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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1226233
審判番号 不服2007-26578  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-27 
確定日 2010-11-04 
事件の表示 特願2000-340874「ヒト腸内フローラ検出用プローブ又はプライマー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月21日出願公開、特開2002-142771〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成12年11月8日を出願日とする特許出願であって,平成18年8月14日に特許請求の範囲について手続補正がされ,平成19年8月21日付で拒絶査定がなされ,同年9月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成18年8月14日付手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】配列番号1及び2から選ばれる塩基配列又は該塩基配列に相補的な配列からなるヒト腸内に存在するプレボテラ クラスターに属する未同定菌群検出用プローブ。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された本願出願日前に頒布された刊行物である,Appl. Environ. Microbiol., 1999, Vol.65, No.11, p.4799-4807(以下,「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。

(1)「複雑なコミュニティーからの16S rRNAをコードする遺伝子の直接的な解析は,ヒト腸内の多くの新規な分子種を明らかにする。」(第4799頁,標題)

(2)「ヒト腸管は,栄養及び健康に重要な役割を果たす複雑な微生物生態系を持つ。この細菌叢は培養技術によって非常に詳細に研究されてきたが,ヒト大便の顕微鏡的な勘定は,60乃至80%の観察可能な細菌が培養できないことを示す。クローン化された16S rRNA遺伝子(rDNA)配列の比較解析を用いて,我々は,成人男性の大便サンプル中の細菌の多様性(培養される及び培養されない細菌の両方)を調査した。10サイクルのPCRから得られた284のクローンが,82の分子種(少なくとも98%の類似性)に分類された。三つの系統学的グループ:Bacteroidesグループ,Clostridium coccoidesグループ,及びClostridium leptumサブグループ は,クローンの95%を含んだ。残りのクローンは様々な系統学的クラスターに分布した。回収された分子種のうち24%だけが記述された生物(それらの配列は公開されたデータベースで入手できる)に対応し,それら全てがヒト大便菌叢の優勢種(例えば,Bacteroides thetaiotaomicron, Fusobacterium prausnitzii, 及びEubacterium rectale)を確立した。しかし,作成されたrDNA配列の大多数(76%)は既知の生物に対応せず,このヒト大腸細菌叢の中で今までに知られていない種に明らかに由来した。」(第4799頁,要約)

(3)「増幅,クローニング及びスクリーニング フォワードプライマー S-D-Bact-0008-a-S-20(5' AGA GTT TGA TCC TGG CTC AG 3'[18])これはBacteriaドメインを標的とする,及びリバースプライマー S-Univ-1492-b-A-21(5' ACG GCT ACC TTG TTA CGA CTT 3'[21]),これは全生物を標的とする,がPCRによる細菌の16S rDNAの増幅に使用された。・・・精製された産物はpUAgベクター(R&D Systems Europe Ltd. アビングドン, 英国)に製造者の指示に従い連結した。感受性Escherichia coli DHI細胞が連結産物を用いて熱ショック(40秒42℃)により形質転換された。組換え細胞はカナマイシン(50μg ml^(-1))及びIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)及びX-Gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-ガラクトピラノシド)を含むLuria-Bertani培地で選択した。・・・全てのクローンは詳細な配列解析を行った。」(第4800頁,左欄第13?45行)

(4)「配列解析 配列はPCRプライマー結合部位を除くように編集された。新たに決定された配列は,最も近い類縁体を突き止めるために,公開されたデータベース(Ribosomal Databese Project[RDP][25]及びGenBank)で入手できるものと比較された。Genetics Computer Group ソフトウエアパッケージ(EGCG version8.00; Peter Rice, The Sanger Centre, ケンブリッジ, 英国)が配列解析に使用された。・・・・ここで使用された一の操作分類単位(OTU)又は分子種は,400乃至450の整列された相同なヌクレオチドから2%より少ない相違を有する(大便クローン及び参照菌株の)全ての配列からなる。この閾値はGodonら(15)の「同じOTUに属するクローンの配列の相違は,一般的に低い(2?0%)」という結論に基づき,それは16SrRNA相同性とDNA-DNA再会合値との比較の結果(30)とも一般的に一致する結論である。」(第4800頁,左欄第62行?右欄第6行)

(5)「ヌクレオチド配列アクセッションナンバー 各OTUの代表の一つ(単一の代表を持ついくつかのOTUは除く)はほぼ完全に配列を決定し,GenBankに成人ヒト大便を意味するadhufecの頭字語を付けて登録した(アクセッション番号AF132232からAF132286)。」(第4800頁,右欄第65?68行)

(6)「Bacterpoidesグループ Bacteroidesグループ(RDP登録番号2.7.1.1)の4つのサブグループの中でのクローンの系統学的分布を図1に示す。E.coliの第42から483位に対応する整列された塩基が,SIMILARITY及びNEIGHBORプログラムでこの系統樹を作成するために使用された。・・・そして41クローンがPrevotellaサブグループ(2.7.1.1.4)に含まれた。・・・13OTU(62%)は公開されたデータベース中に近縁の配列(少なくとも98%の類似性)がなく,潜在的な新種に由来した。38のPrevotella様クローン(全クローン集合の13%及びBacteroidesグループのクローンの43%)が4つの異なるグループに分類された。配列の相違は1.2?3.2%(完全配列を用いたGAPプログラム)にわたり,4つのOTUはほぼ確実に別々の種に由来することを示す。」(第4801頁,左欄下から19行?右欄第11行)

(7)「

図1 Bacteroidesグループメンバーの16SrDNAの部分配列データから算出された系統樹。棒は2%の配列相違を表す。クローン名とサブグループ名に使用された重要な生物は太字である。系統樹はSIMILARITY及びNEIGHBORプログラムで作成された。ブートストラップ値は500回反復に基づく。垂直な棒はAnaeroflexus集合体(a),Bacteroides fragilisサブグループ(b),Prevotellaサブグループ(c),及びBacteroides distasonisサブグループ(d)に対応する。」(第4802頁,図1)

(8)「今や,培養に基づく技術の制限により,ヒト腸内細菌叢の組成の知識が完全とはほど遠いことが認識された。実際に,腸内細菌多様性のかなりの細菌群が培養されていないということが,現在,普遍的ではないとしても一般的に信じられている。自生の細菌群は宿主の健康と生理学的機能に決定的な役割を果たす(6,10,12)。ヒト腸内の最優勢細菌の詳細な知識は,例えば,どのようにして正常な細菌叢が病原性細菌に対するコロニー形成抵抗性を提供したり,免疫反応を刺激するのかを理解するために重大な意味を持つ。同様に,(例えば,プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いる)健康改善のための正常な細菌叢を調節することを目的とした効果的な食事計画(13,31)を実行するために,細菌の変化をモニタリングするための正確な方法は絶対的に不可欠である。
本研究において,われわれは一人のヒト大便サンプルから直接作成されたrDNA増幅産物の分子遺伝学的解析を行った。その結果,この菌叢の95%は3つの主要な系統学的系譜(すなわち,Bacteroides, Clostridium coccoides,及びClostridium leptumグループ)に割り当てられることが示された。重大なことに,徹底的な系統学的解析は,かなり大多数の観察されたrDNAの多様性が,ヒト腸内の今までに知られていない優勢な微生物に起因することを明らかにした。我々の直接的な大便解析から得られた詳細な分子多様性の目録は,他の,加齢,食事,腸の病気,及び地理学に基づく研究のためのベースライン及び比較の枠組みとなるであろう。そのような拡張した研究(もう一人の成人,一人の老人,及び数人の乳児)が既に計画されている。さらに,生成された配列は対応する現存の生物(例えばFusobacterium prausnitziiとPrevotellaサブグループ内の新たなクラスターに関連する分子種)の単離を可能にするはずであり,腸の微生物生態系を研究するための強力な手段を提供する,新規な種-及び群-特異的遺伝子プローブの設計の助けにもなるはずである。一人の成人から回収された新規な分子種は,PCR増幅の結果から生ずる偏りのない,全細菌叢におけるそれらの寄与を評価するために,いくつかの大便サンプルのドットブロットやin situハイブリダイゼーションによって定量化されるだろう。」(第4806頁,左欄下から19行?右欄第20行)

引用例の記載事項(1)?(8)によれば,引用例には,ヒト大便サンプルから得られたDNAを用いて16SrDNAをクローニングし,ヒト腸内細菌のプレボテラ属等の未同定細菌由来の配列が得られたことが記載されている。

4.対比・判断
本願発明の「配列番号1及び2からなる塩基配列」について,発明の詳細な説明を参照すると,健康成人3人の糞便から抽出したDNAを鋳型として,全生物に共通なプライマーを用いたPCRにより16SrDNAを増幅することにより,新規にクローニング及び配列決定されて得られた塩基配列であり(【0022】-【0024】),配列番号1又は2の塩基配列からなるプローブは,未同定菌群に属する細菌の16SrDNA配列と公知の近縁菌種の塩基配列とを比較・検討した中で,プレボテラクラスターの一部であるCA75菌群を特異的に検出するように設計されたプローブであること(【0025】-【0026】,【0029】,【0031】及び図1)が説明されている。
そして,本願の図1に記載される,CA75菌群中のAF132282で示される塩基配列は,引用例においてクローニングされ,登録された配列である(記載事項(5))。
そうすると,本願発明と引用例に記載された発明とは,「ヒト腸内に存在するプレボテラクラスターに属する未同定菌群の16SrDNA」に関するものである点で一致し,以下の点で相違する。
相違点:本願発明が「配列番号1及び2から選ばれる塩基配列又は該塩基配列に相補的な配列からなる未同定菌群検出用プローブ」であるのに対し,引用例には配列番号1及び2の塩基配列の記載はなく,未同定菌群検出用プローブも記載されていない点。

上記相違点について検討する。
引用例の記載事項(8)には,大便サンプルの種類や数を増やしてさらに解析を行うこと,及び生成された配列を基に,新規な種又は群に特異的なプローブを設計し,in situハイブリダイゼーションによる腸内細菌叢の定量化に用いることが示唆されている。
よって,引用例に示唆されるように,他の大便サンプルを用いた解析を行い,さらに新規な未同定菌種の16SrDNAの塩基配列を取得すること,及び取得された新規な配列とデータベース上の配列との比較に基づいて,新規な菌群に特異的なプローブを設計することは,当業者が容易に想到し得るものである。
そして,本願発明のプローブは,従来未同定であったCA75菌群を検出することができるという効果を奏するものではあるが,新規な菌群特異的プライマーを用いれば,従来未同定の菌群を検出できることは,引用例の記載から予測し得るものであり,CA75菌群がヒトの健康や病気にどのように影響を及ぼすかといったCA75菌群自体の性質は何も明らかにされてはいないから,本願発明のプローブを用いてCA75菌群を検出できることによって,他の新規なプローブを設計し,他の未同定菌群を検出する場合と比べて,他の菌群の検出からでは得られない有利な情報が得られるというものではない。
よって,本願発明は,引用例の記載から予測できない有利な効果を奏するものではない。

5.請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,以下の主張をしている。
(1)引用例に記載されたCA75菌群の16SrDNAの塩基配列は,本願発明のプライマーの塩基配列に相当する領域には,同一菌群内にミスマッチが存在することから,各菌群を同定・検出するためのプローブのターゲット領域として,選定してみようとすることは通常ありえない。

(2)本願発明のプローブの特異的領域の選定は,引用例の配列情報から行えるものではなく,新たな塩基配列情報があって初めてなし得たものである。そしてGC含量や鎖長等を考慮してプローブが設計され,さらに特異性・反応性の選別を行ってはじめて,実用可能なプローブが取得される。インサイチュハイブリダイゼーションにおいて高感度なプローブを見出すことは,特に多くの試行錯誤が必要となる。このように,実用可能なプローブを得ることは,引用例の記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても当業者が容易になし得ることではない。

(3)本願発明のプローブを用いてFISH法によりヒト大便中の菌群を検出した場合,大便1gあたり10^(9)cellsレベルで存在する,ヒト腸内の最優勢菌種でありながら,未同定の菌群のみを特異的に同定・検出することが可能となる。これにより,正確で詳細なヒト腸内細菌叢の解析を迅速,簡便に行うことができ,ヒトの健康維持,種々疾病等の予防・治療に関わる腸内細菌叢の役割にについてより重要な情報を入手でき,ヒトの健康維持,種々の疾病等の予防・治療が容易になるという効果が得られる。

請求人の主張について検討する。
主張(1)については,請求人は,本願発明のプローブと,引用例に記載されたCA75菌群の塩基配列とにミスマッチが存在することを根拠に,本願発明のプローブを設計することの困難性を主張しているが,上述のように,引用例には,引用例において同定された塩基配列のみならず,更なる大便サンプルから新規な未同定細菌群由来の塩基配列を得てプローブを設計することも示唆されており,そのような新規な未同定菌群に属する菌を全て検出し,他の菌群を検出しないプローブを設計する場合に,当該菌群に特異性の高い領域の配列中にもミスマッチが含まれてしまうことは当然起こり得ることであるし,請求人の指摘する上記ミスマッチは,ターゲット領域の22又は23塩基のうちの1塩基に過ぎないから,上記ミスマッチの存在が,本願発明のプローブのターゲット領域を選定することを阻害するものとまではいえない。

次に,主張(2)については,新規な塩基配列情報を得ることは,上述のとおり,引用例において示唆されている。
そして,本願明細書に記載された新規な配列情報は,引用例において示唆されたとおりに,大便サンプル数を増やして解析を行った結果,特に困難なく得られたものであり,それをもって,本願発明をすることが困難であったということはできない。
また,16SrDNAの塩基配列からなる菌群特異的プローブを用いたFISH法により,大便中の細菌叢を検出することは,本願出願日当時,周知技術であり(必要であれば,Microbiology, 1996, Vol.142, p.1097-1106, Appl. Environ. Microbiol.,1998, Vol.64, No.9, p.3336-3345, Bioscience Microflora, 2000. Oct., Vol.19, No.2, p.79-84等を参照。),GC含量や鎖長を考慮した上で菌群に特異的なターゲット領域を選定した後に,プローブが実際に検出する菌群の範囲,すなわち特異性の確認を行うことは,当業者が通常行うことであるから,実用可能なプローブを得るまでにある程度の試行錯誤が必要であるとしても,当業者であれば通常なし得る程度のものといえる。
さらに,本願明細書の実施例3には,本願発明のプライマーの特異性の確認を行った結果,表4に記載される既知の35菌種は検出しなかったと説明されているが(【0031】),該35種以外の既知の菌種や未知の菌種との反応性は不明であり,本願発明のプローブが,引用例に記載されたAF132282等をも含めたCA菌群の菌種を全て検出できるか否か,また,CA菌群以外の菌種は検出しないものであるのか否かも不明である。
してみると,本願発明のプローブは,CA75菌群を検出できるということ以外に,周知のプローブと比べて,格別に特異性が高く,優れたプローブであるということもできない。

最後に,主張(3)については,引用例には,培養技術では細菌叢の60?80%が検出できなかったこと,16SrRNA遺伝子の解析では,培養技術では検出できない細菌群を検出でき,その大多数がヒト腸内細菌の未同定の優勢種に由来したことが記載されている(記載事項(2)及び(8))。すなわち,引用例では,ヒト腸内には優勢種でありながら未同定の菌群が数多く存在することが指摘されている。
そして,大便から新たな16SrDNAをクローニングした場合には,腸内に存在する割合の高い最優勢種のDNAの方がクローニングされる確率が高いのは当然であるから,新規に取得された16SrDNAの配列がそのような最優勢種に由来し,その塩基配列情報によって新規な未同定の最優勢種を検出できるようになることも,引用例の記載から予測し得るものである。
さらに,引用例には,ヒト腸内の細菌叢をより正確にモニタリングすることで,健康改善等に役立てることについても示唆されている(記載事項(8))。

以上により,請求人の主張(1)?(3)を採用することはできず,本願発明は,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-02 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-09-21 
出願番号 特願2000-340874(P2000-340874)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 あい  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 吉田 佳代子
鈴木 恵理子
発明の名称 ヒト腸内フローラ検出用プローブ又はプライマー  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 山本 博人  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 高野 登志雄  
代理人 有賀 三幸  

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