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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1229755
審判番号 不服2009-12113  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-03 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 特願2004-273692「画像形成装置および画像形成装置用プロセスカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 91128〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月21日の出願であって、平成21年1月29日付けで通知した拒絶の理由に対して、同年3月17日付けで手続補正書が提出されたが、同年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月3日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審における審尋に対する回答書が平成22年1月26日付けで提出されたものである。


2.補正の適否・本願発明
平成21年7月3日付けの手続補正は、補正前の請求項8を削除するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的としたものに該当するので、適法な補正である。

したがって、本願の請求項1?7に係る発明は、平成21年7月13日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
感光体と、
感光体上に潜像を形成する潜像形成手段と、
感光体上の潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像装置と、
感光体上のトナー像を転写材に転写する転写装置と、
感光体上に残留したトナーを除去するクリーニング装置とを備える画像形成装置であって、
該感光体が導電性支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、架橋型電荷輸送層を順次積層した構成であって、該架橋型電荷輸送層は光重合開始剤を含み電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー及び1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーを用いたラジカル重合反応によって硬化することにより形成され、該クリーニング装置はクリーニングブレードを備えており、該クリーニングブレードと感光体の当接圧が20?40g/cmであることを特徴とする画像形成装置。」


3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された、
特開2001-175016号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)、
特開2003-177646号公報(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)、
には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層が1つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有し、かつ該電子写真感光体と可撓性の帯電部材とのニップ部に導電性を有する帯電促進粒子を介在させることにより注入帯電されることを特徴とする電子写真感光体。
・・・(中略)・・・
【請求項33】請求項1?32のいずれかに記載の電子写真感光体、該電子写真感光体とニップ部を形成する可撓性の帯電部材を接触配置し電圧を印可することにより該電子写真感光体を帯電する帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を備えた電子写真装置において、該帯電部材と該電子写真感光体とのニップ部に導電性を有する帯電促進粒子を介在させて該電子写真感光体表面に注入帯電することを特徴とする電子写真装置。
・・・(中略)・・・
【請求項44】現像手段及びクリーニング手段の少なくとも一方を備えている請求項33?43のいずれかに記載の電子写真装置。」

(1b)「【0010】(A)ローラ帯電
接触帯電装置は、接触帯電部材として導電ローラ(帯電ローラ)を用いたローラ帯電方式が帯電の安定性という点で好ましく、広く用いられている。このローラ帯電の帯電機構は、前記の放電帯電系が支配的である。帯電ローラは、導電あるいは中抵抗のゴム材あるいは発泡体を用いて作製される。更に、これらを積層して所望の特性を得たものもある。
【0011】帯電ローラは、被帯電体(以下、電子写真感光体と記す)との一定の接触状態を得るために弾性を持たせているが、そのため摩擦抵抗が大きく、多くの場合、電子写真感光体に従動あるいは若干の速度差をもって駆動される。従って、直接帯電しようとしても、接触性の不足のため、従来のローラ帯電ではその帯電機構は放電帯電系が支配的である。
・・・(中略)・・・
【0015】この方式においては、帯電部材に印加する電圧にAC成分があるため、感光体表面電位との間に放電しきい値以上の電圧値が印可され、DC帯電のみで帯電を行う方式より、放電を積極的に利用した帯電法となるため、それに伴いオゾン等の放電生成物量は多くなる。
【0016】ローラ帯電方式とコロナ帯電方式を比較すると、ローラ帯電方式は微小空間の放電現象を利用した帯電であるため、放電電流が電子写真感光体表面と帯電ローラ表面の間の空間に流れており、非常に高エネルギーな電子やイオン等の粒子が電子写真感光体表面に衝突を繰り返す。また、放電している空間が狭いため、放電生成物の密度の非常に高い環境に電子写真感光体表面をさらしていることと同義となり、電子写真感光体表面の酸化反応が起こり易い。つまり、この方式では、電子写真感光体表面が受けるダメージは非常に大きく、電子写真感光体は削れ易くなり、傷も入り易くなることで、耐久性が著しく低下するという問題がある。
【0017】また、先記したようにローラ帯電においては、DC帯電方式よりAC帯電方式の方が放電を積極的に利用していることから、AC帯電方式における電子写真感光体表面が受けるダメージは大きい。更に、AC帯電方式の問題点として、AC電圧の電界による接触帯電部材と電子写真感光体の振動騒音(AC帯電音)の発生等の問題があることも確認されている。
・・・(中略)・・・
【0023】また更に、上記(A)?(C)の代表的な接触帯電プロセスの他に、特公平7-99442号公報に接触帯電部材に対し粉末を塗布する提案が開示されている。これは接触帯電装置について、帯電ムラを防止し安定した均一帯電を行うために、接触帯電部材に被帯電体面との接触面に粉末を塗布する構成であり、接触帯電部材が被帯電体に従動回転であり、スコロトロン等のコロナ帯電器と比べるとオゾン生成物の発生は格段に少なくなっているものの、帯電原理は前述のローラ帯電の場合と同様に依然として放電による帯電を主としている。特に、より安定した帯電均一性を得るためにはDC電圧にAC電圧を重畳した電圧を印加するために、放電によるオゾン生成物の発生はより多くなってしまう。よって、長期に装置を使用した場合や、クリーナーレスの画像形成装置を長期に使用した場合において、オゾン生成物による画像流れ等の弊害が現れ易い。
【0024】近年、電子写真装置より廃トナーを出さないシステムが数多く提案されている。これは、通常、トナーリサイクルプロセス(クリーナーレスシステム)と呼ばれている、例えば転写方式の画像形成装置においては、通常、転写後の電子写真感光体(像担持体)に残存する転写残トナーは、クリーナー(クリーニング装置)によって電子写真感光体面から除去されて廃トナーとなるが、クリーナーをなくし、転写後の電子写真感光体上の転写残トナーは現像装置によって「現像同時クリーニング」で電子写真感光体上から除去し、現像装置に回収・再使用する装置構成にしたトナーリサイクルプロセスの画像形成装置等が提案されている。
【0025】この現像同時クリーニングとは、転写後に電子写真感光体上に残留したトナーを次工程以降の現像時にかぶり取りバイアス(現像装置に印加する直流電圧と感光体の表面電位間の電位差であるかぶり取り電位差Vback)によって回収する方法である。この方法によれば、転写残トナーは現像装置に回収されて次工程以降に再使用されるため、廃トナーをなくし、メンテナンスに手を煩わせることも少なくすることができる。また、クリーナーレスであることでスペース面での利点も大きく、画像形成装置を大幅に小型化できるようになり環境問題以外にも大きな利点がある。
【0026】上記に記載したように接触帯電において、接触帯電部材として帯電ローラやファーブラシを用いた簡易な構成で注入帯電をすることは難しく、画像形成装置にあっては絶対的帯電不良による画像のかぶり(反転現像の場合には白地部が現像される)や帯電ムラ等が生じる。
【0027】接触帯電部材の被帯電体面との接触面に粉末を塗布し、接触帯電部材が従動で、放電帯電を主とする接触帯電装置構成では、長期に装置を使用した場合や、クリーナーレスの画像形成装置を長期に使用した場合に、オゾン生成物が蓄積することにより画像流れが生じ易くなる。また、クリーナーレスの画像形成装置においては、転写残トナーが帯電部において帯電不良を引き起こしてしまう。更に、接触帯電においては、被帯電体と帯電部材との接触が十分に行われる必要が有るため、接触に係わる次のような問題点があった。
・・・(中略)・・・
【0031】上記問題を解決するために特開平10-307454号公報に記載されている様な注入帯電装置が提案されている。すなわち、電子写真感光体の表面と接触帯電部材との相互接触面に導電性を有する帯電促進粒子を存在させた状態で、電子写真感光体の接触帯電を行わせるものであり、帯電部材は電子写真感光体に周速差を持たせて接触させて電子写真感光体の接触帯電を行わせることもできる注入帯電装置である。
【0032】この装置を構成している帯電促進粒子により、電子写真感光体と接触帯電部材との相互接触面において、接触帯電部材は密に電子写真感光体と接触して、その帯電促進粒子が電子写真感光体表面を隙間なく摺擦することで電子写真感光体に電荷を直接注入でき、高効率に電荷注入を行うことが可能となり、更に帯電部材が電子写真感光体と周速差を持つと接触頻度が高くなり、より高効率に電荷を注入できる。
【0033】よって、接触帯電部材による電子写真感光体の帯電は、帯電部材の接触不足が改善され、帯電均一性が飛躍的に向上することになり、注入帯電が支配的となり、帯電部材の性能によらず常に均一な帯電が可能となる。従って、従来のファーブラシ帯電やローラ帯電等では得られなかった高い帯電効率が得られ、印加した電圧とほぼ同等の電位を感光体に与えることができる直接帯電が可能となった。
【0034】かくして、接触帯電部材として比較的に構成が簡単なファーブラシ等を用いた場合でも、接触帯電部材に対する帯電に必要な印加バイアスは電子写真感光体に必要な電位相当の電圧で十分であり、放電現象を用いない安定かつ安全な帯電方式を実現することができる。
・・・(中略)・・・
【0044】先記、電子写真感光体の表面と接触帯電部材との相互接触面に、導電性を有する帯電促進粒子を存在させた状態で、電子写真感光体の接触帯電を行わせ、帯電部材を電子写真感光体に周速差を持たせて接触させて電子写真感光体の接触帯電を行わせることもできる注入帯電装置においては、電子写真感光体表面に対し、摺擦による機械的ストレスが過度にかかることから、電子写真感光体の耐久性に関し、以下に示す問題があることが本発明者らの検討で、最近明らかになった。
・電子写真感光体表面の磨耗量が多く、電子写真感光体の寿命が短い
・電子写真感光体表面に傷が発生し易く、画像上、傷部が表出する
【0045】また、耐久性に関し、別の問題として、先記の装置を用いた場合、耐久での電荷注入性も低下傾向にあることが判明した。これは、電子写真感光体を交換することで電荷注入性が回復してしまうことから、電子写真感光体の耐久性に起因する問題であることがわかっている。
【0046】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、繰り返し使用の耐久においても削れが少なく、傷の入りにくい表面層を有する電子写真感光体を提供することにある。
【0047】本発明の別の目的は、上記電子写真感光体と帯電手段として低印加電圧でオゾンレスが可能で、帯電均一性に優れかつ長期にわたり安定した注入帯電性を有する電子写真装置を提供することにある。」

(1c)「【0114】以下に本発明に係わる、連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物の代表例を挙げるがこれらに限定されるものではない。【0115】(略)
【0116】
(当審注:No.7のみ示す。)

【0117】?【0192】(略)
【0193】
(当審注:No .394のみ示す。)



(1d)「【0319】本発明において連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、熱、可視光や紫外線等の光、更に放射線により重合させることができる。従って、本発明における表面層の形成は、表面層用の塗工液に前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物と必要によっては重合開始剤を含有させ、塗工液を用いて形成した塗工膜に熱、光又は放射線を照射することによって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させる。なお、本発明においては、その中でも放射線によって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させることが好ましい。放射線による重合の最大の利点は重合開始剤を必要としない点であり、これにより非常に高純度な3次元表面層の作製が可能となり、良好な電子写真特性が確保される点である。また、短時間でかつ効率的な重合反応であるがゆえに生産性も高く、更には放射線の透過性の良さから、厚膜時や添加剤等の遮蔽物質が膜中に存在する際の硬化阻害の影響が非常に小さいこと等が挙げられる。但し、連鎖重合性官能基の種類や中心骨格の種類によっては重合反応が進行しにくい場合があり、その際には影響のない範囲内での重合開始剤の添加は可能である。この際、使用する放射線とは電子線及びγ線であり、特には電子線が好ましい。」

(1e)図1は次のとおり。


(1f)「【0326】(実施例1)図1は本発明に従う接触帯電手段を具備した電子写真装置の一例の概略構成の模型図である。本例の電子写真装置は、転写方式電子写真プロセス利用、プロセスカートリッジ着脱方式のレーザービームプリンタである。
【0327】(1)プリンタの全体的概略構成
1は像担持体(被帯電体)としての回転ドラム型の電子写真感光体である。本例は直径30mmの負帯電の有機電子写真感光体であり、矢印の時計方向に100mm/secのプロセススピード(周速度)をもって回転駆動される。2は電子写真感光体1に当接させた接触帯電部材としてのロール状の帯電ブラシ(ファーブラシ帯電器)であり、電子写真感光体1と3mm幅の帯電ニップ部nを形成して接し、帯電ニップ部nにおいて電子写真感光体1の回転方向と逆の矢印の時計方向に500rpmで回転駆動される。すなわち、接触帯電部材としての帯電ブラシ2は、電子写真感光体1に周速差を持って接触し電子写真感光体1を摺擦する。そして帯電バイアス印加電源S1から-700VのDC帯電バイアスが印加されていて、回転電子写真感光体1の外周面がほぼ-680Vに一様に注入帯電される。
【0328】この回転電子写真感光体1の帯電面に対してレーザーダイオード・ポリゴンミラー等を含むレーザービームスキャナ3から出力される目的の画像情報の時系列電気ディジタル画素信号に対応して強度変調されたレーザービームによる走査露光Lがなされ、回転電子写真感光体1の周面に対して目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。その静電潜像は、本例の場合は磁性一成分絶縁トナー(ネガトナー)tを用いた反転現象装置4によりトナー像として現像される。
・・・(中略)・・・
【0332】一方、不図示の供給部から記録媒体としての転写材Pが供給されて、回転電子写真感光体1と、これに所定の押圧力で当接させた接触転写手段としての、中抵抗の転写ローラ5との圧接ニップ部(転写部)bに所定のタイミングにて導入される。転写ローラ5には、転写バイアス印加電源S3から所定の転写バイアス電圧が印加される。本例では転写ローラ5として抵抗値5×10^(8)Ωのものを用い、+2000VのDC電圧を印加して転写を行った。
【0333】転写部bに導入された転写材Pは、この転写部bを挟持搬送されて、その表面側に回転電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー画像が順次に静電気力と押し圧力にて転写されていく。トナー画像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の面から分離されて熱定着方式等の定着装置6へ導入されてトナー画像の定着を受け、画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ排出される。また、転写材Pに対するトナー画像転写後の電子写真感光体1面は、クリーニング装置7により残留トナー等の付着汚染物の除去を受けて清掃され繰り返して作像に供される。
【0334】8は電子写真感光体1面に対する帯電促進粒子塗布装置であり、クリーニング装置7と帯電ブラシ2との間位置において、電子写真感光体1面に所定量の帯電促進粒子(帯電補助粒子)mを塗布する。この装置8により電子写真感光体1面に塗布された帯電促進粒子mは、電子写真感光体1の回転に伴い電子写真感光体1と接触帯電部材としての帯電ブラシ2との接触部である帯電ニップ部nに持ち運ばれて、帯電ニップ部nに帯電促進粒子mが存在した状態で帯電ブラシ2による電子写真感光体1の接触帯電処理がなされる。
【0335】本例のプリンタは、電子写真感光体1、帯電ブラシ2、現像装置4、クリーニング装置7、帯電促進粒子塗布装置8の5つのプロセス機器をカートリッジPCに包含させて、プリンタ本体に対して一括して着脱交換自在のカートリッジ方式の装置である。プロセスカートリッジ化するプロセス機器の組合せ等は上記に限られるものではなく任意である。9はプロセスカートリッジPCの着脱案内・保持部材である。なお、本発明の電子写真装置はカートリッジ方式の装置に限られるものではない。
【0336】(2)電子写真感光体
本例の負帯電の有機電子写真感光体は、図2に層構成図を示したように、φ30mmのアルミニウム製のドラム支持体(アルミニウム支持体)11上に下記の第1?第4の4層の機能層12?15を下から順に設けたものである。
【0337】以下に電子写真感光体の機能層の作製方法について詳細に述べる。
【0338】導電層用の塗料を以下の手順で調製した。10質量%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部(質量部、以下同様)、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部及びシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)0.002部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して調製した。この塗料を上記アルミニウム支持体上に浸漬塗布方法で塗布し、140℃で30分間乾燥させることによって、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0339】次に、N-メトキシメチル化ナイロン5部をメタノール95部中に溶解し、中間層用塗料を調製した。この塗料を前記の導電層上に浸漬塗布方法によって塗布し、100℃で20分間乾燥させることによって、膜厚が0.6μmの中間層を形成した。
【0340】次に、CuKαの特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2度)が9.0度、14.2度、23.9度及び27.1度に強いピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを3部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBM2、積水化学(株)製)2部及びシクロヘキサノン35部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して、その後に酢酸エチル60部を加えて電荷発生層用塗料を調製した。この塗料を前記の中間層の上に浸漬塗布方法で塗布して、100℃で15分間乾燥させることによって、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0341】次いで、化合物例No.394の正孔輸送性化合物100部とポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-800、三菱瓦斯化学(株)社製)10部をモノクロロベンゼン330部の溶媒中に溶解して溶液を作製し、この溶液を電荷発生層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。
・・・(中略)・・・
【0350】しかしながら、電子写真感光体の表面と帯電部材との接触が十分に行われる必要が有るため、既に説明したように接触帯電部材として帯電ブラシを用いた場合、帯電ブラシの毛先が図8に示すように分かれ電子写真感光体表面に接触できないところができ、電子写真感光体表面を均一に帯電することができないという問題点があった。
【0351】そこで本例では、図1に示すように被帯電体としての電子写真感光体1の表面に帯電促進粒子mを塗布する装置8を設け、電子写真感光体表面に帯電促進粒子mを10^(2)個/mm^(2)以上塗布することで、上記の接触不良の問題を解決することが可能になった。帯電促進粒子塗布装置8は、粉体粒子を塗布する一般的な手段、例えば塗布ローラ8a上に一度均一に塗布した後、電子写真感光体上に接触又は電界で飛翔させること等により塗布する構成にすることができる。
・・・(中略)・・・
【0374】また、耐久後の電子写真感光体の削れ量と表面粗さに関しても評価を行った。それらの結果を、表4に示す。表中、黒スジレベルはA?Eまでランク分けされており、Cまでが画像評価上の許容レベルである。ゆえにランクB、Cは軽微ではあるが黒スジが認められるレベルとなり、D、Eは注入不良による黒スジ画像欠陥により電子写真感光体寿命となってしまうレベルである。なお、削れ量は、渦電流式膜厚測定器(FISCHER社製、PERMASCOPE TYREE111)を用いて測定した。また、傷はRz値で記載してあり、10000枚耐久後の電子写真感光体表面の任意な場所の、10点平均面粗さの値を示してある。
【0375】本発明の電子写真装置において、先記電子写真感光体を用いることで、10000枚耐久での繰り返し使用時において、注入帯電均一性の悪化はみられず、耐久後ハーフトーン画像上、黒スジの無い良好な画像を得ることができた。また、耐久後の電子写真感光体の削れや表面粗れも非常に小さく、高耐久な電子写真感光体であることも、確認できた。」

(1g)「【0376】(実施例2)図6は本例の電子写真装置の概略構成図である。本例の電子写真装置は、上述の実施例のプリンタ(図1)において、クリーニング装置7をなくしてクリーナーレスシステムとし、また帯電促進粒子塗布装置8をなくし、その代わりに現像装置4の現像剤(トナー)tに帯電促進粒子mを外添することで、現像装置4に電子写真感光体1に対する帯電促進粒子供給・塗布手段を兼ねさせたものである。」

(1h)「【0388】(実施例3)図7は本例の電子写真装置の概略構成図である。本例の電子写真装置は、上記実施例2のプリンタ(図6)において、接触帯電部材としての帯電ブラシ2を導電性弾性ローラ帯電器2にしたものである。また、帯電促進粒子を帯電部材に供給する手段を配設してある。
【0389】帯電促進粒子供給は本例では規制ブレードで行っており、規制ブレードを帯電ローラ2に当接し、帯電ローラ2と規制ブレードとの間に帯電促進粒子mを貯留・保持させ、帯電促進粒子mを帯電ローラ2面に塗布して供給する構成をとる。
【0404】これにより、帯電ニップ部nにおいて帯電ローラ2は、帯電促進粒子mを介して密に電子写真感光体1に接触して、つまり帯電ローラ2と電子写真感光体1のニップ部である帯電ニップ部nに存在する帯電促進粒子mが電子写真感光体表面を隙間なく摺擦することで電子写真感光体1に電荷を直接注入できるのである。すなわち帯電ローラ2による電子写真感光体1の帯電は帯電促進粒子mの存在により注入帯電が支配的となる。
【0405】従って、従来のローラ帯電では得られなかった高い帯電効率が得られ、帯電ローラに印加した電圧とほぼ同等の電位を電子写真感光体1に与えることができる。本例では帯電ローラ2に印加した-700Vの直流電圧とほぼ同じ電位-680Vに電子写真感光体1が帯電処理される。
【0406】かくして、接触帯電部材として比較的に構成が簡単な帯電ローラを用いた場合でも、帯電ローラ2に対する帯電に必要な印加バイアスは被帯電体である電子写真感光体1に必要な電位相当の電圧で十分であり、放電現象を用いない安定かつ安全な帯電方式を実現することができる。つまり、接触帯電装置において、接触帯電部材として帯電ローラ等の簡易な部材を用いた場合でも、より帯電均一性に優れかつ長期にわたり安定した注入帯電を実現する、すなわち、低印加電圧でオゾンレスの注入帯電を簡易な構成で実現することができる。」

(1i)「【0409】(実施例7)実施例1と同様に電荷発生層まで形成した。次いで、実施例1の正孔輸送性化合物である化合物例No.394に下記構造式の重合開始剤を1部加え、電荷輸送層用塗工液を作製した。
【0410】
【化195】

【0411】この塗工液を、先記電荷発生層表面に浸漬塗布し、メタルハライドランプを用いて500mW/cm^(2)の光強度で照射し、硬化させることによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1j)「【0412】(実施例8)実施例1と同様に電荷発生層まで形成した。次いで、実施例1の正孔輸送性化合物である化合物例No.394に下記構造式の重合開始剤を1部加え、電荷輸送層用塗工液を作製した。
【0413】
【化196】


【0414】この塗工液を、先記電荷発生層表面に浸漬塗布し、140℃で1時間熱硬化及び乾燥することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1k)「【0415】(実施例9?13)実施例1において電子線の照射強度を表5に示した様に代えた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。その結果、耐久試験での、注入帯電均一性や電子写真感光体の耐久による傷や削れは、良好であったが、加速電圧300KV及び線量150、200Mradの条件下では、初期の電子写真感光体の電位特性において、実用画像上で問題はないが、感度悪化等の弊害がみられた。結果を表4に示す。」

ここで、上記表5(【0431】[当審注:【0431】の【表6】は、【表5】の誤記と認められる。])は次のとおり。


(1L)「【0416】(比較例1)実施例1において電荷発生層を形成した後、下記構造式のスチリル化合物を7部、ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-800、三菱瓦斯化学(株)社製)10部をモノクロロベンゼン84部/ジクロロベンゼン28部の混合溶媒中に溶解して溶液を作製し、この溶液を電荷発生層表面に浸漬塗布法で塗布して、105℃で1時間熱風乾燥することによって、膜厚が15μmの電荷輸送層を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。
【0417】
【化197】(略)」

(1m)「【0418】(実施例14)比較例1と同様の化合物を用い、膜厚10μmの電荷輸送層まで作製し、更に、この上に第2の電荷輸送層を以下に記載した様にして設けた。化合物例No.394の正孔輸送性化合物10部をプロパノール18部の溶媒中に溶解して第2の電荷輸送層用の塗工液を作製し、この液を先記した、第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射し、膜厚2μmの第2の電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。」

(1n)「【0421】(実施例16)実施例14と同様にして、第1の電荷輸送層を形成した。更に、この上に第2の電荷輸送層を以下に記載した様にして設けた。化合物例No.7の正孔輸送性化合物10部と下記のアクリル樹脂10部をプロパノール20部の溶媒中に溶解して第2の電荷輸送層用の塗工液を作製し、この液を先記した、第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布し、加速電圧150KV、線量30Mradの条件で電子線を照射し、膜厚3μmの第2の電荷輸送層の硬化膜を形成した。この電子写真感光体を、実施例3の装置で耐久したときの評価結果を表4に示す。
【0422】
【化199】



(1o)「【0430】
【表5】(当審注:【表4】の誤記と認められる。)



これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、特許請求の範囲の請求項1,33,44、図1、実施例1をもとに認定した。

「電子写真感光体、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段を備えた電子写真装置において、
電子写真感光体が、導電性支持体上に感光層を有し、表面層が1つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有したものである、電子写真装置。」

また、実施例16には、次の技術事項が認められる。
「アルミニウム製のドラム支持体上に、少なくとも、電荷発生層、第1の電荷輸送層、第2の電荷輸送層を有する電子写真感光体において、
下記化合物例No.7の正孔輸送性化合物と下記アクリル樹脂を溶媒中に溶解して塗工液を作製し、この塗工液を第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布した後、電子線を照射して硬化し、膜厚2μmの、表面層となる第2の電荷輸送層を形成した、
電子写真感光体。

化合物例No.7の正孔輸送性化合物

アクリル樹脂



(2)刊行物2
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 潜像担持体と、潜像形成手段と、現像手段と、転写手段と、潜像担持体のクリーニング手段と具えた画像形成装置において、前記クリーニング手段は、像担持体の表面を清掃するために潜像担持体の表面に平行で、かつ表面の移動方向に直交しているクリーニングブレードを具え、このクリーニングブレードは、像担持体の表面に向かってカウンター方向に突出調節可能となっていて、クリーニングブレードと像担持体との当接圧が20g/cm?40g/cmであることを特徴とする画像形成装置。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真法、静電記録法、静電印刷法等の静電潜像を現像するときに用いられる画像形成装置に関する。」

(2c)「【0012】
【発明が解決しようとする課題】従来の画像形成装置において、クリーニング手段にはクリーニングブレードが設けられ、このクリーニングブレードは、像担持体の表面を清掃するために設けられていて、潜像担持体の表面に平行で、かつ前記表面の移動方向に直交している潜像担持体を支持しているドラムケースに固定されているブレード支持部材に、所定量の自由端長(突き出し量)を突き出し可能に取り付けられており、このクリーニングブレードは、像担持体の表面に向かってカウンター方向に、所望の当接圧となるように取り付けられており、かつ像担持体がほぼφ30以下の小径であるクリーニング装置においては、クリーニングブレードの当接圧や、クリーニング角や、硬度や、材質や、自由端長や、厚さを潜像担持体の線速に応じて最適化し、トナーのすり抜けやブレード稜線欠けによるクリーニング不良、ブレードと感光体との間で発生する鳴きやびびり、ブレードのめくれ、ブレードの掻きとり性能不足による感光体表面へのトナー添加物や紙粉の付着によつて発生するフィルミングによる異常画が発生しないように条件設定している。
【0013】しかし近年の高画質化の達成手段としてトナーの小粒化が進められており、このトナーの小粒化は、トナー像担持体へのファンデルワールス力の増大を引き起こして、クリーニングブレードによって像担持体表面を清掃することが困難になっている。また感光体の摩擦係数が大きいとブレードの変形量が大きくなり、トナーのすり抜け、ブレード鳴きやびびり等の不具合が発生するという問題がある。
【0014】本発明は、前記のような従来の画像形成装置のもつ問題を解消し、初期からブレードのめくりや、びびり、クリーニング不良、経時的にはフィルミング等の発生を防止することができて、良好なクリーニング性能を発揮することができ、感光体の表面特性に応じたクリーニング手段を具えた画像形成装置を提供することを目的とするものである。」

(2d)「【0051】
【本発明の実施例と、比較例との対比】つぎに前記の実施例と、これに対応する比較例との機能について行なった試験の結果得られた評価について説明する。図7に示されている表1にその結果が示されている。実施例1?4においては、クリーニングブレード35の感光体1に対する当接圧と、クリーニング角度をそれぞれ当接圧が20.4から37.5g/cm、クリーニング角度が75.4から85°まで振れているが、クリーニング不良、感光体フィルミング、ブレード鳴きといったクリーニング装置特有の不具合は発生しなかった。しかし同条件で同様に実験した比較例1?3においては、当接圧及びクリーニング角度がが請求項1、2に記載された本発明と相違すると、それぞれ不具合が発生することが判明している。」

(2e)「【0056】またクリーニングブレードのヤング率(45?65kgf/cm^(2))(クリーニングブレード硬度で62?75Hs)、クリーニングブレードの厚み(1.3?2.2mm)、ブレード支持部材35aからのクリーニングブレード35の自由端長(6?8mm)のポリウレタンゴムを使用することで、図6に示すようにクリーニングブレードの当接圧が(20?40g/cm)、クリーニング角θが(75?85°)となり、このときにはトナーのすり抜けや、ブレード稜線欠けによるクリーニング不良、ブレードと感光体との間に発生する鳴きや、びびり、ブレードのめくれ、ブレードの掻き取り性能不足による感光体表面へのトナー添加物や紙粉の付着による異常画像が発生しなかった。
【0057】当接圧が前記の範囲より大きくなるとびびりが発生し、当接圧が前記の範囲より小さくなると、ブレードの掻き取り性能不足による感光体表面へのトナー添加物や紙粉の付着が発生し、クリーニング角が前記の範囲より大きくなると、ブレードが腹当たり気味になって、クリーニング不良が発生し、クリーニング角が前記の範囲より小さくなると、ブレードのめくれが発生した。」

4.対比・判断
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「電子写真感光体」「露光手段」「現像手段」「転写手段」「クリーニング手段」「電子写真装置」は、
それぞれ、本願発明1の「感光体」「感光体上に潜像を形成する潜像形成手段」「感光体上の潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像装置」「感光体上のトナー像を転写材に転写する転写装置」「感光体上に残留したトナーを除去するクリーニング装置」「画像形成装置」に相当する。

また、刊行物1記載の発明の「電子写真感光体が、導電性支持体上に感光層を有し、表面層が1つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有したもの」と、
本願発明1の「該感光体が導電性支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、架橋型電荷輸送層を順次積層した構成であって、該架橋型電荷輸送層は光重合開始剤を含み電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー及び1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーを用いたラジカル重合反応によって硬化することにより形成され」とは、
「該感光体が導電性支持体上に感光層を有し、表面層が連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有したもの」の点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「感光体と、
感光体上に潜像を形成する潜像形成手段と、
感光体上の潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像装置と、
感光体上のトナー像を転写材に転写する転写装置と、
感光体上に残留したトナーを除去するクリーニング装置とを備える画像形成装置であって、
該感光体が導電性支持体上に感光層を有し、表面層が連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有したものである、
画像形成装置。」

[相違点1]
感光体が、
本願発明1は、導電性支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層、架橋型電荷輸送層を順次積層した構成であって、該架橋型電荷輸送層は光重合開始剤を含み電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー及び1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーを用いたラジカル重合反応によって硬化することにより形成されたものであるのに対して、
刊行物1記載の発明は、導電性支持体上に感光層を有し、表面層が1つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合した化合物を含有したものである点。

[相違点2]
本願発明1は、クリーニング装置が、クリーニングブレードを備えており、該クリーニングブレードと感光体の当接圧が20?40g/cmであるのに対して、
刊行物1記載の発明は、その特定がない点。

そこで、相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1の実施例16には、上記のとおり、次の技術事項(以下、「刊行物1の実施例16の感光体」という。)が記載されている。
「アルミニウム製のドラム支持体上に、少なくとも、電荷発生層、第1の電荷輸送層、第2の電荷輸送層を有する電子写真感光体において、
下記化合物例No.7の正孔輸送性化合物と下記アクリル樹脂を溶媒中に溶解して塗工液を作製し、この塗工液を第1の電荷輸送層表面に浸漬塗布した後、電子線を照射して硬化し、膜厚2μmの、表面層となる第2の電荷輸送層を形成した、
電子写真感光体。

化合物例No.7の正孔輸送性化合物

アクリル樹脂



ここで、「刊行物1の実施例16の感光体」の「第2の電荷輸送層」は、架橋されているから、保護層(表面層)である「架橋型電荷輸送層」に相当し、
「刊行物1の実施例16の感光体」の「第1の電荷輸送層」は、本願発明1の「電荷輸送層」に相当し、
また、「刊行物1の実施例16の感光体」の「化合物例No.7の正孔輸送性化合物」「アクリル樹脂」は、それぞれ、本願発明1の「1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物」「電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー」に相当するので、「刊行物1の実施例16の感光体」の「第2の電荷輸送層」の硬化前の材料は、本願発明1の「架橋型電荷輸送層」の材料と同じである。
したがって、刊行物1の実施例16に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明の感光体として、耐摩耗性に優れた「刊行物1の実施例16の感光体」(そのうち、保護層については「刊行物1の実施例16の感光体」の「第2の電荷輸送層」の材料を硬化させたものである)を採用することを容易に思い付くものである。
また、その採用に際しては、「刊行物1の実施例16の感光体」は、上記材料を「電子線を照射して硬化する」ものであるが、刊行物1の(1d)【0319】には、放射線、特に電子線による重合が好ましいとしつつも、「本発明において連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、熱、可視光や紫外線等の光、更に放射線により重合させることができる。従って、本発明における表面層の形成は、表面層用の塗工液に前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物と必要によっては重合開始剤を含有させ、塗工液を用いて形成した塗工膜に熱、光又は放射線を照射することによって該連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合させる。」として、可視光や紫外線等の光による重合が利用できる旨の記載があり、また、電子写真感光体の表面層を、ラジカル重合反応の光重合開始剤を用いて光エネルギー照射によるラジカル重合反応により硬化させて、形成することは、本願出願前に周知の技術であり、
当業者であれば、「刊行物1の実施例16の感光体」の材料に対しては、電子線照射によるか、ラジカル重合反応の光重合開始剤を用いて光エネルギー照射によるかは、適宜選択することができる程度のことであるから、
刊行物1記載の発明の感光体として、「刊行物1の実施例16の感光体」を採用するときに、併せて硬化手法を、電子線照射による手法に換えて、ラジカル重合反応の光重合開始剤を用いて光エネルギー照射による手法を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、刊行物1記載の発明において、相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
刊行物2には、電子写真方式の画像形成装置において、クリーニングブレードと像担持体(感光体)との当接圧が20g/cm?40g/cmであるとき、トナーのすり抜けや、ブレード稜線欠けによるクリーニング不良、ブレードと感光体との間に発生する鳴きや、びびり、ブレードのめくれ、ブレードの掻き取り性能不足による感光体表面へのトナー添加物や紙粉の付着による異常画像が発生しない、という技術事項が記載されている。
また、刊行物1の記載の発明のクリーニング装置は、図1では、クリーニング装置7であって、図1には、感光体1に当接するクリーニングブレードとみられるものが実質的に記載されている。さらに、クリーニング手段として、クリーニングブレードは慣用されている。
そうすると、刊行物1記載の発明において、クリーニングブレードを採用するとともに、刊行物2の技術事項を適用して、クリーニングブレードと感光体の当接圧が20?40g/cmであるように調整することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点1,2をあわせた検討、効果について)
上記では、相違点1,2を別々に検討したが、両者をあわせてみても、本願発明1のごとく構成することに困難性はない。

また、本願発明1の効果を、本願の実施例、比較例から考察すると、まず、比較例5,6は、クリーニングブレードと感光体の当接圧が低すぎると、クリーニング不良やフィルミングが生じること、逆に当接圧が高すぎると、ブレード鳴きや摩耗が進むことを示すが、これらは、刊行物2にも記載された知見のとおりである。
比較例1,4には、保護層(表面層)である「架橋型電荷輸送層」が、本願発明1のものでないと摩耗が進むことが示されており、これは、本願発明1の「架橋型電荷輸送層」が耐摩耗性に優れることを意味し、予測される程度のことである。
比較例2,3は、結局、電荷輸送性能が低いので、感度低下、残留電位上昇がみられたものであり(本願明細書の【0074】も参照)、予測される程度のことである。
そして、実施例1?7は、比較例で生じるような問題がないものであるから、本願発明1の効果は、「刊行物1の実施例16の感光体」から得られる耐摩耗性に優れるという効果と、クリーニングブレードと感光体の当接圧に関する刊行物2の技術事項から得られる効果とを、足し合わせた程度の効果しかないといえる。
したがって、本願発明1によってもたらされる効果は、刊行物1,2の記載事項や技術常識から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。

(請求人の主張について)
請求人は、平成21年3月17日付けの意見書で、次のように主張している。

『(3)引用文献1の感光体は、「帯電促進粒子を用いた注入帯電プロセスで使用される感光体」に関する発明であり、引用文献1の段落0003?0049に記載されているように、帯電方式に一般的な放電現象を利用したシステムの感光体とは、帯電から受けるダメージや感光体に要求される特性が異なります。
引用文献1の実施例1?8には、非反応性バインダーに反応性電荷輸送材料を混合し、重合した感光体が具体的に示されています。これらの感光体と、本願と同じ材料構成をとる実施例16の感光体とを比較すると、表4の評価結果から、削れ量や傷が同等であると判断されます。即ち、機械的強度もあまり変わらないと考えられます。これに対し、本願段落0005、0030、0034では非反応性バインダーを含有させた場合について耐摩耗性が極端に低下することが記載されており、このことから引用文献1の実施例16の感光体は本願に比べ膜強度が劣っていると想定されます。この膜強度の違いは構成材料が同じであるため硬化方法に起因したもので、引用文献1の「電子線硬化」と本願の「光硬化」の差違によるものと解釈されます。一般的に電子線照射による硬化反応では、電子線は膜内部への浸透性が高く厚い膜の硬化に適していますが、全ての反応を完結するために加速電圧や線量を増加すると、高エネルギー線であるが故膜のダメージが促進され、電気特性が劣化しやすいという欠点を有しています。この裏付けは引用文献1の実施例9?13にも示されており、引用文献1の実施例1?13に示される膜厚の厚い電荷輸送層の全体硬化には適しているものの、電荷輸送層上に膜厚の薄い架橋型電荷輸送層を設ける本願構成においては膜強度が不足し、この構成においては機械的強度と電気特性を両立できる点から光照射による硬化の方が適しています。反対に光硬化は反応性電荷輸送材料の吸収により膜内部への浸透性が制限され、本願段落0031、0155比較例2に示されているように厚い膜の硬化には適しておらず、この点からも引用文献1の電子線硬化とは異なります。
引用文献1では硬化方法について、段落0319に「熱、可視光や紫外線等の光、更に放射線により重合させることができる」と記載されていますが、実施例においては実施例7、8を除き、1?6、8?19のほとんどが電子線により硬化された具体例です。本願と同じ紫外線を用いた光硬化は実施例7に限られており、この実施例7もスルホニウム塩系開始剤を用いた光カチオン重合で、重合反応としてはリビング重合に分類され、本願のラジカル重合とは異なります。
実施例8は熱硬化の例ですが、開始剤として光硬化用のものが添加されており、この系では熱硬化反応が起こらないと推測されます。
従って、引用文献1には「該架橋型電荷輸送層は光重合開始剤を含み電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマー及び1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーを用いたラジカル重合反応によって硬化することにより形成され、」という本願請求項1に係る発明特定事項は開示も示唆もされていないといえます。また、該発明特定事項について引用文献2にも記載も示唆もありません。
従って、引用文献1、2を組み合わせても本願発明を導き出すことはできず、本願請求項1に係る発明は進歩性を有します。』

請求人は、まず、「刊行物1の実施例16の感光体」は、本願の実施例よりも、膜(表面層)の強度が劣っており、強度の違いは、膜の構成材料は同じであるから、電子線硬化か光硬化かの違いによる旨を主張する。しかし、膜の構成材料は完全には同じでない(例えば、本願の実施例1、刊行物1の実施例16は、1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物が、若干異なっている)。また、本願の実施例のものは、「刊行物1の実施例16の感光体」よりも、膜強度に優れているとしても、本願発明1の「電荷輸送性構造を有しない3官能以上のラジカル重合性モノマーと1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物」に含まれる材料のものが全て、「刊行物1の実施例16の感光体」よりも、膜強度に優れていることは、立証されていない。しかも、本願では、必要とする膜強度の程度は規定していないのである。

また、一般に、硬化に際して、電子線照射を採用するか、光重合開始剤を用いた光照射を採用するかは、当業者であれば、そのメリットとデメリットを勘案して、適宜選択することである。
例えば、刊行物1の【0319】【0320】では、放射線(電子線)照射が好ましい旨が記載されているが、そのメリットと注意点も詳細に説明されている。すなわち、電子線照射のメリットは、重合開始剤を必要としないこと、短時間で生産性が高いこと、透過性がよいので膜中の遮蔽物質による硬化阻害の影響を受けないことで、注意点は、照射条件が非常に重要であり、加速電圧、線量を適切にしないと、硬化が不十分になったり(線量過小の場合)、感光体にダメージを与える(加速電圧・線量過大の場合)ことである(刊行物1の実施例9?13も参照)。また、請求人が説明するように、電子線照射は、膜厚の厚い膜に対する硬化に適していることが、メリットであることも、明らかである。ただ、刊行物1の実施例16は、表面層の膜厚が3μmであり、膜厚の薄い膜に属するものであり、電子線照射の膜厚の薄い膜に対する適用に特に問題があるとはいえない。そして、膜厚の薄い膜に対しては、加速電圧、線量を適度に小さくすれば、必要な硬化と感光体に対するダメージの軽減をバランスできることは、当業者に自明といえる。
また、刊行物1には、光照射のメリットは記載されていないが、感光体にダメージを与えることが少ないことは、示唆されている。

さらに、本願の明細書では、
「【0087】本発明においては、かかる架橋型電荷輸送層塗工液を塗布後、外部からエネルギーを与え硬化させ、架橋型電荷輸送層を形成するものであるが、このとき用いられる外部エネルギーとしては熱、光、放射線がある。熱のエネルギーを加える方法としては、空気、窒素などの気体、蒸気、あるいは各種熱媒体、赤外線、電磁波を用い塗工表面側あるいは支持体側から加熱することによって行なわれる。
【0088】加熱温度は100℃以上、170℃以下が好ましく、100℃未満では反応速度が遅く、完全に硬化反応が終了しない。170℃より高温では硬化反応が不均一に進行し架橋型電荷輸送層中に大きな歪みや多数の未反応残基、反応停止末端が発生する。硬化反応を均一に進めるために、100℃未満の比較的低温で加熱後、更に100℃以上に加温し反応を完結させる方法も有効である。光のエネルギーとしては主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプなどのUV照射光源が利用できるが、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。照射光量は50mW/cm^(2)以上、1000mW/cm^(2)以下が好ましく、50mW/cm^(2)未満では硬化反応に時間を要する。1000mW/cm^(2)より強いと反応の進行が不均一となり、架橋型電荷輸送層表面に局部的な皺が発生したり、多数の未反応残基、反応停止末端が生ずる。また、急激な架橋により内部応力が大きくなり、クラックや膜剥がれの原因となる。放射線のエネルギーとしては電子線を用いるものが挙げられる。これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さから熱及び光のエネルギーを用いたものが有用である。」(下線は当審で付した)
と記載されており、ここでは、電子線照射も選択し得ることが記載されており、光照射がよいのは、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さの点があげられるにとどまり、膜強度の観点はない。

請求人が主張するような、膜の強度の点で、光照射が、電子線照射に比べて、格段に優れていることが、一般的にいえるかどうかは明確でないので、本願発明1が、光照射を採用することにより、当業者が予測できないような特有な効果を奏するものとは、認められない。また、仮に若干優れていたとしても、光照射を採用することの容易想到性が論理づけられる以上、格別の効果ということはできない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-02 
結審通知日 2010-11-09 
審決日 2010-11-22 
出願番号 特願2004-273692(P2004-273692)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 磯貝 香苗
伏見 隆夫
発明の名称 画像形成装置および画像形成装置用プロセスカートリッジ  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  
代理人 小松 秀岳  

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