ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M |
---|---|
管理番号 | 1230343 |
審判番号 | 不服2007-31809 |
総通号数 | 135 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-26 |
確定日 | 2011-01-17 |
事件の表示 | 特願2001-585344「超極細繊維状の多孔性高分子セパレータフィルムを含むリチウム二次電池及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月22日国際公開、WO01/89022、平成15年11月11日国内公表、特表2003-533862〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2000年5月19日を国際出願日とする国際出願であって、平成19年1月30日付けの拒絶理由通知書が送付され、同年7月6日付けで手続補正され、同年8月16日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年11月26日に審判請求がされたものである。 第2 本願発明について [1]本願発明 本願の請求項1?16に係る発明は、平成19年7月6日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。 「正極活物質、負極活物質、多孔性高分子セパレータフィルム及びリチウム塩が溶解した有機電解液を含むリチウム二次電池であって、 前記多孔性高分子セパレータフィルムが、電荷誘導紡糸法によって製造された、1?3000nmの直径を有する超極細繊維状の高分子で構成されているものであり、 前記多孔性高分子セパレータフィルムを形成する高分子が、セルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリビニルピロリドンビニルアセテート、ポリ〔ビス(2-(2-メトキシエトキシエトキシ))ホスファゲン〕、ポリエチレンイミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレンスルフィド、ポリ(オキシメチレンオリゴオキシエチレン)、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリルコメチルアクリレート)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(メチルメタクリレートコエチルアクリレート)、ポリビニルクロリド、ポリ(ビニリデンクロリドコアクリロニトリル)、ポリビニリデンフルオリド、ポリ(ビニリデンフルオリドコヘキサフルオロプロピレン)及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とするリチウム二次電池。」 [2]原査定の理由の概要 原査定の本願に対する拒絶の理由の一つは、本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである(原査定の備考(1)[b]参照)。 記 刊行物1:特開平8-250100号公報(拒絶理由で引用した引用例2) 刊行物2:特開平3-220305号公報(拒絶理由で引用した引用例3) [3]刊行物の記載事項 1.刊行物及びその記載事項 原査定の理由で引用されている刊行物1には、次の事項が記載されている。 (1a) 「正極活物質、負極材料、セパレーター及びリチウム塩を含む電解質からなる非水二次電池に関し、該セパレーターが厚さが100μm以下の布であることを特徴とする非水電解質二次電池。」(【請求項1】) (1b) 「本発明において布とは、JIS繊維用語(JISL02061284)で言うシート状の繊維製品、即ち織物、編み物、不織布などを言う。これらの構造は、糸を交錯させて形成した構造、交錯させずに並列ないしは積層して形成した構造、積層し互いに絡めまたは接着して形成した構造あるいはこれらの複合した構造体であっても良い。これらの布の製造法は公知であり、製造方法に限定されるものではない。」(【0007】) (1c) 「100μm以下、好ましくは60μm以下の布を作るためには、極細繊維を用いることが好ましい。近年、服飾用のレザーライク素材に見られるように複合紡糸法等により、0.01μm程度の超極細繊維が開発されており、これらを用いると好ましい。これらの超極細繊維の製造法は公知であり、産業用繊維材料ハンドブック(繊維学会編、日刊工業新聞社刊、1994年)などに記載されている。 本発明の布の原料となる糸は、上記の超極細繊維などの径の細い繊維から通常の径の繊維まで(例えば0.01μmから10μmの繊維を用いることが好ましい。)を直接用いるか、数本を合糸したものを用いることが出来る。糸の径は好ましくは0.01μmから10μm、より好ましくは0.02μmから7μm、特に好ましくは0.02μmから5μmである。これらの糸は撚糸であっても良い。」(【0007】) (1d) 「紡糸用のポリマーとしては、電池温度が上昇したときに空隙を閉塞させ、イオンの透過性を減少させる機能を持たせるため、ポリマーの融点あるいは軟化温度が100℃から200℃のものが好ましい。これらのポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ビニロンがあげられる。これらの中で、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはこれらを主体とした共重合ポリマーが好ましく、エチレンと上記高分子成分との共重合ポリマーが更に好ましい。」(【0008】) (1e) 「電解質は、一般に、溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩(アニオンとリチウムカチオン)とから構成されている。溶媒としては、・・・非プロトン性有機溶媒をあげることができる」(【0034】) 次に、原査定の理由で引用されている刊行物2には、次の事項が記載されている。 (2a) 「紡糸液を有端電極を用いて電界内に導入することにより、紡糸液を電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集する・・・直径が0.5μm未満の繊維状物質静電紡糸の製造方法。」(請求項1) (2b) 「本発明は、・・・広汎多種の用途を持つ不織材料用に極めて適した直径0.5μm未満のクロップを含まない繊維状物質の製造方法を提供しようとするもの」(公報第2頁右下欄第17?20行) (2c) 「(2)多孔性シート状製品 例えば電解電池用薄膜、蓄電池用セパレータ・・・に応用できる多孔性シート。」(公報第7頁左上欄第5?10行) [4]当審の判断 1.刊行物1に記載された発明 刊行物1の摘示(1a)には、「正極活物質、負極材料、セパレーター及びリチウム塩を含む電解質からなる非水二次電池に関し、該セパレーターが厚さが100μm以下の布であることを特徴とする非水電解質二次電池。」について記載されており、摘示(1b)には、前記「布」として「不織布」であってよく、「布の製造法は公知であり、製造方法に限定されるものではない」ことが記載されている。そして、摘示(1c)には、前記「厚さが100μm以下の布」を作製する際に「0.01μm程度の超極細繊維が開発されており、これらを用いると好ましい」とされ、その繊維径として、「特に好ましくは0.02μmから5μmである」ことが記載されている。さらに、摘示(1d)には、前記布の原料となる糸の紡糸用ポリマーとして、「ポリアクリロニトリル」を用いうることが記載されている。 ここで、「0.02μmから5μm」は「20?5000nm」と換算されること、布の原料となる糸の紡糸用ポリマーは、「布」であるセパレータを形成する高分子にあたることは明らかである。 また、摘示(1e)には、電解質は、「溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩とから構成されている」こと、溶媒が「有機溶媒」であることも記載されている。 以上の記載及び認定事項を、本願発明1の記載振りに則り整理し記載すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。 『正極活物質、負極活物質、ポリマーからなる不織布セパレータ及びリチウム塩が溶解した有機溶媒を含む非水電解質二次電池であって、 前記不織布セパレータが、20?5000nmの径を有する超極細繊維のポリマーで構成されているものであり、 前記不織布セパレータを形成するポリマーがポリアクリロニトリルからなる非水電解質二次電池。』 2.対比・判断 本願発明1(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の『ポリマー』、『有機溶媒』、『径』、『超極細繊維のポリマー』は、それぞれ、前者の「高分子」、「有機電解液」、「直径」、「超極細繊維状の高分子」に相当する。 また、後者の『不織布』は、多孔性の薄膜フィルム(シート)状であることも明らかであるから、後者の『不織布セパレータ』は、前者の「多孔性」の「セパレータフィルム」に相当する。さらに、後者の『非水電解質二次電池』は、『リチウム塩』を電解質に利用していることより、前者の「リチウム二次電池」に相当する。 してみると、両者は、 「正極活物質、負極活物質、多孔性高分子セパレータフィルム及びリチウム塩が溶解した有機電解液を含むリチウム二次電池であって、 前記多孔性高分子セパレータフィルムが、超極細繊維状の高分子で構成されているものであり、 前記多孔性高分子セパレータフィルムを形成する高分子が、ポリアクリロニトリルであることを特徴とするリチウム二次電池。」 で一致するものの、次の点で相違している。 ・相違点 本願発明1では、多孔性高分子セパレータフィルムが、「電磁誘導紡糸法によって製造された、1?3000nmの直径を有する超極細繊維状の高分子で構成されている」のに対し、刊行物1発明では、多孔性高分子セパレータフィルムを構成する超極細繊維のポリマーの直径が「20?5000nm」であるものの、その製造方法の特定はなされていない点。 上記相違点について検討する。 刊行物2の摘示(2a)?(2c)、特開昭51-60773号公報(特許請求の範囲、公報第1頁右下欄第2?4行を参照)に記載されているように、蓄電池用セパレータに関し、セパレータの作製原料として、静電紡糸法(エレクトロスピニング法、つまり、電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いる手法は、本願出願前において周知である。 そして、刊行物1の摘示(1b)にあるように、刊行物1発明において、布(不織布セパレータ)の製造方法は限定されるものではないのであるから、刊行物1発明において不織布セパレータを作製するにあたり、本願出願時において周知であった静電紡糸法(エレクトロスピニング法、つまり、電荷誘導紡糸法)を適用することは、当業者にとって何ら困難なことではない。その際、静電紡糸法で得られる繊維径を調整すること(摘示(2b)にあるように、静電紡糸法は、サブミクロンオーダーあるいはそれより細い径の繊維が得られる方法であることは周知である)は、当業者にとって実施にあたっての設計的事項に過ぎない。 したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明および刊行物2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 3.請求人の主張について なお、請求人は、審判請求書の請求の理由において、刊行物1は、セパレータとして用いられる布として、シート状の繊維製品、即ち織物、編み物、不織布などが記載されているが、均一性の点で織布が好ましいことが記載されており、織布を指向していると云えるから、超極細繊維がランダムに3次元的に集積した、電荷誘導紡糸法により製造された多孔性高分子セパレータフィルムを、セパレータとして用いることを想到することは容易ではない旨主張している。 しかしながら、刊行物1は、セパレータとして用いられる布として「不織布」を採用しうることを記載している以上、繊維がランダムに集積したものである「不織布」を採用し得ない理由とはなり得ず、請求人の当該主張は失当であると云わざるを得ない。 次に、請求人は刊行物2,3に関し、何れも公開日が非水系のリチウム二次電池の構成が確定した時期以前のものであり、非水系のリチウム二次電池のセパレータとして用いることを示唆するものではない旨主張している。 しかしながら、本件出願日においては、刊行物1に記載されているように、リチウム二次電池の基本構成はよく知られており、かつ、刊行物2,3の記載から、非水系電池の例ではないものの、同じ蓄電池技術分野において、静電紡糸法(エレクトロスピニング法、つまり、電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いてセパレータを作製することも知られているのであるから、本願出願の時点において、刊行物1発明のセパレータを作製するために、刊行物2,3に記載されている静電紡糸法を適用することに、何らかの阻害要因があるということはできない。 さらに、請求人は、Electrochimica Acta 50(2004)69-75を添付資料1として提示しつつ、本願発明1のセパレータの空隙率が80?88%であることに基づいた主張を展開しているが、本願出願当初の明細書又は図面には、セパレータの具体的な空隙率範囲に関する記載はない(「高い空隙率」との記載は【0016】にある)。そして、「電荷誘導紡糸法」により不織布を作製すると、空隙率が常に80?88%となるものであるということもできない(刊行物3においても、静電紡糸法により得られた繊維からなるセパレータの気孔率(「空隙率」に相当)として、80%より低い値のものが複数の実施例において得られている。)。してみると、「電荷誘導紡糸法」との製法そのものが、直接セパレータの気孔率を実質的に決定しているともいえない。したがって、空隙率に論拠をおいた請求人の主張を採用することはできない。 第3 むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、原査定の理由により本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-20 |
結審通知日 | 2009-08-25 |
審決日 | 2009-09-07 |
出願番号 | 特願2001-585344(P2001-585344) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01M)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 土橋 敬介 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
山本 一正 植前 充司 |
発明の名称 | 超極細繊維状の多孔性高分子セパレータフィルムを含むリチウム二次電池及びその製造方法 |
復代理人 | 安藤 雅俊 |
代理人 | 津国 肇 |
復代理人 | 束田 幸四郎 |