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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1229028 |
審判番号 | 不服2009-17350 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-16 |
確定日 | 2010-12-09 |
事件の表示 | 特願2002-144206「電荷増幅型固体撮像素子を備えた電子内視鏡装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月25日出願公開、特開2003-334161〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成14年5月20日に特許出願されたものであって,平成20年2月27日付けで拒絶理由が通知され,同年5月7日付けで意見書と共に手続補正書が提出された後,同年10月21日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月16日付けで意見書と共に手続補正書が提出されたが,平成21年6月9日付けで,当該12月16日付け手続補正書による補正が,(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の)特許法第17条の2第3項および第4項の規定に違反し,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるとして同法第53条第1項の規定に基づき却下されると共に,同日付けで,平成20年10月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶査定がなされたものである。 これに対し平成21年9月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。さらに,平成22年6月9日付けで審尋がなされ,回答書が同年8月16日付けで請求人より提出されたものである。 第2 平成21年9月16日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正後の請求項1に記載された発明 本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項1についてする補正は,補正前の特許請求の範囲(平成20年5月7日付けで補正されたもの。以下,同様。)の 「【請求項1】 撮像素子を有するビデオスコープと前記ビデオスコープが接続されるプロセッサとを備えた電子内視鏡装置であって, 前記撮像素子が,インパクトイオン化現象を起こすことで光電変換により生じた電荷を増幅する電荷増幅処理を実行可能な電荷増幅型固体撮像素子であり, 被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段と, 撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段と, 通常観察時の露光時間に比べて短い露光時間で動画撮影するために電子シャッタ動作を実行する電子シャッタ動作手段と, 電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチと, 前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段と を備えたことを特徴とする電子内視鏡装置。」 を, 「【請求項1】 撮像素子を有するビデオスコープと前記ビデオスコープが接続されるプロセッサとを備えた電子内視鏡装置であって, 前記撮像素子が,インパクトイオン化現象を起こすことで光電変換により生じた電荷を増幅する電荷増幅処理を実行可能な電荷増幅型固体撮像素子であり, 被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段と, 撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段と, 通常観察時の露光時間に比べて短い露光時間で動画撮影するために電子シャッタ動作を実行する電子シャッタ動作手段と, 電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチと, 前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段とを備え, 前記自動調光処理手段が,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記光量調整手段を制御することによって光量を増加させることを行わず, 前記電荷増幅処理手段が,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させることを特徴とする電子内視鏡装置。」 と補正するものである。(なお,上記において,下線は,補正箇所を示す。) 上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「自動調光処理手段」および「電荷増幅処理手段」について「前記自動調光処理手段が,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記光量調整手段を制御することによって光量を増加させることを行わず」および「前記電荷増幅処理手段が,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させる」との限定を付したものである。 してみると,上記補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。 そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。 2 引用刊行物の記載事項 本願出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2001-29313号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。 (1-ア) 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は感度を制御できる固体撮像素子を用いて撮像する内視鏡装置に関する。」 (1-イ) 「【0009】そこで,本発明では内視鏡の種類に応じて固体撮像素子の感度を制御して,内視鏡の種類によらず適正な明るさの観察画像が得られる内視鏡装置を提供することを目的とする。」 (1-ウ) 「【0010】 【課題を解決するための手段】・・・このイオン化により電荷を増倍させ,感度を向上させる技術に着目したものであり,感度が可変である固体撮像素子を有する内視鏡と,固体撮像素子からの出力信号を信号処理する信号処理装置と,被写体への照明光を照射する光源装置を有する内視鏡装置において,前記固体撮像素子の感度を制御する感度制御手段を設けることにより,内視鏡の種類によらず適正な明るさの観察画像が得られるようにした。 【0011】また,外部からの感度制御パルス(CMDgateパルス)の振幅とパルス数で感度を自由に制御できる特徴も持っている。この感度の制御により,増倍に伴うノイズの発生もなく,冷却も不要で高感度の固体撮像素子が実現できるため,画質が良く挿入性の優れた内視鏡を実現することができる。」 (1-エ) 「【0067】(第4の実施の形態)図9は本発明の第4実施の形態の内視鏡装置61の構成を示す。本実施の形態では,CCD9の前面にカラーフィルタ65が設けらた同時式内視鏡装置である。 【0068】図1或いは図7と共通である部分に関しては説明を省略する。本実施の形態は同時式の内視鏡62と,この内視鏡62に白色の照明光を供給する光源装置63と,CCD9を駆動及び信号処理する(例えば光源装置63と別体の)信号処理装置64と,この信号処理装置64から出力される映像信号を表示するモニタ5とから構成される。 【0069】上記同時式の内視鏡62は例えば第1の実施の形態の内視鏡2のCCD9の前面にカラーフィルタ65を設けたものである。 【0070】また,光源装置63は図1の面順次式光源装置22において,照明光路中に介挿されるRGB回転フィルタ29を除去して,ランプ27の白色光が絞り23を介して集光レンズ28で集光されてライトガイド15の後端面に供給されるようにしたものである。このため,図1におけるモータ30及びRGB回転フィルタ制御手段25も設けてない。 【0071】また,本実施の形態における信号処理装置64は図1の信号処理手段14をプレ信号処理手段66とポスト信号処理手段67で構成している。 【0072】つまり,CCD9から読み出された出力信号の各種信号処理を行なうプレ信号処理手段66と,このプレ信号処理手段66の出力信号をモニタ5などに出力するための各種信号処理を行なうポスト信号処理手段67とから構成されており,前記CCD9から読み出された出力信号をテレビジョン信号に変換して,モニタ5などに出力するようになっている。 【0073】また,前記CCD駆動手段11及びCCD感度制御手段12,信号処理手段14は,制御手段21に接続され,この制御手段21によって制御が行なわれるようになっている。 【0074】この制御手段21は,白色の照明光を内視鏡62に供給する光源装置63に設けられた絞り23及び絞り制御手段24を制御する制御手段26にも接続されている。 【0075】本実施の形態に用いられる信号処通手段14は,例えば図10に示すように構成されている。プレ信号処理手段66には,前記内視鏡62から出力された信号が入力されるようになっている。 【0076】このプレ信号処理手段66では,色成分が重畳されたCCD9の出力信号はCDS回路31,LPF32,クランプ回路33を経由してA/D変換器34によりデジタル信号に変換される。このデジタル信号はフォトカップラ35aにより患者回路から2次回路にアイソレーションされて伝送される。 【0077】このフォトカップラ35aを経た出力信号は,2次回路内の輝度/色差信号分離回路68で輝度信号Yと色差信号R-Y,B-Yに分離され,さらにマトリックス回路69でRGB信号に変換され,ホワイトバランス補正回路36,色調調整回路37,ガンマ補正回路38でそれぞれホワイトバランス補正,色調調整,ガンマ補正がされた後,拡大回路39で電子ズーム処理が行なわれる。そして,拡大回路39の出力は輪郭強調回路40を介してポスト信号処理手段67に入力されるようになっている。 【0078】前記輪郭強調回路40の出力は,ポスト信号処理手段67内の静止画記憶用の静止画像メモリ45a,45b,45cに入力すると共にセレクタ46に入力する。セレクタ46を経由した輪郭強調回路40の出力は,動画として後段の75Ωドライバ47を介してモニタ5に供給される。 【0079】セレクタ46のもう一方の入力端子には静止画メモリ45a,45b,45cの出力が接続されている。静止画像メモリ45a,45b,45cの画像書き込みと画像読み出しは制御手段21で制御されており,操作者のフリーズ命令に応じて制御手段21は,フリーズ命令の有った時点の画像を記憶するように静止画像メモリ45a,45b,45cを制御する。 【0080】また,制御手段21は,フリーズ命令に応じて電子シャッタ動作が行われるようにCCD駆動手段11を制御するとともに,CCD感度制御手段12に対して,CCDの感度設定値を上げるように制御する。この感度設定値は,電子シャッタ動作による露光時間の減少を補正するように設定され,1/120秒の電子シャッタ動作が行われた場合は,1/60秒の通常露光時の2倍の感度にCCD9が設定される。 【0081】以上のように本実施の形態によれば,電子シャッタ動作時においても,固体撮像素子の駆動状態に応じて固体撮像素子の感度を制御することで適正な明るさの観察画像を得ることができる内視鏡装置を実現できる。」 (1-オ) 「【0135】測光手段142は,1画面分のCCD109からの出力信号の平均値を算出し,制御手段121に出力する。出力された値は,制御手段121を介して第2の制御手段126に出力し,値に応じて絞り制御に指令を出して絞り123の開閉制御を行う。つまり,被写体が設定された基準値よりも明るすぎる場合は,CCD109出力信号は大きくなるため,絞り123を閉じる方向(ライトガイド後端面への照射強度が小さくなる)に動作させ,一方,被写体が暗い場合はCCD109出力信号は小さくなるため,絞り123を開ける方向(ライトガイド後端面への照射強度が大きくなる)に動作させて,生体組織への照射強度を変化させるものである(自動調光機能)。」 (1-カ) 「【0235】16.パルス状の駆動信号を供給することにより,電子の増倍動作による感度制御が可能な固体撮像素子を配した内視鏡と,固体撮像素子からの出力信号を信号処理する信号処理装置と,被写体への照明光を照射する光源装置を有する内視鏡装置において,前記固体撮像素子の駆動条件に応じて,前記固体撮像素子に供給するパルス状の駆動信号のパルス数,パルス波形の少なくとも一方を制御する駆動信号発生手段を有することを特徴とする内視鏡装置。 【0236】17.前記固体撮像素子の駆動条件は,電子シャッタ動作に基づいた情報であることを特徴とする付記16の内視鏡装置。 ・・・ 【0238】(付記6,16,17,18の背景)内視鏡装置で動きの速い被写体を観察する際や静止画を撮像する際に,固体撮像素子を電子シャッタ動作している。この時は,露光量を適正にするために照射光量を増やしているが,照射光量調節のための絞りが開ききっている状態で電子シャッタ動作が行われると露光量が不足し,暗い画像になってしまう。露光量不足をAGCで補うことも出来るが,ノイズが増加してしまう。 【0239】そこで,固体操像素子の駆動状態に応じて固体撮像素子の感度を制御し,ノイズの少ない観察画像が得られる内視鏡装置を提供することを目的とする。」 上記摘記事項,特に,摘記事項(1-カ)からみて,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「パルス状の駆動信号を供給することにより,電子の増倍動作による感度制御が可能な固体撮像素子を配した内視鏡と,固体撮像素子からの出力信号を信号処理する信号処理装置と,被写体への照明光を照射する光源装置を有する内視鏡装置において,前記固体撮像素子の駆動条件に応じて,前記固体撮像素子に供給するパルス状の駆動信号のパルス数,パルス波形の少なくとも一方を制御する駆動信号発生手段を有する内視鏡装置であって, 前記固体撮像素子の駆動条件は,電子シャッタ動作に基づいた情報であり, 動きの速い被写体を観察する際に,固体撮像素子を電子シャッタ動作している内視鏡装置。」(以下,「引用発明」という。) また,同様に,本願出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2001-119689号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 (2-ア) 「【0027】データ分離回路42は,データ多重化回路39により多重化された電子シャッタ,オートアイリス,及び光源装置4の制御データの分離を行う。そして,電子シャッタの制御データはCCD22をドライブするCCDドライブ回路43に出力されて,CCD22の電荷蓄積時間を制御する,つまり素子シャッタの時間を制御する。」 (2-イ) 「【0030】更に,CCU7には図5に示すようなフロントパネルSW部46が設けてある。このフロントパネルSW部46には,電子シャッタスイッチ(単に,シャッタと略記)46a,光源スイッチ(調光スイッチ)46b,オートアイリススイッチ46c,及びAGCスイッチ46dが設けられ,それぞれ電子シャッタ,光源,オートアイリス及びAGCの各機能の動作をオン,オフ(入切)できる。」 また,同様に,本願出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平11-225954号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 (3-ア) 「【0018】データ分離回路42は,データ多重化回路39により多重化された電子シャッタ,オートアイリス,及び光源装置4の制御データの分離を行う。そして,電子シャッタの制御データはCCD22をドライブするCCDドライブ回路43に出力されて,CCD22の電荷蓄積時間を制御する,つまり素子シャッタの時間を制御する。」 (3-イ) 「【0020】更に,CCU7には図3に示すようなフロントパネルSW部46が設けてある。このフロントパネルSW部46には,電子シャッタスイッチ(単に,シャッタと略記)46a,光源スイッチ(調光スイッチ)46b,オートアイリススイッチ46c,及びAGCスイッチ46dが設けられ,それぞれ電子シャッタ,光源,オートアイリス及びAGCの各機能の動作をオン,オフ(入切)できる。」 3 対比・判断 (1)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「内視鏡装置」が,電子内視鏡装置であることは明らかである。また,内視鏡装置が,撮像素子を有するビデオスコープと前記ビデオスコープが接続されるプロセッサとを備えることは技術常識である。 してみると,引用発明の「内視鏡装置」は,補正発明の「撮像素子を有するビデオスコープと前記ビデオスコープが接続されるプロセッサとを備えた電子内視鏡装置」に相当する。 イ 引用発明の「パルス状の駆動信号を供給することにより,電子の増倍動作による感度制御が可能な固体撮像素子」は,補正発明の「インパクトイオン化現象を起こすことで光電変換により生じた電荷を増幅する電荷増幅処理を実行可能な電荷増幅型固体撮像素子」に相当する。 ウ 引用発明は,「電子シャッタ」を備えるものであるから,電子シャッタ動作を実行する電子シャッタ動作手段を備えていることは自明である。また,特開昭63-314980号公報(以下,「周知例1」という。)の6頁右上欄8?11行に「動きのある被写体を観察する場合等,通常の場合よりも短い電荷蓄積時間に設定してブレの少い観察像を望む場合」と記載されているように,動きのある被写体を観察する場合に,通常の場合よりも短い電荷蓄積時間に設定すること,すなわち,通常の場合よりも短い露光時間に設定することは,技術常識であるから,引用発明において,電子シャッタ動作を実行するのは,通常観察時の露光時間に比べて短い露光時間で動画撮影するためであることが明らかである。 してみると,引用発明の「動きの速い被写体を観察する際に,固体撮像素子を電子シャッタ動作している」点は,補正発明の「通常観察時の露光時間に比べて短い露光時間で動画撮影するために電子シャッタ動作を実行する電子シャッタ動作手段」を備える点に相当する。 エ 引用発明は,固体撮像素子にパルス状の駆動信号を供給することにより,電子の増倍動作による感度制御を行っているから,電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段を備えているといえる。また,引用発明では,固体撮像素子の駆動条件は,電子シャッタ動作に基づいた情報であるから,電子シャッタ動作が実行される場合に,電荷増幅処理を実行させているといえる。 してみると,引用発明の「前記固体撮像素子の駆動条件は,電子シャッタ動作に基づいた情報であ」る点と,補正発明の「前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段とを備え」る点とは,「前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段とを備え」る点において共通する。 してみると,両者は, (一致点) 「撮像素子を有するビデオスコープと前記ビデオスコープが接続されるプロセッサとを備えた電子内視鏡装置であって, 前記撮像素子が,インパクトイオン化現象を起こすことで光電変換により生じた電荷を増幅する電荷増幅処理を実行可能な電荷増幅型固体撮像素子であり, 通常観察時の露光時間に比べて短い露光時間で動画撮影するために電子シャッタ動作を実行する電子シャッタ動作手段と, 前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段とを備える電子内視鏡装置。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点)補正発明では,「被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段」と,「撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段」と,「電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチ」を備え,「前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される」ものであり,「前記自動調光処理手段が,」「前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記光量調整手段を制御することによって光量を増加させることを行わず」,「前記電荷増幅処理手段が,」「前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させ」るものであるのに対し,補正発明は,そのような構成でない点。 (2)相違点についての判断 ア 引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)の段落【0074】および【0080】には,第4の実施の形態として,感度制御すなわち電荷増幅処理を実行可能なCCD,絞り23及び絞り制御手段24を制御する制御手段26,および,電子シャッタを備えた内視鏡装置が記載されている。そして,引用例1に関する上記摘記事項(1-オ)に「被写体が設定された基準値よりも明るすぎる場合は,CCD109出力信号は大きくなるため,絞り123を閉じる方向(ライトガイド後端面への照射強度が小さくなる)に動作させ,一方,被写体が暗い場合はCCD109出力信号は小さくなるため,絞り123を開ける方向(ライトガイド後端面への照射強度が大きくなる)に動作させて,生体組織への照射強度を変化させるものである(自動調光機能)。」と記載されているように,「絞り23」および「絞り制御手段24」が,それぞれ,「被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段」および「撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段」であることは技術常識である。 また,同段落【0080】における「感度設定値は,電子シャッタ動作による露光時間の減少を補正するように設定され,1/120秒の電子シャッタ動作が行われた場合は,1/60秒の通常露光時の2倍の感度にCCD9が設定される」ことが記載されており,1/120秒の電子シャッタ動作が行われた場合は,1/60秒の通常露光時の2倍の感度にCCD9が設定されることとすれば,絞りによる光量調整をしなくても,電子シャッタ動作の前後で,被写体像の明るさが変化しないことは明らかである。 そうすると,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)には,第4の実施の形態として,「被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段」および「撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段」を備え,「自動調光処理手段が,電子シャッタ動作が実行される場合,前記光量調整手段を制御することによって光量を増加させることを行わず,電荷増幅処理手段が,前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させる」技術が記載されているといえる。 そして,引用発明も,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の上記技術も,電子シャッタを備えた内視鏡装置に関するものであり,被写体像が適切な明るさで維持されるようにすること,および,電子シャッタの動作の実行前後において被写体像の明るさが変化しないようにすることは自明の技術的課題であるから,引用発明に,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の上記技術を適用し,「被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段」および「撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段」を備え,「自動調光処理手段が,電子シャッタ動作が実行される場合,前記光量調整手段を制御することによって光量を増加させることを行わず,電荷増幅処理手段が,前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させる」ようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。 なお,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の技術は,静止画像の電子シャッタ動作に合わせて,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させるものであるが,当該技術を,引用発明,すなわち,動画像の電子シャッタ動作にあわせて電荷増幅処理を実行するものに適用することに特段の阻害要因がないことは明らかである。 イ 電子シャッタを備えた内視鏡装置において,「電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチ」を備えたものは,例えば,引用例2に関する上記摘記事項(2-イ),引用例3に関する上記摘記事項(3-イ),および,上記周知例1の6頁左下欄20行?同頁右上欄11行にも記載されているように,本願出願日前に周知である。 そして,引用発明も上記周知技術も,電子シャッタを備えた内視鏡装置に関するものであり,電子シャッタを備えた内視鏡装置において,当該電子シャッタ機能の動作をON/OFFできた方が便利であることは自明であるから,引用発明に上記周知技術を適用し,「電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチ」を備え,「前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される」ようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。 そして,本願明細書に記載された補正発明によってもたらされる効果は,引用例1および周知の技術的事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。 したがって,補正発明は,引用発明,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の技術および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 まとめ 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり,本件補正は,却下されることとなったから,本件特許出願人が特許を受けようとする発明として特定する事項は,平成20年5月7日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものと認められ,その請求項1は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。) 「【請求項1】 撮像素子を有するビデオスコープと前記ビデオスコープが接続されるプロセッサとを備えた電子内視鏡装置であって, 前記撮像素子が,インパクトイオン化現象を起こすことで光電変換により生じた電荷を増幅する電荷増幅処理を実行可能な電荷増幅型固体撮像素子であり, 被写体を照明するため光源から放射される光の光量を調整する光量調整手段と, 撮像によって得られる動画像としての被写体像が適切な明るさで維持されるように,前記光量調整手段を制御することによって光量調整を実行する自動調光処理手段と, 通常観察時の露光時間に比べて短い露光時間で動画撮影するために電子シャッタ動作を実行する電子シャッタ動作手段と, 電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチと, 前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段と を備えたことを特徴とする電子内視鏡装置。」 2 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例,および,その記載事項は,上記「第2 2 引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。 3 判断 本願発明は,補正発明から,「前記自動調光処理手段が,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,前記光量調整手段を制御することによって光量を増加させることを行わず」および「前記電荷増幅処理手段が,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように定められるゲイン値によって電荷増幅処理を実行させる」との限定を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2 3 対比・判断」において検討のとおり,引用発明,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の技術および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の技術および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。 なお,請求人は,平成21年9月16日付け審判請求書の7頁12?27行において,「・補正の却下の決定において,『このような課題は,補正前の発明が解決しようとする課題を概念的に下位にしたものでなく,補正前の発明が解決しようとする画題と同種のものでもないので,・・』と記載されている。しかしながら,補正前の課題と補正後の課題がどのように相違するのか一切具体的に説明されていない。もし相違するのであれば,補正前の課題と補正後の課題を具体的に対比し,下位概念,同種でない理由付けを包括的に行わなければならず,何の理由,根拠のないまま限定的減縮要件の違反を判断したことは,失当である。 ・補正の却下の決定において,『内視鏡画像の明るさを制御する技術として,・・・・,当業者にとって格別の創意ないし困難性を伴うとは,認められない』と記載されている。しかしながら,引用文献1を鑑みて当業者が通常の創作能力の発揮で行えることは,光量調整による自動調光機能に対して電荷増幅処理を補足的に行うこと,あるいは,自動調光処理,電荷増幅処理いずれかを動画像表示中に単独で実行することであり,動画像表示の途中で明るさ調整処理を関連づけて切り替え制御を行うということを,ぶれのない動画像表示目的によって動画像表示中に実行される電子シャッタ動作が記載されていない引用文献1?3から当業者が導くことはできない。」と主張している。 しかし,平成20年12月16日付け手続補正書の【特許請求の範囲】【請求項1】に記載された「電子シャッタ動作を実行するために操作される電子シャッタスイッチと,前記電子シャッタスイッチに対する操作に従って前記電子シャッタ動作が実行される場合,電子シャッタ動作の実行前後における被写体像の明るさが変化しないように,前記自動調光処理手段による光量調整は行わずに前記電荷増幅型固体撮像素子において前記電荷増幅処理を実行させる電荷増幅処理手段とを備えた」点については,上記「第2 3 (2)相違点についての判断」において検討のとおり,引用発明に,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の技術,および,周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものであり,平成20年12月16日付け手続補正書の【特許請求の範囲】【請求項1】に記載の発明は,引用発明,引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に第4の実施の形態として記載の技術および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって,平成20年12月16日付け手続補正が,平成21年6月17日付けで補正却下された点に違法性はなく,請求人の上記主張は採用することができない。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-06 |
結審通知日 | 2010-10-12 |
審決日 | 2010-10-25 |
出願番号 | 特願2002-144206(P2002-144206) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 谷垣 圭二 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
石川 太郎 郡山 順 |
発明の名称 | 電荷増幅型固体撮像素子を備えた電子内視鏡装置 |
代理人 | 坪内 伸 |
代理人 | 小倉 洋樹 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 松浦 孝 |
代理人 | 野中 剛 |