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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1226283
審判番号 不服2008-31006  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-08 
確定日 2010-11-04 
事件の表示 特願2005-518187「内燃機関の排ガス再循環の監視のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月29日国際公開、WO2004/113710、平成18年 3月23日国内公表、特表2006-509966〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、2004年6月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年6月20日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成17年4月14日付けで特許法第184条の5第1項に基づく国内書面、並びに、特許法第184条の4第1項に基づく明細書、請求の範囲、図面及び要約の日本語による翻訳文がそれぞれ提出され、平成20年2月8日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成20年6月16日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成20年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成20年12月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成21年10月19日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年3月23日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成20年12月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成20年12月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成20年12月8日付けの特許請求の範囲についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年6月16日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし9を下記の(b)に示す請求項1ないし7と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
圧力検出による内燃機関の排ガス再循環(AR)の監視のための方法であって、排ガスは燃焼室装置のアウトレット側から排ガス再循環チャネル(ARK)を介して燃焼室装置のインレット側に再循環される、圧力検出による内燃機関の排ガス再循環(AR)の監視のための方法において、
少なくとも1つの燃焼室(ZYL1…ZYLn)において圧力経過が検出され、これから熱力学的特性量が実際値として求められ、この場合前記熱力学的特性量として、パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))と、制御装置(ST)にて既知の基準点又は基準角度(_(αZ))との間の時間差又はクランクシャフト角度差(Δ_(α))が基礎とされ、
内燃機関の現在の動作点を考慮する特性量の目標値が準備され、目標値と実際値との間の偏差が決定され、
この偏差から排ガス再循環のノーマル状態と比較した排ガス再循環の現在の状態に関する情報が得られることを特徴とする、圧力検出による内燃機関の排ガス再循環(AR)の監視のための方法。
【請求項2】
圧力経過は一定のクランクシャフト角度又は時間間隔におけるサンプリングにより検出され、サンプリングされた圧力値は燃焼サイクルの少なくとも1つの部分の間のデータシーケンスとして格納されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱力学的特性量は圧力経過に基づいて燃焼サイクルの少なくとも1つの部分の間の燃焼過程から又は加熱過程からもとめられ、前記燃焼過程において全体として解放された熱量が計算され、前記加熱過程において燃焼ガスに供給された熱量が計算されることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
加熱過程は次の関係式
dQh=dU+p*dV
によって計算され、ここで前記dQhは供給される熱量、前記dUは燃焼ガスの内部エネ
ルギーの上昇、前記p*dVは送出される機械的な仕事を表し、
供給される熱量dQhからクランクシャフト角度に亘る積分によってエネルギー変換のパーセント表示による割合が求められることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
パーセント表示によるエネルギー変換点は次の式
Q_(i)=[n/(n-1)]*p_(i)*(V_(i+1)-V_(i-1))*[1/(n-1)]+V_(i)*(p_(i+1)-p_(i-1))
によって計算されるか又はこの式から導出される式から計算され、ここで前記nはポリトロープ指数、前記pは燃料室の圧力、前記Vはシリンダ容積、前記iは計算区間の開始から終了までのサンプリングされ格納されるシリンダ圧力の連続インデクスを意味し、
パーセント表示によるエネルギー変換は全作業サイクルに亘る熱量Qiの積分によって100%エネルギー変換の決定においてもとめられ、ここからこのパーセント表示によるエネルギー変換に相応するクランクシャフト角度(_(αE50) _(%))が決定されることを特徴とする、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
パーセント表示によるエネルギー変換点として50%エネルギー変換点が基礎とされることを特徴とする、請求項1?5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
目標値と実際値との間の偏差は正の及び負の制限値と比較され、該制限値は特性量計算及び目標値のトレランスを考慮していることを特徴とする、請求項1?6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
圧力経過は直接的に少なくとも1つの燃焼室(ZYL1…ZYLn)に配置されたセンサによって又は間接的に決定されることを特徴とする、請求項1?7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
もとめられた排ガス再循環のデータは制御装置においてエラー格納及び/又はエラーを有するエラー診断のために及び/又は制御目的のために、とりわけ排ガス再循環バルブ(ARV)の追従制御のために評価されることを特徴とする、請求項1?8いずれか1項記載の方法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
圧力検出による内燃機関の排ガス再循環(AR)の監視のための方法であって、排ガスは燃焼室装置のアウトレット側から排ガス再循環チャネル(ARK)を介して燃焼室装置のインレット側に再循環される、圧力検出による内燃機関の排ガス再循環(AR)の監視のための方法において、
少なくとも1つの燃焼室(ZYL1…ZYLn)において圧力経過が検出され、これから熱力学的特性量が実際値として求められ、この場合前記熱力学的特性量は圧力経過に基づいて燃焼サイクルの少なくとも1つの部分の間の燃焼過程から又は加熱過程からもとめられ、前記燃焼過程においては全体として解放された熱量が計算され、前記加熱過程においては燃焼ガスに供給された熱量が計算されており、さらに前記熱力学的特性量として、パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))と、制御装置(ST)にて既知の基準点又は基準角度(_(αZ))との間の時間差又はクランクシャフト角度差(Δ_(α))が基礎とされ、この場合前記パーセント表示によるエネルギー変換点は次の式Q_(i)=[n/(n-1)]*p_(i)*(V_(i+1)-V_(i-1))*[1/(n-1)]+V_(i)*(p_(i+1)-p_(i-1))によって計算されるか又はこの式から導出される式から計算され、ここで前記nはポリトロープ指数、前記pは燃料室の圧力、前記Vはシリンダ容積、前記iは計算区間の開始から終了までのサンプリングされ格納されるシリンダ圧力の連続インデクスを意味し、 内燃機関の現在の動作点を考慮する特性量の目標値が準備され、目標値と実際値との間の偏差が決定され、
この偏差から排ガス再循環のノーマル状態と比較した排ガス再循環の現在の状態に関する情報が得られることを特徴とする、圧力検出による内燃機関の排ガス再循環(AR)の監視のための方法。
【請求項2】
圧力経過は一定のクランクシャフト角度又は時間間隔におけるサンプリングにより検出され、サンプリングされた圧力値は燃焼サイクルの少なくとも1つの部分の間のデータシーケンスとして格納されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
加熱過程は次の関係式
dQh=dU+p*dV
によって計算され、ここで前記dQhは供給される熱量、前記dUは燃焼ガスの内部エネルギーの上昇、前記p*dVは送出される機械的な仕事を表し、
供給される熱量dQhからクランクシャフト角度に亘る積分によってエネルギー変換のパーセント表示による割合が求められることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
パーセント表示によるエネルギー変換点として50%エネルギー変換点が基礎とされることを特徴とする、請求項1?3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
目標値と実際値との間の偏差は正の及び負の制限値と比較され、該制限値は特性量計算及び目標値のトレランスを考慮していることを特徴とする、請求項1?4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
圧力経過は直接的に少なくとも1つの燃焼室(ZYL1…ZYLn)に配置されたセンサによって又は間接的に決定されることを特徴とする、請求項1?5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
もとめられた排ガス再循環のデータは制御装置においてエラー格納及び/又はエラーを有するエラー診断のために及び/又は制御目的のために、とりわけ排ガス再循環バルブ(ARV)の追従制御のために評価されることを特徴とする、請求項1?6いずれか1項記載の方法。」
(なお、下線は補正箇所を示す。)

[2]本件補正の目的

本件補正後の請求項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3に係る発明の発明特定事項である「パーセント表示によるエネルギー変換点」の計算式について、本件補正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明の発明特定事項の一部である「Q_(i)=[n/(n-1)]*p_(i)*(V_(i+1)-V_(i-1))*[1/(n-1)]+V_(i)*(p_(i+1)-p_(i-1))によって計算されるか又はこの式から導出される式から計算され、ここで前記nはポリトロープ指数、前記pは燃料室の圧力、前記Vはシリンダ容積、前記iは計算区間の開始から終了までのサンプリングされ格納されるシリンダ圧力の連続インデクスを意味し、」と特定するものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

本件補正後の請求項1に係る発明における発明特定事項のうち、「少なくとも1つの燃焼室(ZYL1…ZYLn)において圧力経過が検出され、これから熱力学的特性量が実際値として求められ、この場合前記熱力学的特性量は圧力経過に基づいて燃焼サイクルの少なくとも1つの部分の間の燃焼過程から又は加熱過程からもとめられ、前記燃焼過程においては全体として解放された熱量が計算され、前記加熱過程においては燃焼ガスに供給された熱量が計算されており、さらに前記熱力学的特性量として、パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))と、制御装置(ST)にて既知の基準点又は基準角度(_(αZ))との間の時間差又はクランクシャフト角度差(Δ_(α))が基礎とされ、この場合前記パーセント表示によるエネルギー変換点は次の式Q_(i)=[n/(n-1)]*p_(i)*(V_(i+1)-V_(i-1))*[1/(n-1)]+V_(i)*(p_(i+1)-p_(i-1))によって計算されるか又はこの式から導出される式から計算され、ここで前記nはポリトロープ指数、前記pは燃料室の圧力、前記Vはシリンダ容積、前記iは計算区間の開始から終了までのサンプリングされ格納されるシリンダ圧力の連続インデクスを意味し、 内燃機関の現在の動作点を考慮する特性量の目標値が準備され、」は、その技術的意味が、以下(1)ないし(4)の点で不明である結果、請求項1に係る発明は明確ではない。

(1)「熱力学的特性量」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「量」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。
また、「熱力学的特性量が実際値として求められ」なる記載も、上記のとおり「熱力学的特性量」が、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「量」であるのか不明であるため、技術的意味が不明である。

(2)「パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「点」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。

(3)「Q_(i)=[n/(n-1)]*p_(i)*(V_(i+1)-V_(i-1))*[1/(n-1)]+V_(i)*(p_(i+1)-p_(i-1))」の式は、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「式」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。

(4)「内燃機関の現在の動作点を考慮する特性量の目標値」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「値」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。
この「目標値」に関して、発明の詳細な説明には、「目標値は有利には通常は試験台において監視のために予期される内燃機関の動作点における排ガス再循環の様々な相対的な割合に対する内燃機関のための制御パラメータ(例えば回転数及び空気充填量ならびに排ガス再循環バルブの制御の数値)の導出の間に一度だけもとめられる。」(段落【0009】)、「その後で、排ガス再循環に特有の熱力学的特性量の実際値がステップS5においてもとめられ、メモリテーブルから又は制御装置において予め格納されていた曲線経過から内燃機関の瞬時の動作パラメータに相応する目標値がステップS6において準備される。」(段落【0021】)、「制御装置においてパラメータとして格納されている目標値は、内燃機関の瞬時の動作点を例えば回転数、空気充填量又は調整される排ガス再循環率に相応して考慮する。」(段落【0022】)及び「制御装置STにより調整される排ガス再循環バルブARVの制御のために、所属の特性量Δ_(αsoll)が目標値として格納されたデータの中から当該燃焼サイクルに対してもとめられる。」(段落【0027】)の記載があり、これらの記載を参酌すると、「目標値」は、「所属の特性量」を意味するものと解せるが、「所属の特性量」が、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「量」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明であるため、結局、「目標値」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「値」であるのか不明である。

したがって、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明の内容

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし9に係る発明は、平成20年6月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1から9に係る発明は、上記第2[理由][1](a)の請求項1ないし9に記載されたとおりである。

2.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

「この出願については、平成20年 2月 8日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
1.出願人は、先の拒絶理由の(1)において不明確であるとされた請求項1の「熱力学的特性量」を具体化する事項として、補正前の請求項2に係る発明特定事項である、「熱力学的特性量としてパーセント表示によるエネルギー変換点と、制御装置にて既知の基準点又は基準角度との間の時間差又はクランクシャフト角度差が基礎とされる事項」(以下、「追加事項」という。)を請求項1に追加する補正を行ったが、該追加事項についても、先の拒絶理由の(5)において指摘したとおり、「パーセント表示によるエネルギー変換点」との記載は不明確であるし、本願の発明の詳細な説明及び図面に明確かつ十分に説明がない。してみると、該補正により、先の拒絶理由の(1)は依然として解消されない。

2.先の拒絶理由の(2)、(4)-(5)において指摘した事項に対する手続補正及び意見はなく、拒絶理由は依然として解消されていない。」

また、「平成20年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由」の概要は、以下のとおりである。

「この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1の「熱力学的特性量」、「特性量」が、技術的に不明確である。
また、上記記載について、本願の明細書及び図面を参酌しても、明確かつ十分に記載されていない。
例えば、明細書には、「熱力学的特性量としてパーセントによるエネルギー変換点と制御装置において既知の基準点又は基準角度との間の時間差又はクランクシャフト角度差が基礎とされる。」(段落【0010】)と記載されているが、(5)においても後述するとおり、「パーセントによるエネルギー変換点」も、不明確である。

(2)請求項1の「熱力学的特性量が実際値としてもとめられ」との記載は、技術的に不明確である。
また、上記記載について、本願の明細書及び図面を参酌しても、明確かつ十分に記載されていない。
例えば、明細書には、「制御装置STはシリンダ圧力信号乃至はサンプリングされた圧力経過のデータシーケンスから50%エネルギ変換点に相応する50%点火角度αE50%を計算し、この50%点火角度αE50%は瞬時の点火角度αzの減算によって実際値量Δαistをもたらす」(段落【0027】)と記載されているが、(5)においても後述するとおり、「50%エネルギ変換点」とは何であるか、不明確である。

・・・・・・・・・・・(中 略)・・・・・・・・・・・

(4)請求項1の「特性量の目標値」との記載について、「目標値」が何であるか、技術的に不明確である。
また、上記記載について、本願の明細書及び図面を参酌しても、明確かつ十分に記載されていない。
例えば、明細書には、「目標値は有利には通常は試験台において監視のために予期される内燃機関の動作点における排ガス再循環の様々な相対的な割合に対する内燃機関のための制御パラメータ(例えば回転数及び空気充填量ならびに排ガス再循環バルブの制御の数値)の導出の間に一度だけもとめられる。」(段落【0009】)、「メモリテーブルから又は制御装置において予め格納されていた曲線経過から内燃機関の瞬時の動作パラメータに相応する目標値がステップS6において準備される。」(段落【0021】)、「制御装置STにより調整される排ガス再循環バルブARVの制御のために、所属の特性量Δαsollが目標値として格納されたデータの中から当該燃焼サイクルに対してもとめられる。」(段落【0027】)と記載されており、「目標値」とは、「所属の特性量Δαsoll」であると認められるが、「所属の特性量Δαsoll」を具体的にど
のようにもとめているか、不明確である。

(5)請求項2、6、7の「パーセントによるエネルギー変換点」、請求項5の「エネルギ変換のパーセントによる割合」、請求項6の「パーセントによるエネルギ変換」、「100%エネルギ変換」、請求項7の「50%エネルギ変換点」との記載について、「エネルギー変換」とは何であるか、技術的に不明確であるし、「パーセントによる」、「パーセントによる割合」、「100%」、「50%」とは何の何に対する割合か、技術的に不明確である。
また、上記記載について、本願の明細書及び図面を参酌しても、明確かつ十分に記載されていない。
例えば、「熱量dQhからクランクシャフト角度に亘る積分によってエネルギ変換のパーセントによる割合がもとめられる」(段落【0013】、【0025】)、「パーセントによるエネルギ変換は全作業サイクルに亘る熱量Qiの積分によって100%エネルギ変換の決定においてもとめられ、これからパーセントによるエネルギ変換に相応するクランクシャフト角度が決定されることによって得られる。」(段落【0014】)と記載されているが、各積分がどのような積分であるか、不明確であるし、「パーセントによるエネルギ変換」を具体的にどのようにもとめているか、不明確である。

・・・・・・・・・・・(後 略)・・・・・・・・・・・」

3.当審の判断

以下に示すように、上記2.原査定の理由の「平成20年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由」の概要の(1)、(2)、(4)及び(5)に指摘された点はいずれも解消しておらず、それらに起因し、請求項1、4、5及び6に係る発明は、いずれも明確でなく、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1、4、5及び6に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(1)上記2.原査定の理由の「平成20年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由」の概要の(1)及び(2)について

請求項1に係る発明における発明特定事項である「熱力学的特性量」は、「パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))と、制御装置(ST)にて既知の基準点又は基準角度(_(αZ))との間の時間差又はクランクシャフト角度差(Δ_(α))が基礎とされ」るものであることと解せるが、前記「パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))」が何を意味し、どのような技術的意味をもつ「点」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明であるため、結局、「熱力学的特性量」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「量」であるのか不明である。

また、「熱力学的特性量が実際値として求められ」なる記載は、上記のとおり「熱力学的特性量」が、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「量」であるのか不明であるため、技術的意味が不明である。

(2)上記2.原査定の理由の「平成20年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由」の概要の(4)について

請求項1に係る発明における発明特定事項である「特性量の目標値」のうち、「目標値」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「値」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。
この「目標値」に関して、発明の詳細な説明には、「目標値は有利には通常は試験台において監視のために予期される内燃機関の動作点における排ガス再循環の様々な相対的な割合に対する内燃機関のための制御パラメータ(例えば回転数及び空気充填量ならびに排ガス再循環バルブの制御の数値)の導出の間に一度だけもとめられる。」(段落【0009】)、「その後で、排ガス再循環に特有の熱力学的特性量の実際値がステップS5においてもとめられ、メモリテーブルから又は制御装置において予め格納されていた曲線経過から内燃機関の瞬時の動作パラメータに相応する目標値がステップS6において準備される。」(段落【0021】)、「制御装置においてパラメータとして格納されている目標値は、内燃機関の瞬時の動作点を例えば回転数、空気充填量又は調整される排ガス再循環率に相応して考慮する。」(段落【0022】)及び「制御装置STにより調整される排ガス再循環バルブARVの制御のために、所属の特性量Δ_(αsoll)が目標値として格納されたデータの中から当該燃焼サイクルに対してもとめられる。」(段落【0027】)の記載があり、これらの記載を参酌すると、「目標値」は、「所属の特性量」を意味するものと解せるが、「所属の特性量」が、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「量」であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明であるため、結局、「目標値」とは、何を意味し、どのような技術的意味をもつ「値」であるのか不明である。

(3)上記2.原査定の理由の「平成20年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由」の概要の(5)について

平成20年6月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、4、5及び6は、それぞれ、上記拒絶理由通知書にて指摘した本件出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2、5、6及び7に対応している。
また、平成20年6月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))」、請求項4に記載された「エネルギー変換のパーセント表示による割合」、請求項5に記載された「100%エネルギー変換」、「パーセント表示によるエネルギー変換」及び請求項6に記載された「50%エネルギー変換点」は、それぞれ、本件出願当初の特許請求の範囲の請求項2に記載された「パーセント表示によるエネルギー変換点(_(αEK%))」、請求項5に記載された「エネルギー変換のパーセントによる割合」、請求項6に記載された「100%エネルギ変換」、「パーセントによるエネルギー変換」及び請求項7に記載された「50%エネルギ変換点」に対応している。
しかしながら、これらの用語の補正は、表現をわずかに修正するか、又は誤記を訂正した程度であって、実質的に、これらの用語の技術的意味について明らかにしたものではない。
してみると、上記拒絶理由通知書にて指摘したと同様の以下の不明な点は、依然として解消していない。
a)請求項1、4、5及び6に係る発明における発明特定事項のうち「エネルギー変換」が、何を意味し、どのような技術的意味をもつものであるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。
b)請求項1、4及び5に係る発明における発明特定事項のうち「パーセント表示による」、請求項5に係る発明における発明特定事項のうち「100%」及び請求項6に係る発明における発明特定事項である「50%」は、何を基準とした割合であるのか不明であり、また、どのような技術的意味をもつ割合であるのか、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても不明である。

4.むすび

したがって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本件出願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-27 
結審通知日 2010-06-03 
審決日 2010-06-18 
出願番号 特願2005-518187(P2005-518187)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
P 1 8・ 537- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一平岩 正一  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 加藤 友也
深澤 幹朗
発明の名称 内燃機関の排ガス再循環の監視のための方法  
代理人 杉本 博司  
代理人 二宮 浩康  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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