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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B27H
管理番号 1230305
審判番号 無効2010-800035  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-02 
確定日 2010-11-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4335972号発明「木製容器の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1 出願手続経緯
本件特許第4335972号に係る出願は,平成21年3月12日に特許出願されたものであり,本件出願の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成21年 3月12日 本件特許出願(特願2009-59197号)
平成21年 7月 3日 特許権の設定登録

2 審判手続経緯
これに対して,請求人より平成22年3月2日に本件無効審判の請求がなされたものであり,本件無効審判における手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成22年 3月 2日 無効審判請求(甲第1号証の1?10号証)
5月25日 答弁書
5月25日 訂正請求
7月 6日 弁駁書(甲第11?13号証)
7月22日 審理事項通知書
8月31日 口頭陳述要領書(被請求人)
9月 3日 口頭陳述要領書(請求人)
9月17日 第1回口頭審理
9月27日 訂正請求
10月 1日 上申書(請求人)

以下,甲第1号証の1?甲第1号証の2を甲1の1?甲1の2といい,甲第2号証?甲第10号証を甲2?甲10という。


第2 訂正請求について

1 本件訂正請求の内容
平成22年9月27日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正請求」という)の内容は,本件特許明細書を,訂正請求書に添付した全文訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,本件訂正の内容は以下の(1)?(2)のとおりである。(下線部は訂正箇所である。)

(1)訂正事項1
訂正事項1は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1について,

「【請求項1】
テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって,
前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と,
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する本体圧縮工程と,
前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と,
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする,製造方法。」
と訂正するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は,本件特許明細書の段落【0010】について,

「【0010】
第1の発明は,テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって,
前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と,
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する本体圧縮工程と,
前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と,
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする。」
と訂正するものである。

2 当審の本件訂正請求についての判断

(1)訂正事項1について

ア 「凹部形成工程」についての訂正
請求項1の「前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程」を「前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程」とする訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして,本件特許明細書の段落【0021】の「・・・本体11の外周側面には,図2に示すように,箍12の厚さよりも大きい深さを有する凹部14が,2つの箍12のそれぞれに対応するように形成されている。・・・」という記載,および,同段落【0023】の「・・・この凹部14の深さは,通常,箍12の厚さよりも大きくされる。」という記載からみて,「箍が嵌入可能な凹部」が「前記箍の厚さよりも大きい深さを有」することが記載されていることは明らかであり,上記訂正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものであるといえる。

イ 「本体圧縮工程」についての訂正
請求項1の「前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を圧縮する本体圧縮工程」を「前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する本体圧縮工程」とする訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして,本件特許明細書の段落【0030】の「<3.効果>・・・また,本実施形態によれば,本体11の外周側面が加圧されることにより本体11が全体として中心軸方向に圧縮される。このため,箍12の直径(内径)D3が図8(a)で符号P1で示す部分の本体11の直径D4よりも小さくても,図8(b)で示すように,圧縮によって符号P1で示す部分の本体11の直径はD3よりも小さいD5となるので,本体11への箍12の周着が可能となる。・・・」という記載,および,同段落【0033】の「・・・これに対し,本発明では,箍の変形が行われるのではなく,箍を取り付ける対象物である桶本体の変形(圧縮)が行われる。・・・」という記載からみて,「圧縮」が「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるよう」にする圧縮であることが記載されていることは明らかであり,上記訂正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものであるといえる。

してみると,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正事項1にともない,段落【0010】の記載を訂正するものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

なお,請求人は,平成22年10月1日付け上申書の3頁下から4行?4頁5行において「しかしながら,上記訂正案によれば,凹部上方の外径がごく微量だけ箍の内径より小さくなるように圧縮する場合も含まれます。しかし,このように凹部上方の外径と箍の内径との差が微量である場合は,箍が本体の軸心に垂直な平面より若干傾斜した状態で本体に挿入されたときには,箍は本体の外周側面に引っ掛ってそれ以上前進(下方に移動)しません。したがって,請求項1の第4段落に記載の『前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程』を実施することができず,本件特許発明をどのように実施できるかが不明です。そうだとすれば,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないと考えます。」と主張している。
しかし,箍を本体の軸心に垂直な平面より若干傾斜した状態で本体に挿入したため,あるいは,箍にゆがみがあったために,箍が本体の外周側面に引っ掛ってそれ以上前進しない場合には,本体の圧縮量を大きくすること,または,引っ掛った位置にて,箍の径の拡大を伴う変形をさせることなく,箍の姿勢やゆがみを修正すること,あるいは,箍を本体から外し,ゆがみを修正した上で,改めて,箍が本体の軸心に垂直な平面に平行な状態となるように箍の本体への挿入をやり直すことにより,「前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程」を実施できるといえる。
よって,請求人の上記主張は採用することができない。

(3)まとめ
以上のとおり,上記訂正事項1?2は,特許法第134条の2第1項ただし書,及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,当該訂正を認める。
なお,平成22年5月25日付け訂正請求は,特許法第134条の2第4項の規定に基づき取り下げられたものとみなされた。


第3 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は,上記訂正の請求が認められることから,平成22年9月27日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって,
前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と,
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する本体圧縮工程と,
前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と,
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする,製造方法。」(以下,「本件発明1」という。)

「【請求項2】
前記本体圧縮工程では,前記外周側面のうち直径が比較的短い部分を上方に配置した状態で,前記外周側面のうち前記凹部が形成されている部分の下方が加圧されることを特徴とする,請求項1に記載の製造方法。」(以下,「本件発明2」という。)

「【請求項3】
前記本体圧縮工程では,前記外周側面を加圧する加圧面と該加圧面にほぼ垂直な平坦面とからなる加圧部材によって前記本体が圧縮され,
前記箍取り付け工程では,前記加圧部材の平坦面上に前記箍が載置されることを特徴とする,請求項2に記載の製造方法。」(以下,「本件発明3」という。)

「【請求項4】
前記木製容器は桶であることを特徴とする,請求項1から3までのいずれか1項に記載の製造方法。」(以下,「本件発明4」という。)


第4 当事者の主張

1 請求人の主張
審判請求書,弁駁書,口頭陳述要領書および上申書によれば,請求人は,訂正後の本件発明1?4は,本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項の規定によって特許を受けることができないものであって,本件発明に付与された本件特許は,同法123条1項2号の規定により,無効とすべきものであると主張し,甲1の1,甲1の2,および,甲2?13を提出している。

甲1の1:実願昭51-27371号(実開昭52-118755号)のマイクロフィルム
甲1の2:実開昭52-118755号公報
甲2:特開2002-283303号公報
甲3:特開昭59-184602号公報
甲4:実公昭15-17372号公報
甲5:特開昭52-126386号公報
甲6:実願昭61-94017号(実開昭63-1723号)のマイクロフィルム
甲7:実願昭63-79591号(実開平2-1632号)のマイクロフィルム
甲8:実公昭13-11543号公報
甲9:実公昭36-1993号公報
甲10:実公昭60-2884号公報
甲11:特開昭52-39490号公報
甲12:株式会社兼光産業の代表取締役社長西田茂の平成22年6月24日付陳述書の写し
甲13:心富商事のカタログの写し

2 被請求人の主張
これに対して,被請求人は,答弁書および口頭陳述要領書において,上記無効理由は理由がないと主張している。


第5 各証拠およびその内容

1 甲1の1および甲1の2について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲1の1および甲1の2には,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は,当審にて付与したものである。
(甲1の1-ア)
「(2)実用新案登録請求の範囲
モータ1に連繋して昇降する円錐台2を設けその上位に締台3を設け,その外周に挺杆5....の支点5’....を放射状に取付け,該挺杆5....の上端に夫々円錐台2に内対する挾杆6を装備し,挺杆5....の下端に締台3に当接するロール7を装着し桶締機に,モータ8に連繋して昇降する作動がリミツトスイツチ9でできるようにした円錐台10を放射状に広狭自在に取付けたワイヤーの輪かけ体11群の中央に昇降自在に設けたワイヤー輪の拡大機を併設してなる輪入方式」(明細書1頁3?14行)

(甲1の1-イ)
「(3)考案の詳細な説明
本案は手造りのワイヤー輪のゆるみを機械的に拡大してよく締めた強靱な輪を造り,これを機械的に側板の合せ目をよく締めた桶に輪入れすることを特徴とし,省力と量産を目的とするものである。以下その詳細を図面に就いて説明すると,モータ1に連繋して昇降する円錐台2を設け,その上位に締台3を設けその外周に挺杆5....の支点5’....を放射状に取付け,該挺杆5....の上端に夫々円錐台2に内対する挾杆6を装備し,挺杆5....の下端に締台3に当接するロール7を装着し桶締機に,モータ8に連繋して昇降する作動がリミツトスイツチ9でできるようにした円錐台10を放射状に広狭自在に取付けたワイヤーの輪かけ体11群の中央に昇降自在に設けたワイヤー輪の拡大機を併設してなる構成に係るものである。本案は上記のように構成してあるからワイヤー輪の拡大機は輪かけ体11に,手造りで所要寸法よりやゝ小型に形成した輪を係合して円錐台10を上昇するとリミツトスイツチにより輪は自動的に所要寸法に拡大するからこれを隣接する桶締機の円錐台2で締付けた桶に係合して挾杆6....の加圧を解除すると桶に輪を堅牢に入れることができる。即ち締台2に載せる桶は放射状に内対する挾杆6....が円錐台2の上昇により挺杆5が作用して内寄りに加圧するから桶を形成する板片間の間隙をよく詰めてから輪を入れた後,円錐台2を下降させて挾杆6の加圧を解除すると,その桶の輪を強力に入れることができる。このように本案によるときは省力と量産ができる実用上有効な考案である。」(明細書1頁15行?3頁7行)

(甲1の1-ウ)
第一図には,桶4の外周側面に,ワイヤー輪12を周着した様子が描かれている。

上記記載事項(甲1の1-ア)?(甲1の1-ウ)および図面の記載を総合すると,甲1の1および甲1の2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「桶4にワイヤー輪12を輪入れする方法であって,
手造りのワイヤー輪12のゆるみを機械的に拡大してワイヤー輪12を所要寸法に拡大する工程と,
締台2に載せた桶4を,放射状に内対する挟杆6....が内寄りに加圧することにより,桶4を形成する板片間の間隙をよく詰め,板片の合せ目をよく締めた桶4にワイヤー輪12を入れる工程と,
前記挟杆6....の加圧を解除して,桶4にワイヤー輪12を強力に入れる工程と,
からなる方法。」(以下,「甲1発明」という。)

2 甲2について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲2には,次の事項が記載されている。
(甲2-ア)
「【0008】そこで上記問題点に鑑み,本発明の課題は,たが(金輪,締め輪)がズレにくい木桶等を提供することにある。」

(甲2-イ)
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,本発明の講じた手段は,図3のたが締め側板組み2に,アールの溝8を機械加工等で入れ,溝のアール面にたが(金輪,締め輪)のアール面9を密着させ,締め付けることを特徴とする。即ち本発明は,通常の木桶等の図2の4,5のたが(金輪,締め輪)を使用し,たが締め側板組み2に密着している面の反対の面のアール面9を図3の8のたが締め側板組みの溝のアール面に密着させる。」

(甲2-ウ)
「【0012】更に,たが(金輪,締め輪)のアール面を使用した,たが(金輪,締め輪)9が,たが締め側板組み2より外に出ない,凸にならない状態になっているため,衝撃等によりたが(金輪,締め輪)が変形することなく美観を損なうこともない。」

(甲2-エ)
【図4】には,たが9がたが締め側板より外に出ない,すなわち,側板のアールの溝8が,たが9の厚さよりも大きい深さを有している様子が描かれている。

3 甲3について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲3には,次の事項が記載されている。
(甲3-ア)
「本発明は,かゝる従来の桶およびその製造方法の欠点に鑑みてなされたもので,必要に応じて簡易に上部口径と末径の調節ができて,しかも多量生産にも適した桶側形状を実現することにより,箍の脱落を解消するとともに桶の製造能率を向上せしめようとするものである。
即ち,本発明は平板Wの切断と同時,または切断後好ましくは平板が乾燥時木表側に彎曲しやすいことを考慮して木裏側を外側にしてその縦方向に木目に沿って断面凹形の浅い盗み溝2・2・・・を所要間隔(例えば,一定間隔)をおいて穿設する一方,内側(木表側)に前記凹形盗み溝2のそれぞれに略対応する如く木目に沿って縦方向に延びる断面楔形の切込み溝3を形成して平板桶側1を得る(第1図b参照)。この桶側1は内側に楔形切込み溝3を有する一方,外側に凹形盗み溝2を有するので,これを彎曲させる際に出来る溝を折れ目(角目)をカムフラージする働きがあり,また楔形切込み溝3巾をやや緊締するか,強く緊締するかによって内側にある程度自由に彎曲させうるフレキシブル性を帯有する(第1図d参照)。従って,上部口径がl1,末径がl2(l1>l2)であると,n枚の桶側1を使用して第1図eのように底板4の外周を取巻く場合,桶側1の上端長さπl1/nに対しπl2/nとやや小さくすべきであるから両側を点線のように斜断する。また,このように,口径と末径が異なる場合,桶側末端がやや彎曲しやすいように桶側上端(第4図b)に対し桶側末端(第4図c)の凹形条溝断面を大きくするとよい。
かゝる桶側1で底板4を取巻き,隣接する桶側1側端同士を突合せて内側に湾曲させつつ箍締めすると,桶側のフレキシブル性により箍締めが容易である。勿論,箍側1はその楔形切込み溝3に接着材を注入し,彎曲度合を固定しておいてもよい。」(2頁左上欄12行?同頁左下欄7行)

4 甲4について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲4には,次の事項が記載されている。
(甲4-ア)
「・・・木片ヲ繞設シテ外筒(3)ヲ形成セシメ此ノ上下端ニハ『バンド』(4)ヲ嵌置シ胴部適宜ノ個所ニ淺キ周溝(5)ヲ穿設シ該溝内ニ針金箍(6)ヲ沈メテ備ヘシメ・・・」(實用新案ノ性質,作用及效果ノ要領の欄5?7行)

5 甲5について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲5には,次の事項が記載されている。
(甲5-ア)
「尚本実施例においては可撓性シート(6)を貼着した板表面に凹リング(4)(4)嵌め込み用の溝(9)(9)を幅方向に2条平行開設している。
しかる後,別途形成した底板(1)を前記凹溝(8)に対し周縁を嵌合させつつV溝(7)の溝開口を閉じる様に可撓性シート(6)を順次屈曲させてゆけば,底板(1)周縁を一周する周囲壁(2)が形成される。この場合にV溝(7),更には凹溝(8)中に接着剤を装填すれば一層堅固な周囲壁(2)を形成し得る。次いで周囲壁(2)外周を一周する溝(9)(9)中へ金属製,プラスチツク製又は竹製の凹リング(4)を嵌着する。この場合に凹リング(4)を加熱し膨張させて溝(9)内に嵌め込み,しかる後凹リング(4)を冷却することによつて凹リング(4)を溝(9)中に緊密嵌合し得る。この状態において周囲壁(2)を構成する各帯板(3)は凹リング(4)によつて底板(1)周縁に締め付けられ,一方隣接する帯板(3)(3)のテーパ面(30)(30)が互いに突き当つてこの力を支持するために,周囲壁(2)が崩壊することなく桶形状が維持されるのである。」(2頁左上欄17行?同頁右上欄15行)

(甲5-イ)
第2図には,周囲壁(2)の外周側面に,凹リング(4)の厚さよりも大きい深さを有する溝(9)であって,凹リング(4)が嵌入可能な溝(9)が,周設された様子が記載されている。

6 甲6について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲6には,次の事項が記載されている。
(甲6-ア)
「3 考案の詳細な説明
従来の桶箍は円筒に造ったものに直接箍をたっき締める様に造ってゐましたが乾燥時期或は長く使用しない場合に箍が弛るみ桶が壊れるのが多いので本案はその欠点を除くため考案したものです
(イ)円筒にした桶の箍を入れる部分に溝を切る
(ロ)円筒を縦に切断し箍を溝に入れる
(ハ)内部より外側へ圧力をかけ溝に充分埋込む
(ニ)切断部分の隙間に楔型の材を打ち込む」(明細書1頁5?14行)

7 甲7について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲7には,次の事項が記載されている。
(甲7-ア)
「実施例
以下,本考案の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図において,1は,椹,桧,桐等の木材料からなる縦長の板片の内外周面を所定の曲率の曲面に切削することによつて形成した桶側であつて,複数の桶側1を,図示しない合釘により側縁同士が互いに密着するように組み付けることによつて,上方に向かつて次第に外径が大きくなる円筒体2が構成されているとともに,この円筒体2の下端部に,円形の底板3が,その外周縁を各桶側1の内周に形成した嵌合凹部4に嵌合させることによつて嵌着されており,この円筒体2の外周には,その下端部と中間高さの位置とに,夫々,一定の上下幅で外径が僅かに小さくなつた縮径部5が,桶側1の外周との間に段部6を設けて全周にわたつて形成されているとともに,両縮径部5,5の外周面を段部8を介してさらに径を小さくすることによつて,深い係止溝7が全周にわたつて形成されており,上記円筒体2は,2つの箍10a,10bによつて一体的に固定されている。
これらの箍10a,10bは,弾性を有する合成樹脂により環形に成形したものであつて,第2図に示すように,断面形状は蒲鉾形をなし,その平坦面が内周面となつていて,その内周面には,半円形をなす凹部12が全周にわたつて形成されているとともに,その凹部12に沿つて内向きに突出する係止爪13が同じく全周にわたつて形成されており,一方の箍10aは,その内径が他方の箍10bよりも僅かに大きくなつている。
そして,内径の大きい方の箍10aを,係止爪13が凹部12の上側に位置するように向けて,円筒体2の下端側からその外周に嵌めて図示しない木づち等で下から叩き,第3図に鎖線で示すように,円筒体2の外周面に摺接する係止爪13が弾性変形により押し広げられつつ下方に屈曲して凹部12内に収容された状態で,箍10aを,その円筒体2への密着位置の外径が大きくなるにしたがつて内径を僅かずつ広げるように徐々に弾性変形させつつ上方へ移動させ,第3図に実線で示すように,箍10aが上側の縮径部5aに整合してその整合面同士を互いに強く密着させたところで,箍10aの上下両周縁を縮径部5aの両段部6,6に係合させると同時に,凹部12内に収容されていた係止爪13を弾性復元力により係止溝7a内に嵌入させて,係止爪13の斜め下向きの先端部を係止溝7aの下側の段部8に係合させることによつて箍10aが締嵌されているのであり,さらに,他方の箍10bが上記と同様にして下側の縮径部5bに嵌着されているとともに係止爪13が係止溝7bに係合されていて,これにより,円筒体2が強固に締め付けられて桶側1同士が分離不能に結合されている。」(明細書3頁13行?6頁5行)

8 甲8について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲8には,次の事項が記載されている。
(甲8-ア)
「本案樽締機ノ使用法ハ輪金(10)ヲ擴ゲ豫メ樽材を圓形ニ組合セタル樽體ヲ輪金(10)内ニ入レ斯クシテ螺軸(2)ヲ廻轉シ乍ラ輪金(10)ヲ縮窄シ樽體ヲ締握シ其ノママノ状態ニテ樽體ニ針金製其他ノ『タガ』ヲ掛ケ全部ノ『タガ』ヲ掛ケ終リタル後再ビ螺軸(2)ヲ前ト反對ニ廻シ輪金(10)ヲ緩メテ『タガ』ノ掛レル樽ヲ輪金(10)ヨリ拔キ外シ作業ヲ終ルモノトス」(實用新案ノ性質,作用及效果ノ要領の欄12?17行)

9 甲9について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲9には,次の事項が記載されている。
(甲9-ア)
「手動輪5の軸11には追歯車12を取付け爪13を掛合し逆回転を阻止し胴筒A’をロープで緊締した状態に保持し,この間胴筒A’にバンドBを巻き付け止着する。」(1頁右欄1?5行)

10 甲10について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲10には,次の事項が記載されている。
(甲10-ア)
「しかる後,螺施体10の頭部14に押し込んだスパナ(図示せず)を回動することにより螺施棒11を回導させ,該螺施棒11と螺合する摺動体6を,第4図矢印方向に摺動させ緊締具16を緊締させて,単位材aを締め付け,該単位材aの外周面上に適宜たが・リング等を嵌合して筒体となしてもよく,あるいは単位材aどおしの接合端縁にあらかじめ接着剤を塗布し,単位材aが充分接着がなされるまでそのまま放置し筒体を成形してもよい。」(2頁右欄32?41行)

11 甲11について
本件特許に係る出願日(平成21年3月12日)前に頒布された刊行物である甲11には,次の事項が記載されている。
(甲11-ア)
「含水率12?13%のスギの天然木のおけ側片1を接着剤で接着していつておけの胴を形成し,胴周を木質の本来の性質,すなわち水分を吸収すると自然に膨張し乾燥によつて収縮する性質が破壊されない限度まで締めつけ圧縮してゆくと,各おけ側片1のせんいの走行方向と直角の方向はおけの胴周方向にあるので胴周が収縮する。この収縮量は収縮前の外径が仮りに150mmであると収縮後は147?147.5mmとなり,外周の長さにおいて7?8mmの差が生じる。そこでこの発明では,収縮前の150mmをたがをはめ込んでゆくことによつて147?147.5mmとするように,たがの内径を147?147.5mmとしている。」(2頁左下欄7?20行)

12 甲12について
甲12は,株式会社兼光産業の代表取締役社長西田茂の平成22年6月24日付陳述書の写しであって,「私が知るところ,外周側面に凹部を設け,この凹部に箍をはめた桶は,遅くとも平成20年9月頃には市場に出回っており,当社もまた,当時よりこれを購入して現在に至っています。」と記載されている。

13 甲13について
甲13は,心富商事のカタログの写しであって,その4頁右側および5頁上側には,外周側面に箍を周設した桶の写真が掲載されている。


第6 当審の判断

1 本件発明1について

(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「桶4」および「ワイヤー輪12」は,その構造および機能からみて,それぞれ,本件発明1の「木製容器」および「箍」に相当する。
また,甲1の1に関する上記摘記事項(甲1の1-ウ)からみて,甲1発明では,「桶4」が,外周側面を有する本体を備え,当該本体に「ワイヤー輪12」が周着されているといえる。
また,甲1発明の「輪入れする方法」は,桶を製造する方法であるといえるから,本件発明1の「木製容器を製造する方法」に相当する。
してみると,甲1発明の「桶4にワイヤー輪12を輪入れする方法」と,本件発明1の「テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法」とは,「外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法」である点において共通する。

イ 本件発明1の「圧縮」は,加圧することによる圧縮であるから,本件発明1の「前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する本体圧縮工程」と,甲1発明における「締台2に載せた桶4を,放射状に内対する挟杆6....が内寄りに加圧することにより,桶4を形成する板片間の間隙をよく詰め」る点とは,「前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧する工程」である点において共通する。

ウ 甲1発明における「板片の合せ目をよく締めた桶4にワイヤー輪12を入れる」点と,本件発明1の「前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程」とは,「前記本体が加圧されている状態で,前記箍を前記本体に周着させる箍取り付け工程」である点において共通する。

エ 甲1発明における「前記挟杆6....の加圧を解除して,桶4にワイヤー輪12を強力に入れる工程」と,本件発明1の「前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程」とは,「前記本体の加圧を解除する工程」である点において共通する。

してみると,両者は,

(一致点)
「外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって,
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧する工程と,
前記本体が加圧されている状態で,前記箍を前記本体に周着させる箍取り付け工程と,
前記本体の加圧を解除する工程と
を含む,製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)木製容器の本体の外周側面が,本件発明1では,「テーパ状に形成された」ものであるのに対し,甲1発明では,「テーパ状に形成された」ものであるかが不明な点。

(相違点2)本件発明1では,「前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程」を有しているのに対し,甲1発明では,そのような工程を有していない点。

(相違点3)加圧が,本件発明1では,「加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する」ことであるのに対し,甲1発明では,「桶4を形成する板片間の間隙をよく詰め,板片の合せ目をよく締め」ることであり,
前記箍を前記本体に周着させる箍取り付け工程が,本件発明1では,前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を「前記凹部の位置で」前記本体に周着させる箍取り付け工程であるのに対し,甲1発明では,凹部を有しておらず,凹部の位置で箍を本体に周着させているとはいえない点。

(2)上記相違点1について
すし桶等がテーパ状であるのは技術常識であるから,上記相違点1は,本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であるとはいえない。
また,仮に実質的な相違点であったとしても,甲7に関する上記摘記事項(甲7-ア)に「上方に向かって次第に外径が大きくなる円筒体2が構成されている」と記載されているように,桶の外周側面をテーパ状に形成することは,本件特許の特許出願日前に周知であるから,甲1発明に,上記周知技術を適用して,上記相違点1における本件発明1のようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。

(3)上記相違点2について
桶において,箍の厚さよりも大きい深さを有する凹部であって,箍が嵌入可能な凹部が,桶本体の外周側面に周設されたものは,例えば,甲2に関する上記摘記事項(甲2-イ)?(甲2-エ),甲4に関する上記摘記事項(甲4-ア),および,甲5に関する上記摘記事項(甲5-ア)?(甲5-イ)に記載されているように,本件特許の特許出願日前に周知である。また,上記凹部の周設にあたっては,甲2に関する上記摘記事項(甲2-イ)に記載の「機械加工」等,何らかの凹部形成工程が必要であることが技術常識である。
そして,甲1発明も上記周知の技術的事項も,箍を備えた桶という共通の技術分野に属するものであり,箍のずれ防止のために桶本体の外周側面に箍が嵌入可能な凹部を周設することは,例えば,甲2に関する上記摘記事項(甲2-ア)?(甲2-イ),甲6に関する上記摘記事項(甲6-ア)に記載されているように,当該分野における周知の技術的課題であるから,甲1発明に,上記周知技術を適用して,上記相違点2における本件発明1のようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。

(4)上記相違点3について
本件特許明細書の段落【0030】には「<3.効果>・・・また,本実施形態によれば,本体11の外周側面が加圧されることにより本体11が全体として中心軸方向に圧縮される。このため,箍12の直径(内径)D3が図8(a)で符号P1で示す部分の本体11の直径D4よりも小さくても,図8(b)で示すように,圧縮によって符号P1で示す部分の本体11の直径はD3よりも小さいD5となるので,本体11への箍12の周着が可能となる。・・・」と記載され,および,同段落【0033】には「・・・これに対し,本発明では,箍の変形が行われるのではなく,箍を取り付ける対象物である桶本体の変形(圧縮)が行われる。・・・」と記載されていることからみて,本件発明1では,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮」することにより,箍取り付け工程において,前記箍の径の拡大を伴う変形が行われることなく,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させているといえる。
これに対し,甲1発明では,加圧により「桶4を形成する板片間の間隙をよく詰め,板片の合せ目をよく締め」,加圧解除により「桶4にワイヤー輪12を強力に入れる」ものであるから,加圧により,桶本体は圧縮されているといえる。また,桶等の木製容器本体の外周側面に箍,リング,輪金等を周着させるのに際し,前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を圧縮するようにすることは,甲8に関する上記摘記事項(甲8-ア),および,甲10に関する上記摘記事項(甲10-ア)に記載されているように,本件特許の特許出願日前に周知である。
しかし,甲1発明も,甲8および甲10に記載の上記周知技術も,外周側面に凹部が周設されていない木製容器本体に箍等を周着させるに際し,前記本体を圧縮するものであるにとどまり,甲1の1,甲8,甲10にも,他の各甲号証にも,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮」することにより,箍取り付け工程において,前記箍の径の拡大を伴う変形が行われることなく,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させることについては,記載も示唆もされていない。
また,上記摘記事項(甲5-ア)および(甲6-ア)によれば,従来,凹部を有する桶では,熱により箍の径を拡大したり,桶を縦に切断したりすることにより,箍を凹部の位置に配置していたのであり,本体を圧縮することにより箍を凹部の位置に配置するものとは全く異なっているから,甲8および甲10に記載の上記周知技術を凹部を有する桶に適用する動機付けがあるとはいえない。

さらに,本件発明1の「前記凹部の位置で前記本体に周着させる」箍は,外周側面に凹部が周設されていない本体に周着させる箍と比べて,凹部の深さの2倍の寸法だけ径が小さいから,本件発明1において,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮は,外周側面に凹部が周設されていない本体の外径が箍の内径より小さくするようにする圧縮と比べて,本体を,凹部の深さの2倍の寸法だけ余分に縮径させることを必要とする。
そうすると,凹部が周設されていない本体に箍を周着させるための圧縮が甲1の1に記載された技術,あるいは,周知技術であったとしても,そのような技術を,より大きな圧縮力を必要とする「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮に転用することが,当業者にとって,容易に想到し得る事項であるとはいえない。

してみると,甲1発明に基づき,あるいは,甲1発明に各甲号証に記載の事項を組み合わせて,上記相違点3における本件発明1のようにすることが,当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。

そして,本件発明1は,「本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる」ことにより,「桶本体を圧縮することやその圧縮を解除することは容易かつ短時間で行われるので,本発明によれば,本体に形成された凹部への箍の嵌め込みが,容易かつ短時間で行われる。」という明細書記載の特有の作用効果を奏するものである。

(5)付記(請求人の主張について)
請求人は,平成22年7月6日付け弁駁書の6頁16?24行において「しかしながら,甲1には桶本体が圧縮されている状態で箍を桶本体に周着させる構成が記載され(甲1の明細書第3頁1行目?4行目),甲2には凹部の位置で箍を桶本体に周着させる構成が記載されており(甲2の段落0009),当業者が引用発明1の方法を採用して甲2に記載された木桶を製造しようと考えた後は,桶が圧縮されている状態であると箍入れが容易であることを考慮すれば,箍が凹部の位置に到達する前に桶本体の圧縮を中止することは考えられないので,必然的に桶本体が圧縮されている状態で箍を凹部の位置で周着させることとなる。つまり,構成D2は,甲2に記載された事項を引用発明1に適用すれば必然的に充足する構成である。」と主張している。
しかし,上記「(4)上記相違点3について」で検討のとおり,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮と,甲1発明における,加圧により「桶4を形成する板片間の間隙をよく詰め,板片の合せ目をよく締め」る圧縮,あるいは,甲8および甲10に記載の,凹部が周設されていない本体に箍等を周着させるための圧縮とは,圧縮の程度が異なるものである。
してみると,甲1発明に,箍が嵌入可能な凹部を設ける周知技術を適用すれば,甲1発明における,加圧により「桶4を形成する板片間の間隙をよく詰め,板片の合せ目をよく締め」る圧縮が,必然的に,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮になるとはいえない。

また,請求人は,同弁駁書の8頁7行?9頁16行において「桶本体の外径より小さい内径の箍を桶本体に嵌めた状態では,箍が桶本体を中心方向に向かって加圧することは自明な事項である。そのために,甲11には,箍が桶本体を中心方向に向かって加圧することにより外径150mmの桶本体を147?147.5mmになる程度(言い換えれば,2.5?3.0mm収縮する程度)まで圧縮しても,木質の本来の性質が破壊されないことが,示されていると言える。・・・以上のように,本件発明1における圧縮は,当業者にとって十分に想定されるありふれた程度にすぎず,よって,甲2に記載された事項を引用発明1に適用することになんら困難性は存在しない。」と主張している。
しかし,甲11は,箍による胴周の締め付けの程度を記載しているに過ぎず,他方,本件発明1は,箍による本体の締め付け量に加えて,上記「(4)上記相違点3について」で検討のとおり,本体を,凹部の深さの2倍の寸法だけ余分に縮径させることを必要とするものであるから,本件発明1における圧縮が,甲11から想定されるありふれた程度であるとはいえない。

また,請求人は,平成22年9月3日付け口頭審理陳述要領書の10頁4行?12頁15行において「甲第11号証には,箍を嵌める前(収縮前)の桶本体の外径と桶本体に嵌め込んでゆく箍の内径が記載され,具体的な数値を示して箍による桶本体の締め付けの程度が記載されています(第5頁14?20行目)。
しかしながら,甲第11号証には,下記(A)?(E)の記載があり,箍による桶本体の締め付けの程度の具体例が示されているだけでなく,桶本体を中心方向へ圧縮する際に圧縮の限度が存在するという,桶の分野における技術常識も開示されており,しかも,甲第11号証に開示された圧縮の限度に比べて,本件発明1における圧縮の程度は小さく,甲第11号証から想定させるありふれた程度にすぎません。・・・
つまり,甲第11号証に記載された桶本体の締め付けの程度は,箍を桶本体に取り付けるために必要となる通常の締め付けの程度に比べてかなり大きく,箍締め工程において桶本体を締め付け可能な限度(つまり,圧縮の限度)に設定されており,その圧縮の限度より更に桶本体を締め付けると,木質の本来の性質が破壊され箍を桶本体に緊密に周着させることができなくなります。・・・
そうすると,本件発明1の圧縮は,箍を桶本体に取り付けるために必要となる通常の締め付け量に加えて,凹部の深さの2倍以上の寸法縮径させるものであるといえますが,本件発明1でも板片の復元力を利用して箍を桶本体に周着させている以上,甲第11号証に記載された圧縮の限度を越えることはありません。・・・
以上のように,本件発明1における圧縮は,甲第11号証に記載された圧縮の限度を越えるものではなく,甲第11号証から想定させるありふれた程度にすぎないことは明らかです。」と主張し,同陳述要領書の13頁7行?14頁1行において「以上のように,引用発明における加圧は,『箍を桶本体に周着させることを目的とする圧縮』であり,箍を凹部の位置で桶本体に周着させるために必要となる桶本体の圧縮の程度は,甲第11号証に示す技術常識を考慮すれば当業者が容易に想定できるありふれた程度にすぎません。
したがって,引用発明に甲第2号証に記載の事項を適用することを妨げる特段の事情も存在しないため,引用発明における加圧を,箍を凹部の位置で桶本体に周着させるための圧縮に転用することは,当業者にとって容易に想到しえる事項であるといえます。」と主張している。
しかし,甲11に,桶本体を中心方向へ圧縮する際に圧縮の限度が存在するという,桶の分野における技術常識が開示されていたとしても,当該技術常識から,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮と,外周側面に凹部が周設されていない本体の外径が箍の内径より小さくするようにする圧縮とが,同程度の圧縮であることを導くことはできない。本件特許の明細書の段落【0023】には「凹部14の深さを1?5mm程度である。」と記載されており,凹部の深さが1mmであれば,「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮は,外周側面に凹部が周設されていない本体の外径が箍の内径より小さくするようにするための圧縮と比べて,1mm×2×π(3.14)=6.28mmだけ余分に縮径させる必要があり(凹部の深さが5mmであれば,同様に,5mm×2×π(3.14)=31.4mmだけ余分に縮径させる必要がある。),これは,請求人提出の上記口頭審理陳述要領書の13頁の<表>に記載の桶全体の縮径量(実験2:15mm,実験3:13mm,実験4:11mm)の41.9%(6.28/15)?57.1%(6.28/11)を占めるものであり,無視できる程度のものであるとはいえない。そうすると,本件発明1における「前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように」する圧縮は,甲第11号証に示す技術常識から当業者が容易に想定できるものとはいえない。
また,甲1の1,甲2,甲11にも,他の各甲号証にも,「前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を,前記凹部上方の外径が,前記箍の内径より小さくなるように,圧縮する本体圧縮工程と,前記本体が圧縮されている状態で,前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程」を設ける動機付けが記載されておらず,示唆もされていない。

以上のことから,請求人の主張は,採用することができない。

(6)まとめ
以上のとおり,本件発明1は,甲1の1,甲1の2,甲2?13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,相違点3において,請求人の主張を採用することができない。

2 本件発明2?4について
本件発明2?4は,いずれも本件発明1を引用してさらに限定したものであり,甲1発明1と対比すると,少なくとも,上記「1 (1)対比」で述べた,相違点1ないし3を有している。
そして,上記「1 (4)上記相違点3について」で述べたとおり,少なくとも相違点3は,当業者といえども容易に想到し得るものでないから,新たな相違点については検討するまでもなく,本件発明2?4は,甲1の1,甲1の2,甲2?13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり,本件発明1?4は,甲各号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものではなく,同法第123条1項2号に該当しない。

審判に関する費用については,特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により,審判費用は請求人の負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
木製容器の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、桶などの木製容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、桶,樽,櫃(ひつ)などの木製容器が広く利用されている。これら木製容器は、複数枚の側板を円筒状に組み合わせることによって形成されている。そして、それら複数枚の側板が円筒状に組み合わされた状態で固定されるよう、外周側面に銅製などの箍(たが)が周着されている。
【0003】
図9は、従来の桶の側部断面図である。この桶90は、外周側面が全体としてテーパ状に形成された本体91と、本体91の外周側面に周着された2つの箍(たが)92と、本体91の内部に装着された底板93とによって構成されている。本体91への箍(たが)92の周着については、典型的には次のようにして行われる。まず、テーパ状に形成された本体91のうち直径の短い方の一端側から箍92を嵌め込む。そして、図10に示すように木槌99などによって箍92を叩くことによって、本体91の外周側面上の所望の位置に箍92を配置させる。これにより、複数枚の側板が組み合わされて形成されている本体91が箍92によって外周側面から強く締められることになり、それら複数枚の側板は固定された状態となる。
【0004】
ところで、木材には、乾燥することによって収縮し、水分を吸収することによって膨張するという性質がある。このため、桶は、繰り返し使用されることによって、収縮と膨張とが繰り返される。その結果、桶全体のサイズが小さくなることや桶の形状が変形することがある。これにより、箍92が本体91からはずれたり、箍92の位置にずれが生じたりするので、箍92を再度本体91に周着させる作業が必要となる。
【0005】
特開2002-283303号公報には、側板に溝を設け当該溝に箍を密着させる構成とすることにより箍のずれを防止する木桶の発明が開示されている。また、特開昭52-126386号公報には、「周囲壁に溝を設け、凹リングを加熱・膨張させて溝内に嵌め込み、その後、凹リングを冷却させることによって凹リングを溝中に嵌合させる」という木製容器の製法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-283303号公報
【特許文献2】特開昭52-126386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特開2002-283303号公報には、本体に箍を周着させる方法が全く開示されていない。このため、特開2002-283303号公報に開示された構成の桶をどのようにすれば実現することができるのかが不明である。また、当該構成の桶が仮に実現されたとしても、箍が溝部に密着せず、箍としての機能が充分には得られないことが考えられる。
【0008】
また、特開昭52-126386号公報によると、凹リングを加熱する工程と凹リングを冷却する工程が必要となる。このため、凹リングが溝中に嵌合するまでには相当の時間を要する。また、加熱時・冷却時の温度の調節も困難となる。
【0009】
そこで、本発明は、箍がずれたり本体からはずれたりすることのない桶などの木製容器を比較的簡易な手法で製造する方法を提供することを目的とする、
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって、
前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と、
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を、前記凹部上方の外径が、前記箍の内径より小さくなるように、圧縮する本体圧縮工程と、
前記本体が圧縮されている状態で、前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と、
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記本体圧縮工程では、前記外周側面のうち直径が比較的短い部分を上方に配置した状態で、前記外周側面のうち前記凹部が形成されている部分の下方が加圧されることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、
前記本体圧縮工程では、前記外周側面を加圧する加圧面と該加圧面にほぼ垂直な平坦面とからなる加圧部材によって前記本体が圧縮され、
前記箍取り付け工程では、前記加圧部材の平坦面上に前記箍が載置されることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1から第3までのいずれかの発明において、
前記木製容器は桶であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記第1の発明によれば、木製容器本体の外周側面が加圧されることにより、本体が全体として中心方向に圧縮される。このため、通常であれば本体に嵌め込むことができないような大きさ(内径)の箍であっても、本体への取り付けが可能となる。また、本体が圧縮されている状態のときに箍が本体に取り付けられ、その後、本体の圧縮が解除される。このため、本体が箍によって強く締められる。さらに、箍は、凹部に嵌入された状態で、本体の外周側面に周着される。このため、本体が乾燥によって収縮しても、箍が本体からはずれることや箍の位置にずれが生じることが効果的に防止される。
【0015】
上記第2の発明によれば、本体圧縮工程では、凹部の位置から見て外周側面の直径の大きい側の凹部近傍が加圧される。また、その加圧される部分は、凹部よりも下方に位置する。このため、本体の上方側から箍の嵌め込みを行うことによって、容易に箍が本体に取り付けられる。
【0016】
上記第3の発明によれば、加圧面にほぼ垂直な平坦面を有する加圧部材によって本体の圧縮が行われ、その圧縮が行われた状態で、本体への箍の取り付けのために加圧部材の平坦面上に箍が載置される。これにより、本体への箍の取り付けが容易となる。
【0017】
上記第4の発明によれば、上記第1から第3までのいずれかの発明と同様の効果が得られる桶が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造される桶の斜視図である。
【図2】図1のA-A線断面図である。
【図3】上記実施形態において、桶を製造する手順を示すフローチャートである。
【図4】上記実施形態において、桶本体に凹部を形成する方法について説明するための図である。
【図5】上記実施形態における圧縮装置の上面模式図である。
【図6】上記実施形態において、本体の圧縮から圧縮の解除までの工程について説明するための図である。
【図7】上記実施形態において、箍取り付け工程について説明するための図である。
【図8】上記実施形態における効果について説明するための図である。
【図9】従来の桶の側部断面図である。
【図10】従来例において、桶の本体に箍を周着させる方法を説明するための図である。
【図11】従来例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
<1.桶の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る「(木製容器としての)桶の製造方法」によって作製される桶10を斜め上方から見た斜視図である。また、図2は、図1のA-A線断面図である。この桶10は、外周側面が全体としてテーパ状に形成された本体11と、本体11の外周側面に周着された銅製の2つの箍(たが)12と、本体11の内部に装着された底板13とによって構成されている。外周側面の直径に着目すると、図1や図2における上端での直径D1は下端での直径D2よりも大きくなっている。例えば、直径D1は18?78cmとなっており、直径D2は17?75cmとなっている(但し、D1>D2)。なお、以下においては、図1や図2における上端側を「開口側」といい、下端側を「底板側」という。
【0021】
本体11は、複数の柾目板で形成されている。それら複数の柾目板に関し、互いに隣接する柾目板は側端面どうしが突き合わされた状態で接合されている。本体11の外周側面には、図2に示すように、箍12の厚さよりも大きい深さを有する凹部14が、2つの箍12のそれぞれに対応するように形成されている。そして、それら2つの箍12が、その凹部14に嵌入した状態で、本体11の外周側面に周着されている。これにより、上記複数の柾目板で形成されている本体11が箍12によって外周側面から強く締められることになり、それら複数の柾目板は固定された状態となっている。なお、説明の便宜上、図6および図8においては、2つの箍12のうち一方の箍12に対応する凹部14のみを示している。
【0022】
<2.桶の製造方法>
図3から図7を参照しつつ、本実施形態における桶10の製造方法について説明する。図3は、本実施形態における桶10を製造する手順を示すフローチャートである。なお、図3のステップS10が開始される時点には、既に桶10の本体11は周知の手法で作製されているものと仮定する。また、底板13については、図3のステップS40以降の工程で周知の手法で本体11の内部に装着される。
【0023】
まず、本体11の外周側面に、箍12を嵌入させることのできる凹部14を形成する(ステップS10)。この凹部14の形成は、例えば、本体11の外周側面のうち凹部14を形成したい部分に図4に示すように固定された刃30を当てた状態で、符号35で示す矢印のように本体11を回転させることによって行われる。本体11の回転については、手作業で行うようにしても良いし、機械を用いて行うようにしても良い。なお、典型的には、凹部14の幅は9?21mm程度であって、凹部14の深さは1?5mm程度である。この凹部14の深さは、通常、箍12の厚さよりも大きくされる。
【0024】
次に、圧縮装置を用いて、本体11の圧縮を行う(ステップS20)。図5は、圧縮装置の上面模式図である。この圧縮装置は、本体11を載置するための設置台21と、本体11の外周側面から(本体11の)中心軸方向に向かって圧力を加えるための複数個の加圧部材22とを備えている。それら複数個の加圧部材22は、図5(a),(b)に示すように、放射状に配置されている。本体11は、図5(a)に示すように加圧部材22が外側に位置した状態のときに設置台21上に載置される。そして、図5(b)に示すように加圧部材22が内側へと移動することによって、本体11の圧縮が行われる。
【0025】
ところで、本体11の圧縮を行う際には、図6(a)に示すように、開口側を下にして圧縮装置20の設置台21上に本体11を載置する。設置台21については高さの調節が可能となっており、本体11の外周側面に形成された凹部14の下方が加圧部材22によって加圧されるように、設置台21の高さを調節する。その後、図6(b)に示すように、加圧部材22を本体11の中心軸方向へと移動させる。これにより、凹部14の下方に圧力が加えられ、上記複数の柾目板がしなって本体11が全体として中心軸方向に圧縮される。
【0026】
次に、本体11が圧縮されている状態で、凹部14の位置で箍12を本体11に周着させる(ステップS30)。このとき図6(b)や図7(a)に示すように加圧部材22(の加圧面)によって凹部14の下方が加圧されており、また、その加圧部材22の上面は平坦面となっているので、図6(c)や図7(b)に示すように、当該平坦面上に箍12を載置すれば良い。
【0027】
次に、本体11の圧縮を解除する(ステップS40)。具体的には、図6(d)に示すように、加圧部材22を本体11の中心軸方向とは反対方向へと移動させる。これにより、本体11の圧縮は解除され、本体11は圧縮前の形状に復元する。その結果、箍12が凹部14に嵌入し、本体11は箍12によって外周側面から強く締められる。
【0028】
なお、本実施形態においては、ステップS10によって凹部形成工程が実現され、ステップS20によって本体圧縮工程が実現され、ステップS30によって箍取り付け工程が実現され、ステップS40によって圧縮解除工程が実現されている。
【0029】
また、図1に示すように本体11に2つの箍12を取り付ける場合には、ステップS10からステップS40までの工程を2回繰り返しても良いし、ステップS10で2つの凹部14を形成した後にステップS20からステップS40までの工程を2回繰り返しても良い。
【0030】
<3.効果>
本実施形態によれば、箍12は、図2に示すように凹部14に嵌入された状態で、本体11の外周側面に周着されている。このため、本体11が乾燥によって収縮しても、箍12が本体11からはずれることや箍12の位置にずれが生じることが防止される。また、本実施形態によれば、本体11の外周側面が加圧されることにより本体11が全体として中心軸方向に圧縮される。このため、箍12の直径(内径)D3が図8(a)で符号P1で示す部分の本体11の直径D4よりも小さくても、図8(b)で示すように、圧縮によって符号P1で示す部分の本体11の直径はD3よりも小さいD5となるので、本体11への箍12の周着が可能となる。このとき、上面が平坦面となっている加圧部材22によって凹部14の下方が加圧されているので、当該平坦面上に箍12を載置すれば良く、本体11への箍12の取り付けが容易である。さらに、本実施形態によれば、図8(c)に示すように本体11が圧縮されている状態のときに箍12が本体11に取り付けられ、その後、本体11の圧縮が解除される。これにより、図8(d)に示すように、本体11は元の形状に復元し、本体11が箍12によって効果的に強く締められることになる。
【0031】
<4.変形例>
上記実施形態においては、桶についての製造方法を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。テーパ状に形成された本体の外周側面に箍が周着されたものであれば、樽,櫃(ひつ)など桶以外の木製容器の製造方法にも本発明を適用することができる。
【0032】
<5.従来技術との対比>
最後に、本発明と従来技術との相違点、当該相違点に基づく本発明の有利な効果について説明する。上述のように、特開2002-283303号公報には、側板に溝を設け当該溝に箍を密着させる構成とすることにより箍のずれを防止する木桶の発明が開示されているが、本体に箍を周着させる方法が全く開示されていない。これに関して、図11を参照しつつ説明する(なお、図11は、特開2002-283303号公報の図3に対応する図である。)。ここでは、図11に示すように、桶の本体下端部における直径をDaとする。この桶において箍を溝部に密着させようとすると、箍の直径は図11に示すようにDbとなる。このとき、DbはDaよりも小さい。このため、箍を本体に嵌め込むことができず、特開2002-283303号公報に開示された構成の桶は得られない。一方、箍の直径を図11に示すようにDaよりも大きいDcにした場合には、箍を本体に嵌め込むことは可能となる。しかしながら、箍が溝部に密着しないので、本体は外周側面から強くは締められない。すなわち、この場合には、箍としての機能が充分には得られない。また、箍が溝部に密着していないため、乾燥によって本体が僅かに収縮しただけで、箍が本体からはずれたり、箍の位置にずれが生じることが考えられる。これに対し、本発明によると、桶の本体が全体として中心軸方向に圧縮されるので、箍の直径が桶の本体下端部における直径より小さい場合でも、箍を本体に取り付けることが可能となる。また、本体が圧縮されている状態で箍が本体の凹部に取り付けられた後、その圧縮が解除されて本体は元の形状に復元するので、本体は箍によって強く締められる。これにより、箍が本体からはずれることや箍の位置にずれが生じることが効果的に抑制される。
【0033】
特開昭52-126386号公報に開示された発明では、本体に形成された溝部に凹リング(箍に相当)を嵌め込む手法として、「凹リングを加熱によって膨張させて溝部に嵌め込み、その後、凹リングを冷却させて溝部に嵌合させる」という手法が採用されている。これに対し、本発明では、箍の変形が行われるのではなく、箍を取り付ける対象物である桶本体の変形(圧縮)が行われる。このように、両発明における手法は大きく異なっている。また、特開昭52-126386号公報に開示された発明によると、凹リングの加熱・冷却が必要となるので、本体への凹リングの取り付けが完了するまでに相当の時間を要し、かつ、加熱・冷却の温度の調節が困難となる。これに対し、本発明のように桶本体を圧縮することやその圧縮を解除することは容易かつ短時間で行われるので、本発明によれば、本体に形成された凹部への箍の嵌め込みが、容易かつ短時間で行われる。
【符号の説明】
【0034】
10…桶
11…(桶の)本体
12…箍
13…底板
14…凹部
20…圧縮装置
21…設置台
22…加圧部材
30…刃
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって、
前記箍の厚さよりも大きい深さを有し前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と、
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を、前記凹部上方の外径が、前記箍の内径より小さくなるように、圧縮する本体圧縮工程と、
前記本体が圧縮されている状態で、前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と、
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記本体圧縮工程では、前記外周側面のうち直径が比較的短い部分を上方に配置した状態で、前記外周側面のうち前記凹部が形成されている部分の下方が加圧されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記本体圧縮工程では、前記外周側面を加圧する加圧面と該加圧面にほぼ垂直な平坦面とからなる加圧部材によって前記本体が圧縮され、
前記箍取り付け工程では、前記加圧部材の平坦面上に前記箍が載置されることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記木製容器は桶であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-10-06 
結審通知日 2010-10-08 
審決日 2010-10-19 
出願番号 特願2009-59197(P2009-59197)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B27H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 理紗  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 石川 太郎
郡山 順
登録日 2009-07-03 
登録番号 特許第4335972号(P4335972)
発明の名称 木製容器の製造方法  
代理人 川原 健児  
代理人 中村 哲士  
代理人 島田 明宏  
代理人 河本 悟  
代理人 有近 康臣  
代理人 島田 明宏  
代理人 富田 克幸  
代理人 蔦田 正人  
代理人 川原 健児  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 河本 悟  
代理人 夫 世進  

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