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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16G
管理番号 1227089
審判番号 不服2009-20238  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-21 
確定日 2010-11-11 
事件の表示 特願2004-203359「歯付きベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日出願公開、特開2006- 22917〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成16年7月9日の出願であって、平成21年7月14日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成21年10月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年10月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成21年10月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
一方の面である歯面の長手方向に沿って歯部および歯底部が交互に形成された本体ゴム層と、前記歯面に設けられフッ素ゴムである表面ゴムにより被覆された帆布とを備え、前記表面ゴムに無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを成分とする樹脂系接着剤が添加されたことを特徴とする歯付きベルト。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である樹脂系接着剤の成分について、補正前の「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つ」という択一的記載から、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン以外の要素をすべて削除するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開2000-240730号公報

原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物1には、「歯付ベルト」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0010】本発明はこのような問題点を改善するものであり、高温高張力や高温高負荷のような極めて過酷な条件下での走行でも耐摩耗性、耐歯欠け性を維持して走行寿命の長い歯付ベルトを提供することを目的とする。」

(イ) 「【0011】
【課題を解決するための手段】即ち、本願の請求項1記載の発明では、長さ方向に沿って所定間隔で配置した複数の歯部と、心線を埋設した背部とを有し、上記歯部の表面に歯布を被覆した歯付ベルトにおいて、前記歯布が歯部に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物を溶剤によって溶解したゴム糊組成物を含浸付着させ加硫したゴム付き帆布を使用した歯付ベルトにあり、歯布に歯部に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物を付着することによって、歯布表面の摩擦係数を下げてプーリ表面との滑りを良好にして歯布の耐摩耗性を向上させ、また歯布と歯部の接着性を高め、耐歯欠け性や走行寿命を高めることができる。」

(ウ) 「【0015】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係る歯付ベルトの断面斜視図であり、歯付ベルト1はベルト長手方向(図中矢印)に沿って複数の歯部2と、ガラス繊維コードあるいはアラミド繊維コードからなる心線3を埋設した背部4からなり、上記歯部2の表面には歯布5が貼着されている」

(エ) 「【0019】上記RFL処理した歯布は、歯部に使用したゴムと同種のベースゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物を含浸付着させ加硫したゴム付き帆布である。……」

(オ) 「【0021】歯部に使用したゴムと同種のベースゴムが他の……になると、これに応じてゴム付き帆布のゴムも代え、ゴム付き帆布と歯部との接着力を向上させる必要がある。」

(カ) 「【0023】……ベースゴムとフッ素ゴムのブレンド比は2:8?8:2であり、フッ素ゴムの添加量は2未満になると、動摩擦係数が大きくなって耐摩耗性の効果が発揮されず、一方8を越えると歯部ゴムとの接着性が低下するため、ベルト寿命が低下するなる不具合が生じる。」

上記記載事項(ア)?(カ)及び図面の記載を総合すると、刊行物1には、
「長さ方向に沿って所定間隔で配置した複数の歯部2と、心線3を埋設した背部4とを有し、上記歯部2の表面に歯布5を被覆した歯付ベルト1において、前記歯布5が歯部2に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物を溶剤によって溶解したゴム糊組成物を含浸付着させ加硫したゴム付き帆布を使用した歯付ベルト1。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「歯部2」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明の「歯部」に相当し、当該歯部2と歯部2との間に、本願補正発明の「歯底部」に相当する部分が形成されていることは、図1の記載から明らかであり、上記歯部2及び本願補正発明の「歯底部」に相当する部分における背部4とは反対側の表面は、本願補正発明の「一方の面である歯面」に相当する面であるといえ、また、上記歯部2、本願補正発明の「歯底部」に相当する部分及び背部4は全体として、本願補正発明の「本体ゴム層」に相当する層であるといえる。よって、引用発明の「長さ方向に沿って所定間隔で配置した複数の歯部2と、心線3を埋設した背部4とを有」する層は、本願補正発明の「一方の面である歯面の長手方向に沿って歯部および歯底部が交互に形成された本体ゴム層」に実質的に相当する。
また、引用発明の「帆布」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明の「帆布」に相当し、当該引用発明の「帆布」が、「歯部2に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物を溶剤によって溶解したゴム糊組成物を含浸付着させ加硫したゴム付き」であることと、本願補正発明の「帆布」が、「フッ素ゴムである表面ゴムにより被覆された」こととは、「ゴム成分として少なくともフッ素ゴムを含む表面ゴムにより被覆された」点で共通する。そして、引用発明は、上記帆布を使用した歯布5を歯部2の表面に被覆したというものであるが、引用発明の「帆布」を使用した歯布5が、本願補正発明の「歯面」に相当する面に設けられることは、図1の記載から明らかである。よって、引用発明の「帆布」と本願補正発明の「帆布」とは、「前記歯面に設けられゴム成分として少なくともフッ素ゴムを含む表面ゴムにより被覆された帆布」である点で共通する。
さらに、引用発明の「歯付ベルト1」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明の「歯付きベルト」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「一方の面である歯面の長手方向に沿って歯部および歯底部が交互に形成された本体ゴム層と、前記歯面に設けられゴム成分として少なくともフッ素ゴムを含む表面ゴムにより被覆された帆布とを備えた歯付きベルト。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
前記表面ゴムが、本願補正発明では、「フッ素ゴム」であるとともに、「前記表面ゴムに無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを成分とする樹脂系接着剤が添加された」ものであるのに対して、引用発明では、「歯部2に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物」であり、本願補正発明のような樹脂系接着剤が添加されたものではない点。

4.当審の判断

(1)相違点について

上記相違点について検討するに、本願補正発明は、「製造コストを極端に上げることなく高温で油が付着する状況で使用される場合においても歯欠けの発生を長期間抑えることが可能な歯付きベルトを提供すること」(本願の明細書の段落【0005】)を目的とし、そのために「歯面に設けられフッ素ゴムである表面ゴムにより被覆された帆布」(同、段落【0006】)を備えたものである。他方、引用発明は、「高温高張力や高温高負荷のような極めて過酷な条件下での走行でも耐摩耗性、耐歯欠け性を維持して走行寿命の長い歯付ベルトを提供すること」(刊行物1の段落【0010】)を目的とし、そのために「歯布が歯部に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物を溶剤によって溶解したゴム糊組成物を含浸付着させ加硫したゴム付き帆布」(同、段落【0011】)を使用したものである。そして、上記フッ素ゴムは、耐熱性、耐油性等の特性を有することは周知であるから(例えば、特開平4-284241号公報の段落【0026】及び【0002】にも上記特性に関する記載がある。また、特開平11-166596号公報の段落【0012】にも耐熱性に関する記載がある。)、上記高温で油が付着する状況や高温高張力等の条件下において歯欠けの発生を防止するといった機能は、フッ素ゴムを適用することによって得られるものである。そうすると、本願補正発明と引用発明は、高温などの環境条件下で使用される歯付ベルトの歯面を被覆する帆布に起因する歯欠けの発生を防止するという課題において共通するものであり、そのための解決手段としてフッ素ゴムが本来材料として有する耐熱性等の特性を表面ゴムに利用した点において近似するものということができる。
ところで、引用発明が歯部2に使用したゴムと同種のゴムにフッ素ゴムを混合している技術的意義は、上記刊行物1の記載事項(カ)の「ベースゴムとフッ素ゴムのブレンド比は2:8?8:2であり、フッ素ゴムの添加量は2未満になると、動摩擦係数が大きくなって耐摩耗性の効果が発揮されず、一方8を越えると歯部ゴムとの接着性が低下するため、ベルト寿命が低下するなる不具合が生じる。」との記載に照らせば、フッ素ゴムは上記周知の特性又は機能を利用するために添加しているのであり、ベースゴムはゴム付き帆布の接着に必要な機能を発揮させるために一定量を確保しているものであって、上記ブレンド比は、フッ素ゴムが有する機能とベースゴムが有するの機能のバランスを配慮したものということができる。してみると、上記相違点は、フッ素ゴムである表面ゴムにより被覆された帆布を接着する手段の差異に帰着するから、上記ベースゴムが有する接着剤としての機能を、ベースゴムを流用することなく別途接着剤を用いて実現することは、二つの部材を接着するごく一般的な手段にほかならないから、当業者が容易に想到し得ることである。
次に、上記フッ素ゴムとゴム材料を接着する具体的手段について検討するに、上記相違点に挙げた「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン」は、商品として販売され、ゴムとゴムを接着する接着剤の一つとして周知のものである。このことは、特開平9-87430号公報の段落【0006】の「このように、エチレン性不飽和ニトリル-共役ジエン系高飽和共重合体ゴム-有機過酸化物加硫系に無水マレイン酸変性1,2-ポリブタジエンを配合したため、ゴム-ゴム間の接着性が向上し、これによりロール耐久性を向上させることが可能となる。」、及び段落【0010】の「(丸3)(審決注:「(丸3)」は、原文では、丸囲み数字の3である。)無水マレイン酸変性1,2-ポリブタジエン 特に限定されるものではなく、一般の市販品を用いればよい。……室温で液状であり、例えば、アドバンスドレジンズ社製のライコボンド1756を挙げることができる。」(上記「無水マレイン酸変性1,2-ポリブタジエン」は、上記相違点の「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン」と同じ物質である。)との記載からも理解できる。さらに、上記無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンと主たる樹脂において共通する液状ポリブタジエンは、上記特開平4-284241号公報の【要約】に、
「【構成】フッ素ゴムを主成分とする未架橋ゴム層(A)とアクリルゴムを主成分とする未架橋ゴム層(B)とを重ね合わせて架橋したゴム積層体であって、(A)層または(B)層の少なくとも一方に官能基を備えた液状ジエン系ゴムが配合されていることを特徴とするゴム積層体。
【効果】フッ素ゴムとアクリルゴムが強固に架橋接着されたゴム積層体が得られる。また、フッ素ゴムの特徴である耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐候性を保持しながら、アクリルゴムとの積層体を得ることができる。」
と記載され、同、段落【0008】には、「……液状ジエン系ゴムとしては、液状ポリブタジエン……が挙げられ、その中では液状ポリブタジエンが好ましい。」と記載又は示唆されているように、従来からフッ素ゴムなどのゴムと他のゴムとの接着剤として考慮されるものの一種である。これらのことから、当業者が無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンをフッ素ゴムの接着に用いることを試みる動機付けは十分にあるということができる。そして、接着剤は、技術分野に関わりなく、接着する二つの部材の材質の相互関係を考慮して当業者が選択するものであるから、どのような接着剤を選択するかは設計事項というべきところ、上記のように記載又は示唆されていることに照らせば、上記商品としても市販されている「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン」を引用発明の帆布を接着する接着剤として用いることは、当業者が容易に想到できることである。

さらに、上記接着剤について検討を進めると、本願明細書には、次のような記載がある。
・「帆布本体17に含浸させる表面ゴム18に内添型接着剤が添加される。内添型接着剤は例えば、樹脂系の接着剤であり、好ましくはマレイン酸変性液状ポリブタジエンである。」(段落【0013】)
・「しかし、マレイン酸変性液状ポリブタジエンを主成分とする内添型接着剤を用いることにより、フッ素ゴムと帆布本体17、およびフッ素ゴムとH-NBRなどのフッ素ゴム以外のゴムとの接着強度が高められる。」(段落【0015】)
・「なお、本実施形態において接着剤としてマレイン酸変性液状ポリブタジエンを添加しているが、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つを用いることによっても本実施形態と同様な効果が得られる。」(段落【0022】)
・「※2 Ricobond1731HS,RICON RESINS社の商品名、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン。」(段落【0030】)(審決注:本件補正により、願書に最初に添付した明細書に記載の「マレイン酸変性液状ポリブタジエン」は、「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン」と補正されている。)

すなわち、本願明細書の上記各記載事項によれば、内添型接着剤である樹脂系接着剤としては、好ましくはマレイン酸変性液状ポリブタジエンであるとされているところ、本願補正発明が、仮に、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを選択したことによって一定の効果を有するとしても、上記周知の接着剤が有する機能そのものであって予測されないようなものではなく、しかも、その効果を検証するための走行試験に用いた接着剤は商品(Ricobond1731HS)として市販されているものであって、本願補正発明の構成に特有の工夫をしたものではない。また、本願補正発明は、本体ゴムと表面ゴムの双方の物性を考慮して最適な接着剤を選択したものではなく、本体ゴムの材質は何ら特定することなく、帆布を被覆する表面ゴムの材質のみをフッ素ゴムと特定したものであるから、当業者が通常の創作能力を発揮してゴムとゴムの接着に用いられる接着剤の中からフッ素ゴムと歯付ベルト一般に用いられるゴムに最適な材料を選択することにより容易に想到し得たことであるともいえる。
以上のとおり、フッ素ゴムを含む表面ゴムにより被覆された帆布の接着剤について,引用発明の歯部2に使用したゴムと同種のゴムに代えて、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを成分とする樹脂系接着剤を用いることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)作用効果について

本願補正発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(3)まとめ

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、審判請求書の請求の理由を補正した平成21年12月2日付けの手続補正書(方式)において、
「フッ素ゴムと通常のゴムとの接着に用いる接着剤として官能基を備えた液状ジエン系ゴムを用いることが周知文献1(審決注:上記特開平4-284241号公報に相当する。以下同じ。)に記載されておりますが、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを用いることは開示も示唆もされておりません。官能基を備えた液状ジエン系ゴムは数多くあり、その中から周知文献1において開示されていない無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを選択することは、当業者にとって困難であります。本願発明にかかる歯付きベルトは、上記本願発明の構成において、上述の接着剤を用いてフッ素ゴムと他のゴムとを接着することにより格別な効果を奏するものであり、引用文献および周知文献1から容易に想到できるものではありません。」
と主張するとともに、接着強度試験及び走行試験の各結果を示して、
「周知文献1において好適であると記載された水酸基を備えた液状ポリブタジエンを用いた場合(比較例試料片5)に比べても、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンの接着強度が大きいことがわかります。」、及び、
「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを用いてフッ素ゴムと他のゴムとを接着することにより格別の効果があらわれることがわかります。」(いずれも、(4)(b)の項を参照)
と主張し、更に、
「周知文献2(審決注:上記特開平9-87430号公報に相当する。以下同じ。)において無水マレイン酸変性1,2-ポリブタジエンを用いて接着するのは、エチレン性不飽和ニトリル?共役ジエン系高飽和共重合体ゴムであって、フッ素ゴムではありません。エチレン性不飽和ニトリル?共役ジエン系高飽和共重合体ゴム同士の接着性を向上させるのに無水マレイン酸変性1,2-ポリブタジエンを用いることが好ましいことは周知文献2に記載されておりますが、この記載からフッ素ゴムと他のゴムとの接着に無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンが好適であることを当業者が判別することは困難であります。」((4)(c)の項を参照)
と主張している。
しかしながら、内添型接着剤である樹脂系接着剤として上記周知の無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを用いることは、上記「(1)相違点について」で説示したとおり、当業者が通常の創作能力を発揮して最適な材料を選択することにより容易に想到し得ることであり、請求人が示した上記接着強度試験及び走行試験の各結果は、上記周知の接着剤が本来有する機能に照らせば当業者が予測できるものである。
また、請求人は、当審における審尋に対する平成22年4月28日付けの回答書において、「前記表面ゴムが前記歯面に接着され」との限定を付加する補正案を示しているが、上記「(1)相違点について」では、上記「前記表面ゴムが前記歯面に接着され」ていることを含めて判断しているのであるから、上記の限定を付加したとしても、上記判断が左右されるものではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年10月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年6月5日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一方の面である歯面の長手方向に沿って歯部および歯底部が交互に形成された本体ゴム層と、前記歯面に設けられフッ素ゴムである表面ゴムにより被覆された帆布とを備え、前記表面ゴムに無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つを成分とする樹脂系接着剤が添加されたことを特徴とする歯付きベルト。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の樹脂系接着剤の成分について、「無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレンのいずれか少なくとも一つ」という択一的記載の要素を付加したものである。
そうすると、本願発明の上記択一的記載の要素の一つ(無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン)を含み、審判請求時の手続補正によって上記無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン以外の要素をすべて削除することにより限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び【2】4.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-09-07 
結審通知日 2010-09-08 
審決日 2010-09-24 
出願番号 特願2004-203359(P2004-203359)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16G)
P 1 8・ 121- Z (F16G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 歯付きベルト  
代理人 小倉 洋樹  
代理人 坪内 伸  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 松浦 孝  
代理人 野中 剛  

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