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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1228054
審判番号 不服2009-16573  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-08 
確定日 2010-12-08 
事件の表示 平成10年特許願第101238号「凹版印刷機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月 4日出願公開、特開平10-291297〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年4月13日(パリ条約による優先権主張1997年4月14日、スイス国)の出願であって、平成20年7月30日付けで手続補正がなされ、平成21年4月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年9月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年7月30日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「主構造体(6)と、少なくとも1つの印刷版をもつ版胴(4)と、圧胴(3)と、拭い取り装置(10)と、インキ設備とを具備している有価証券、特に銀行券を印刷する凹版印刷機械において、前記インキ設備が、
印刷版と相互に作用する弾性表面を有する捕集インキ胴(5)と、
捕集インキ胴(5)の周囲の回りに互いに近接して置かれ、かつ様々の色で印刷される色領域に対応し、捕集インキ胴(5)の周囲に接触しているレリーフを有している少なくとも4つの色-選択胴(7a?7d)と、かつ
各々の色-選択胴(7a?7d)と協働し、かつ作動位置と、主構造体(6)から離され動かされた位置との間で移動することができる移動可能なインキ搬送体(9)に据え付けられたインキ装置(8a?8d)と、
により構成されていて、
版胴(4)と、圧胴(3)と、捕集インキ胴(5)及び拭い取り装置(10)とが、主構造体(6)に設置されており、
捕集インキ胴(5)の直径と版胴(4)の直径の割合が、2/3に等しく、
2つの両端の色-選択胴(7a,7d)が、捕集インキ胴(5)に対してほぼ直径方向に対向するように置かれており、かつ
インキ搬送体(9)の側面の各々の壁が、色-選択胴と同じ側に、凹部(15)を構成していて、その凹部が、インキ搬送体(9)が作動位置にある場合に、前記2つの両端の色-選択胴(7a,7d)の間にある中間の色-選択胴(7b,7c)が、前記凹部(15)によって区画形成された空間内に完全に収まるような寸法とされている、
ところの凹版印刷機械。」

第3 刊行物に記載の事項
1 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭58-183257号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「1. シート若しくはウェブ状の紙の通貨、特に紙弊の印刷のための直接プレート印刷機若しくは銅板印刷機であって、主のデザインの要素に対応する切込みと、これより浅い、安全下地の要素に対応する微細な切込みとを有する少くとも一つの彫刻したプレートを有したプレートシリンダと、インプレッションシリンダと、主デザインに相当する切込みにインキ付けするとため前記プレートと直接に協働するインク付けユニットの少くとも一つのセレクタインク付けローラと、プレート拭い装置と、好ましくは、予備拭い装置及び安全下地に対応する切込みに少くとも2つの異った色でインク付けするための他のインク付け装置とより成り、安全下地の要素に対応する切込みにインク付けするためのインク付け装置は彫刻プレートと協働する円滑な弾性表面を持つコレクタシリンダより成り、このコレクタシリンダはプレートシリンダの回転方向において、セレクタインク付けローラの前方にあり、その周囲に異った色のための少くとも2つのカラーセレクタシリンダを有し、該カラーセレクタシリンダは安全下地の色付け領域に対応するレリーフ領域を形成しており、インク付け装置は夫々のカラーセレクタシリンダに関係づけられている印刷機。」(1頁左下欄5行?同頁右下欄8行)

(2)「前に説明した通り、コレクタシリンダ3は円滑な表面を有し、かつゴム若しくは他の弾性材料製のライニングを持つ。異った色の2つの領域のため少くとも2つの異った色がこのコレクタシリンダ3の表面に伝達され、コレクタシリンダ3は異った色の多くのセレクタシリンダ7と協働する。ここに説明した実施例では、コレクタシリンダ3は、硬い表面、例えば硬化ゴム、プラスチック等又は金属でライニングした表面を持つ3つのセレクタシリンダ7と協働する。各セレクタシリンダ7は部分(複数)に分けられ、その部分は対応した色で印刷すべき表面の輪郭と正確に対応する輪郭を持つレリーフ領域を構成する。これらのレリーフ領域は如何なる公知手段、例えば化学エッチング、レーザカッティング、及び適当な手段によって得ることができる。セレクタシリンダの表面は硬いから、得るべきデザインの微細さに関して制限はない。そのため極めて微細な線のみならず点といった今日まで達成できなかった安全下地を得ることすら可能である。図では、これらレリーフ領域の厚み及び高さはもちろん誇張してある。
各セレクタシリンダ7は、公知の仕方でインク付け装置8と関連づけられる。インク付け装置は色インキピックアップ及び分配ローラより成る。
図に示した実施例では、セレクタインクローラの直径の比、セレクタシリンダ7、コレクタシリンダ3、プレーム担持シリンダ1の直径の比は1:2:3であり、この場合、プレート担持シリンダ1の表面上に規則正しい間隔で配された3つのプレートが設けられる。」(3頁右下欄13行?4頁右上欄2行)

(3)銅板機の概略図を示す図から、3つのセレクタシリンダ7及びセレクタインクローラ4及び予備拭い装置5の直径が等しく、プレート担持シリンダ及びインプレッションシリンダの直径が等しく、また、セレクタシリンダ7、コレクタシリンダ3、プレート担持シリンダ1の直径の比が、1:2:3であることが見て取れる。

(4)上記(1)ないし(3)から引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる(上記(1)の「紙弊」及び上記(2)の「プレーム担持シリンダ1」が、それぞれ「紙幣」及び「プレート担持シリンダ1」の誤記であることは明らかであるから、摘記に際して訂正した。)。

「紙の通貨、特に紙幣の印刷のための直接プレート印刷機若しくは銅板印刷機であって、主のデザインの要素に対応する切込みと、これより浅い、安全下地の要素に対応する徴細な切込みとを有する少くとも一つの彫刻したプレートを有したプレートシリンダと、インプレッションシリンダと、主デザインに相当する切込みにインキ付けするとため前記プレートと直接に協働するインク付けユニットの少くとも一つのセレクタインク付けローラと、プレート拭い装置と、予備拭い装置及び安全下地に対応する切込みに少くとも2つの異った色でインク付けするための他のインク付け装置とより成り、安全下地の要素に対応する切込みにインク付けするためのインク付け装置は彫刻プレートと協働する円滑な弾性表面を持つコレクタシリンダより成り、このコレクタシリンダは、その周囲に異った色のための少くとも2つのカラーセレクタシリンダを有し、該カラーセレクタシリンダは安全下地の色付け領域に対応するレリーフ領域を形成しており、インク付け装置が夫々のカラーセレクタシリンダに関係づけられており、
コレクタシリンダは異った色の多くのカラーセレクタシリンダと協働するものであって、
カラーセレクタシリンダ、コレクタシリンダ、プレート担持シリンダの直径の比が、1:2:3であり、プレート担持シリンダの表面上に規則正しい間隔で配された3つのプレートが設けられる印刷機。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である特開平3-38347号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。
(1)「〔実施例〕
第1図に示す凹版印刷機は、圧胴3、圧胴3と同じ直径を備えて相互に作用し合う版胴4、及び版胴4に接触する集合インキ着け胴5を具備する。版胴4は一様に配分した数個の彫刻凹版を備える。本実施例においては、版胴4は3個の版を備え840mmの直径を有する。弾性表面を備えた集合インキ着け胴5は版胴4と同じ直径を有し、かつ本実施例では圧胴3と同様に3個のブランケットを備える。集合インキ着け胴5の表面に沿ってかつ集合インキ着け胴5と接触して数個の色別インキ着け胴7を装備する。これらの色別インキ着け胴7は各々のインキ装置8によりそれぞれインキ着けされる。
各胴の回転方向を矢印で図示する。上記の3個の胴3,4,5と色別インキ着け胴7とを主フレーム6に取付ける。また、集合インキ着け胴5及び色別インキ着け胴7を、主フレーム6から分離可能な可動台に取付けることもできる。
彫刻凹版には、印刷すべき主図案と安全背景との両方を彫刻する。主図案は、多様な寸法で250?300ミクロンの深さを持つ比較的深い凹彫によって形成され、一方安全背景は非常に微細な線又は点からなる極めて細密な凹彫によって形成される。安全背景を形成する凹彫は、主図案を形成する凹彫よりも彫りが浅い。
版胴4の表面上には、回転方向に関して集合インキ着け胴5の後方にワイピング装置10を配置する。ワイピング装置10は彫刻凹版の凹彫の外側の表面を拭き取り、かつ凹彫内にインキを押込む。
また、集合インキ着け胴5の表面にはブランケット自動洗浄装置11を配置する。ブランケット自動洗浄装置11は、印刷工程中は集合インキ着け胴5と接触しない。
上記のように、集合インキ着け胴5はオフセット印刷機のブランケット胴に使用するものと同様の3個のゴムブランケットを備える。彫刻凹版のインキ着けを完全にする多様な色の全てをこの集合インキ着け胴5に転写する。したがって集合インキ着け胴5は、異なる色の数と同数の色別インキ着け胴と相互作用する。第1図の実施例においては、集合インキ着け胴5は4個の色別インキ着け胴7と相互作用する。これらの色別インキ着け胴7の表面は、例えばプラスチック、金属、又は硬化ゴム等の硬い材料からなり、また色別インキ着け胴7の各々は、各色に印刷すべき表面の区切り線に正確に一致する区切り線を備えたレリーフ部を持つように分割される。これらのレリーフ部は例えばレーザカット等の公知手段によって得る。色別インキ着け胴の表面が硬いために、得るべき図案の細密さに対し何ら制限がない。また、極めて微細な線のみならず点をも備えた安全背景を描くことも可能であるが、これは従来困難とされたことである。
色別インキ着け胴7の各々は、インキ溝及びインキ移しローラを具備するインキ装置8に連結する。さらに、使用者に対してより便利であるように、下方のインキ装置はインキ出しローラ8aとローラ8dとの間に2個の中間移しローラ8b,8cを備える。全てのインキ装置8は各ローラとともに可動インキ装置台9に取付けられる。可動インキ装置台9は主フレーム6から分離可能であり、その引込位置を第1図に鎖線で示す。」(3頁左下欄17行?4頁左下欄1行)

(2)シート凹版印刷機の線図である第1図から、集合インキ付け胴5は、この左側を囲むように配置された4つの色別インキ着け胴7と接触しており、これら4つの色別インキ着け胴7は、それぞれ可動インキ装置台9に取付けられたインキ装置8と連結しており、可動インキ装置台9は、集合インキ着け胴5の側に凹部を有しており、最も上方に配置された色別インキ着け胴と最も下方に配置された色別インキ着け胴との間に配置された2つの色別インキ着け胴が、この凹部に配置されていることが看取できる。

(3)上記(1)及び(2)から、引用例2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「圧胴、圧胴と同じ直径を備えて相互に作用し合う版胴及び版胴に接触する集合インキ着け胴を具備する凹版印刷機であって、
弾性表面を備えた集合インキ着け胴は版胴と同じ直径を有し、集合インキ着け胴の表面に沿ってかつ集合インキ着け胴と接触して4個の色別インキ着け胴を装備しており、これらの色別インキ着け胴は各々のインキ装置によりそれぞれインキ着けされるものであって、
圧胴、版胴、集合インキ着け胴、色別インキ着け胴は、主フレームに取付けられ、版胴の表面上には、ワイピング装置が配置され、全てのインキ装置は各ローラとともに、主フレームから分離可能な可動インキ装置台に取付けられており、
可動インキ装置台は、集合インキ着け胴の側に凹部を有しており、最も上方に配置された色別インキ着け胴と最も下方に配置された色別インキ着け胴との間に配置された2つの色別インキ着け胴が、この凹部に配置されている凹版印刷装置。」

第4 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「主のデザインの要素に対応する切込みと、これより浅い、安全下地の要素に対応する徴細な切込みとを有する少くとも一つの彫刻したプレートを有したプレートシリンダ」、「インプレッションシリンダ」、「プレート拭い装置」、「『主デザインに相当する切込みにインキ付けするとため前記プレートと直接に協働するインク付けユニットの少くとも一つのセレクタインク付けローラ』及び『安全下地に対応する切込みに少くとも2つの異った色でインク付けするための他のインク付け装置』」、「彫刻プレートと協働する円滑な弾性表面を持つコレクタシリンダ」、「カラーセレクタシリンダ」及び「インク付け装置」は、それぞれ、本願発明の「少なくとも1つの印刷版をもつ版胴」、「圧胴」、「拭い取り装置」、「インキ設備」、「印刷版と相互に作用する弾性表面を有する捕集インキ胴」、「色-選択胴」及び「インキ装置」に相当する。

(2)引用発明1の「印刷機」は、「紙の通貨、特に紙幣の印刷のための」ものであり、「主のデザインの要素に対応する切込みと、これより浅い、安全下地の要素に対応する徴細な切込みとを有する少くとも一つの彫刻したプレートを有したプレートシリンダ」と、「プレート拭い装置」とを有するもであるから、本願発明の「有価証券、特に銀行券を印刷する凹版印刷機械」のとの事項を備えている。

(3)引用発明1における「カラーセレクタシリンダ(色-選択胴)」は、コレクタシリンダの周囲に異った色のものが多く設けられ、コレクタシリンダと協働するものであり、また、安全下地の色付け領域に対応するレリーフ領域を形成している。そして、コレクタシリンダの周囲に多く設けられたカラーセレクタシリンダは、互いに近接することとなる。
よって、引用発明1におけるカラーセレクタシリンダは、本願発明の色-選択胴と、複数であり、捕集インキ胴の周囲の回りに互いに近接して置かれ、かつ様々の色で印刷される色領域に対応し、捕集インキ胴の周囲に接触しているレリーフを有している点で一致する。

(4)引用発明1におけるインク付け装置は、「夫々のカラーセレクタシリンダに関係づけられて」いるから、本願発明の「インキ装置」と「各々の色-選択胴と協働」する点で一致する。

(5)引用発明1において、「カラーセレクタシリンダ、コレクタシリンダ、プレート担持シリンダの直径の比が、1:2:3」であるから、引用発明1は、本願発明の「捕集インキ胴(5)の直径と版胴(4)の直径の割合が、2/3に等し」いとの事項を備えている。

(6)上記(1)ないし(5)からみて、本願発明と引用発明1とは、
「少なくとも1つの印刷版をもつ版胴と、圧胴と、拭い取り装置と、インキ設備とを具備している有価証券、特に銀行券を印刷する凹版印刷機械において、
前記インキ設備が、
印刷版と相互に作用する弾性表面を有する捕集インキ胴と、
捕集インキ胴の周囲の回りに互いに近接して置かれ、かつ様々の色で印刷される色領域に対応し、捕集インキ胴の周囲に接触しているレリーフを有している複数の色-選択胴と、かつ
各々の色-選択胴と協働するインキ装置と、
により構成されていて、
捕集インキ胴の直径と版胴の直径の割合が、2/3に等しい凹版印刷機械。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
インキ装置が、本願発明では、作動位置と、主構造体から離され動かされた位置との間で移動することができる移動可能なインキ搬送体に据え付けられているのに対して、引用発明1ではどのように据え付けられているのか特定されていない点。

相違点2:
色-選択胴の数が、本願発明においては、少なくとも4つであるのに対して、引用発明1ではそのように特定されていない点。

相違点3:
2つの両端の色-選択胴が、本願発明においては、捕集インキ胴に対してほぼ直径方向に対向するように置かれているのに対して、引用発明1ではそうでない点。

相違点4:
本願発明が、主構造体を具備し、版胴と、圧胴と、捕集インキ胴及び拭い取り装置とが、主構造体に設置されているのに対して、引用発明1は主構造体を有しているか否かも、版胴と、圧胴と、捕集インキ胴及び拭い取り装置とがどのように設置されているかも特定されていない点。

相違点5:
本願発明では、インキ搬送体の側面の各々の壁が、色-選択胴と同じ側に、凹部を構成していて、その凹部が、インキ搬送体が作動位置にある場合に、前記2つの両端の色-選択胴の間にある中間の色-選択胴が、前記凹部によって区画形成された空間内に完全に収まるような寸法とされているのに対して、引用発明1ではそのように特定されていない点。

第5 判断
上記相違点1ないし5について検討する。
(1)相違点2について
引用発明1において、「コレクタシリンダ(捕集インキ胴)」が協働する異った色の多くの「カラーセレクタシリンダ(色-選択胴)」の具体的な個数は、発明の実施に際して当業者が適宜定めるべき設計事項であって、これを4個とすることは引用例2に示すように適宜なし得たことに過ぎない。

(2)相違点3について
ア 引用発明1の「カラーセレクタシリンダ(色-選択胴)」は、コレクタシリンダの周囲に配置され、コレクタシリンダと協働するものである。
イ 引用発明1において、カラーセレクタシリンダのそれぞれ、コレクタシリンダ及びプレート担持シリンダのいずれも、その外周にインクを保持するものであって、予め定められた位置でのみ互いに接触して、インク付けを行うものであって、予め定められた位置以外で互いに接触、干渉してはならないことは、当業者に自明である。
ウ カラーセレクタシリンダを4個とした引用発明1において(上記(1)参照。)、4個のカラーセレクタシリンダのいずれもコレクタシリンダの周囲であって、プレート担持シリンダ及び他のカラーセレクタシリンダと接触、干渉しない位置に設けなければならないものであるから(上記イ参照。)、4個のカラーセレクタシリンダは、プレート担持シリンダとは接触、干渉しない領域で、コレクタシリンダを囲むように設けられることとなる。
エ そうすると、カラーセレクタシリンダ4個分の空間ないし領域がカラーセレクタシリンダ3個分のものよりも大きいことは当然であるから、カラーセレクタシリンダが、コレクタシリンダを囲むように設けられる領域は、カラーセレクタシリンダを4個とした場合には、これが3個である場合よりも大きなものとなることは当業者に明らかであり、また、両端に設けられたカラーセレクトシリンダの位置が、カラーセレクトシリンダを4個とした場合には、これが3個である場合よりも大きく離れることも当業者に明らかである。
そして、カラーセレクトシリンダを4個とした場合において、コレクタシリンダを囲むように設けられるカラーセレクトシリンダそれぞれの具体的な位置をどことするか、また、両端のカラーセレクタシリンダを具体的にどの程度まで大きく離すかは、発明の実施に際して当業者が適宜定めるべきものである。
オ 以上のとおりであるから、引用発明1において、コレクタシリンダの周囲に配置されるカラーセレクトリンダの数を4個として(上記(1)参照。)、両端のカラーセレクタシリンダをどの程度まで大きく離すかは当業者が適宜定めるべきものであるから(上記エ参照。)、両端のカラーセレクタシリンダが、捕集インキ胴に対してほぼ直径方向で対向するように置かれることも当業者が容易になし得たことに過ぎない。
カ よって、引用発明1において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点1、4について
ア 引用発明1においても、プレートシリンダ、インプレッションシリンダ、プレート拭い装置、コレクタシリンダ、インク付け装置等の各構成を設置、位置決めすることが必要であることは当業者に明らかである。
イ 引用発明1と引用発明2とは、「プレートシリンダ(版胴)」、「インプレッションシリンダ(圧胴)」、「プレート拭い装置(ワイピング装置)」、「コレクタシリンダ(集合インキ着け胴)」、「カラーセレクタシリンダ(色別インキ着け胴)」、「インク付け装置(インキ装置)」を備えた「印刷機(凹版印刷装置)」である点で一致する。
ウ 上記ア及びイから、引用発明1において、各構成を設置、位置決めするために「主フレーム」及び「主フレームから分離可能な可動インキ装置台」を設け、「圧胴、版胴、集合インキ着け胴、色別インキ着け胴は、主フレームに取付け」、「全てのインキ装置は各ローラとともに、主フレームから分離可能な可動インキ装置台に取付け」ることは、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことである。
エ 「プレート拭い装置(ワイピング装置)」は、プレートシリンダに対して高精度に位置決めして、これに当接させることは技術常識であるところ、プレートシリンダを主フレームに取り付けた引用発明1において(上記ウ参照。)、プレートシリンダと同様にプレート拭い装置も主フレームに取り付け、両者の相対的な位置決めを精度良く行い得るものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
オ 以上のとおりであるから、引用発明1において、「主フレーム(主構造体)」及び「主フレームから分離可能な可動インキ装置台(作動位置と、主構造体から離され動かされた位置との間で移動することができる移動可能なインキ搬送体)」を設け、「インク付け装置(インキ装置)」を作動位置と、主構造体から離され動かされた位置との間で移動することができる移動可能なインキ搬送体に据え付け、版胴と、圧胴と、捕集インキ胴及び拭い取り装置とを主構造体に設置すること、すなわち、相違点1及び4に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用発明2に基づいて容易になし得たことである。

(4)相違点5について
ア 引用発明2においては、可動インキ装置台は、集合インキ着け胴の側に凹部を有しており、最も上方に配置された色別インキ着け胴と最も下方に配置された色別インキ着け胴との間に配置された2つの色別インキ着け胴が、この凹部に配置されている。
イ 上記アから、コレクタシリンダの周囲に配置されるカラーセレクトリンダの数を4個とし(上記(1)参照。)、インク付け装置を可動インキ装置台に据え付け、版胴と、圧胴と、捕集インキ胴及び拭い取り装置とを主フレームに設置した引用発明1において(上記(3)オ参照。)、可動インキ装置台の形状を、集合インキ着け胴の側に凹部を有するものとし、最も上方に配置された色別インキ着け胴と最も下方に配置された色別インキ着け胴との間に配置された2つの色別インキ着け胴が、この凹部に配置されるものとすることは、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことである。
ウ 各部材の具体的な形状及び配置は、当業者が適宜定めるべきものであるところ、引用発明2は、最も上方に配置された「色別インキ着け胴(色-選択胴)」と最も下方に配置された色別インキ着け胴との間に配置された2つの色別インキ着け胴は、凹部によって区画形成された空間内に完全に収まるものと特定されるものではないが(引用例2第1図参照。)、主たる構造物に対して移動する支持部材の凹部内に、印刷機の胴状の部材が完全に収まる点は、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である特開平2-72955号公報(第3図参照。2つの版胴20及び2つの版胴21が、レール22に沿って移動することで印刷機本体13に対して接近離反可能な給紙側インキ装置ユニット15の凹部内及び排紙側インキ装置ユニット16の凹部内に、それぞれ完全に収まっている。)に記載されるように当業者が適宜なし得る程度のことである。
エ 以上のとおりであるから、引用発明1において、上記相違点5に係る本願発明の構成となすことは、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(5)本願発明の奏する効果は、引用発明1及び2の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(6)したがって、本願発明は、当業者が引用例1及び2にそれぞれ記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例1及び2にそれぞれ記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-07 
結審通知日 2010-07-13 
審決日 2010-07-26 
出願番号 特願平10-101238
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 真介  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 藏田 敦之
星野 浩一
発明の名称 凹版印刷機  
代理人 篠崎 正海  
代理人 谷光 正晴  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 鶴田 準一  
代理人 大橋 康史  

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