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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K |
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管理番号 | 1229592 |
審判番号 | 不服2007-7063 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-03-08 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2001-137223「シーラー用水性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年2月6日出願公開、特開2002-38130〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成13年5月8日(優先権主張 平成12年5月15日)の出願であって、平成19年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年4月9日付けで手続補正がなされ、その後、平成21年6月11日付けで審尋が発せられ、これに対し、平成21年8月21日に回答書の提出がなされ、その後、平成22年7月21日付けで当審による拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成22年9月27日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。 そして、本願請求項1?5に係る発明は、平成17年4月18日付けの手続補正、平成19年4月9日付けの手続補正、及び平成22年9月27日付けの手続補正により補正された明細書(以下、当該補正後の明細書を「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 鋼板の防水・防錆に用いられ、水性樹脂を主成分として粘度調整剤により粘度が5,000?100,000mPa・sに調整されたシーラー用水性樹脂組成物であって、 前記水性樹脂が、樹脂固形分20?40重量%の水分散状態で1000mPa・s以上で且つ12000mPa・s以下の粘度を有し、構成元素として塩素を含まないポリオレフィンからなる水性エマルジョンポリオレフィン樹脂であり、 前記シーラー用水性樹脂組成物には水溶性マグネシウム化合物が0.1?10重量%の割合で添加されると共に、 前記粘度調整剤がポリエチレングリコールからなる有機系増粘剤であることを特徴とするシーラー用水性樹脂組成物。」 2.当審による拒絶の理由 平成22年7月21日付けの当審による拒絶の理由は、理由2として、『この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由を含むものであって、当該「刊行物1?7」として、次の引用文献を提示するものである。 刊行物1:特開平7-166099号公報 刊行物2:特開平10-95922号公報 刊行物3:特開平5-59347号公報 刊行物4:特開平5-86325号公報 刊行物5:特開平4-173877号公報 刊行物6:特公平5-12379号公報 刊行物7:特開平7-62268号公報 3.刊行物1?7の記載事項 刊行物1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1 「塗膜成分となるポリマーを水に分散してなる水性エマルジョン系塗料において、焼付温度で融解する粉末状熱可塑性樹脂を配合したことを特徴とする水性エマルジョン系塗料。」 摘記1b:段落0002?0003及び0009 「ポリ塩化ビニルは、焼却時に塩化水素を発生するので、環境面で問題がある。…このためポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わる塗料が要望され、これに沿う塗料として水を分散媒とした水性エマルジョン系塗料が注目されている。…このようなポリマーとしては特に制限されず、水性エマルジョン系塗料の塗膜成分として使用可能なポリマーが使用でき、例えばポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴムなどのいずれでも良い。」 摘記1c:段落0013 「本発明の水性エマルジョン系塗料には、上記成分以外に必要に応じて充填剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、湿潤剤などを配合することができる。」 摘記1d:段落0014?0015 「充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、珪藻土、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカなどが挙げられる…充填剤の配合量は樹脂固形分100部に対して、50?300部、特に150?250部の範囲が好ましい。」 摘記1e:段落0017 「増粘剤は、充填剤の分散を助けて沈降を防ぎ、塗料の安定を良くすると共に、適度の粘度調製に仕上げ、スプレー性とチクソ性の両者のバランスを得るためのもので、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなどの1種を単独で又は2種以上を併用して常用量で用いることができる。」 摘記1f:段落0020 「本発明の水性エマルジョン系塗料は、自動車のタイヤハウス、床裏、フロントエプロンなどの部分へのアンダーコート用塗料、更にはシールの合わせ目のシーリング材などとしても利用可能である。」 摘記1g:段落0026 「粘度(cps)…50,000」 刊行物2には、次の記載がある。 摘記2a:請求項1及び7 「水性エマルジョンと、粉粒状充填剤…を含む…水性充填剤である…水性エマルジョン組成物。」 摘記2b:段落0002 「水性エマルジョンをバインダーとし、無機系微粉末などの体質顔料、着色顔料、顔料分散剤、増粘剤などのシックナー、可塑剤などを添加した組成物は、水性塗料、水性接着剤や水性充填剤として有用である。」 摘記2c:段落0003 「組成物の粘度の増大、チキソトロピック粘性の付与、配合した無機系微粉末の沈降の防止、適当な塗装粘性の付与、保水性の保持、皮張りの防止などのためには、シックナーと称される水溶性ポリマーや水溶性増粘剤が使用される。」 摘記2d:段落0013 「水性エマルジョンは用途に応じて選択できるが、アクリル系重合体エマルジョン、スチレン系重合体エマルジョン、ビニルエステル系重合体エマルジョン(特に酢酸ビニル系重合体エマルジョン)が一般的に使用される。」 摘記2e:段落0015 「水性エマルジョンの固形分は、乾燥性の点からは、できるだけ高いのが好ましく、通常、50重量%以上(例えば、50?70重量%程度)、好ましくは50?65重量%程度である。また、水性エマルジョンの粘度は、例えば、50cps?数万cps(好ましくは100cps?数万cps)程度の範囲から選択できる。」 摘記2f:段落0017 「粉粒状充填剤としては、…炭酸マグネシウム…などが使用できる。」 摘記2g:段落0026 「前記シックナーとしては、セルロース系増粘剤[ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)など]、天然のガム類[…アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム…)など]、…ポリエチレンオキシド系増粘剤…などが例示できる。」 摘記2h:段落0040 「実施例3…アクリル系共重合体エマルジョンB(固形分62重量%、粘度5,300cps…)…を用い、…水性充填剤を調製した。」 刊行物3には、次の記載がある。 摘記3a:段落0004及び0007 「塩化ビニルプラスチゾルシーリング材硬化物は、…場合によっては錆の原因となる。」 摘記3b:段落0043、0045及び0054 「本発明で用いられる(d)フィラーは、…炭酸マグネシウム…などが挙げられる。…(d)フィラーの組成物に対する配合の割合は、組成物100重量部中5?50重量部、好ましくは10?30重量部である。…本発明方法は、上記高強度シーリング材組成物を用いて自動車外板部などの鋼板接合部をシールする工法であり、これによって自動車外板部などの外観が極めて優れたものとなる。」 刊行物4には、次の記載がある。 摘記4a:段落0002及び0004 「車体構造上防錆処理を施すことが難しい内外板の各合せ目等には、雨水等からの水分や湿気の侵入による発錆防止を目的としてボディシーラーがコーティングされており、…塩化ビニルゾルは安価で、そこそこの物性を有しているものの…発錆防止性…が得られないという欠点を有している。」 摘記4b:段落0042及び0044 「充填剤の具体例としては、…炭酸マグネシウム…が挙げられる。これらの充填剤は、反応性珪素基を有するオキシアルキレン系重合体(A)と共重合体(B)との合計量100重量部に対して3?300重量部程度使用する。…このようにして得られた本発明のコーティング材は、特に車両用の防錆、防振を目的としたアンダーボディコートやボディシーラーとして有用であり、近年の自動車業界の要請に適合している。」 刊行物5には、次の記載がある。 摘記5a:第4頁右上欄第18行?左下欄第7行 「好ましい金属塩としては、フッ化セリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛である。上述した(b)(ii)金属塩の添加により防錆性が向上するが、…特にアルミニウムがリッチな表面の鋼板において腐食の進行を効果的に抑制する役目を果たすと思われる。上述の各イオンから形成される金属塩の配合は、塗料固形分100重量部に対して0.5?20重量部とする。」 摘記5b:第7頁右上欄第1行?第9頁第2表 「第1表に示す各成分を第2表に示す樹脂及び溶剤と混合し、各塗料1?13を調製した。なお、第1表及び第2表の数字はともに重量部を示す。… 第1表 塗料 No. … 塗料2 … クロム酸ストロンチウム … 22 … クロム酸カルシウム … 22 … 酸化亜鉛 … 6 … 炭酸マグネシウム … 6 … 長石 … 22 … 湿式シリカ … 1 … ポリテトラフルオロエチレン粉末 … 1 … 微粉末クレー … 10 … 酸化チタン … 10 … 第2表 塗料 No. … 塗料2 … エポキシウレタン樹脂 … 225 … メチル化メラミン樹脂 …12.5… キシレン … 83 … セロソルブアセテート … 49 … ブタノール … 33 」 刊行物6には、次の記載がある。 摘記6a:第2欄第10?12行 「ハロゲンの残存により金属を含む複合製品では錆の発生につながるなど多くの欠点を有していた。」 摘記6b:第2頁〔表1〕 「ケミパールS-100…※2アイオノマーの水性デイスパージョン、アイオノマー濃度26%」 刊行物7には、次の記載がある。 摘記7a:請求項1 「(A)…アクリル系共重合体エマルジョン、(B)…コロイダルシリカ及び(C)防錆剤を必須成分とし、(C)成分の量が(A)成分と(B)成分との和100重量部に対して40重量部以下である…プライマー塗装鋼板用プライマー組成物。」 摘記7b:段落0022 「上記防錆剤(C)の配合量は、…好ましくは5?30重量部の範囲である。」 摘記7c:段落0025 「耐食性、上塗塗料密着性等を向上させるためにウレタン樹脂エマルジョン、エチレン系アイオノマー樹脂エマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン等を併用することができる。」 4.刊行物1に記載された発明 刊行物1の「本発明の水性エマルジョン系塗料は、自動車のタイヤハウス…などの部分へのアンダーコート用塗料、更にはシールの合わせ目のシーリング材などとしても利用可能」との記載(摘記1f)、「塗膜成分となるポリマーを水に分散してなる水性エマルジョン系塗料」との記載(摘記1a)、「粘度(cps)…50,000」との記載(摘記1g)、「環境面で問題がある。…このためポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わる塗料が要望され、…水性エマルジョン系塗料の塗膜成分として使用可能なポリマーが使用でき、例えばポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴムなど」との記載(摘記1b)、「本発明の水性エマルジョン系塗料には、…充填剤、…増粘剤、…を配合」との記載(摘記1c)、「充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、珪藻土、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカなどが挙げられる…充填剤の配合量は樹脂固形分100部に対して、50?300部」との記載(摘記1d)、及び「増粘剤は、…適度の粘度調製に仕上げ、スプレー性とチクソ性の両者のバランスを得るためのもので、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなど…用いることができる」との記載(摘記1e)、並びに摘記1eの「粘度調製」は「粘度調整」の明らかな誤記と認められることからみて、刊行物1には、 『自動車のタイヤハウスなどの部分へのアンダーコート用塗料、更にはシールの合わせ目のシーリング材として利用され、ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わる水性エマルジョン系塗料の塗膜成分として使用可能なポリマーと、適度の粘度調整に仕上げるための増粘剤を配合し、粘度50,000cps程度にされた水性エマルジョン系塗料であって、前記塗膜成分として使用可能なポリマーが、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴムなどであり、前記水性エマルジョン系塗料には炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、珪藻土、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカなどの充填剤が樹脂固形分100部に対して50?300部配合されると共に、前記増粘剤がメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなどである水性エマルジョン系塗料。』に関する発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 5.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「自動車のタイヤハウスなどの部分へのアンダーコート用塗料、更にはシールの合わせ目のシーリング材として利用」は、自動車のタイヤハウスなどの部分が一般的に「鋼板」で形成されているのが普通であること、及びそのアンダーコート用塗料ないしシーリング材の利用目的には防水・防錆が含まれるのが普通であることから、本願発明の「鋼板の防水・防錆に用いられ」に相当し、 引用発明の「ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わる水性エマルジョン系塗料の塗膜成分として使用可能なポリマー」は、水性の樹脂であることが明らかであることから、本願発明の「水性樹脂」に相当し、 引用発明の「適度の粘度調整に仕上げるための増粘剤」は、本願発明の「粘度調整剤」に相当し、 引用発明の「粘度50,000cps程度」は、cps(センチポアズ)とmPa・s(ミリパスカル/秒)の単位換算が、1cps=1mPa・sであることから、本願発明の「粘度が5,000?100,000mPa・s」の数値範囲内にあり、 引用発明の「水性エマルジョン系塗料」は、「シールの合わせ目のシーリング材」としても利用されるものであって、水性の樹脂を成分として含むものであるから、本願発明の「シーラー用水性樹脂組成物」に相当し、 引用発明の充填剤のうち「炭酸マグネシウム」は、本願明細書の段落0029の「上記水溶性マグネシウム化合物としては、炭酸マグネシウム…等が挙げられ」との記載からみて、本願発明の「水溶性マグネシウム化合物」に相当し、 引用発明の「メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなど」の「増粘剤」は、何れも有機化合物からなる増粘剤であることから、本願発明の「有機系増粘剤」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明は、『鋼板の防水・防錆に用いられ、水性樹脂を主成分として粘度調整剤により粘度が5,000?100,000mPa・sに調整されたシーラー用水性樹脂組成物であって、前記シーラー用水性樹脂組成物には水溶性マグネシウム化合物が添加されると共に、前記粘度調整剤が有機系増粘剤であるシーラー用水性樹脂組成物。』に関する発明である点において一致し、 (α)水性樹脂が、本願発明においては「樹脂固形分20?40重量%の水分散状態で1000mPa・s以上の粘度を有しかつ構成元素として塩素を含まないポリオレフィンからなる水性エマルジョンポリオレフィン樹脂」であるのに対して、引用発明においては、「ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わるポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴムなどのポリマー」である点、 (β)水溶性マグネシウム化合物の配合量が、本願発明においては「シーラー用水性樹脂組成物」に対して「0.1?10重量%の割合」であるのに対して、引用発明においては「樹脂固形分100部に対して50?300部」である点、 (γ)有機系増粘剤が、本願発明においては「ポリエチレングリコール」からなるものであるのに対して、引用発明においては「メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなど」である点、 の3つの点において相違する。 6.判断 上記相違点について検討する。 相違点(α)について、刊行物2には、水性充填剤に用いる水性エマルジョンとして「ビニルエステル系重合体エマルジョン(特に酢酸ビニル系重合体エマルジョン)」が一般的に使用されることが記載され(摘記2d)、その実施例3においては、「樹脂固形分62重量%の水分散状態で5,300cpsの粘度」を有する水性エマルジョン樹脂を水性充填剤に用いた場合が記載されており(摘記2h)、刊行物6には、ハロゲンの残存により金属を含む複合製品で錆が発生するという欠点を解消するための発明において(摘記6a)、「ケミパールS-100」というアイオノマー濃度26%の水性デイスパージョンを用いることが記載されている(摘記6b)。 すなわち、本願明細書の段落0092で例示されている「ケミパールV200酢酸ビニル系共重合タイプ」と同様の「酢酸ビニル系重合体エマルジョン」を水性充填剤に使用すること、並びに、水性充填剤に使用する水性樹脂の粘度を5,300cps程度にすることは、刊行物2に記載されるように知られており、本願明細書の段落0089で例示されている「ケミパールS100アイオノマータイプ」と合致する水性樹脂を金属の防錆性が求められる製品において使用することも、刊行物6に記載されるように知られている。 そして、そもそも、引用発明の「ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わる…ポリマー」については、摘記1bに示されるように、ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わる水性のポリマーであれば、その種類は特に限定されないというものであるから、引用発明のポリマーとして、刊行物2に記載される「酢酸ビニル系重合体エマルジョン」や刊行物6に記載される「ケミパールS-100」などのような塩素を含まない本願発明と同種の水性エマルジョン樹脂を選択し、その粘度の数値範囲を最適化して、本願発明の粘度条件を満たす程度のものにすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。 次に、水性樹脂の種類を選択することの効果について検討するに、本願の出願当初明細書の段落0051の表1には、水性樹脂が「塩化ビニル」である比較例1との比較実験データが示されていたところ、この比較実験データにおいては、その比較例1のものの粘度が不明であるため、粘度を本願発明の特定の数値範囲にすることによって、格別予想外の臨界的な効果が生じ得ていることが十分に裏付けされているとはいえず、粘度の数値範囲を最適化すれば「塗装性」に優れるところとなることは当業者にとって容易に予測し得ることである。そして、その比較例1の「環境適性劣る」という欠点についても、引用発明は環境適性を考慮して「ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに代わるポリマー」を使用したものであるから、当該「環境適性」の点について格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。 相違点(β)について、引用発明の配合量は、樹脂固形分100部に対する数値範囲としての配合量であるため、例えば、その他の成分の配合量が400重量部で、炭酸カルシウム等の充填剤の配合量が50重量部(但し、充填剤に占める炭酸カルシウムの割合が1?100重量%の範囲)である場合には、引用発明の配合量の数値範囲が本願発明の数値範囲と重複し、この点について差異がない蓋然性が残されている。 また、刊行物5には、「好ましい金属塩としては…炭酸マグネシウム…である。上述した(b)(ii)金属塩の添加により防錆性が向上する…上述の各イオンから形成される金属塩の配合は、塗料固形分100重量部に対して0.5?20重量部とする。」との記載があり(摘記5a)、「炭酸マグネシウム」を6重量部含む第1表に示す各成分(総計100重量部)を、第2表に示す樹脂(総計237.5重量部)及び溶剤(総計165重量部)と混合して、調製した「塗料2」の具体例が記載されており(摘記5b)、この「塗料2」の組成物全体に占める「炭酸マグネシウム」の量を計算すると1.19重量%となる。 してみると、防錆性を向上するための炭酸マグネシウムの配合量を、本願発明の「0.1?10重量%」の範囲に設定することは、刊行物5に記載されるように知られており、なおかつ、一般に添加剤の配合量の最適化は当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内であるから、引用発明の炭酸マグネシウムの配合量を、本願発明の「0.1?10重量%の割合」という数値範囲の範囲内にすることに格別の困難性はない。 また、炭酸マグネシウムを組成物に配合すれば、当該組成物の防錆性が向上することは、摘記5aに記載されるように知られているから、本願発明に格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。 相違点(γ)について、刊行物2には、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース系増粘剤と同様に「ポリエチレンオキシド系増粘剤」を用いることができることが記載されている(摘記2g)。 この点に関して、平成22年9月27日付けの意見書において、審判請求人は、『なお、ポリエチレングリコールは、エチレングリコールが重合した構造をもつ高分子化合物(ポリエーテル)であり、ポリエチレンオキシドも基本的に同じ構造を有する化合物であるが、ポリエチレングリコールは分子量50,000g/mol以下のエチレングリコールの重合体を、一方、ポリエチレンオキシドはより高分子量の付加重合体をいい、両者は融点や粘度などの物理的性質が異なり、その用途も大きく異なることから、当業者における技術常識に照らせば一般的にポリエチレンオキシド増粘剤やエチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体増粘剤などを表す「ポリエチレンオキシド系増粘剤」なる語が「ポリエチレングリコール」を含むものとは到底考えられない。』と主張している。 しかしながら、例えば、特開平5-209122号公報の第5欄第19?21行の「ポリアルキレンオキサイド、例えば約1000?約20,000の分子量を有するポリエチレングリコール」との記載、同公報の請求項8の「ポリエーテルポリオールが、約4,000?約20,000の分子量を有するポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる請求項7に記載の増粘剤組成物。」との記載、及び同公報の請求項9の「ポリエーテルポリオールが、約4,000?約12,000の分子量を有するポリエチレングリコールである請求項8に記載の増粘剤組成物。」との記載からみて、ポリエチレングリコールは、ポリアルキレンオキシドのアルキレンがエチレンである場合のポリエチレンオキシドと同義であることは明らかであり、刊行物2に記載された「ポリエチレンオキシド系増粘剤」が、分子量などの点において、本願発明の「ポリエチレングリコールからなる有機系増粘剤」と異なるものとも解せないから、上記審判請求人の主張については、これを採用できない。 そして、引用発明の「カルボキシメチルセルロース」などの増粘剤に代えて、刊行物2に記載された「ポリエチレンオキシド系増粘剤」と同義の「ポリエチレングリコールからなる有機系増粘剤」を適用してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。 また、本願明細書の段落0100の表4の結果を参照するに、有機系増粘剤としてHMC又はCMCを用いている本願発明の範囲外の実施例35、37及び38のものは、本願発明の範囲内の実施例32?34、36及び39のものに比べて、塗装性、密着性及び耐食性の評価項目において、本願発明の範囲内のものよりも勝るとも劣らない評価となっていることから、有機系増粘剤の種類を、カルボキシメチルセルロース(CMC)などから、ポリエチレングリコール(PEG)に代えることによって、当業者にとって格別予想外の顕著な効果が得られるものとも認められない。 以上総括するに、本願発明は、刊行物1?2及び5?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 7.むすび したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-21 |
結審通知日 | 2010-10-26 |
審決日 | 2010-11-09 |
出願番号 | 特願2001-137223(P2001-137223) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 栄和、守安 智 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
井上 千弥子 木村 敏康 |
発明の名称 | シーラー用水性樹脂組成物 |
代理人 | 森 義明 |