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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1226323
審判番号 不服2009-3184  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-12 
確定日 2010-11-04 
事件の表示 特願2002-541231「排ガス後処理システムを制御する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月16日国際公開、WO02/38932、平成16年 4月22日国内公表、特表2004-512466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件は、2001年10月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月11日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成15年5月12日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面、国際出願日における明細書、請求の範囲、図面の翻訳文及び、同日付けで特許法第184条の8第1項の規定による条約第34条補正の翻訳文が提出され、平成19年6月25日付けで拒絶理由が通知され、平成19年10月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成20年3月31日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成20年7月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされたが、平成20年11月10日付けで上記平成20年7月3日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対して、平成21年2月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、平成21年3月16日付けで手続補正書が提出されて、明細書を補正する手続補正がなされたものであり、その後、当審において平成21年11月9日付けで書面による審尋がなされ、平成22年2月9日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成21年3月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月16日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
1.本件補正の内容
平成21年3月16日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成19年10月29日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記Aを、下記Bと補正するものである。
A「【請求項1】 内燃機関における微粒子フィルタを制御する方法であって、
当該微粒子フィルタの被着状態を特徴付ける少なくとも1つの状態量を求め、
該状態量に依存して再生を開始し、
前記の微粒子フィルタの温度を当該微粒子フィルタの被着状態および/または内燃機関の状態に依存して調整または制御し、
排気ガスに未燃焼の燃料を供給する形式の方法において、
前記の状態量により、再生が必要であることが示され、また排気ガス温度が低すぎずかつガス流が大きな値になり過ぎない再生に適切な動作点の場合に、第1フェーズにて前記の排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を時間の経過と共に増大させ、
当該の第1フェーズに続く第2フェーズにおいて前記の排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を一定の値にすることを特徴とする、
微粒子フィルタを制御する方法。
【請求項2】 第1および/第2フェーズの持続時間をあらかじめ設定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】 再生が開始された場合、第2フェーズを終了する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 第3フェーズでは未燃焼の燃料の量を、一時的に前記一定値に設定する、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】 前記の一定値を、回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定する、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 微粒子フィルタの手前および後方の温度および/または排ガス組成に基づいて再生の開始を識別する、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】 内燃機関における微粒子フィルタを制御する装置であって、
該微粒子フィルタの被着状態を特徴付ける少なくとも1つの状態量が求められ、
該状態量に依存して再生が開始される形式の、内燃機関における微粒子フィルタを制御する装置において、
微粒子フィルタの温度を、当該微粒子フィルタの被着状態および/または内燃機関の状態に依存して制御または調整する手段が設けられており、
排ガスに未燃焼の燃料を供給して、
前記の状態量により、再生が必要であることが示され、また排気ガス温度が低すぎずかつガス流が大きな値になり過ぎない再生に適切な動作点の場合に、第1フェーズでは排ガスにおける未燃焼の燃料の量が時間の経過と共に増大し、
当該の第1フェーズに続く第2フェーズでは排ガスにおける未燃焼の燃料の量が一定の値をとるようにする手段が設けられていることを特徴とする、
内燃機関における微粒子フィルタを制御する装置。」

B「【請求項1】 内燃機関における微粒子フィルタを制御する方法であって、
当該微粒子フィルタの被着状態を特徴付ける少なくとも1つの状態量を求め、
該状態量に依存して再生を開始し、
前記の微粒子フィルタの温度を当該微粒子フィルタの被着状態および/または内燃機関の状態に依存して調整または制御し、
排気ガスに未燃焼の燃料を供給する形式の方法において、
前記の状態量により、再生が必要であることが示され、また排気ガス温度が低すぎずかつガス流量が大きな値になり過ぎない再生に適切な動作点の場合に、第1フェーズにて前記の排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を時間の経過と共に増大させ、
当該の第1フェーズに続く第2フェーズにおいて前記の排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を一定の値にし、ここで当該の一定値を第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定することを特徴とする、
微粒子フィルタを制御する方法。
【請求項2】 第1および/第2フェーズの持続時間をあらかじめ設定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】 再生が開始された場合、第2フェーズを終了する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 第3フェーズでは未燃焼の燃料の量を、一時的に前記一定値に設定する、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】 微粒子フィルタの手前および後方の温度および/または排ガス組成に基づいて再生の開始を識別する、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 内燃機関における微粒子フィルタを制御する装置であって、
該微粒子フィルタの被着状態を特徴付ける少なくとも1つの状態量が求められ、
該状態量に依存して再生が開始される形式の、内燃機関における微粒子フィルタを制御する装置において、
微粒子フィルタの温度を、当該微粒子フィルタの被着状態および/または内燃機関の状態に依存して制御または調整する手段が設けられており、
排ガスに未燃焼の燃料を供給して、
前記の状態量により、再生が必要であることが示され、また排気ガス温度が低すぎずかつガス流量が大きな値になり過ぎない再生に適切な動作点の場合に、第1フェーズでは排ガスにおける未燃焼の燃料の量が時間の経過と共に増大し、
当該の第1フェーズに続く第2フェーズでは排ガスにおける未燃焼の燃料の量が一定の値をとるようにする手段が設けられており、ここで当該の一定値を、第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定することを特徴とする、
内燃機関における微粒子フィルタを制御する装置。」(なお、下線部は請求人が示した補正箇所である。)

2.本件補正の適否についての判断
本件補正後における請求項1に関する補正は、上記本件補正前(平成19年10月29日付けの手続補正書による手続補正)の請求項1における「未燃焼の燃料の量を一定の値にする」に、「当該の一定値を第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定する」という発明特定事項を付加することを含むものである。
ところで、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)において、「一定値」を、「第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定する」ことの直接的な記載はない。確かに、当初明細書等における例えば、段落【0033】には「一定値QKZは、有利には触媒コンバータの手前の温度TV、内燃機関の負荷および回転数Nに基づいて決定され、ここで上記の一定値QKZにまで付加的な燃料量が増大される。このことが意味するのは、これらの量、すなわち、触媒コンバータの手前の温度、触媒コンバータの後方の所望の温度、および回転数および負荷などの別の動作特性量に基づいて、付加的な燃料量QZが決定されることである。」との記載はあるものの、当該記載をもって「一定値」を、「第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定する」ことまで当初明細書等に接した当業者が、そこに記載されているのと同然であると理解できるとまではいえない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえない。

3.[理由1]むすび
以上のように、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

[理由2]
仮に、上記[理由1]で指摘した本件補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとしても、以下の理由により、本件補正は却下されるべきものである。

1.本願補正発明
本件補正により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、上記[理由1]1.B【請求項1】のように補正された(以後、「本願補正発明」という。)。
これは、本件補正により補正される前(平成19年10月29日付けの手続補正書による手続補正)の請求項1における発明特定事項である「未燃焼の燃料の量を一定の値」に関して、「ここで当該の一定値を第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定する」を付加することで、限定することを含むものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 独立特許要件の判断1
本件補正によって、明細書及び図面の記載が以下の点で不明りょうとなることから、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであって、本願補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(1)明細書の段落【0010】において、「再生が開始された場合に第2フェーズを終了することによって、一方では再生を加速することができ、他方では燃料の消費をさらに最小化することができる。」と記載され、同じく段落【0011】において、「殊に有利であるのはつぎのような発展形態である。すなわちここでは第3フェーズにおいて未燃焼の燃料の量を一時的に一定値に、有利には第2フェーズに値に設定する。」と記載されているが、技術的に何を意味しているのか不明であり、そもそも、第3フェーズとは例えば【図3】ではどこを示すのかが明確ではない。

(2)明細書の段落【0045】、【0046】及び【図3】の記載を参酌しても、必ずしも各フェーズ(第1ないし第3)が明確とはいえず、時間と付加的な量との関係が明確とはいえない。

2.-2 独立特許要件の判断2
2.-2-1 引用文献記載の発明
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である本件出願の優先権の主張の日前に頒布された特開平9-222009号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジン等、内燃機関の排気中に含まれる微粒子をフィルタに捕集して排気を浄化する内燃機関の排気微粒子浄化装置に関し、特に、捕集した微粒子を燃焼除去してフィルタを再生する手段に関するものである。」(段落【0001】)

イ.「【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1の構成において、内燃機関の微粒子浄化装置は、内燃機関の排気流路途中に設けられて排気中に含まれる微粒子を捕集する触媒担持フィルタの、排気の流れに対して上流側に触媒コンバータを有し、該触媒コンバータには排気温度が触媒活性化温度よりも低い運転条件でフィルタの再生を行う時に電気的に発熱して上記触媒コンバータの触媒を部分的に活性化することのできる部分加熱ヒータが付設されている。また、浄化装置は、上記触媒コンバータより上流側の排気流路中に未燃焼の燃料を供給する燃料供給手段と、燃料供給量の制御手段を備え、制御手段は、上記触媒コンバータの触媒活性状態に基づいて、燃料供給量を、触媒の活性状態が安定するまでは活性化した触媒が活性状態を維持できる程度の少量とし、その後、燃料供給量を増加させるように制御するようになしてある(請求項1)。
【0010】フィルタの再生は、内燃機関が高回転、高負荷の運転条件にあるときのように、排気温度が触媒活性化温度以上の場合には、燃料供給手段によって排気流路中に未燃焼の燃料を供給すれば、燃料が触媒によって酸化されるため、その酸化反応熱によってフィルタ上に堆積した微粒子を加熱、燃焼させることができる。ところが、内燃機関が低回転、低負荷の運転条件にあるときのように、排気温度が触媒活性化温度よりも低い場合には、燃料を供給しても触媒が活性化していないため、燃料が酸化されず、フィルタの再生ができない。
【0011】このようなとき、本発明請求項1の構成では、触媒担持フィルタ上流側の触媒コンバータに付設される部分加熱ヒータに電力を供給して、ヒータ近傍の触媒を加熱し、触媒コンバータの触媒を部分的に活性化する。部分加熱ヒータの温度が安定したところで、燃料供給手段によって、ヒータ近傍の触媒温度が活性化温度よりも低くならない程度の少量の燃料を供給すると、燃料が部分的に活性化した触媒で酸化され、その反応熱を受けて触媒活性化領域が次第に広がる。ここで、燃料供給量は、一度活性化した触媒が活性状態を維持できる程度の少量に制御されているので、部分加熱ヒータの壁面温度を低下させることなく、活性化領域を徐々に広げて、触媒コンバータからフィルタの一部にまで拡大することができる。
【0012】触媒の活性状態が安定したところで、燃料供給量を増加させていくと、燃料は広がった触媒活性化領域で酸化され、その反応熱を受けてさらに触媒活性化領域が広がり、最終的にはフィルタ全体の触媒が活性化される。燃料は触媒コンバータとフィルタ全体の触媒で酸化され、この反応熱によってフィルタ上に堆積した微粒子を着火温度以上に昇温し、燃焼させてフィルタを再生することができる。」(段落【0009】及び【0012】)

ウ.「【0014】さらに、上記制御手段が、触媒の活性状態が安定したかどうかを上記検出手段で検出される排気温度が上昇、安定したかどうかで判断し、排気温度の上昇が安定した時点から燃料供給量を増加させるように設定すれば(請求項3)、触媒の活性状態が安定するまでの燃料供給時間をより適切な長さとすることができる。」(段落【0014】)

エ.「【0022】上記触媒コンバータ2よりさらに上流側の排気流路1は、直角に屈曲せしめてあって、上記部分加熱ヒータ21に対向する上記直角部の排気流路1壁に、燃料供給手段たる燃料噴射弁4が設けてある。該燃料噴射弁4は図略の燃料供給系に接続されている。また、上記触媒コンバータ2と、上記触媒担持フィルタ3の間には、サーミスタ等よりなる温度センサ5が設置されており、上記触媒コンバータ2通過後の排気温度を測定できるようにしてある。なお、温度センサ5を上記触媒担持フィルタ3の下流側に設置する構成としてもよい。
【0023】上記部分加熱ヒータ21、燃料噴射弁4、温度センサ5は、制御手段たるコントローラ6に接続されており、温度センサ5で測定される排気温度に基づいて、部分加熱ヒータ21への通電、燃料噴射弁4による燃料の供給を制御できるようにしてある。
【0024】図2に、上記構成の微粒子浄化装置における燃料供給量の制御方法を示す。フィルタの再生開始時、上記温度センサ5の測定結果から排気温度が触媒活性化温度よりも低いと判断すると、コントローラ6からの信号により、上記部分加熱ヒータ21に電力を供給し、上記触媒コンバータ2に担持された触媒を部分的に活性化させる(図2(a))。」
(段落【0022】ないし【0024】)

オ.「【0025】次に、コントローラ6が排気流量またはエンジン回転数、排気温度から、触媒コンバータ2の触媒活性化領域の壁面温度が、供給した燃料の蒸発潜熱のために触媒活性化温度以下とならない燃料供給量Fを算出する。そして、この燃料供給量Fの燃料を、予め決められた時間Tsだけ燃料噴射弁4から排気流路1内に供給する。ここで、燃料供給時間Tsは、燃料供給量Fの燃料が燃焼して発生する反応熱により、触媒コンバータ2の温度が上昇、安定するまでの時間以上となるようにする。
【0026】触媒コンバータ2の温度が安定した後は、さらに多くの燃料を供給しても、その温度を触媒活性化温度以上に維持できるので、その後、徐々に燃料供給量を増加させる。これにより、触媒活性化領域を触媒コンバータ2の全体とフィルタ3の一部にまで拡大する(図2(b))。そしてさらに、燃料供給量を、触媒活性化温度を維持できる程度の予め決められた割合で増加させていくと、触媒活性化領域を、触媒コンバータ2とフィルタ3の大部分に拡大することができる(図2(c))。
【0027】これ以後は、燃料供給量を、排気微粒子の燃焼温度に昇温できる量まで、それまでと同じ割合で増しても、または直ちに増加しても、触媒活性化温度を下回ることはない。そして、供給される燃料は、触媒コンバータ2とフィルタ3内で酸化され、この反応熱によりフィルタ3上に堆積している排気微粒子を着火温度以上にし、燃焼させてフィルタを再生することができる。
【0028】図3に本発明の第2の実施の形態における燃料供給量の制御方法を示す。本実施の形態では、上記図1の装置構成において、コントローラ6による燃料供給量Fの供給時間の制御を、触媒コンバータ2の下流に設置した温度センサ5の出力を利用して行うものである。
【0029】すなわち、上記第1の実施の形態同様にして燃料供給量Fの燃料供給を開始した後(図3(a))、燃料供給により触媒活性化領域が広がっていくが、ここで触媒コンバータ2の温度が安定したかどうかを温度センサ5の出力が上昇、安定したかどうかにより推定する。そして、触媒コンバータ2の温度が安定、すなわち触媒活性化領域の拡大が安定したと判断したら、その時点から、燃料供給量をさらに増加させる。以後、上記第1の実施の形態と同様にフィルタの再生を行うものである(図3(b)、(c))。
【0030】このように制御することにより、上記第1の実施の形態よりもさらに触媒コンバータ2の温度を安定化させるまでの燃料供給時間tを適切な長さにでき、むだに長い時間、燃料を供給することがなくなるという利点がある。」(段落【0025】ないし【0030】)

カ.「【0032】このような構成においても、触媒コンバータの活性状態に基づいた燃料供給量の制御が有効であり、図5にその燃料供給量の制御方法を示す。上記構成において、フィルタ3の再生開始時、温度センサ5により排気温度が触媒活性化温度よりも低いと判断すると、コントローラ6からの信号により上記部分加熱ヒータ21に電力を供給し、担持される触媒を部分的に活性化させる。
【0033】次に、コントローラ6が排気流量またはエンジン回転数、排気温度から、触媒コンバータ2の触媒活性化領域の壁面温度が、供給した燃料の蒸発潜熱のために触媒活性化温度以下とならない燃料供給量Fを算出し、燃料供給を開始する(図5(a))。そして、この燃料供給量Fの燃料を予め決められた時間Tsだけ燃料供給装置から供給する。これにより触媒コンバータ2の温度が上昇し、さらに多くの燃料を供給しても触媒コンバータ2の温度は触媒活性化温度以上を維持できるようになる。
【0034】そこで、徐々に予め決められた勾配で燃料供給量を増加させると、触媒コンバータ7の触媒が活性化し、燃料供給量の増加とともに触媒活性化領域が広がって(図5(b))、最終的には、触媒コンバータ7全体の触媒を活性化できる(図5(c))。以後、さらに燃料供給量をそれまでと同じ割合または直ちに排気微粒子の燃焼温度に昇温できる量まで増加させると、触媒コンバータ7内で燃料が酸化され、その反応熱によりフィルタに流入する排気温度を煤の燃焼温度以上に昇温し、フィルタを再生できる。」(段落【0032】ないし【0034】)

(2)引用文献記載の発明
上記(1)ア.ないしカ.及び図面の記載から、以下のことがわかる。

キ.触媒コンバータ2と、触媒担持フィルタ3との間には、サーミスタ等よりなる温度センサ5が設置されており、上記触媒コンバータ2通過後の排気温度を測定できるようにしてあり、燃料噴射弁4、温度センサ5は、制御手段たるコントローラ6に接続されており、温度センサ5で測定される排気温度に基づいて、燃料噴射弁4による燃料の供給を制御できるようにしてあること及び、フィルタの再生開始時、上記温度センサ5の測定結果から排気温度が触媒活性化温度よりも低いと判断すると、コントローラ6からの信号により、上記部分加熱ヒータ21に電力を供給し、上記触媒コンバータ2に担持された触媒を部分的に活性化させ、上記触媒コンバータ2には電気的に発熱して上記触媒コンバータ2の触媒を部分的に活性化することのできる部分加熱ヒータ21が付設されていることから、
内燃機関における触媒担持フィルタ3を制御する方法であって、前記の触媒担持フィルタ3の温度を当該触媒担持フィルタ3の被着状態および/または内燃機関の状態に依存して調整または制御し、コントローラ6からの信号により捕集した微粒子を燃焼除去して触媒担持フィルタ3の再生が開始され、排気ガスに燃料噴射弁4による燃料を供給する方法であることがわかる。

ク.コントローラ6が排気流量またはエンジン回転数、排気温度から、燃料供給量Fを算出し、燃料供給を開始する(図2(a))。そして、この燃料供給量Fの燃料を予め決められた時間Tsだけ燃料供給装置から供給する。これにより触媒コンバータ2の温度が上昇し、さらに多くの燃料を供給しても触媒コンバータ2の温度は触媒活性化温度以上を維持できるようになる。そこで、徐々に予め決められた勾配(以下、「第1の直線」という。)で燃料供給量を増加させると、触媒コンバータ2の触媒が活性化し、燃料供給量の増加とともに触媒活性化領域が広がって(図2(b))、最終的には、触媒コンバータ2全体の触媒を活性化できる(図2(c))。以後、さらに燃料供給量をそれまでと同じ割合または直ちに排気微粒子の燃焼温度に昇温できる量まで増加させると、触媒コンバータ2内で燃料が酸化され、その反応熱によりフィルタに流入する排気温度を煤の燃焼温度以上に昇温し、フィルタを再生できること及び図2には、第1の直線の後、再生終了までの間燃料供給量が一定の値であることを示す直線(以下、「第2の直線」という。)が開示されていることから、第1の直線にて前記の排気ガスにおける燃料噴射弁4による燃料供給量を時間の経過と共に増大させ、当該第1の直線に続く第2の直線において前記の排気ガスにおける燃料噴射弁4による燃料供給量を一定の値に設定する触媒担持フィルタ3を制御する方法であることがわかる。

以上、(1)ア.ないしカ.、キ.及びク.並びに図面の記載を参酌すると、引用文献には、以下の発明が記載されているといえる。
「内燃機関における触媒担持フィルタ3を制御する方法であって、
コントローラ6からの信号により再生を開始し、
前記の触媒担持フィルタ3の温度を当該触媒担持フィルタ3の被着状態および/または内燃機関の状態に依存して調整または制御し、
排気ガスに燃料噴射弁4による燃料を供給する方法において、
第1の直線にて前記の排気ガスにおける燃料噴射弁4による燃料供給量を時間の経過と共に増大させ、
当該の第1の直線に続く第2の直線において前記の排気ガスにおける燃料噴射弁4による燃料供給量を一定の値に設定する触媒担持フィルタ3を制御する方法。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

2.-2-2 対比
本願補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「内燃機関」は、その目的及び機能からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「触媒担持フィルタ3」は、「微粒子フィルタ」に、「燃料噴射弁4による燃料を供給する方法」は「未燃焼の燃料を供給する形式の方法」に、「第1の直線」は「第1フェーズ」に、「燃料噴射弁4による燃料供給量」は「未燃焼の燃料の量」に、「第2の直線」は「第2フェーズ」に各々相当するから、本願補正発明と引用文献記載の発明とは、「内燃機関における微粒子フィルタを制御する方法であって、前記の微粒子フィルタの温度を当該微粒子フィルタの被着状態および/または内燃機関の状態に依存して調整または制御し、排気ガスに未燃焼の燃料を供給する形式の方法において、第1フェーズにて前記の排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を時間の経過と共に増大させ、当該の第1フェーズに続く第2フェーズにおいて前記の排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を一定の値にして設定する微粒子フィルタを制御する方法。」である点で一致し、以下の(1)及び(2)の点で相違する。
〈相違点〉
(1)「再生を開始」に関して、本願補正発明においては、微粒子フィルタの被着状態を特徴付ける少なくとも1つの状態量を求め、該状態量に依存して再生を開始し、状態量により、再生が必要であることが示され、また排気ガス温度が低すぎずかつガス流量が大きな値になり過ぎない再生に適切な動作点の場合に、排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を時間の経過と共に増大させるのに対して、引用文献1記載の発明においては、コントローラ6の信号により再生を開始し、排気ガスにおける未燃焼の燃料の量を時間の経過と共に増大するものの、上記のように特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「未燃焼の燃料」に関して、本願補正発明においては、「未燃焼の量を一定の値にし、ここで当該の一定値を第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定する」のに対して、引用文献記載の発明においては、本願補正発明における「未燃焼の燃料」に相当する「燃料噴射弁4による燃料供給量」を一定値にするものの何に依存して設定するのか不明な点(以下、「相違点2」という。)。

2.-2-3 判断
相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
内燃機関の微粒子フィルタの再生を開始するにあたって、当該フイルタの前後の温度あるいは圧力等の状態量を求め、この状態量に依存して再生を開始することは周知であり、
再生に際して、排気ガス温度が低すぎずかつガス流量が大きな値になり過ぎない再生に適切な動作点の場合に燃料を噴射することも周知である(例えば、特開平2-271021号公報、特開平4-47116号公報、特開2000-170521号公報(平成12年6月20日公開)、特開昭61-123709号公報、特開昭60-153414号公報及び特開昭60-206924号公報参照、以下、「周知技術」という。)。よって、引用文献記載の発明に上記周知技術を適用して、相違点1に係る本願補正発明のように特定することは当業者が容易に推考し得るものである。

(2)相違点2について
引用文献においても、燃料供給はコントローラ6が排気流量または、エンジン回転数、微粒子フィルタに相当する触媒担持フィルタ3の手前の排気温度に基づいて供給している旨の記載があり、また、未燃焼の燃料の値を一定の値にするにあたって、どの時点を基準とするかは単なる設計上の問題にすぎないから、相違点2に係る本願補正発明のように第2フェーズ開始時点の回転数、噴射すべき燃料量および/または微粒子フィルタの手前の温度に依存して設定することに格別の困難性はない。

しかも、本願補正発明は、全体でみても、引用文献記載の発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

以上から、本願補正発明は、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.[理由2]のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、平成21年3月16日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、平成19年10月29日付けの手続補正により補正された明細書及び国際出願日における図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されたとおりの、第2.[理由1]1.A【請求項1】のもの(以下、「本願発明」という。)である。

2.引用文献に記載された発明
引用文献には、上記第2.[理由2]2.-2-1のとおりのものが記載されている。

3.対比、判断
本願補正発明は、本願発明をさらに限定するものであることから、本願補正発明が、上記第2.[理由2]2.-2-2及び2.-2-3のとおり、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-26 
結審通知日 2010-06-03 
審決日 2010-06-15 
出願番号 特願2002-541231(P2002-541231)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 536- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 八板 直人
柳田 利夫
発明の名称 排ガス後処理システムを制御する方法および装置  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 杉本 博司  
代理人 矢野 敏雄  

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