載されている。
(ア)「第1図では・・・気液分離器9内に充てんされた折れ板面を冷却する型式の熱交換器29、熱交換器29に冷媒として海水を送入するライン30・・・を付加する。
吸収液12の一部はライン32により気液分離器9に供給され、・・・冷媒(海水)により冷却された折れ板面に接触し、ライン13より吸収塔8底のタンクに戻る。従って吸収塔8内及び気液分離器9内で吸収液と接触する排ガスは、断熱冷却温度より低温度まで冷却されてダクト10より吸収塔8外へ排出される。
・・・排ガス中の水分が吸収塔8及び気液分離器9内で凝縮し造水される。このように操作することにより・・・吸収塔8への給水が大幅に節減又は不必要となる。」(第3頁左上欄末行?同頁左下欄8行)
(イ)「第3図は本発明に適用可能な熱交換機能をそなえた折れ板36の一実施態様例を示すものである。折れ板36には冷却管39を設け、冷却管39には冷媒の海水が供給され・・・。このような折れ板36を前述の第2図に示した気液分離器35内に設置し、洗浄水として吸収塔循環液の一部をスプレーすることにより、吸収液の冷却が可能になる。
折れ板36面が排ガスの断熱冷却温度以下の温度に保持されているため、洗浄水が到達しない場合でも、折れ板表面で生成する凝縮水による自己洗浄効果があり、スケール付着防止の面からも好都合である。排ガス条件によっては、折れ板36を伝熱面としただけでは充分な冷却が望めない場合があるが、この場合には、冷却管のみを追設することももちろん可能である。・・・気液分離器に熱交換機能をもたせることで、全体としてコンパクトの設計が可能となる利点を有する。」(第4頁左上欄末行?同頁右上欄末行)

(4)引用例4:特開平4-367706号公報(前置審査において提示された周知例)には、次の事項が記載されている。
(ア)「また、サイクロン形の気水分離器48もその性能の割りには装置容積が大きい欠点があった。更に、この従来技術では、送風機42、空気浄化室43及び気水分離器48が別々に設けられており、これらをユニット化して施工性、輸送性などの利便を図ることが難しかった。」(段落【0008】)
(イ)「本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、その目的は、装置全体の小型化、ユニット化を可能とし、しかも十分な脱臭、除塵、調温調湿効果を発揮する空気清浄方法及び装置を提供することにある。」(段落【0018】)
(ウ)「【作用】このような構成を有する請求項1?4の発明は、いずれも、噴霧ノズルを設けた空気浄化室と除滴用のフィルターを有する空気調和室とが隣接配置され、しかも空気調和室内に送風機が内蔵されているので、装置全体を一体化して、コンパクトにまとめることができ、装置の小型化、ユニット化が可能となる。また、フィルターの使用により、サイクロンや凝縮板に比較して、小型で効率良く水分の捕捉を行える。」(段落【0023】)

3-2.対比・判断
引用例1には、記載事項(ア)に「空気入口と空気出口と水槽とを有し前記空気入口から前記空気出口に向かって空気流が生じる水噴霧室、前記空気入口に配置される第1ワッシャメディア、前記空気出口に配置される第2ワッシャメディア、前記水噴霧室に設けられて前記空気流とは逆方向に前記第1ワッシャメディアに届く噴霧水を発生するノズル、前記水槽から前記ノズルに水を循環する循環ポンプ、および前記第2ワッシャメディアのさらに前記空気出口側に設けられたエリミネータを備える、エアワッシャ。」及び「前記エリミネータのさらに前記空気出口側に設けられる冷却器を備える」ことが記載されている。また、実施例として、記載事項(ウ)に「水噴霧室12の空気出口12bには、水噴霧室12と同様の流路断面形状を有する所定長さの冷却室36が接続される。そして、冷却室36内には冷却器として冷却コイル38が設けられる。」と記載されている。この記載中の「冷却コイル」に関し、記載事項(オ)によれば「冷却コイルにフィンが設けられていること」が窺える。
これらの記載を本願補正発明の記載振りに則して整理すると、引用例1には、「空気入口と空気出口と水槽とを有する水噴霧室、前記空気入口に配置される第1ワッシャメディア、前記水噴霧室に設けられて前記空気流とは逆方向に前記第1ワッシャメディアに届く噴霧水を発生するノズル、前記空気出口に配置される第2ワッシャメディア及び前記第2ワッシャメディアのさらに前記空気出口側に設けられたエリミネータを備えたエアワッシャであって、水噴霧室の空気出口には、水噴霧室と同様の流路断面形状を有する所定長さの冷却室が接続され、前記エリミネータのさらに前記空気出口側に設けられるフィンを有する冷却コイルを備えた、エアワッシャ。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

そして、本願補正発明と引用例1発明を対比すると、引用例1発明の空気入口に配置される「第1ワッシャメディア」、前記空気出口に配置される「第2ワッシャメディア」及び「ノズル」は、本願補正発明の「最上流ワッシャメディア」、「最下流ワッシャメディア」及び「噴霧ノズル」に相当している。また、引用例1発明の「冷却室」は、水噴霧室の空気出口に設けられていることから、本願補正発明の「水噴霧室より下流側が冷却室をなし」に相当し、引用例1発明の「水噴霧室」及び「冷却室」は、ともにケーシングにより室が形成された構造であることは明らかである。また、引用例1発明の「冷却コイル」のフィンは、熱交換フィンであることは自明である。
してみると、両者は、「空気入口と空気出口とを有し、空気入口から空気出口に向かって空気流が生じる水噴霧室を形成するケーシングと、空気入口に配置する最上流ワッシャメディアと、水噴霧室の最下流位置に配置する最下流ワッシャメディアと、最上流ワッシャメディアより下流側の水噴霧室内に位置し、空気流とは逆方向に向けて最上流ワッシャメディアに達する噴霧水を発生させる噴霧ノズルを備えるエアワッシャであって、
水噴霧室より下流側が冷却室をなし、冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に冷却コイルを配置し、冷却コイルが熱交換フィンを備えたことを特徴とするエアワッシャ。」で一致し、次の点で相違する。

相違点a:本願補正発明が「冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置し」ているのに対し、引用例1発明は「前記第2ワッシャメディアのさらに前記空気出口側に設けられたエリミネータを備え、前記エリミネータのさらに前記空気出口側に設けられるフィンを有する冷却コイルを備えた」点
相違点b:本願補正発明が「冷却コイルが空気流方向に沿って波形状の伝熱面を有するか、もしくは空気流方向に貫通するスリット部を有する熱交換フィンを備えてエリミネータを兼ねることで、本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化した」のに対し、引用例1発明は「冷却コイルがフィンを備えた」点

そこで、相違点a、bについては、技術的に関連することから併せて検討する。
(一)相違点a、bに係る本願補正発明の「本体ケーシングの水噴霧室より下流側が冷却室をなし、冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置し、冷却コイルが空気流方向に沿って波形状の伝熱面を有するか、もしくは空気流方向に貫通するスリット部を有する熱交換フィンを備えてエリミネータを兼ねることで、本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化した」という事項(以下、「特定事項X」という。)については、本願明細書の段落【0013】に「このように、冷却コイルがエリミネータの効果を発揮するので、従来の構成におけるエリミネータが不要となって、エアワッシャの空気流方向の寸法が短くなり、装置全体を一体化して搬送することが可能となる。エリミネータが無くなることによりその空気抵抗も無くなり、送風動力の低減が図られる。より好適な構成として、少なくとも、最下流ワッシャメディアを複数に分割して着脱自在に配設したものである。」との記載に照らせば、本願補正発明は、「冷却コイルがエリミネータを兼ね、エリミネータが不要となるので、最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置できてエアワッシャの空気流方向の寸法が短くなり、本体ケーシングの中に噴霧室と冷却室を形成して装置全体を一体化して搬送することが可能となる」ものとみることができる。
(二)そこでまず、特定事項Xの「冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置」すること、「冷却コイルが空気流方向に沿って波形状の伝熱面を有するか、もしくは空気流方向に貫通するスリット部を有する熱交換フィンを備えてエリミネータを兼ねる」ことについて検討する。
引用例1発明は、冷却コイルに(熱交換)フィンが備わったものであるが、別途「エリミネータ」を配設するものであることから、冷却コイルがエリミネータを兼ねるとはいえない。しかしながら、引用例2には、記載事項(ア)に「水分含有ガスと接触する装置表面を、該ガスの飽和温度以下に冷却し、該装置表面に水分を凝縮させ、生成した凝縮水を該装置表面を覆って流すこと」、記載事項(イ)?(エ)によれば「冷媒通過パイプを備えたジグザグ状のエレメントを有するミスト除去装置」が記載され、「水を冷媒としてエレメントの冷媒通過パイプに供給」すると「ガス流路の狭隘化は全くと云える程生じていなかった」ことが記載されている。これらの記載によれば、引用例2には、冷媒通過パイプを備えたジグザグ状のエレメントを有するミスト除去装置において装置表面を、該ガスの飽和温度以下に冷却し、該装置表面に水分を凝縮させ、生成した凝縮水分を凝縮させ、生成した凝縮水を該装置表面を覆って流すことが開示されているといえる。
また、引用例3には、記載事項(ア)には「気液分離器内に充てんされた折れ板面を冷却する型式の熱交換器」が記載され、記載事項(イ)には「折れ板36には冷却管39を設け、冷却管39には冷媒の海水が供給され、・・・折れ板36面が排ガスの断熱冷却温度以下の温度に保持されているため、洗浄水が到達しない場合でも、折れ板表面で生成する凝縮水による自己洗浄効果があ」ることが記載されている。これらの記載によれば、引用例3には「気液分離器内に充てんされた折れ板面を冷却する型式の熱交換器において折れ板に冷却管を設け、冷却管に冷媒の海水が供給され、折れ板36が排ガスの断熱冷却温度以下の温度に保持されているため、折れ板表面で生成する凝縮水による自己洗浄効果がある」ことが記載されているといえる。
してみると、引用例2及び引用例3に記載されるように、ジグザグ状・折れ板で構成したミスト除去装置(気液分離器)に冷却管を設けて、冷却によって水分を凝縮させることはよく知られた技術事項であるといえる。
そして、引用例3の記載事項(イ)には「気液分離器に熱交換機能をもたせることで、全体としてコンパクトの設計が可能となる」ことが記載され、同様に引用例1に「水噴霧室における空気流の方向の長さを短縮でき、エアワッシャ本体を小型化できる。」(記載事項(イ))ことが記載されている。
以上のことに照らせば、引用例1発明の「冷却コイル」に「エリミネータ」を兼ねさせることは、小形化などコンパクト設計、あるいは浄化の観点から、当業者が容易に想起し得るものといえる。そして、冷却コイルのフィンとして、エリミネータの機能をもたせるために極めて周知の「ジグザグ状・折れ板」で構成することも格別の困難性はない。そして、「冷却コイル」に「エリミネータ」を兼ねさせることに伴って、「冷却コイル」は「最下流ワッシャメディアの下流側に隣接し」た構成となることは明らかであることから、上記した本願補正発明の特定事項Xの「冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置」すること、「冷却コイルが空気流方向に沿って波形状の伝熱面を有するか、もしくは空気流方向に貫通するスリット部を有する熱交換フィンを備えてエリミネータを兼ねる」ことを導き出すことは当業者であれば容易に為し得るものといえる。
(三)次に、特定事項Xの「本体ケーシングの水噴霧室より下流側が冷却室をな」すこと、「本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化した」についてみてみると、引用例4の記載事項(ア)?(ウ)によれば、空気浄化室と除滴用のフィルターを有する空気調和室などの構造に関し、従来この従来技術では、送風機42、空気浄化室43及び気水分離器48が別々に設けられており、これらをユニット化して施工性、輸送性などの利便を図ることが難しかったなどの課題があり、装置全体の小型化、ユニット化を可能とすることが求められ、作用として「装置全体を一体化して、コンパクトにまとめることができ、装置の小型化、ユニット化が可能となることが求められたことが記載されている。このように、装置全体を一体化して、装置の小型化、輸送性などの利便性を高めようとすることは、この出願前一般的な課題であるといえる。そうすると、かかる一般的な課題や上記(二)で述べたとおり、冷却コイルとエリミネータを兼用することによる小型化に鑑みれば、噴霧室と冷却室を一体的なケーシングの中に配設して、搬送面で輸送性を高めることは容易に想到し得るものといえる。
してみると、本願補正発明の特定事項Xの「本体ケーシングの水噴霧室より下流側が冷却室をな」すこと、「本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化」するように構成することは、上記引用例1?4に基づいて当業者が容易に行い得るものであり、相違点a、bに係る本願補正発明の構成を構築することに格別困難性はない。
そして、本願補正発明の上記相違点a、bを採ることによる効果も引用例及び周知技術から予測し得ることといえ、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、請求人は、回答書で「冷却コイルは伝熱面において接触する空気との間で熱交換するもので、その伝熱面は空気の流れ方向において直線的であり、必要とされる熱交換能を実現するために単位時間当たりに十分な量の熱交換媒体が流れる流路を必要とします。
このため、冷却コイルはその伝熱面に液滴が大量に付着すると空気抵抗の増加や熱伝導の阻害によって熱交換効率が低下するので、エリミネータとしての利用は困難であり、従来においては別途にエリミネータを配置することが必須でした。
一方、エリミネータは、空気の流れに随伴する液滴を除去するものであり、空気の流れ方向においてジグザグな流路壁面を有する流路を形成し、流路を流れる空気中の液滴をその慣性力を利用して流路壁面に捕集して分離します。このように、エリミネータは、そのジグザグな流路において空気抵抗があるために、冷却コイルとして利用すると熱交換効率が低くなり、冷却コイルとして必要とされる熱交換能を実現するために十分な量の熱交換媒体が流れる流路をエリミネータで実現することは困難です。
したがって、冷却コイルとエリミネータは構造上その機能が相違しており、一般的には冷却コイルとエリミネータを兼ねる構造は採用しておりません。
しかしながら、本願発明においては、ワッシャメディアにより噴霧水の大部分を補足するので、ワッシャメディアを通過する水滴は霧状のものであり、その量は噴水量比で数%程度であります。
本願発明は上記の点に着目したものであり、ワッシャメディアを通過して冷却コイルに到来する水滴が僅かな量であることから、その水滴が冷却コイルの伝熱面に付着しても空気抵抗の増加や熱交換能を低下をもたらすほどの要因とはなり難く、ワッシャメディアの存在によって冷却コイルをエリミネータとして利用する技術思想を具現化しております。 」と主張しているが、上記したとおりであるから、この主張を格別なものとすることはできない。

3-3.むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
平成19年11月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された発明は、平成19年5月25日付けの手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
空気入口と空気出口とを有し、空気入口から空気出口に向かって空気流が生じる水噴霧室を形成する本体ケーシングと、空気入口に配置する最上流ワッシャメディアと、水噴霧室の最下流位置に配置する最下流ワッシャメディアと、最上流ワッシャメディアより下流側の水噴霧室内に位置し、空気流とは逆方向に向けて最上流ワッシャメディアに達する噴霧水を発生させる噴霧ノズルを備えるエアワッシャであって、
最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して配置する冷却コイルが、空気流方向に沿って波形状の伝熱面を有するか、もしくは空気流方向に貫通するスリット部を有する熱交換
フィンを備えてエリミネータを兼ねることを特徴とするエアワッシャ。

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願は、平成19年3月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由3によって、拒絶すべきものである。」であり、平成19年3月22日付け拒絶理由通知書に記載の理由3によれば「この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。引用文献1:特開平11-104428号公報、引用文献2:特開平10-192642号公報、引用文献3:特開平4-219119号公報、特開平9-239224」というものである。

V.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2は、上記「II.3」の引用例1と同じであり、それらの記載事項は、「II.3-1.(1)」に記載したとおりである。そして、引用発明は、「II.3-2.」に記載したとおり、「空気入口と空気出口と水槽とを有する水噴霧室、前記空気入口に配置される第1ワッシャメディア、前記水噴霧室に設けられて前記空気流とは逆方向に前記第1ワッシャメディアに届く噴霧水を発生するノズル、前記空気出口に配置される第2ワッシャメディア及び前記第2ワッシャメディアのさらに前記空気出口側に設けられたエリミネータを備えたエアワッシャであって、水噴霧室の空気出口には、水噴霧室と同様の流路断面形状を有する所定長さの冷却室が接続され、前記エリミネータのさらに前記空気出口側に設けられるフィンを有する冷却コイルを備えた、エアワッシャ。」というものである。

VI.対比・判断
本願発明1は、上記「II.」で検討した本願補正発明において、「本体ケーシングの水噴霧室より下流側が冷却室をなし、冷却室の内部に最下流ワッシャメディアの下流側に隣接して冷却コイルを配置」すること、「本体ケーシングで装置全体を搬送可能に一体化した」が特定されていない点に違いがあるが、他の構成は、本願補正発明と同じである。
してみると、本願発明1は、本願補正発明の特定事項を実質的に全て含むものであるから、本願補正発明と同様に、前記「II.3-2」でみた理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の出願日前に頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-23 
結審通知日 2010-08-24 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願平11-123270
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01D)
P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝本間 友孝  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 斉藤 信人
中澤 登
発明の名称 エアワッシャ  
代理人 笹原 敏司  
代理人 笹原 敏司  
代理人 森本 義弘  
代理人 原田 洋平  
代理人 原田 洋平  
代理人 森本 義弘  

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