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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1227183 |
審判番号 | 不服2007-23667 |
総通号数 | 133 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-08-29 |
確定日 | 2010-11-18 |
事件の表示 | 特願2002-576185「芳香族アミノ化合物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 3日国際公開、WO02/76922〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2002年3月7日(優先権主張2001年3月16日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成19年4月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月29日に審判請求がされるとともに同年9月27日に手続補正がされ、同年11月6日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成22年4月28日に審尋がされたところ、何ら応答がされなかったものである。 第2 平成19年9月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成19年9月27日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成19年9月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲である、 「【請求項1】 下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IV) 【化1】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤若しくは酸化剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(V) 【化2】 (式中、Ar_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項2】 下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1 )は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IV) 【化3】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤若しくは酸化剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(V) 【化4】 (式中、Ar_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VII) 【化5】 (式中、Ar_(1) 及びAr_(3) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項3】 下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VIII) 【化6】 (式中、R_(1) 及びAr_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、さらにこの化合物と下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IX) 【化7】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(X) 【化8】 (式中、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項4】 下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VIII) 【化9】 (式中、R_(1) 及びAr_(1 )は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、さらにこの化合物と下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IX) 【化10】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(X) 【化11】 (式中、Ar_(1) 、Ar_(3 )及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、下記一般式(III) Ar_(2) -X (III) (式中、Ar_(2) は、炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(XI) 【化12】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項5】 前記R_(1) が、置換若しくは無置換のアリールアルキル基である請求項1?4のいずれかに記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項6】 前記Ar_(1) 及びAr_(2) が、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のビフェニル基、置換若しくは無置換のターフェニル基、置換若しくは無置換の1-ナフチル基、又は置換若しくは無置換の2-ナフチル基である請求項1?4のいずれかに記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項7】 一般式(V)、一般式(VII)、一般式(X)又は一般式(XI) で表される芳香族アミノ化合物が、電荷輸送材料である請求項1?4のいずれかに記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項8】 一般式(V)、一般式(VII)、一般式(X)又は一般式(XI) で表される芳香族アミノ化合物が、有機エレクトロルミネッセンス素子の電荷輸送材料である請求項1?4のいずれかに記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。」 を 「【請求項1】 下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IV) 【化1】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤若しくは酸化剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(V) 【化2】 (式中、Ar_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VII) 【化3】 (式中、Ar_(1) 及びAr_(3) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項2】 下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1 )は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VIII) 【化4】 (式中、R_(1) 及びAr_(1 )は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、さらにこの化合物と下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IX) 【化5】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(X) 【化6】 (式中、Ar_(1) 、Ar_(3 )及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、下記一般式(III) Ar_(2) -X (III) (式中、Ar_(2) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(XI) 【化7】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項3】 前記R_(1 )が、無置換のアリールアルキル基である請求項1又は2に記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項4】 前記Ar_(1) 及びAr_(2) が、それぞれ独立に、無置換のビフェニル基、無置換のターフェニル基、無置換の1-ナフチル基、又は無置換の2-ナフチル基である請求項1又は2に記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項5】 一般式(VII)又は一般式(XI) で表される芳香族アミノ化合物が、電荷輸送材料である請求項1又は2に記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 【請求項6】 一般式(VII)又は一般式(XI) で表される芳香族アミノ化合物が、有機エレクトロルミネッセンス素子の電荷輸送材料である請求項1又は2に記載の芳香族アミノ化合物を製造する方法。」 とする補正を含むものである。 2 補正の適否 上記補正後の請求項2は、補正前に請求項4とされていたものであり、式中の基「Ar_(1)」、「Ar_(2)」につき、いずれも、補正前に「炭素数6?50のアリール基であり、」とされていたものが、補正後に「炭素数10?50のアリール基であり、」とされたものであって、その炭素数範囲を限定するものであり、本件補正前の請求項4に記載された発明と本件補正後の請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項2に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。また、本件補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 3 本願補正発明 本願補正発明は次のとおりである。 「下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VIII) 【化4】 (式中、R_(1) 及びAr_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、さらにこの化合物と下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IX) 【化5】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(X) 【化6】 (式中、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、下記一般式(III) Ar_(2) -X (III) (式中、Ar_(2) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(XI) 【化7】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。」 4 刊行物および刊行物に記載された事項 本願出願前に頒布された刊行物1?5は以下のとおりであり、以下の事項が記載されている。 刊行物1:特開昭63-35548号公報 刊行物2:特開平6-100503号公報 刊行物3:Journal of American Chemical Society,1996年, Vol.118,p.7215-7216 刊行物4:Journal of Organic Chemistry,2000年,Vol.65, p.1144-1157 刊行物5:国際公開第95/09147号パンフレット (上記「刊行物1?5」は、それぞれ、原査定における「引用文献1?5」に同じである。また、原査定における「引用文献6」については本審決では言及しない。以下、同様である。) (1)刊行物1:特開昭63-35548号公報 (1a)「ヨウ素化ビフエニル又は臭素化ビフエニルを塩基性化合物、遷移金属又は遷移金属化合物触媒、溶媒の存在下にジフエニルアミンと反応させることを特徴とするトリアリールアミンの製造法」(特許請求の範囲第1項) (1b)「これらの芳香族アミンは、有機精密化学品の合成原料などとして重要な化合物であるが、近年有機光導電体のCT材などの原料として注目されている。」(1頁右欄4?7行) (1c)「本発明で用いられる遷移金属又は遷移金属化合物としては、例えば、Cu、・・・Pd、・・・等の金属及びそれらの化合物が用いられるが、収率の点から銅及びパラジウムとそれらの化合物が好ましい。」(2頁左下欄15?19行) (2)刊行物2:特開平6-100503号公報 (2a)「【請求項1】 下記一般式[I]で表わされるアミノビフェニル誘導体; 【化1】 [式中R_(1)は水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アラルキル基またはハロゲン原子;Ar_(1)はそれぞれ置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾール基、1,3-ジオキサインダン基またはオキサゾール基を表わす]。」(特許請求の範囲の請求項1) (2b)「下記一般式[II]: 【化4】 で表わされるハロゲン化ビフェニル化合物を下記一般式[IV]: Ar_(1)-NHCOCH_(3) [IV] で表わされるアセチル化合物と共に遷移金属触媒あるいは遷移金属化合物触媒および塩基性物質の存在下に反応させた後加水分解さすることを特徴とする下記一般式[I]で表されるアミノビフェニル誘導体の製造方法;[上記一般式[I]、[II]および[IV]中、R_(1)は水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アラルキル基またはハロゲン原子;Ar_(1)はそれぞれ置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾール基、1,3-ジオキサインダン基またはオキサゾール基を表わす]。」(特許請求の範囲の請求項3) (2c)「本発明は、新規なアミノビフェニル誘導体およびその製造方法に関するものである。さらに詳しは、有機光導電体として有用なトリアリールアミン化合物の中間体となるp-アミノビフェニル誘導体およびその製造方法に関する。 近年、電子写真用感光体として有機光導電体、特に電荷輸送物質(CT材)としてアリールアミン類が有用であることが知られている(例えば、特公昭58-32372号公報)。」(段落【0001】?【0002】) (2d)「本発明で用いられる遷移金属触媒または遷移金属化合物触媒としては、例えばCu、Fe、Co、Ni、Cr、V、Pb、PtおよびAg等の金属およびそれらの化合物が用いられる。収率の点から銅およびパラジウムとそれらの化合物が好ましい。」(段落【0016】) (2e)「第2の製造方法においては一般式[IV]で表わされる化合物と一般式[II]で表わされる化合物を第1の製造方法法と略同様にして遷移金属触媒あるいは遷移金属化合物触媒および塩基性物質の存在下に反応させることにより下記一般式[VI]で表わされるアセチル化合物を得る; 【化13】 次に、得られた該アセチル化合物[VI]を水酸化カリウム等のアルカリ水溶液中で反応させることにより加水分解を行ない、一般式[I]の本発明のアミノビフェニル化合物を得ることができる。加水分解は通常の方法により行うことができる。」(段落【0026】?【0027】) (3)刊行物3:Journal of American Chemical Society,1996年,Vol.118,p.7215-7216 (3a)「 」(7215頁右欄) (3b)「 」(7216頁左欄Table 1) (4)刊行物4:Journal of Organic Chemistry,2000年,Vol.65,p.1144-1157 (4a)「Mixtures of Pd_(2)(dba)_(3) or Pd(OAc)_(2) and BINAP catalyze the cross-coupling of amines with a variety of aryl bromides. Primary amines are arylated in high yield, and certain classes secondary amines are also effectively transformed.」(1144頁上段) (訳(合議体による):Pd_(2)(dba)_(3) 又は Pd(OAc)_(2) とBINAPの混合物は、触媒として作用し、アミンと様々な種類のアリールブロマイドとのクロス・カップリングの反応を行わせる。第1級アミンは高収率でアリール化され、また、ある種の第2級アミンも効果的にアリール化される。) (4b)「 」(1145頁Table 1) (4c)「 」(1147頁Table 3) (5)刊行物5:国際公開第95/09147号パンフレット (5a)「一般式(I) 【化1】 〔式中、Zはp-フェニレン基、Ar^(1),Ar^(2),Ar^(3)及びAr^(4)は、それぞれ炭素数6?20のアリール基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、またZ,Ar^(1),Ar^(2),Ar^(3)及びAr^(4)は、それぞれ炭素数1?6のアルキル基若しくはアルコキシ基又はフェニル基で置換されていてもよいが、Ar^(1),Ar^(2),Ar^(3)及びAr^(4)と中心骨格のZとを合わせて6個以上のベンゼン環骨格を有していなければならない。〕 で表される6個以上のベンゼン環骨格を有するp-フェニレンジアミン誘導体を少なくとも含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。」(特許請求の範囲の請求項1) (5b)「該一般式(II)で表されるp-フェニレンジアミン誘導体は、例えば、○1(審決注:「○1」は、「丸付き数字の1」を表す。以下同様。)一般式(IV) 〔式中、R^(9)は前記と同じである。〕 で表されるp-フェニレンジアミン類と、一般式(V) 〔式中、Xはハロゲン原子(フッ素,塩素,臭素,ヨウ素)、R^(1)及びR^(2)は前記と同じである。〕 で表されるハロゲン化アリール化合物とを縮合させる方法、 ○2一般式(VI) 〔式中、G及びG’は、同一又は異なる保護基、例えば、アセチル基,ベンジル基,トリフルオロアセチル基,t-ブトキシカルボニル基など、好ましくはアセチル基を表し、R^(9)は、前記と同じである。〕 で表される保護されたジアミン誘導体と上記一般式(V)で表されるハロゲン化アリール化合物とを縮合させたのち、保護基G,G’を外し、さらに同様の縮合を行う方法、 ○3一般式(VII) 〔式中、R^(1)?R^(4)は、前記と同じである。〕 で表されるアミンと、一般式(VIII) 〔式中、X及びR^(9)は、前記と同じであり、2つのXは、たがいに同じでも異なっていてもよい。〕 で表されるジハロゲン化アリール化合物とを縮合させる方法、 ○4上記一般式(VII)で表されるアミンと、一般式(IX) 〔式中、X及びR^(9)は、前記と同じである。〕 で表されるハロゲン化アミノアリール化合物と、上記一般式(V)で表されるハロゲン化アリール化合物とを縮合させる方法、 などによって製造することができる。」(8頁7行?10頁1行) 5 対比・判断 (1)刊行物2に記載された発明 刊行物2の特許請求の範囲の請求項3には、(2b)に摘記したように、「一般式[II]:【化4】 で表わされるハロゲン化ビフェニル化合物を下記一般式[IV]: Ar_(1)-NHCOCH_(3) [IV] で表わされるアセチル化合物と共に遷移金属触媒あるいは遷移金属化合物触媒および塩基性物質の存在下に反応させた後加水分解さすることを特徴とする下記一般式[I]で表されるアミノビフェニル誘導体の製造方法」が記載されるところ、「第2の製造方法」として、(2e)に摘記したように、「一般式[IV]で表わされる化合物と一般式[II]で表わされる化合物を第1の製造方法法と略同様にして遷移金属触媒あるいは遷移金属化合物触媒および塩基性物質の存在下に反応させることにより下記一般式[VI]で表わされるアセチル化合物を得る; 【化13】 次に、得られた該アセチル化合物[VI]を水酸化カリウム等のアルカリ水溶液中で反応させることにより加水分解を行ない、一般式[I]の本発明のアミノビフェニル化合物を得る」ことが記載され、ここで、「遷移金属触媒」としては、(2d)に摘記したように「パラジウム」が好ましいものとして挙げられている。 そうすると、刊行物2には、(あ)、(い)の2工程からなるアミノビフェニル誘導体の製造方法、すなわち、 「(あ) 一般式[II]: で表わされるハロゲン化ビフェニル化合物と Ar_(1)-NHCOCH_(3) [IV] で表わされるアセチル化合物とを、パラジウム触媒の存在下に反応させて、 一般式[VI]で表わされるアセチル化合物 を得て、 (い) 次いで加水分解する、一般式[I]で表わされるアミノビフェニル誘導体; (R_(1)は水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アラルキル基またはハロゲン原子;Ar_(1)はそれぞれ置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾール基、1,3-ジオキサインダン基またはオキサゾール基を表わす。)を製造する方法」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比 ア 本願補正発明について 本願補正発明は4の工程から成っているので、それぞれの工程毎に順に(A)、(B)、(C)、(D)と記号を付けて書き直す。 その際に、「この化合物」のような記載をより具体的な記載とし、式中の基の説明は最後にまとめて記載することにし、省略できる語は省略することとする。 「(A) H_(2) N-R_(1) (I) のアミノ化合物と、 Ar_(1) -X (II) のハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物中間体を合成し、 (B) (VIII)の芳香族アミノ化合物と Ar_(3)?(X)n (VI) のハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物中間体を合成し、 (C) (IX)の芳香族アミノ化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、 の芳香族アミノ化合物中間体を合成し、 (D) (X)の芳香族アミノ化合物と Ar_(2) -X (III) のハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物を製造する方法。 (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。 式中、Ar_(1) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。 式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。 式中、Ar_(2) は、炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。)」 イ 本願補正発明と引用発明との対比 本願補正発明も引用発明も、電荷輸送材料としてのアリールアミン類に関する発明であるところ(本願補正明細書の段落【0001】等、摘記(2c))、本願補正発明は、このようなトリアリールアミンである(XI)の芳香族アミノ化合物の製造方法であって、(A)工程では、1級アルキルアミノ化合物にハロゲン化アリール化合物(II)からのアリール基を導入して(VIII)の芳香族2級アミノ化合物とし、(B)工程では、これにさらにハロゲン化アリール化合物(VI)からのアリール基を導入して(IX)の芳香族3級アミノ化合物とし、(C)工程では、これを加水分解して残っていたアルキル基をはずして(X)の芳香族2級アミノ化合物とし、(D)工程では、これにハロゲン化アリール化合物(III)からのアリール基を導入して、(XI)の芳香族3級アミノ化合物を得るものであり、アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させるときには貴金属触媒を用いるものである。 また、引用発明における(あ)工程は、アリール基とHとアセチル基を持った芳香族2級アミノ化合物[IV]に、ハロゲン化アリール化合物[II]からのアリール基を導入してアセチル基を持った芳香族3級アミノ化合物とし、(い)工程は、これを加水分解してアセチル基をはずして芳香族2級アミノ化合物としたものであり、ここで芳香族アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させるときにはパラジウム触媒等を用いるものであって、また、該芳香族2級アミノ化合物はトリアリールアミン化合物の中間体となるのであるから(摘記(2c))、引用発明は、さらにハロゲン化アリール化合物と反応させることを前提としているといえる。 そこで、両者を具体的に対比すると、本願補正発明における貴金属触媒は代表的にはパラジウム触媒といえ(本願補正明細書段落【0014】、実施例等)、本願補正発明の(B)工程も引用発明の(あ)工程も、パラジウム触媒存在下に芳香族2級アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させて芳香族3級アミノ化合物を得るものであり、本願補正発明の(C)工程も引用発明の(い)工程も、この芳香族3級アミノ化合物を加水分解して、脱離しやすい基をはずして芳香族2級アミノ化合物を得ているから、これらの工程は互いに相当するものといえる。 そうすると、両者は、 「電荷輸送材料としてのアリールアミン類を製造するに際し、 (B’)パラジウム触媒存在下に芳香族2級アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させて芳香族3級アミノ化合物を得る工程、 (C’)この得られた芳香族3級アミノ化合物を加水分解して、脱離しやすい基をはずして芳香族2級アミノ化合物を得る工程、 を含む、芳香族アミノ化合物を製造する方法」 である点で一致し、次の(i)?(iv)の点で相違する。 (i)(B’)工程の前に、本願補正発明においては、 「 H_(2) N-R_(1) (I) のアミノ化合物と、 Ar_(1) -X (II) のハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物中間体を合成する」という(A)工程が必須であるのに対し、引用発明においてはこのような工程を必須としていない点 (ii)(C’)工程の後に、本願補正発明においては、 「(X)の芳香族アミノ化合物と Ar_(2) -X (III) のハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物を製造する」という(D)工程が必須であるのに対し、引用発明においては、このような工程を必須としていない点 (iii)(B’)工程における「芳香族2級アミノ化合物」の窒素原子に結合した2つの基が、本願補正発明においては、「Ar_(1) 基(炭素数10?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。)」と「R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。)」であるのに対し、引用発明においては、「Ar_(1)基(置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾール基、1,3-ジオキサインダン基またはオキサゾール基)」と「アセチル基(COCH_(3))」である点 (iv)(C’)工程において、脱離していく基が、本願補正発明においては、 「R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。)」であるのに対し、引用発明においては、「アセチル基(COCH_(3))」である点 (3)判断 以下、相違点(i)?(iv)について検討する。 ア 相違点(i)について 電荷輸送材料としてのアリールアミン類を製造するためにアミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させるのは、刊行物1、5にも記載されるように(摘記(1a)、(1b)、(5a)、(5b))、当業者に周知といえるところ、パラジウム触媒存在下に、1級アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させてアリール基含有芳香族2級アミノ化合物が得られることは、刊行物3、4に記載されるように当業者に公知である(摘記(3a)、(3b)、(4a)、(4b))から、(B’)工程の前に(B’)工程における出発化合物である芳香族2級アミノ化合物を製造する工程を加え、その際に最終的に得たいトリアリールアミンの構造になるようにハロゲン化アリール化合物のアリール基を選択することは、当業者が必要に応じてなし得る程度のものといえる。 したがって、引用発明において、(B’)工程の前に、 「 H_(2) N-R_(1) (I) のアミノ化合物と、 Ar_(1) -X (II) のハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物中間体を合成する」という工程を加えることは、当業者にとって容易である。 イ 相違点(ii)について 上記「(2)イ」に示したように、引用発明は(い)工程の後にさらにハロゲン化アリール化合物と反応させることを前提としているところ、トリアリールアミンが、有機光導電体のCT材等として有用なことは、刊行物1に記載され、その際にヨウ素化ビフェニル、臭素化ビフェニル等のハロゲン化アリール化合物とジフェニルアミン等の芳香族アミノ化合物をパラジウム触媒存在下に反応させて得られることも刊行物1に記載されている(摘記(1a)?(1c))。 また、パラジウム触媒存在下に、芳香族2級アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させてアリール基含有芳香族3級アミノ化合物が得られることは、刊行物3、4に記載されるように当業者に公知である(摘記(3a)、(3b)、(4a)、(4c))。 そうすると、引用発明においても示唆されているように、(C’)工程の後に、目的とするトリアリールアミンを得る工程を加え、その際に最終的に得たい目的化合物であるトリアリールアミンの構造になるようにハロゲン化アリール化合物のアリール基を選択することは、当業者が必要に応じてなし得る程度のものといえる。 したがって、引用発明において、(C’)工程の後に、 「(X)の芳香族アミノ化合物と Ar_(2) -X (III) のハロゲン化アリール化合物と貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物を製造する」という工程を加えることは、当業者にとって容易である。 ウ 相違点(iii)と(iv)について 相違点(iii)において、本願補正発明における「Ar_(1) 基」と引用発明における「Ar_(1)基」は、引用発明における「Ar_(1)基」が「置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基」の場合、本願補正発明における「Ar_(1) 基」が「炭素数10?50のアリール基」の場合と区別がつかないので、これらの基に関しては相違していない。 そうすると、相違点(iii)は、窒素原子に結合している基が、R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。)であるか、アセチル基(COCH_(3))であるか、ということになる。 また、相違点(iv)は、上記したとおり、脱離していく基が、R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基である。)であるか、アセチル基(COCH_(3))であるか、ということである。 そこで検討するに、刊行物5には(5a)に摘記したように、本願補正発明で目的としている、式(XI)の芳香族アミノ化合物を包含するp-フェニレンジアミン誘導体が記載されているところ、これは、有機エレクトロルミネッセンス素子となるものであり(摘記(5a))、その製造方法は、(5b)に摘記したように、芳香族アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物とを縮合させるものであって、それぞれの原料となる化合物自体は、本願補正発明と必ずしも重複するものではないが、芳香族アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物とを縮合させていく、という同様の反応機構をとるものといえる。 そして、摘記(5b)の「○2」の方法においては、保護基G及びG’を有する、「保護されたジアミン誘導体と上記一般式(V)で表されるハロゲン化アリール化合物とを縮合させたのち、保護基G、G’を外し、さらに同様の縮合を行う」とされ、保護基であるG及びG’としては、「アセチル基,ベンジル基,トリフルオロアセチル基,t-ブトキシカルボニル基など」であって、引用発明におけるアセチル基と、本願補正発明におけるR_(1) 基であるベンジル基は、保護基として同等のものとされている。 そうすると、引用発明におけるアセチル基も、本願補正発明におけるベンジル基も、同様に、芳香族アミノ化合物が保護基を有した状態でハロゲン化アリール化合物と縮合反応し、次いで保護基が加水分解で除去される、というものであるから、引用発明におけるアセチル基に代えて、ベンジル基を用いることは、当業者が適宜なし得る範囲のものにすぎない。 したがって、引用発明において、(B’)工程における「芳香族2級アミノ化合物」の窒素原子に結合したアセチル基を、ベンジル基であるR_(1) 基とすることは、当業者にとって容易である。 また、引用発明において、(C’)工程において、脱離していくアセチル基を、ベンジル基であるR_(1) 基とすることは、当業者にとって容易である。 エ 本願補正発明の効果について 本願補正明細書には、「従来は、芳香族アミノ化合物を合成する場合、α-ナフチルアミンやβ-ナフチルアミン、4-アミノジフェニル、ベンジジンを原料に用いる反応経路が知られているが、これらの化合物は有毒性が極めて高く、特にβ-ナフチルアミン、4-アミノジフェニル、ベンジジンは「特定化学物質」に指定され、日本では製造が禁止されている物質である。」(本願補正明細書段落【0002】)と記載され、本願補正発明の効果は、このような有毒性の高い原料を用いずに芳香族アミノ化合物を製造する、というものであるところ、引用発明においても、本願補正明細書で指摘するような有毒性の高い原料を用いていないから、同様の効果を奏するといえる。 したがって、本願補正発明の効果が格別に優れているとすることはできない。 オ まとめ よって、本願補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物2に記載された発明及び同刊行物1、3?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)請求人の主張 請求人は、本願補正発明について、平成19年11月6日に提出された審判請求書の手続補正書の(2)において、「引用文献2?6には、本願発明の芳香族アミノ化合物の中間体である一般的(V)及び(X)の中間体の製造工程に関連する記載はあるものの、それらの化合物から、さらに一般的(VII) 及び(XI)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法についての記載は無い。」と主張する。 しかしながら、刊行物2に「(X)の化合物から(XI)の化合物を製造すること」が記載されていないことは、上記「(2)イ」において「相違点(ii)」として示したとおりであり、これが当業者にとって容易であることは、上記「(3)イ」で検討したとおりである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (5)結論 以上のとおり、本願補正発明は、その出願前頒布された刊行物2に記載された発明及び刊行物1、3?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではない。 したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、この補正を含む本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成19年9月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成19年6月12日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、「請求項3を引用する請求項5に係る発明」(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、下記のとおりである。 「請求項3を引用する請求項5に係る発明」を「本願発明」とする理由は、次の「第4 1?5」に示すとおりである。 記 「下記一般式(I) H_(2) N-R_(1) (I) (式中、R_(1) は、炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基であって、置換若しくは無置換のアリールアルキル基である。) で表されるアミノ化合物と、下記一般式(II) Ar_(1) -X (II) (式中、Ar_(1) は、炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(VIII) 【化6】 (式中、R_(1) 及びAr_(1) は前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、さらにこの化合物と下記一般式(VI) Ar_(3)?(X)n (VI) (式中、Ar_(3) は、炭素数6?60の芳香族残基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。Xはハロゲン基であり、nは1?4の整数である。) で表されるハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて下記一般式(IX) 【化7】 (式中、R_(1) 、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物中間体を合成し、この化合物の置換基R_(1) を酸若しくはアルカリ条件下、又は還元剤を添加することにより窒素原子から脱離させ、下記一般式(X) 【化8】 (式中、Ar_(1) 、Ar_(3) 及びnは前記と同じ。)で表される芳香族アミノ化合物を製造する方法。」 第4 原査定の理由 1 原査定の拒絶の理由 同理由は、「平成19年 4月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2及び4によって、拒絶をすべきものである。」というものであるところ、「平成19年 4月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」とは、特許法第29条第2項の拒絶理由であり、次のとおりである。 2 平成19年 4月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2 同拒絶理由通知書に「・理由2 ・請求項1-9 ・引用文献1-6」と記載され、具体的には、まず引用文献2に記載された発明を認定し、次いで「1)請求項1,3に係る発明ついて」として、請求項3に係る発明は、引用文献2に記載された発明に引用文献3、4に記載された事項を組み合わせて容易であるとし、次いで、「2)請求項5-7に係る発明について」として、引用文献2に記載された発明に引用文献5、6に記載された事項を組み合わせて容易であるとしている。 ここで、請求項5-7に係る発明は、請求項1-4に係る発明を引用しているものであるから、請求項1、3を引用している請求項5-7に係る発明については、引用文献2に記載された発明に引用文献3、4、5、6に記載された事項を組み合わせて容易であるとしているといえる。 3 平成19年6月12日付けの手続補正により補正された、補正後の請求項5に係る発明についての拒絶査定の内容 補正後の請求項5は補正前の請求項5に対応するものであるところ、拒絶査定においては、「出願人は、意見書において、以下の旨を主張する。 (1)・・・本願請求項1,3,5-8に記載の発明は、当業者が引用文献1-6記載の発明から容易に想到できるものではない。」との請求人の主張を取り上げ、さらに補正内容を踏まえつつ請求人の主張に反論し、結局、上記「2」の拒絶理由通知に示した内容で拒絶をすべきものとしている。 4 「請求項3を引用する請求項5に係る発明」についての拒絶査定 以上のことから、原査定の拒絶の理由は、「請求項3を引用する請求項5に係る発明」について、その出願前に頒布された刊行物である引用文献2に記載された発明に引用文献3、4、5、6に記載された事項を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを包含している。 5 以下の検討について そこで、以下、「請求項3を引用する請求項5に係る発明」を、前記「第3」に示したとおり「本願発明」といい、以後「第6」においては、この発明について検討している。 第5 刊行物及び刊行物に記載された事項 原査定で引用された引用文献のうち、刊行物1?5は次のとおりである。 刊行物1:特開昭63-35548号公報 刊行物2:特開平6-100503号公報 刊行物3:Journal of American Chemical Society,1996年, Vol.118,p.7215-7216 刊行物4:Journal of Organic Chemistry,2000年,Vol.65, p.1144-1157 刊行物5:国際公開第95/09147号パンフレット 刊行物1?5に記載された事項は、「第2[理由]4(1)?(5)」に記載したとおりである。 第6 対比・判断 1 刊行物2に記載された発明 刊行物2には、「第2[理由]5(1)」に記載した「引用発明」が記載されている。 2 対比 (1)本願発明について 本願発明は、概略、「第2[理由]5(2)ア」に示した本願補正発明の(D)工程がないものに相当する。 (2)本願発明と引用発明との対比 そこで本願発明と引用発明とを対比すると、「第2[理由]5(2)イ」に示したのと同様に、両者は、 「電荷輸送材料としてのアリールアミン類を製造するに際し、 (B’)パラジウム触媒存在下に芳香族2級アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物を反応させて芳香族3級アミノ化合物を得る工程、 (C’)この得られた芳香族3級アミノ化合物を加水分解して、脱離しやすい基をはずして芳香族2級アミノ化合物を得る工程、 を含む、芳香族アミノ化合物を製造する方法」 である点で一致し、次の(i’)?(iii’)の点で相違する。 (i’)(B’)工程の前に、本願発明においては、 「 H_(2) N-R_(1) (I) のアミノ化合物と、 Ar_(1 )-X (II) のハロゲン化アリール化合物とを貴金属触媒存在下で反応させて の芳香族アミノ化合物中間体を合成する」という(A)工程が必須であるのに対し、引用発明においてはこのような工程を必須としていない点 (ii’)(B’)工程における「芳香族2級アミノ化合物」の窒素原子に結合した2つの基が、本願発明においては、「Ar_(1) 基(炭素数6?50のアリール基であり、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシ基又は炭素数1?8のアルキルアミノ基で置換されていても良い。)」と「R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基であって、置換若しくは無置換のアリールアルキル基である。)」であるのに対し、引用発明においては、「Ar_(1)基(置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾール基、1,3-ジオキサインダン基またはオキサゾール基)」と「アセチル基(COCH_(3))」である点 (iii’)(C’)工程において、脱離していく基が、本願発明においては、 R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基であって、置換若しくは無置換のアリールアルキル基である。)であるのに対し、引用発明においては、アセチル基(COCH_(3))である点 3 判断 以下、相違点(i’)?(iii’)について検討する。 (1)相違点(i’)について 相違点(i’)は、「第2[理由]5(2)イ」に示した相違点(i)と同じであるから、「第2[理由]5(3)ア」で判断したとおりである。 (2)相違点(ii’)と(iii’)について 相違点(ii’)において、本願発明における「Ar_(1) 基」と引用発明における「Ar_(1)基」は、引用発明における「Ar_(1)基」が「置換基を有していてもよい、フェニル基、ビフェニル基」の場合、本願発明における「Ar_(1) 基」が「炭素数6?50のアリール基」の場合と区別がつかないので、これらの基に関しては相違していない。 そうすると、相違点(ii’)は、窒素原子に結合している基が、R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基であって、置換若しくは無置換のアリールアルキル基である。)であるか、アセチル基(COCH_(3))であるか、ということになる。 また、相違点(iii’)は、上記したとおり、脱離していく基が、R_(1) 基(炭素数2?50のアルキル基又はアリールアルキル基であって、置換若しくは無置換のアリールアルキル基である。)であるか、アセチル基(COCH_(3))であるか、ということである。 そこで検討するに、刊行物5には(5a)に摘記したように、芳香族アミノ化合物を包含するp-フェニレンジアミン誘導体が記載されているところ、これは、有機エレクトロルミネッセンス素子となるものであり(摘記(5a))、その製造方法は、(5b)に摘記したように、芳香族アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物とを縮合させるものであって、それぞれの原料となる化合物自体は、本願発明と必ずしも重複するものではないが、芳香族アミノ化合物とハロゲン化アリール化合物とを縮合させていく、という同様の反応機構をとるものといえる。 そして、摘記(5b)の「○2」の方法においては、保護基G及びG’を有する、「保護されたジアミン誘導体と上記一般式(V)で表されるハロゲン化アリール化合物とを縮合させたのち、保護基G、G’を外し、さらに同様の縮合を行う」とされ、保護基であるG及びG’としては、「アセチル基,ベンジル基,トリフルオロアセチル基,t-ブトキシカルボニル基など」であって、引用発明におけるアセチル基と、本願発明におけるR_(1) 基であるベンジル基は、保護基として同等のものとされている。 そうすると、引用発明におけるアセチル基も、本願発明におけるベンジル基も、同様に、芳香族アミノ化合物が保護基を有した状態でハロゲン化アリール化合物と縮合反応し、次いで保護基が加水分解で除去される、というものであるから、引用発明におけるアセチル基に代えて、ベンジル基を用いることは、当業者が適宜なし得る範囲のものにすぎない。 したがって、引用発明において、(B’)工程における「芳香族2級アミノ化合物」の窒素原子に結合したアセチル基を、ベンジル基であるR_(1) 基とすることは、当業者にとって容易である。 また、引用発明において、(C’)工程において、脱離していくアセチル基を、ベンジル基であるR_(1) 基とすることは、当業者にとって容易である。 ウ 本願発明の効果について 本願発明の効果は、本願補正発明の効果と同じであるから、「第2[理由]5(3)エ」で判断したとおりである。 4 まとめ よって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物2に記載された発明及び刊行物3?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-09-16 |
結審通知日 | 2010-09-21 |
審決日 | 2010-10-04 |
出願番号 | 特願2002-576185(P2002-576185) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 天野 宏樹、野口 勝彦 |
特許庁審判長 |
西川 和子 |
特許庁審判官 |
松本 直子 橋本 栄和 |
発明の名称 | 芳香族アミノ化合物の製造方法 |
代理人 | 大谷 保 |