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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1228931
審判番号 不服2008-26932  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-22 
確定日 2010-12-09 
事件の表示 平成11年特許願第345996号「距離検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月22日出願公開、特開2001-169310〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯
1 経緯
本願は、平成11年12月6日の出願であって、平成17年10月11日付けで手続補正がなされ、平成20年6月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成20年8月27日付けで意見書が提出されると同時に手続補正がなされたが、平成20年9月12日付け(発送日同年9月24日)で拒絶査定がなされたものである
本件は、本願についてなされた上記拒絶査定を不服として平成20年10月22日付けで請求された拒絶査定不服審判であって、平成20年11月5日付けで手続補正がなされたものである。

2 査定の概要
原査定の理由は、概略、次のとおりである。

[査定の理由]
A.この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
B.この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開平10-341458号公報

第2 補正却下の決定
平成20年11月5日付けの手続補正について次のとおり決定する。

[補正却下の決定の結論]
平成20年11月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成20年11月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、請求項1についてする補正を含むものである。

補正前の請求項1
「【請求項1】 車両に搭載された2つの撮像手段によって得られる2つの画像に基づいて対象物の視差を算出し、該視差から前記対象物までの距離を検出する距離検出装置において、
第1及び第2の時刻において静止対象物の視差を算出する静止対象物視差算出手段と、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の直線移動量を、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の回頭角に応じて算出する車両移動量算出手段と、
前記第1及び第2の時刻における前記静止対象物の視差並びに前記直線移動量に基づいて、前記2つの撮像手段の光軸間平行度ずれに起因する視差オフセット量を算出し、該算出した視差オフセット量により視差を補正する視差補正手段とを備えることを特徴とする距離検出装置。」

を、次のとおり補正後の請求項1に補正するものである。

「【請求項1】 車両に搭載された2つの撮像手段によって得られる2つの画像に基づいて対象物の視差を算出し、該視差から前記対象物までの距離を検出する距離検出装置において、
第1及び第2の時刻において静止対象物の視差を算出する静止対象物視差算出手段と、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の直線移動量を、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の回頭角に応じて算出する車両移動量算出手段と、
前記第1及び第2の時刻における前記静止対象物の視差並びに前記直線移動量に基づいて、前記2つの撮像手段の光軸間平行度ずれに起因する視差オフセット量を算出し、該算出した視差オフセット量により視差を補正する視差補正手段とを備え、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定されることを特徴とする距離検出装置。」

2 補正の適合性
(1)補正の目的
補正後の請求項1は、補正前の請求項1に「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定され」を加えたものであり、
この補正は、「第1の時刻」と「第2の時刻」の関係を限定したものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)独立特許要件
上記のとおり本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的としているので、本件補正後における発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを、以下に検討する。

(3)補正後発明
補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後発明」という。)は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「車両に搭載された2つの撮像手段によって得られる2つの画像に基づいて対象物の視差を算出し、該視差から前記対象物までの距離を検出する距離検出装置において、
第1及び第2の時刻において静止対象物の視差を算出する静止対象物視差算出手段と、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の直線移動量を、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の回頭角に応じて算出する車両移動量算出手段と、
前記第1及び第2の時刻における前記静止対象物の視差並びに前記直線移動量に基づいて、前記2つの撮像手段の光軸間平行度ずれに起因する視差オフセット量を算出し、該算出した視差オフセット量により視差を補正する視差補正手段とを備え、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定されることを特徴とする距離検出装置。」

(4)引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-341458号公報(上記引用文献1、以下「刊行物1」という。)には、「車載ステレオカメラの校正方法、および、その方法を適用した車載ステレオカメラ」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

〈発明の属する技術分野〉
「 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載されたステレオカメラの設置方向についてのカメラ校正を行う方法に関し、特に、走行中に設置方向ずれを検出する方法に関する。また、本発明は、カメラの設置方向ずれを校正する機能を有する車載ステレオカメラに関する。」

〈従来技術〉
「 【0002】
【従来の技術】
ステレオカメラは、互いに離れた複数の位置で同一被写体を撮影するカメラである。ステレオカメラとしては、所定距離を隔てて設けられた複数のカメラを有するもの・・・
【0003】
ステレオカメラで得られた画像を基に、・・・被写体までの距離測定(測距)ができる。そこで、ステレオカメラを車両に搭載し、各種の用途に用いることが考えられる。・・・
【0004】
ステレオカメラを用いる場合、予めキャリブレーション(校正)を行い、焦点距離、光軸の向きなどのカメラ内部パラメータや、カメラ同士の位置関係を正確に獲得しておく必要がある。しかし、車両搭載用のステレオカメラは、走行中に振動が加わるなど、過酷な状況で使われる。そのため、走行中にカメラの位置関係が変化し、位置関係のずれが距離測定誤差などの大きな原因となる。そこで、車両の走行中にカメラの位置関係の変化量を獲得し、自動的にキャリブレーションを行うことが望まれる。
【0005】
特開平8-285534号公報では、路上の2本の横方向白線(高速道路に設けられた車間距離確認用の白線)が撮影され、2本の白線間の距離がステレオ法を用いて測定される。上記の白線の距離は既知である。そこで、この既知の距離と実測値とが比較される。両者が一定値以上に異なることをもって、カメラの撮影方向が異常であると判定され、異常を知らせる警報が発せられる。」

〈発明が解決しようとする課題〉
「 【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報では、カメラの撮影方向のずれを求める上で、間隔が既知の2つの白線の存在が前提とされている。・・・
【0007】
ところで、ステレオカメラは、今後、一般道路においても積極的に利用される見込みである。例えば、車両を目的地まで導くナビゲーションシステムにおいて、案内の目印を探すためにステレオカメラを使用することが考えられる。従って、高速道路のみではなく、一般道路の任意の場所でキャリブレーションを実行可能にすることが望まれる。」

「 【0010】
このように、従来技術では、走行中にカメラの撮影方向ずれを検出できるものの、不利な点が多い。その理由は、主として、間隔が既知の2つの白線の存在を前提としていることにある。撮影方向のずれが検出できるか否かが走行場所に依存し、上記のような特殊な条件を満たすことが要求される。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、一般道などの任意の場所でカメラ撮影方向のずれを検出することを可能とし、検出結果に基づいたカメラ校正ができるようにすることにある。」

〈発明の実施の態様〉
〈原理〉
「 【0021】
「原理」
まず、本実施形態の原理として、2つの地点で同一特徴物までの距離を測定した測定結果に基づいて撮影方向のずれ量を求める方法を説明する。
【0022】
図1は、複数のカメラを有するステレオカメラを用いて被写体までの距離測定を行うステレオ測距の原理を示している。このステレオカメラには、図示の如く、左カメラ1と右カメラ2との2つのカメラが設けられている。図1では、各カメラ1、2はモデル化され、焦点距離fのピンホールカメラとして表されている。両カメラ1、2は互いに離れて配置されており、レンズ中心間の距離はbである。レンズ中心同士を結んだ線分は、基線(baseline)といわれる。図1のカメラ配置において、カメラ1、2の光軸は互いに平行であり、かつ、基線に対して垂直である。このようなカメラ配置は、一般に標準ステレオ配置といわれる。両カメラ1、2の撮像面は、レンズ中心から距離fだけ離れた同一平面上にある。
【0023】
測定対象の被写体Pが、2つのカメラ1、2によって撮影されたとする。両カメラでは、撮像面の異なる位置に被写体Pが映る。図2に示すように、左カメラ1と右カメラ2では、距離dだけ離れた位置に被写体Pが映ったとする。このずれ量dを視差(disparity)という。視差dが分かれば、三角測量の原理を用いて、下式(1)に従い、カメラから測定対象Pまでの距離Dが求められる。
【0024】
【数1】
D=b×f/d ・・・(1)
(略)」

〈カメラ校正〉
「 【0027】
以上の距離測定方法では、2つのカメラが、図1に示した正しい位置に設置されていることが前提条件である。しかし、車両に搭載されたステレオカメラは、走行中に振動が加わるなど、過酷な状況で使用される。振動等が原因で2つのカメラが平行でなくなった場合には、距離測定の結果に大きな誤差が生じてしまう。そこで、以下の方法でカメラの設定方向のずれを獲得し、その結果を用いてカメラ校正を行う。
【0028】
図3において、車両3の前部には、カメラ1、2が図1の標準ステレオ配置で設けられている。車両3がある地点Aにいるときに、静止している特徴物4までの距離DAが計測される。本実施形態では、キャリブレーション用の特徴物として、信号機(青信号)を使用する。そして、一定距離Zだけ前方の地点Bに車両3が移動したとき、もう一度、信号機4までの距離DBが計測される。カメラが平行に正しく配置されていれば、地点Aでの距離DAと地点Bでの距離DBとの差(DA-DB)が、地点A、B間の走行距離Zに等しい。しかし、カメラの設置方向がずれていると、両者が等しくならない。このことを利用して、カメラの設置方向のずれ角を獲得する。
【0029】
図4を参照し、ずれ角獲得の詳細な方法を説明する。図4では、右カメラ2の設置方向が標準ステレオ配置からずれており、ずれ角度はΔθである。そのため、右カメラ3の撮像面(仮想面)は、図1と比較して傾いており、その角度もΔθである。角度Δθに相当する撮像面上での距離をΔdとする。Δdは、角度Δθだけ開いた2つの直線の撮像面上での距離に相当し、Δd=f・tanΔθである。
【0030】
地点Aにおいて、撮影画像に画像処理を施すことにより、静止対象物たる信号機4が抽出される。図4において、信号機4は、左カメラ1のレンズの光軸を通る垂直面上に位置している。左カメラ1では、光軸上に信号機4が映る。一方、カメラ2では、信号機4が光軸から距離dAだけ離れた位置に映る。従って、地点Aにおいて観測される視差はdAである。しかし、この視差dAは、両カメラが本来の標準ステレオ配置にあるときの視差よりも大きい。視差dAは、正常時の視差に設置方向のずれ分Δdが加わった値をもつ。
【0031】
図4に点線で示すように、カメラ2がカメラ1と平行に配置されているはずであるとして、視差dAを用いて信号機4までの距離を計算すると、測距結果は、距離DA(DA=b×f/dA)になる。測定値DAは実際の値よりも小さく、その差はΔDAである。
【0032】
地点Bにおいても同様に信号機4までの距離が測定される。地点Bで観測される視差はdBであり、カメラの設置方向ずれがないときと比べて、Δdだけ大きい。そして、距離測定値はDBであり、実際の値よりもΔDBだけ小さい。
【0033】
ここで、地点A、B間の走行距離Zは、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)等を用いれば分かる。図3から明らかなように、距離DAと距離DBの差は、地点A、B間の距離Zに等しくならない。これは、もしもカメラが正しい位置にあるとしたならば、信号機4が、(Z+DB-DA)だけ移動したことを意味する。しかし、測定対象物として、静止しているはずの信号機4が選ばれている。ここに矛盾が生じ、カメラの設置方向がずれたと判断される。
【0034】
カメラの設置方向のずれ角Δθは、測定値たるdA、dB、Zを用いて、下記のようにして算出できる。地点Aにおける静止対象物までの実際の距離DA+ΔDAは、次式(2)によって表される。ここで、(dA-Δd)は、両カメラ1、2の設置方向がずれていないときに観測されるべき視差の値である。
【0035】
【数2】
DA+ΔDA = b×f/(dA-Δd)≡fA(Δd) ・・・(2)
同様に、地点Bにおける静止対象物までの実際の距離DB+ΔDAは、次式(3)によって表される。
【0036】
【数3】
DB+ΔDB = b×f/(dB-Δd)≡ fB(Δd) ・・・(3)
一方、地点A、B間の距離Zは、次式(4)によって表される。
【0037】
【数4】
Z=(DA+ΔDA)-(DB+ΔDB) ・・・(4)
式(4)に、式(2)、式(3)を代入することにより次式(5)が得られ、さらに式(5)を変形することにより式(6)が得られる。そして、式(6)をΔdについて解くと、式(7)が得られる。
【0038】
【数5】
Z=b×f/(dA-Δd)- b×f/(dB-Δd)・・・(5)
【数6】

・・・(6)
【数7】

・・・(7)
ただし、式(7)の計算のみでは解が2つ存在し、一意にΔdが特定できない。ここで、2つの解をα、βとする。α、βを式(2)、(3)に代入すると、以下の関係が成り立つ。
【0039】
【数8】
fA(α)=-fB(β)
fB(α)=-fB(β) ・・・(8)
このことは、一方の解を代入した際のfA、fBは負になり、他方の解を代入した際のfA、fBは正になることを意味している。カメラ1、2は車両前方を撮影するように配置されており、従って、地点A、Bから静止対象物までの実際の距離fA、fBは必ず正である。従って、α、βの一方を、視差の誤差分Δdとして特定できる。さらに、下式(9)を用いて、Δdからカメラ設置方向のずれ角Δθが求まる。
【0040】
【数9】

・・・(9)
ステレオカメラが、カメラの設置方向を修正するための駆動装置を備える場合は、カメラ校正として、角度Δθだけカメラを回転させて設置方向を修正することができる。また、カメラ校正として、Δdを用いた測定結果の補正を行ってもよい。すなわち、測距時に観測された視差からΔdだけ差し引いた値を式(1)に代入すれば、正しい測定値が得られる。この場合には、カメラの回転が不要である。
【0041】
なお、図4では、説明を分かりやすくするために、静止対象物が左カメラ1のレンズの光軸を含む垂直面上にあるものと仮定した。しかし、式(7)に示されるように、本実施形態では、地点A、Bでの視差を用いて視差の誤差Δdが求められる。静止対象物がカメラの正面に存在しないときでも(例えば図3)、同様の計算により、上記のΔdやΔθが求められる。従って、上記の各式の一般性は失われない。
【0042】
また、図4では、車両が直進のみを行う場合について説明した。しかし、車両の進行方向が地点A、Bで変わる場合にも、同様の原理に従って、上記のΔdやΔθを求めることができる。この場合、ステレオカメラを備えるシステムに、車両の向きの変化量(回転成分)を検出する手段を設ける。例えば、ジャイロセンサの出力やステアリング舵角を検出するセンサの出力から、上記の回転成分が分かる。この回転成分を用いれば、測定結果を、図4の状態で得られたものに変換できる。従って、車両の進行方向が変わったときでも、同様の計算式が適用できる。」

〈ステレオカメラシステム〉
「 【0044】
「ステレオカメラシステム」
次に、上記の校正方法が実現される車載ステレオカメラシステムの好適な形態を説明する。図5はカメラシステムの全体構成を示しており、ステレオカメラを構成する車載カメラとして、左カメラ1と右カメラ2が設けられている。カメラ1、2は、車両の前方を撮影するCCDカメラであり、車幅方向に所定距離だけ離して配置されている。カメラ1、2の配置は、図3の標準ステレオ配置である。両カメラは、例えば、車室内でフロントガラスの左上隅、右上隅に近接した場所に設置されている。カメラ1、2は、撮像結果である画像信号を基にデジタルの画像データを生成し、出力する。
【0045】
カメラ1、2には、画像認識部10が接続されている。画像認識部10は、画像データから、道路上や道路沿いに存在する特徴物を探索する。特徴物は、信号機、標識、歩道橋、ビル、看板などである。特徴物を抽出する方法の例を説明する。まず、抽出対象の特徴物に特有の色や輝度値をもつ部分であって、エッジ(色値や輝度値が大きく変化するところ)で囲まれた部分が、特徴物の候補として抽出される。画像認識部10には、抽出対象の特徴物の形状をもつテンプレートが予め用意されている。そして、候補物体とテンプレートの形状が比較され、候補物体が抽出対象の特徴物であるか否かが判定される。このような特徴物の抽出は、2つのカメラ1、2で得られたそれぞれの画像について、別個に行われる。画像認識部10は、撮影画像とともに、抽出された特徴物と、画像内での特徴物の位置を示す情報を測距部12に送る。
【0046】
測距部12では、左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められる。そして、視差dを基に、図1に示したステレオ測距の原理に従い、特徴物までの距離を求める。測距部12は、車載のナビゲーションシステム14に接続されている。測定結果は、撮影画像などとともに、ナビゲーションシステム14に送られる。」

「 【0048】
ステレオカメラ校正部16は、上述した本実施形態の原理に基づいて、カメラ校正を行う。そのため、ステレオカメラ校正部16は、図5のカメラシステムの各構成を制御し、それぞれの構成に指示を出して校正のために機能させる。測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する信号機までの距離の測定値DAが送られる。車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ信号機までの距離測定値DBを取り込む。ステレオカメラ校正部16は、入力情報に基づいて、距離DA、DBを基に、地点A、Bでの視差dA、dBを求め、さらに式(7)?(9)に従って、カメラ設置方向のずれ角Δθを求める。
【0049】
なお、ステレオカメラ校正部16は、測距部12から、距離測定値でなく、視差そのものを取り込んでもよい。その他、上記の原理に示された本発明の範囲内であれば、データ処理方法は適宜変更できる。
【0050】
また、距離Zだけ移動したか否かの判断のため、ステレオカメラ校正部16には、自車位置検出部18が接続されている。自車位置検出部18は、例えばGPSを利用したものであり、FM多重放送により提供される誤差情報を加味したD-GPS装置なども利用できる。さらに、光ビーコンや電波ビーコンから供給される位置情報や、マップマッチングによる補正や、進行方向および走行距離から位置を検出する自立航法などを組み合わせることも好適である。自車位置検出部18は、ナビゲーションシステム14に備えられたものと兼用することが好ましい。なお、距離Zだけ移動したか否かは、車速センサ(図示せず)の出力に基づいて判断してもよい。」

「 【0052】
また、右カメラ2には、カメラを回転させるカメラ駆動部20が取り付けられている。カメラ駆動部20は、右カメラ2の設置方向を微調整し、任意の方向に向けて位置させることができる。カメラ駆動部20には、ステレオカメラ校正部16から、カメラ設置方向のずれ角Δθが入力される。駆動部20は、ずれ角Δθだけ右カメラ2を逆方向に回転させる。」

〈第2の構成例〉
「 【0065】
次に、カメラの設置方向を調整するカメラ駆動部が設けられていないカメラシステムに好適に適用される校正方法を説明する。図8は、本実施形態のカメラシステムの第2の構成例であり、図5と異なり、カメラ駆動部が設けられていない。その他の構成は、図5と同様である。
【0066】
図8のシステムの動作において、図5のシステムの動作と相違する点を説明する。図5では、地点A、地点Bでの距離測定結果に基づき、カメラ設置方向のずれ角Δθが算出された(図6、S24)。しかし、ここでは、ずれ角Δθに相当する画像上での視差の誤差Δd(Δd=f・tanΔθ)が算出される。そして、所定個数NのΔdの平均がとられ、最終的な視差の誤差Δdとされる。Δd(平均値)が許容範囲内であれば、特に校正は行われない。Δdが許容範囲をはずれていれば、その平均値が測距部12へ送られる。
【0067】
以降、測距部12では、カメラ校正として、Δdを用いて視差の補正が行われる。すなわち、画像認識部10では、通常どおり、撮影画像から特徴物を抽出し、画像内での特徴物の位置を測距部12に送る。測距部12では、入力情報から視差を求める。そして、求めた視差を、Δdを用いて補正する。補正後の視差を用いて特徴物までの距離が計算される。」

(5)対比
ア 刊行物1に記載された発明
図8に示された本実施形態のカメラシステムの第2の構成例を、刊行物1に記載された発明として認定する。
(a)車載ステレオカメラ
図8に示されたカメラシステムは、「本発明は、カメラの設置方向ずれを校正する機能を有する車載ステレオカメラに関する」(段落【0001】)ものであり、「ステレオカメラは、互いに離れた複数の位置で同一被写体を撮影するカメラで」(段落【0002】)、「ステレオカメラで得られた画像を基に、・・・被写体までの距離測定(測距)ができ」(段落【0003】)、図8に示されたカメラシステムは、「補正後の視差を用いて特徴物までの距離が計算される」(段落【0067】)ものである。
したがって、図8に示されたカメラシステムは、「視差を用いて特徴物までの距離測定ができ、カメラの設置方向ずれを校正する機能を有する車載ステレオカメラシステム」といえる。

(b)測距部12
「測距部12では、左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められる。そして、視差dを基に、図1に示したステレオ測距の原理に従い、特徴物までの距離を求める」(段落【0046】)ものであり、図8に示されたカメラシステムは、「測距部12では、カメラ校正として、Δdを用いて視差の補正が行われる。すなわち、画像認識部10では、通常どおり、撮影画像から特徴物を抽出し、画像内での特徴物の位置を測距部12に送る。測距部12では、入力情報から視差を求める。そして、求めた視差を、Δdを用いて補正する。補正後の視差を用いて特徴物までの距離が計算される」(段落【0067】)から、図8に示されたカメラシステムの測距部12は、左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められ、視差dをΔdを用いて補正し、補正後の視差を用いて、特徴物までの距離を求めるものである。 ここで、Δdは視差の誤差である(段落【0066】)。
「測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する信号機までの距離の測定値DAが送られる。車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ信号機までの距離測定値DBを取り込む。ステレオカメラ校正部16は、入力情報に基づいて、距離DA、DBを基に、地点A、Bでの視差dA、dBを求め、さらに式(7)?(9)に従って、カメラ設置方向のずれ角Δθを求める。
なお、ステレオカメラ校正部16は、測距部12から、距離測定値でなく、視差そのものを取り込んでもよい。」(段落【0048】、【0049】)の記載から、「ステレオカメラ校正部16は、測距部12から、距離測定値でなく、視差そのものを取り込んでもよい」のであるから、「測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する信号機」の視差が送られ、「車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ信号機」の視差を取り込む。
また、「特徴物は、信号機、標識、歩道橋、ビル、看板などである。」(段落【0045】)の記載から、「信号機」は、「特徴物」である。
そうすると、図8に示されたカメラシステムは、測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する特徴物の視差が送られ、車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ特徴物の視差を取り込むものであり、測距部12は、左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められ、視差dを視差の誤差Δdを用いて補正し、補正後の視差を用いて、特徴物までの距離を求めるものである。

(c)ステレオカメラ校正部16
「ステレオカメラ校正部16は、上述した本実施形態の原理に基づいて、カメラ校正を行う。そのため、ステレオカメラ校正部16は、図5のカメラシステムの各構成を制御し、それぞれの構成に指示を出して校正のために機能させる。測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する信号機までの距離の測定値DAが送られる。車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ信号機までの距離測定値DBを取り込む。ステレオカメラ校正部16は、入力情報に基づいて、距離DA、DBを基に、地点A、Bでの視差dA、dBを求め、さらに式(7)?(9)に従って、カメラ設置方向のずれ角Δθを求める。
なお、ステレオカメラ校正部16は、測距部12から、距離測定値でなく、視差そのものを取り込んでもよい。その他、上記の原理に示された本発明の範囲内であれば、データ処理方法は適宜変更できる。」(段落【0048】、【0049】)の記載、
「特徴物は、信号機、標識、歩道橋、ビル、看板などである。」(段落【0045】)の記載、
「図8のシステムの動作において、図5のシステムの動作と相違する点を説明する。図5では、地点A、地点Bでの距離測定結果に基づき、カメラ設置方向のずれ角Δθが算出された(図6、S24)。しかし、ここでは、ずれ角Δθに相当する画像上での視差の誤差Δd(Δd=f・tanΔθ)が算出される。そして、所定個数NのΔdの平均がとられ、最終的な視差の誤差Δdとされる。Δd(平均値)が許容範囲内であれば、特に校正は行われない。Δdが許容範囲をはずれていれば、その平均値が測距部12へ送られる。」の記載から、カメラ校正部16は、地点A、Bでの特徴物の視差dA、dB及び距離Zから、視差の誤差Δdを求めるものである。

(d)自車位置検出部18
「距離Zだけ移動したか否かの判断のため、ステレオカメラ校正部16には、自車位置検出部18が接続されている。」(段落【0050】)の記載、「距離Zだけ移動したか否かは、車速センサ(図示せず)の出力に基づいて判断してもよい。」(段落【0050】)の記載から、自車位置検出部18は、車速センサの出力に基づいて距離Zだけ移動したか否かの判断するものである。

(e)車両の向きの変化量(回転成分)
段落【0042】には、
「また、図4では、車両が直進のみを行う場合について説明した。しかし、車両の進行方向が地点A、Bで変わる場合にも、同様の原理に従って、上記のΔdやΔθを求めることができる。この場合、ステレオカメラを備えるシステムに、車両の向きの変化量(回転成分)を検出する手段を設ける。例えば、ジャイロセンサの出力やステアリング舵角を検出するセンサの出力から、上記の回転成分が分かる。この回転成分を用いれば、測定結果を、図4の状態で得られたものに変換できる。従って、車両の進行方向が変わったときでも、同様の計算式が適用できる。」
と記載されており、車両の進行方向が地点A、Bで変わる場合にも、直進のみを行う場合と同様の計算式が適用でき、車両の向きの変化量(回転成分)を用いれば、測定結果を変換できることが開示されている。

以上より、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されている。

「視差を用いて特徴物までの距離測定ができ、カメラの設置方向ずれを校正する機能を有する車載ステレオカメラシステムにおいて、
測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する特徴物の視差が送られ、車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ特徴物の視差を取り込むものであり、
測距部12は、左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められ、視差dを視差の誤差Δdを用いて補正し、補正後の視差を用いて、特徴物までの距離を求めるものであり、
カメラ校正部16は、地点A、Bでの特徴物の視差dA、dB及び距離Zから、視差の誤差Δdを求めるものであり、
自車位置検出部18は、車速センサの出力に基づいて距離Zだけ移動したか否かを判断するものであり、
車両の進行方向が地点A、Bで変わる場合、車両の向きの変化量(回転成分)を用いて測定結果を変換する
車載ステレオカメラシステム。」

イ 補正後発明と刊行物発明との対比
(ア)「距離検出装置」
刊行物発明は、「視差を用いて特徴物までの距離測定ができ」るものであり、刊行物発明の測距部12は、「左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められ、視差dを視差の誤差Δdを用いて補正し、補正後の視差を用いて、特徴物までの距離を求めるものであ」る。また、刊行物発明は車載用ステレオカメラシステムであるから、車両に搭載された2つの撮像手段を有している。
そうすると、刊行物発明は、「車両に搭載された2つの撮像手段によって得られる2つの画像に基づいて対象物の視差を算出し、該視差から前記対象物までの距離を検出する距離検出装置」といえる。

(イ)「静止対象物視差算出手段」
刊行物発明の測距部12は、「左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められ、視差dを視差の誤差Δdを用いて補正し、補正後の視差を用いて、特徴物までの距離を求めるものであり」、「測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する特徴物の視差が送られ、車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ特徴物の視差を取り込むものであ」る。
特徴物は、「信号機、標識、歩道橋、ビル、看板などである」(段落【0045】)から、静止対象物といえる。
車両は、地点Aから地点Bに移動し、測距部12は、地点Aで視差を求め、地点Bで視差を求めるものであり、地点Aと地点Bとでは時刻が異なることは明らかである。したがって、地点Aの時刻を第1の時刻、地点Bの時刻を第2の時刻といい得る。
そうすると、測距部12は、「第1及び第2の時刻において静止対象物の視差を算出する静止対象物視差算出手段」といえる。

(ウ)「車両移動量算出手段」
刊行物発明の自車位置検出部18は、車速センサの出力に基づいて距離Zだけ移動したか否かを判断するものである。
刊行物発明は、「測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する特徴物の視差が送られ、車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ特徴物の視差を取り込むものであり」、上記(イ)のとおり、地点Aの時刻を第1の時刻、地点Bの時刻を第2の時刻といい得ることから、刊行物発明は、「測距部12からステレオカメラ校正部16へは、第1の時刻にて、前方に位置する特徴物の視差が送られ、車両が第1の時刻から距離Zだけ直線移動した第2の時刻で、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ特徴物の視差を取り込むものであ」るといえる。
また、刊行物発明は、「車両の進行方向が地点A、Bで変わる場合、車両の向きの変化量(回転成分)を用いて測定結果を変換する」ものであり、車両の向きの変化量(回転成分)は車両の回頭角といえるから、距離Zは、車両の回頭角に応じて変換、すなわち算出されるといえる。
そうすると、刊行物発明は、「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の直線移動量を、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の回頭角に応じて算出する車両移動量算出手段」を備えているといえる。

(エ)「視差補正手段」
刊行物発明の「カメラ校正部16は、地点A、Bでの特徴物の視差dA、dB及び距離Zから、視差の誤差Δdを求めるものであり」、刊行物発明の「測距部12は、左右の画像内での同一特徴物の位置の相違から、視差dが求められ、視差dを視差の誤差Δdを用いて補正し、補正後の視差を用いて、特徴物までの距離を求めるものであ」る。
地点Aの時刻を第1の時刻、地点Bの時刻を第2の時刻といい得ることは上記(イ)のとおりである。視差の誤差Δdは、式(7)(段落【0038】)より、地点Aの視差dA、地点Bの視差dB及び地点Aから地点Bの距離Zに基づいて算出するものであり、「図4を参照し、ずれ角獲得の詳細な方法を説明する。図4では、右カメラ2の設置方向が標準ステレオ配置からずれており、ずれ角度はΔθである。そのため、右カメラ3の撮像面(仮想面)は、図1と比較して傾いており、その角度もΔθである。角度Δθに相当する撮像面上での距離をΔdとする。Δdは、角度Δθだけ開いた2つの直線の撮像面上での距離に相当し、Δd=f・tanΔθである。」(段落【0029】)の記載から、Δdはカメラの標準ステレオ配置からのずれに基づくものである。
また、視差の誤差Δdは、視差dを視差の誤差Δdを用いて補正するから、視差オフセット量といえる。
そうすると、刊行物発明の「カメラ校正部16」及び「測距部12」は、「前記第1及び第2の時刻における前記静止対象物の視差並びに前記直線移動量に基づいて、前記2つの撮像手段の光軸間平行度ずれに起因する視差オフセット量を算出し、該算出した視差オフセット量により視差を補正する視差補正手段」といえる。

(オ)「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定されることを特徴とする」
刊行物発明は、「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定され(る)」ていない。補正後発明と相違する。

ウ 一致点、相違点
そうすると、補正後発明と刊行物発明の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
車両に搭載された2つの撮像手段によって得られる2つの画像に基づいて対象物の視差を算出し、該視差から前記対象物までの距離を検出する距離検出装置において、
第1及び第2の時刻において静止対象物の視差を算出する静止対象物視差算出手段と、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の直線移動量を、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の回頭角に応じて算出する車両移動量算出手段と、
前記第1及び第2の時刻における前記静止対象物の視差並びに前記直線移動量に基づいて、前記2つの撮像手段の光軸間平行度ずれに起因する視差オフセット量を算出し、該算出した視差オフセット量により視差を補正する視差補正手段とを備え、
ることを特徴とする距離検出装置。

[相違点]
補正後発明が「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定され」るのに対し、
刊行物発明がそのような設定をしていない点。

(6)相違点の判断
ア[相違点]について
刊行物発明においては、「測距部12からステレオカメラ校正部16へは、ある地点Aにて、前方に位置する特徴物の視差が送られ、車両が地点Aから距離Zだけ直線移動した地点Bで、ステレオカメラ校正部16は、測距部12に指示を出して、もう一度、同じ特徴物の視差を取り込むものであ」るから、地点Aで視差を求め、距離Z移動した地点Bで視差を求めるものである。
車両の移動に伴う互いに離れた2点を設定するには、距離に基づいて設定するか、時間に基づいて設定するかの2つの設定の仕方があることは技術常識である。2つの設定の仕方は、具体的には、ある1点を設定し、その点から所定距離進んだ点をもう1点に設定するか、ある1点を設定し、その点から所定時間進んだ点をもう1点に設定するかである。
刊行物発明は、距離に基づいて2点を設定するものであるが、上記のとおり設定の仕方には2つの仕方があるから、距離に基づく設定に代えて、時間に基づく設定にすることは当業者が容易に想到することができたものである。
そして、刊行物発明において、距離に基づく設定に代えて、時間に基づく設定にした場合に、刊行物発明の地点Aから地点Bまでの時間間隔は、車両が距離Zを進む時間であり、車両が距離Zを進む時間は、車両の速度が高いほど短くなることは明らかであるから、刊行物発明において、距離に基づく設定に代えて、時間に基づく設定を採用する際に、「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定され」るようにすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
また、刊行物発明において、距離に基づく設定に代えて、時間に基づく設定にした場合に、視差の誤差を求めるには、地点Aから地点Bまでの距離を求めることが必要なことは、刊行物1に記載された「原理」(段落【0021】?【0042】)、特に段落【0038】の式(7)から明らかであり、刊行物発明の自車位置検出手段18は、車速センサの出力に基づいて距離Zだけ移動したか否かを判断するものであるから、第1の時刻(地点Aにおける時刻)から第2の時刻(地点Bにおける時刻)までの距離を(車速センサの出力に基づいて)求めるようにすることは、当業者が容易に想到できたものである。

イ 効果等
以上のように、相違点に係る構成は当業者が容易に想到することができたものである。そして、補正後発明の構成は、上記のとおり当業者が容易に想到することができたものであるところ、補正後発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものでもない。
したがって、補正後発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に反している。

3 まとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年11月5日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年8月27日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「車両に搭載された2つの撮像手段によって得られる2つの画像に基づいて対象物の視差を算出し、該視差から前記対象物までの距離を検出する距離検出装置において、
第1及び第2の時刻において静止対象物の視差を算出する静止対象物視差算出手段と、
前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の直線移動量を、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの期間における前記車両の回頭角に応じて算出する車両移動量算出手段と、
前記第1及び第2の時刻における前記静止対象物の視差並びに前記直線移動量に基づいて、前記2つの撮像手段の光軸間平行度ずれに起因する視差オフセット量を算出し、該算出した視差オフセット量により視差を補正する視差補正手段とを備えることを特徴とする距離検出装置。」

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の2(4)に記載したとおりである。

3 対比・判断
引用文献1に記載された発明は、上記第2の2(5)アに記載した刊行物発明と同じである。
本願発明と引用文献1に記載された発明を対比する。
本願発明は、補正後発明が「前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔は、前記車両の車速が高いほど短くなるように設定され」るのに対して、そのような限定がない点で相違するほかは、同じであるので、上記第2の2(5)イ(ア)?(エ)を援用する。

そうすると、本願発明は、引用文献1に記載された発明と一致する。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のように審決する。
 
審理終結日 2010-10-05 
結審通知日 2010-10-12 
審決日 2010-10-25 
出願番号 特願平11-345996
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 小池 正彦
佐藤 直樹
発明の名称 距離検出装置  
代理人 新井 孝治  

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