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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1226020
審判番号 不服2009-6853  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-01 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2003-203707「シリコン薄膜太陽電池の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月24日出願公開、特開2005- 50905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年7月30日の出願であって、平成16年9月13日付けで手続補正がなされ、平成21年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月1日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成21年4月1日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 p層とn層の間にi層を挟んだ構造を有するシリコン薄膜を高周波プラズマCVD法により基板上に形成する太陽電池の製造方法であって、
前記i層は、結晶性シリコンからなり、
前記i層は、パルス変調した高周波電力によるプラズマにより形成し、
パルス変調の1周期は高周波電力が出力されるON状態と出力されないOFF状態とからなり、出力波形が矩形となるように変調され、パルス変調の1周期内のON状態の時間は1マイクロ秒?100マイクロ秒であり、OFF状態の時間は5マイクロ秒以上であり、
パルス変調した高周波電力の1周期当たりの出力値に1周期のON状態の時間割合をかけた値が、パルス変調を行なわずに、同一の原料ガス条件で微結晶の結晶性シリコン層を形成するときの高周波電力の出力に等しいことを特徴とするシリコン薄膜太陽電池の製造方法。」

3 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-313125号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ)。

(1)「【請求項1】 プラズマCVD法を用いた薄膜の形成方法であって、VHF帯の高高周波電力を印加しながらパルス放電を行って基板上に結晶性薄膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
・・・
【請求項5】 薄膜が結晶性Siからなるi層であることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項6】 電源周波数が27.12MHz?81.36MHzとされたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の薄膜形成方法。
・・・
【請求項8】 p層、i層、n層が積層されてなる薄膜結晶Si太陽電池において、各層のうち少なくとも1層に請求項1記載の薄膜形成方法によって結晶性薄膜を形成することを特徴とする太陽電池の製造方法。」」

(2)「【0015】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態に係る結晶性Si薄膜のp層またはn層の形成方法を説明する。本発明では、プラズマCVD法を用い、VHF帯の高高周波電力を印加しながらパルス放電を行って基板上に結晶性薄膜を形成する。まず、周知のプラズマCVD装置には高高周波(VHF帯)のパルス変調電源を接続する。高高周波として、RF帯より高い13.56MHzから300MHzの電源周波数を使用する。
【0016】まず、結晶性p層を形成する場合、基板温度200度、シラン/水素=1/100(あるいはSiH_(4)とCH_(4)との混合ガス)、B_(2)H_(6)ガス=0.5%、圧力0.3Torr,電源周波数81.36MHz、パワー30W、パルス放電のパルス幅(duty=ON時間/(ON時間+OFF時間))38%とする。これによって形成した結晶性p層の暗導電率としては5S/cmが得られた。
【0017】ここで、パルス放電のパルス幅に対する薄膜特性の一連の検討として、基板温度、ガス流量、圧力、電源周波数、パワーを一定にしたままパルス幅(duty)を変化させた。表1にパルス幅を変化させたA,B,C,Dの薄膜形成条件を示し、そして薄膜特性としてp層の暗導電率を測定した結果を図1に示す。図1より、連続放電(duty=100%)を行ったDよりパルス放電を行ったA,B,Cでは、暗導電率が向上することがわかる。特に、duty=40?80%において、その効果は顕著である。
【0018】
【表1】


【0019】次に、表2に示すパルス幅(duty=100%)を一定にして電源周波数を変化させたE,F,Gに対して、p層の暗導電率を測定した結果を図2に示す。図2より、電源周波数はRF帯(13.56MHz)のGよりはVHF帯のD,E,Fにおいて特性が向上することがわかる。なお、Dは表1のものと同じである。特に、27.12?81.36MHzの範囲、その中でも電源周波数が高いほど暗導電率が高くなる。したがって、高高周波電力を印加しながらパルス放電を行うことにより、薄膜結晶性が向上し、特に電源周波数を高く、パルス幅が短いほど結晶性の向上が顕著となる。
【0020】
【表2】


【0021】また、結晶性n層を形成する場合は、上記結晶性p層の形成条件においてB_(2)H_(6)ガスの代わりにPH_(3)ガスを原料ガスの0.5%程度導入する。他の条件は同じである。薄膜特性はp層の場合と同様、電源周波数が高くパルス幅が短い程薄膜下での結晶性が向上する。
【0022】ところで一般的に、高高周波技術は非晶質薄膜の成膜速度の向上に効果があり、またパルス放電は非晶質薄膜の形成時に発生するパウダーを抑制する効果がある。しかしながら、結晶性Si薄膜の形成技術はこれらの非晶質薄膜の形成技術とは異なる技術が必要である。すなわち、結晶性Si薄膜の形成にはプラズマ密度と電子温度の両方を高くすることが重要であることを本発明者は見いだした。プラズマ密度を向上するためには高高周波の適用が効果的であり、他研究機関から結晶性の改善の報告もあるが、高高周波だけではプラズマ密度は上がるが電子温度は低下する。そこで、結晶性をさらに改善するために、本発明者は電子温度に着目して、パルス放電を併用することにより大幅な結晶性の改善を図ることに成功した。パルス放電においては図3に示すように、放電開始数十マイクロ秒(μs)は過渡的に電子温度が高い状態にあり、この特性を利用することにより電子温度を上昇させることができ、結晶性の改善を図ることが可能となった。
【0023】また、パルス放電の効果として、上記のように電子温度を上昇させる効果とともに堆積速度を自由に制御でき、これによっても結晶性の改善に効果を与えている。電子温度の上昇のためプラズマに投入するパワーを増大させることが大きなポイントとなるが、これは成膜速度を大きくする影響を与える。しかし、成膜速度が大きくなると、一般に結晶性は低下する。そのため、成膜速度が大きくなりすぎないように、パルスのON時間を長くしすぎたり、パルス幅を大きくしすぎないといったパルスの間隔の制御を行うことが重要である。成膜速度の目安としては約1Å/秒となる。以上のような2点の効果に基づいて、パルス放電を行うことによって従来の連続放電よりも結晶性の良好な薄膜を得ることが可能となる。しかも、パルス放電を行うことにより、パウダーの発生も当然抑制できるので、高品質な薄膜を形成できる。
【0024】次に、結晶性Si薄膜のi層の形成方法を説明する。まず、プラズマCVD装置には高高周波(VHF帯)のパルス変調電源を接続する。結晶性i層を形成する場合、表3のHに示すように、基板温度230度、シラン/水素=1/100、圧力0.2Torr、パワー100W、電源周波数81.36MHz、パルス幅(duty)9%で成膜を行う。なお、表3中、IはRF電源を用い、連続放電によって結晶性i層を形成する場合の薄膜形成条件である。
【0025】そして、Iの場合、i層は非常に微小な微結晶粒(直径約300Å)の集合体であったが、本発明のHの場合、粒径500Å(X線測定)、厚さ4μmの柱状構造の結晶性Si薄膜を得た。このように、i層の結晶粒径の拡大が図れることにより、長波長光の吸収が増加することになり、長波長感度の向上を達成できる。
【0026】
【表3】




(3)「【0027】次に、本発明の薄膜形成方法を適用した薄膜太陽電池を図4に示す。この薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板1の上に順に積層された透明導電膜2、結晶性p層3、非晶質i層4、非晶質n層5および裏面電極6からなる。
【0028】ここで、本実施形態の薄膜太陽電池の特徴は、図5に示す従来構造の太陽電池の非晶質p層7のa-SiCの代わりに結晶性の良好な結晶性p層3を用いるところにある。以下、この太陽電池の製造方法を説明する。まず、透光性絶縁基板1として厚さ1mm程度のガラス基板を用いる。ここではガラスを用いているが、透光性絶縁基板1であれば、高分子フィルムであってもかまわない。この上にCVD法等により透明導電膜2を約1μmの膜厚で形成する。この透明導電膜2は凹凸状の形状であることが望ましく、またその材料としてはZnO、またはZnOを表面に少なくとも数10nmコートしたSnO_(2)およびITOが望ましい。これは結晶性p層3を形成するときにTCO(透明導電性酸化物膜)に与えるプラズマダメージを避けるためである。
【0029】透明導電膜2の上にプラズマCVD法等の方法で高高周波パルス放電を用いて結晶性p層3が形成される。形成条件は表1中のAと同じ、基板温度200度、シラン/水素=1/100、B_(2)H_(6)ガス=0.5%、圧力0.3Torr、パワー30W、電源周波数81.36MHz、パルス幅38%で成膜を行う。結晶性p層3の膜厚は10nmから30nm程度が望ましい。これは厚すぎると光の吸収損失が大きくなるためである。なお、結晶性p層3はカーボンを含んでいてもよく、p層側から光照射が行われる場合にp層3内での光吸収をより少なくすることができ、i層4への到達光が増加するので、変換効率が増大する。
【0030】結晶性p層3の上には、CVD法等によりa-Si:Hのi層4、a-Si:Hのn層5が順次積層される。なお、i層4にはa-SiGe:Hのi層やa-SiC:Hのi層のような合金層でもよい。i層4の膜厚は100nmから600nm程度が望ましい。また、a-Si:Hのn層5は結晶性n層でもよい。n層5の膜厚は数10nmである。
【0031】次に裏面電極6は、反射率の比較的高い金属であるAlやAgを用いて、真空蒸着法等により形成する。膜厚としては数100nmから1μm程度である。簡素化して裏面電極6を金属電極のみとしているが、裏面での反射光を有効に利用するために、透明導電膜をa-Si:Hのn層5と裏面電極6の間に形成してもよい。」

(4)「【0034】他の実施形態の薄膜太陽電池を図6に示す。この薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板1の上に順に積層された透明導電膜2、結晶性p層3、結晶性i層8、結晶性n層9および裏面電極6からなる。
【0035】以下、この太陽電池の製造方法を説明するが、上記実施形態の太陽電池のものとi層およびn層を除いて同じである。まず、透光性絶縁基板1として厚さ1mm程度のガラス基板を用いる。この上に透明導電膜2を約1μmの膜厚で形成する。透明導電膜2の上にプラズマCVD法等の方法で高高周波パルス放電により、表1中のAと同じ形成条件で結晶性p層3を形成する。結晶性p層3の膜厚は10nmから30nm程度が望ましい。結晶性p層3の上には結晶性i層8、結晶性n層9が順次積層される。i層8の膜厚は4μm程度が望ましい。i層8の形成条件としては表3中のHと同じ、基板温度230度、シラン/水素=1/100、圧力0.2Torr、パワー100W、電源周波数81.36MHz、パルス幅9%で成膜を行う。n層9の形成条件としては、基板温度200度、シラン/水素=1/100、PH_(3)ガス=0.5%、圧力0.2Torr、パワー25W、電源周波数81.36MHz、パルス幅38%(ON時間30μs、OFF時間50μs)で成膜を行う。n層9の膜厚は数10nmである。次に裏面電極6を形成する。裏面電極6は反射率の比較的高い金属であるAlやAgを用いている。膜厚としては数100nmから1μm程度である。なお、各層3,8,9の高高周波パルス放電に関する形成条件を表4にまとめて示している。
【0036】
【表4】


【0037】上記の薄膜形成方法により作製した単層の薄膜太陽電池の特性は、AM1.5(100mW/cm^(2))において、Isc:28.1mA/cm^(2)、Voc:0.57V、F.F.:0.64、Pmax:10.3mW/cm^(2)である。」

(5)上記(2)ないし(4)を踏まえて【表1】、【表3】及び【表4】をみると、結晶性p層の形成条件として、周波数が81.36Hzであること、及び、結晶性i層の形成条件として、パルスのON時間が5μs、パルスのOFF時間が50μsであることが理解できる。

(6)上記(1)ないし(5)からみて、引用例には、
「p層、i層、n層が積層されてなる薄膜結晶Si太陽電池において、各層のうち少なくとも1層に、プラズマCVD法を用いてVHF帯の高高周波電力を印加しながらパルス放電を行って基板上に結晶性薄膜を形成する太陽電池の製造方法であって、
薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板の上に順に積層された透明導電膜、結晶性p層、結晶性i層、結晶性n層および裏面電極からなり、透光性絶縁基板としてガラス基板を用い、この上に透明導電膜を形成し、透明導電膜の上にプラズマCVD法等の方法で電源周波数81.36MHzの形成条件で高高周波パルス放電により結晶性p層を形成し、結晶性p層の上には結晶性i層、結晶性n層が順次積層され、結晶性Si薄膜のi層の形成にはプラズマCVD装置に高高周波(VHF帯)のパルス変調電源を接続し、結晶性i層は、基板温度230度、シラン/水素=1/100、圧力0.2Torr、パワー100W、電源周波数81.36MHz、パルスのON時間が5μs、パルスのOFF時間が50μs、パルス幅9%の形成条件で成膜を行い、結晶性n層は、電源周波数81.36MHzの形成条件で成膜を行う、太陽電池の製造方法。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明は、透光性絶縁基板の上に順に積層された透明導電膜、結晶性p層、結晶性i層、結晶性n層および裏面電極からなる太陽電池の製造方法であるから、結晶性p層と結晶性n層の間に結晶性i層を挟んだ構造を有するものといえ、また、引用発明の「結晶性p層」は、VHF帯である電源周波数81.36MHzの形成条件で高高周波電力を印加しながらパルス放電を行って形成するものであり、引用発明の「結晶性i層」及び「結晶性n層」は、VHF帯である電源周波数81.36MHzの形成条件で高高周波電力を印加しながらパルス放電を行い成膜するものである。よって、引用発明は、本願発明の「p層とn層の間にi層を挟んだ構造を有するシリコン薄膜を高周波プラズマCVD法により基板上に形成する太陽電池の製造方法であって」との事項を備えているといえる。

(2)引用発明の「結晶性i層」は、プラズマCVD装置に高高周波(VHF帯)のパルス変調電源を接続し、電源周波数81.36MHz、パルスのON時間が5μs、パルスのOFF時間が50μsで成膜するものであって、パルスにより出力波形が変調されることが自明であるから、引用発明は、本願発明の「i層は、結晶性シリコンからなり、前記i層は、パルス変調した高周波電力によるプラズマにより形成し、パルス変調の1周期は高周波電力が出力されるON状態と出力されないOFF状態とからなり、出力波形が変調され、パルス変調の1周期内のON状態の時間は1マイクロ秒?100マイクロ秒であり、OFF状態の時間は5マイクロ秒以上である」との事項を備えているといえる。

(3)引用発明の「太陽電池の製造方法」は、薄膜結晶Si太陽電池について基板上に結晶性薄膜を形成するから、本願発明の「シリコン薄膜太陽電池の製造方法」に相当する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「 p層とn層の間にi層を挟んだ構造を有するシリコン薄膜を高周波プラズマCVD法により基板上に形成する太陽電池の製造方法であって、
前記i層は、結晶性シリコンからなり、
前記i層は、パルス変調した高周波電力によるプラズマにより形成し、
パルス変調の1周期は高周波電力が出力されるON状態と出力されないOFF状態とからなり、出力波形が変調され、パルス変調の1周期内のON状態の時間は1マイクロ秒?100マイクロ秒であり、OFF状態の時間は5マイクロ秒以上であるシリコン薄膜太陽電池の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

ア 出力波形が、本願発明においては、「矩形となるように」変調されるのに対し、引用発明においては、そのように変調されるのかどうか不明である点(以下「相違点1」という。)。
イ 本願発明は、「パルス変調した高周波電力の1周期当たりの出力値に1周期のON状態の時間割合をかけた値が、パルス変調を行なわずに、同一の原料ガス条件で微結晶の結晶性シリコン層を形成するときの高周波電力の出力に等しい」のに対し、引用発明は、そうであるかどうか不明である点(以下「相違点2」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明の結晶性i層は、プラズマCVD法を用いてVHF帯の高高周波電力を印加しながらパルス放電を行って成膜を行うものであるところ、パルスをON状態とOFF状態に制御する波形として矩形は当業者に周知であるから、引用発明において、結晶性i層を成膜を行うに際し、パルス放電のON状態とOFF状態に制御する波形を矩形とし、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たものというべきである。

(2)相違点2について
ア 上記3(2)によれば、引用例には、
(ア)結晶性Si薄膜の形成にはプラズマ密度と電子温度の両方を高くすることが重要であって、プラズマ密度を向上するためには高高周波の適用が効果的であるが、高高周波だけではプラズマ密度は上がるが電子温度は低下するから、結晶性をさらに改善するために電子温度に着目してパルス放電を併用することにより、大幅な結晶性の改善を図る(段落【0022】)、
(イ)パルス放電の効果として、電子温度を上昇させる効果とともに堆積速度を自由に制御でき、パルス放電のプラズマに投入するパワーを増大させると成膜速度が大きくなる(段落【0023】)、
との技術事項が記載されている。

イ 上記アによれば、引用例には、結晶性Si薄膜の形成において高高周波とパルス放電を併用することにより大幅な結晶性の改善を図ることが可能であり、パルス放電のプラズマに投入するパワーを増大させると成膜速度が大きくなるとの技術事項が開示されているものと認められる。

ウ ここで、引用発明の結晶性i層は、電源周波数81.36MHz、パルスのON時間が5μs、パルスのOFF時間が50μs、パルス幅9%の形成条件において、高高周波のパルス放電により成膜を行っているところ、パルス放電のON時間における高周波電力の出力値を一定にしたままパルス幅(duty)を小さくすれば該結晶性i層の成膜速度が小さく(遅く)なることは当業者に自明である。

エ しかるところ、引用発明において、高高周波電力の連続放電と同程度の成膜速度で結晶性i層を形成しようとすることは当業者にとって当然の要請であり、そのために、上記イに照らして、パルス放電のON時間における高周波電力の出力値を増大させることにより成膜速度を大きくすることは、当業者に格別の困難性はなく、パルス放電のON時間における高周波電力の出力値を増大させる程度を、高周波電力の1周期当たりの出力値に1周期のON時間の割合をかけた値を高高周波電力の連続放電と同じガス条件で微結晶シリコン膜が得られる出力に等しいものとして、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たものというべきである。

(3)そして、本願発明の奏する効果が、引用発明及び引用例の記載事項から当業者が予測可能な域を超える程の格別顕著なものとは認められない。

(4)したがって、本願発明は、引用発明及び引用例の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び引用例の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-24 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-13 
出願番号 特願2003-203707(P2003-203707)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 幸浩山本 元彦  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 田部 元史
右田 昌士
発明の名称 シリコン薄膜太陽電池の製造方法  
代理人 森田 俊雄  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 仲村 義平  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 堀井 豊  
代理人 酒井 將行  
代理人 深見 久郎  

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