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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N |
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管理番号 | 1229157 |
審判番号 | 不服2008-4592 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-27 |
確定日 | 2010-12-24 |
事件の表示 | 特願2002-93691「家庭園芸用植物病害虫の防除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 7日出願公開、特開2003-286103〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成14年3月29日の出願であって、平成19年10月12日付けで拒絶理由が通知され、同年12月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年1月25日付けで拒絶査定がされたところ、同年2月27日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年5月21日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成22年8月4日付けで審尋が通知されたところ、同年10月1日に回答書が提出されたものである。 第2 平成20年2月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成20年2月27日付けの手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正 平成20年2月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、請求項2?5を削除すると共に、本件補正前の請求項1の 「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺虫剤および/またはトリアジメホン、トリホリン、チオファネートメチルおよびジメチリモールから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺菌剤を有効成分とする水性溶液を充填したアンプルの注液部を家庭園芸用植物の株元の土壌中に差し込み、水性溶液を徐々に土壌に浸透させることを特徴とする家庭園芸用植物病害虫の防除方法。」を、 「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする水性溶液を充填したアンプルの注液部を家庭園芸用植物の株元の土壌中に差し込み、水性溶液を徐々に土壌に浸透させる家庭園芸用植物病害虫の防除方法であって、前記土壌浸透性殺虫剤の土壌中への浸透量が0.001?1gであり、前記アンプルは注液部の先端開口径が1?5mmで、かつ浸透性殺虫剤0.001?1gを水10?100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたものであることを特徴とする家庭園芸用植物病害虫の防除方法。」 とする補正を含むものである。 2 補正の適否 (1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について 請求項1についての補正は、 (i)補正前の請求項1における「有効成分」の選択肢から、「トリアジメホン、トリホリン、チオファネートメチルおよびジメチリモールから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺菌剤」を削除して、「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺虫剤」に限定し、 (ii)補正前の請求項1における「徐々に土壌に浸透させる」際の土壌中への浸透量を、「0.001?1g」と限定し、かつ、 (iii)補正前の請求項1における「水性溶液を充填したアンプル」を、「アンプルは注液部の先端開口径が1?5mmで、かつ浸透性殺虫剤0.001?1gを水10?100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたもの」と限定する、 ものであるところ、かかる補正は、願書に最初に添付された明細書の記載からみて新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。 また、上記請求項1についての補正(i)?(iii)は、いずれも請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもので、特許請求の範囲を減縮するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、補正前の請求項2?5を削除する補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件について そこで、本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。 ア 刊行物及びその記載事項 (ア)この出願の出願前に頒布された刊行物である実公昭50-26666号公報(以下、「刊行物1」という。原査定における引用文献1に同じ。)には、以下の事項が記載されている。 1a「アンプル主体と該アンプル主体に連通する細管部とを有する農薬又は肥料等が入れられたアンプルと、前記細管部の先端に嵌装されたキヤツプとを具え、前記キヤツプの先端には細孔があけられるようになつていることを特徴とする農薬肥料等の供給用アンプル。」(実用新案登録請求の範囲) 1b「植物はミネラル、肥料、或いは成長ホルモン等を常に少量ずつ連続して長期間必要とするものである。然るに現在行われている方法は単にこれらを直接又は水液として土壌に撒布しておくに止まるため特に粘土質のような土壌では植物の根から吸収される以前に雨水又は散水によつて大部分が流出し去るか或いは吸収不能の固形状態として残留する場合が多い。又更に肥料その他の微量要素以外に一定量を吸収させる必要のある吸収殺虫剤、殺菌剤のようなものでも同じ条件である。」(1頁左欄16?25行) 1c「今その構造を図面に示す実施例について説明すれば液状の農薬等の薬剤又は肥料等が入れられたアンプルはアンプル主体1と、このアンプル主体1に連通し一端が開放された細管部2とを有し、この細管部2の開放端部にはキヤツプ3が嵌装されており、このキヤツプ3の先端には細孔4が使用の際にあけられるようになつている。 使用の際にはキヤツプ3の細孔4を適宜な方法であけて、植物の根部附近の土壌中にキヤツプ部を下にしてつきさしておくと中の薬剤又は肥料はキヤツプ先端の細孔から極めて少量ずつ徐々に流出して根部に供給され、一本のアンプルで一週間乃至一ヶ月の間連続して供給することができる。」(1頁左欄30行?右欄6行) 1d「本考案は以上のようにアンプルの細管先端の細孔があけられたキヤツプを下にして土壌中に倒立させるものであるからアンプル細管先端の切口に凹凸があつてもキヤツプの細孔によって一定に流量が制御され少量ずつ連続的に供給し従つて過剰の肥料や薬剤によつて植物を損傷することなく又植物に吸収されないで損失する量を少なくすることができしかも実施に何等の手数を要しない。」(1頁右欄18?25行) 1e「 」(2頁第1図) (イ)また、原査定でも引用された周知例である特開平7-112901号公報(以下、「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 2a「果菜類及び花き類の害虫を防除するに、該果菜類の苗植え付け時及び/又は植え付け後、植穴個所及び/又は該近接周辺部に、又、該花き類の株元及び/又は該近接周辺部に、浸透性殺虫化合物の液状製剤を施用することを特徴とする殺虫方法。」(【請求項1】) 2b「ニトロイミノ化合物は、従前の有機リン系並びにカーバメート系殺虫剤に比し、極めて低薬量で、的確に作用する殺虫性化合物である。」(段落【0002】) 2c「本発明の殺虫方法に提供される式(I)化合物の具体例としては、下記の化合物を例示することができる。 1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-N-ニトロ-イミダゾリジン-2-イリデンアミン、N-シアノ-N-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-N′-メチルアセトアミジン、1-〔N-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-N-エチルアミノ〕-1-メチルアミノ-2-ニトロエチレン、・・・3-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-1メチル-2-ニトログアニジン、・・・等。」(段落【0009】?【0011】) 2d「本発明の殺虫方法を実施するに際しては、例えば通常土壌消毒のために用いられる土壌消毒器、例えば手動式土壌消毒器(共立製HF-4X)等を用いて、施用することができる。またそれに準ずる土壌処理器具を用いることができる。本発明の殺虫方法で使用される殺虫化合物の製剤形態としては、エマルジョン、懸濁剤、乳濁剤、乳懸濁剤、乳剤等の液状製剤を挙げることができる。これらの製剤は、通常、公知の方法で提供することができる。斯る方法は例えば、活性化合物を液体希釈剤、界面活性剤を用いて混合することによって行なわれ、また水を用いる場合には、有機溶媒は補助溶媒として用いられる。」(段落【0013】) 2e「生物試験:- 供試化合物 No.1:1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-N-ニトロ-イミダゾリジン-2-イリデンアミン No.2:N-シアノ-N-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-N′-メチルアセトアミジン No.3:1-〔N-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-N-エチルアミノ〕-1-メチルアミノ-2-ニトロエチレン No.4:1-(2-クロロ-5-チアゾリルメチル)-3,5-ジメチル-2-ニトロイミノ-ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン 試験例1 アブラムシ類に対する防除試験 薬剤調製 常法に従って、各供試化合物の20%懸濁剤を調製し、所定薬量を供した。 作物 キュウリ(品種:四葉) 1区5株 4連制 ナス(品種:千両2号) 1区10株 2連制 移植42日後の生育期より試験を始めた。 処理方法 移植42日後に、手動式土壌消毒器を用い、根から約15cm離れた所から、根の中心に向かい斜めに深さ約15cmに所定量の薬剤(4ml)を灌注した。所定の調査日(処理後日数)に対象害虫数を調査した。キュウリでは各区の中央3株について、ナスでは、各区の中央6株について、夫々寄生するアブラムシ数を調査し、無処理区との比較で防除価を算出した。尚、キュウリに於ける処理後35日では、株の上位15葉を調査した。比較対照としては、各化合物の1%粒剤を上記処理時に試験植物の根元に散粒した。上記試験結果を第1表?第4表に示す。」(段落【0017】?【0018】) 2f「第1表 」(段落【0019】) イ 刊行物1に記載された発明 刊行物1には、「農薬肥料等の供給用アンプル」(摘示1a)に関し記載されており、該アンプルは、「液状の農薬等の薬剤・・・が入れられ」、摘示1eの図に示されるように、「アンプル主体1と、このアンプル主体1に連通し一端が開放された細管部2とを有し、この細管部2の開放端部にはキヤツプ3が嵌装されており、このキヤツプ3の先端には細孔4が使用の際にあけられるようになつて」いて、「使用の際にはキヤツプ3の細孔4を適宜な方法であけて、植物の根部附近の土壌中にキヤツプ部を下にしてつきさしておくと中の薬剤・・・はキヤツプ先端の細孔から極めて少量ずつ徐々に流出して根部に供給され、一本のアンプルで一週間乃至一ヶ月の間連続して供給することができる」(摘示1c)ものであるから、該アンプルの使用方法について記載されているといえる。そして、該「農薬等」の薬剤としては、「一定量を吸収させる必要のある吸収殺虫剤」(摘示1b)が挙げられている。 そうすると、刊行物1には、 「液状の吸収殺虫剤の薬剤が入れられたアンプルの細管部の開放端部に嵌装された先端に細孔があけられたキヤツプ部を下にして植物の根部附近の土壌中につきさし、液状の吸収殺虫剤を徐々に流出させる該アンプルの使用方法。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。 ウ 対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「吸収殺虫剤」は、土壌中に流出して根部に供給される(摘示1c)ものであり、引用発明の「流出」は、本願補正発明の「浸透」に相当するから、引用発明の「吸収殺虫剤」は、本願補正発明の「土壌浸透性殺虫剤」に相当し、引用発明の「液状の吸収殺虫剤の薬剤」も本願補正発明の「土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする水性溶液」も共に、土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする液であるといえる。 また、引用発明の「入れられたアンプル」は、本願補正発明の「充填したアンプル」に相当し、引用発明の「細管部の開放端部に嵌装された先端に細孔があけられたキヤツプ部」は、その先端の細孔から液を流出させることから、本願補正発明の「注液部」に相当する。なお、請求人は、平成20年5月21日付けの審判請求書の手続補正書の「III.4.」において、本願補正発明は「使用時にキャップは不要である。」と、キャップ部の存在が相違点である旨主張しているが、本願補正発明の「注液部」は、「液を注ぐ部分」と解され、キャップの有無について何ら特定しているとはいえないから、引用発明に「液を注ぐ部分」が存在すれば十分なのであり、キャップ部が存在するか否かは相違点とはならない。 次に、引用発明の「下にして」とは、アンプルの細管部の開放端部に嵌装されたキャップ部をアンプルの上部と見ての「下にして」であり、他方、本願補正発明においても、アンプルの注液部は、アンプルの細管部の上部にあり、この出願の願書に添付された図2からみて、土壌中に差し込む際には、該上部を下にしていることが明らかであり、また、引用発明の「植物の根部附近」は、本願補正発明の「植物の株元」に相当するから、引用発明の「下にして植物の根部附近の土壌中につきさし」は、本願補正発明の「植物の株元の土壌中に差し込み」に相当する。 そして、引用発明の「液状の吸収殺虫剤を徐々に流出させる該アンプルの使用方法」とは、殺虫剤を用いて、植物害虫を防除する方法ということもできる。他方、本願補正発明の「植物病害虫の防除」とは、「植物の病気又は害虫の防除」と解されるところ、使用する薬剤が「土壌浸透性殺虫剤」に限定されていることを勘案すれば、実質的に「害虫の防除」を意味すると解される。よって、引用発明の「液状の吸収殺虫剤を徐々に流出させる該アンプルの使用方法」は、本願補正発明の「液を徐々に土壌に浸透させる・・・植物・・害虫の防除方法」に相当する。 そうすると、両者は、 「土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする液を充填したアンプルの注液部を植物の株元の土壌中に差し込み、液を徐々に土壌に浸透させる植物害虫の防除方法。」 である点で一致し、以下の点で相違するといえる。 A 土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする液が、本願補正発明においては、「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種」の「水性溶液」であるのに対し、引用発明においては、殺虫剤の種類及び水性溶液であるか否かの特定がない点 B 植物が、本願補正発明においては、「家庭園芸用」であるのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点 C 本願補正発明においては、「前記土壌浸透性殺虫剤の土壌中への浸透量が0.001?1gであり、前記アンプルは注液部の先端開口径が1?5mmで、かつ浸透性殺虫剤0.001?1gを水10?100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたものである」と特定されているのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点 (以下、それぞれ「相違点A」?「相違点C」という。) エ 判断 (ア)相違点Aについて 本願補正発明において特定された土壌浸透性殺虫剤は、周知例1の摘示2a?2fに記載されているように、花き類の株元や近接周辺部の土壌に施用する浸透性殺虫化合物として周知のものである(例えば、摘示2eのNo.1?No.3の化合物は、それぞれ、「イミダクロプリド」、「アセタミプリド」、「ニテンピラム」であり、また、摘示2cの「3-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-1メチル-2-ニトログアニジン」は、「クロチアニジン」である。)から、上記周知の土壌浸透性殺虫剤に特定することは、当業者にとって格別の創意を要することとはいえない。 なお、本願補正発明の土壌浸透性殺虫剤については、本件補正後の明細書の段落【0007】に、「土壌浸透性のもので家庭園芸用・・・の防除に有効なものであればとくに限定されず、市販されているものを用いることができる。」と記載されているにとどまり、特定の目的のために格別選択したようなものであるとはいえない。 また、液状の吸収殺虫剤の薬剤を製造するために、殺虫剤を適宜水に希釈した溶液、懸濁剤(フロアブル剤)等の形態とすることも、当業者に周知(周知例1の摘示2d参照)である。 したがって、引用発明において、液状の吸収殺虫剤の薬剤を、「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種」の「水性溶液」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (イ)相違点Bについて 家庭園芸用の植物に液体肥料等を簡便に供給するために、アンプル容器で使用することは周知であって(例えば、周知例2:実願平1-16941号(実開平2-107929号)のマイクロフィルムの1頁16行?2頁1行、周知例3:実願平4-64802号(実開平6-26416号)のCD-ROMの段落【0002】参照。)、アンプルは、家庭園芸用のような小規模の栽培に使用することが通常であるといえる。また、刊行物1には、吸収殺虫剤等の農薬の他、周知例2及び3と同じく肥料にも使用できることが記載されているから、吸収殺虫剤を供給する引用発明においても、植物は実質的に家庭園芸用を対象としているといえるか、又は、そうであるとまではいえなくても、植物を家庭園芸用と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。 よって、相違点Bは実質的な相違点ではないか、又は、引用発明の植物を、家庭園芸用と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (ウ)相違点Cについて 本願補正発明は、土壌中への浸透量と、アンプルの注液部の先端開口径及びアンプルに充填する殺虫剤と水の量を特定したものである。 しかし、土壌中への浸透量とは、本件補正後の明細書の段落【0008】の記載からみて、1株当たりの殺虫剤の施用量であるといえるところ、殺虫剤の適切な施用量は、殺虫剤の種類によって異なり、また、殺虫剤の種類ごとに、殺虫効果を十分に有し、かつ、過剰に使用し過ぎて薬害効果が生じないように、当業者が適宜設定し得るものであるから、「0.001?1g」という広い範囲を設定することは当業者にとって格別困難なこととはいえない。 また、アンプルの注液部の先端開口径については、刊行物1に、「キヤツプ先端の細孔から極めて少量ずつ徐々に流出して根部に供給され、一本のアンプルで一週間乃至一ヶ月の間連続して供給することができる」(摘示1c)と記載され、また、「キヤツプの細孔によって一定に流量が制御され少量ずつ連続的に供給」(摘示1d)されると記載されているから、引用発明においても、細孔の大きさによって流量を制御することが記載されているといえるので、細孔の大きさ、つまり、先端開口径を特定の範囲に設定することは当業者が適宜なし得ることである。 さらに、アンプルに充填する殺虫剤と水の量については、上記(ア)で述べたように、液状の吸収殺虫剤の薬剤を製造するために、殺虫剤を適宜水に希釈した溶液、懸濁剤(フロアブル剤)等の形態とすることも、当業者に周知(周知例1の摘示2d参照)であるところ、所望の殺虫剤量が「少量ずつ連続的に供給」(摘示1d)されるように、溶液の濃度を調整し、所望の殺虫剤と水の量とすることも当業者が適宜なし得ることである。 したがって、引用発明において、「前記土壌浸透性殺虫剤の土壌中への浸透量が0.001?1gであり、前記アンプルは注液部の先端開口径が1?5mmで、かつ浸透性殺虫剤0.001?1gを水10?100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたものである」とすることは、いずれも当業者が適宜設定し得ることである。 (エ)本願補正発明の効果について 本願補正発明の効果は、本件補正後の明細書の段落【0020】に記載されているように、「少ない薬量で害虫・・・の防除を持続的に行うことができるので薬剤の散布懈怠を生じることがなく、しかも人体が薬剤に直接触れないので健康上の問題がなく、簡単な作業で的確に家庭園芸用植物の株元に殺虫剤・・・を施用できる」という効果を奏するものである。 しかし、刊行物1には、「キヤツプの細孔によって一定に流量が制御され少量ずつ連続的に供給し従つて過剰の肥料や薬剤によつて植物を損傷することなく又植物に吸収されないで損失する量を少なくすることができしかも実施に何等の手数を要しない」(摘示1d)と記載されているから、上記本願補正発明の効果は、いずれも、刊行物1の該記載から、当業者が予測し得る程度のことである。 また、本願補正発明の殺虫剤の種類の特定については、本件補正後の明細書の【0007】に、「土壌浸透性のもので家庭園芸用・・・の防除に有効なものであればとくに限定されず、市販されているものを用いることができる。」と記載されているのみであるから、殺虫剤を特定の物質に選択したことによる効果が、格別顕著なものであるとはいえない。 なお、請求人は、平成20年5月21日付けの審判請求書の手続補正書の「III.4.」において、「また、薬害がでないアンプル剤に関しては、供試薬剤として前記選択された特定の土壌浸透性殺虫剤を用いた薬害試験成績を次表に示す。(審決注:表省略)・・・上表の結果から明らかなように、市販されている殺虫剤の水性溶液のアンプル剤であっても、エチルチオメトン、ジメトエート、ベンフラカルブ、カルボスルファンのように薬害症状を呈するものがあるのに対して、本発明の請求項1で特定したアセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ニテンピラム、ジノテフランでは、全く薬害症状を示さない。」と主張する。しかしながら、上記のとおり、本件補正後の明細書には、「土壌浸透性のもので家庭園芸用・・・の防除に有効なものであればとくに限定されず、市販されているものを用いることができる。」と記載されているのみであり、薬害がでない殺虫剤の選択については、記載も示唆もされていないのであるから、薬害がでない殺虫剤を選択したとの主張は、本件補正後の明細書及び図面に基づく主張であるとはいえないから参酌することができないうえ、たとえ、参酌したとしても、周知例1の摘示2fに記載されているように、イミダクロプリド等は薬害がでないものとしても周知であるから、当業者の予測を超える効果であるともいえない。 オ まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 3 補正の却下の決定のむすび したがって、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成20年2月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?5に係る発明は、平成19年12月10日付けの手続補正により補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺虫剤および/またはトリアジメホン、トリホリン、チオファネートメチルおよびジメチリモールから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺菌剤を有効成分とする水性溶液を充填したアンプルの注液部を家庭園芸用植物の株元の土壌中に差し込み、水性溶液を徐々に土壌に浸透させることを特徴とする家庭園芸用植物病害虫の防除方法。」 2 原査定の拒絶の理由 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであるところ、引用文献1は、下記のとおりである。 記 引用文献1:実公昭50-26666号公報(上記「刊行物1」に同じ。以下同様に、「刊行物1」という。) 3 刊行物に記載された事項 刊行物1及び周知例1に記載された事項は、上記「第2 2(2)ア」に示したとおりである。 4 刊行物1に記載された発明 上記「第2 2(2)イ」で述べたとおり、刊行物1には、 「液状の吸収殺虫剤の薬剤が入れられたアンプルの細管部の開放端部に嵌装された先端に細孔があけられたキヤツプ部を下にして植物の根部附近の土壌中につきさし、液状の吸収殺虫剤を徐々に流出させる該アンプルの使用方法。」 の発明(以下同様に、「引用発明」という。)が記載されているということができる。 5 本願発明と引用発明との対比 本願発明は、本願補正発明において、「有効成分」の選択肢に、「トリアジメホン、トリホリン、チオファネートメチルおよびジメチリモールから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺菌剤」が追加され、「土壌中への浸透量が0.001?1g」及び「アンプルは注液部の先端開口径が1?5mmで、かつ浸透性殺虫剤0.001?1gを水10?100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたもの」との特定がないものである。 但し、「有効成分」の選択肢に、「トリアジメホン、トリホリン、チオファネートメチルおよびジメチリモールから選択される少なくとも1種の土壌浸透性殺菌剤」を含むことにより、本願発明は、「・・・土壌浸透性殺虫剤および/または・・・土壌浸透性殺菌剤を有効成分とする」となっているが、殺虫剤と殺菌剤のいずれか一方である場合を包含するので、引用発明の「吸収殺虫剤」が、本願補正発明の「土壌浸透性殺虫剤」に相当する点については、上記「第2 2(2)ウ」と同様である。 そこで、上記「第2 2(2)ウ」で述べた点を踏まえて、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、 「土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする液を充填したアンプルの注液部を植物の株元の土壌中に差し込み、液を徐々に土壌に浸透させる植物害虫の防除方法。」 である点で一致し、以下の点で相違するといえる。 A’ 土壌浸透性殺虫剤を有効成分とする液が、本願発明においては「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種」の「水性溶液」であるのに対し、引用発明においては、殺虫剤の種類及び水性溶液であるか否かの特定がない点 B’ 植物が、本願発明においては、「家庭園芸用」であるのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点 (以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点A’」、「相違点B’」という。) 6 判断 (1)相違点A’について 相違点A’は、上記「第2 2(2)ウ」の相違点Aと同じであるから、上記「第2 2(2)エ(ア)」で述べたのと同様の理由により、引用発明において、液状の吸収殺虫剤の薬剤を、「アセフェート、アセタミプリド、イミダクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、クロチアニジンおよびチアメトキサムから選択される少なくとも1種」の「水性溶液」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点B’について 相違点B’は、上記「第2 2(2)ウ」の相違点Bと同じであるから、上記「第2 2(2)エ(イ)」で述べたのと同様の理由により、引用発明において、相違点Bは実質的な相違点ではないか、又は、引用発明の植物を、家庭園芸用と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3)本願発明の効果について 本願発明は、本願明細書等の段落【0020】に記載されているように、「少ない薬量で害虫および病害菌の防除を持続的に行うことができるので薬剤の散布懈怠を生じることがなく、しかも人体が薬剤に直接触れないので健康上の問題がなく、簡単な作業で的確に家庭園芸用植物の株元に殺虫剤および/または殺菌剤を施用できる」という効果を奏するものである。 しかし、該効果は、本願補正発明の効果と同様であるから、「第2 2(2)エ(エ)」で述べたのと同様の理由により、当業者の予測し得る程度のことである。 7 まとめ したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことを検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-28 |
結審通知日 | 2010-10-29 |
審決日 | 2010-11-10 |
出願番号 | 特願2002-93691(P2002-93691) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 櫛引 智子 |
特許庁審判長 |
西川 和子 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 松本 直子 |
発明の名称 | 家庭園芸用植物病害虫の防除方法 |
代理人 | 林 篤史 |
代理人 | 大家 邦久 |